人の話を聞かない奴
高校から帰宅すると大きい荷物が届いているのが見えた。誰からだろう? 送り主の名前を読むと内賀史郎と書いてあった。じいちゃんからだ。じいちゃんは自称天才科学者、いつも変な発明をしては顰蹙を買ってばかりなんだ。梱包を解いてみたら奇妙な装置が出てきた。座布団のような形状で、上部にアンテナがついているその装置はまったくなんの装置だか分からない。あ、手紙がついている。
『これこそ人体転送装置。生体スキャナで探査した人体データを遠隔地に送って生体合成装置で再生するのじゃ。君のとこに送ったのがその生体合成装置。すぐ試験したいからこれを読んだら電話せよ』
すごいけど、そんな事が本当に可能なのかな。それにスキャンしたデータで再生したんじゃ……とりあえず電話してみるか。じいちゃんに電話するの久しぶりだ。この人って人の話を聞かないから困るんだよな。電話をかけるとすぐに出た。待っていたのだろうな。
「おお、待っておったぞい。では早速試験開始じゃ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ぷつ、つーつー
何も言えないままに電話を切られた。ほんっとにもう、話にもなにもなったもんじゃない。電話に悪態をつく僕の後ろで例の装置がうなりだした。
びゅいいいいん
座布団のような形状の装置の上部に光が発生し、靄のようになり、人の形に集まりだし、そしてついに、枯れた老人が現れた。じいちゃんだ。
「どうじゃ! すごいじゃろう。人体転送装置完成……とりあえず何か着るもの貸して」
しわくちゃで弛んだ老人の裸を目の当たりにして、すっかり発明成功の興奮はどこえやらだ。服は転送できないわけね。しょうがないな、と適当な服を取りに行こうとした時電話が鳴った。なんと内賀史朗……じいちゃんからだ。
「おかしいのじゃ、確かに転送は成功したはずなのにワシはここにいるままじゃ。もう一回やるから待っててくれ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ぷつ、つーつー
まただよ、また言いたいことだけ言ってきりやがった。ほんっとに人の話を聞かないんだから。電話に悪態をつく僕の後ろで装置がうなりだした。
びゅいいいいん
そしてまた内賀史郎が現れた。最初の内賀史郎と二人見つめあって驚愕している。やっぱりそうだよ、この装置は遠隔地に移動するんじゃなくて……また電話、内賀史郎からだ。
「おかしいのじゃ、また失敗じゃ。どうして移動できないんじゃろう。またやってみるぞい」
二人の内賀史郎が僕から電話を取って本体にむかって怒鳴る。
「おかしくないのじゃ! この装置は遠隔地に移動するんじゃなくて、複製を作るだけなのじゃ」
ぷつ、つーつー
そしてまた装置がうなりだした。それを見て二人のじいちゃんが言う。
「ほんっとにもう、人の話を聞かないやつじゃ!」
お前が言うなよ! って言うかお前だよ!
人の話を聞かない奴