失われた世界へ

プロローグ

 あなたはかつて火星に文明が存在し、そしてちょうどその頃、地球には今と同等か、もしくそれ以上の文明が存在していたと言ったら笑うだろうか?そんなことはあり得ない、と。それとも、いや、そういうことだってあっても可笑しくないと真剣に耳を傾けるだろうか?恐らく、ほとんど全てのひとが前者だと思う。無理もない。僕だってちょっと前までそんなことを言われたりしたら眉をひそめるか、あるいは笑い飛ばすかしていたと思う。そんなことはあり得ない、と。馬鹿げている、と。しかし、事実は違うのだ。
 実を言うと、僕はついさきほど五十万年前の地球から現代の地球に戻ってきたところだ。いや、話が飛躍し過ぎた。話を戻そう。そもそも僕がどうしてかつての火星に文明が存在すると信じるに至ったのか、何故僕が五十万年前の地球に行くことができたのかについて。これから僕が語ることは誓って真実だ。どうか信じてもらえたらと思う。


 順番に話そう。まずは事の発端から。さっきはああ書いたものの、実を言えば僕はどちらかというとオカルト的な話題を好む人間だ。オーパーツだとか、ムー大陸だとか、古代核戦争とか、そういった眉唾的な話。荒唐無稽。超科学的な話。でも、誤解しないで欲しいのだけれど、べつに僕はそういった話を真剣に信じていたわけではない。(結果的にいくつかのことは真実だったけれど)もしそういうことが本当だったら面白いな、楽しいな、と、謂わば読み物として、フィクションとして楽しんでいただけである。そして僕はその日、いつものようにそういったオカルト的な新情報はないかとネットサーフィンをしていた。しかし、ここ連日のようにそういった情報を検索していたせいか、これといって目ぼしい情報を見つけることはできなかった。だいたいは過去に見たことがある記事か、あるいはあまりにもオカルト的に話が飛躍し過ぎた記事ばかりだった。ふと部屋の時計に目を向けると、時計の針はもう午前の二時を指していた。僕はさすがに眠気を感じた。さて今日はもう寝てしまおうと僕は思った。でもその瞬間、コンヒュータースクリーンのなかに気になる文字を僕は見出した。それは個人のブログで、タイトルの見出しには「僕は二千百年からタイムスリップしてきた未来人です」と書かれてあった。どうせ誰かのわるふざけだろうと思う反面、そういったオカルト的な話題が大好きな僕は興味を惹かれないわけにはいかなかった。たぶんがっかりすることになるだろうなと予期しながらも、僕はそのサイトに飛んでみた。
 たぶん、信じてもらえないだろうけれど、と、そのブログの作者は書いていた。実を言うと、僕は二千百年からのタイムトラベラーなのです、と。その一見何の変哲もない書き出しは、何か殊更に自分が本当のタイムトラベラーであることを誇示しているようで胡散臭くもあり、逆に言えばあまりにもその平明な文章の書き方が最もらしくも感じられて僕は自然と文書に引き込まれていった。

 書かれている文章を要約するとだいたいこういうことになった。彼、つまりブログの作者は、西暦二千百百年の未来から過去の地球の歴史を観察するためにタイムトラベルしてきたようだった。とはいえ、そもそも彼が目的としていた年代は今の地球(つまり僕たちが生活している地球時間)ではなく、もっと遠い過去だったらしい。というか、実を言うともともとは目的の地球時間にたどり着くことはできていたらしいのだけれど、仲間の裏切りに合い(このあたりがどうも作り話めいていて嘘くさいなと思ったけれど)、命からがら僕たちの居る今の地球にタイムトラベルしてきたらしかった。どうして自分が本来居た未来に戻らないのかというと、時間線の関係がどうとかこうとかで上手く戻れなかったらしい。このあたりの説明は素人の僕にはよくわからなかったけれど、彼がもといった未来に戻るためには何か複雑な手順を踏まなければならないらしい。でも、現段階ではそれができずに、現在の地球にやむなく留まっているらしかった。

