メッセージ

 本作は短編小説です。
著者の初作品の為、少々文章にまだ不安がございますが宜しければお読みいただければと思います。

サクラノ下で

― サクラノ下で

 

  3月28日。どうしても課題の曲が弾けなくて悩んでいた私は、間違えて1本前の曲がり角を曲がってしまった。
 そして、たどり着いたのは人気のない整然とした小さな公園だった。
その公園には遊具はなく、あるのは立派なサクラの木が1本とその下に今どきあまり見ない木でできたベンチだけだった。

 病院の予約の時間までしばらく時間があったので私はそこで少し休んでいくことにした。
私はもともと心臓に持病があり、そのせいか小さいころから私の姉もパパもママも私だけ特別扱いした。
でも、私にはそれがかえって辛かった。


『私も……いつかふつうに暮らして、みんなと同じになりたい』


でも、その夢はなかなか叶わなかった。
心臓を移植するには私の体力が持たないし、薬では副作用がありすぎて寿命を縮めてしまう恐れがあるということで、大学生になるいまの今まで私は普通の女の子たちがしているような友達同士でどこかへ行ったりすることなど許されなかった。
 そんな私には、家に生まれたころからあった真っ白なグランドピアノとママの大好きなバレエだけが、唯一の楽しみだった。
ピアノは父が姉の7歳の誕生日のお祝いにと買った物で姉はそれ以来毎日そのピアノに向かっていて、今では父と同じプロのピアニストとして世界的に活躍している。
ママはバレリーナを引退し、今は子供のころからの夢だったという自分のバレエ教室を開き、毎日いろんな子供たちに自分の今までやってきたバレエのすべを楽しそうに教えている。
私はこれといったやりたいこともなかったのだが、昔から音楽にふれていたからなのか音感やリズム感はとてもよく楽譜の読み方も姉の影響でなんとなくは読めたので、とりあえず家から3時間くらいの音大に行くことにした。


 

木漏れ日の中で


―木漏れ日の中で


 そうして、音大に入った私は最初は声楽科にいた。
しかし持病のせいであまり長時間大きな声を出せなかったり、高い音を聞いていると気分が悪くなってしまうことが多々あり、今は作曲学科に移って頑張っている。


 しかし、作曲なんてものは生まれてこのかた一度もしたことがなかった私には一曲作るという課題がとても大変だった。
もちろん今でさえ慣れている訳ではないのだが、初めは本当に一からメロディーを考え曲を構成していくのがとても難しくて何度も何度も書き直しては先生にやり直しと出すたびに厳しい評価が付き物だった。
私はサクラの下のベンチに腰掛けながらそんな初々しいころのことをふと思い出していた。


 そしてそんな私ももう大学4年、もうすぐ卒業を迎える。
卒業後の進路は、パパの伝手で大手レコード会社の専属契約作曲のような感じでようは今まで通り作曲を続けることになった。
卒業制作として出さなくてはいけない課題が1つともう1つは、就職先のレコード会社のアーティストのアルバム用の曲のサンプルをいくつか作ってほしいという仕事の依頼で私は悩んでいた。
レコード会社のサンプル用の曲は出来上がって提出も期限内に間に合ったのだが、どうしても大学の卒業制作の課題の曲がなかなかいいフレーズというか音が思いつかなくて、いわゆるスランプ状態というやつになっていた。


 私は軽く目を閉じて何も考えないように一度“無”になってみることにした。
すると聞こえてきたのは、温かな風がヒュルリと流れる音と風になびく草花がざわめく音だけで、都会の真ん中であるはずなのになぜだか田舎のお婆様の家に来ているような気分きなってとても癒された。


 そして何かに取りつかれたかのように、私は持ち歩いていた鞄からすぐさまペンと楽譜を取り出して、我も忘れて夢中になって次から次へと思い浮かんでくる頭な中にあふれ出てきたメロディーを楽譜の中に書き留めていった。


 そうして出来上がった曲を私は大学に卒業課題として次の日提出したのだった。
この時のことは今でも片時も忘れた時はない、これがこの場所での出会いが作曲家としての私の原点であり、貴重な体験だった。

メッセージ

 
 本作をお読みいただきましてありがとうございました。
この作品はフィクションであり、この“私”という人物の設定等も架空です。
 著者が最近精神的に弱っていたときに、たまたま電車のホームの椅子に腰かけて軽く転寝をしていた際にふとこんな話があってもいいなと思い書いてみた短編の作品です。
 本作をわざと短編にしたのは、“私”という人物を例えばお読みになられた貴方ご自身の物語だとしたらこの先も様々な物語が描いていけると思います。
本作も同様にお読みになられた皆さまのご想像でこの物語の続きを作り上げていただけたら、さらに文学独自の楽しさが出来るのではないかなと思い作らせていただきました。
 長々と書いてしまいましたが、読んでいただき誠に有り難うございました。

メッセージ

―心臓に持病を持つ少女。 ある日その少女は大学からの課題に悩み、見知らぬ場所へと迷い込む。 そこで少女に起きたちょっと不思議な誰にでも訪れそうな体験が……。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. サクラノ下で
  2. 木漏れ日の中で