五月と居場所

五月

太陽が暖かい。綺麗な淡い桜は散り、もう葉桜となった。
窓から見える景色は緑と水色になり、爽やかだ。
高校二年生の五月。学校には慣れた。勉強も、部活もどれくらいの要領でやればいいか分かった。だからこそ、苦しかった。
慣れた日常には何も違和感を覚えない。恰もそれが当たり前だったかのように過ごして行く。苦しいのだ。

クラスに親しい友人がいる。
一人は麻衣という名で、とても明るく、一緒に居るだけで楽しい。だが、人見知りで中々人と話そうとしないのだ。だから、私は麻衣を交えて麻衣の知らない人と話していた。そうすれば慣れると思っていたのだ。
そして案外簡単なもので麻衣はちゃんと他の人と喋れるようになった。
それからの学校生活は皆できゃいきゃい言えて楽しくなった。

一人は雪という名で、部活動に入りたがった。私は文藝部に所属していて、文藝が人手不足して居る事も知っていた。だから、私は雪を文藝部に誘った。雪も前から興味あると零していたからだ。雪を文藝部に連れて行く事を先輩に報告したら、男の子が欲しいと言われた。暇をしている冬夜くんを誘ってみた。
金曜日、雪と冬夜くんと一緒に部活に行った。私は用事があって早退したが、雪と冬夜くんは最後までいた。
夜、先輩からメールがきた。二人はとても楽しそうで入部してくれそうな雰囲気であると。
次の日、雪と冬夜くんは楽しそうに読んだ本の話をしていた。

もう一人は秋という名で、今四人一班で行うグループ学習で同じ班だ。
その四人は私、秋、四季、知である。秋が一番頭が良くて私が一番頭が悪かった。
リーダーの四季を筆頭に楽しくグループ学習を行っていた。


そんな生活の中で私の中で歯車が狂い出した。
ため息ばかり出るようになった。怖くなった。


麻衣が人と話せるようになって、麻衣は集団の輪に行く事が多くなった。
それは、いいことだった。私が、他の人と話していても麻衣は話に加わってくるようになった。いい事だ。人と話せるのはとてもいい事だ。
だけど、ふと、その集団に私がいる事に違和感を感じた。気の利いた事を喋れない私がいる事が、不自然だったからだ。苦しくなった。


雪と冬夜くんは文藝部にくるようになった。
いつもいた場所が、少し賑やかになった。
二人ともすっかり馴染んでいる。
狭い部室に人がいっぱいになった。
私はここでもいる理由を失った気がした。


秋と四季と知と私の班学習では、主に四季と知がやっていた。
私はバカだから何もできなくて、秋は何もしなかった。
四季は愚痴を零すようになった。全部リーダーのせいになるんだろって。
バカは何もできないよね。四季と秋と知は協力して行っていて、私が何かやる事は無いかと問えば無いと言われた。私がこの班に所属しているのが申し訳なくなった。


変化を望みながらも、変化を恐れた私はようやく自分の首を締めてる事を知った。
悩んで、苦しくなって。私はとうとう、人と話す事が怖くなった。
そして、今日もまた人と目を合わせるのから逃げて、適当に人を避けながら生きている。
なんて愚かなんだろうか。

五月と居場所

五月と居場所

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-16

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