インスタント神様

「人生」とは。


「私は神様です。10分だけあなたのどんな問にもお答えいたします。そしてその問いと答えを反映し、よりよい世界作りに励んでいきたいと思います。なんなりとお申し付けください」
 
お湯を入れて三分待ったらムカつくほど容姿が整った美少女がそう軽やかに喋りやがった。
 
インスタント神様

「これってどういうシステムなんですか…」
「こちらは近代技術の発展の結果、人間たちの技術の向上で、我々神との対話が可能になった為、私どもとの交流の場を持とうとこちらからこの商品の提案をし、ホログラム上での会話で人間たちの精神向上を計るというシステムです」
目の前の美少女ホログラムには完璧な営業スマイルが張り付いている。
「本当に神様なんですか」
「ええ、本当です」
「何でも答えてくれるんですか」
「ええ、何でもお答えいたします」
「人の生きる価値ってなんだと思いますか」
「それは私どもが決める事象ではありません。人々が生きていくなかで自分の人生を振り返って定義するものです」
「価値がない人間っていますか」
「最初から価値のない生き物などこの世にはいません。あなたは価値にこだわっているように思えますが、私どもからすれば生きている、ということそれだけで価値があることなのです」
「たとえ自分がそう思わなくても?」
「ご自身でそう思わなくてもです」
「私のいいところってなんですかね」
「あなたは勤勉で、まじめで、とても思慮深く熱心だ。それだけで十分人より優れていますよ」
「でもそれって、わかる人にわかってもらえないと意味がないじゃないですか」
「他人の評価が人生のすべてではありませんが、おっしゃっていることはよくわかります」
「どうやったらわかってもらえるんですかね」
「人によって他人の評価はまちまちです。どうしても自分目線でみた基準が入ってしまいますので。結局は自分が努力しているところや結果を見せるしかないかと」
「それでも認められない場合は?」
「手っ取り早いのが、評価してくれる他の人間を探すことです。そこまでしても評価されない場合、相手との基準が大きくずれている場合があるので」
ほほう、なるほどそれなりに的を得ている。
「こうやって話している間にもどこかで命がまた一つ失われていますがどう思いますか?」
「至極残念ではあります。しかし、前の人生で大罪を犯した人ほど死にやすく、善行を積んだ人ほど死ににくくなっているので結果的に人間としての総合のバランスはそんなに崩れてはいないはずです」
「神様にとっての善って?」
「簡単です。他人に自分がされて嫌なことをしないこと、理不尽な事を他のものに対して行わないこと」
「じゃあ悪って?」
「一番の悪は理由なく人の命や人生をうばうことですね」
「じゃあ理由があったならいいの?」
「理由にもよります。そちらの世界の法と同じく情状酌量の余地があるかどうかを、対象の人生すべてやその対象に関わった人間すべての人生を見て判断いたします」
「じゃあ、すべての人間が死んだら救われるっていうのもあながち嘘じゃないんですね」
「ある意味そうかと」
「自殺についてどう思いますか」
「とても残念でなりません」
「どうして?」
「さきほどの善悪と転生のシステムですが、自殺の場合、このシステムから例外的に外されてしまいます」
「それはまたどうしてでしょう」
「自殺の場合、そこまでにいたる理由とその対策に少しお時間をいただいてしまうので、一時的にサイクルから外さざるを得ないのです」
「結果どうなるんですか?」
「人が産まれづらくなります」
「ああ、だから少子化」
「そのとおりです。ですので人々の精神向上と精神衛生の維持のためこのようなシステムが作られました」
「ぶっちゃけ深刻なんですか」
「深刻な問題です」
「わたしがもっといい人間になるにはどうしたらいいですかね?」
「他人の目をあまり気にしすぎないことです。そうして自分のしたいことを他人を傷つけない範囲で行うことです。あなたがあなたとして存在する人生は一度きりです。思う存分楽しんでいただくのが私たちの本意です」
「どうしても人付き合いがうまくいかないんですけど」
「狭い地域での人付き合いが普通となっている可能性があります。まずは環境を変えてみてはいかがでしょうか。居住場所の変更や転職、新しい関わりをもって自分に合う人を見つけるのがよろしいかと」
「私、変われますかねえ」
「きっと大丈夫ですよ。まだお若いのですから」
「どうしたらうまくやっていけますか」
「ここは本当は秘密なのですが…あなたはこれから先、人に恵まれます。今行っている会社も近々転職の話が来ますので転職なさってください。よい人たちと、上司と、新しい恋人に恵まれます。あと、お酒はほどほどに」
「わたし…もっとがんばりたい…」
「そのお気持ちがあれば十分です。人というものは案外考えすぎな生き物なのです。人生は川の流れのように刻一刻と変化しています。今はつらくとも、後で必ず転機がおとずれるように私どもが管理しておりますので」
「つらい」
「大丈夫ですよ。まずはゆっくり休息をとって、自分のすきなことをしましょう。食事やショッピングなども効果的です」
「どうして生きなきゃならないの」
「生き物の根源は自分の遺伝子を残すことを目的としてつくりましたが、決してその形にあてはめられる必要はありません。自分の好きなように好きなことをして、人生を楽しんでいただくことが目的です」
「世の中があなたみたいな人であふれていればいいのに」
「きっとあなたも、そのうちその言葉を他人に言う日がくるでしょう」
「ほんとう?」
「本当です。なんていったって神様ですから」
「ありがとう」
「どういたしまして」

「さてお時間五分前になりましたが最後に何かご質問はございますか?」
「今までいくつ嘘をつきましたか?」
「あなたがついた嘘の数だけ同じように返させていただきました。今後あなたの意見を参考にし、よりよい世界作りに反映させていただきたいと思います。ご利用、ありがとうございました」

目の前のホログラムは跡形もなく消え去り、残ったのは白い紙コップ状の機械だけだった。
「さすが神様はなんでもお見通しだな。ひでぇことしやがる」
紙コップ状の機械をゴミ箱に投げ入れる。せっかくきれいに片づけた部屋に一つだけゴミが残るのは癪だが、しょうがない。
「ようするに私がどれだけ今頑張っても今は報われないってことじゃねえか。生きていて結果報われたとしても、対価が遅けりゃ今の地獄は終わらないんだよ」
はあ、と息を吐いて最後の一服を終わる。無駄な買い物だったとつくづく思う。
「次産まれたときは人生イージーモードで最初から他人に恵まれる環境にしてくださーい」
ゴミ箱に捨てた白い機械にそう声をかけ、私は首を吊った。

インスタント神様

インスタント神様

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-14

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