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誰にも言えないこの気持ち。隠そうとすればするほど苦しくなる。
私は、先輩が大好きです。
言えないことがある。
桜がきれいな季節。私は高校生になった。
着慣れないブレザーに袖を通すと、なんだか大人の気分になった。そりゃ、去年までは中学生だったのだから。
私の中では、中学生高から校生になるというのは、さなぎから蝶になるみたいな・・・
とにかくいきなり成長するイメージなのだ。
「おはよ!」
高校生になった喜びに浸っていると5分ほど遅刻して待ち合わせ場所に来た幼馴染の理緒が顔を覗き込んできた。
「遅刻。」
「ごめん。化粧してたらおそくなっちゃった」
小学校からずっと一緒で、近所ということもあり仲が良かった理緒とは高校も同じになってしまった。
容姿端麗とは理緒のためにある言葉だと思う。顔も、体型も文句の言うところがない。
だから、理緒は私の自慢の幼馴染・・・と言いたいところだが、中身が難有りなのだ。
「化粧って・・・女子高なのに誰にみせるのよ」
「女子高だからよ!周りの女子にナメられたら嫌だもん。こうゆうのは最初が肝心なの。」
化粧で上下が決まるほど化粧の力は絶大なのだろうか。
すくなくとも理緒にはそうなのだろう。
「藍華は洒落っ気なさすぎ。スカートも膝丈。ブレザーもしっかりボタン閉めてるし、髪の毛だって染めてないし、化粧なんてする気ないでしょ。」
ため息交じりにズケズケと・・そこまで言われると、さすがにダメージが大きい。
「だってめんどくさいもん。」
これは、私の決まり文句・・・口癖である。必要以上と思うことは、この一言でやらずに来た。
「でためんどくさい。そうやってやらないでいるといざという時に困るんだからね。」
「いざという時ってなに。」
「イケメンが突然現れたり。イケメンが声をかけてきたり。イケメンが・・・」
こいつに聞いた私が馬鹿だった。
「あんたの頭の中はイケメンしかないのかっ」
「うん。」
あぁ、神様。この子に救いの手を・・・
「まったく、イケメンにしか興味示さないから、ろくな恋愛できないんだよ。」
「まったく、男に興味示さないから、今までだれとも付き合えなかったんだよ。」
そこを突かれると痛い。
「ねえ。気になる人とかいないわけ?藍華から恋愛の話聞いたことないんだけど」
「いないし、いたことないよ。」
「うそだー」
「本当。」
嘘だ。少なくとも2人は好きになったことがある。でも、それは言えない。
私には誰にも、理緒にも言っていない・・・言えないことがある。
わたしは、女の子が好きなのだ。
楽しみになってきた。
「藍華はなんの部活に入るの?」
「サッカー」
「やっぱりね」
今は体育館で部活紹介の真っ最中である。
私は小学生のころから続けているサッカー部に入ると決めていた。
そもそも、女子サッカーがあるからこの高校に入ってきたものだ。
「理緒は?」
「んー・・・合コン部。」
「あほ。」
「えー、良いと思わない?活動内容は、ひたすら週末合コン。」
「そんな、ふしだらな部活私が潰してやる。」
えーっとオーバーリアクションをする理緒は案の定先生に注意された。
「ちょっと、藍華のせいで怒られたじゃん。」
「人のせいにしないでください。」
今度は、ぶーっと頬を膨らます。忙しい子だ。
「あっ、次サッカー部の発表じゃん」
「ほんとだ」
ステージの上を見ると20人程の部員が二列に並んで部活紹介をしていた。しばらく紹介を聞いてサッカー部の詳細が分かった。
部員はマネージャー含め24人。構成は3年生12人、2年生12人。内、経験者が5人。それも5人とも3年生。2年生は全員初心者。
「へー、高校生から始める人なんているんだ」
「女子サッカーが広まったのは最近だから経験者のほうが珍しいくらいだよ。強豪校になると話は別だけど」
「そういえば藍華もずっと男子の中でやってたもんね。」
やっと女子の中でプレーができる。
なんだか楽しみになってきた。
こうして私の入部する部活はサッカー部にきまったのであった。
かっこいいのね。
「よろしくお願いいたします!」
部員の声がグラウンドに響き渡った。
今日は部活の見学。
サッカー部に入るとは決心したものの何も見ずに入部するのは気が引けて、とりあえず見学という第一段階に踏み込んだわけで。
既に1年生で部活に参加している子は何人もいた。
「すごいねー。女子がサッカーって野蛮だと思ってたけど、ちゃんと見るとかっこいいのね」
「野蛮って・・・あのね・・・」
この子の価値観はどうも理解できない。
一人で見学するのも勇気が要だったので、帰りたがっていた理緒を無理やり連れてきた。
「ねえ!あの人カッコよくない?!」
なんだいきなりびっくりするな。
理緒が指差す方向を見ると、ハゲのおじさんがいた。あれはたしか顧問の先生だったような。
「理緒、あんな髪の毛薄い人がいいの?」
「はっ?違うよ!誰があんなの!」
それは失礼でしょ。って、私も失礼か。
「顧問の隣でボール触ってる人!」
顧問のとなり・・・
「髪の毛をバンドで留めてる人?」
「そうそう!かっこよくない?」
たしかに。長身で手足が長い。170cmはあるだろうか。
ボール裁きを見ると経験者だとすぐに分かった。
「うん。かっこいいね。」
「ありゃ、そうとう女の子にモテるね。」
「女の子に?」
「そう!女子高あるある。男子がいないから、かっこいい女の子がモテるってやつ」
あぁ、まるほど。
もし本当に女の子が恋愛対象の子がいたら、是非とも仲良くなりたい。
「てかさ、見すぎ。」
例のかっこいい先輩を食い入るように見る理緒。
目がギラギラしている。
「そんなに気になるならサッカー部のマネでもやれば?」
「いや、私には合コン部を作るという使命がありますから!」
「それ本気だったんだ。」
「あたりまえじゃん。そして高校生活を謳歌するの。」
もう少し別のことに力注いだら良いのに・・・
と言いかけたが、人の夢を壊すこともあるまいと、応援することにした。
「がんばって。」
「もちろん!」
くだらない話をしていると顧問がこちらに寄ってきた。
「君たち、入部希望の子かな?」
「はい。」
「二人共かい?」
「いえ、私だけです。もうひとりは・・・別の部活に興味があるみたいで」
口が裂けても合コン部の名前は出せない。
「そうか。今日は見学だけか?」
「はい。一応部の雰囲気を見たくて・・・」
「どうだ?」
「とても良い雰囲気だと思います」
たいして真面目に見ていないのに口からでまかせ。
「そうか、そうか。是非入部してくれ。」
「はい。そのつもりです。」
「そうか。じゃあ好きなだけ見ていくといい。」
「はい。ありがとうございます。」
と、顧問が去りかけた時・・・
「あっ、先生!あの1つ聞いて良いですか!」
「なんだ?」
「あのヘアバンしてる先輩はなんて名前ですか?」
どんだけー!!! 積極的すぎる・・・ もう尊敬します。
「あー。あれはうちのエースの宮内佳苗だよ。なんだ、もうファンができたのか」
「はいっ!私、城木理緒です。よろしくお伝えください!」
「ちょ、理緒・・・」
「あはははは!面白い子だね。わかったよ。伝えておく。」
「ありがとうございまーす!」
あぁ、もう頭が痛い。いまさら、理緒を誘ったことを後悔したのであった。
第一印象は
「1年A組の大宮藍華です。よろしくお願いいたします。」
今日からサッカー部の練習に参加させていただくことになった。
「私はキャプテンの伊予。今日からよろしくね。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
それからひとりひとりの紹介が始まった。
結局入学して1ヶ月してからの入部となったので、みんなが仲良くなり始めたころに入部する気まずさと言ったら・・・
まあ、1ヶ月遅れたのも理緒のせいなのだけど・・・
「副キャプテンの実咲です。慣れるまで大変だろうけど一緒に頑張ろうね。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
1年生が私含め10人入部したため、全部員合わせて34人という大所帯になっていたので名前を覚えられるはずもなく・・・
とりあえず顔だけ覚えて名前は聞いていこう。
「3年の宮内佳苗です。よろしくね。」
あ・・・あの時の先輩。ヘアバンしてないと印象が全然違う。かっこいいというより、可愛い系かな。
「ん?どうしたの?」
「いや、すいません。よろしくお願いいたします。」
「うんっ!」
私の宮内先輩の第一印象は笑顔が素敵な人だと思った。
33人分の紹介が終り、通常の練習に入る。
「ランニングー!」
「「はいっ!」」
練習が始まると宮内先輩はヘアバンをした。
あぁ、練習になるとスイッチ入る人か。たしかにかっこいい。
そんなことを考えていると列から離れてしまった。
「藍華しっかり!」
「すいません!」
いかんいかん。練習に集中しなきゃ。
やっとサッカーができることが嬉しいのか、浮かれている自分に喝を入れて列に戻るのであった。
先輩のファンです!
「藍華ちゃんこんにちは」
「あっ、こんにちは」
部活を始めると学校内でも先輩に挨拶をするのが基本。
さらに24人もいるため、売店や廊下では高い確率で会うことになる。
そして今はお昼休みの売店。今日は弁当を持ってくるのを忘れてしまい、売店で買うはめに。
うぅ、人が多い。
この学校の全校生徒は710人。
その半数が来ているのではないかというくらい多い。
「藍華、人が多いよ」
「私に言われても・・・」
理緒もジュースが買いたいと一緒に来たのだけど、まず商品にたどり着けない。
タイムセール中のおばさんたちみたいだ。
「あれ、藍華じゃん。」
「あ、キャプテン。こんにちは」
「ちょっと、学校の中でキャプテンはやめてー。なんか堅苦しいよ。」
「すいません。伊予先輩。」
「よろしい。それで、えっと、この子は・・・」
あ、理緒の存在を一瞬忘れてた。
「あ、友達の理緒です。」
「今私の存在忘れてたでしょ。」
「ごめん」
エスパーかこいつは。
「こんにちは。藍華の友達の城木理緒です。いつも藍華がお世話になってます」
保護者かこいつは。
「いやいや、貴重な経験者で大助かりよ。」
「サッカーだけが取り柄で、馬鹿ですけどよろしくお願いいたします。」
なんか、けなされた気分だ。
「面白いね。理緒ちゃんだっけ。これからよろしくね」
「ありがとうございます。」
「おい、黙って聞いてれば好き勝手に・・・まったく。先輩、この子に関わるとろくなこと無いので気を付けてくださいね」
「そうなの?気を付けるわね」
「ちょっと、先輩ー。藍華も変なこと言わないでよね。」
人ごみの中で自己紹介?をしているとどこからか声がした。
「伊予ー。どこー。」
ん、この声は・・・
「あ、佳苗。」
やっぱり。声の主は宮内先輩。人ごみを分けるように進んでいる。
周りより身長があるため、こちらからは一目でわかった。
「おーい!こっち!」
伊予先輩が手を挙げると宮内先輩も気づきこちらに近づいてきた。
「あれ?あのひとって。」
「宮内先輩だよ。理緒がかっこいいって言ってた先輩。」
「全然雰囲気違う。」
「制服だし、ヘアバンしてないからじゃない。あの人練習の時しかヘアバンしないし、サッカーしてる時とは全然雰囲気も違うよ」
「なるほど。なんか普段だとかわいいね。」
同じことを考えている。ということは、だれでもそう思うのだろう。
理緒と先輩の話をしていると、宮内先輩が私たちのところまで辿りついていた。
「伊予ごめん。コーヒー牛乳が争奪戦で・・・」
「買えなかった?」
「うん。」
「いいよ。争奪戦に佳苗が参加できるなんて思ってなかったし。」
「代わりに、飲むヨーグルト買ってきた。」
「ありがと。」
「ううん。ほんとごめんね。ん、あれ、藍華ちゃん。」
「こんにちは。」
今気づいたのだろう。すこしきょとんとしている。
「こんにちは。」
「佳苗先輩!こんにちは!」
もう、いきなり出てきたらビックリするでしょうが。
「あ、こ、こんにちは」
ほら、一歩引いちゃってるよ。
「わたし、1年の城木理緒です!」
「あれ、もしかして・・・」
「はいっ!わたし、先輩のファンです!」
いきおいよく手を挙げ、大声で叫ぶ友人の隣で、穴を掘ってもぐりたい気分になるのであった。
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