半刻だけの来客
この作品はフィクションです。登場する人物、地名は実在の物とは関係ありません。
妖怪の聖地である遠野が舞台となっております。
退屈でしょうがなかった。
ただ大学と家を行き来するだけで代わり映えのしない、刺激がない、
味気もないこの在り来たりな日々が。
それでも僕はSF小説のようなワクワクが止まらないような出来事が起こるんじゃないか
いや、起こって欲しい!と微かな期待を胸に抱きつつ今日も帰路についた。
今日はアルバイトもないので僕はいつものようにネットサーフィンをしようと部屋のドアを開けた。
「ただいま、シンスケ君。」
肩ぐらいまで切り揃えられた濡れ羽色の髪に白いロリータ調のワンピースを着た
推定10歳前後の少女がベッドの上に座って僕の方を見て悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「君・・・・・誰?」
誰だこの子は。出かける時鍵をかけたから人なんて入ってこないハズだ。
そもそも何故僕の名前を知っている!!
頭の中が真っ白になった状態で僕はもう一度少女に訊ねた。
「君は誰なんだ?なんで僕の名前知ってるの?!」
僕は当然の疑問を口にした。当たり前の事だ。彼女はなんの見覚えもないのだから。
少女は僕の言葉を聞いて、ほんの一瞬だけだが外見に不釣り合いな妖笑を浮かべていたが一瞬だった。
瞬きをした途端再び悪戯っぽい笑みを浮かべたような表情に戻っていた。
「さあ何ででしょうねー?」
くすくすという笑い声が聞こえてきそうなそんな声色だった。
そして僕はもう一度訊ねる。
「君は誰?何処から来たの?」
「私?私はね・・・・ずぅっと此処に住んでいたの。シンスケ君が生まれるずっと前からね。」
「いや、だからそうじゃなくて・・・君は誰なんだ。」
「カンナ」
「は?」
「安らかに還ると書いて環那。私の名前よ。」
最近の子供にしては随分深い意味のある名前だこと。それでも時折彼女が見せる憂いを帯びたような
表情を見ると思いの外似合っている気がした。
「カンナちゃん、お茶とお菓子用意するからそこで待ってて、すぐ戻ってくるから。」
「ありがとう!」
カンナは屈託のない笑顔を浮かべた。
「カンナちゃん、お茶とお菓子持ってき・・・・・・あれ・・・・?」
僕が部屋から台所へ移動してお茶とお菓子を用意するのに5分も掛からなかった。
その間にカンナは部屋から忽然と姿を消していた。
トイレでも行ったのかと一瞬思ったがトイレに誰かが入ったような物音もなかった。
玄関も帰ってきた時のままになっており、窓も閉まったままだった。
こっそり抜け出したのかと思い、僕は外へ出た。
そこにもカンナの姿はなく、目の前に綿菓子のような雲を浮かべた浅葱色の空と
常盤色をした早池峰山が広がっているだけであった。
「また・・・・会えるかな。」
半刻だけの来客
遠野物語をモチーフにしたお話が書きたいと頭の中にプロットはあっても中々それを文章にする気力がなくて
今の今まで出来ずにいました。
カンナちゃんの正体は座敷童子という東北地方に伝わる妖怪です。
この後シンスケ君の元に幸せは訪れるのかは皆様のご想像にお任せいたします。
実は遠野地方は行った事がないです。すいません。機会があったら行きます。