 このブログを閲覧している人間の数は決して多くはないようだったけれど、その反面みんなそれなりに興味を持っているようで様々ひとがコメントを寄せていた。とはいってもそのほとんどがからかい半分のコメントだったけれど。でも、なかには僕のようにかなり真剣に興味を持っている人間もいて、そういった人間からの問い合わせ対してできる限りブログの作者も丁寧に答えていた。彼の時間旅行の目的。タイムトラベルの方法について。いつタイムマシンは完成したのか。それらの回答は面白半分に書いているにしては妙に理論整然としていて、そんなことがあり得るだろうかと首を傾げたくなりならながらも、つい、もしかしたら本当かもしれないと思わせるような説得力があった。
 というわけで、僕も彼に対してメッセージを送ってみることにした。あなたは本当に存在しているのか。もし存在しているのであれば、直接会うことは可能だろうか。僕の友達にタイムマシンについて研究している人間がいるのでもしかしたら何か協力できることもあるかもしれない、と。メッセージの最後に自分のメールアドレスを記載して送信した。もし、興味を持ってもらえたら、このアドレスに直接メールを送って欲しい、と。そして、返信なんかあまり期待せずに僕はパソコンをシャットダウンした。しかし、意外なことに、次の日パソコンを開いてみると、ブログの作者からメッセージが届いていたのである。
そして以下が、ブログの作者からのメールの内容になる。



 やあ、メッセージをどうもありがとう。早速メールをしてみることにしたよ。ブログにも書いていたと思うけど、僕の名前は田中雄二。未来人のくせに妙にありきたりな名前だなと思ったかもしれないけど、でも、考えてみて欲しい。西暦二千百年というのはきみたちが暮らしている未来からそんなに遠い未来じゃないんだ。従って、名前だって現在の日本人の名前と全く変わらないんだよ。まあ、最も、なかには凝った変な名前のひともいるし、昔に比べると国際結婚も進んでいるから、最近はちょっとユニークな名前のひとも増えてきてはいるけどね。でも、それはともかくとして、西暦二千百年の日本人はほとんどのひとがきみたちの年代の頃とか変わらない名前を名乗っているよ。渡辺聡とか。中村悟とかね。ごく普通だ。
 申し訳ない。話が逸れた。とにかく、何が言いたいのかというと、僕は現実に存在しているし、きみと直接会うことも可能だということだ。きみはまだ半信半疑、というか、ほとんど信じていないだろうけど、誓って僕は未来からやってきた人間だよ。決してきみをからかって遊んでいるわけじゃない。信じて欲しい。難しいとは思うけれど。でも、僕としてはそうとしか言いようがない。
 それから、どうして僕がきみに興味を持ったのかというと、きみの友達にタイムマシンについて研究している友達がいるという記述があったからなんだ。あれは本当のことなんだろうか?実を言うと、僕はちょっと困った状況に陥っているんだ。ブログにも書いたと思うけど、タイムマシンが故障していてね、戻れないんだ。未来に。もちろん、過去にも。どこへも行けなくなってしまったんだ。これくらいだったら何とか自力で直せると思ったんだけど、予想外に手こずっている。というのは、この世界線が僕の居た世界線と思ったよりもズレが大きくて・・・いや、こんなことは書いても仕方がないね。つまり、僕が言いたいのはどういうことかというと、きみの友達に助けてもらえたらと嬉しいということなんだ。きみの友達の研究がどれくらい進んでいるのか、僕としては知りようもないけれど、もしかたらなんとかなるかもなんて期待している。まあ、最悪、なんとかならなくても、きみたちと直接会って話してみるのも悪くないなと考えているんだ。そしたらそこから思いがけず良いアイデアが浮かぶかもしれないしね。
 とにかく、返事を待ってるよ。

失われた世界へ

失われた世界へ

物語の主人公である僕がいつものようにネットサーフィンをしていると、偶然、奇妙なブログを見つける。それは未来からやってきた人間が書いたというブログだった。 主人公はいくぶん胡散臭く思いながら、ブログの作者にメールを送ってみる。 すると、思いがけない展開が待ち受けていた。 五十万年前に存在していた超古代文明。火星文明の存在。そしてタイムマシーン。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted