Rじぇねレーション
お帰りなさいませ!ご主人様!?
人類は一体どこまで進化するのだろうか?それは誰も知らない。発達した文明は進化を止めない。人間が生き続ける限り。そう、文明は人類でコントロールできるものではないからだ。そして、俺の運命もコントロールする事が出来ない。それは俺の運命が文明と共に歩んでいるからだ。そう、あのころの俺は知らなかった。俺が望むと望まないと・・・俺の運命は、文明と共に歩んでいくのだった。
2030年四月九日火曜日夜
とある国際空港の傍ら、別れを惜しむ?家族の姿があった。
「真司君、お母さんがいなくても一人で大丈夫?」
「大丈夫だって!」
「なんで、一緒に来てくれないの・・・?」
「俺には学校があるだろ!それに、あと一年で卒業なのに海外に行くなんて嫌だよ!」
「やっぱり・・・、彩夏ちゃんを置いていけなのね・・・」
「ち、違うよ!彩夏は関係ないだろ!」
「私の知らないところで、こうして子供は大人になっていくのね・・・。帰ってくる頃には孫の顔を見せてね!」
「だから、俺と彩夏はそんなんじゃないって!」
「真司、いい機会だから自立する力を身に着けておけ・・・でも、母さんがいなくなって少しは羽をのばせるだろ?」父さんは小声で俺に言ってきた。
「何か言いました・・・?」後ろで、母さんが睨みつけている。
「いえ、何も!×2」
「ふん、見てなさい。私にも考えがあるんだからね!」こうして、両親は飛行機に乗ってイタリアに行った。
俺の名前は門脇真司。高校3年生の春。始業式の始まった翌日に、両親は海外出張することになった。前から父親の仕事で海外に行くという話しを聞いていたのだが、ついに先月決定して、新学期が始まって早々に、両親は海外赴任することになったのだ。でも、俺はあと1年で卒業ということもあり、日本に残って春から一人暮らしをする事になった。一応、親に心配されているが、俺は今更海外に住みたいとは思わなかったし、はっきり言って面倒くさかった。それよりも、親がいなくなる事で、周りの友達よりも一足早い一人暮らしができることに、期待感を膨らませていたのだった。
2030年四月十日水曜日朝
昨日、両親を空港まで見送りに行った後、帰ってすぐに眠った。荷作りの手伝いをして疲れていたからである。それに、親がいないという開放感もあり、誰かに気にせずに自由な時間に眠りについたのだ。
「ピピピッピ、ピピピッピ・・・」目覚まし時計がなっている、朝になったようだ。
「ウーン!・・・」大きく背伸びをした。目覚ましの音でようやく目が覚めた。今日の目覚めはかなり悪い。昨日、空港まで両親を見送った事で、疲れていたようだ。体を動かそうとするが体は動かない。極度な疲労感を感じている。しかし、今日は親もいないので朝食を自分で作らないといけない。でも、まあ、作るといっても本格的に作るつもりはない。というか俺は作れない。出来る事といえば、パンを焼く事くらいである。なので、いつもより早くに行動しなければならないと思って、無理に体を動かす。自分の部屋から下に降りてリビングのドアを開けると、テーブルの上にご飯と味噌汁と目玉焼きが用意してある。これは一体どういう事だろうか?今日は母さんがいないはずなのだが・・・俺は料理を見て、すぐにハッと気づいた。
「あいつ!来やがったな!」テーブルの上を見てみると、小さなメモ書きが置いてある。
{今日から一人暮らしだね?朝ごはん作っておいたので食べておいてね。お弁当もつくっておきましたから持って行くように! 彩夏}
彩夏は霧條彩夏といって、幼稚園の時からの幼馴染である。彩夏は家から徒歩1分のところに住んでいて、親同士も知り合いなので、ずっと家族ぐるみの付き合いをしている。ほとんど、兄妹みたいな関係が十年以上続いているのだ。しかも、彩夏は中学生くらいから俺に対してお姉さんぶっていて、俺を子供扱いするのだ。いつも何かと付きまとってくる。
「全く、俺はギャルゲの主人公かっつーの!」俺は、思わずメモ書きに突っ込んでしまった。というか、何故?あいつは俺の家の鍵を持っていたんだろうか?不思議に思ったが、昔から彩夏は家に来て、母さんとご飯作ったりしているのを何度も、家で見かけていたので、あまり気にせずに朝食を食べて出かける事にした。
高校への通学は、自転車で約10分位の距離だ。家からは約1キロ先の所にある。丘の上にある阪上高校という所に通っている。通学は近くの学校がいい、という簡単な理由で選んだ。一応進学校だが、特に偏差値が高いというわけでもなく、低いというわけでもない。いたって普通の高校だ。阪上高校は名前の通り、坂の上にあって、校門前の坂がすごく苦しいのだ。心臓破りの坂がある有名な高校で、登校したあと1時間目の授業を受ける頃には、かなりの汗をかいて、息も切れてしまう。俺は、その心臓破りの坂を上り、ハアハア息をきらしながら校門に入った。すると、駐輪場に自転車を入れたところで、後ろから見知った人物に声を掛けられた。
「よっ、おはよっ!今、登校か?」声を掛けてきたのは孝治だった。部活の練習の後なので、野球のユニフォームを着ている。高橋孝治は中学時代、同じクラスになってからはずっと仲がいい。去年、県大会で準優勝して、甲子園まであと一歩という所まで行った。今年3年になってキャプテンをしている。
「おう、おはよう」
「おう、どうよ?夢の一人暮らし生活は?」数日前に、親が海外に行くから一人暮らしをする事になったという事を伝えてあったので、孝治はそう聞いてきた。
「いや、まだ始まったばっかりだよ」
「でも、いいよなー。夢の一人暮らしかー、自由な時間、自由な生活、俺も早くやってみてーな」
「いやいやいや、そうでもないぞ!色々と考えてみれば掃除とか、洗濯とか、それに料理とかしなければいけないんだぜ。意外と大変じゃないのかな?と考えていたとこだよ」
そういえば料理で思い出したが、今朝、彩夏が朝食を作りにきてくれた事はこいつには黙っておく。内緒にしておかなければ話がややこしい事になるのだ。
「ええ!?そんなの、ロボットに任せればいいじゃないか?・・・って、そうか、お前の家にロボットいないんだっけか?」
今の時代にはロボットは普及していて、車のように一家に一台の時代が当たり前になりつつあった。家庭用ロボットとは、主に掃除、洗濯、家事育児、介護に癒しにペットと言った風に、なんでもこなす。特にハイテクが好きな日本人にマッチして、数年前から爆発的に普及していた。今ではロボットというより、一人の家族としてとらえる人が多いのだ。犬をペットショップで買いに行く。そして、ペットが家族になるといったように、ロボットショップに行って、ロボットを買って、ロボットと家族になる。そんな時代が来ていた。
「まあな。一応家の方針で、出来ることは自分でやる!というのをモットーにしているからな」ロボットが普及していても、ペットのいる家庭と無い家庭があるように、すべての家庭にあるわけではない。
「ふーん。でもさ、こんな時くらい買って貰っても、よかったじゃないのか?」
「いや、一応母さんが用意しようか?って、言ってくれたけど断ったよ。まあ、それにいい機会だし自分でやれる事はやってみようかな?と、思ってな。自立するいいチャンスだと思ったんだよ!」
「へー、意外と偉いなお前・・・」孝治は感心している。
「それにさ、せっかく一人暮らしなのに家の中でごちゃごちゃと動き回られるのが嫌なんだよ!」
「ふーん、そうかな?ロボットが家にいるっていうのは結構便利なものだぞ。でもまあ、・・・それが美少女ロボットなら尚更良かったんだけどなあ・・・」孝治は何やら妄想して言っている。
「そういえばお前の家、執事ロボットだったっけ?」
「そうなんだよ、ロボットを買う時に妹と母ちゃんに押し切られてさ。ホント、家族で権力が無いというのは辛いよ・・・とほほ」
「ふーん・・・」孝治に実権が無いのは普段から馬鹿な事やっているからだと言おうとしたがやめた。多分本人もわかっているはず。
「でもまあ、料理もうまいし、何処かに行きたい時は車を運転してくれるし、便利なのは便利だぜ。そうだ!今度お前の家に連れて行ってやろうか?」
「いいのか?」
「別にお前の為なら前もって言えば大丈夫だよ!それにお前の為なら妹は大賛成するだろし」
「そうだな。もし、いろいろ生活に飽きたら頼むよ?」
「おう、任しとけって!料理めちゃくちゃ旨いぞー」
「それより、お前。着替えなくていいのか?もうすぐ授業始まるぞ?」
気が付いてみれば孝治はまだ野球部のユニフォームのままだった。
「おお、やべー!じゃあな!」孝治は走って野球部の部室に向かっていった。
「まったく・・・あいつは人のことより自分の事を心配しろよな!」孝治を見送った後、自転車置き場から靴箱に行って、教室に向かっていると、またもや聞き覚えのある人物から声を掛けられた。
「真君!おはよう・・・」彩夏が声をかけてきた。丁度いい機会だ!今朝の朝ご飯の件を、ここでちゃんと言っておかないといけないと思った。じゃないと、今後どんどん家に進出されるからだ。せっかくの一人暮らしが邪魔されてしまう事になる。彩夏を見てみると、髪の毛が濡れている。どうやら水泳部の朝練終わりのようだ。彩夏の髪の毛の濡れ具合が、なんともいえない色っぽさを醸し出している。見慣れているはずの幼馴染の俺でさえも、彩夏の綺麗さは少しドキっとする事がある。だが、俺にとってはいつもの事なので、特にドキドキすることなく、ここはガツンと言ってやらなければいけないと俺は思った。
「お前なあ、今日の朝、一体何なんだよあれは!」
「ん?何のこと?それより今日はちゃんと朝ごはん食べてきたの?」
俺の剣幕にも気にせずに、一方的に話を変えてきた。
「一応食べたけどさあ、お前、家に勝手に入るなよな!」
「え?だって、おばさんが真君の事お願いねって、出発の日の前日に鍵をもって来てくれたわよ!」 やっぱり・・・母さんだったか。うちの母親はいつもこういったサプライズが好きで、このようなことは日常茶飯事だったので容易に予想はできた。
「いくら、母さんに頼まれたからって、そこまでやらなくてもいいんだよ!とにかく、いい歳して恥ずかしいだろ!知り合いとかにこういう事が知られたらまた冷やかされるだろ!もう辞めろよな!そういった事・・・!」
「別にいいじゃない?どうせ勘違いされて困るような人いないんでしょ?」うっ・・・。痛いとこを突いてくる。こいつは俺に対してはハッキリとズケズケと平気で言ってくる。
「いや、そうだけどさ、俺らって、もう子供じゃないだからさ、子供の時のような馴れ合いはもう辞めようって言っているんだよ!」
「そうやって、意識するほうが子供のような気がするけど・・・」うっ・・・。俺はまたもや正論を言われて少し怯んだが、ここで言い負けてはいけないと思った。
「大体、お前は部活に生徒会と忙しいだろ!いいのかよ!こんな事してて?」
「別に心配しなくても大丈夫。朝ごはん作ってお弁当作るくらいは楽勝よ。それに、家近いんだし、いいじゃない?」
「とにかく、しばらくは一人暮らしを楽しみたいから、俺の事はほっといてくれよ!」
「まったく、楽しみたいなんて子供みたいな事言って・・・はいはい、わかりましたよ。明日からしばらくは行きませんよ!」彩夏は呆れている。
「それじゃあ、お母さんが今日の晩御飯誘っておいでって、言っていたけど、真君はどうするの?」おばさんには、いつもお世話になっているので、さすがにむげには断れない。
「え?おばさんが?・・・うーん、でも、今日はやっぱいいよ。遠慮しときますって言っておいてくれ」
「いいけど、でも、あまり外食やインスタントラーメンとかは辞めないさいよ!」
「分かっているって!」だめだ、完全に俺は子供扱いをされている。俺は昔からこいつには、頭が上がらないのだ。
「それと、今日のお弁当はちゃんと持ってきたの?」
「ああ、ちゃんと持って来たよ!」
「よしよし。じゃあ、もう行かないと・・・」彩夏はそう言って教室に向かって行った。
「わかったよ。じゃあな!」
いつからか、俺はあいつには頭が上がらない様になってしまった。完全に俺は子供あつかいをされている。まったくもってお節介な奴だ。よく言えば面倒見がいいとも言えるのだが。それにしても、俺達は幼馴染といっても、ゲームやアニメのように恋愛に発展するわけではない。ほとんど家族みたいな付き合いになっている。はっきり言って俺は彩夏に対してドキドキするといった感情が起きなくなっていた。逆に彩夏の方も、俺に対してズケズケと言うくらいだから同じだろう。
「あいつ・・・好きな奴とかいないのかな?まあ、こればっかりは俺も人の事言えないか・・・」
彩夏の件は、とりあえず言いたい事を言ったので、これで良しとする。これで彩夏にしばらくは家に進出されることはなくなったはずだ。俺は、そんな事を考えながら彩夏が教室に向かうのを眺めていた。
気持ちを切り替えて教室に入る。今日から新しいクラスだ。先日、新しいクラス分けの張り紙を見たところ、孝治と彩夏は別クラスということがわかっている。もう一人の仲のいい友達で、川村涼が同じクラスになったけど、たぶん今日は来ないだろう。あいつは、今、バンドをしていて、メジャーデビュー目前まできている。仕事が忙しいせいか、去年の秋からずっと学校を休みがちだ。仕事が結構忙しいみたいで、涼はたまにテレビにも出たりしている。今ではちょっとした有名人だ。このまま音楽の仕事が忙しくなると、学校を辞めてしまいそうな感じだ。そんな感じがするほど最近は忙しそうだ。だが、それは本人が決める事で、俺には関係のない事なので関与しないようにしている。
「さて、今日からは授業が始まる日だ!早く教室に行こう」俺は気持ちを切り替えて、自分のクラス向かった。
朝の授業も終わり昼休みになった。昼休みはいつも孝治や涼と三人で、食堂で待ち合わせをしている。今日のお昼は、彩夏が作ってくれた弁当がある。今、気づいたのだが、これはかなり困った事になったと俺は思った。特にこの弁当の件が本当にヤバイのだ。孝治は彩夏のファンクラブ{非公式}の会長だからだ。中学の時から結成している筋金入りストーカー(悪意的表現)だ。同士を募り、写真やらグッズやらで、よくわからない活動をしている。俺は、中学の時から写真やら何やらで、協力させられている。孝治は野球部で、レギュラーだ。しかも昨年は県大会準優勝している。本来ならモテているはずなのに、このへんてこな活動のせいで、いまだに彼女がいないのだ。それに対して、彩夏も水泳部で部長だ。インターハイ4位で、しかも生徒会長である。校内に男女問わず、かなりのファンがいるらしい。
「よお!おまたせ!お、今日は弁当か?」
「え!?ま、まあな。一応、簡単に自分で作ってみたよ・・・ははは・・・」
さりげなく嘘をつく。この弁当を彩夏が作ったという事を知られるにはいかない。
「おお、さすが!いきなり一人暮らしを堪能しているなー」
「いいから早く買ってこいよ!今日、お前学食なんだろ?」
「おお、そうだった。じゃあ先に席をとっといてくれよ。じゃあ行ってくるわ」
「わかったよ!」そう言って孝治は食堂の列に並びに行った。孝治は、いつもはロボットが作る弁当なのだが、たまに学食を食べる事がある。そして、それが今日である。それにしても、彩夏の弁当は俺が作ったことになってしまった。本当は、弁当なんて作った事はない。そんな事を考えながら、空いている席を探して席に座る。
「あれっ!?そういえば、今日は、涼は来てないのか?」そう言って孝治はカレーライスを持って帰って来た。この学校の名物の学食カレーだ。
「いや、今日は俺も会ってないから休みじゃないのか?」
「なんだ、今日も休みか・・・」孝治も涼と仲がいいので、孝治は涼が休みなのを理解している。
「あいつ・・・出席日数大丈夫なのかな?このままだと留年するんじゃないの?」そう言いながら孝治が席に着く。
「さあ?あいつには、あいつなりの考えがあるだろ。それに、あいつはもう就職先が決まったようなもんだから、別に心配しなくてもいいんじゃないのか?」
「ふーん、お前って時々大人なこと言うよな・・・」
「そうかな・・・?俺らがどれだけ涼の事を心配したって、どうせ決めるのは本人だろ?それに、あいつから直接相談されたわけじゃないしな。本当に悩んでいるならあいつの方から相談してくるだろ?」
「おまえって…本当に普段ぼけーっとしているように見えて、結構冷静だよな・・・」孝治が感心しつつも、俺は孝治と話をしながら弁当を開けてみると、びっくりした。彩夏が作った弁当の内容が気合入りすぎなのだ!おにぎりに、顔が書いてある。そしてハンバーグにも顔が書いてある。「小学生の弁当かこれは!」って俺は心の中で突っ込んでしまった。それを見ていた孝治もびっくりしている。
「ちょ・・・、お前これはさすがに気合入りすぎだろ?これは・・・ほ、本当におまえが作ったのか?」
「ん・・・まあ、まあな!た、たまたまだよ!たまたまうまく作れたんだよ・・・」あまりの弁当の内容に衝撃を受けたが、そのまま嘘を押し通す。
「ホントか?!」まずい、完全に疑っている様だ。そりゃそうだ。こんな弁当を、男の俺が作る方がおかしい。でも、一度自分で作ったと言った以上、嘘を押し通すほかない。
「うるさいな!こう見えて意外と可愛い物が好きなんだよ!」うまくごまかせただろうか?いや、苦しい言い訳だな、これは・・・。
「可愛いというより子供っぽいんじゃないのかこれ!?」
「弁当はこういうものなんだよ!」俺が困っていると、横から彩夏が声をかけてきた。
「真君!お?しっかり食べているね。偉い、偉い。うんうん・・・」ややこしい話をしているところにややこしい奴がやって来た。
「き、き、霧條さん!おは、おは、いや、こんにちはっす!」急に彩夏に声をかけられて孝治は緊張している。明らかにいままでとは態度が違っている。
「こんにちは高橋君!」孝治は、かなり上がっている。そして、声をかけられて、幸せそうな顔している。
「ところで、真君。お弁当の事なんだけど・・・」彩夏が喋りかけたとこで、俺は遮った。
「だーあー!!そ、そうだ彩夏!お前、部活はどうだ?今年は記録更新できそうか?」
いま、弁当の話をこいつの前でされたら、さらにややこしい事になる。だから、俺は別の話をあえて振った。
「部活?うーん・・・どうかな?今年は生徒会もあるし、進路もあるから練習時間少なくなっちゃうからなあ・・・。でも、まあ一応がんばってみるつもりだけど。どうしたの?急に、真君も部活復帰する気になったの?」
「いや!いまさら俺は部活なんてやらないよ!」俺は彩夏に話を振られて嫌な顔をした。俺にとってはNGワードに近い。
「そう、でも復帰するならいつでも言ってね、男子部の部長さんに私の方から言っといてあげるから・・・」彩夏はなおも食い下がってくる。俺が部活を嫌がっているのを知ってるはずなのに。うっとーしい奴だな。
「うるさいな!いいよ!」俺はちょっと感情的になって、彩夏に対して冷たい態度をとった。少し周りの空気が凍りつく。そうすると幸せそうな顔していた孝治が真剣な顔して喋り出す。
「真司!お前、霧條さんはお前のことを心配して言っているんだぞ!」孝治が急に怒り出した。こいつはどこまで彩夏信者なのだろうか?我が友達ながら気持ち悪い。しかし、確かに今のは少し強く言い過ぎたかもしれない・・・。
「わかったよ!悪いな!彩夏。ちょっと今、言い過ぎたかも知れないな・・・」おれは孝治の声で少し冷静になったので反省して彩夏に謝った。
「わかっているわよ、私は真君と何年の付き合があると思っているのよ!」彩夏は偉そうに言った。彩夏もよくわかっているみたいだ。
「いいよなー幼馴染って・・・」横できいていた孝治が、羨ましそうに横からぼそっと言う。
「まあ、そうだな・・・。お前もあまり無理せずに部活がんばれよ!」俺の言いすぎた、と思った言葉も気にしていないみたいだ。もしかして、計算の上か?
「うん、ありがとう。じゃあもう行くね」と、言って彩夏は向こうの友達のところに行った。
「お前はわかってない!」彩夏が向うに行ってすぐに孝治はいきなり態度が変わった。そして、すごまれて言われた。
「霧條さんは、いや霧條様は学校のアイドルであらせられるぞ!」いま・・・さりげなく言い直したな。俺はそれを見逃さなかった。
「そんな彼女の言葉を軽くあしらうなんて何たることだ!いくら幼馴みのお前でも許されることではない。この件は次回のks団の会議の議題にあげさせてもらうからな!」
いきなり孝治が演説っぽく言った。また、いつものやつが始まったのだ。これは完全にスイッチが入ったようだ。こいつは彩夏が絡むと、たまにこうなるのである。ちなみに、ks団とは彩夏のファンクラブの事である。
「いや・・・そんなこと言われてもなあ・・・」
「そんな事でも、へったくれでもない!今、お前はks団のすべての団員を敵に回したぞ!」
「いや、ks団っていわれても・・・」もう勘弁してくれ。
「お前はks団を甘く見ているな。ks団は新学期に入ってすでに入団希望者が10人を超えているんだぞ!しかも全員新入生だ!」
「ん?ちょ、ちょっとまて。新入生ってお前まだ始業式が始まってからまだ2日目だろ?」さりげなくいったが、新入生はがもうすでに入っているなんてどれだけ凄いんだ!?
「そうだ!だが、まだまだこれから増える予定だ!」たしかに、これはちょっと半端じゃないな。彩夏はそこらのアイドルと比べても遜色のないくらい可愛いけど、人気ありすぎだろ?これは・・・。これからは幼馴みということは、隠したほうがいいかもしれない。いや、すでに知られている人には知られているから、あまり人前で彩夏と仲良くするのは少し、遠慮するべきかもしれない。だとしたら、お弁当の件は何が何でも隠し通すべきだ。こいつに知られたら危険すぎる・・・。
「おい、いいのか?早く食べないと。もうすぐに、昼休みが終わっちゃうぞ!」
「あ、そうだな・・・」といって我にかえった孝治は残っているカレーを急いで食べだした。単純なやつだ。どうやらうまく話をそらせたようだ。こういう時は馬鹿で助かる。あのようにスイッチが入ると孝治は話が長くなるのだ。それにしても・・・。今後は気をつけよう。Ks団恐るべしだ!
放課後になり、今日のすべての授業は終わった。各教科の教室から、クラスメートが帰ってくる。これからホームルームだ。朝から選択科目によって教室が違うクラスメートとも、必ず一日の最後に出会うのが、このホームルームだ。といっても、担任の先生の連絡事項などを聞く為の15分間だけのことだけなのだが・・・。
「それでは、みんな!落ちついて聞くように」担任の先生がやってきて、ざわついていたみんなが静かになる。
「新学期始まって早々ですが、最近この学校周辺で薬物事件が発生しています。うちの学校でも、購入者がいるという噂が出ています。皆さん、くれぐれも薬物には手を出さないようにして下さい。もし、発覚した場合は退学処分になるので、くれぐれも気をつけて下さい。もし、販売している人をみつけても、絶対に近付かないようにして下さい。いいですかみなさん?」
みんな一様に驚いている。それにしても物騒な話だ!いくら都市部まで、電車で1時間ほどの距離だといえ、こんなベットタウンの閑静な住宅街に薬物事件が起こるなんて。でもまあ、別に、俺は不良ってわけでもなく、DQNでもない、ごく普通の一般生徒だ。おそらく、こういう事は、俺は縁のない事だと思うので、あまりピンとこない。そして、ホームルームも終わり、みんなそれぞれ教室を出て帰っていく。部活に行く人、帰宅する人、皆それぞれだ。ちなみに俺は、帰宅組なので直に家に帰る。そして、俺は家に帰って何するのか?だが、一応、俺にも用事はあるのである。用事といっても中学の時に、部活を辞めて以来、俺は家でゲームをするようになった。その結果、今では俺は立派なゲーマーになった。ゲームが好きといっても俺はオタクではない。(客観的に見たら知らないが)、萌えゲームはするが、萌えアニメは見ないからだ。(どんな理屈だ!)どうか、そこのところをわかっていただきたい。(誰に言っているんだ?)まあ、これが俺のちょっとした唯一の趣味だ。俺は、一応ゲームなら何でも好きで、テレビゲームを中心に様々なジャンルのゲームをこよなく愛している。また、ボードゲーム、アーケードゲームなど、ゲームという名が付くものは軒並みやっている。3ヶ月前まではネットゲームにはまっていたが、馬鹿みたいに強いやつがいて、ネットゲームは最近やってない。あとは、ゲームの購入代金を稼ぐため、週に2回ほど家の近くのファミレスでバイトをしているぐらいである。俺の日々の活動は、ゲーム、学校、バイトの3点である。自分では、なんて健全な男子高校生だと自負している。そして、今日はバイトが休みの日だ。こういう日は家でゆっくりゲームをするのが俺の毎日の日課だ。ちなみに、部活組の孝治と彩夏は部活があるので、学校にいつも遅くまで残っている。そんな二人を尻目に、俺はいつも先に、そそくさと帰宅するのだ。
帰りは、行きと違いかなり楽だ。帰り道は、下り坂ばかりなので、ほとんど自転車をこぐことなく家に着く。俺はほとんど疲れることなく家に帰った。
「よし、早くゲームでもするかな♪」そう言いながら家に着いた俺は、自転車から降りた。今日から家に帰っても、親は家にいない。まあ、いてもいなくても、いつも自由にしているから特に問題ないが。しかし、気分はいつもに比べて開放的だ。特に母さんがいないのが大きい。それだけでも平穏な日々をおくれるのだ。そして、家の鍵を開けてドアノブを回してみると・・・開かない。何故だろうか?
「ん・・・?おかしいな。さては家を出る時、鍵を閉め忘れたか?」
もう一度鍵を回して、ドアを開けると玄関で驚きの光景を見た。
「お帰りなさいませ、ご主人様・・・」玄関の前には髪の毛の長い日本人形のような美しい美少女が、メイド服を着て座っている。
遭遇!謎の事件!
「だ、だ、誰だ!お前は?」いくら美少女でも知らない人間がいきなり家の玄関の前にいれば驚くし、警戒する。
「申し遅れました。私はsp30ベイエリアと申します・・・」sp30だって・・・。名前からしてロボットなのか?こいつ?いや、どう見ても人間のようにしか見えないのだが。いくら今がロボットの時代といっても、もっとなんというか・・・こう・・・金属部分が見えているとか、音声が機械的とか、喋り方が機械的だとか、肌の質感や、体のパーツが機械的だとか、普通は一目でわかるものである。今、自分の目の前にいる少女は皮膚の質感、髪の毛のつや、指先にいたるまで、まるで生きているかのように人間そっくりなのである。
「君は・・・ロボットなのか・・・?」俺は、自分の目を信じられなくて、もう一度確認するために聞いてみた。
「はい、そうです・・・」少女は笑顔で答えた。ちょ、ちょっと待てよ。一体どういうことだ?別の家のロボットが迷い込んだのだろうか?
「その・・・ロボットの君が・・・なぜここにいるんだ?それに、鍵はどうしたんだ?戸締りはしていただろう?」
「はい、鍵はマスターにお預かりいたしました。そして、ここへ来たのはそのマスターの指示によるものです」マスター?はて?誰のことだろうか?
「マスターより、メッセージをお預かりしていますので、携帯に映像データを、お送りしてもいいでしょうか?」また疑問が出てくる。マスターとはこのロボットの持ち主の事だろうか?そのことを聞こうかと思ったが、そのメッセージとやらを聞いたほうが早いと俺は思った。
「わかったよ・・・」
「それでは、携帯をこちらに向けてください」俺は言われるがままに、携帯を彼女に向けた。彼女は俺の携帯を5秒ほどみつめた。
「はい、赤外通信で動画データを送りました」俺は彼女の行動を見て、やっぱりロボットだと感心した。そのあと、リビングに移動した。メッセージ動画を見るためである。ソファに座り、携帯の画面を見た。そして、携帯に保存されていた動画を再生した。
「お久しぶり、真司くん。8年ぶりかな、姉さんに頼まれて・・・いや、真司君のお母さんに頼まれて、急遽君のためにロボットを用意したのだ。ベイリアはうまく君にあいさつ出来ただろうか?一応君好みに、練習させたのだが・・・。ちなみにsp30ベイリアは私の研究所で、今あるすべての技術の粋を集めて作り上げた最新型だ。こいつはロボットでありながらロボットではない。極めて人間に近く作られている。今は、まだ出来たばかりだから、人間的な行動から離れた行動や、考え方をするかもしれないが、日々の生活でより人間らしくなっていく。もちろん君と生活する事で、ベイエリアはどんどん人間らしい感情を持っていく。これからのベイエリアの性格、感情の成長は君にかかっていると思ってもらっていい。さらにすごいのは、細かいところまで人間そっくりに作りあげたにもかかわらず、ロボットとして、人間の身体能力の10倍以上という能力を保持することが出来たことだ。私は、このベイエリアを新人類だと考えている。私はこの新人類計画をニュージェネレーション計画と名付けた。そして、いずれはこの新たな人類を、私が作り上げる創造主となる日がくるのだ。フハハハハハ・・・・!?コホン!失礼した。とにかく、ベイリアは君に預ける。自由に使いたまえ・・・?いや、接したまえ。ベイエリアが良い人間になるかどうかは、君にかかっている。それでは、今後データ取得と調整の為、たまにそちらにお邪魔するからよろしく頼む。では失礼する・・・」
ここで動画は切れた。新型ロボットだって?いつの間に母さんは、こんなものをおじさんに頼んでいたんだ?それに、ニュージェネレーション計画だって・・・?彩夏に、鍵を渡している件といい、昔からだが母さんは、サプライズが大好きで、よく俺を困らせる。それに、京太郎おじさんは科学者だとは聞いていたが、ロボットを作っていたなんて聞いてないぞ!
「ただいまのメッセージの終了をもって、私の主は真司様になりました。どうぞ、今後ともよろしくお願いします」
「よろしくお願いしますって・・・そんな・・・」どうしよう・・・俺がロボットオーナーだって?それに、世間のロボットとは違うとも言っていた。母さんの頼みらしいから、断る事が出来ないだろうし・・・。それに、俺は京太郎おじさんの連絡先を知らないのだ。だったら、これからこの家に一緒に住む事になるのか?せっかくの一人暮らしだと思っていたのに・・・。
「ご主人様・・・私は、あなたに会えるのをずっと楽しみにしていました。私が、人工知能として本格的に機能し始めたのは、今から約半年前の事でした。今年の1月になった頃、まだ体が作られていなかった私は、マスターに私の事を人間として導いてくれるのは真司様だと聞いていました。私を導いてくれるご主人様になる人は、一体どんな人だろう?と、思ってご主人様がネットゲームをされていると聞いた私は、何度も、ご主人さまと一緒にネットゲームをプレイしたのですよ、覚えていませんか?」そんな前から母さんは頼んでいたのか・・・それにネットゲーム・・・・?
「ああああ!!もしかして・・・あの、やたら強かった・・・。たしか、ハンドルネームがベイエリアだった!」確かに心当たりがある。
「思い出していただけましたか?こうしてリアルでお会いできる様になって、私はうれしいです」ベイエリアは、ニコリと笑顔を向ける。
「あの・・・ネットにいたやつが・・・君・・・?」
「はい」そう笑顔でこたえる。その笑顔があまりの可愛さに少しドキっとした。うう・・・ますます断りにくい。何でロボットなのに、こんな人間そっくりなんだ?こいつは!
「わ、わかったよ・・・よ、よろしく頼むよ!」俺は思わず了承してしまった。断れる感じではなかったし、また、このロボットの可愛さに心が揺さぶられた。美人に弱いとはこの事だ。しかし、根本的な判断は、母さんが絡んでいるということだ。今までの経験上、母さんが絡むと多分断れないと思ったからだ。
「ありがとうございます。これからがんばりますのでよろしくお願いしますね♪ご主人様」
そう美少女ロボットは笑顔でニコリと微笑みかける。ご主人様・・・そういわれて、俺は気恥ずかしくなった。
「ベイリア、あのさ・・・その・・・御主人様って言うのをやめてくれないかな?」ほかのロボットオーナーが、自分のロボットに対してなんて呼ばせているか分からないが、さすがに日常生活で御主人様は恥ずかしすぎる・・・。それに、見た目はほとんど人間そっくりで、こんな美少女にそう呼ばれるとかなり恥ずかしい。
「お気に召さないですか?研究所の、もう一人のマスターであるお兄様に、男はご主人様とお呼びすれば間違いはない!と伺っていたのですが・・・?」お兄様・・・?何のことだ?何か嫌な予感がする・・・。
「ちなみに、そのお兄様っていうのは・・・一体誰なんだい?」
「はい、えーと。私の体を作ったもう一人のマスターになります。私は二人のマスターによって作られています。御主人様の叔父であられるマスターは、私の人工知能のプログラミングを作り。そして、私の体を作ったのがお兄様です。最初は別の呼び方をしていたのですが、どうしても自分の事はお兄様と呼ぶようにと、仰られたのでそうお呼びしております」
だれだ?その変態は?あのおじさんがいる研究所のメンバーかな?なんだか、ベイリアがいた場所の感じが、少しわかった気がする。
「とにかく、名前で呼んでくれ!普通に!」
「では、真司様・・・」
「様はやめてくれよ!」
「では真司さん・・・?」どうもまだしっくりこないが、ロボットと主人の関係を考えれば、まあこれでいいか・・・。
「まあ・・・それでいいよ」
「はい・・・」
「それと、ベイリアってなんだか呼びにくいから、君の事、リアって呼んでいいかな?」
「リアですか・・・?」
「こっちの方が女の子っぽい名前だし、自分的にはいいと思うんだけど、どうかな?」
「はい・・・とってもうれしいです・・・」といって涙をこぼしている。
「ええ?ご、ごめん・・・どうしたの?大丈夫?」え、もしかして、俺はいきなり女の子を泣かした?いやロボットだけど・・・。
「いえ、こちらこそすみません。うれしくて・・・つい・・・まさか、真司さんから直接名前をいただけるなんて、思っていませんでしたから・・・」ここまで喜ばれると嬉しいのだが、ここで少し疑問が生まれた。ちょっとまて?こいつは本当にロボットなのか?ロボットって、涙を流すことができるのか?
「君って、ロボットなのに涙流す事ができるの・・・?」感動してもらって悪いが、リアに疑問をぶつける。
「はい・・・感情はすべて状況に応じて対処するようにプログラムされています。だから涙を流す時も、私の意識に反してどの様な時に流すのか全てプログラムされています・・・」
そこまで人間の感情を再現するなんて、リアはかなりの高性能ロボットじゃないのだろうか?テレビで見るロボットや、今まで見た近所の知り合いのロボットとはレベルが違う様な気がする。
「ところで君はロボットとして何が出来るんだ?俺はロボットの事ってよく知らないんだ」
「はい、一応、一般に販売されているロボットの能力程度はすべて保持しているかと思いますが・・・」
「じゃあ、料理とかは出来るの?」
「はい、もちろん出来ます。和食、中華、フランス料理、イタリアンなど様々な国の約32ヶ国料理を調理することが可能です」
「へーえ、すごいね!じゃあ、とりあえず・・・今日の晩御飯を作ってみてくれないかな?」
「承知しました」
それから、自分の部屋で何時間くらいゲームをしただろうか?今日は全くもって全然集中することが出来ない。一応ゲームをやっているが、下で料理を作っているリアが気になって仕方がない。窓を見てみると、外はもうすでに暗くなっていた。
「トントン」ドアのノックする音が聞こえる。
「真司さん、晩御飯の準備ができました・・・」
「わかった!今行くよ・・・」そしてリビングへ行くと美味しそうな料理が作られていた。俺は早速、席に座って食べてみる。
「うまい!」辛すぎず甘すぎず、絶妙な味付けをしているのを素人の自分でも分かった。
「これ、おいしいよ!リア」俺の食は進む。
「喜んでいただき、私もうれしいです♪」
「ところで、君はご飯を食べたりとかするの?」外見があまりにも人間そっくりなので、一応聞いてみた。
「はい、少しだけ食事をしたりもします」したりもする?一体どういう事だろう?
「そういえば、君は、燃料はいったいどうなっているんだ?やっぱり電気で動くのか?」
「私のエネルギー源は、ハイブリットになっております」
「ハイブリット?」
「簡単に説明しますとですとね、食事と充電です。私の体内にですね・・・・・・」リアの体についての説明が続く。俺の全く知らない知識が数分間つづいた。「・・・・・・・というわけなんです」
「あの・・・、日本語でおkです・・・」俺は、リアがしゃべっている事との半分も理解できなかった・・・。
「あ・・・す、すみません・・・」
「とにかく、最初に言った通り、君もご飯も食べるんだろ?」
「はい・・・」
「だったら、一緒に食べようよ。そこに座って!」
「はい。では、ご一緒させてもらいます」
それから俺は、彼女と食事を楽しんだ。リアと食事をとりながら、様々なことを聞いた。先ほど聞いたリアの体について何度も質問した。聞いた話によると、リアの体は食事以外でも様々なとこでエネルギーに変えて取り込むことが出来るらしい。そんな話をしながらいつの間にか料理は美味しかったので、すぐに食べ終えていた。
「さあ、食べたぞー」
「あ、あの真司さん・・・。お、お風呂を沸かしておきましたので、よろしかったらどうぞ・・・」
「お風呂?」いつの間に沸かしておいたのだ!?さすが最新型ロボットは仕事が早い。
「じゃあ、先に入らせてもらうよ」
「はっ、はい・・・。わっ、わた、私はお皿を洗っていますので、どうぞごゆっくり・・・」
俺は風呂場に行ってお風呂に入った。いい湯加減だ。ここまでの行動で、リアは完璧だ。このような生活を、していたら自分が堕落しそうだと考えてしまう。
「それにしても・・・意外といいものだな。家にロボットがいるっていうのは・・・」
気分は最高である。だが、ここでふと、思いつく・・・。どうも、出来すぎている・・・。俺がいつもやるギャルゲのベタな展開だと。美少女と二人っきりの生活・・・。ここでお背中をお流します。って、入ってくるんじゃないだろうか?しかも、リアの製作者はお兄様と呼ばせている変態だ!これは、ラッキースケベのフラグがたったかもしれない・・・。
「ま、まさか!そんなはずないよな・・・」
「し、失礼します・・・」 といってリアがお風呂のドアをあける。キターーーーー!?
「だあー!やっぱり来たのか!」こ、これは、ゲームでいったらエロゲ展開でござる・・・。
「ちょ、ちょっとまて!」リアがバスタオル一枚で入ってくる。リア自身も恥ずかしそうにしている。
「あ、あ、あの真司さん。お、お背中お流しします・・・」まったくもってベタな展開、想定通りの発言。リアは、かなり恥ずかしそうにしている。耳まで真っ赤だ。そんなリアをみて、俺も恥ずかしい気持ちになった!
「ちょ、ちょっと待て、リア!お前、無理してないか?」
「そ、そんなことはないです。真司さんの為なら大丈夫です。それに、お兄様が新しいご主人様には、このように必ずお背中を流すようにとおっしゃられましたので・・・」やっぱりだ!京太郎おじさんではない方のリアの開発者に一言、言ってやりたい。
「い、いや・・・その、お兄様という人の言うことは間違っているから!普通はこんなことしないんだよ!と、とにかく早く出て行って着替えてくれ!」
「は、はい。申し訳ありませんでした!」本当にびっくりした。予想した通りの展開になった。はっきり言って男としては願ったり、かなったりの展開だが、彼女はロボットだ。それに・・・おそらくこの展開はマスターとやらの陰謀が感じられる。後から何を言われたものか、たまったもんじゃない。それにしても・・・バスタオルで巻いていたとはいえ、リアの肌がかなり綺麗だった。少し思い出して胸がドキドキした。
その後、風呂場から出て、着替えて出てくると、リアがドアの前で待っていた。
「あの、真司さん。さっきは本当にすみませんでした。私も恥ずかしいとは思ったのですが、お兄様が必ずするようにと言いましたので・・・」
「いや・・・もういいよ!俺もまあ・・・その、いいもの見せてもらったし・・・」
「いいもの?」
「いや、こっちのこと、気にしないでくれ。 それよりも、君もお風呂に入ったりするのか?」リアは防水仕様なのだろうか?ふと不思議に思った。
「はい、一応入れるようには設計されています」
「じゃあ、俺が入った後だけど、君も入りなよ!」
「すみません、気を使っていただいて・・・」ん!?ここで大事なことを思いつく。
「ちょっと待て!リア。君は着替えとかって、何か持っているのか?」リアが家に来たときは何も荷物は持っていかった。
「いえ、持っていません。マスターにいただいたのはこの服だけです」
「メイド服だけ・・・?」まあ、家の中だけならいいけど、これからここで住むなら、そういうわけにもいかない。それに今からお風呂に入って、出てから同じ服というのもよくない。
「そうだ、リア!明日、服を買にいこう!」
「服・・・ですか?でも、私はこの服で大丈夫ですが・・・」
「いや、だめだよ、君がよくても近所の人に俺が変な人だと思われるし!」
「そうですか・・・すみません・・・」リアは申し訳なさそうに謝った。いや、謝るなよ。お前は何も悪くないんだし・・・。服を用意するのはロボットオーナーの仕事みたいなもんだ。
「それに、今からお風呂に入るんだろ?お風呂から出て同じ服というのも、あまりよくないよ!」
「すみません気を使わせて・・・」
「いや、いいよ。とりあえず今日は俺の服でも来ていてくれ!」すぐに部屋にもどり、あまり使っていないシャツとジャージを取りに行って渡した。
「それでは、お借りします」そういってリアは風呂場に向かった。
「さて、これからリアの服をどうしようか・・・?」俺は女物の服なんて持っていない。いや、持っていては駄目だが。それにサイズもわからない。そして・・・下着なんてもってのほかだ!
「そうだ彩夏に頼もう!」ここでふと思い付く。今、家には母さんはいない、女服を買いにいく相談が出来るのは、俺には彩夏しかいない。しばらく考え込んでから、ここは彩夏しか頼める人物がいない。そう思った瞬間、家のチャイムが鳴った。「ピンポーン」
「誰だ?こんな時に・・・」俺は玄関に向かってドアをあけた。
「はい・・・?」夜に尋ねてくるような予定はない。恐る恐るドアを開けるとそこには彩夏が立っていた。
「あ、真君。何度も電話したのに何で出ないの?」彩夏が少し怒り気味で出てきた。一体何のことだ?
「え・・・!?」良く考えたら携帯は自分の部屋に置いたままだった。
「もう!お母さんが晩御飯のおかず作り過ぎたから、お裾分けもって行けって言うから電話したのに!」
「悪い、今、携帯持ってないわ・・・」何度もポケットを手でまさぐっているがやはりない。
「もー、ちゃんと持っておいてよ。それで、ご飯ちゃんと食べたの?」
「おう、一応ちゃんと食べたぞ!」今日は、リアが作ってくれたから、彩夏の心配には及ばない。それにしても相変わらずの子供扱いだ。
「ふーん・・・。まあいいわ。じゃあこれ!」そういって料理の入ったタッパを渡してきた。
「お、サンキュー!」おばさんの料理は美味いので助かる。
「ちゃんと冷蔵庫に、入れときなさいよ!」俺はタッパを受け取った。それと同時に、ここでリアの服の事を頼むチャンスだと思った。
「彩夏、ちょっと頼みがあるのだが・・・」彩夏に話しかけた途中で・・・後ろからリアが声をかけてくる。
「真司さん。お客様ですか・・・?」リアがおフロから上がってきた後だった。それに、俺のシャツを着てなんともいえない可愛さや、色っぽさが際立っている。まずいな・・・この状況は言い訳が出来る状況ではない気がする。まず、彩夏の立場で考えてみるとすると、電話に出ない、そして俺のシャツをきた女の子が髪を濡らして色っぽく出てくる。しかも、朝にもう家に来るなと言っている。親がいない。条件はそろった!間違いなく勘違いされる。これは完全な死亡フラグだ!
「さ、彩夏、ちょ、ちょっと待てよ!落ち着いて話聞けよ・・・」状況察知した俺は、すぐに勘違いだと言おうとしたが、彩夏は俺の言うことをまったく聞いていない。
「ご、ごめんなさい!私、真君が大人の階段を登っていることに気づかなくて・・・」
彩夏はいろいろ勘違いしている上に意味不明なことを口走っている。
「だから!勘違いだって・・・」
「じゃ、邪魔してごめんなさい!ご、ごゆっくりー」と言って走り去っていった。
「ちょ、ちょっと!待てえ!」追いかけようとしたが、もう見えなかった。さすが運動部だ。
「あいつ・・・勘違いだって言ったのに・・・」
「どうかなさいましたか?」
「いや、問題ない・・・気にしないでくれ・・・」さて、これは困ったぞ・・・。結局リアの服の件を言いそびれてしまった。しかも、あいつはリアの事も勘違いをしている。あの後、何度も彩夏に電話しているが出てくれない。もう寝てしまったのだろうか?
「仕方がない、明日学校で誤解を解くしかないか・・・」
その日は、リアに俺の服を着たまま、空いている部屋を使ってもらって一日を終えた。
四月十一日木曜日朝
昨日、結局彩夏と一度も連絡が取れなかった。朝起きてリビングに下りると、リアが朝食を作って待っていた。
「おはようございます」そういうリアは昨日のメイド服を着ていた。
「おはよう」俺はそういって朝食を一緒に食べ始める。そして、リアがお茶をコップに入れて差し出してくる。俺はこんな朝食をとったことがない。なんて気の利く・・・。
「ありがとう・・・」なんだか恥ずかしい。
今日はどうしても彩夏の誤解を解いて、リアの服を買い揃えなければならない。もちろんリアの服を揃えるのも大事だが、やはり彩夏の誤解を早く解くのも重要だ。このままややこしい誤解で、悶々としたくないからだ。
「リア、今日は学校終わったらすぐに服を買いに行くから、それまで家で待っていてくれ」
「真司さん、あまり気をつかわなくても・・・それにお金とか、その・・・大丈夫ですか?」
「そのことなら大丈夫だ!お金はちゃんとあるから大丈夫!」
一人暮らしをするにあたり、親が1年間の生活費を置いていってくれている。余裕はある。それに、俺はバイトをしているので、世間の高校生にしたら多少余裕はある。
「じゃあ行って来る」
「あの、これ、作っておきましたので・・・」リアから弁当を受け取った。
「あ、ありがとう・・・」少し照れくさい。
「いってらっしゃいませ」
そして、いつも通り自転車に乗って登校する。学校に着いて、自転車置き場に自転車をとめて教室にむかうが、その間に彩夏に会わないか回りを見渡してみるがいない。
「朝は、会わないか・・・」
それから朝の授業が始まる。選択教科でも今日は彩夏に会わなかった。なんとなく学校中をうろちょろしているが、今日に限って会わない。何故いない・・・いつもなら、必ずどこかで会うはずなのに。
それから昼休みになった。探しているがいまだに彩夏に会えない。何度か彩夏の教室に行ったが、いなかった。クラスメートにも聞いたが、今日はちゃんと来ているという。なのに、何故いない。今日もまた、孝治と食堂で待ち合わせて食べているが、彩夏に会わない。いつもなら声をかけられたり、見かけたりするはずなのに・・・今日に限って何故いない?避けられているのだろうか?
「孝治、悪いけど今日は、今からやることがあるから・・・」
「おい、何処に行くんだよ?」そう言って俺は弁当をしまって、まだ食べている孝治をそのままにして置いて行った。
「このままでは埒があかない。この休み時間中に彩夏を必ず見つける!」俺は全力で走る。昼休みを目一杯探す事にした。教室、図書室、体育館、グランド、中庭、様々な所をさがした。たまに、先生に廊下を走るな!と怒られながらも走って探す。
「ハアハアハア、本当にあいつ何処に行ったんだ?」あとは探していないところは・・・。
「生徒会室だ!」あそこは一般生徒が立いることのない場所だ。急いで向かうと、丁度、生徒会室から彩夏が出てきた。
「彩夏!」声をかけると、俺に気づき俺の顔を見ると向こうの方に逃げていった。
何故逃げる?
「あ、ちょっと待ってくれー!」走って追いかける。
「しめた!その先は行き止まりだ!」案の定、彩夏は行き止まりに阻まれている。
「さあ、もう逃げられないぞ!」何故か俺は彩夏を追いつめる。どうやら彩夏も観念したようだ。
「何故逃げる・・・?」
「真君が・・・追いかけるからよ・・・」その答えは本当の意味の答えになっていない。だが、今はそれを問いつめるべきではない。
「彩夏!今日、部活が終わってからでいいから、とにかく俺に付き合ってくれないか?」
俺は真剣に訴えた。誤解を解くには直接会わせる方がってっとり早いと思ったからだ。
「え、でも・・・二人の邪魔したくないし・・・」
「違うんだよ!誤解なんだって!」そこで落ち着いて俺は彩夏にやっと昨日の事情を説明した。
「え!?それじゃあ昨日の女の子は・・・?」事情を聞いた彩夏はようやく落ち着いた。
「あれはロボットなんだよ!」
「な、なんだ・・・そうなんだ・・・。私、昨日びっくりしちゃって・・・。じゃあそのリアちゃん?・・・の服を選べばいいの?」ようやく彩夏は理解したようだ。
「おう・・・頼むよ。お前しか頼める人がいないんだ!」
「分かったわ。じゃあ、今日は部活早めに終わらせて帰るわ。夕方五時くらいになるけどいいかな?」無理言って申し訳ないと思ったが、背に腹は代えられないのでお願いすることにした。
「ああ、頼む・・・」彩夏と約束をして午後の授業に戻った。
放課後。授業が終わって、彩夏は部活へ向かう。今日は早めに終わらせると言っていたが、大丈夫だろうか?練習に支障が出ていなければいいのだが・・・。
「今日、何か奢ってやるかな・・・」そんなもので埋め合わせ出来るかどうか分からないが、そう心の中で誓いながら先に家に帰った。
「ただいま!」
「お帰りなさい。真司さん」リアがメイド服で出迎えてくれた。
「昼間はなにもなかったかい?」
「はい、部屋のお掃除と、洗濯をしていました」
よくみると、廊下や壁がいつもより輝いて見える。よく掃除がいき渡っているのがよくわかる。リアはずっと掃除をしていたのだろうか?まったくもって生真面目なロボットだ。
「まったく、よく働くなあ・・・」リアの働きぶりには感心する。
家に帰ってから、俺は彩夏が来るまでゲームをして時間を潰した。
「ピンポーン!」来た!彩夏が来たようだ。俺は玄関のドアを開ける。
「お待たせ!」
「おう、今日はすまんな、無理言って・・・」
「いいって!いいって!」そう言って彩夏は玄関に入ってくる。
「あ、こんにちは!あなたがリアちゃん?」
「はい、彩夏様・・・」
「あれ?私のこと教えたの?」俺の方を向いて聞いてきたが、俺は首を振った。
「真司様の幼馴染であられる彩夏様のことは事前の情報で存じ上げています・・・」
「ふーん、そうなんだ!ところで、私のお古だけど何着か服もってきたわ。少し上がらせてもらうわよ!」そう言うと、いつものように強引に彩夏が家に上がりこんできた。
「リアちゃん、行こ!」彩夏がリアの手を引っ張って奥の部屋に連れて行く。
「真君はリビングで待っていて!今から着替えるから。あ!それから覗いちゃ駄目だぞ!」
「覗かねーよ!」まったく、昼間での態度とは大違いだ。それから、彩夏とリアが入った部屋の奥のほうから楽しそうな声が聞こえてくる。どうやら色んな服を着ているようだ。
「遅いなー!もう夕方だってのに!」しばらくして、リアが着替えてきた。私服のリアも見違えるようだ。メイド服も似合っていたが、私服も似合う。そこらのアイドルや芸能人よりも段違いに可愛かった。
「どう?真君?かわいいでしょ?リアちゃん可愛いから、何でも似合うから羨ましいわ♪」
「いえ、彩夏様の服のセンスがいいからです」俺はしばらく呆然と見つめていた。いや、見とれている場合じゃない。時間は差し迫っている。
「おい、いいのか!?もう夕方だぞ!早くしないと、お店閉まってしまうぞ!」
「大丈夫!私の知っているお店行くから。それよりもリアちゃんどう?」それでも、なおも彩夏は聞いてくる。
「どうって言われても・・・」リアもこちらをじっと見つめてくる。もう一度、リアをじっくりと見てみると、メイド服の時より可憐な感じだ。
「まあ・・・一応・・・可愛いかな・・・」気恥ずかしさで、ぼっそっと言ってしまう。
「あ、真君。照れてる―。うふふふ・・・」
「うるさいな!早く行くぞ!」
それからリアと彩夏と3人でバスに乗って買い物に出かけた。夕方6時頃に、駅前にやってきた。若者向けのファッション総合ビルに入った。彩夏に言われるがままに、店に入っていく。そして服を一着二着と選んでは次の店に入っていく。
「彩夏様、私、そんなには必要ないです。これ以上は真司さんにご負担がかかります」
「いいの、いいの!払わせてれば!真君お金持っているんだし!」
「あいつ!人のお金と思って好き勝手いいやがって・・・」そう言って、どんどん買っていく。リアより、むしろ彩夏のほうが楽しんでいるくらいだ。女の買い物に、男は荷物持ちにしかならず退屈だ。
「真君、ちょっと財布貸して!」
「何だよ!まだ買うのか?」
「何よ!だったら次の店もついてくるの?下着屋さんだけどなあ・・・私はいいけど!?」
「うう・・・」さすがにそこに足を踏み入れる勇気はない。彩夏に財布を渡す。
「じゃあ、真君はそこで待っていて!」リアと彩夏はお店に入っていった。この店も長くなりそうだ。
二人が店に入って10分くらい経った頃、店の近くのベンチに腰を掛けて待っていた。
「ああ・・・暇だな・・・」俺は二人の買い物にうんざりしていた。すると、少し離れた、トイレに通じる通路で言い争っている声が聞こえる。
「ちがう!俺じゃない!」そんな声が聞こえた。しかし周りの人間は無関心だ。周りの人間は買い物などの喧騒で、言い争っている二人に気付いていない。俺は何を言い争っているんだろう?と気になってそっと近づいてみた。すると、叫んでいた男が、急に声色が変わった。
「やめてくれ!助けてくれ―!」「バタン!」叫び声のあと人の倒れる音がした。
なにやら、やばそうな雰囲気だ。俺は恐る恐る、その通路の手前まで行くと、男が倒れているのを発見した。廊下は血で真っ赤に染まっている。そして、倒れている男から血がどんどん溢れ出す。そんな光景を見て、驚いて声も出せなかった。血の臭いがして、ますます恐怖で頭が真っ白になった。目線を先に向けてみると、倒れている男の先に全身黒っぽい服を着た男が立っている。髪の毛はオールバックで黒いサングラスをしていて、サバイバルナイフを手に持っている。そのナイフには赤い血が付いている。俺は心の中で何か言おうとしたが、声も出せない。本当は、「人殺しだ!」とか「何をしている!」「なにものだ!」とか、言うことはいろいろあったが、あまりの光景に、何も声を出すことが出来なかった。すると、目の前の男がナイフを持ってこっちに走ってくる。やばい、逃げないと。そう思った時には、ナイフはもう目の前まで来ていた。だめだ、刺される。そう思った瞬間。
「ガキーン!」鈍い金属音がした。目の前のナイフが吹き飛んでいる。黒いワイヤーが俺の目の前を貫いている。そのワイヤーの先を見てみるとリアの手から出ているものだった。
「リア?」
「真司さん!」
「真君!」
リアと彩夏が少しはなれたところで叫んでいる。その時には、オールバックの男は弾かれたナイフを拾っていた。そして、もう一度俺にそのナイフを付きつけようとした瞬間、リアのワイヤーがしなった。そのオールバックの男はワイヤーに邪魔をされて、後ろに一歩引いた。その間に、リアは人間とは思えないスピードでやってきて俺の前に立ち塞がった。それを見たオールバックの男は、そのまま走り去っていった。
「大丈夫ですか?真司さん・・・」
「ああ・・・」そう答えるのが一杯一杯だった。しばらく呆然とした。気持ちでは何分もそこで呆然と、していたつもりだったが、おそらく一瞬だっただろう。ハッと、気付くと刺された男が血を流して倒れている。
「リア、救急車だ、それに警察も!」
「はい、もう手配しています!」そう言って、リアは倒れている男の止血をした。もうすでに動き出していていた。しかし、その男の反応はない。ぐったりしている。リアはその男の胸の辺りをなにやらさすっている。そうすると「ビリ!!」といって男がピクンと動いている。どうやら電気心臓マッサージをしているようだ。しかし、リアの蘇生術の甲斐もなく男は無反応だった。そうしている間に、救急車と警察が駆けつけて来た。倒れている男を託してから警察の事情聴取が始まった。警察の話によると、オールバックの男は以前にも殺人を犯していて、今追っている犯人のようだった。しかし、それ以上詳しい話を聞くことが出来なかった。俺達はある程度の話を聞いた後、すぐに解放された。そして、警察の事情聴取が終わった頃には、もうすでに外は暗くなっていた。
「彩夏、大丈夫か?」
「真君こそ怪我はない?」
「ああ大丈夫だ。リアが助けてくれたから・・・」本当にリアには驚かされてばかりだ。最初から、かなりの高性能ロボットだと思っていたが、ここまでとは・・・。リアは家に来てからずっと活躍しっぱなしだ。本当に、リアがいなかったら殺されていたところだった。今回ばかりはリアを用意してくれた京太郎おじさんと、母さんに感謝した。
「リア、ありがとう。君がいなかったら俺は殺されていたよ。君は俺の命の恩人だな・・・」
「いえ、私も真司さんのお役に立てて嬉しいです」
そのあと、駅前のショッピングモールから、俺とリアと彩夏は家に無事に帰ってきた。夜遅くなり、心配だったので、リアと二人で彩夏を家まで送った。彩夏のおばさんは、こんなに遅くまで娘を連れ回したにも関わらず、俺と一緒だということで、まったく怒こっていなかった。むしろ俺の家に泊まっていけという始末である。昔からおばさんは、何かと俺と彩夏とくっつけようとしているのだ。しかし、今日は大きな事件があったせいで、おばさんのいつもの冷やかしにも、あまり反応できずに家に帰った。
「リア、今日は食欲がないから晩御飯はいらないよ・・・」凄惨な殺人現場を見て、食欲がわかなかったからである。
「そうですか・・・大丈夫ですか?」リアは心配そうにしている。
「ああ、今日はもうお風呂に入って寝るだけにするよ」直接遺体には触ってないが、体に血のにおいが染み込んだのを早く洗い流したかった。といっても、実際本当に血の匂いがする訳ではなかったが、気分の問題だ!
「わかりました。それではすぐにお風呂を入れますので」
リアはお風呂を入れに行った。今日は本当に色々あった日だ。幸か不幸か、俺は今まで肉親の死に目に会っていない。祖父は早くに亡くしているが、もの心がつく前だ。生まれて初めて死体というものを初めて見た。早く寝て忘れるようにしよう。そう思ってその日は眠りについた。
アルバイト先の奇妙な人々・・・
四月十二日金曜日朝
昨日の光景が頭に残る。朝日が差し込んでまぶしい。昨日の事件のせいで寝不足ぎみだ。昨日、落ち着いて眠れなかったせいか、すぐに目が覚めた。
「早く忘れよう・・・」体を起こして、リビングに向かう。今日もリアがご飯を作ってくれている。
「おはよう・・・リア・・・」
「あ、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「いや、あまりよく眠れなかったよ・・・」
「大丈夫ですか?」
「ああ・・・大丈夫だ。心配ないよ」ショックを受けたとはいえ、日々の生活の営みはこなさないといけない。リアは俺に対して本当に気を使ってくれているようだ。それにしても、よく気の利くロボットだ。朝食を食べ終わると、昨日のようにリアが弁当を渡してくれた。それを受け取ってから出かける。
またいつものように自転車で登校して、自転車置き場に自転車を止めてから教室に向かう。
「門脇真司!」そう呼ばれて、呼び止められたので後ろを振り向く。
「お前、会長を見なかったか・・・?」
春日博臣だった。剣道部主将で風紀委員委員長をしている。こいつとは去年、彩夏が生徒会長になりたての時に、生徒会の仕事を散々手伝わされた時に知り合った。
「いや、朝練じゃねーのか?」
「そうか、会長のことだから大体お前の所にいると思ったのだがな・・・」
「だ、馬鹿!別に俺が幼馴染だからといって、いつも一緒にいるわけじゃねーよ!」
「ふ、何を照れている。生徒会メンバーではお前たちはすでに公認の仲だぞ!」
昨年、彩夏の生徒会の仕事を手伝っていた時も、さんざん言われた。彩夏の生徒会の仕事が落ち着くにつれ、俺は手伝わなくなったので言われなくなったが・・・。
「だから違うってーの!」
「まあいい、それよりも剣道部の話どうだ?今ならまだ夏の大会に間に合うぞ!」
「いいよ、俺は!忙しいからな!」春日は、昔剣道をやっていた俺を、しつこく部活に誘ってくるのだ。ちょっとしたきっかけで、俺が昔剣道をしていた事を知り、それからしつこく入部しろと誘ってくるのである。
「忙しいって、どうせゲームばっかりやっているんだろ?不健康な奴め!若い時は今しかないんだぞ!今がんばらないでどうすんだ!学生なら何か一つの事に打ち込み、青春を燃やしつくすべきだ!」
ほんとこいつは暑苦しいやつである。
「俺にとっては、ゲームだって立派な打ち込めることだよ!」
「ふん、どうせ打ち込むなら、昔から汗をかく格闘技だと決まっている。お前も昔やっていたなら解かるだろ!」
「うるさいな!剣道はもう辞めたんだよ!ほっといてくれよ!それよりもいいのか?彩夏探さなくても?」
「おお、そうだった。昨日の殺人事件の件について今日、会議があるんだった・・・」
「昨日の殺人事件・・・?」
「そうだ、昨日駅前のファッションセンタービルで殺人事件が起きたらしくてな、まったく物騒な話だ!」
「会議って、何かあるのか?」
「ああ、昨日の殺人事件は、どうやらドラッグが関与しているらしい。そして、我が校内にもドラッグ使用者がいるという噂まで出ているからな、緊急会議だ!」
「ドラッグか・・・」こんな閑静な住宅街にある高校にそんな事件があるのだろうか?
「実に、けしからん話だ!もし見つけたらこの俺が根性を叩き直してやる!」
春日は彩夏を探しに水泳部の部室のほうへ行った。昨日の事件の事か・・・何かいやな予感がする。俺は春日の後ろ姿を見て一抹の不安を感じていた。
昼休み。今日も孝治と食堂で待ち合わせて食べていると、彩夏が声をかけてきた。
「真君!今日のお弁当リアちゃんが作ったの?」今日も出かける時に渡してくれた。
「リアちゃん?」孝治が不思議そうにしている。
「お前にはまだ言ってなかったな。実はな、俺の家に新しくきたロボットの事だよ!」
「え、お前の家ロボットいたのか!?」
「実は・・・2日前に来たんだ!」
「お前、この前、家の方針でロボットは買わないとか言ってたじゃないか!?」
「いや、俺だっていらないつもりだったんだが・・・まさか、母さんが用意してくれているって知らなかったんだよ!」俺だってそのつもりだった。
「そういうことは早く言えよな!」
「いやあ、すまん。ここ最近ちょっとバタバタしていて、言う機会がなかったんだよ」
「可愛い女の子タイプのロボットだよね」横から彩夏が付け加える。
「うひょー!いいじゃん、いいじゃん。やっぱロボットは美少女に限るよな!」
「高橋くんったら、ちょっとやらしいよ・・・」
「ええ、そんなあ。違いますよ、これは男の性といいますか、仕方がないといいますか・・・」彩夏に突っ込まれて、孝治は言い訳をしている。こういう時は彩夏がいてくれると助かる。孝治の暴走を止めてくれるからだ。
「そういえばお前の家は、男性タイプだよな?」孝治が困っているのを見かねて話を変えてやる。
「ん、まあな、執事ロボットだからな。ちなみに、今日の俺の弁当はそのロボット作だ!」
「いいなあ。私の家もロボット買ってもらおうかしら?」
「お前は男性タイプのロボットがいいのか?」
「そうねえ、リアちゃんみたいな可愛い女の子タイプも捨てがたいけど・・・」
「右に同じく・・・」孝治が手をあげて、相槌をいれる。
「どちらかといえば、真君よりもかっこいい男の子がいいかな?」
「ふん、言ってろよ!どうせ俺はかっこよくねーよ!」
「嘘よ、冗談、冗談!」彩夏は笑いながらすぐに取り繕っている。くそー!馬鹿にしやがって、でも彩夏とのこんなやり取りは、いつものことなので気にしないでおく。幼馴染の定めというやつだ。俺が今、興味あるのは昨日の事件の事。彩夏は生徒会長だ!詳しい事を聞くならチャンスだ。
「ところで彩夏、今日生徒会会議あるんだろ?」
「う、うん・・・」
「昨日の事件に関係することだよな?」
「うん、そうみたい。まだ詳しいことは分からないのだけど、なんで知っているの?」
「春日の奴に聞いたんだ!」
「そうなの。でも春日君ったら自警団作って、学校周辺をパトロールするみたいなのよ・・・」
「え、パトロールって・・・それって危険じゃないのか?」いくら春日が剣道の実力があるからと言って、さすがに本物の殺人者相手では危険すぎる。
「そう言ったんだけど、警察との連絡はちゃんとするからって言って、聞かないのよ!」
「うーん、あいつの剣の腕はかなりのものだけど、さすがにやばくないか・・・?」
「うん、春日君学校の平和は風紀委員の仕事だっていって聞かないのよ・・・」
「あいつ、張り切りやがって!わかったよ、俺からも気をつけるように言っておくよ」あいつは調子乗りだ、おそらく周りの後輩のいう事も聞かないだろう。あいつに意見が出来る同級生で思い当たるのは俺くらいだ、俺がしっかり止めてやらないと・・・。
「お願いね・・・」彩夏はいつもの女友達ところに行った。
「おい、昨日の事件ってなんだよ?」孝治が今の会話の話の内容を聞いてきた。
「ああ、昨日駅前ビルで、殺人事件があったんだよ」
「まじでか!?それで犯人つかまったのか?」
「いや、まだ捕まってない。偶然、昨日、俺と彩夏で居合わせたけど、かなり危険な奴だったよ・・・」
「ちょっと待った―!それはどういう事だ?二人で駅前にって、もしかして・・・、デ、デートか!?」孝治は殺人事件の事よりも、俺と彩夏が一緒にいたことに興味を持ってきた。ここで、こいつに突込まれると面倒くさい。何とか言い訳をしなければ。
「ち、ちがーう!リアの・・・つまり、ロボットの服を選んでもらっていたんだよ!だからロボットもついて来ていて、俺はその付き添いだよ!」
「ふーん、なーんだ。でもそれが口実だとしても、うらやまけしからん!それにしても・・・ロボットに服を買い与えるなんて、お前かなりの通ですな。余程のロボットマニアになったとみた・・・」
「馬鹿!違うよ。メイド服しかなかったんだよ!」
「お、お前・・・メイド服って・・・!」孝治は驚いて聞いてきた。
「違う!俺の趣味じゃねえ!来た時からだ!」
「まあまあ、そう否定するなよ。俺の家だって、買った時は執事服だったし!気にするなって!」孝治はさっきまでの驚きの表情はなくなっている。どうやら俺をからかったみたいだ。
「な、なんだよ・・・全く・・・。ところで、ロボットってあんなに優秀なものか?」
「まあ、最近次々と新作が出ているからな。性能は一年前、半年前と、どんどんUPしているし、料理、洗濯、掃除は当たり前で、電話と、ネットの接続などの機能程度は、標準装備しているんじゃねえの?」
「電話に・・・ネット?」
「そう、動く携帯電話とネット環境さ。あらかじめ電話番号教えておけば、電話してくれるし、連絡も取れる。ネットも、繋げておけば様々な情報を調べてくれる。ただし、ネットは危険だから必要な時以外は繋げないようにしているけどな。あまり繋げすぎると、ウイルスにかかって壊れちまうし、ハッキングを受ける可能性がある。余程の高性能なプログラムじゃないと常時つなげられないね」
「ふーん、じゃあやっぱり料理を作ってくれる事くらいは当たり前なんだな」
「まあな、あとは機種にもよるんじゃねえの?俺の家は、最新式の標準タイプで、人工知能がほぼ人間並み、運動性能もほぼ人間並みだな。あとは農作業用とか、事務用、接客用、介護用とか色々あるぞ。都市部の方に行けば、オーダーメイドロボットやカスタムロボットだとか、もっと街中にロボットが歩いているぞ!」
孝治による初心者にもわかるロボット講座を聞いた。どうやらロボットは俺が思っているより、かなりの進化をしているみたいだな。ロボットにあまり興味がなく、ロボットオーナーになりたての俺には知らない事ばかりだ。リアが優秀なロボットだと思っていたが、もしかしたら世間的に見れば、意外と普通なのかも知れない。もっと色んなロボットを調べてみる必要があるなと俺は思った。
放課後、授業も終わり、帰る時間になった。今日はバイトのある日だ。出勤時間は夕方5時からだ。今は、お昼の3時半。家に帰って着替えて、家を出ればちょうどいい時間だ。下校時は、特に友達に会う事もなく、比較的早くに家に着いた。
「ただいまリア」
「お帰りなさい。真司さん」
「今日は何をしていたんだ?」よく考えてみれば学校に行っている間にリアが何をしていたのか気になったので聞いてみた。
「はい、掃除と洗濯とスーパーへの買い物に行っていました。あとはネットサーフィンなどを少々・・・」
「へえ、やっぱりネットってやるんだ?」昼間、孝治に聞いたとおりだ。
「はい、体が完成するまでの人工知能プログラムの時は、よくやっていましたので・・・」
「そういえば、ウイルスとかハッキングの防衛とかは大丈夫なのか?」
「はい、私は大丈夫です。マスターにハッキングのやり方から、ウイルスの作り方まで教えていただいたので、常に新しいウイルスソフトを自分で作成しています」
「ハッキングのやり方って・・・京太郎おじさん!なんて事をロボットに教えているんだ・・・?」
でも、今日、孝治から聞いた話以上の事は出来るみたいだ。
「そうだ、リア!電話機能もあるんだろ?」
電話機能があるなら、家族なんだしメルアドと電話番号を聞いておきたい。というか、何で今まで気が付かなかったんだ?それに自分で言って、今気付いたが、そういえば昨日、特に不思議に思っていなかったが、俺が気付かないうちに警察と救急車を呼んだのはリアだった。
「そうだったな、そういえば・・・昨日警察と救急車を呼んだのはリアだったな・・・」
「はい・・・」
「で、携帯でリアに連絡するのってどうすればいいんだ?」
「電話でしたら、普通にかけていただければ大丈夫です。ただし、カメラは自分を映せないので音声のみになります。メールも普通に送ってくだされば結構です。番号とアドレスは090…です」
リアからメルアドを聞いた。
「あと、GPS機能を使っていただければ、私が何処にいるかわかります。ボタンひとつで私を緊急に呼ぶこともできます・・・」
「わかったよ。もし何かあれば連絡するようにするよ」
「はい、お待ちしています」
それから俺は、着替えてバイトに行く準備をした。
「じゃあ、今からバイト行って来るから」
「いってらっしゃいませ」
バイト先は家から徒歩7分ほどのところの国道沿いにある。一応、数店舗あるチェーン店だが、地元密着型で全国的な知名度はまだ低い。そして、お客もあまり入らない。いつも何故?潰れないのか不思議なお店だ。だが・・・不思議なレベルでいったら、ここの従業員もかなり変わっている。はっきり言って、ここの従業員はかなりの変わり者ばかりだ。そのおかげで楽しいのか?もう1年以上ここでバイトをしている。
「おはようございます!」ドアをあけて挨拶をする。
「おはよう」従業員入り口に入ると、すぐに休憩室がある。そこに休憩していたのは斉藤さん。斉藤信吾さんだ、この店のキッチン担当のチーフで、フリーターで4年間この店で頑張っている。この店で一番良心的で、仏の斉藤さんだ。この店ではめずらしく普通の人だ。
「よう!」後ろから声をかけてきた目つきの悪くて、髪の毛が金髪で、タバコを吸っているこの人は足立さんという。足立文博さん。フリーターで、2年間くらいここで働いている。この人も、キッチンを担当している。見た目は暴走族みたいでヤンキーだ。まさしくDQNみたいな恰好だけど、実は無言で賄食をそっと作ってくれたり、困っていると、そっと助けてくれるのである。俺は心の中で、ツンデレさんと呼んでいる。
「真司!」
「はい!」
「旅行のお土産のお菓子があるから、あとで食えよ!」足立さんに睨まれて言われた。
「はい、ありがとうございます」
なれた今でも、あの凄みでいわれるとドキっとする。
「あ、来た!来た!門脇!早く入ってくれ!忙しくなりそうだ!」
ホールの方から顔を出して、声をかけてきた人は西沢さん、西沢理恵さん。ホール担当のチーフだ。大学2年生だが、背が小さくて、一見小学生高学年のように見える。この店で、高校2年生から4年ほど働いている。何故か?しゃべり方が男っぽくて、がさつな感じだ。しかし、接客となると一変して、声が変わり、豹変するのである。いわゆる母親がいままで怒っていたのに電話に出たとたんに、コロっと変わるあれみたいな感じである。
「すぐに行きまーす!」俺は返事をして、すぐに制服に着替えてホールにむかう。どうやら、忙しくなり始めたようだ。
「ガシャーン!!」ホールに出て、すぐに奥の席で物を落とした音がした。こういう音がする時は大体決まっているのである。
「すみませ~ん!」
「こら、詩織!何度落とせば気が済むんだ!」
いつもの光景である。源詩織。高校2年生でひとつ年下である。見ての通りかなりのドジっこで毎回なにかにつけて失敗している。
「あ、おはよう門脇君~」それにしても、とてもトロそうな喋り方である。
「しゃべってないでさっさと片付けろ!」向こうの方から西沢さんが怒鳴った。
「は~い。すみませ~ん!」
どうにかピーク時間は終わった。詩織の失敗が何度かあったが、いつものことなので無難に対応してどうにか切り抜けた。というかあまり儲かってない店なので、ピークなんてすぐに終わってしまうのである。
「詩織、門脇!もうあがってもいいぞ!}
「はーい」休憩室に行く。すると賄食を置いてくれている。おそらく足立さんだ。本当によく気がきく人である。見た目は怖いが・・・。
「ごくろうさま」斉藤さんが声をかけてくる。
「さいと~お~さん!」詩織はいつも斉藤さんに泣きつくのである。
「大丈夫、大丈夫。働き始めたころに比べたらずいぶん失敗が減ってきたよ」
「おい斉藤!お前ちょっと甘やかしすぎじゃないか?」
「ん?でも怒ったからといって成長するものでもないだろ?」
「まあ・・・別に俺は、あんまり被害を被るわけじゃないからいいけどな!」
ホールからチーフが入ってきた。どうやらお客さんは全員帰ったようだ。来店したらチャイムが鳴るので、暇な時はこうやって休憩室で、みんなで休憩を取っているのだ。
「はあ、終わった!終わった!」チーフも椅子にすわる。
「門脇!今日はもう遅いから詩織を送っていってやってくれ!」
あれだけ怒鳴っていたにもかかわらず、詩織を心配するなんてやっぱりこの人もツンデレである。
「なんだかんだ言ってもやさしいですね、西沢さんって!」
「ば、馬鹿、ちげーよ!昨日駅前で殺人事件があったらしいからな・・・」急に褒めたから西沢さんは照れている。
「知っているんですか?」
「ああ、朝のニュースでかなり取り上げられていたからな。まったく物騒な世の中だぜ!」相変わらず男らしい喋り方だ。
「あ、くれぐれも足立みたいな事にならないように気をつけろよ―!」西沢さんがニヤケて言う。
「ってめー。ふざけんなよ!俺があの時どれだけ大変だったのか、分かって言ってんのか?」足立さんは思い出したかのように急に怒り出した。
「別に、俺はかわいい後輩を心配しただけだぜ!」西沢さんは足立さんの怒りにも気にせずに追い打ちをかけるように言葉を浴びせる。
「うるせー!お前は人の心配より自分の心配をしてろ!このちびっ子が!」
「なんだとてめー、この凶悪犯罪者顔が!案外昨日の殺人事件、お前がやったんじゃないのか?」
「そんなわけねーだろ。お前こそ勝手に補導されていろ!」
この二人はいつも言い争っている。俺の見るところ仲が悪いわけではない。いつものレクリエーションだ。二人はいつも言い争っているが、悪意は感じないからだ。
「まあまあ、二人とも喧嘩はだめです。争いは何も生み出しません。西沢さん、そんなに頭に血が上っていては落ち着いて接客できませんよ、そして足立君も、女性のコンプレックスを言うもんじゃありません!」
言葉は丁寧なのに、すごい威圧感だ。二人が押し黙る。さすが仏の斉藤さんである。斉藤さんの無言のプレッシャーに、二人ともたじたじだ。こういう時は決まって、斉藤さんが止めに入ってくれる。ここのバイトは斉藤さんがいてバランスが取れているのだ。
「さあさあ、今日はもう遅いから二人とも早くお帰り」斉藤さんは俺と詩織に向かっていった。それと同時に、俺は賄食を食べ終えた。
「じゃあ詩織。帰えろうか?」俺は詩織に声を掛けた。
「すみません、門脇君・・・」
今日は詩織を送って帰ることになった。詩織の家は、俺の家からも近い。なので、小学校と中学校は一緒の学校に通っていた。だけど、学年が違うので俺は詩織とあまりしゃべらなかったし、どちらかというと、彩夏との方と仲が良かった。詩織とは高校も違うので、最近はこのファミレスでしか会わない。
「ごめんね、門脇君~」
「ま、焦らずがんばれよ!」帰りながらなんとなく励ます。
「なんで、私こんなにトロ子なんだろ・・・」詩織は落ち込んでいる。
「でも、入った頃に比べたら大分失敗が減ったじゃん!」
「そうかなー。私も、彩夏お姉ちゃんみたいにしっかりできたらいいのに・・・」
「ええ!勘弁してくれよ。彩夏がもう一人いたら俺、気苦労死しちゃうよ!」
「あははははは・・・門脇君、そんなこといったら彩夏お姉さんにいいつけますよ~」
「勘弁してくれ!」
そうして、他愛もない会話をしながら詩織の家の近くまで送っていってから家に帰った。
四月十三日土曜日
今日は学校が休みの日だ。バイトは昼過ぎからだ。リアが起こしに来たが、もうすこし寝ると言って、いつもより朝寝坊した。
「おはようリア・・・」
「おはようございます。お目覚めになりましたか?」
「うーん・・・ようやく目が覚めたよ」
「朝食をお食べになりますか?」
「ありがとう、いただくよ・・・」
リアは朝食を作り始める。その横で、リビングでソファにすわり、テレビのスイッチをつける。先日の殺人事件のニュースをやっていだ。
「先日、H市で起きたファッションセンタービル殺人事件ですが、依然犯人は逃亡をつづけており、警察はドラッグ密売組織との関与を疑って捜査を続けているもようです」
どうやら警察はまだ追っているようだ。早く捕まればいいのだが・・・それに、俺は犯人の顔を見ている。もしかしたら、口止めの為、俺は狙われるかもしれない。そのことがいつも俺の頭を離れない。もしかしたら、こうやっている間にも、俺の事を探しているかもしれない?だが、通りすがりの人間を見つけるのは困難なはず、その辺が、俺にとって唯一の安心感だ。あの時に、男から感じた殺気は半端ではなかった。次は、近くにリアがいるとは限らない。俺は少し身の危険を感じた。
「そうだ、護身用にあれを出そう」
朝食をたべた後、物置にむかった。物置をしばらく探すと、ずっと使っていなかった木刀が出てきた。小学生の時以来、ずっと握っていなかった木刀だ。小学生の時は、よく素振りをしていた馴染みの木刀だ。父親が、世界的有名な剣術家の家で育った俺は、幼いころより剣の英才教育を受け、神童とまでよばれたこともあったが、剣で一度、彩夏を傷つけて以来、剣や木刀、竹刀を握っていない。
「七年ぶりか・・・」木刀を一振り、二振りしてみる。過去の確執以来ずっと振っていなかった。しかし、背に腹は抱えられない。
「うん、いけそうだな・・・」
「それは何ですか?」リアが聞いてきた。
「ああ、木刀だよ。昔、剣道をやっていて、この前の事件みたいなことがあった時の為に、護身用に持っておこうかなと思って・・・」本当は、殺人者相手に護身用に真剣を持ちたいが、さすがにそれは銃刀法違反にひっかかるので諦めた。しかし、木刀も裸のままでは、さすがに目立つので、専用の袋にいれて待ち歩くことにした。
昼前になり、バイトの時間が近づく。
「じゃあ、リア、バイトにいってくるから・・・」そう声をかけてでかける。
「いってらっしゃませ」
家を出てすぐにバイト先に到着した。
「おはようございます」
「よう、おはよう」足立さんがいつものように暇そうにしている。
「やあ、おっはー真司君!」
厨房から声をかけてきた人は神代千尋。大学二年生でキッチン担当である。この人はアニメが大好きで暇なときは、1日中アニメを見ているというアニメオタクだ。会話の中に、アニメ用語などを混ぜて話してくるので、時々何を話しているか解らなくなる。
「おい神代、ふざけた事言ってないで仕事は大丈夫なのか?」
「うん大丈夫だよ、アムロがドムを撃破するくらい楽勝だよ。暇だしね!」
「そのたとえ余計わからんわ!」
いつもこんな感じである。それから着替えてホールに出る。今日も暇そうだ。
「おはよう」
「あ、おはようございます」先にホールで働いていたのは麻生良治。車が好きで多額の借金をしている。夜は、ホストのバイトを掛け持ちしている。今日は麻生さんと一緒に働く日だった。
「元気ないですね」
「うん、昨日遅かったから・・・」
「前から思っていたんですが、ホストのほうが儲かるんじゃないのですか?」
「僕、下っ端であんまり稼げないから・・・それにここは賄食があるからね・・・」
すこし疲れているようだ。大丈夫だろうか?今日は週末のせいか、結構忙しかったが、チーフが途中で来たので特に問題なくこなせた。麻生さんも流石ホストという感じで、いい感じに接客している。ピークタイムも終わり、ようやく暇になった頃。
「門脇、もう上がっていいぞ!麻生くんも休憩入っていいぞ!」二人で休憩室に行く。
「いやあ、今日は途中から忙しかったよね。思わずくじけそうになった時に、まだだ!たかがメインカメラをやられただけだ。って、言っちゃったよ。あははは・・・」神代さんがまた訳のわからないことを言っている。
「おーい。訳のわからないこと言ってないでオーダー入ったぞ!」 足立さんが呼んでいる。
「イエス!ユアハイネス!」神代さんが厨房に戻っていった。何をしたかったのだろうか?
神代さんがいなくなって、よく見ると横に座っている麻生さんがしんどそうだ。
「体調悪そうですね」
「うん、実はホストの仕事の方で、同僚がこの前の木曜日に、駅前のショッピングセンターで殺されたんだ。それから、シフトに穴が開いたのを埋めるため忙しくなっちゃってさ・・・」
「ええ!?この前の事件って麻生さんの知り合いだったのですか?」
「いや、知り合いっていうほど親しくはなかったけどね・・・」
「俺、あの場所にいたんですよ」
「そうなの?・・・で、彼、最後どうでした?」
「いえ、僕が見た時はもうすでに亡くなっていましたので・・・」
「・・・彼はあまりよくない人達と付き合っていたみたいだから、たぶん殺されたんだと思うよ」
「良くない人って・・・?」
「うん、ヤクザとかドラッグの密売人とかそういう関係の人かな・・・」
「ちょっと怖いですね・・・」
「うん、あまり関わらない方がいいと思う・・・」
「そうですね」
「もし、何かあったら連絡しておいで。僕に何か力になれることがあれば協力するから・・・・」
「ありがとうございます」麻生さんに携帯の電話番号を聞いた。この事件には、何か裏がありそうだ・・・。麻生さんの話も気になったが、今のところ俺には目撃者という接点しかない。余程の事がない限りは巻き込まれないはずだ。そう思ったが、何故だが不安は拭い去れなかった。
俺はすぐに家に帰った。不安はあったが、どうも疲れているせいか、眠たい。早く帰って眠りたかった。
「ただいま!!」疲れて家に入るとリアと彩夏が出てきた。
「あ、おかえり!」
「おかえりなさい」
「あれ?なんでお前がいるんだよ?」彩夏が家にいるのは珍しくないが、今日は来る予定はない。また、おばさんの料理でも持ってきてくれたのか?
「あ、私、今日からここに住むから!」俺の聞き間違いか?確かに今、言ったよな・・・。
「一体どういう事なんだよ!?」衝撃的な事を、いきなり言われてびっくりした。
「どういうことも何も、そういうことよ!」彩夏はいつもの強気な発言だ。
「ま、まてまて、まったく意味が解らないんだが・・・」何でこういう結果になったんだ?
「大丈夫よ、親の許可も取ってあるし、真君のお母さんの許可も、すでに取ってあるわ!」
「え、母さんの・・・?」何を言っているんだ、こいつは?
「そうよ、元々真君のお母さんが来た時に、そういう話をしていたんだけど、真君が一人暮らしを堪能したいって、初日の日に言うから、しばらく様子見ようと思っていたの。でも、リアちゃんが来たから、もういいかなって思ったのよ!」一体どういう事だ?それに母さんの許可もとっている?母さんが絡んでいるという事は・・・。
「ん!?・・・そうか!だから母さんは彩夏に鍵を渡していたのか!?」
「そういうこと。でも、私もリアちゃんが来るって話、聞いてなかったわ!」それにしても、何を考えているんだ?年頃の男女を一緒に住まわせるなんて・・・もし、リアがいなかったら、俺と彩夏は二人きりで住んでいたことになるのか?そして、それを親が公認していた事になるのか?何を考えているんだ!
「はあ、もう疲れたよ。俺はもう寝る・・・」バイトの疲れもあったが、俺の親や彩夏の親達に呆れてしまった。こうなると、反論してもどうせ押し切られるのはわかっている。結局、俺はいつも母親に、こいつに頭が上がらないのだ・・・。
「寝ても良いけど、夜ご飯はちゃんと食べなさいよね!」
部屋に戻ってベッドに倒れ込む。次から次へと問題がおきて、俺の平穏な日々はどこへ行ったんだろうか。ほんの数日前まで、一人暮らしの生活を楽しむはずだったのに・・・
「ここ最近、なんだか色々ありすぎてゲームすら落ち着いてやっていない気がするな・・・」母さんも母さんだよ、俺に何の相談もなく色んなこと決めて、ベッドに寝転がり途方にくれている。
「トントン・・・」ドアをノックする音がする。
「あの・・・真司さん?晩御飯できました・・・それと、あの、元気ないみたいですけど大丈夫ですか?」リアは不安げに聞いてくる。
「ああ、大丈夫だよ。最近色々なことが起きて戸惑っているだけだよ・・・」
「あの、真司さん。やっぱり私が来て・・・その迷惑だったでしたでしょうか?」
「どうしたんだよ!いきなり?」
「あの、彩夏様が、さっき真司さんの元気がない理由を、私や彩夏様が家にいきなり押しかけてきたから怒っている、みたいな事を言っていましたから・・・」
あいつ・・・やっぱりかなわないな・・・、結局全部わかっているじゃないか。まあ、あいつも俺との付き合いが長いからな・・・。
「まあ、確かにびっくりしたけど、みんな俺の事を心配しての事だし、いつもの事だからそこまで気にしなくて良いよ・・・」そう、だから俺は結局いつも仕方がないと思って納得してしまう。
「それに、俺はリアに命を救われているしな、これからも頼むよ!」
「はい!」リアは、先に下に下りていく。彩夏の件も、俺は付き合いが長いのでわかっている。いつも俺の事を心配してくれて行動してくれているからだ。だが、たまに行き過ぎた困ったことをするのも、また事実。母さんも、彩夏のおばさんも、年頃の男女を一緒に住まわせることを容認するなんて・・・一体何を考えているんだ?そもそもの問題は大人達にあるような気がする。
「間違いが起こっても知らないぞ・・・まあ・・・そんな勇気もないか・・・」
結局、その日から俺と彩夏とリアとの奇妙な共同生活が始まった。
注目される日々!!
四月十四日日曜日
昨日から彩夏が住み始めることになった。さっそく、昨日の晩御飯は彩夏とリアが二人で作っていた。ちなみに今日は、彩夏が朝ごはんを作っている。どうやらリアと当番を決めて作ることにしたらしい。最初は、自分で料理でも作ってみようか?と思っていた台所は、女子二人に・・・いや、正確には女子とロボットだが、占領されている状態だ。たまにキッチンに近づくが、這い入る隙もない。もう半場あきらめ状態だ。俺の家なのに俺はキッチンの占有権がない。俺はもう、この件には関与しないことを決めた。
今日はバイトも学校もない。こういう日は、いつも俺は一日中ゲームをして過ごす。今日は時間もあったので、初めてリアを相手に対戦ゲームをすることにした。一応ネットゲームで対戦済みだが、直接一緒にやるのは初めてだ。ゲーマーとして、腕が鳴る・・・。
リアと勝負を始めて約2時間。5勝23敗。ほとんどかなわない。その5勝も勝たせてもらった感がある。ここまで連敗続きで自信喪失気味だ。
「このゲーム・・・結構自信のあるゲームだったんだけどな・・・」
「私もコントローラーを握ってのゲームは始めてやりましたけど、結構難しいですね」
「そういえば、ネットで対戦した時よりも強くなかったな?」
「ネットの私は、プログラムごとリンクしていますので、操作するタイムラグはありません。なので、その微妙な差が操作に表れているのかと思います」
「なんだよ、それ!それってほとんどチート能力じゃん!そりゃあ、かなわねえよ!でもまあ・・・今、ここでコントローラー握っても負けているけどな・・・」どっちにしてもかなわない。
「私も真司さんと直接ゲームが出来て楽しいです」
「俺は楽しくないよ・・・」ガックリくる。
「そういえば、リアって人工知能だけの時って、どんな感じだったんだ?」体が出来る前からネットゲームをやって意識があったという事は、どんな感じなんだろうか?
「そうですね・・・どんな感じといわれましても・・・どう表現すればいいのか分かりませんが、とにかく自由でしたね。自由にアメリカや中国などにも行けましたし、仮想空間で様々な人と、お話ししたりしました。マスターに習ったハッキングで、日本政府や大企業のセキュリティを突破して侵入したりもしていましたね・・・あ・・・!?」リアは自分で言って、今言っている内容に気づいて一瞬会話がとまった。
「で、でも、もちろん今はしていません!あ、あの時は、その・・・人間の事をもっと知りたいって思っていましたし、様々なことに興味を持っていましたから・・・当時は、その・・・犯罪だと思わなくて・・・その、楽しくて・・・つい・・・」
「へえー、リアちゃんって、目覚めた時からロボットじゃないんだね・・・」後ろのテーブルで勉強していた彩夏が会話にはいってきた。
「はい、人工知能として生まれた時は、自分が男としてなのか、女としてなのかも判断していませんでしたから・・・」
「じゃあ、もしかしたら男の子として作られていたかもしれないってこと?」
「うーん・・・どうでしょうか。私の研究所のお兄様は、女性のロボットしか作らないというのが、ポリシーみたいなところがありましたから・・・」
「おい、彩夏!リアの製作者はたぶん変態だぞ!」特にお兄様とか呼ばせている奴が!
「変態ってリアちゃんの親に向かって、それに、真君のおじさんなんでしょ?」
「いえ、その、今考えてみると確かに、お兄様は少し変わっていらっしゃるかと・・・」
「そうそう、なにしろあれだぞ!リアは初めて来た時、お風呂にだな・・・」
しまった!なにを口すべらしているんだ?俺は・・・。
「お風呂って何・・・?」彩夏が問い詰めてくる。
「いや、その・・・」
「まさか、リアちゃんにエッチなことをしたんじゃないでしょうね!?」
「いや!してない、してないって。未遂だよ。未遂!」
「未遂って、やろうとしたってことじゃないの?」
「ちがう!リアが入ってきたんだよ。お風呂に!」
「お風呂って・・・まさか・・・!」
「すみません!違うんです。あの時は、お兄様が真司さんのお背中を流しにいけば気にいってもらえるって・・・男とはそういうものだっていうから・・・その・・・」彩夏の追及にたじろんでいると、リアがちゃんと説明してくれた。
「ふーん、お背中ね・・・じゃあ、私も真君のお背中流そうかな?」
「バカ!なに言っているんだよ!」
「だって喜ぶんでしょ?」
「バカ言うな!俺はそこまで変態じゃねえよ!」
「どうだか・・・」
「ふん、もういいよ。俺はちょっと出かけてくるから・・・」
立ち上がって玄関向かおうとする。
「ちょっと、待ってよ!どうしたの?怒っちゃったの?」
「いや、違うよ。ずっと家の中にいるし、出かけるついでに、ちょっと新しいゲームでも買いに行こうかな?と思っただけだよ」
「あの、真司さん・・・」
「ん、どうしたリア?」
「あの、私もついて行ってもいいですか?」
「ん?リアもゲームがほしいのか?」
「いえ、その・・・ゲーム屋さんってどんなの所なのか知りたくて・・・」
「そういえば、リアが家に来てからあまり一緒に出かけていないな・・・じゃあ一緒に行くか?」
「じゃあ私も行く!」
「おまえ、ゲーム興味ないだろ!」
「良いじゃない。みんなで行った方が楽しいじゃない。それに朝からずっと家にいて疲れていたし!」
「いいけどさ、あんまり邪魔するなよ・・・」
気分転換に三人で出かけることになった。家から徒歩20分の所にある駅前のいつものゲームショップへ向かう。リアも彩夏も、楽しそうに喋りながら歩いている。いくつかの角を曲がり、あともう少しで着く、というところでなにやら町がざわついている場面に出くわした。
「何だろう?何かあったのかな?」
「ウウウゥー・・・・」消防車のサイレンが鳴っている。どんどん近づいてから止まった。
「すぐ近くだな。よし、見に行ってみよう・・・」俺はサイレンに向かって走り出した。
「よしなよ、野次馬なんて!」
「だって何が起きたか気になるだろ」彩夏は野次馬なんて止めろと言ったが、リアは黙って素直に俺についてくる。少し行って、角を曲がると煙が見えてきた。
「やっぱり火事だ!」そして、近づくにつれ、その火事の状況が分かってきた。10階から15階建てくらいのマンションの8階部分から出火している。そして、煙がモクモクと立ち込めている。消防車はまだ着いたばかりみたいだ。もうすでに多くの野次馬達が集まっていて、TV局らしき人も来ているみたいだ。リポーターがカメラに向かって、何かを喋っている。
「早く行こうよ!」彩夏が急かしてくる。
「よく見てみろよ、この先は消防車に封鎖されている。先に進むには引き返して、大分大回りしないといけない」
「でも・・・」彩夏は止めておこうよ!という感じだ。
「真司さん!あそこに人がいます」リアが指さした。
「何?本当か!」よく見てみると10階のバルコー部分に8才くらいの男の子がいる。
「はしご車はまだか!」消防官が怒鳴り声で叫んでいる。
「まだ15分位かかるそうです」
煙はどんどん大きくなっていき、建物全体を覆うようになっていた。
「たすけてー」子供が必死に叫んでいる。見ていられない光景だ。
「はやく助けてあげて・・・」彩夏がつぶやく。
そうしている間に、どんどん煙は大きくなっていき、男の子の所まで煙が迫っている。
「大変だ!このままでは巻き込まれるぞ!」だれかが叫ぶ。ついに煙は男の子のところまでいき、煙で男の子が見えたり見えなかったりしている。男の子は煙から逃れて、バルコニーのフェンスを登り、フェンスの柵をかろうじてつかんでいる状態だ。
「マットだーマットを持って来い!」どうやら消防隊は子供が落ちたときに備えてマットを用意しているようだ。だが、素人目でみても、隣の建物が邪魔でマットがしけない。というか入れない状態だ!
「ああー!」「おおー」「きゃー」野次馬から色々な声が聞こえる。周辺は切羽詰った状態になった。
「真司さん、私、行ってきます!」一緒に見ていたリアがそう言うと走り出した。その時、男の子の手が離れてビルから落下した。
「きゃああああー」周りの野次馬達から悲鳴が聞こえる。
その時、リアの手からワイヤーが出て、ビルにかかり、その反動でリアが男の子のところに飛んでいく。そして見事に男の子をキャッチした。
「おおおお!」周りから歓声が聞こえる。
「パチパチパチ・・・」さらに周りから拍手と歓声が聞こえてくる。
「真君リアちゃんが・・・!」
「ああ・・・」集まった観衆に感動が起きる。「よかった!」「だれだ、あの子は?」「よくやった!」周りから喜びの声が聞こえている。そして、リアはワイヤーを使って軽やかに地上に降りてくる。リアと男の子は観衆の拍手に迎えられた。そして、そこに母親らしき女性が駆け寄ってきた。
「けんちゃん!」「ママー!」周りは感動の親子の対面に包まれている。
「よかった・・・」彩夏も感動して涙をながしている。それを見届けると、リアがこっちに戻ってきた。
「すみません勝手なことして・・・」
「いや、いいよ。それより、助かってよかったな・・・」そう言ったあと、テレビ局らしきリポーターが駆け寄ってきた。
「すみません、ちょっとお聞きしたいのですけどよろしいですか!?」
「え・・・!?」リアにマイクを向ける。
「すごいですね!お手柄ですね。なぜあんなことが出来たのですか?怖くなかったのですか?」
「え、その・・・あの怖くはなかったです。それと・・・そのなぜ出来たかと言うと、多分それは、私がロボットだから・・・だと思います」
「ええええ!ロボット!」リポーターも回りも驚いている。
「それでは、あなたがこの子の持ち主ですか?」リポーターは横にいる俺に質問の矛先を替えてきた。
「え?えーと・・・」
「おいおい、あの子ロボットだってよ!」「見えないよな!」周りの視線を一身に浴びる。早くここから逃げだしたい。
「あの・・・男の子助かってよかったです。すみませんが、僕達急いでいるんで!これで失礼します」リアの手をとって急いで走り去る。
「あ、待ってよ!真君・・・」俺達は、結局走って家に帰った。
「はあ、はあ、あーびっくりした」
「すみません・・・」
「いや、リアが謝ることじゃないよ」
「もう、置いて行かないでよ」彩夏も遅れて帰ってきた。
「それにしてもすごいよ、リア!」
「ホント、ホント。私、関心しちゃたわ!」
「でも、すみません。ゲーム買いにいけなくて・・・」
「何言っているんだよ!そんなのまた今度でいいよ!」
「そうだよ!お手柄だよ、リアちゃん!」
「でもまあ、あの子助かってよかったな!」
「そうですね」結局その日はゲームを買いに行くのを断念した。その後、俺達は出かけるのを止めて家でゆっくりした。何時間か経ち、さっそく、その日の夕方のニュースに今日の事が放送されていた。
「今日、午後三時頃、H市のマンションで火事が発生、9階~12階までを延焼する大惨事が起きました。マンション10階に在住の男の子が一人逃げ遅れましたが、通りすがりのロボットと思われる人物に救助されました。これがその時の映像です・・・」
ここで、映像に画面が変わる。見出しは謎の美少女ロボット子供を救出である。さっきのインタビューも放映されている。俺の姿もばっちり放映されていた。
「なんじゃこりゃあああ・・・」
「わあ、すごいね。リアちゃん有名人だね!」
「私もこんな大事になるとは思っていませんでした・・・」
「は、ははは・・・」どうしよう?俺の顔がばっちりTVに映っているじゃないか。もちろんリアもだ。
「お、俺の平穏な生活がああああ・・・」
その日は、ニュースのことが気になりながらも、あまり事が大きくならなければいいなと思いながらも一日を終えた。
バンドマンリョウの登場!!
四月十五日月曜日
朝起きると彩夏はもうすでに学校へ行った後だった。水泳部の朝練がある為である。彩夏は中学時代を含めれば、5年間も朝早くに学校に登校している。この真面目さが、彩夏のすごいところだ。だから、彩夏は生徒会長にも選ばれるし、記録も出している。毎朝ギリギリに登校する俺とは大違いである。この真面目さに関しては、俺はいつも感心している。俺が朝起きてリビングに行くと朝食の用意をリアがしていた。
「おはようございます」
「おはよう」そういってテレビのスイッチをつけると、朝のニュースでも、昨日の火事の事をやっていた。ニュースの内容でも、本当にロボットなのか?というような報道をしていた。リアがあまりにもロボットに見えないからだ。
「私がテレビに出ていますね・・・」リアが横から覗いてくる。
「そうだな、昨日はあれだけ騒いでいたからな」
「すみません。ご迷惑をかけて・・・」
「仕方がないよ。でもリア、これから周りの人に色々と話を聞かれても、ノーコメントで通せよ」
「何故ですか?」
「いや、あまり大事にしたくないし、それに騒がしいのが嫌なんだよ」
本当はなるべく目立たず平穏に暮らすのが俺の夢だ! まあ、リアが来た時点で、その夢はほとんど打ち砕かれたが・・・。
「はあ・・・そうですか・・・」
「あと、少し気になる事があるんだ・・・」
「気になる事ですか・・・?」
リアが世間に知られることで、先日の殺人犯が、昨日の報道を見た事で、俺達の事がばれるんじゃないだろうか?という不安である。あの時、確かに俺は殺されそうになった。そして、あの時の殺意は本物だった。あの時に殺されなかった俺は、目撃者として今後あいつに狙われるんじゃないだろうか?そういった不安が頭をよぎる。今後、何事もなければいいんだが・・・。
「とにかく、あまり目立たないようにしてくれないか!」
「わかりました」ここで、リアが用意してくれた朝食を食べる。
「彩夏は先に学校に行った?」
「はい、部活の朝練があるそうで・・・・」
「あいつも偉いよな、いつも朝早くに・・・」
「そうですね、もうすぐ試合があるそうなので頑張ってほしいです」
「ふーん、じゃあリアも今日は早くに起きたのか?」
「はい、彩夏さんにお弁当を作らないといけないので」
昨日の夜、彩夏とリアは遅くまで家事当番を決めていた。そこで、学校のある平日はリアが作ることになり、週末は彩夏が作る事になった。ちなみに俺は、料理の当番から外れて掃除当番になった。
「悪いな、早起きさせて・・・」
「いえ、私は3時間の休養・・・つまり、充電があれば20時間は動けますので、むしろ時間を持て余しています」
「ならいいんだけど・・・」リアと喋りながらも朝食を食べ終わった。朝食を食べ終わった後、リアの弁当を受け取って家を出た。自転車を漕いで10分で学校に着いた。自転車を駐輪場に止めて教室に向かっていると、見知った奴が登校している。
「おーい、涼!」俺は涼に後ろから声をかけた。
「おう、真司か!」
「真司か?じゃねえよ。ずっと休んでいただろ?お前!」
「いや悪い、ここ最近ずっと忙しかってん」
「ふーん、じゃあバンド方うまくいっているんだな?」
「まあな、ぼちぼちでんな・・・」涼は関西出身なので関西弁がよく出る。だが関東暮らしが長いせいか、たまに変わった関西弁をよく使う。
「いや・・・その言葉は「もうかりまっか?」で使うところじゃないのか?」
「うーん、ええなあ。そのさりげない突っ込み!」
「いや、俺は関西人じゃねえから、別に突っ込んだわけでは・・・というか、ふざけてないでお前学校休みすぎだって!孝治が心配してたぞ?」
「うーん、でも今月中に新曲出す予定で、今、追い込み中やねん!だから、まだしばらくは来たり来へんかったりする日がつづくなあ・・・」
「へえーすごいじゃん!それじゃあお前、いよいよメジャーデビュー決定か?」
「そやで、新曲引っさげて、来月いよいよ武道館ライブ決まりや!」
「おお、おめでとう。やったな!」先月から、メジャーデビューが目前に迫っていたのは聞いていた。ここでついに決定したのか。我が友達ながらすごい。
「おおきに、それより、お前の方こそ親の海外赴任の件どうなったんや?」
「ああ、両親ともにちゃんとイタリアに行ったよ!」
「じゃあ、お前もついに一人暮らしをするようになったんか?」
「いや、それがどうも親がロボットを用意してたみたいでさ・・・」それに、約一名追加されたが・・・。
「ほー、でもええやんか!今度またゲームしに遊びに行くさかい、そのロボット見せてーな!」
「う・・・いや、まだ駄目だよ!」ここで彩夏が住み始めた事は隠さなければならない。
「なんでやねん?」
「いや、その・・・俺のロボット、人見知りが激しくてさ・・・」
「なんやねんそれ、変なロボットやな!」
「いやーそうなんだよ、特殊なロボットでさ、ははは・・・」
「ちぇ、しょもうもないな・・・あ、そうや、真司!今週ライブあるんやけど来へんか?」
「ライブ?」
「そや、アマチュアでやるのは今回が最後になるから、プレミアライブになるで!」
「いつやるんだ?」
「今週の日曜や」
「今週の日曜か・・・そうだな。行くよ、特に用事も何もないし!」
「ほな、チケット渡しておくわ」涼からチケットを受け取った。
「ん?これって・・・ペアチケットじゃあ・・・?」
「そやで、カップル招待チケットやで♪」
「ええ、ちょっと待てよ、俺は誰と行けっていうんだよ?」
「何をゆっとんねん!お前、霧條さんと行けばええやんか?」
「なぜ?俺があいつと一緒に・・・?」
「素直じゃあらへんの、お前ら!」
「馬鹿、違うよ!大体あいつと俺はそんな関係じゃないって何度言えばいいんだよ!それに、あいつにも用事あるかも知れないだろ!」
「だったらええわ別に!この辺でやるのは、もう最後かもしれへんけどな・・・」
「う、ちょっと待て、それはどういう事だよ?」
「本格メジャーデビューが決まったから、今までのようなライブハウスでの演奏はもう多分あらへんで・・・それでもええんか?」くそ、涼のアマチュア最後の演奏か・・・。
「わかったよ・・・!ちょっと聞いてみるよ・・・」まあ、別に彩夏と出かけるのはいつもの事だし・・・。
「まあ、がんばれや!」涼がニヤケている。
「何だよそれ!それに孝治にバレると、うるさいんだよな・・・あいつ!」
「まあまあ、孝治には黙っておいてやるから、それよりはよう授業に行こうや!」
涼は俺と同じクラスだったので、ふたりで教室にむかった。涼はなぜか俺と彩夏の事をくっつけようとする。このようにいつもからかってくるのだ。孝治とも仲がいいが、彩夏のファンクラブを結成している孝治ではなく、俺とくっつけようとしてくるのである。というかもうすでにくっついているものとして思われている。いつも、そうではないと言っているのだが、きいてくれない。困ったものだ・・・。
朝の授業も終わり、昼休みになった。いつも通りに食堂の前で待ち合わせをする。涼と食堂に行くと孝治が食堂でまっていた。今日はいつものメンバーで昼食を食べる事になった。涼はいつもカレー、うどん、親子丼のローテンションを組んでいる。ちなみに今日は親子丼だった。食堂の席に座り、みんなで昼食を食べた。
「それよりも真司!昨日のニュース見たぜ」
げ、やっぱ見られていたか。クラスメイトの何人かにも言われていたので、言われるとは思っていた。
「何だよあれ!あれがお前のところのロボットか?」
「お、なんや?何の話や?」涼が話に入り込んでくる。
「朝言っただろ?俺の家にロボットが来たって!」
「ああ、その件か。で?」
「テレビで見たけどさ、めっちゃ可愛かったじゃん!あれ、マジでロボットか?見た目はほとんど人間にしか見えなかったんだけど・・・?」
「ま、まあな・・・」
「お、なんや、なんや。だったら俺らにも早く見せてえな!」
「いや、まて、今はまだ無理だ!」
「何でだよ!ケチケチすんなよ!いいじゃん別に!」
「そやそや、人見知りくらい気にならへんで俺らは・・・」そうではない、家に来られると彩夏が家に住みついた件が発覚するからだ。どうしよう・・・そうだ!だったら連れ出せばいいじゃないか。
「まてまて、じゃあこうしよう。今度、涼のライブがあるだろ?その時に連れていくよ」
「真司!お前、朝ゆうた時、霧・・・」
「しー!」涼が何かを言おうとしたが、俺は、はっとして涼の言葉を遮った。
「お、何だよ?涼のライブがあるのか?」
「ら、らしいぞ。俺はもうチケットもらったぞ!」
「ええんか・・・?」涼が小声でささやく。
「いいんだよ、それに丁度いいしな!」
「知らへんぞ!」
「お前ら何を話しているんだ?」
「あ、そやそや。忘れとったわ!お前にも渡しておくわ!」
「お、これペアチケットじゃん?しかもカップル?俺にどうしろと?俺、一緒に行く人いないんだけど・・・」
「ぷ・・・お前ら二人そろって同じことゆうとるわ・・・」
「だったらさあ、お前、妹連れていってやればいいじゃん!」俺は孝治に合理的な方法を提案した。
「ええー・・・、妹かあ・・・」孝治が嫌そうな顔をする。
「なんや?嫌なのか?」
「嫌じゃないけど・・・一緒に出かける相手が兄妹なんて悲しすぎるだろ!」
「別にええやんか!こいつなんかロボット連れて行きよるんやで!」
「うるさいな、ほっとけよ!」
「いや、むしろ俺はあんなに可愛いならロボットと行きたい」孝治は真顔で言う。
「そんなにかわええんか?真司のロボット?」
「まあいいか・・・。真司が行くって聞いたら喜んで行くだろあいつ!」
「お、美緒ちゃんか?そういえば俺、最近全然会ってないな。元気にしてる?」
美緒ちゃんとは孝治の妹で、2歳年下で中学時代は後輩だった。そして、今年も同じ高校に入学してきたので、また後輩になったばかりだ。俺とは比較的仲が良かった。
「最近、よけい凶暴になったぜ!あいつ・・・」
「お前がいつもそんな事言っているからだろ・・・」
「いや、あいつは俺の事、兄とは思ってないからな」
「キンコンカンコーン・・・」
「お、そろそろ戻らなあかんな」
食事を終え、時間を見てみると休み時間の終了まで、あと15分を切っていた。
「そうだな・・・」俺達は話を切り上げて教室に戻った。
休み時間が終わって午後の授業も終わり、何事もなく家に帰る時間になった。彩夏は部活に行き、孝治も部活に行っている。そして涼は、今日は軽音部によって行くみたいだ。元々あいつは、家の方向が違うから、あまり一緒に帰ったりしない。なので、一緒に帰ったりするのは、遊んだりする時だけである。帰り始めて門を出ると、すぐに春日に会った。あいつ、一体何しているんだろう?
春日は校門を出たところを、うろうろしている。
「おい、春日。何をしているんだ!」
「ん?門脇か、見てのとおり見回りだ!」
「見回りって、例の殺人事件の事か?」
「そうだ!」
「お前、危ないからやめとけって!」
「何を言う?俺がやらないで誰がやるっていうんだ?」
「俺はその殺人犯ってやつに一度出くわしたけど、本当にやばかったんだぞ!」
「何?お前犯人に会ったのか?それは聞いてないぞ!」
「まあな、あと一歩で殺されるとこだったよ」
「何故、それを早く言わない。で、どんな奴だった?」春日は興味津々にしている。やはり俺でも説得は無理そうだ。
「別に、黒い服に黒いサングラスをしてたな・・・そんで、サバイバルナイフを持っていたな・・・」
「黒か・・・いいぞ。まさしく悪って感じだ!」
「それに、彩夏が心配していたぞ!」
「ふん、あの生徒会長は俺の実力を知らんからな・・・」
「とにかく!本当に止めとけよ!殺されても知らないからな!」
「ふん、余計なお世話だ。ん?それよりもお前・・・それは木刀だろ?ついに剣道始めたのか?」
「違うよ、これはその・・・護身用のためだよ」
「ふん、えらそうに言っておきながら、お前も犯人を捕まえる気満々ではないか!?」
「違うよ!俺は念のためだよ!前回会った時は、何も出来なかったからな・・・」
「まあいい。どっちにしても俺は、学校の平和と安全を守らなければいけないからな」
「お前、やばいと思ったらすぐ逃げろよ!」
「ふん、ほざけ!」結局、俺では春日を説得できなかった。あいつは本当に大丈夫だろうか?まあ、殺人鬼と会ったのは、駅前だから学校には来ないだろうとは思うけど・・・。もしかしたら、目撃者の俺を探しに来るという事もありうる・・・俺は気になりつつも家に帰った。
大金持ちのお嬢様は大変だ?
四月十六日火曜日
昨日、春日の説得に失敗した俺は彩夏にそのことを話した。俺でも彩夏でも無理という事は、やっぱり先生に言ってもらうという事で落ち着いた。彩夏は早速今日、先生に言うらしい。俺は内心先生に言っても辞めないだろうな・・・と思っていた。春日がいう事を聞くはずがないのだ。
今日の学校は涼が来ていたので三人そろって昼食を食べることができた。彩夏は春日の事を先生に言ったのだろうか?気になりながらも、その件は彩夏に一任しているので俺はもう完全にその件は忘れていた。
そして、何事もなく放課後になった。今日は直接家に帰らずに、駅前のゲームショップに来ていた。少し気分転換をしようと考えていた事と、先日火事の件で、買えなかったゲームを買う為だ。
「やっと買えたな・・・」家で待っているリアが少し気になったが、とりあえず目先の目標を達成出来てホッとした。いつも早く家に帰るのに、今日は遅いから心配してないだろうか・・・。
「たまには、いいよな・・・」リアが来る前は、こうやって、いつもたまに駅まで来ていた。心配させてもなんだし、早めに家に帰るか。いつもは、本屋に立ち寄るが、今日はゲーム購入だけにすることにした。
店を出ると、道の前で少し気になる光景を見かける。
「いいじゃん、ちょっとだけでいいからさ、遊びに行こうよ」
女の子がナンパされているようだ。ナンパされている子をよく見てみると、なんとびっくり!パーティドレスを着ているではないか。いかにもセレブっという感じだ。周りの通行人とは違い、あきらかによく目立っている。あの格好ではナンパされても仕方がない・・・。
「すみません!止めてください」
女の子は嫌がっているようだ。しかし、面倒な事は嫌なのでここは見て見ないふりをする。横を通り過ぎ、すたすたと歩いていく。別にナンパなんてよくある光景だ。すべて、気にしていたらキリがない。すると、その女の子がこっちに走ってくると、俺の背中にしがみつき隠れた。
「な、なに?どういうこと・・・?」もしかして・・・おれは巻き込まれたのか?
「なんだよ、お前、俺らの邪魔しようっての?」ナンパしていた二人組の男が絡んできた。
「いえ、その・・・俺にもなんだか分からないのですが・・・?」
後ろに隠れている女の子を見てみると、期待に満ちた顔で見てくる。
「く、俺に、どうしろって・・・」
「なんだよ、お前、調子乗りすぎじゃね?」
女の子はさらに期待に満ちた目で見つめてくる。俺は仕方がないと腹をくくった。
「すみませんが、俺・・・早く帰って道場に行かないといけないんで!」
と、言って袋に入れていた木刀をちょっと出してみせた。ちょっと脅し気味でじろりと見てやった。もちろん道場に行くのも嘘である。だが、丁度俺は、護身用に木刀を持っている。すると男達は木刀を見てたじろぐ。
「おい、もう行こうぜ。あっちにも可愛い子いたぜ・・・」
「そうだな・・・あっちに行くか!」
どうやら武器の効果が表れたようだ。向こうも、格闘してまでナンパに成功したいわけはないようだ。俺も、剣に自信があるから、ここまで強気に出たが、剣を持っていなければここまで強気になれたかどうか分からない。
「ふうー・・・」
「すみません。助けてもらって」ほんと、とんだ迷惑である。
「なんなんですか?急に!」
「すみません。あの人達どうしても、しつこくて・・・」そのしつこい奴らを俺に押し付けるな、と思った。
「それにしても、君!すごい格好しているね・・・」
「はい、パーティから抜け出したものですから・・・」
パーティか・・・なるほどね。明らかに服装が違う。女の子は暗そうに思いつめた感じでいる。どうかしたんだろうか?
「どうかしたんですか?」思いつめた感じが、気になって聞いてみた。
「いえ、その色々と疲れていまして・・・嫌になって逃げ出してきたんです・・・」
「パーティから・・・ですか?」
「はい、パーティといっても仕事関係ですけど・・・嫌な大人の話ばかりなので・・・」
「ふーん・・・」なんだか訳ありみたいだ。なんだか他人事ではない様に感じた。ここ最近、俺も様々なことに巻き込まれている。何か俺に出来ることがあれば協力してあげようかと少し思った。でもまあ、俺ではあまり役にたたないかもしれないが・・・。
「すぐそこにゲーセンがあるんだけど行ってみない?」
なんだか俺がナンパしているみたいになった。でも、俺が気分転換で気が付くのは、ゲームしかない。
「ゲーセンですか?」
「そう、モヤモヤした時はゲームに限るってね♪」
早く帰る予定だったが、いつもは、こういうとこによっていく。迷惑をこうむったんだし、気分転換がてらに付き合ってもらうことにした。
それから、二人で2時間ほどゲームをしながら、お互い自己紹介をして遊んだ。彼女は西門理子という名前で、親が死んでからずっと一人で後を受け継ぎ、会社を支えてきたらしい。ずっと休まずに働き、パーティでも、誰も本音を言わずに、だまし、だまされの世界で、疲れ果てていたらしい。一応俺と同じ高校生だが、ほとんど学校には行かず、働いているそうだ。俺は、そんな彼女の話を聞いて、自分に照らし合わせてみた。世の中には高校生で、こんなに頑張っているのに俺は遊んでばかり。俺は、自分自身の環境や状況に対してどう行動しているか?彼女が逃げ出した悩みに共感して、俺は自分を見つめなおしていた。
「はーあ、疲れましたわ。ホント、久々に思いっきり遊びました♪」
「はいどうぞ!」缶ジュースを差し出す。
「ありがとう・・・」
「どう?少しは気晴らしになった・・・?」
「はい、とっても・・・」
「いやあ、逆に俺も気晴らしになったよ、俺も最近色々な事に巻き込まれて困っていたからね・・・」
「へえ、門脇君も色々あるんですね」
「まあね、でもさ、人にはそれぞれあるんだよ。悩みや、苦しい事や、悲しい事、そして悔しい事。それらを、どう乗り越えるかで人生は決まるんだと思うよ、きっと・・・」
「すごく哲学的な話ですわね」
「いやあ、実は偉そうなこと言っているけど、そういう俺は現在の状況から逃げているんだけどね・・・ははは・・・」
「じゃあ私と一緒ですね」
「ほんとだね、でも結局逃げてさ、結論を先送りにしても、何も答えは出ないんだよね」
「そうですね・・・」
「実はさ、俺、本当は君の事を見て見ぬ振りをしようとしていたんだ。面倒に巻き込まれたくないってね・・・」
「すみません、巻き込んでしまって・・・。」
「別にいいよ、どっちにしたってあのまま、シラをきって最後まで逃げるきる事もできたしね」
「でも、貴方は助けてくれたわ!」
「目の前の現実から逃げても、本当に大事な事から逃げてはだめだと思ったからだよ」
「本当に大事な事・・・」
「そう。あそこで、あくまで逃げ出す俺は本当の駄目人間だったという事さ」
「駄目な人間・・・」
「たとえば、君は親の家業を引きついで、ちゃんと経営をやっている。放棄して逃げる事だってできたはず。つまり、それをしなかったという事は、逃げてないっていう事だよ。だから、君は本当に大事な事からは逃げてないって事だよ!」
「私が本当に大事な事からは逃げていない・・・?」
「そう、それを逃げ続けると人間は落ちていくんだと思う・・・」
「落ちていくんですか・・・」
「そう、極端なことを言ったら・・・そうだな・・・うーん。たとえば、自殺したり犯罪にはしったりとかね。いずれにしても、ろくでもない結果になると思う・・・」
「門脇君は大事な事から逃げたりするんですか?」
「そうだね、小さい頃から逃げ続けている事が一つあるかな・・・」
「それを聞いてもいいですか?」
「そうだな・・・実は俺、昔剣道やっていたんだ」
「今もやっているんじゃないんですか?」西門さんは俺の木刀を見て言った。
「あ、これ?」手に持っている木刀をあげてみせた。
「これは護身用、最近物騒になったから物置から引っ張り出しただけ・・・で、小学生のころまで父親の影響で剣道をやっていて、自慢しているわけじゃないんだけど、ずっと負け知らずで、周りの大人達にすごいといわれ続けていたんだ」
「へー、すごかったんですね」
「まあね、だからもっと褒めてほしくて、すごいと言われたくて、練習は一生懸命やっていたんだ。でも自分の事ばっかりで、周りがみえてなくて、一緒に練習していた女の子を傷つけてしまったんだ」
「女の子・・・?」
「それから剣道をやめ、剣術もやめ、中学に入り、剣を忘れる為、水泳部に入ったんだけど、そこに、その時に傷つけてしまった子が入ってきたんだ」
「・・・・」俺は、またその子を傷つけてしまうかも?無理をさせてしまうかも?と思って何もできずに結局退部してしまった・・・それ以来部活にも入らず、ゲームばっかりして、ぐうたれているわけさ!」
「門脇君はその子の事好きなんですか?」
「どうだろ、好きというより親とか兄弟みたいな大切な人という感情はあるかな・・・って、何いってんだ、俺?こんな事あんまり人に話した事ないのに・・・」
「ふふふふ、でも良い話がきけましたわ。なんだか、自分がやらなければならない事がわかった気がします」
「そう・・・それならよかった。俺も多分君が背負っているものの大きさを感じて自分も頑張らないといけないと思ったんだと思うよ」
「結局逃げていては何も解決しないという事ですね」
「ま、そういうことかな・・・」
「どうやらお迎えが来たみたいですわ」向こうの方からメイド服を着た少女がやってくる。
「お嬢様、ご無事でしたか?」
「ええ、大丈夫よ」
「あちらにお迎えの準備が出来ていますので・・・」
「わかったわ!」
「じゃね、門脇君。ありがとう。今日はとても楽しかったわ」西門理子は美少女メイドと歩いていった。
「まあ・・・俺も、久々に楽しんだかな?」それにしても、俺は何でこんな話をしてしまったんだろう?今思い返してみれば恥ずかしすぎる。それに俺は人に偉そうに言える立場ではない。キャラ変わりすぎだろ俺って。しかし、彼女は只者ではない感じがした、おそらくそれに引きずられたんだろう。
「それにしても、逃げても何も解決しないか・・・」自分で言って、自分を励ましているようだった。自分自身に置き換えて考えてみた。やっぱり俺は逃げているんだろうか?彩夏や涼と孝治も目標がある。でも、俺には無い。それは俺が逃げているだけ?帰りながら考えてみたが答えは出なかった。
おじさんの野望
四月十七日水曜日
昨日、西門理子と話したことが少し気になったが、今の自分には答えが出ないと思って考えない様にした。そして、今日も相変わらず彩夏は先に家を出て学校に行っていた。俺も彩夏に遅れること数時間、リアに弁当を貰って学校に登校した。
今日の学校での出来事は、少し遅めに家を出たせいか、授業開始ギリギリだった。そのせいで、1時間目の授業を受ける頃にはハアハアって言って苦しかった。朝、登校して特に誰かに会うこともなく、教室に滑り込むと、すぐに授業が始まった。授業が始まってしまえば息も落ち着き、いつも通り授業を受けることが出来た。その後は何事もなく授業を受けた。放課後になってからも今日の授業は、問題なく終わった。ホームルームの為、自分のクラスに戻り連絡事項を聞いた後、俺はすぐに帰った。
「ただいま、リア・・・」
「やあ、おかえり。久しぶりだね真司君」
玄関には見覚えのあるおじさんが立っていた。リアの製作者の京太郎おじさんだ。
「あれ?おじさん・・・?」
「今日はリアのメンテチェックに来たよ。今、リビングで調整中だ」
いいチャンスだ!リアが来ることになったいきさつを聞こう。この前の映像では、母さんから依頼されたようなことを言っていた。もっと詳しい、いきさつが聞けるかもしれない。
「それより!おじさん。一体どういう事なんですか?」
「どういう事とは何だ?」
「おれ、リアが来るって言う話なんて、全然聞いてなかったんですけど?」
「ん、ああ、そのことか。俺は昨年の九月に姉さんから、もしかしたら、お義兄さんの仕事で海外に行くかもしれないから、念のために作っといてくれって言われたぞ!?」
「そんな前から・・・」
「出発の1ヶ月前にも「出来ているか?」と、言われて、ついうっかり忘れていたらなあ・・・かなり怒られたよ!「出発の日に間に合わせろ」と、と言われたから、急いで作らされたよ・・・」
「鍵は、どうしたんですか?」
「出発の一週間前に、「間に合わない」と言ったら。持ってきてくれたぞ。まあ、その時に真司くんには内緒にしておいてくれって言われたがな・・・ハハハハ!」
全く・・・このサプライズ一族が・・・。
「もうホント、まじで、びっくりしましたよ!最初はどうしようかと思いましたよ」
「でも、ベイエリアが来て良かったんだろ?」
「まあ・・・そうですね・・・でも、俺にも心の準備ってやつが・・・」
これまでリアにはかなり助けられているからあまり強く言えない。
「まあいい、来たまえ」
リビングに行くとリアがソファにすわり、何かの機械につながれて目をつぶっている。
「リア・・・寝ているんですか?」
「ん?まあそうだな。だが人工知能は生きている。体の維持機能を一度カットしているから反応はないがな。システムのメンテナンスを優先しているんだ」
「どれくらい時間がかかるのです?」
「そうだな・・・お昼からやっているから、おそらく夕方6時くらいまでは、かかるだろう?」あと2時間か・・・。
「ところで・・・真司君?」
「はい?」
「ベイエリアとはもうやったのか?」
「ぶーーーー!」おもわずふいてしまった。
「な、な、何をですか・・・?」
心の中では、求めている答えが何かを予想したが、勘違いという事もあるので一応聞き返した。
「何だ、やってないのか?言っておくけどベイエリアはバージンだぞ。早くやってしまえよ!」
「ぐ・・・、な、何を言っているんですか?ば、バージンって・・・ロボットにそんなのあるんですか!?」
「なにを言っている。限りなく人間に近づけたと言っただろうが」
「で、でも・・・リアはロボットですよ!?」
「俺の研究所にはな、腕が良いのだが、どうしようもない変態がいてな。そいつは美少女ロボットを作る事に命を懸けている。そして、そいつは、どうやらそういう所までこだわって作っているみたいだ。それに、俺的には貴重な人間としての、行動実験データが取れて嬉しいのだが・・・」
「誰ですかその変態は!」
「まあ、そいつはかなりの変態だが、腕はいいので共同開発している」
「とにかく、俺はロボット相手にそんな事しませんよ!」
「まあ、するかしないかは自然の成り行きに任せるが、それも実験データの一つだからな。でも、ベイエリアはお前の事好きだぞ」
「す、好きって・・・ロボットだし・・・そ、それは別にいいんじゃないですか?」
「いや、特別な感情としてだと、俺は思うのだがな・・・」
「え、特別な感情って・・・?」
「さっきメンテナンスでずっとベイエリアと電子戦をやりあっていたんだが、まったくお前に関する情報を見せない。さすが俺が組んだ人工知能だ。はっはははは!」
「それって・・・データ取れてないんじゃないですか?」
「まあ、お前に関するデータ以外は全部貰ったし、問題はない。それに自我を持ちプライベートを隠したいという事もデータの一つだ。まあ、それだけお前を大事に思っている証拠だろ!」
「リアが俺を・・・」
「もともと私は、ベイエリアに真司君の家に行くのを強制してはいない。ベイエリア自身が行きたいと望んだ事だ。「行きます。行かせて下さい」と言ったのはベイエリア自信だからな・・・。まあ、私も真司君ならうってつけだと思っていたから、丁度よかったんだがね!」
・・・・京太郎おじさんの言うことはすこし気になる。だけど、俺の心の中にも所詮ロボットだという気持ちがあるのも事実だ。自分の中でリアは、ロボットだと言い聞かせているからだ。しかし・・・ロボットと分かっていても、リアには時々ドキっとさせられる。
「まあ、遠慮なんかせんで、さっさとやってしまえ!」
「やりませんよ!!」
「ん、もしかして彼女がいるから駄目なのか?」
「い、いや、いませんし!それに、リアはロボットですよ。俺はそんな変態ではありません!」
「ふん、リアにそのうち嫌われても知らないぞ!」
「え・・・!?ロボットなのにオーナーを嫌う事ってあるんですか?」
「言っただろ?普通のロボットではないって。市販のロボットにはロボット三原則とオーナーへの忠誠感情は備わっているが、ベイエリアは完全な人間感情を再現してプログラミングしている。好きな人も出来るし、嫌いな人も出来る。ベイエリアがお前を嫌いだと判断すれば、この家を出ていくだろう。私はいつでも帰ってきてもいいと言ってある。それに研究所には、真司君の家に派遣するロボットはいくらでもいる。
「リアが、この家を出ていく・・・」
「それと、ベイエリアがこれから成長するにつれ、性格もどんどん変わっていく事もあるぞ」
「性格が変わるんですか?」
「そうだ、良いように変わるか、悪いように変わるかはお前次第だ!」
「俺・・・次第で性格が変わる・・・?」
「まあ、今のところ真司君には満足している。研究所にいた頃より、かなり人間らしくなっている。それに、悪いように育っていない。未来の新人類は君にかかっている、その調子で頼むぞ!」
俺次第でリアの性格、人格が変わるのか・・・。責任重大だな。それに、気になったのは、俺を嫌いになったら家を出ていく・・・?今後、リアと接する時はなるべく真面目でいよう・・・。
「あの、一つ気になっているんですけど、リアの運動性能ってどうなっているんですか?」
最後の謎は、リアの運動性能だ!これまでいろいろなところで活躍してきたが、あまりに常識はずれの行動をするので知っておきたかった。
「うむ、良い質問だ。運動性能については人間の10倍以上、そして、あらゆるスポーツと格闘技に適応している。柔道、剣道、合気道、空手、テコンドーなどをインプットしており戦闘能力もかなり高い。それに体内に10の隠し武器を備えている。おそらく、自衛隊のレンジャー部隊100人を相手にしても楽勝するくらいの実力は持っているはずだ」
「そんなに強いんですか・・・?でも、そこまでの実力って必要あるんですか?」
「人間を超えるのが目的だからな・・・」
「でも・・・この前、確かに俺、助かりました・・・」
「ああ、この前の事件か?あんなものはベイエリアの能力を考えたら当たり前だ。あれも、良いデータを取らしてもらった」
「いえ、それだけじゃないんですけど・・・でもそんなにデータを取ってどうするんですか?」
「それはもちろんニュージェネレーション計画を進めるためだよ。より人間らしく!より優秀なロボットを作って、いずれ新たな人類として発展させるのだ。そうすれば!この俺が未来の神となり、創造主となるのだよ。ふはっははは・・・!」
「だめだこいつ、早くなんとかしないと・・・」
「ん、なんかいったか?」
「いえ、別に・・・」
「まあ、とにかくこの調子でどんどん彼女に人生勉強をさせてくれ。ベイエリアは私の娘同然だ。それに成長すればするほど、今後開発されるロボットはより人間に近づくのだからな」
「ん・・・あ、真司さんお帰りなさい」京太郎おじさんとしゃべっている横で、リアが目を覚ました。どうやら、いつの間にか2時間経っていたらしい。
「どうやら終わったようだな。どうだ?調子は?」
「はい、大丈夫です・・・」
「問題ないならそれでいい。それじゃあ俺はこれで失礼させてもらおうかな?」
「あ、マスター晩御飯だけでも食べていきませんか?」
「いや、俺は速く帰ってやらねばならない事がある。それに今日は真司君とも、ベイエリアとも、良い話がきけたからな」と、 リアに向かって意味ありげに言った。
「マスター!!」リアは怒っている。
「ふははは、じゃあ、邪魔にならないうちに帰るか・・・」
おじさんが携帯で誰かを呼び出す。
「終わったぞ、すぐ来てくれ」誰を呼び出したんだろう?すると、玄関から誰か入って来た。金髪で背が高く、目が青い欧米風のすごく美人な人だ。目つきは鋭く、感情を持っていないみたいだ。だが、それが何とも言えないミステリアスな雰囲気を醸し出している。
「これを頼む」おじさんが言うと、さっきまでリアにつながれていた大きな機械をその美人な人は軽々と持ち上げた。
「ええ!?」俺はびっくりした。とてもそのか細い腕で、持ち上げれるようには見えなかったからだ。
「お姉さま・・・」リアがつぶやく。
「お姉さま?」
「ああ、こいつはSP22エリミアだ。まあ、ベイリアのお姉さんロボットになるのかな」
「ええ!?じゃあ、リア以外にもロボットがいるんですか?」
「まあそりゃおるぞ、ベイリアで30番だから、あと29体いるぞ。まあ、研究所にいるのは12体ほどしかいないけどな」
「そんなに・・・・リアの姉妹がいるんですか?」
「このエミリアは俺のボディガード用なんだが、ベイリアと違って無愛想でいかん、でもまあ、戦闘能力はベイリア並にあるんだがな・・・」
「でも、このロボットも人間そっくりですね」俺はまじまじと見たがエミリアは全く気にしてない。
「まあ、こいつの体もあの変態が作ったからな」
「マスター、車の準備が出来ました」
「おお、そうか!今行く。じゃあな、また来るから」
「はあ、お元気で・・・」
こうして、京太郎おじさんは言いたいことを言って、帰っていった。
動き出す事件
四月十八日木曜日
放課後、今日の授業もしっかり受けてこの日の授業は問題なく終わった。今日は珍しく、涼は仕事があるとかで駅方向に向かうから、途中まで一緒に帰ることになった。
「最近、お前仕事忙しいのか?」
「まあな、前にも言ったけど新曲出すからな。ライブや雑誌の仕事もあるし、最近大変やわ!」
「まあがんばれよ、新曲出たら買うからさ!」
「おう、サンキュー」そういった何気ない会話をしながら学校を出て、すぐ近くの公園に差し掛かった。この公園は住宅街にあるにも関わらず、あまり人はいない。高校に近いという事もあって、入りにくいのだろうか?その公園のそばを差し掛かったところで、思わぬ人物に出会った。
「ん!?あれは・・・」黒っぽい服に髪の毛はオールバック、サングラスをしている。いかにもって人物が向うの方で立っている。もし、俺の見間違いではなければ、この前のビルであった殺人者のように見えた。まさか、俺を狙って?それとも俺の勘違いか?どうする・・・?ここはいったん逃げよう、勘違いだったらそれでいい。
「おい、涼・・・」
「なんや?」
「ちょっとこっちから行こうぜ」涼の腕を持って脇の公園に入り込んだ。公園にはいって、向こう側の入り口に抜けてこの場を離れようとした。
「おい、どうしたんだよ急に?」
「いいから、早く!」涼を急かし、早歩きで公園を抜けようとしたが、いつの間にかそのオールバックの男は、俺達の前に立ちふさがっていた。
「よう、まさかこんなところで会うとは思わなかったぜ!」
「何ですか?急にあなたは?」俺は男に、急に襲われないように、男が持っているであろうそのナイフを、鞄を持って警戒しつつ、知らない振りを決め込んだ。
「おいおい連れないな。一週間前に会ったばかりじゃないか?俺はお前に会いたかったんだぜ!」
駄目だ、完全に俺の事を覚えられている。今日は、俺を口封じしに探しに来たのか?
「誰や、こいつ?真司の知り合いか?」涼はまだこいつの正体を知らないので、のんきに構えている。
「何の用だ!」俺は警戒しながらも、手に持っている木刀をいつでも出せるように身をかまえた。
「!?」この場の緊張した雰囲気にようやく涼は気付いた。
「いやいや。本当はお前に用事があったわけじゃないけどな・・・。でもまあ、良い機会だ!あの時の借りを返させてもらおうか。俺は、今まで狙った獲物を逃した事がないんでね・・・」
「俺を殺すつもりか?」
「殺すだって・・・?」話の内容を理解できない涼が、あわてて声をかけてきた。
「この前の邪魔した女、あいつロボットだってな。見たぜ、ニュースを、まさかロボットだったとはな。道理で化け物じみた行動するわけだぜ。でも、今日は連れてないみたいだな・・・」
男はナイフを取り出した。やはり、先日のニュースの件も、どうやら知っているみたいだ。
「お、俺だってそう簡単にやられないぞ!」木刀を出して、その男に向かって構えた。俺は、いつかこうなることを覚悟していた。
「涼、早く逃げろ!」
「でも・・・」
「学校に戻って、誰か人を連れてきてくれ!」
「わ、わかった・・・」戦うことが出来ない涼は、理解してくれたのか、学校に向かって走り出した。
「そうはいかねえよ!」男は、上着の袖から小さな小型ナイフをだして、涼に投げつけた。
「うわあああ・・・!」はっと、涼をみると、足を押さえている。
「当たった?」
「いや、かすっただけだ!」
「ふん、かすっただけか・・・」
だが、涼の足からは、みるみる血が出てきている。大きく切ったようだ。
「大丈夫か?」
「痛いけど、血を止めれば・・・」
俺は、男にむかって木刀を構えて睨みつけた。
「お前、絶対許さない!」俺は完全に怒った。友達を傷つけられて、やっと本気で戦う気になった。だが、問題は木刀を持って戦うのは久々だって事と、そして、防具なしの実戦だって事だ。俺に出来るだろうか・・・?
「ふん、今度こそ仕留めてやるよ!」
俺も木刀を構え、その男としばらく対峙した。すると、男は持っているナイフを持ち替え、先ほど涼に向かって投げた小型のナイフを、上着から取り出してこっちに向かって投げてきた。
「ぐう・・・!」俺は無意識に飛んでくるナイフを寸前のところで左に寄ってかわした。
「死ねえやー!」狙っていたかのように、ナイフをかわした事によって、体制を崩した俺に、男は突っ込んできた。そしてナイフを突きつけてきた。
「だあああああ!」俺は体勢を崩しながらも、近づいてくる男に木刀を下から上へと振り払った。
「なめんなあああ!」男は、俺が振り払った木刀を、顔面の前ぎりぎりでかわして、二段構えでナイフをこちらに突きつけてきた。俺は本能的に、この角度では突かれると思ったが、すぐに体が反応して、地面に寝っころがって、ナイフをかわした。
「はああああああ・・・!」俺は倒れたまま、その男に蹴りをいれ、よろめいたところをさらに追いかけるように木刀を突きつけた。またもすんでのところで、男は後ろに下がってかわした。
「はあ、はあ、はあ」連続した攻防で、俺は大分息が切れてきた。俺は木刀を突きつけたまま立ち上がった。
「やるじゃねえか。今までで、一番手ごたえあるぜー」
「うるさい!」昔、試合では負けなしだったが、実戦は初めてだ。体が覚えていたので、なんとか男の動きに対応できている。
「さてと、そろそろ本気で相手してやろうか!」そういうと、男はナイフを地面に捨てた。
「!?」なぜ、武器を捨てたのだろうか?そして、男はじっと構えた。
「さあ、こいよ!」男が挑発してくる。ナイフを捨てたにも関わらず、男のプレッシャーは半端ではない。とにかく隙がないのだ。
「いやだ!」挑発に乗ってこちらから動いたら負けてしまうと思った。
「ふん、子供の駄々っ子か・・・。だったらこっちから行ってやるよ!」
男は身構えて、すり足にしていた足を、地面にめりこませ、砂を蹴りあげてきた。
「だあああああ!」これは・・・目潰しだ!
砂に気をとられている間に、男が一気に走りこんでくる。俺はそれに気がついて、木刀を振り払ったが、手でつかまれて阻止された。そして、そのつかんだ木刀を、引っ張って引き寄せられ、男に蹴りをいれられた。
「ぐああああ・・・!」俺は一撃を喰らって、後ろに吹っ飛び、涼の横に倒れ込んだ。
「真司!大丈夫か?」
「な、なんとか・・・」
男は邪魔になったのか、俺の木刀を後ろに投げ捨てた。
「ふん、もう終わりか。もう少し手こずらせてくれよ。このままだと、お前達死ぬぜ!」男が近づいてくる。落ち着け、自分に言い聞かせて静かに立ち上がった。
「おお、いいねえ。まだやる気か?獲物もないのによ・・・」男の後ろに木刀が転がっている。
「あれを手にいれないと・・・」
「獲物がないと戦えないのか?」男はさらに近づいてくる。
素手で格闘?それはさすがに自信がない。木刀無しでやるしかないのか?俺にあるのは剣道と居合術しかない。
「よし!」剣を構えた。構えたと言っても、何も持っていない。エア剣術だ。
「なんだ、お前!俺をおちょくっているのか?」
「・・・・」たとえ剣がなくても剣術は体が覚えている。剣があるつもりで体を動かせば男の攻撃に対応できると俺は思った。
「なめてんじゃねえぞー!」男が襲い掛かってきた。剣を持っていなくても、持ったつもりで構えると、なんだか落ち着くし、攻撃の型がある。男の攻撃の気迫が良くわかって、俺はすぐに対応して相手の間合いに一気に入った。
「めえ―――ん!!」掛け声とともに両手で握った両こぶしを、相手の顔面に一撃を食らわした。
「ぐあああ!」男は、急な攻撃に不意をつかれたのか?鼻を押さえている。
その隙を狙って、俺は走って男の後ろに落ちていた木刀を拾いあげる。
「もう怒った、なめてんじゃねえぞ!」男は服の中からナイフを取り出した。
「もう、遊ぶのはやめだ!計画変更だ。一気に殺してやる・・・!」男は、そのナイフを俺に向けずに涼に向かった。木刀を拾った俺と、涼は少し離れたので、涼の位置は、逆に男に近づいていたのだ。
「お前を殺す!」攻撃目標を変えた男は、ナイフを持って涼に駆け寄る。涼は最初の攻撃で足を怪我しているので走れない。
「え、俺?」男は、涼の目の前まできている。
「やめろおおお!」俺は叫んで、阻止しようと走ったが、奴のほうが涼の近くにいたので間に合いそうにない。
「させるかあああ!」涼の後ろから叫び声が聞こえる。よく見ると、春日がものすごい勢いで走りこんでくる。春日は涼の前に立ちはだかり、男に竹刀で振り払った。ここでも、男は寸前のところでかわした。
「ち、ややこしいな。また増えたのかよ」
「真司、手こずっているみたいだな!」
「バカいえ、油断するな。かなり手ごわいぞ!」
「ふん、練習していないお前と一緒にするな!」
春日が来てくれたおかげで、俺と春日は男を挟み撃ちしている形になった。
「雑魚が、何人集まろうと関係ないんだよ!死ねえや!」今度は俺に向かって走ってくる。
俺は木刀を構え身構えた。
「ガッキーーーーン」直前で金属音した。男のナイフが宙を飛ぶ。この感じは以前にも経験がある。
「真司さん!」
「リア!」前回助けてくれたようにリアは、腕から出したワイヤーでナイフを弾いた。
「ち、こいつか・・・。さすがにこいつ相手では、一人では無理か・・・」
どこからともなく公園の後ろからバイクが乗り込んできた。
「あいつに突っ込め!」男は、乗り込んできたバイクにリアを指さして指示した。
「リア!よけろ―!」
バイクはリアに突っ込んだが、リアは難なくするりとよけた。そして、バイクがリアに突っ込んでいる間に、男はすでに公園から離れて道路に出ていた。
「来い!」男がバイクに指示を出した。
バイクは道路に戻り、男を後ろに乗せて走り去っていった。どうやら助かったようだ。
「リア・・・助かったよ!」
「大丈夫ですか?」
「ああ、俺はな・・・」俺は涼の方をみた。「涼、大丈夫か?」
「大丈夫・・・・と、いいたいところだが血が出てる・・・」
「リア、早く処置を・・・」
「はい・・・」リアは涼の足の傷を見て止血しだした。
「君が、真司のロボット?」涼はリアに尋ねている。
「ん、誰だ?この女は?」春日が話しかけてきた。
「俺の家のロボットだよ!」
「ほう、ロボットか・・・どうりで人間離れした動きをすると思った」
「それより、お前。今回ばかりは助かったよ。何でこんなとこにいるんだ?」
「言っただろ!学校の安全を守るのがこの俺の仕事だって。それにしても、あいつは何者だ?あやつも、只者ではない感じがしたのだが・・・」
「ああ、あいつがこの前話した殺人鬼だよ」
「なに?やっぱりそうだったのか。くう、何たる不覚。取り逃がしてしまうとは・・・」
そうこう話しているうちに、救急車が来た。リアが呼んでくれていたようだ。
「涼、大丈夫か?」
「まあ、歩けるけど・・・一応見てもらって来るわ。さっき、連絡したら、マネージャーにも行けと言われているし!」
「そうか、じゃあ気を付けてな!」
「ああ・・・」涼は救急車に乗って、運ばれて行った。
「それにしても、お前にこんなに可愛らしいロボットがいたとはな・・・」
「まあな、最近家に来たんだよ・・・」
「強いのか?」春日は物珍しそうに、リアの体をまじまじと見ている。リアは見られていて、少し恥ずかしそうにしている。
「製作者が言うには、自衛隊のレンジャー部隊を百人相手にできらしいぞ。
「なに?それはすごいな。ぜひ手合せ願いたい」
「だめだ!リアこっちに来い!」リアは俺の後ろに隠れた。
「なんだ?ケチケチするな、いいではないか?」
この後、警察にも事情聴取をされた。やはり、今回もあの男を捜索しているようだったが、詳しい話は聞けなかった。神出鬼没の殺人鬼らしいという話を聞けたくらいだった。それにしても、俺が不安に感じていたことは見事に的中した。この前のビルであった時、確かな殺意を抱いて俺におそいかかった。それは、とても素人な感じではなかった。うまく説明できないが、第六感というかなんというか、とにかくまたこいつに会う事になる、そう思った。だから俺は、それに備えて木刀を携帯するようになったのだ。これで、俺の予感は確信にかわった。あの男は必ずまた出会う事になる。俺はそう思った。
夕方。警察の事情聴取を終えて、家に帰ってきた。事情聴取はそれほど時間がかからなかったので日が昇っているうちに家に着いた。
「リア。今日は助かったよ・・・」
「いえ、すみません遅くなって!」
「いや、十分だよ。ちゃんと来てくれて助かったよ。やっぱり緊急用の連絡が役にたったな・・・」
「そうですね・・・」
そう・・・。リアに連絡を聞いた時、俺は事前に、もしもの時は携帯の緊急用ボタンを押したら、すぐに駆けつけてもらえるように手配しておいたのだ。実は、涼を連れて公園に入った時に、そのボタンを押していたのだ。自転車で家からゆっくり漕いでも、10分の距離だし、リアなら数分で駆けつけられるはず。俺があの男と戦って、数分持ちこたえれば十分だったのだ。そして、俺の携帯GPSで位置を確認してリアが駆けつけてくれたのだ。
「だけど、心配です・・・」
「ん、何がだ?」
「あの人は、また来ると思います。それに、かなりの殺しのプロだったと思います」
「確かに、動きが普通じゃなかった・・・」
「実は・・・私、前回接触した後、あの犯人について調べていたんですが、殆どデータは出てきませんでした。警察のデータも調べましたし、過去の事件も調べたのですが、全く不明でした。というより、何か大きなものに保護されているような・・・隠されているような感じで、まったく情報が出てこなかったのです」
「隠されている・・・?」
「はい、重要な部分が上書きされていたり、削除されていたり、暗号化されていたりしていました」
「どういうことだ?」
「わかりません・・・」
「あの男の顔写真も出てこなかったのか?」
「はい・・・」
「・・・わかった、引き続き調べておいてくれ!何かわかったら頼む!」
「わかりました」
確かにあの男は只者ではない感じがする。ハッキングが得意なリアでも分からないのならどうしようもない。裏で何かが関わっているのだろうか?
日が暮れてからしばらくして、彩夏が急いで帰ってきた。
「ただいま!」
「真君、大丈夫だった?」血相を変えて彩夏が帰ってきた。そして、早々に事件の事を聞いてきた。
「ああ、俺は何ともなかったよ。リアも助けに来てくれたしな」
「よかったー。春日君から聞いた時はびっくりしたわよ!」
「でも、涼が怪我したよ・・・」
「川村君が・・・、大丈夫だった?」
「一応、痛そうにはしていたが、まあ元気そうだったぞ」
「そう、よかったあー」
「念のため、救急車に運ばれて病院に行ったけどな」
「やっぱり・・・襲われたのはこの前に駅前で会った人だったの?」
「ああ、そうだよ!あいつだったよ・・・」
「怖いわね・・・真君・・・気をつけてね・・・」
「大丈夫だ、護身用に昔の木刀持っているし、何かあればリアがすぐ駆けつけてくれるしな」
「リアちゃん・・・お願いね・・・」
「はい、任せてください。真司さんの事は必ずお守りします」
リアは、彩夏に対して感情をこめて言った。横で聞いていた俺は、そんなリアを見て少しドキッとした。京太郎おじさんの言った言葉を思い出したからだ。リアはロボットだから、主人である俺を守りたくて言っているんだよな。何か特別な感情なんて気のせいだと横目で見ながら、俺は自分に言い聞かせていた。
ドキドキアルバイト体験
四月十九日金曜日
昨日、あの男は俺の事を完全に知っていた。そして、襲ってきたという事は、今後俺は狙われることが確定したと考えた方がいい。俺は今後、常に警戒して生活しなければならない事になった。これからどうしたらいいのだろうか?いつまでも、心の深くで不安になっていた。
今日一日、学校でも不安になっていたが、一応何事もなく授業が終わった。放課後になって俺は帰る準備を整えていた。バイトがあるのでなるべく早くに帰らないといけない。それに、昨日は襲われた。今日も襲われるかもしれない。警戒心を最大にして教室を出て、駐輪場に向かっていると孝治に会った。
「おーい。今から帰りか?」
「まあな、お前は部活か?」
「おう。ところで明後日はライブの日だけど、お前大丈夫か?」そうだった、こいつに言われるまで完全に忘れていた。
「まあ、一応行く予定だけど?」
「お前のところのロボット、早く見てみてーな」
「言っておくけど、手―出すなよ・・・」
「な、何言っているんだよ。俺には霧條様がいるんだから、そんなことするわけねえだろ!まったく、まあでも、気をつけて帰れよ・・・」
「ああ、ありがとよ」孝治は部活に向かった。孝治は何も言わなかったが、わざわざ声を掛けてきたという事は、多分昨日の事件を心配してくれているのだろう。それは、言わなくても感づいた。それと入れ替わりになるように春日が声をかけてきた。
「おお、門脇じゃないか」
「ん、あ、お前か。昨日は大丈夫だったのか?」
「ふん、俺があれしきの事でやられるわけないだろ!」
「んで、まだ見回りしようと思っているのか?」
「当たり前だ。学校の安全を守るのが俺の仕事だ」こいつが人のいう事を聞くはずがない。でも昨日は、そのおかげで助かったのだが。
「お前も気をつけろよ。やつの実力わかっただろ」もはや、気をつけろという事くらいしか忠告できない。
「まあな、だからと言って逃げていられないだろ!」
「そうか・・・まあ、お前の事だから簡単にはやられないとは思うけど気をつけろよ。それと・・・昨日はありがとな、助かったよ」忠告しつつも、昨日の事は恩に感じている。
「お、珍しいな。やけに素直ではないか。だったら剣道部に入れ!」
「それとこれとは別だ!」
「ふん、まあいい。それよりお前・・・」
「なんだ?」
「今さっき校門の前にいたあの女の子、あれ?昨日会ったお前のとこのロボットじゃないのか?」
「なに!」リアが?何でこんなとこに・・・?
「今度、手合せをお願いしたら断られ・・・」春日が話し終える前に俺は急いで校門の前に向かった。
「って、おい、ちょっと待てよー」
春日の事は無視をして、俺はそのまま校門にむかった。校門に近づくと人だかりができている。
「おいおい。あの子誰だよ?めっちゃ可愛いじゃん・・・」
「あの子、この前ニュースに出てた子じゃない?」やばい、もうすでに目立っている。
「リア!」
「あ、真司さん」
「とにかくこっちへ!」この時点で、もうだいぶ注目の的だ。
リアの手を引き、急いで走ってその場を離れた。そして、昨日戦ったあの公園まで走って来た。
「ハアハア。なんで・・・学校に・・・」
「すみません。どうしても心配になりまして・・・」
「大丈夫だって言ったじゃないか!」
「すみません・・・」リアは落ち込んだ。
「いや、その、心配してくれるのは嬉しいんだけどさ、今みたいに目立つのはちょっと・・・」
「あの、お願いです。目立たないようにするので、毎日送り迎えさせてください・・・」ええええ!?リアは急に何を言い出すんだ?
「え、・・・いやー、それはちょっとさすがに・・・」恥ずかしすぎるし、それにそんなリア充な展開は一体どんなギャルゲなんだよ。これがホントのリア充ってやつか・・・。
「だめですか?」リアは尚も食い下がる。困ったぞ、ほんとに困った。いつも素直なリアは、必至で頼み込んでくる。しかし、確かに身に危険を感じているが、さすがに見た目は女の子と毎日登下校は恥ずかしすぎるだろ。それに、目立ちすぎだ。リアが、潤んだ目で見つめてくる。それを見て少しドキドキした。
「わ、わかったよ・・・じゃあ目立たたないようにするなら・・・」おいおい、いいのか俺?流されて返事して・・・。まあ、そんなに家から遠いわけでもないし、それでリアが納得するならまあいいか・・・。
「ありがとうございます」リアは、本当に喜んでいる。そんな姿を見て、俺は京太郎おじさんが言っていた事をまた思い出した。これは、あくまで主人を思っての行動だよな、もしかして本当に特別な感情を・・・いやいや、リアはロボットだ。帰りながらそれを自分自身に言い聞かせていた。
家に帰るとすぐに出かける準備をした。今日はバイトがある日だ。
「じゃあ、リアバイトに行ってくるから・・・」
「はい、では私も・・・」リアも一緒に出掛けようとしている。
「え?」俺は何故?みたいな顔をして聞きかえした。
「先ほど送り迎えいたしますって言いました」俺の不思議そうな顔に対してリアが説明する。
「え、バイトも・・・?」
「はい。駄目ですか・・・?」そう言って、また上目使いで聞いてくる。
「す、すぐ着くけどそれでいいなら・・・」
「はい、それでもいいです♪」リアは笑顔で答える。どうやら俺はリアに甘くなったようだ。あの目で訴えられると、どうしても断れない・・・。
こうして、リアと一緒にバイト先まで出かける事になってしまった。バイト先は近いのですぐに着いた。そして、裏口に回り入口の前に行くと、足立さんが入口前でたばこを吸っていた。
「あ、足立さんおはようございます」
「おう!」
「こんな所で何をしているんですか?」
「ああ、また詩織のやつが急に来れなくなったんだとよ、それで西沢のやつが電話で怒っていて、うるさいから避難していたとこだ」
「そうですか・・・」
「ん、誰だ?そいつ?」
「あ、すみません。俺の家のロボットです」
「そいつが?ふーん。最近のロボットはすごいな・・・」足立さんがリアを眺める。
「リアといいます」リアが自己紹介した。
「お、これは使えるな・・・」足立さんが急に何かをひらめいたようだ。
「おーい。西沢!」足立さんは裏口のドアを開けて、休憩室に入っていった。中では電話で怒鳴り声を上げている西沢さんがいる。
「おい、西沢。こいつ、真司のとこのロボットらしいぞ。使えるんじゃないのか?」
「ん?」怒っていた西沢さんが、会話を止めてこちらを見た。
「とにかく、次からもっと早くに連絡しろよな・・・」といって西沢さんは電話を切った。
「こいつが・・・真司のとこのロボットか・・・?」西沢さんはリアを根目回すように見ている。
「ふーん。いいじゃん、いいじゃん。おい、真司!お前のとこのロボット今日働かせろよ。ちゃんと給料出すから」
「え!?」いきなりの提案にびっくりした。確かにリアなら働けるとは思うけど。今日は心配して送り迎えに来ただけだ。働くために来たわけではない。でも、一応、リアに聞いてみる事にした。
「リア・・・働けるのか?」
「はい、お役に立てるのでしたら・・・」
「よし、決まった。真司いろいろ教えてやれ!」
「は、はい・・・」ほんとにいいのか・・・?
こうして、強引にリアはここで働くようになった。今日は週末ということもあり、お客さんも結構入った。リアが働いてなかったらおそらくものすごく大変だっただろう。それに、リアもよく動いていた。こう言っては失礼だけど、詩織よりも断然効率よく働いていた。
「おい、真司。お前のとこのロボット、すごいなー!」
「はい・・・いやあ、自分でもびっくりしています」
もともとすごいとは思っていたけど、こんな事も出来るとは思ってもみなかった。今日はリアがいるせいか、お店は大繁盛していた。リアの接客も上々で、お客さんに大人気だった。そして、ピーク時間も終わり、だいぶ落ち着いてきた。
「真司、リア。もう上がってもいいぞ!」
西沢さんが言ってくれたので休憩室に行くと、足立さんが賄食を用意してくれていた。
「おつかれ」斉藤さんが声をかけてくれた。
「あ、お疲れ様です・・・」
「おい、真司。お前のとこのロボット役に立つじゃないか」厨房でもリアの評判は上々だ。
「はあ、どうも・・・」
「ホント助かったよ」斉藤さんも相槌をうった。
「お役に立てたのでしたらよかったです」
「よう、真司!」ホールからン西沢さんが休憩室に入ってきた。
「まじで、こいつ、ここで働かせろよ!給料出すし」
「え、いや・・・でも・・・」チラリとリアの方を見た。
「真司さん、私働きます。働かせてください。お金もらえるんでしたら私、真司さんのお役に立ちたいんです・・・」またリアのお願いが始まった。今日で3回目だ。どちらにしても、西沢さんから言われたら、元々断りにくいのだが・・・だんだん俺は、リアに甘くなってきているような気がする・・・。
「まあ・・・お役に立てるのでしたら・・・」
いいのか?こんなに流されても。でも、近くにリアがいるのは心強い。
「よし、決まりだ。いい人材が入ってきたぞ」
西沢さんが笑顔で言った。こうしてあっさり、リアのバイトが決まった。その後、賄食を食べてから、リアの今後のシフトについて打ち合わせて帰った。
「ただいま!」
「あ、二人ともおかえり」家に帰ると彩夏が出迎えてくれた。
「あ!?」ここでふと思い出す。俺は賄食を食べてきたが、彩夏は晩ごはんどうしたんだ?本来リアは送り迎えだけで、家に帰る予定だったんだ。彩夏の晩御飯の事を忘れていた。
「彩夏、今日バイトがあってさ、その・・・」
「ああ、その事?知っているわよ。リアちゃんから連絡もらっているから」い、いつの間に・・?
「なんだ・・・でも、晩御飯はどうしたんだ?」
「リアちゃんが、ある程度作ってくれていたから、ほとんど温めただけよ」
「リア、お前いつの間に・・・」
「はい、学校に迎えに行く時に、念のために作っておきましたので・・・」なに?ということは・・・今日の事はすべて計算のうち?恐るべしリア。
「で、二人ともどうだったの?」
「どうだったって?」
「バイトよ。リアちゃん、ちゃんと働けたの?」
「はい、喜んでもらえました」
「ああ、確かによく働いたよ・・・」
「いいなあ。私も働いてみたいな・・・・」
「え、お前もか?勘弁してくれよ。それに、お前部活と生徒会が忙しいだろ?」
「そうなのよね・・・時間があれば私も働くのに・・・」
「彩夏さんなら十分働けるかと。今度、西沢様に聞いておきます」
「ありがとリアちゃん」
「おいおい。あんまり安請け合いするなよ」
「で、明日はどうするの?」
「一応、明日もバイトだ。それにリアも」
「そう、私は明後日、練習試合があるから明日は一日ずっと練習なの」
「あ、彩夏さん明日は私がお弁当作ります」
「ホント?いつもありがとうね。じゃあお願いね」
「はい、まかせてください」
彩夏もリアに甘えているんじゃないのか?最初は自分で料理作るみたいなこと言っていたのに。でも、手伝わない俺よりかはましか・・・。
四月二十日土曜日
目が覚めて下に降りた。彩夏はすでに部活の練習に向かっていて、いなかった。
「おはようリア」
「おはようございます」
今日のバイトは昼からだ。それまで時間がある。そんな日俺は決まってすることがある。それは、もちろんゲームだ!リアを誘って昼までゲームをした。やはり、リアは恐ろしく強く全く歯が立たなかった。
「あーやっぱ勝てない・・・」
「でも、真司さんのレベルもかなりのものですよ。私は世界中のプレーヤーとやりましたけど、その中でも上位に入っていると思います」
「ありがと。そう言ってもらえると嬉しいよ・・・」しかし、気分は納得いかない。確かに自信はあるが、リアが圧倒的に強いので、自信を喪失する。
「おっと、そろそろバイト行かないといけないな」
ゲームを終わらせ、リアとバイトに向かった。
「おはようございます」そう言ってリアとともに裏口から入った。
「やあ、おはよう」最初に出迎えて来てくれたのは、神代さんだった。
「ん、おや?真司君そちらにおわす、可愛い子ちゃんは誰かな?」
「えーと、あの、僕の家のロボットです」
「こんにちは、リアと申します」
「きーい、こんなきゃわいい子が・・・ロボットなんて・・・これは・・・うらやまけしからん!」
「おい、ショーもないこと言ってないで早く厨房戻ってこい!」足立さんが後ろから声をかける。
「真司も、リアも急いでくれ、忙しくなってきた―」
「はーい。わかりました」俺とリアは急いで着替えてホールに出た。働き始めて、すぐにピークがやってきて大変だったが、今日もリアが大活躍をして事なきを得た。
「お疲れさん、今日はもう上がっていいよ」西沢さんにそういわれて休憩室に行った。
「はあ、今日は大変だったな・・・」
ホントに今日は忙しかった。ここで働き始めて一番忙しかった。行列ができて、待ち時間が発生したくらいだ。
「この店、繁盛しているんですね」リアが聞いてきた。
「ほんとは、こんなに忙しくないんだけどね・・・」と、他愛もない会話をリアと話していると、後ろから声をかけてきた。
「おつかれ、真司君」
「あ、麻生さん。お疲れさまです」
「さっきは忙しくて話できなかったけど、無事だったみたいだね・・・」
さっきは忙しかったというのは、今日は働き始めてすぐに忙しかったので、普段できる雑談などは、今日は一度もできなかったからだ。
「え!?」と、俺は聞き返す。無事だったとはいったい何のことだろうか?
「いや、そのね、この前の話だけど・・・」この前の事とは、殺人事件に出くわした話の事だ。
「僕の店に怪しい奴らが来て、この前死んだやつの知り合いに高校生とかいなかったか?と聞いてきた奴が来たんだ。もしかしたら、真司君の事じゃないかって心配していたんだ・・・」
「じ、実は・・・この前、その殺人犯に会いました・・・」
「ええ!?本当に?それで大丈夫だったの?」
「まあ一応・・・。でも本当に危なかったです・・・」
「やっぱり・・・今後も気を付けた方がいいよ。あいつらは本当に危険だから・・・」
「知っているんですか?」
「詳しいことは知らない。でも、あの界隈で危険な組織があるというのは知っている。その組織に狙われたら、命はないというのが僕らの常識さ。とにかく、やつらは高校生を探しているみたいだったから、気を付けた方がいいよ・・・」
「わかりました。ありがとうございます。また、何か分かりましたら教えて下さい」
「ああ・・・わかったよ」
「真司さん・・・」横で聞いていたリアが心配そうに聞いていた。
「大丈夫だ!」俺はリアにそう答えた。やはり、あいつは俺のことを探していたのだろうか?ショッピングモール殺人事件の、唯一の目撃者である俺を・・・しかし、ここで疑問に思う。まず、俺が高校生だということが何故わかったのか?ショッピングモールに行ったあの時、俺は私服だった。それに先週殺された人と、俺は一切つながりがないし接点もない。だから、俺を探すために、最初からそのお店に高校生の知り合いを探しにくるというのは、理屈に合わない。しかも、冷静に考えてみると、先日公園で会った時は、偶然会ったみたいな事を言っていた。特に俺を探していた訳ではなかったみたいな感じだ。それと、あとは奴を知る目撃者が増えた事だ。それは、涼と春日だ。これ以上目撃者が増えて、みんな狙われるのだろうか?いちいち殺していたら、追いつかない・・・。どうも、俺を狙っていた訳ではない様な気がする。俺の事は確かに邪魔だと思っていた様だが、特に狙って重要視していなかったような気がする。この事件には何か裏があるような気がする。そう思いながらもリアと家に帰った。
夜、バイト先から帰った時には、彩夏は家に帰っていた。
「おかえりなさい。二人ともどうだった?」
「いやあ、久々に忙しかったよ。週末だからかな?」
「何言っているのよ!リアちゃんが原因でしょ。部活でも噂になっていたわよ」
「え!何が?」
「リアちゃんがファミレスで働いている事よ」
「え、ちょっとまて。リアが働き始めたのは昨日からだぞ。そんなに早くに、噂にはならないだろ?」
「でも、今日、練習の時に男子の間で噂になっていたわよ」
「あの、真司さん・・・その、私の非公式ですけど、ファンサイトに情報が出ています・・・」
「なに!?そんな馬鹿な!」
「まあ、仕方がないよね。前から話題になっていたんだから・・・」
これはやばい。
「リア、情報の拡大阻止できるか?」
「すみません、私の力でもここまで広がるともう出来ません・・・」
「くそ・・、仕方がないか・・・」恐るべし、オタクパワーだ。
「それはそうと、明日はライブの日だよね」
「ん、そうだな。でも、お前は練習試合だろ?」
「いいなあ、私も行きたかったなー」
「すみません彩夏さん・・・」
「あ、いいのよ、リアちゃんなら。明日は楽しんで来てね」
「はい。ありがとうございます」
「お前も、明日。試合頑張れよ」
「ありがとう」
「彩夏さん、明日は私がお弁当つくりますので、今日はもうゆっくりしてください」
「ありがとね、リアちゃん」
電気街騒動と事件の暗躍
四月二十一日日曜日
今日も朝起きたら、もうすでに彩夏は部活に行っていた。今日は練習試合の日だからだ。時間があれば応援に行きたいところだが、今日は涼のライブがある日なのでいけない
朝食を食べて、ゆっくりした後。昼前にリアと一緒に電車にのって、都市部に向かった。今日のライブ会場は、バンドマンが利用する比較的大きい会場だ。場所は電車で一度都市部に出てから、それから湾岸方面の電車に乗り換える。家から一時間半くらいのところにある。
昼過ぎ。俺とリアは都市部の電気街に来ていた。時間はまだ余裕がある。ライブは夕方前だから、あと数時間は余裕があるのだ。なので、俺のわがままだが、電気街に寄る事にした。というか、ここに寄るのも計画のうちだった。前から欲しかったゲームがあるので.早めに家を出たのだ。
「悪いな、寄り道して・・・」
「いえ、私は真司さんと出かけられるのでしたらどこでもいいですよ」なにやらリアは浮かれている。
「そ、そうか・・・」まっすぐなリアの気持ちに少し照れた。
「ところで真司さん。一体何を買うんですか?」
「ん?ああ。昔のゲームをね。レトロゲームショップの専門店に行かないと無いんだ!」
「へえ、やっぱり本当にゲームが好きでいらっしゃるんですね・・・」
「まあね、ゲームをやっている時は、今の自分を忘れることが出来るというか、空想世界だけど旅に出れるとか、新たな自分を発見出来るというか、とにかく楽しんだよ!」
「そうですね、私が初めて真司さんに会ったのもゲームの中でした。それに、家でゲームなさっている時もイキイキしています」
「そうかもしれないな。はははは・・・」リアとしゃべりながら、電気街を歩いて目当てのお店に向かう。やはり電気街だけあってオタクの街だ。メイドさんの姿をした人や、いかにもオタクと呼ばれる人々が街を行き交い活気に満ちている。ちょっと前まで、リアもメイド服を着ていたから、もしメイドの格好をしていたら、写真とか取られていただろう。でもまあ・・・・今でも家の中限定なら、メイド服をきている。リアは気に入っているんだろうか・・・?
そんな中、俺は何故だかリアと一緒に歩いていて気になる事がある。それは、明らかに見られている様な気がする事だ?俺達は注目を浴びている?この町には何度も訪れているが、このような雰囲気は初めてだ。ゲームが趣味の俺は、ゲームを求め、この町には何度も訪れている。その時に比べたら、明らかに今日は雰囲気が違うのだ。すれ違って通り過ぎる人から、明らかに見られているような気かがする・・・。何だろう?やっぱり、リアが可愛いからなのかな?アイドルとかには興味のない俺でも、リアはかなりのレベルで可愛いと思える。そんなリアがこのような街に来れば、一躍注目の的になるかもしれない。そんなことを思い、気になりながらもお店に到着し、店内に入った。
「わあー、古いゲームがいっぱいありますね・・・」
「まあね、古いゲームの専門店だからね」
「真司さん、あれはなんですか?」
「んーん?あれは知らないな・・・何だろ?」
「ちょっと待ってくださいね。今調べてみます」リアは少し黙った。たぶんネットにリンクして調べているのだろう。
「わかりました。1983年に弁天堂から発売されたファミリーコンピューターです。略してファミコンですね」
「ファミコン?」
「はい、今から約50年前位前に発売された、人類で初めての一般的に普及した、据え置き型家庭用ゲーム機です」
「へえー、うわ!?高い!」値札を見ると、三十万円と書いてある。
「そうですね、結構値を張りますね。三十万あれば卵が三千個買えますね・・・」
「ぷ・・・!?」リアの主婦的感覚が出た事に、俺は心の中で笑った。
「どうかしましたか?」
「い、いや。なんでもないよ!でもこれは流石に買えないな・・・」
「やってみたいのですか?」
「いや、いいよ。ゲームは楽しくやるものだからね、こんなにお金を出したら楽しめないよ・・・」
「そうですよね」
「あ、いけね、長居しすぎたな、そろそろ行こうか!」
「はい・・・」
お目当てのゲームを買って店を出た。お店を出てものすごい人だかりにびっくりした。最初は何かのイベントか、何かしているのかなと思ったが、すぐにその考えが甘かったということに気付いた。
「おいおい、あの子だよ、あの子!この前ニュースに出てた子だぞ!」
「わー、実物はめっちゃ可愛い・・・」そこらかしこに、声が聞こえてくる。やはり、注目を浴びているのはリアだった。店に入る前からなんとなく注目を浴びているな、とは思っていたが、お店に入っている少しの間にあっという間に人だかりができていた。
「わ、こっち向いたぞ。可愛いい!」一斉にカメラを向けられ、フラッシュでまぶしい・・・。まるで芸能人みたいだ。
「やばい・・・リア、駅まで行くぞ!」
「はい・・・」俺とリアは駅に向かった。
しかし、人だかりが邪魔で、思うように進めなかった。
「リア!」「真司さん!」俺とリアは人だかりに巻き込まれて、どんどん離れていく。ついに、あまりの人の多さに俺はリアとはぐれてしまった。
「くそ、なんなんだよ!この人の多さは。芸能人かよ・・・」
その時だった。
「おおおおおお・・・」歓声が聞こえる。どこかで路上イベントでもやっているのだろうか?
「真司さん!」なんと、リアが空から下りてきた。
「リア・・・お前?」そんな俺の呼びかけも気にせずにリアは次の行動に出た。
「私につかまってください」リアは、俺に抱きついた。え?と思い。少しドキドキしたが、そんな事もリアはお構いなしに、手からワイヤーをだして、隣のビルの屋上に引っ掛けた。
「行きます」リアの掛け声と同時に、ワイヤーはどんどん巻き込まれ、俺とリアは宙釣りで上にどんどん上がっていく。それは丁度、この前の火事の現場のようだった。どんどん屋上に近づき、下を見ると人だかりができていて、みんなこちらを見ている。そうこう思っている間に、あっという間にビルの屋上に飛び乗った。
「リア、目立ちすぎだよ!」
「すみません。でもこうでもしないとはぐれそうだったので・・・」
「でも俺、ここから降りれないんだけど・・・」
「大丈夫です。私におまかせください」そういうと、リアは、また俺を摑み・・・というか抱きしめられている状態になった。それに、俺がドキドキしている余裕もないうちに、リアは次の行動に出た。
「行きます」
「え、また?ちょっとまって・・・」リアはまた隣のビルの屋上の施設にワイヤーをひっかけ飛びだした。そして、隣のビルに移ると、また隣のビルにひっかけて、そしてまた飛び移る。そう、ちょうどスパイダーマンのように飛び移っていった。遊園地のアトラクションのように、ものすごい迫力だった。だけどそんな恐怖を感じつつも、リアと密着状態でいる自分に少しドキドキしていた。何度かビルを越えたとこで駅前に着いて、駅前の少し広いとこにさっそうと空から舞い降りた。
「着きました」
リアは、何事もなかったように平然としている。周りの人々は急に空から降りてきた人を見てびっくりしている。
「ありがとう・・・でもとりあえず行こう」
これ以上ここにいるのは危険だと判断してリアの手を取り、急いで駅の構内に入っていった。
電気街から電車に乗って、ライブ会場がある沿岸施設についたのは、夕方4時前だった。開演は5時からなので、あと1時間程余裕がある。高橋兄妹と涼とはちょうど4時に、会場前で待ち合わせているからもうすぐ来るはずだ。
「もう、ぼちぼち来ているとは思うんだけどな・・・」しばらく待っていると後ろから声を掛けられた。
「真司お兄ちゃん!」
「ん?お兄ちゃん?」俺には妹なんていないのだが・・・?でも確かに真司と言ったので俺で間違いないのだろう。そう思って振り向くと孝治の妹の美緒ちゃんが立っている。
「おっす!」孝治がさらに後ろから声を掛けてきた。
「孝治、それに美緒ちゃんも・・・」高橋兄妹は二人そろって先に来ていた。
「所で・・・美緒ちゃん?お兄ちゃんってどういうこと・・・」俺は理解できずに美緒ちゃんに質問した。
「どうやらこいつ、妹キャラで行くらしいぜ!」
「妹キャラ・・・?」何を言っているんだ?キャラって元々妹だろ?
「兄貴は黙ってて!」
「妹キャラって・・・美緒ちゃんは元々、孝治の妹じゃないのか?」
「いいえ、こんなのは本当の兄ではありません!」美緒ちゃん・・・相変わらず兄に冷たい。
「おい、それはどういう事だ?」否定された孝治が一言突っ込みを入れる。
「私は真司お兄ちゃんの妹としてすっとそばにいます・・・」
そっと腕をからませてくる。俺は密着具合に少しドキドキした。
「ははは、ありがとう・・・」俺は、愛想笑いをする。まあ、いつものおふざけが始まったのだろと俺は思った。もともと美緒ちゃんは中学の時から俺を慕ってくれるし、兄である孝治には冷たい。でも、俺は知っている。この兄弟が信頼し合っていることを・・・。
「それより、真司。その子が例のロボットか?」気になっていた孝治が、興味津々で聞いてきた。
「ああ、リアって言うんだ」
「こんにちは、リアと申します」
「うわー、すっげえ可愛いな。彩夏様にも負け劣らず・・・」
「そんな・・・彩夏さん程ではありませんよ」リアは彩夏と比べられて謙遜している。
「私、負けませんから・・・」美緒ちゃんがリアを睨みつけた。
「おいおい、お前は何を対抗心燃やしているんだよ!」孝治が美緒ちゃんに突っ込みを入れる。
「うるさいわね、このストーカーオタク!」
「な、なんだと。お前の方こそ相手にされていないのにまとわりつきやがって、このストーカー女!」
「まあまあ。二人ともこんなところで兄妹喧はしないで・・・」
俺は二人が睨み合っている間に入って、仲裁に入る。これはいつもの事だ。いつも、二人は喧嘩している。でも、俺は知っているのだ。孝治は妹を大事にしているという事を。気にかけている事を。そんな二人をいつも羨ましいと思っていた。また美穂ちゃんも、孝治を気にかける場面を、俺は何度も見ているので、この兄妹は仲がいいのだ。あと、美緒ちゃんは俺に対して好意みたいなものを寄せてきてくれる。しかし、俺は友達の妹ということもあり、小さい時から知ってるから、恋愛対象として見てない。どうせ身近な男性だからだろうと思っている。熱が冷めればいずれ離れていくだろうと思っているからだ。
「あの・・・すみません・・・」孝治たちと合流してしゃべっていると。見知らぬスーツ姿の男性が声をかけてきた。歳は20代前半のイケメン風男性だ。
「あの、真司君ですか・・・?」
「はい、そうですが・・・」
「ああ、よかった。涼君から頼まれてきたんだ。ムーンフェイスのマネージャーの三宅拓哉です。よろしく」ムーンフェイスとは涼が所属しているバンド名だ。
「悪いけど控室に案内して来てほしいって言われてきたんだ。ちょっと来てもらっていいかな?」
「は、はい。わかりました・・・」みんなで、その男について行った。会場にある関係者入口の裏口から入ったので、ものすごく緊張した。裏口から入った会場は、数多くのスタッフがあっちこっちに行きかっており、まさに修羅場の状態だった。たまにスタッフとすれ違いつつ、長い廊下を歩いた先に控室があった。そして、中に入ると涼がいた。
「よう、ご苦労さん。今日はわざわざありがとな」
「おう、そっちも元気そうだな」
「まあな、おかげさまで。ん、そっちの子はたしかあの時の・・・」
「ああ、リアだ」
「どうも、お邪魔しています」
「いやあ、この前はどうもおおきに。本当に助かったわ。君は命の恩人やわ」
「お役に立てて光栄です」
「お前、あの時の傷もう大丈夫なのか?」
「まあ、傷は少し痛いだけや。ちょっとかすっただけやし、普通に歩く分には問題あらへん」
「ならよかった。でも、今日のライブは大丈夫なのか?」
「まあ、あまり激しい動きをせえへんのやったら大丈夫や」
「ふーん・・・じゃあ、今日のライブ楽しみにしてるぞ!」
「おう、まかしとけ・・・真司、孝治・・・」涼が真剣な表情で声をかけてくる。
「俺はやるぞ・・・」
「ああ・・・」
「今度のライブを成功させて、必ず世界に出るからな。先に世界で待っている。お前たちも早く駆け上がってこいよ!」
涼から並々ならぬ緊張感が立ち込めている。涼は俺達も目標に向かって頑張れと言っていると思った。それと同時に、自分自身に言い聞かせているのも感じた。涼は開演直前で、モチベーションが高まっているようだ。
「お、おう。頑張れよ!」
なにげなく返事をしたが、はっきりいって羨ましかった。本気で打ち込めるものがあって、その目標を掴み取ろうとしているのが。俺にはあるだろうか?本気で打ち込める事が。涼を励ましに来たのに、逆に励まされて、自分自身が恥ずかしくなった。そして、期待に応えられない自分自身にいらだちを覚えた。その後、涼との挨拶もそこそこに、マネージャーに連れられて会場に向かった。
「あいつ、かなり真剣だったよな・・・」孝治が言った。
「たぶん、今回のライブにかけているんだろ」
「そうだな。俺達も頑張らないといけないな・・・」
そう答えたが、自分には打ち込める夢がない事に焦りを覚えた。
会場に着いて、チケットの番号の場所に行くと、かなり前の方の席だった。会場には、もうすでに1000人近くの人が来て賑わっていた。ここの会場は、ライブハウスと呼ぶには広く、コンサートホールと呼ぶには狭い。大体、中規模くらいの会場だ。それだけでも、ただの小さなバンドではないことがわかる。チケットに、開演と書いてある時間まであと15分。会場のボルテージは最高潮だ。
「ちょっとトイレ言ってくる・・・」緊張からか?尿意をもよおした。
「あ、真司お兄ちゃん私も行く・・・」
「お、お前も緊張しているのか?」孝治が美緒ちゃんを茶化す。
「うるさいわね!」
「あの・・・真司さん私もついていきましょうか?」
「いや、大丈夫だ。ここで孝治と一緒に待っていてくれ」
リアが心配してくれたが、人の多い場所なので心配する必要はないと思った。
「そうよ、真司お兄ちゃんの事は私にまかせて頂戴!」
リアの態度が少し気になったが、美緒ちゃんと、トイレに行くことになった。人ごみをかき分け、トイレに向かうと女子トイレの方は行列が出来ている。
「あちゃー、女子トイレの方が並んでいるな・・・」
「ごめんなさい、真司おにいちゃん。もしかしたら待たせてしまうかもしれないから、長くなるようでしたら先に行っておいて下さい!」美緒ちゃんの心遣いに感心したが、俺もそんな薄情な男ではない。
「いや、いいよ。あそこのベンチで待っているから行ってきな」
「ほんと?ありがとう真司お兄ちゃん」美緒ちゃんは、満面の笑みでトイレに向かった。それにしても「お兄ちゃん」って呼ばれるのも恥ずかしいな。今までそんな呼ばれ方しなかったからなおさらだ。でもまあ、そのうち飽きるだろう、ということで気にしないことにした。もしかしたら兄妹のいない俺は、そう呼ばれるのを楽しんでいるのかもしれない。
それから俺は、先にトイレをすませて通路のベンチに座って美緒ちゃんを待っていた。
「ふー、今日は色々あったな・・・」
昼間の状況を思い出してゆっくりしていた。リアにあそこまでの能力があったとは・・・。よくよく考えてみれば、彼女は家に来て以来ほとんど家にいたし、あのように能力を発揮するような場面はなかった。そう、ふと、思いふけているその時だった・・・。目の前を通り過ぎた男が、黒い服に黒いサングラスをしていた。もしかして・・・?この格好の男はあの時の男?いや、一瞬しか見えなかったけど、わずかに体格は違っていた様な気がする。立ち上がって、通り過ぎた男の後ろ姿を見たが、確かに体格は違っているように見える。
「やっぱり、見間違いなのだろうか?」もし奴だったら、俺を見たらすぐに襲ってきたはず。俺に気付かずに通り過ぎたということは、奴じゃなかったのか?
「真司お兄ちゃんお待たせ。どうしたの?」今さっき通り過ぎた男を立ち上がって、後ろ姿を見ていると、美緒ちゃんがトイレから帰ってきて、後ろから声をかけてきた。
「い、いや。なんでもないよ・・・」この会場はバンドのコンサート会場だ。黒い恰好をしている人はいっぱいいる。たまたま似た男が通り過ぎただけと思い、その場を離れることにした。
そして、トイレから戻り、孝治とリアが待つ場所に戻った時に、ちょうどライブが始まった。スピーカーから、大音量の音楽が鳴って、メンバーが登場した、そして、そのまま演奏が始まった。その光景に観客達は、歓喜して大音量の中、盛り上がった。ステージに立っている涼は、イキイキしている。乗りに乗って演奏している。しかし、マネージャーから激しい運動を止められているせいか、ステージの上を動き回ってはいない。むしろ、ボーカルのヤスユキがあっちにこっちに動き回っている。時折、リアや美緒ちゃんが話しかけるが、五月蠅くて何を言っているのかわからないくらい大音量だ。でも、二人の表情を見る限りでは、満足して曲を聴いているようだ。それから5曲ほど演奏した後、MCに入った。
「みんなー、今日はどうもありがとー!」 「いえーい」(観客)
「ええ、今まで細々やってきたのだけど、ついに完全メジャーデビュー決まりましたー」
「いえーい」(観客)「おめでとうー」(観客)「待っていたよー」(観客)
「みんな本当にどうもありがとうー」
「いえーい」(観客)
「今度発売の新曲ひっさげて、ついに全国ツアー決まりました」
「いえーい」(観客)
「みんな、今まで応援してくれて本当にどうもありがとー」
「いえーい」(観客)
「これからいよいよ新曲発表したいんだけど、その前にメンバー紹介します」
「いえーい。」(観客)
「まずは我がメンバー期待の一番の若手の、ギターリョウー」
「リョーウー!」(観客)観客が一斉に涼の名前を呼ぶ、涼もそれにこたえるかのように、激しくギターを弾く。俺の昔からの親友がステージの上で多くの人に注目を浴びている。素直にうれしい。中学校の時に、初めて会って以来。あいつはいつも練習をして指から血が出ているのも何度も見てきた。近所迷惑にならないように気を使って深夜の公園で朝まで練習していたのを何度も見た。いま、こうやって成功して本当によかった。
「おめでとう!涼!」思いっきり叫んで祝福をしたが、観客の歓声にかき消された。おそらく、隣にいる孝治たちにも、たぶん俺の声は聞こえていないだろう。
「続きまして、ドラムス、ジーン!」
「みんな、楽しんで行ってくれー」
「いぇーい」(観客)
「ジーン・・・!」(観客)
「そして次は、ベース、タナカ!」
「タナカー!」(観客)タナカは無言で激しく演奏する。観客がタナカのベースに聞き惚れる。そして、演奏が終わると目の前のマイクにタナカが答えた。
「最後に、我らのリーダー、ボーカルヤスユキー」
「ヤスユキー!」(観客)さすがボーカルだけあって、歓声は最高潮だ。俺たちがいる場所はステージのすぐ下なので、涼達バンドのメンバーの表情も動きも、よく見える。
「みんな、今まで応援してくれてどうもありがとう。次は新曲いきます。聞いて下さい・・・」
次の曲にいこうとしたその時に、ステージの横から乱入してくる人間がいる。よく見て見ると、さっき通路で見かけた黒服の男だった。そして、ポリタンクを持って、ステージ中央のボーカルのヤスユキの所まで行った。周りの観客はサプライズショーの1部だと思ってザワザワしているが、動揺は、見られない。観客達は特に気にせずに見ている。だから俺も半信半疑だった。もしかして?とも思ったが、そんなはずはないとみていたが、どうやら悪い予感の方が当たった。
「お、お前は・・・!?」ヤスユキは急におびえて叫びだした。しかし、その男は無言でポリタンクの中身の液体をヤスユキにぶちまけた。周りの観客はザワザワとざわめいている。他のメンバーも、皆一応に驚いている。だが、ここ最近俺は、あの黒い服の男と戦って来たので、俺だけは最悪の状況を想定していた。
「や、やばい・・・」
「助けてくれー」マイクをとおしてヤスユキの悲鳴がこだまする。そして、その男は観客が見ている前で堂々と、ジッポライターに火をつけた。それを見て俺はこれから起こることを覚悟した。そして、美緒ちゃんの目を手で隠した。
「え、なに・・・?」
「見ない方がいい・・・」
「ぐあああああああ!」マイクを通してヤスユキの悲鳴がこだまする。それと同時に、火災報知器がなった。
「ファンファン、火事です、火事です火災が発生しました、落ち着いて避難してください」
火災報知機のサイレンとともに、館内に放送が流れる。そして、ステージの両脇から炎があがった。それを見て観客もパニックになり悲鳴とともに一斉に後ろのドアに逃げ出した
「きゃああああ!」会場内は大パニックになった。するとリアがステージの上にひょいと飛び乗り、ステージ上のヤスユキに消化剤をまいた。それを見た男はナイフを出してリアに襲いかかった。
「リアああああ!」心配して俺は叫んだ。リアは消化しながらも、後ろ回し蹴りで、その男に一撃を喰らわした。その男は後ろに吹き飛んだ。そして、ようやくヤスユキの炎は消えた。それを見て、涼や他のメンバーがヤスユキに駆け寄った。
「ヤスユキー」
「みんな、すまない・・・。俺のせいだ・・・」そういってヤスユキは息絶えた。
「ヤスユキ!」メンバー全員で叫んだ。
「真司さん、早くみなさんを連れて避難して下さい」
「で、でも、リア・・・君は?」
「私は、あの男を捕まえます。そして、多分、ほかにも仲間がいます・・・」
「それじゃあ、奴がここに・・・?」
「多分いると思います。ここで決着をつけます」
「だったら、俺も・・・」
「大丈夫です。私に任せて下さい」
「でも・・・」
「真司、あの子、強いんだろ。早く逃げないと、周りの火が会場全体を回ってきている。それに、ヤスユキを運ぶのを手伝ってくれ」
涼が冷静に現在の状況を説明した。
「・・・、わかった」リアを一人置いていくのは心配だけど、人の命がかかっている。ここは仕方がないとお思い、ヤスユキの遺体を運ぶのを手伝った。
「リア、やばいと思ったらすぐ逃げろよ・・・」
「はい、ありがとうございます」リアはさっき蹴り飛ばした男と対峙して、戦いを始めた。リアを置いていくのは心残りだったが、とりあえず先に孝治と美緒ちゃん、涼、そして、ヤスユキの遺体と皆を早く安全な場所に連れて行かないといけないと思った。観客は一斉に先に逃げ出しており、俺達が逃げようとした時には、もうほとんどの人が逃げだしていた。おそらく、俺達が一番最後だろう。周りをよく見てみると、少しずつだが、火の手はいろんな場所から出ていて、煙も、ものすごい勢いで会場内を立ち込めている。そして、出口までもう少しという所で、俺は決心した。
「涼、あとは頼む。俺はリアを迎えに行って来る!」
「おい、止めとけって!危ないぞ!」
「真司お兄ちゃん!」
「お前は駄目だ!」美緒も俺を追いかけようとしたが、孝治が止めた。
「放して、バカ兄貴。真司お兄ちゃんが・・・」
俺は木刀をもって、来た道を引き返した。受付ブースを抜け、ホールに入ったら、もう周りは火に包まれていた。わずかに安全といえるスペースは、中央のステージだ。煙が会場内の天井に充満しており、会場全体を包むのも時間の問題だ。
「リアああああ!」俺は、大声で叫んだが返事はない。ステージに近づいてみると、煙の中から人影が見える。
「まさかこんな所で会うとな・・・お前とはよっぽど縁があると見える」
先日会った黒い服の男だ。しかも、二人も仲間を引き連れている。そのうちの一人は俺がさっき通路で会った奴だ。俺は木刀を構えた。
「お前達は一体何だ!何者なんだ!?」警察も知らない、リアが調べてもわからない何者なんだ。
「くくくく、俺様に二度も狙われて、死ななかったお前に免じて教えてやるよ。どうせ警察に言ったとこで、特に問題は無いしな」
問題ない?どういうことだ・・・
「俺達は殺し専門の暗殺集団だ!」
「暗殺・・・」何を言っているんだ?こんなものが本当に存在しているのか?
「俺の名前は津山。周りは殺人鬼津山と呼ばれている。あ、言っておくが警察はもうすでに俺の名前は知っているぞ!」
「津山だって・・・」だったら何故世間に公表しない?どういうことだ?
「俺達は依頼があれば人を殺す。いわば汚れ役だ。」
「そんな・・・そんな組織があるなんて・・・」
「ふん、いかにも世間知らずのお坊ちゃんだな・・・」
「世の中にはそういうものがあるんだよ」
「だったら・・・俺も殺すのか?」
「お前が死んで、誰かが得するのか?お前を狙ったのは偶然居合わせたに過ぎない」
「だったら何故・・・?」
「今回のターゲットは、このバンドグループのリーダーが標的になった。それだけだ。最初にお前と会った時に殺したあいつと、今回のバンドのリーダーは知り合いだったんだよ」
「それじゃあ、この前会った時は・・・」
「バンドのリーダーのヤスユキの周辺を調べてリョウに会いに来たら、お前に会ったという訳さ!」
「じゃあ、この前の本当の狙いは涼?」
「本当は誘拐するのが目的だったんだがな、お前の邪魔が入るのは想定外だったよ。それに、あのロボットもな!」
「ハッ!?お前、リアはどうした?」ここでリアの事を思い出した。
「くくく、お前の大事なロボットは向こうのステージの上で倒れているぜ。高電圧スタンガンで電撃を喰らわせてやったからな」
「何!?」
「普通の機械なら高電圧を受けたらショートして再起不能になるはずなのに、あのロボットは体が動かなくなるだけだった。全くあのロボットは化け物か!」
「お前―、許さない!」俺は木刀を構えた。
「いいのか?助けに行かなくて?今から行って、担いで脱出しても、もう間に合わねえと思うがな。おっと、いけねえ、長居し過ぎたな。悪いが俺たちはズラかさせてもらう。じゃあな・・・」
黒い服の男たちは出口に向かって走って行った。みすみす見逃した!?というよりも見逃してもらったに近い。俺達が助かる見込みがないとみられたか・・・。早くリアを見つけないと・・・。そういえばさっき津山はテージの上と言っていた。急いでステージの上に上ると、やはりリアがいた。
「リア!?」
「し、真司さん。どうして・・・ここに?すみません、油断してしまいました。後ろから高電圧を受けてしまい動けなくなってしまいました・・・」
「そんなことはいい!」
「すぐに首から上の人工知能への電流はカットしたので意識はあるのですが、体が動かなくなってしまいました。一応なんとか応急処置で右手だけは復旧出来たのですが・・・」
「もういいから、早く脱出するぞ」そういって俺はリアを担いで立ち上がった。
「真司さん・・・私のことはいいので早く一人で逃げてください・・・」
「何言ってるんだ!駄目だ、一緒に脱出する!」
「私を担いで脱出は無理です。このままでは二人とも・・・」確かにリアを担いで走れない。よたよたと歩くだけだ。
「お前を、置いていけない・・・」
「私、ロボットだから・・・」
「そんなの関係ない!!」
「え・・・?」
「人間だとかロボットだとかそんなの燃えてなくなってしまえば一緒じゃないか!だからお前を置いてはいけない」
俺は叫んだ。するとリアは押し黙った。今まで散々助けてもらって、ここで見捨てることが出来はずがない。しかし、さっき通った道も、すでに煙に覆われている。逃げ道は完全になくなっている。それに煙を吸ったせいか、意識がもうろうとしてきた。
「だめです。このままでは真司さんが・・・」
そして、俺はリアを担いだまま、体に力が入らなくなり、とうとう倒れてしまった。
まさかのロボット転校生!?
四月二十二月曜日
俺は病院のベッドで目が覚めた。
「うーん、ここは・・・」
「真君・・・」彩夏が抱きついてきた。
「え、ちょ、ちょっとお前、なんでここに?」
抱きつかれた気恥ずかしさや、ここはどこ?という思いで頭がパニックになった。
「えーん・・・ものすごく心配したんだから!」彩夏は涙ぐんでいる。なにやら頭痛がする・・・すごく気持ちが悪い。しかし、気持ち悪さと同時に、ライブ会場でのことを思い出した。
「そうだ!?リアは?リアはどうした?」
「え、リアちゃんは、その・・・」彩夏は後ろを見た。
「一応無事だ!」彩夏の後ろでリアのお姉さん、エミリアが答えた。
「あなたは、確かリアのお姉さん!?」
「さすがにベイエリアも損傷してしまってな、マスターが修理のために研究所に連れて帰った」
「そうか・・・無事だったか。よかった・・・」
「この、エミリアさんが助けてくれたそうよ」
「そうだったのか。ありがとう」
「私がベイエリアに呼ばれて着いた時は、もうすでに真司殿は意識がなかったがな・・・」
後ろからドアが開く音がした。孝治と美緒ちゃんだ。
「真司お兄ちゃん。よかった目が覚めたんですね・・・」美緒ちゃんが駆け寄ってきて、彩夏を押しのけて抱きついてきた。
「心配したんですから・・・」
「よ、気が付いたみたいだな。だから言っただろ?ただ眠っているだけだって!」孝治が美緒ちゃんに諭していた。
「二人とも、心配かけてすまん。それに彩夏も・・・」
美緒が彩夏を睨みつけている。美緒は彩夏に対していつも対抗心を燃やしている。そんな彩夏は一歩引いて睨まれた美緒を見て、微笑んで返している。年上の余裕だろうか、どちらにしても、いつもの光景で俺はホッとした。
「涼は?涼はどうした?」
「ああ、一応無事だけどあの後、涼はバンドのメンバーの人たちと一緒に行ったよ・・・」俺の問いには、孝治が答えてくれた。
「いま、ニュースでは昨日の事件と、ムーンフェイスのリーダーが殺されたって大騒ぎだぜ!」
「やっぱりあの人は・・・死んだのか・・・」話した事はないけど、涼の知り合いだ。それに、津山は今回のターゲットと言っていた。
「ああ・・・涼も、しばらくは葬儀やなんやらで忙しいみたいだ。お、そういえば、お前が目覚めたら連絡くれって言われていたんだった。悪い、ちょっと電話してくるわ!」
「よろしく言っといてくれ!」
孝治は病室から出ていった。
「でも、ほ、本当によかった。真司お兄ちゃん死んじゃうかと思った・・・」美緒が泣きそうな声で言った。
「ありがと。俺も美緒ちゃんが無事でよかったよ」美緒ちゃんの頭を撫でてやる、まるで本物の兄妹のように。
「ほんと、いいお兄さんぷりだこと・・・」彩夏が冷やかしぎみに言う。
「いーだ。私と真司お兄ちゃんは信頼関係で結ばれているんです」美緒は彩夏につっかかった。
彩夏は少し呆れ気味だ。
「俺は一体どれくらい眠っていたんだ?」
「一日よ。事件があったのは昨日の夕方よ」彩夏が答えてくれた。
「じゃあ、あれから10時間以上か・・・」
「ニュースでは犯人は捕まってないそうよ・・・」
「そうか・・・」また、警察は犯人を発表しないのか?津山を?何か理由があるのだろか?
「ところで、エミリアさん。リアはいつ帰ってくるんですか?」
「マスターがおっしゃるには明日には終わると言っていました。なので、明日までは私が真司殿の護衛兼ロボットになるようにと、マスターに仰せつかっています。どうぞ、なんでも言いつけてくださいませ」
エミリアはお辞儀をした。すごく丁寧な対応だ。
「え、エミリアさんが・・・」
「ベイエリア程ではありませんが、掃除、洗濯、家事育児、暗殺から要人の護衛までなんでもこなします」
「暗殺って・・・」あの集団と一緒かよ・・・。俺は心の中で突っ込んだ。
「あ、いえ。あくまで表現の一つですので・・・」本気にされては困ると思ったのかすぐに言い直した。
「わかっています!」流石にそこまで本気に考えていない。
「病院の先生は目が覚め次第、退院と言っておりましたので、今日家に帰ったら、晩御飯は私が作らせてもらいます。何か食べたいものはありますか?」
「いや、なんでもいいよ。お任せします。一日だけですけどよろしくお願いします」
その後、病院の先生に体を少し見てもらってからエミリアと彩夏と高橋兄妹と一緒に帰った。そして、その日の夜は・・・彩夏のエミリアへの質問攻撃で一日を終えた。リア以外のロボットが珍しかったのだろう。兄妹は何人いるのか・・・じゃなくて、何台いるのか?とか。リアとの違いとか、料理のレパートリーの事についてだとか、色々聞いていて男の俺には、あまり興味のない事ばかりを聞いていていた。俺は、そんな彩夏を眺めながら、リアは本当に大丈夫なのだろうか?今頃何しているのか気なっていた。
四月二十三日火曜日
今日も起きれば、彩夏はもう学校に行っていた。どうやら昨日の夜の話によると、彩夏は昨日学校を休んで、俺の看病をしていたらしい。迷惑をかけて申し訳ない。そのせいで、生徒会の仕事も溜まって、部活の練習も遅れているそうだ。それにしても、あいつは学校に、部活に、忙しいのによくやる。もちろん感謝はしているが・・・。
「しかたがない。なにか困ったことがあれば手伝ってやるか・・・」
去年、彩夏が生徒会長になった時は散々手伝わされた。慣れない仕事で大変そうに見えたからつい手伝ってしまった。だが、日にちが経つにつれ、慣れてくると手伝わなくなった。もちろん、あまり関わりたくないという気持ちもあったのだが・・・。
「おはようございます」目が覚めて下に降りるとエミリアが挨拶してきた。
「あ、おはようございます・・・」
そうだった。今日はエミリアさんだった。なんか、少し違和感がある。それだけ今までリアがこの家に馴染んでいた証拠だ。席に座って、エミリアが用意してくれた朝食をとる。
「あ、そういえば今日はリアが帰ってくるんですよね、いつ帰ってくるのか分かりますか?」
「いえ、私は聞いていませんので分かりません」
「そうですか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」沈黙が続く、エミリアさんは無口であまりしゃべらない。しかも、無表情で感情が全く感じられないのだ。俺はあまりしゃべるのは得意ではないが、エミリアさんとの会話で、この緊張感というか、なんというか、はっきり言ってきまづい・・・。元々、エミリアさんってなんだかとっつきにくそうで、感情がないので和やかな雰囲気がないのだ。自意識過剰かもしれないが、エミリアさんとのこの緊張した空気を変える為、何か話題をと、思って話を振ってみることにした。
「あ、あの・・・エミリアさんは何故俺を助けたの?」
俺は一体何を言っているんだ?この言い方はまるで、助けに来たのが駄目だったみたいじゃないか。何故こんな言い方しかできない。
「あ、いや・・・よく僕らがピンチだと分かったね・・・」すぐに言い直した。
「昨日、ベイエリアに呼ばれたからと言いましたが・・・」エミリアさんの返しも冷たい。
「いや、その、あまりにも来てくれたのが早かったから・・・」
「そうでしょうか?私が着いた時には真司殿はもうすでに意識がなかったですが・・・」
「そ、そうだよね・・・」
くそー。何故だ?どうしても言葉足らずな会話になってしまう。
「いや、その・・・リアとエミリアさんがどういう風に連絡を取り合っていたのかなあ?と思って・・・」
「・・・そうですね。私たちはネット回線でつながっています。基本は、あまりプライベートなことは流しませんが、あのような緊急な状態の時は、私達も直接回線で見ることができます。といいますか、ベイエリアが急にデータを送って来たのです。そして、私が一番近くにいましたので急いで駆け付けました」
「へー、すごい事が出来るんだね。でも、そのおかげで本当に助かったよ・・・」
「いえ、私は運び出しただけですから。本来、私は真司殿が生存可能な時間に間に合っていませんでした。あなたの命を救ったのはベイエリアです」
「リアが・・・?生存可能な時間・・・?いったいどういう事だろうか・・・?」
「つまり、ベイエリアがあなたに酸素を供給し続けたからです」
「なるほど、最近のロボットは酸素も作り出せるんだな。すごいなあー」
「いえ、私には出来ません。私は酸素を作りだせるロボットなんて、業務用以外では聞いたことがありません。恐らくベイエリアだけの性能だと思います・・・」
「ふーん。じゃあ、たまたま俺は運が良かったという事か?」
「マスターが言うには、ベイエリアは普通のロボットとは違うそうです。半分生きているとおっしゃっています。ベイエリアの体内には、色々なサイクルがあって、様々な循環が起きて生み出出されています」
「え、ちょっと待って。体内で生み出すということは酸素もだよね?」
「はい。そうです」
「え、ということは・・・俺に酸素を供給していたって・・・どうやって?」
「それは、もちろん口で、ですが・・・」
「え!?口っていうと・・・その、リアの口が俺の口に・・・?」
「はい、人工呼吸でもマウストゥマウスが常識だと思いますが・・・」エミリアは当然といった顔をしている。
ちょ、ちょっと待て・・・それは事実上キスしていたということじゃないか。いやまてよ、リアはロボットであり、キスにはならない。そうそう、今、エミリアさんだって人工呼吸だって言っていたし。いや、でも見た目はほとんど人間であり、女の子だ。リアの姿を思い浮かべてみると、急に恥ずかしさがこみあげてくる。いやいやでも、あくまで緊急だったんだし、向こうは何も感じてないよな・・・。だめだ、意識すると、次にリアにあったら顔をまともに見られないかもしれない。
「どうか、なされましたか?」
「い、いや何でもないよ。もう・・・学校行くよ・・・」急に気恥ずかしさで一杯になり、その場を離れたくなった。
「はい、では行ってらっしゃいませ」
エミリアさんが用意してくれたお弁当を持って登校した。今日は比較的早くに、学校に着いた。そして、いつも通りに自転車を自転車置き場に置いて、靴箱に靴を置いて教室に向かった。そのあと教室に向かう途中で孝治に会った。
「おう、真司。元気になったみたいだな」
「まあな、心配かけたな」
「いいって事よ。で、お前の所のロボット帰って来たのか?」
「いや、まだだよ・・・」
「それにしても、お前のところのロボットって、ホント可愛かったよな。マジで羨ましいよ」
「くれって、言ってもやらんぞ!」
「いや、さすがにそこまであつかましくないよ。ところでお前、あれだけ可愛かったら、いくらロボットでも少しはドキドキするだろ?」
「ば、バカ言うなよ。あ、あいつはあくまでロボットで、そんな対象にはなりえないんだよ・・・」
「おまえ本当にそういうところは硬いよな。ああ・・・だから俺の妹にも恋愛対象になれないのか・・・」
「美緒ちゃんは小学生の時からの知り合いだろ。もう、ほとんど妹みたいなもんだよ。この前、本人もそう言っていたじゃないか!?」
「ふーん・・・。まあいいけどよ。我が妹ながら可哀相に・・・」
「何か言ったか?」
「いや別に!こっちの事だ。でもまあ、別にいいんじゃねえの?今時ロボットが恋人だっていう人いるじゃん・・・。確かにそういう人たちは別世界の人達の様に思えるけどよ。あれも一つの愛の形じゃねえの?」
「まあ、確かに・・・そういう人達の気持はわかるけどな・・・」
「俺だったら、あの子くらい可愛かったら行けるな!」
「お前には絶対にやらんからな!」
「ちぇ、ケチ。案外お前が独占したいだけじゃないのか?」
「ち、違う。そんなんじゃない。ただ単にお前にはやりたくないだけだ。もう早く行けよ!授業始まるぞ!」
「わかったよ。じゃあまた昼に、食堂でな!」
言いたい事を言うと、孝治は自分の教室に向かった。そして、自分の教室に入ると、クラスメートの一人が声をかけてきた。
「よう、門脇。今日、うちのクラスに転校生来るらしいぜ。しかも、超かわいい女の子らしいぜ。楽しみだな!」
「え、今頃かよ?おかしなタイミングだな?来るなら始業式に来ればいいのに・・・」
「なんでも、教育関係の上層部のコネで特別に入学が許された女の子らしいぜ!」
「ふーん。可愛い子ならまあ、大歓迎なんだけどな」
「まったく同感だ・・・」
「はいはい、みんな静かに。席について下さい」担任の先生が入ってきた。
「今日は、新しい転校生を紹介します。えー、と、いいましても・・・実は転校生といってもですね、人間ではありません。とあるロボット研究所から派遣された研究生になります。ロボット技術発展の為に、特別に実験的に派遣されて来ましたので、みんななるべく普通の高校生として、仲良く接してあげるように。では、入っておいで・・・」
ん?なんか聞いたことあるような話だな・・・。ロボット研究所ってもしかして・・・俺は嫌な予感がした。そして、その転校生が入って来た。だああああー。やっぱりリアだった。しかも、制服を着てまた、ちがった可愛さを醸し出している。
「みなさんおはようございます。ただ今ご紹介にあずかりました、ロボットのベイアリアと申します。私の事はリアとお呼びください。私が開発されました研究所の関係で、そちらにおられます、門脇真司さんの家にお世話になっています。いろいろご迷惑をかけるかと思いますが、よろしくお願いします」
驚異の体験入部!!
「おおおおーーー!」クラス中で歓声がおきる。しかも、俺にも注目が上がった。
「スゲーよ。あの子本当にロボットか?」
「俺この前、テレビで見たぞ!」この前のニュースの件だ。あの件でリアの知名度は大分上がっている。
「綺麗。わたしより可愛い・・・」クラスで様々な声が上がっている。
「じゃあ、門脇。後は頼んだぞ。それじゃあ後ろの門脇の隣に座って・・・」リアがこちらにやってくる。
「どうも、よろしくお願いします。真司さん・・・」
「後で、どういうことか聞かしてもらうからな・・・」リアはコクリと頷く。
授業が始まり、リアは大活躍だった。リアの頭の中には、常に最新の情報と知識が詰まっている。高校の先生程度の知識では、全くかなわない。逆に、先生がリアに教えてもらっている始末だった。昼休みになり、今日の朝の授業は終わった。リアは学校中で話題になっていた。いつもならここで食堂に向かい、孝治や涼と待ち合わせをするのだが、今日は、先に解決しておかないといけないことがある。何故?リアが転入生として来たのか?ということだ。自分の中で、おおよその予想はしているが、リアから直接聞きたいと思った。おそらく京太郎おじさんが関わっているのは間違いないはずだ。しかし、授業が終わると、クラスメートが一斉にリアに群がる。本当にロボットなのか?とか、一体どういう作りになっているのか?とか、好きな音楽は?好きなテレビは?など細かいことまで質問攻めにあっている。そして、男からの質問は、俺にも及んできた。リアのことをロボットしてどう扱っているのか、女の子として扱っているのか?リアは普段どんな感じか?この前のニュースの件とかを矢継ぎ早に聞いてくる。
「だあああああ、もーう。とにかく質問は後にしてくれ!」
さすがの俺もついにキレた。もう色んな事が起きて、しかも大量に質問をされても訳が分からなくなったからだ。
「リア。行くぞ!」俺は、リアの周りに出来ている人垣をかき分けて、リアの手をつかみ教室から飛び出した。そして、あまり人が通らない体育館裏にやって来た。
「リア。これは一体どういう事なんだ?」
「すみません真司さん。事前に連絡だけはしようとしたのですが、マスターがサプライズだと言って止められてしまいまして・・・」
「く・・・・。あのサプライズ一族が!」全く、母の一族は本当にサプライズが好きだな。
「それにしても、何故学校に来ることになったんだ?」
「はい。今回の事件ことや、前の事件の事で、真司さんが心配で学校に送り迎えをしている事をマスターに言いましたら、「だったら、お間も学校に通ってみろ」と言われまして。そうしましたら、すぐに研究所と、それを援助している企業などのコネを使って、あっという間に話がついたのです」
「全く、あの人ならやりかねないな・・・」
「私はすぐに連絡でも入れて、お伝えしようかと思ったのですが、伝えたら決まった入学を取り消すぞ。と言われましたので・・・すみません・・・」
「いや、君は悪くないよ。こういうサプライズはうちの伝統なんだよ」そう、特にうちの母さんが・・・。
「トゥルルルルル・・・」気が付けば携帯が鳴っている。着信欄を見ると孝治からだ。
「はい・・・」
「おい、真司。食堂でずっと待っているんだけど、まだ来ないのか?」
「すまん。ちょっと立て込んでいてな・・・」
「それより、俺のクラスでも話題になっているみたいだけど、お前のところのロボットのリアちゃんだっけ?転校して来たっていうのは本当か?」
「ああ、どうやら本当だ。今、まさにそれについて話してるとこだ!」
「マジで。ちょっと早く連れて来てくれよ」
「まあいいけど・・・あんまりちょっかい出すなよ・・・」
「出さねーよ。大体俺は、彩夏様一筋なんだよ。それより、今一人で寂しーんだよ。早く来てくれよー」
「あの、真司さん?」
「ん?どうした?」
「孝治さんがお待ちになっていられるのでは?」
「大丈夫。大丈夫。リアは気にしなくていいよ!」
「おい、気にしなくていいとはどういうことだー」電話越しで会話を聞いていた孝治が怒っている。
「うるさいな。すぐ行くから先に席をとって食べといてくれよ。じゃあな・・・」といって携帯を切った。
「あの、怒っていらっしゃったのでは?」
「いいって、気にしなくても。別にあいつの事は」
「それより、リア。君が本当に無事でよかったよ・・・」
「いえ、私は真司さんが無事でよかったです」
「あの後、体は大丈夫だったのか?」
「はい、もともと外部攻撃による高電圧対策はあったのですが、つい油断をしてしまい、攻撃を受けてしまいました。本当は戦闘による高電圧対策モードにすると、動きが鈍るのです。なので、タイミングを合わせて切り替えるのですが、あの時は、その・・・モードを切っていた時に攻撃されてしまったんです」
「そうだったのか・・・。でも、次から俺は二度と君を一人にさせないよ。もし、あんな事があったら俺も一緒に戦うから・・・」
「・・・はい。でもやっぱり私は最後には真司さんの盾になります・・・」
「でも・・・」俺がその言葉を聞いて反論しようとしたが、リアが感情をこめて俺の反論を遮った。
「私には、生まれた時からずっと真司さんが全てなのです。多分これからもずっと・・・」
その覚悟が、その気持ちが、俺にも痛いほど伝わった。だから、これ以上強く言えなかった。そして、その感情が一体どういったものなのか気になった。
「一つ聞きたい事があるんだけど、おじさんは、君は限りなく人間に近い感情を持つし、成長もする。それに君はまだロボットして生まれたばかりだ。君の考えはロボットしてなのかい?それとも人間としてのかい?」
「私はロボットなのでこの考えが人間としてなのかは分かりません。でも、気持ちはロボットではなく人間としてのつもりです」
「わかったよ、なら俺はもう何も言わないよ。俺は、リアに人としての優しい気持ちを持ってもらいたいし、そう育ってほしいと思っている。だから君の考えを尊重するよ・・・」
「はい。でもホント無事でよかったです。私、真司さんが倒れた時は、一時はもう駄目かと思いました・・・」
「でも、それは君とリアのお姉さんが助けてくれたから・・・」ここで、エミリアさんから聞いた事を思い出した。リアが俺を助けるために口移しで酸素を供給していたことを。
「・・・・・」お互い気まづい沈黙がつづく。
「そうだ、孝治が待っているんだった。急いでいこう・・・」
「はい・・・」その場をごまかして食堂にむかった。食堂に着くと、孝治が彩夏とご飯を食べている。何で彩夏がいるんだ?
「あ、こっち、こっち。真君、リアちゃん」
孝治はかなり緊張してご飯を食べている。幸せそうな顔をしている。
「あれ?なんで彩夏がここにいるんだよ?」
「もう、遅いわよ、二人とも」
「っていうか、なんでお前がここにいるんだよ。いつもの友達は?」
「だって、今日からリアちゃん学校に通うんでしょ。お昼に男ばっかりの中で一緒に食べるのは、可哀相じゃない。だから私が一緒にまじってあげるの」
「可哀相ってお前。俺は別にリアに強制するつもりはないぞ・・・」
「彩夏さん、私のことは大丈夫です・・・」
「でも、リアちゃんは、お昼は真君と一緒にご飯食べる方がいいのでしょ?」
「それは、その・・・そうですけど・・・」
「だったら私がここに、まざるしかないじゃない」まざるしかないって、どういう理屈だ。
「まざるしかないってお前、友達の方はいいのか?」
「うん。みんなに説明したら応援してくれるって!」
「応援してくれるって、なんだよそれ?」
「おい、真司。霧條様がこうおっしゃっているんだ、いいじゃないか・・・」
彩夏と一緒で幸せそうにしていた孝治が、横から口をはさんだ。
「おまえは黙っていろ!」孝治はただ単に彩夏と一緒に食べたいだけだ。だけど、彩夏は一度言ったら聞かない。どうせ今回もこれは押し切られるパターンだ・・・。それに、ここまで目立ってしまえば彩夏がいるのも、リアがいるのも一緒のような気がする・・・。それだったらむしろリアの注目度が少し緩和されるかもしれないかな?どうだろうか・・・?もうどうでもよくなってきた。
「うーん、まあ・・・お前がそういうなら別にいいけど・・・」
「じゃあ決まりね。さあこっちおいでリアちゃん」
こうしてお昼ご飯は、リアと彩夏が加わることになった。そして多くの注目を浴びて・・・。
昼の授業も難なく終わり、放課後になった。いつもなら、このまま真直ぐに家に帰るのだが、リアは相変わらずクラスメートに囲まれている。俺は、それを遠巻きに眺めて待っている状況だ。相変わらずの人気だ。
「はあ、先に帰ろうかな・・・」
まあ、そんなことをすればリアに対して失礼だし心配もする。というか、すぐに気付いて俺を追いかけて来るだろう。そうなるとクラスメートになんと言われるか・・・。
「リアさんは部活とかには入らないのですか?」どうやら、もうすでに名前で呼ばれているようだ。
「いえ、私は真司さん付きのロボットなので・・・」
「えーでも、それって強制ではなくて、ある程度自由に行動出来るんでしょ?」
「はい、でも私がなるべく真司さんと離れたくないので・・・」
「きゃあー!」 周りのみんながざわつく。中には冷やかす奴もいる。
これまでの質問で、みんなリアに対する、ある程度の情報は得ている。リアには普通のロボットと違い、人間的感情がそなわっていて、名義上は俺になっているが、行動の自由はリア自身にあるという事をみんな知っている。
「ちょっと、門脇君。ロボットだからって束縛しすぎじゃないの・・・?」女子の集団の矛先が、こちらに向いてきた。
「え、いや、俺は束縛なんてしているつもりはないよ・・・。別に俺はリアが思うように行動すればいいと思っているよ・・・」
「ほら、あいつもああいっているんだし・・・」
「あの・・・本当は私がロボットだから真司さんと一緒にいたいわけではないんです。私の気持ちが真司さんと一緒にいたいのです・・・」
「きゃああー」さらに、周りの人間がざわつき、冷やかす。
あいつは一体何を言っているんだ。聞いているこちらが恥ずかしくなってきた。
「あああ、もうわかったよ。今から部活見学に連れて行く、そしてリアの入りたい部活に入部する。それならいいだろ。だから今日はもう解散、おしまい!」
リアの手をつかみ教室を出ていく。その姿もまた冷やかされる。くそ、何でこんな事に。とりあえず、また体育館裏にやって来た。
「もう、ほんとにあいつらしつこいな・・・」
「すみません。私、迷惑かけていたでしょうか・・・?」
「いや、転校生の運命(定め)だからしかたがないよ。で、どうする?」
「どうするとは?」
「いや、ほんとにリアの好きにすればいいと思うよ。何かやってみたい部活とかないの?」
「いえ、別に私は特にありません。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「私は、真司さんがいる所に居たいだけです・・・」
「そ、そうか・・・」うーん気持ちはうれしいが、ロボットだからこんなに気持ちがストレートなんだろうか?あまり俺にこだわるのはどうなんだろう・・・?でも、部活をしていない俺が人の事言えないが、このまま何もしないのは確かに勿体無い様な気がする。それに、他人に関わるのも人間として成長する重要な事だ。
「じゃあ、こうしよう。今日これから一通り部活を見て。やってみたいものがあればやってみよう。なければ、それはそれで仕方がない・・・」
「わかりました」
その後、さまざまなクラブを回ったが、リアの能力には驚かせるばかりだった。柔道では部長を投げ飛ばし、バレーではスパイクを誰も取れず、陸上では100メートルを3秒で走り、将棋部でも負け知らず。その他にもいろいろ回ったがリアの能力に驚くだけだった。
「真司さん。次、ここ行ってみたいです」リアは廊下に貼ってあったポスターを見ていった。
「ロボット研究会?」なるほど、リアとはロボットつながりだ。ただ、問題は、ここはロボットを作るのか?小型?それとも大型?それともただ研究するだけか?いずれにしても行ってみないと分からない。ロボット研究会は北校舎の3階の一番奥にあった。
「すみませーん!」
「はい?」
「あの、見学させてもらいたいんですが・・・」
「はあ、別にいいですけど、何にも面白くないですけどそれでいいなら・・・」
「今、何をしていたんですか?」
「今度の大会のための動作チェックをしていたとこさ」
「大会・・・?」
「今度のロボットファイトだよ」
「ロボットファイト?」
「知らないの?毎年夏に行われる戦闘用ロボット同士が、戦うんだよ。と言っても全長50センチ程度の小型ロボットだけどね」
「戦闘用ロボット?小型?そんなのあったんだ?」
「まあ、テレビで中継されるようになったのは3年前位かな。最近、年々人気が出てきて、今年はおそらく参加者は全世界から1万人で、観客動員は50万人を超えるといわれているんだ」
「へーそんなのがあるんだな・・・」
「真司さん。ここにロボットがいます」
「それは、今度の大会に出そうと思っている。RG63だよ。まだ調整中だから、触らないでくれ」
「まだ、動かないのかこれ?」
「動くには動くけどね、まだ大会に出すにはまだまだなんだよ」
「ふーん、リアとは違うんだな・・・」
「真司さん、これは操縦タイプのロボットなので。私とは全く違います。それに、まだ初期設定のままですね・・・」
「おお、詳しいですね。あなた」
「ネットで見かけましたし、この手のプログラムを私は作ったことありますから。このタイプでしたら、スピード重視に設定するのが重要で、足の関節の駆動部分を・・・」
リアのロボットファイトの戦闘用ロボット設定の説明がものすごく長く始まった。
「・・・とまあこうすれば初期設定から約1.25倍能力の向上が見込めるかと・・・」
「日本語でおkだよー・・・」俺はちんぷんかんぷんだった。
「ほんとうに?君すごいね!」
「いえ、そうですね・・・。たとえば、ちょっと見せてもらっていいですか?」
リアはPCに向かって何かを打ち始めた。その打ち込む動きはものすごく早くて、とても人間技とは思えない早さだった。
「はい、終わりました」ほんの1分ほどで終わった。
「本当だ、操作能力が向上している。しかも、今、僕がやろうとしていた数値を大幅に超えている。君はいったい・・・。ん、リア?ああ!もしかして君が今、うわさのロボット転校生?いやあーすごいな本当にロボットに見えないや・・・」部員らしき男は、リアをまじまじと見ている。そしてリアの顔をまじまじと見て、頬っぺたをツンツンとした。
「な!?なんでしょうか?」リアは少し警戒した。
「いやあ、ごめんなさい。ホントに人間の皮膚みたいだ。すごいな。君を作った人は一体何者だ?」
「ああ、俺の親戚のおじさんだよ」
「へーえ、で、君の親戚のおじさんという方はなんという名前なんですか?」
「ん?えーと、たしか大島京太郎・・・大島って名前だったような・・・」
「なに、大島京太郎!」
「知っているんですか?」
「知っているも何も、今世紀最高の発明家の一人だよ。今や、ロボットが日常生活で歩いているのは当たり前の時代になったけど、その第一号のロボットを作ったのが5人の科学者で、その中の一人が大島京太郎博士だよ。この近くに研究所があるとは聞いていたけど、こんなに身近にそのロボットに出会えるとは思ってもみなかったよ」
「京太郎おじさんってそんなに有名なんだ?」
「大島博士はプログラミングの第一人者で、ロボットの人工知能を開発した事で有名。それ以外でも、世界最強のハッカーでも有名なんだよ。また、ハッカー防御システムの第一人者でもあり、彼の研究所には技術を盗もうと世界中からハッキングをされているが、一度も突破したものはいないとか。それどころか逆にハッキングをされてPCが壊されてウイルスに感染させられると言われているんだよ」
「う・・・、確かに、それは京太郎おじさんかもしれない・・・」あのオヤジならやりかねん。
「そうですね、毎日大変でした」
「ん?どういうことだ?リア?」
「毎日世界中のハッカーと戦っていたのは、ほとんど、私とお姉さまでしたから・・・。多分、今戦っているのは、体のない私の新しい妹かと・・・」
「それじゃあ、君が例の防衛システムの一端を担っていたわけか。すごいな、道理で早いわけだよ」
「いえ・・・」
「それにしてもリア。君に妹がいるのかい?」
「はい、昨日、研究所に戻った時に見かけましたから・・・」
ふーん、もう新しいロボット作り始めているのか・・・。
「ところで、君たち!我が研究会に入らないかい?特にリア君だっけ?」
「まあ、俺は必要ないわな・・・」俺は、ついでに言われたに過ぎないということを自分でもわかっている。
「いや、何も出来なくても部員としてなら大歓迎だよ!」
「え!?でも・・・」
「頼む、アドバイザーとしてたまに来てくれるだけでもいいんだ!」
「すみません。やっぱり私は真司さんのそばを離れる訳にはいかないので・・・」おいおい、やっぱり俺かよ・・・。
「なら君も入ってくれ」今度は俺に矛先を変えてきた。
「うーん、でもリア。別に俺に気を使わなくてもいいんだぞ!」
「でも、私は・・・」どうしようか・・・。リアを見てみると少し興味を持っている様に見えるのだけど・・・。うーん、ここはやっぱり即答せずに、返事を伸ばそう。後でリアと少し話してから考えてみよう。
「まあ、考えときます。すぐには返事できません」
「そうですか、気が向いたすぐに来て下さい。私は3年F組ロボット研究会部長の東宮浩太と言います。軽い自己紹介をしてから部室を後にした。その後、クラブ見学を終えてリアと二人で家に帰った。その帰り道に俺はリアと反省会的な会話をした。
「さあ、クラブ見学は一通り見終わったけど、なんか気に入った部活でもあった?」
「そうですね、ロボット研究会とか少し気になりましたね」
「やっぱり・・・。だったら別に入ってもよかったんだよ?」
「いえ、ロボットが世の中の人に、もっと知ってもらえるのかな?と少し気になっただけです。それに真司さんが、いないのでしたら、私にとってはあまり意味がありませんから・・・」
「そうか・・・」はたしてこれでいいのだろうか?リアのロボットとしての成長を願うなら入った方がいいのではないか?と、思うし。それにあのクラブには少し俺も興味を持っていた。どうせ俺はいつも暇をしているし、リアの為になるなら入った方がいいかもしれない。それに文科系クラブだしな。
「そうだ、リア。あのクラブに入ろうよ!」
「え!?でも・・・」
「俺も入るからさ!」
「そんな無理なさらなくても・・・」
「いや、俺も実は気になっていたんだ。リアというロボットが近くにいるのに、俺はあまりにもロボットに関しての知識が少なすぎる。いい機会だし、色々学んでみようかと思うんだ」
それに、リアへの理解も深まるかも知れないしな・・・。
「いいのですか?」
「もう決めた。リアが入らなくても俺は入るよ!」
「でしたら・・・私も入ります・・・」
「だったら決まりだ。明日の放課後に入部届を出しに行こう」
「はい!」こうして、俺の高校生活最後の年になって、部活の入部がきまった。
そのあと家に帰り着くと、エミリアが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、真司殿」そ、そうだった。今日はエミリアさんがいるんだった。
「た、ただいま、エミリアさん・・・」
「ただいま戻りました。お姉さま」
「真司殿。ベイエリアも戻ったみたいですし、私はこれで失礼します」
「お姉さま、今までありがとうございました」
「お前も、主人によく尽くすんだぞ」
「はい」そう言ってエミリアは無愛想に帰っていった。そのあと、すぐに彩夏が帰ってきてエミリアが帰ってしまったのを残念そうにしていた。せめて挨拶だけでもしたかったそうだ。
夜になり、久々に俺とリアと彩夏の三人で夕ご飯を食べた。たった一日だけだったが懐かしい感じがした。
「それで、いいクラブは見つかったの?」
「まあな、ロボット研究会に入ることにしたよ」
「ええ!ほんとに?入部したの・・・?」
「明日入部届を出すつもりだ」
「真君も?」
「ああ、そうだよ」
「すごく驚いたわ・・・まさか真君が部活を始めるなんて・・・」
「なんだよ。悪いのか・・・」
「悪くはないけど・・・あれほど嫌がっていたのに・・・」
「別に、最後の学生生活くらい、ちょっと頑張ってみようかなと思っただけだよ」
「やっぱり・・・リアちゃんか・・・」
「な、なんだよ。別にリアだけが原因って訳じゃないぞ。リアが入らなくても、俺は入るつもりだったしな・・・」
「でも、よかった・・・。しん君がちゃんと部活を始めた、という事が私は嬉しいわ」
彩夏は感極まって涙ぐんでいる。
「ちょ、お前、何涙ぐんでいるんだよ」
「だって、真君ったら。私のせいでもう部活はやらないかと思っていたから・・・」
「なんだよ、お前は関係ないだろ・・・」
「だって真君、あの日からずっと部活やらなかったじゃない?」
「あれは、たまたま、やる気がなくなったからだよ」
「嘘、私が倒れた翌日から来なくなったくせに・・・」
「たまたまだよ、偶然だって・・・」
「でも、よかったわ。ゲーム以外のものに興味を持ってくれて・・・真君、いつ行ってもゲームばっかりしているし、たまに会話してもゲームの話しかしないし。電話した時も大体ゲームしているし・・・」
「人をひきこもりのゲーム廃人みたいな言い方をするな!」
「実際そうじゃない。私がどんなに水泳部に誘っても来なかったくせに!」
「うるさいな、水泳にはもう興味がなくなったんだよ!」
「でも、まあいいわ。応援してあげるから頑張ってね」
「あいよ」
「リアちゃんも真君のことお願いね」
「はい、頑張ります」
食事をとった後、ソファアに座りテレビをつけるとニュースをやっていた。
「先日、日曜日に殺されたバンドグループのリーダー、ヤスユキさんが殺されたニュースをお送りします。警察の発表によりますとヤスユキさんに恨みを持っている人物の犯行として現在捜査を続けている模様です。また、今日午後12時頃。ヤスユキさんの葬儀がS市の文化ホールで行われました。葬儀には、ファン千人を超える人が参列しましたが、参列したのはギターの涼さんのみで、ほかのメンバーは参列しませんでした。事務所によりますと、ドラムジンさん、ベースのタナカさんはリーダーを殺されたことに、大変ショックを受けており、参列できる状態ではないとのことです・・・」この後もニュースの内容はつづく・・・。
「涼・・・大丈夫かな?」
「まだ、犯人は捕まっていませんね」
「ああ・・・それに、警察の発表がおかしい・・・、何故?殺人鬼津山の犯行だって発表しない?」
「何故でしょうか・・・?」
「リアだって映像データーを提供したんだろ?」
「はい・・・でも、前回と一緒で証拠不十分と判断されました・・・」
「くそー、なんで警察は真実を公表しないんだ?」
「極秘で追っている・・・からでしょうか?」
「でも世間に知らせないと対処ができないだろ?」
「・・・・。この事件は何かがおかしい・・・」
彩夏がお風呂から上がってきた。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない・・・」
警察の対応が気になったが、ただの高校生ではどうする事も出来ず、答えは出なかった。一応心配なので涼に携帯で連絡したが、取れなかった。なので、心配している内容のメールを送って、その日はそのまま寝る事にした。
幼馴染の心配・・・
四月二十四日水曜日
今日も朝起きると、もうすでに彩夏は部活に行っていた。今日はリアが、ちゃんと家にいる・・・。リアが、そこにいる・・・。その事に俺は心の中でホッとしていた。それにしても、一日家にいなかったとはいえ、この、いつも通りな、環境にものすごく落ち着いていた。いかにリアがこの家に馴染んでいたか分かる。
「おはよう、リア」俺は機嫌よく声をかける。
「あ、おはようございます」そんな単純なやり取りにまたも、俺はホッとしていた。そのあと、二人で朝食をとり、リアと一緒に学校に登校した。本来は、一人で通学だと、自転車通学なのだが、リアと登校するということで、徒歩通学に切りかえた。自転車で約10分位なので、徒歩なら30分ほどで着くからだ。特に遠すぎるというわけでもないので気にならない。通学途中、リアと一緒に登校すると、すごく注目されたが、それももう慣れた。これも、リアと行動する定めだと俺は諦めた。リアと学校に登校して、教室に向かう途中で、孝治に声をかけられた。そして、孝治と話していると、後ろから涼が登校してきた。
「よ、涼。この前は大丈夫だったか?」
「・・・まあ一応・・・」そのまま、すたすたと歩いて行った。
「どうしたんだあいつ・・・」
「いや、この前、リーダー殺されたからだろ?だから落ち込んでいるんだよ」
「まあな・・・あれだけのことが起きたからな・・・」
「まあ、お前もリアちゃんも助かってホントによかったよ」
「ああ・・・ありがとう」
そして朝の授業も終わり、昼休みになった。今日は彩夏と一緒に涼と合流して食堂に行くと孝治が待っていた。
「おお、こっちだ。席を取っておいたから」
今日は涼以外全員弁当だった。みんなで一緒にテーブルに座り、食事をとる。
「涼、この前のライブの後、結局どうなった?」
「ああ・・・リーダーが死んで結局解散したよ・・・」
「そうか・・・残念だったな・・・」
「それじゃあ、お前はもう無職になったのか?」馬鹿か?こいつ?孝治が、KYな一言を言う。
「いや、俺、一応学生やし・・・」
「あははははは・・・」タイミングよく突っ込みが入ったので彩夏とリアが笑った。でも、涼は自分で突っ込んだにもかかわらず、相変わらず元気がない。
「おい、どうしたんだよ。いつもなら鋭い突っ込みがあるはずだろ!」どうやら、孝治は孝治なりに元気づけているようだった。
「まあ、お前くらいの実力があれば、またやれるって。元気出せよ・・・」
「そうです。ライブ会場での涼さんの演奏すごかったです」
「ああ、ありがとう・・・」涼の姿を見て俺は少し気になった。
「涼、お前大丈夫か?悩んでいるなら言えよ、相談乗るから・・・」すると涼はおもむろに喋りだした。
「実は・・・次に死ぬのは俺かもしれない・・・」その言葉で全員黙った。緊張の空気が流れる。
「何があった?」俺は涼に尋ねてみた。
「実はあの後、警察の調べでリーダーのヤスユキがドラッグの密売組織とつながりがあったみたいで、バンドが大きくなったのもその組織からの影の援助があったからみたいなんだ。
「そ、そんなバカな!昨日のニュースでは恨みによる犯行だって・・・」(孝治)
「いや、間違いないよ・・・。俺はあの犯人にあったけど、恨みによる犯行じゃなかった。それはやつ自身が言っていたことだ」俺は孝治の疑問に答えた。
「だったら何故・・・?」(孝治)
「警察は隠しているんだ。でも、何故?涼にはちゃんと言ったんだ?」
「わからない・・・事情聴取を受けたその時はそういわれた・・・。でも、後からこの事はマスコミには言わないようにと言われたんだ。言ったら今度は俺が狙われるかもしれないと言われた・・・」
「なんだよ!それじゃあほとんど脅迫じゃないか?」(孝治)
「それに、警察はこの事件をちゃんと把握している・・・にもかかわらず真実を発表しない・・・」なんだか腑に落ちない。
「どういう事なんでしょうか?」(リア)
「でも、涼・・・こんな事、俺らに言っていいのか?」
「ああ、すごく悩んだよ・・・でも、お前なら・・・真司お前なら言ってもいいと思ったから・・・」
「涼・・・。お前、そのドラッグの密売組織とは関わりは無いんだな?」
「俺は何もしてない。そんな事知りもしなかった。でも、昨日からドラムのジンさんとベースのタナカさんが行方不明になったって連絡があったんだ。もしかしたら、次は俺が狙われるんちゃうかと思って・・・」
「お前は何も関わっていないなら大丈夫じゃないのか?」(孝治)
「いや、この前公園にあの男が来た時、俺に会いに来たわけじゃないと言っていた。お前が狙われている可能性は高い・・・」
「くっそ、せっかくここまでやり遂げたのに・・・俺はこんなとこで・・・」
「涼、お前、今日からしばらく俺の家に泊まれよ」
「!?」(一同)
「真司さん」(リア)
「真君・・・」(彩夏)
「でも、お前を巻き込む訳には・・・」
「いや、とっくに俺は巻き込まれているし、もともとお前とは別で、もうすでにあいつとは関わりがある・・・」
「でも・・・」
「涼、この前お前・・・俺は羨ましかった・・・。お前が目標に向かって夢を掴み取ろとしている姿を見て・・・。俺には夢や目標なんてないけど、今の俺は、お前を助けることができる。だから、俺を信じてくれ!」
「・・・すまない。真司・・・」
「気にするなって俺達親友だろ・・・」
「だったら俺も協力させてくれ!」
「いや、孝治は気持ちだけでいいよ!」
「だけど、お前・・・」
「今回ばかりはかなり危険なんだ、それに俺にはリアがいる・・・。孝治は野球があるだろ?後輩がいるんだろ?」
「真司さん・・・」
「わかった。どうやら俺は足手まといみたいだな。でも、俺に協力出来る事があったら言えよ・・・」
「キーン、コーン、カーン、コーン」チャイムが鳴った。お昼休みの終了だ。
「とにかく今日は、涼は俺たちと一緒に帰るぞ。リアも!」
「すまない・・・」
一同みんな各教室に帰っていく。そして、その中で俺は彩夏をこっそり呼び止めた。
「彩夏、お前、今日から俺の家に帰らずに実家に帰れ!」
「いやよ!」
「って、即答かよ!!お前な、あっさり言うなよって。今の話聞いていただろ・・・?」
「そんなに危険なら、なおさら心配だわ・・・」
「馬鹿、お前に何が出来るんだよ。孝治だって引き下がったのに!」
「私だって、小学生までは真君と一緒に剣道習っていたわ!」
「馬鹿言うなよ、あの時と違って遊びじゃないんだぞ!」
「私が・・・ライブの火事の時、真君の事どれだけ心配したと思っているの・・・」彩夏が急にすごい剣幕でまくしたてた。
「彩夏・・・」
「私は、いつだって真君の支えになってあげられない。いつも心配かけてもらって守ってもらって・・・。私は真君の重荷になりたくないの。いつだって支えてあげたいのよ。もう、私のせいで真君が前に進めなくなってほしくないのよ・・・」彩夏は感極まって泣いている・・・。彩夏も俺との過去を引きずっていたのか・・・悪い事をしたな。
「彩夏・・・。大丈夫だって。リアが付いている。だから・・・・」俺は彩夏をそっと抱きしめる。
「真君!?」
「頼む、危険な相手だからこそ分かるんだ。もしもの時は守ってやれない・・・」
「真君・・・。わかったわ。今回私は、足手まといみたいね。私が支えてあげれるのは料理と勉強だけね・・・」彩夏は観念したのか落ち着きを取り戻した。
「まあ、最近はリアがほとんど料理は作っているけどな・・・」
「しゅ、週末は私が作っているわ・・・」彩夏はあわてた声で取り繕っている。
「あははははは・・・」俺はその姿見て笑った。
「何よ!まったく・・・三日よ。三日経ったら戻ってくるわ。ちょっとだけ気分転換で家に帰ってあげる・・・」
「ふ、出たなツンデレセリフ。分かったよ・・・それで手をうとう」そこから先は、状況に応じて考える。こうして、涼が今日から俺の家に泊まり、彩夏の三日間の自宅帰宅が決まった。
午後の授業は問題なく終わり、放課後になった。いつも通り、孝治と彩夏は部活に行き、俺とリアと涼は一緒に帰ることになった。丁度、三人は同じクラスなのですぐに揃って帰る準備が出来た。
「さて、二人とも・・・悪いけど帰る前にちょっと寄る所があるんだけど・・・」
「なんや?」
「リアは分かっていると思うけど、ロボット研究会に入部届をちょっと出しておこうかと思って・・・」
「ん、なんや。いまさら部活に入部するんか?お前・・・?」
「まあな・・・」
「珍しいな、お前が部活動するなんて。中学の時でも見た事ないわ。それにお前、もうすぐ卒業するやん!」
「まあ、せっかくリアが入学したのに、部活動の一つでもやらないと、学生生活を体験させてやれないだろ。
「私は別に真司さんが行く所ならどこでも・・・」
「それに、俺もロボットの事についてもっと勉強したいんだ!」
「ふーん。まあええけど・・・」
渡り廊下を渡り北校舎に行き、昨日行った部室に行った。
「すみませ―ん」
「はーい」すると、昨日とは違って眼鏡をかけた女の子が出てきた。
「あの、入部届を出しに来たんですけど部長さんはいますか?」
「はあ、ちょっと待ってくださいね。先ぱーい。東宮先ぱーい」
「なんだよ、うるさいな」
「なんか、入部希望者が来てますけど・・・」
「おおおお、君たち。ついに入る気になってくれたんだね」
「まあ、俺は全然役に立たないかもしれないけど・・・」
「いやいや、全然いいよ。リア君が一緒に来てくれるなら大歓迎だよ。ん?一人多いな・・・?」
「いえ、俺は見学ですわ!」
「まあ、別に誰でも歓迎だから、君も入ってもらっても構いませんよ?」
「うーんそうだな・・・バンドも解散したし。どうせ暇だから籍を入れるだけならいいけど・・・」
「じゃあ、決まりだ!」
「おい、涼。いいのか?こんな、成り行きで?」
「別に・・・暇になったし。気分転換にお前の言う学生生活を堪能してみようかと・・・」
「東宮先輩、こちらの方々は一体どちらさまですか?」
「おお、紹介しよう。まず、今話題沸騰中のロボット転校生、リア君とその持ち主の門脇真司君と・・・それと・・・えーと」
「川村涼だ!」
「そうそう、川村涼君だ」
「いや、今知らなかっただろ・・・」涼が突っ込みを入れる。
「で、こいつが2年生で副部長の泉ゆかりだ」
「こんにちは。へえー、あなたが今話題のロボット転校生さんですか。すごーい、きれーい。全然ロボットに見えなーい。で、それでこちらが川村涼さん。先輩は知らなかったみたいだけど、私は知っているわ。ムーフェイスのギタリストで、私のクラスの女の子の間でも話題になっているわ」
さすが涼だ。メジャーデビュー目前まで行っただけの知名度はある。
「それで、この人は・・・私知らないわ!」
く、なんという失礼な。でも仕方ないか。俺、ひきこもりゲーマーだし・・・。
「でも、とにかくすごいじゃないですか、東宮先輩。我が校の有名人を二人も入部させるなんて」おい・・・この子。俺が抜けているぞ。
「これで、やっと部に昇格ですね」
「ちょっと待て、ここって部じゃなかったのか?」
「ん?言ってなかったですか?」
「そういえば昨日も一人しかいなかったような・・・」
「まあ、そういうこと。よろしく頼むよ!」
「これで部として部費が落ちますね、先輩」
「これで、やっとまともな研究ができるよ」
「おい、真司・・・ホントに入部してよかったのかな・・・?」
「トゥルルルルルルルル・・・」携帯が鳴っている。誰だろう。
「悪い、俺だ・・・」涼が携帯を取り出す。
「あ、マネージャーからだ!」そういって電話に出た。
「はい・・・はい・・・、ほんまですか!?」涼は驚いている。どんな話をしているのだろう。
「はい、わかりました・・・」涼は神妙な顔になった。一同涼に注目する。
「涼、どうしたんだ?」
「ドラムのジンさんが・・・死体で見つかったそうや・・・」
包囲された学校からの脱出!
「え!?」一同沈黙する。
「俺も気をつけろ。だって・・・」
「やっぱり・・・早く帰った方がいいな・・・すみません!いきなりで悪いですけど部長。先に帰らせてもらってもいいかな?」俺は入部して早々部長に帰ることを告げた。
「ああ、別にかまわないけど。どうしたの?」あっさりOKしてくれた。俺達の雰囲気に何かを感じたのだろうか?すると校内放送が始まった。
「キンコンカンコーン」
「在校生諸君に告げる。これより校内は我々が占拠した。我々はマシンガンなどの武器を持っている。殺されたくなければ我々の言う事を聞くように。我々の狙いは川村涼の身柄だ。抵抗しなければ危害は加えない。それと、見かけたやつは近くにいる我々のメンバーに報告しろ!以上だ」
「なんだって!?」
「真司・・・!」
「真司さん・・・」
「こんなところまで来るなんて・・・」
すると・・・誰かが部室のドアを開けた。
「川村涼君発見―!」
「二人組の我が校の制服を着た、みるからにガラの悪そうなDQNな二人組が入ってきた。一応校内で何度か見かけているやつらだ。接点がないので、一度も話したことがないやつらだが・・・。
「悪いけど一緒に来てもらえる。俺達頼まれちゃってさ・・・」
「何を言ってるねん!なんでお前らなんかについていかな、あかんねん!」
「今、放送聞いただろ、俺達あの人たちに頼まれちゃったんだよ」
「だが断る!」俺は間髪入れずに言った。
「そんな事言ってもいいのかな?ちょっとくらい痛めつけてもいいって言われているんだよね俺達・・・」
「真司さんこの人たちからドラッグの反応がします・・・」
「ん?そこいるのは・・・今、噂の転校生ロボットじゃねえか。なんだよ、そんな事まで分かるのか?やっかいな奴だな。これは増々ただで済ますわけにはいかないな・・・」そういって二人組のDQNはナイフを出して襲いかかろうとした。
すると、「ウイーン、ガシャーン」部長が机の上にあった調整中の競技用ロボが動きだした。そして二人に突っ込んでいった。
「うお、うわー!」二人まとめてロボットのラリアットを食らう感じで倒れた。
すかさず俺は倒れた二人に木刀を突きつけた。「動くな!」といって押さえつけた。
「くそー!」抵抗されることもなく勝負が決まった。見かけによらず弱い奴らだ。
「助かりました。部長!」
「さすが部長!」
「部員の安全を守るのも部長の役目ですからね。後で詳しい話を聞かせて下さいね・・・」
「すみません・・・」
二人組のDQNは動けないように紐でぐるぐる巻きにした。
「お前たち、誰に頼まれたんだ?」
「知らねえよ、いつも薬を買う奴から、言う事を聞いてくれたら、金をくれると言われただけだよ!」
「お前たちはもう終わりだな、このまま突き出すから退学だ!」部長二人組に言った。
「うるせー、元から俺らは中退するつもりなんだよ。それにもうすぐ、ここの居場所もばれるぜ!」
「話は良く分からないが、とりあえず君たちはここから逃げたほうがいい・・・」
「ありがとう、部長・・・」俺とリアと涼は部室から出ていった。とりあえず、ここは北校舎の奥だ。校舎から出るには渡り廊下を渡らないといけない。北校舎の中心部に行き、渡り廊下を渡ろうとすると向こう側に銃を構えた二人組がいる。
「動くな!前たち!」銃口は完全にこちらを向いている。
「手を挙げて、ゆっくりこちらに来てもらおうか!」
「くっそ・・・」銃で狙われたら身動きが取れない。
「真司、もういい。ここまでサンキューな。お前を巻き込めない・・・」
「なにを言っているんだよ・・・」
「奴らは俺が目的だ。俺が行けばみんな助かる!」
「ふざけんな、俺はもうとっくに関係者だと言っただろ・・・」
「真司さん、大丈夫です。私が・・・」
「リア!?」リアが前に出ようとした瞬間。
「ぐあああああ・・・」銃を構えていた二人組が倒れた。背後から襲われたみたいだ。
「よ、門脇真司・・・」春日は、銃を構えた男の背後から竹刀であっという間になぎ倒した。
「お前・・・」
「学校を占拠したとかいう不逞の輩を退治して回っていたとこだ!」
「お前、よくやる。銃を持っている相手に・・・」
「なに、・・・銃を持っていても所詮は素人、間合いを詰め不意を突けば狙いは外れる」
「なるほど・・・」さすが、殺人鬼相手に突っ込んだ、だけの事はある。
「で、お前達はどうするんだ?」
「とりあえず学校を脱出しようかと思っている・・・」
「俺が、学校におらへんと、分かったら占拠をやめると思うしな・・・」
「ふーん、なら早く行け。俺はこのまま学校内に占拠した奴らを叩きのめす」
「大丈夫なのか?」
「俺を誰だと思っている」
「気をつけろよな・・・」
「門脇真司!これを持って行け・・・」春日は日本刀らしき袋をこちらに投げた。受け取るとずしりと重い。これは本物の日本刀か?
「お前、流石にこれはやばいだろ・・・」
「俺のおもちゃだ。銘刀吉宗という。刃はついていない・・・」
「お前、その名前は中二病すぎだろ・・・」
「うるさい。そっちの獲物より役に立つだろ?」
「ホントにいいのか?」
「まあ、俺にはこの竹刀があれば十分だ」
「悪いな・・・」春日を後にして、教室の廊下を走って一番端っこの階段まで向かった。階段の窓を見てみると、ここから校門が見える。校門の前には怪しい車が何台か止まっていて、銃を持った男に封鎖されている。
「やばいな、これじゃ学校から出られない・・・」
窓から校門を見て油断していると、下の階から銃を持った男が上がってきた。
「しまった・・・!?」銃をもった男達はこちらに銃口を向けた瞬間、リアが突っ込んだ。
「ぐあああ・・・」リアは一瞬で数人の男たちを倒してしまった。
「早く行きましょう」リアは何事もなかったようにしている。
「はえー!」リアの動きに涼が感心している。
「でも、校門を封鎖されていたら・・・」リアは早く行こうというが、どこに行けばいい?
「おい、真司。俺についてこい!」涼が自信満々で呼びかけてくる。
「なんだ?」
「俺に、考えがある・・・」
俺達は涼についていく。涼はまず階段を下りて脇口から靴箱のある校舎に入って、靴を履きかえた。そして、その靴箱のある校舎の裏口にプール施設の裏に行ける細い道を入っていった。
「お前、こんなところ・・・」
「へへへ・・・、軽音部に教えてもらった、学校脱出ポイントだ・・・」
プール施設の裏を進むと学校の校内の壁がある。
「ほら、ここのブロックを足台にして、この壁を越えれば外に出られるで」
「涼、お前こんなところよく使うのか?」
「たまにな・・・」
壁を超えると、そこは住宅街の細い道に出た。その道を抜けようと進むと、銃を持った男が立ち塞がっていた。
「しまった!?ここにもいた!?」
「おい、こっちにいるぞ・・・」その男は仲間を呼んでいる。やばい、しかもそのあと銃口をこちらに向けている。
「くそ、まただ・・・」
「どうする、真司?」
「私が行きます・・・」リアは一人で、てくてくと歩いて銃を持った男に正面から近づいていく。
「リア!?」
「おい、止まれ。止まらないと撃つぞ!」リアはその男の言葉を無視するかのように、どんどん向かっていく。
「バーーーーン」銃声がした。男は銃を撃った。
「リア!?」しかし、よく見るとリアは無事だった。しかも何かを握っている・・・?リアがその手を放すと、銃弾がパラっと落ちた。
「ひいいいい!、化け物だ!」リアはその男を殴り、その男はそのまま倒れこんだ。
「さあ、行きましょう」
「ああ・・・」涼はポカーンとしている。あまりのことに驚いているようだ。確かに俺も驚いたが、リアに関してはもうそれも慣れた。おそらく、これくらいの事は出来るかもしれないという、感じはしていた。
「涼、行くぞ・・・」俺は、呆然としている涼を引きずって走りだした。住宅街を縫うように駆け抜けいく。どうやら学校から抜け出したことを想定して、学校周辺にも見張りを配置していたようだ。そして、住宅街の角を曲がった時、その先で銃を持った奴らと鉢合わせた。
「おーい、いたぞ!」
俺は、仲間を呼んだその隙を見逃さなかった。隙を見て、すぐに男達に突っ込んでいった。
「くそー」男達はすぐに気付いて銃をこちらに構えた。
「バーーーーーーン」俺は、銃口がこちらに向いた瞬間を狙ってタイミングよく相手の間合いに入った。そして、春日に貰った吉宗で、袋に入ったままだが、それでなぎ倒した。
「よし、行こう・・・」
「お前ら二人とも化け物か・・・」涼は感心していたが、そんなことは気にせずに行った。そのあとも、何度か路地で出くわしたが、俺とリアでなぎ倒して先に進んだ。
「まずいな、俺たちが外に出たのは、もう知られているな・・・」一応影に隠れているが、この先の大通りに男達が大勢いる。
「真司、こっちに行こう・・・」住宅の細道があってその中に入った。するとそこは、建築資材置き場の広場だった。
「ようこそ地獄の一丁目に・・・」広場に出ると殺人鬼津山と、その手下だろうか?ロボットを10数台したがえて立っている。そのロボットたちはリアと違い、機械部分が丸見えで、いかにも機械って感じだ。というより、わずかに人間の形をしている。まるで昔の、ホ○ダのア○シモみたいなロボットだ。
タナカさんの秘密
「お前は?たしか殺人鬼津山・・・?」
「やっぱり、生きていたみたいだなお前達・・・」
「今度は涼が狙いか!?」
「まあな、でも安心しろ!すぐに殺しはしない。餌になってもらう必要があるからな・・・」
「俺が餌ってどういう事やねん?」
「タナカをおびき出すためにお前が必要なんだよ!」
「タナカさん?タナカさんも、お前たちが誘拐したんやないのか?」
「お前、ホント何も知らないんだな。いいだろう、教えてやる。まず、お前達ムーンフェイスはドラッグを密売している組織の援助で大きくなった。お前たちのリーダーヤスユキはバンドを有名にするために利用し、そして組織もお前たちを利用した。ここまではいい感じのギブアンドテイクだったんだよ・・・」
「俺達を利用したって、いったい何を?」
「ふん、ドラッグだよ、お前たちのファンを客にして、売り捌いていた。もちろんヤスユキは黙認していた・・・」
「そんな・・・ヤスユキさんが・・・?」
「だが、急に組織の情報が漏れだした。最初、組織はヤスユキの連れが裏切ったのだと思ったらしい。それで、俺達暗殺集団にドラッグ組織からの依頼が来たので殺した。その時に会ったのがお前だ!」津山は俺と目があった。
「だが、どうも奴を殺しても、情報は漏れている。やはりヤスユキが裏切ったとして、奴を処分する事になった。ヤスユキは前々から組織と手を切りたがっていたからな・・・。これでハッピーエンドのはずだった。だが、やつが死んだことによって、ついにネズミが尻尾を出したんだよ。それがタナカだ。やつはしきりにヤスユキの周りを嗅ぎまわっていて、火事のどさくさに紛れてヤスユキの携帯を奪いさった。それでタナカの居場所を聞き出すために、ジンを誘拐したのだが、残念ながら奴は拷問中に死んでしまったよ・・・。それで、お前にお鉢が回ってきた訳だ!」
「くそ、ジンさん・・・」気が付いたら、来た道の後ろにも、数十台のロボットに囲まれている。
「ふん、ロボットにはロボットってやつだ・・・。残念だが、ターゲットじゃないお前達はここで死んでもらう・・・」津山は俺とリアを見た。
「お前たちは実によかったよ。これほど楽しめたのは久しぶりだ。だが、それもこれで最後だ。今度こそ死んでもらう!」
「そんなことはさせない!」俺は、春日にもらった吉宗を鞘からだして構えた。
「お前達、あの二人をやれ!」津山のロボット数十台が津山の指示で襲いかかってきた。
「行くぞ、リア!」
「はい!」
正面から突っ込んできたロボット達は、リアに狙いを定めて銃を撃ってきた。リアは、右に走って回り込み。銃をかわしながら、いつものワイヤーをだして一台のロボットにひっかけた。それを引っ張って、ほかのロボット達すべてをまとめてなぎ倒した。リアはその隙を狙って、一瞬でロボット達の間合いに入って、敵方のロボット三台を破壊した。ほんの数秒の出来事である。
「す、すげえー!」涼が感心している。だが、後ろからもロボットが来ていた。何かを打ち合わせをしたわけではないが、後ろから来るロボットは前方よりも少ないので、自然と俺が対応することになった。
「涼、ある程度は自分の身は自分で守れよ!」涼に俺の愛用の木刀を渡した。
「ああ、やってみる・・・」すると俺の正面に5台のロボットが突っ込んできた。俺は、剣を居合抜きで横真一文字に剣を振り、突っ込んでくるロボットをけん制した。突っ込んできたロボットは俺の剣をかわすため立ち止まった。俺はそこを狙って正面の一台のロボットめがけて突っ込んだ。
「とりゃああああ・・・」その一撃は見事に決まり、一台を撃破した。俺が戦っている隙を狙って、2台のロットが涼のところに行ったが、何とか木刀を振り回して「来るなー!」といって対応している。涼は、生け捕りの命令がされているので、殺されることはないだろう。最初に突っ込んできたロボット5台も、俺は涼の側にいたので、銃を撃ってこなかった。だが、今は違う。隙あれば俺は殺されてしまう。そして、右側にいたロボットが俺に対して銃を向けてきた。それを見て俺は剣を振り、力まかせにそのロボットの腕についている銃を切った。というか切れないので破壊した。そこまではよかったが、もう一台のロボットが俺に銃を向けてきた。さすがにこれは距離があり、間合いを詰めることが出来ない。どうする?タイミングを見て左によけようと思い構えたら、そのロボットは、横から飛んできた別のロボットに倒された。ハっと、後ろを見るとリアが投げ飛ばしたのが見えた。どうやらリアは、戦いながらも、こちらのことを気にしてくれていたみたいだ。
「サンキュー!リア!!」
リアに見てもらっている安心感か、俺は次のロボットに向かって走り、目の前にいたロボットを剣で、一振りで破壊した。そして、次に向かい破壊して、そしてまた次に向かって破壊を繰り返す。たまに離れた距離にいるロボットに銃で狙われる。だが、このロボット達は、銃で狙いを定めて構えるまでに大体1秒から2秒かかる。その少ない秒数で間合いを詰めて攻撃をして破壊するのだ。どうしても、距離的に間合いを詰められそうもない時は、リアが支援してくれた。リアは俺より早いペースで敵のロボットを破壊していく。超人的な身体的能力で、腕のワイヤーフックなどを駆使して鮮やかに倒していく。こうして何分ほど格闘しただろうか、少なくとも15台以上のロボットが地べたに倒れている。リアと同じロボットとは思えない貧弱さだ。いや、リアが特別で、今ここで倒れたロボットは、それほど悪い動きはしていなかった。俺だけだったら、多分とっくに死んでいただろう。少なくとも人間に近い動きはしていたから、多勢に無勢だ。
「真司さん、涼さんが!?」ふと、涼の方に目を向けてみると、津山に捕まっている。俺たちが戦っている隙を狙って涼に近づき、ナイフで脅して連れ去って行こうとしていた。
「くそ、しまった!?」あわてて、涼と津山を追いかけるが、こちらも、目の前のロボットに手をとられて、すぐにはそちらに向かえない。リアの方も目の前の敵にいっぱい、いっぱいだ。
「くそ・・・全くお前たちは化け物か?」津山は俺たちの戦いに感心して、呆れていたが行動は早かった。俺たちの動きは予想以上だったのだろう。しかし、俺達はすぐに涼を救出に向かえなかった。
気が付くと、頭上からヘリコプターが下りてきた。なんだってこんなところに?そうか!ヘリで逃げるつもりだ。
「くそー!!」目の前のロボットを剣で一撃をくらわせ、そして、横にいたロボットの銃のついた腕を破壊して、涼と津山の方に走っていった。資材広場と言っても、ヘリコプターが着陸できるくらいである。結構な広さがある。涼と津山までは結構な距離がある。
「リア、行けるか?」
「あと、二台です・・・」
涼は津山に縛られて運ばれている。そして丁度、ヘリコプターに乗り込もうとしている。
「真司、すまん。もういい、来るな!」
「馬鹿言うな。絶対に助けてやるから!」全力で走っているが、ついにヘリコプターは宙に浮き飛び立とうとしている。ヘリコプターの爆風でなかなか近づけない。
「ちくしょうー・・・」
「真司これを・・・」涼は縛られながらも、ポケットから携帯を出してその携帯がぽろっと地面に落ちた。それと同時に、機体は宙に浮き空高く舞い上がった。それにつられるように、俺はジャンプして機体につかまろうとした。
「とどけえー!」しかし、無情にも手は届かず、地面に落ちてしまった。
「リア!」俺はリアに期待して声を掛けた。
ロボットを破壊し終わったリアは、ワイヤーフックを伸ばしヘリにかけようとしたが、機体は空高く上がっており、あとわずかなとこで届かなかった。
「りょおおおおおおお!」俺は叫んだが、あたりはヘリコプターの音だけがこだましている。俺は飛んでいくヘリを眺めることしかできなかった。涼が落とした携帯を拾って握りしめた。
「真司さん・・・」リアが後ろから声を掛ける。
「すみません。私がもう少し頑張っていれば・・・」
「いや、違うよ。俺が弱いからだ。俺がリアほど強ければ・・・」
「真司さん・・・」ここで、諦めるのか?そして俺はまた殻に引きこもって逃げるのか?涼を見捨てるのか?あいつは、最後にもういいと言ってくれた。けど、俺はやれることを精いっぱいやったか?友達を・・・友達をあきらめるのか?ここで、西門理子との会話を思い出す。「目の前の現実から逃げても、本当の大事な事からも逃げてはだめだ」
「くっそ、人のこと偉そうに言えないな・・・今は現実から逃げている場合ではない!」
立ち上がると、リアは倒れたロボットを何やら触っている。
「何をしているんだ?」
「はい、何か情報でも持っていないかと思って。でも、情報はすべて消去されています・・・」
「そうか、手掛かりなしか・・・」考えろ!俺。何か、何かあるはずだ。早く探さないと、ジンさんのように拷問で殺されてしまうかもしれない。奴がどこに行ったか?探す手がかりがあるはずだ。
たしか、あいつらはドラッグ組織と関係があったはず。なら、そこにいる奴に聞けば何かわかるかもしれない・・・俺はわずかな手掛かりに賭けることにした。
「リア、行こう・・・」
「はい・・・」
資材置き場から、すぐに駅に向かい。リアと二人で電車に乗った。学校に戻ったら警察の事情聴取やらで、すぐに行動が出来なくなるかと思ったからだ。破壊したロボットも、そのままにしてきた。駅に向かっている途中、しきりに携帯が鳴っていた。彩夏と孝治から電話が来ていた。電車に乗っている間に、二人にメールで今の状況を短文だが送っておいた。リアもどうやら、彩夏から連絡来ているみたいで、今の状況を連絡してくれたみたいだった。K駅に着いて、駅を降りて、繁華街を抜けるとガード下に着いた。さっきの繁華街とはちがい、街頭は少ないので、一気にあたりは暗くなった。気が付けばもう日が暮れている。
「なんだか、やっぱり危険なとこだな・・・」当たり前である。ここは地元でも有名なドラッグを販売しているエリアである。しかし、ガード下には人はいない。時折、普通の人が通り過ぎるだけだ。
「ちくしょう、ここじゃないのか?」
その周辺をくまなく歩き回ったが、それらしき人はいなかった。時間は刻一刻と過ぎていく。涼が連れ去られたのは夕方、今はもう夜7時過ぎだ。
「そうだよな、ドラッグの密売人なんて簡単に見つかれば警察にすぐ見つかるよな・・・」落胆していると、一人のガラの悪い男に声を掛けられた。
「お前か?この辺を嗅ぎまわっているガキ共っていうのは?」
「いえ、俺達は・・・」これはチャンスだと思った。もしかしたらこいつが、仲間かもしれない。
「いや、その、ドラッグの組織を探しているんです・・・」しまった。ストレートすぎたか?いや、でも一刻も早く情報がほしい。まどろっこしい事なんてやっていられるか。
「はあ?お前何言っているんだ?お前みたいなガキにドラッグを売る奴なんて、いる訳ないだろ!」
「じゃあ、あなたは知っているんですか?」
「知る訳ないだろボケが!お前達みたいなガキが俺達の縄張りでうろちょろされたらうっとおしいんだよ、早く消えろ!」
「でも、俺に残された手がかりはもうここしかないんだ・・・」
「何を言ってんだ?こいつ?そんな事は俺達には関係ないんだよ。口で言って分からないようなら、ちょっと来てもらおうか?」よく見ると、あちらの通路に3人。左側には4人、後ろに5人合計12人に囲まれている?
「ど、どこにいくんだ・・・?」警戒して聞いた。
「お前がもう二度とここに来れないように言うことを聞いてもうんだよ!」
どうする?このままついていくか?でも、ついて行った先で罠にはまったら取り返しのつかない事になるぞ。だけど、ここで引き返せば手がかりはなくなってしまう。
「わかった・・・」
「いいのですか?真司さん?」
「何か、情報をつかめるかもしれない・・・」
その男に達に囲まれながら歩いていく。角を二つほど曲がり、小さな公園を横切った時、公園の中に車が突っ込んできた。
「ん?なんだ?」その車は公園を突っ切って、こちらにやってきた。そして、前の男をかすめて、その男がよろめいたところを、俺とリアの前に止まった。
「早く乗れ!」
「で、でも俺達は・・・」
「いいから早く!」言われるがままに、車に乗り込んだ。本当は、あの男たちについて行き、アジトを発見したかったが、助けてくれようとしている人の好意をむげにできなかった。
「リア、乗ろう・・・」俺とリアはその車に乗り込み、車は猛スピードで走り出した。車は大通りに出て、追ってくる人物はいない。
「お前達、あぶなかったな・・・」
「あなたは一体・・・」運転している男を見ると、どこかで見たことがある気がする・・・。
「あれ?あなたは確か、タナカさん・・・?」
涼の所属するバンドグループ、ムーンフェイスのベースのタナカさん。そして涼が誘拐された原因の人だ。前のライブで、脱出の際に一言二言かわしただけだ。会話らしい、会話もしたことがない。
「でも、何故あなたがここに?あ!?そうです!涼が、涼が連れ去られたんです・・・」
「知っている。実はジンがさらわれて涼にも危険が及ぶとわかった俺は、迎えに行こうと車を飛ばしたんだが、もうすでに奴らに学校は囲まれていた後だった。何とか奪還できないか、様子を見ていたんだが、涼は君たちと一緒に脱出した後で、ようやく奴らが集合している場所を見つけた時には、ヘリコプターで飛んだ後だった。君たちに声を掛けようとしたが、ヘリの行く先を調べる方が先だと思って奴らの行く先を追っていたんだ・・・」
「じゃあ、涼の行き先も・・・?」
「知っている。九本木ヒルズだ!」
「あの、高層ビルの?」
「そうだ、俺の信頼できる同僚が屋上のヘリポートにヘリが着陸するのを確認した」
「じゃあ、警察に・・・」
「無駄だ。俺が刑事だからな・・・」
「ええ!?」
「実はムーンフェイスを結成する前からリーダーのヤスユキに近づいて、潜入捜査をしていたのだ」
「だったら何故?」
「警察も一枚岩じゃないって事さ。警察内部に奴らとつながっている奴がいる・・・」
「ホントですか?」
「ああ、残念ながらな。だから、俺の潜入捜査もごく一部の人間しか知らない。警察に通報しても、結局情報は筒抜けさ。むしろ揉み消されてしまう・・・」やっぱり・・・。
「だったらどうすれば?」
「事件が大きくなるか、もしくは、確実な証拠を摑むしかない。出来れば全容が解明される証拠が!」
「タナカさん・・・」
「とにかく、今は涼を救出する事が先決だ!」
車に乗って15分ほどで、九本木ヒルズに着いた。車を近くのパーキングに止めて、入口前まできた。見上げてみると、かなりでかいビルだ。地上42階建の超高層ビルだ。数多くの企業が入居していて、多くのセレブが出入りしている。涼は、この最上階の会社にいるはずだ。ビルの最上階の会社は、タナカさんが調べた限りでは、実態が闇に覆われていて、過去の事件に関与していることもあったとか・・・。とにかく危険会社らしい。
「早く、行きましょう」
「まて、ビル内は防犯カメラだらけだ。俺たちの侵入なんてすぐにばれるぞ」
「じゃあどうすれば・・・?」
「ちょっと待て下さい。私がこのビルのモニタールームにハッキングを仕掛けてみます・・・」
「できるのか?」
「やってみます・・・」リアは近くのベンチに座って、下を向きうつむいた。それからリアがうつむいてから10分くらいたった頃・・・。
「すみません・・・駄目ですね。39階まではコントロール可能になりましたが、40階から最上階付近の映像データの解析、コントロールはできませんでした・・・」
「やっぱりだめか・・・」
「40階以上の防犯カメラなどのコントロールは独立していて、40階に直接行かないと駄目みたいです・・・」
「じゃあ、やっぱり正面から直接いくしかないか・・・?」
「門脇君・・・?」後ろから女の子に声を掛けられた。誰だろう?こんなところで・・・?声を掛けられるような知り合いはいないはずなんだが・・・。
潜入!セレブパーティ
「君は・・・たしか西門さん?」パーティドレスを着た西門理子に声を掛けられた。以前会った時と一緒で、かなりドレスアップをしている。
「何故君がここに?」
「それはこっちのセリフよ、あなたこそ何故ここに?」
「お嬢様、準備が整いました」西門理子につき従っているメイドさんが後ろから声を掛けてきた。この前の迎えに来たメイドさんだ。
「お姉さま?」そのメイドさんの姿を見てリアがつぶやいた。
「お姉さまって?・・・じゃあこの人もロボットって事?」
「あら、よくわかったわね。私の護衛兼メイドロボットSP29セシリアよ。ということは・・・そちらの方もロボットなの?」西門さんはリアを見て言った。
「ああ、リアっていうんだ!」
「お姉様、リアルでお会いするのは初めてですね。初めまして・・・」リアが丁寧にあいさつをした。
「・・・これが私の初めての妹・・・マジ萌え・・・」
なんだ?このロボット?リアを見てにやけているぞ。
「はあ・・・・?」リアは挨拶をしたが、返ってきた反応に不思議がっている。
「あら、感動の姉妹の対面なのに何バカなこと言っているの?セシリア!」
「お嬢様にはわからないんですか?この萌えたぎるこの熱い思いが・・・」
「分からないわよ!!」
「お姉様・・・。何?この甘美な響き・・・百合展開キタ?」
「またっく・・・。優秀なのに何でこのロボットはこんなに変なのよ・・・!」
「リア・・・変わったお姉さんだな・・・?」
「セシリアお姉様は、私に近い人工プログラムで組まれているんですけど、その・・・お兄様の影響を受けて育ったみたいで・・・」
「あいつの事はいいわ!気にしないで!それより真司君どうしたの?こんなところで?」
俺は、西門さんに簡単に今置かれている自分の立場を説明した。友達が誘拐されたこと、そして、組織に狙われている事、組織を追ってきたらこのビルに逃げ込んだこと、そしてこのビルの最上階に入居している会社に潜入して友達を助けたい事。
「なるほど、つまり最上階の会社に潜入したいということね。じゃあ、私に任せてよ。今から私が行くところがそこだから・・・」
「え?どういうこと・・・」
「今日は、たまたま私の会社の取引先の人が、どうしても会ってほしいと言われたから来たのよ!」
「ここの会社の人に・・・?」
「いや違うわ。うちの会社とは関係ないわ。前々から取引をしたいとは言われているけどね。でも、ここの会社は前から評判が悪くてずっと断っていたんだけど、取引先の人の顔に免じてパーティだけでもって言われたの。それで、顔を出すだけなら・・・ってことで来たの、だから私の連れなら入ることは可能よ」
「でも、中には防犯カメラがあるし、俺達の顔はもうばれている・・・」
「大丈夫よ、ばれなきゃいいのでしょ。変装すればいいのよ、変装すれば。セシリア!」
「はい、お嬢様」
「私のパーティドレスを持て来て」
「かしこまりましたお嬢様。私が腕によりをかけて萌え萌えにします」
「いや、萌え萌えにしなくていいから・・・!」
「ちょっと待て、まさか・・・」俺の悪い予感は当たった。それから西門理子のリムジンの中に入って、変装させられた。そう、女装を・・・。変装はすぐに終わった。セシリアが手際よくノリノリで化粧をしてくれたからだ。化粧が終わって俺はリムジンの中から出た。
「ぷ・・・、真司君。かわいい・・・」
「完成度激高の男の娘です!」
「ちょっと待てよ、なんで女装なんだよ!」
「だって私のドレスしかないし、これならばれないでしょ!」
タナカさんも女装させられている。俺も今、西門さんから似合っているといわれたが、俺からみたらタナカさんの方が似合っている。ちょっと背の高いすらっとしたモデルさんみたいな美女に変身していた。
「ふん、俺はバンドで化粧は慣れているからな・・・」
「ああ・・・そのツンデレな感じがたまりません!」
セシリアは俺と、タナカさんの女装を見て喜んでいる。そして、リアの方は俺の服を着て、髪の毛を帽子の中に隠して男装した。リアの男装は、やっぱり無理があったのか?帽子を深くかぶりすぎたのか?あまりぱっとしない。いや、それはそれで、あまり目立ってもイケないのだが・・・。
「我が妹ながら・・・これは完全ショタですね・・・」
「セシリア!さっきからうるさいわよ」
自由奔放なセシリアに西門さんは突っ込みを入れている。それにしても、研究所のお兄様とやらの影響を受けたと言っていたが、どんな奴なんだろうか?
「真司さんあまり見ないでください・・・」
「す、すまん・・・」リアが恥ずかしがっているので、俺も顔をそむけた。
「じゃあ行きましょうか!」
「西門さん、すまない。こんな危険な事に巻き込んで・・・」
「理子。私の事は理子って呼んで。それに、これは恩返しでもあるんだから・・・」
「恩返し・・・?」
「そうよ、この前真司君に会ってから私、悩みが吹き飛んだというか、絶好調なのよ!」
そうか・・・悩みは前なくなって、前に進みだしたんだな、よかった・・・。というか、いつの間にか名前で呼ばれるようになった。
「それじゃあ行きましょうか?」理子とセシリアさんと俺とリアとタナカさんで、ビルに潜入することになった。回転扉を抜け、受付を過ぎてエレベーターホールにやってきた。途中に何個かの防犯カメラがあったが、俺たちの変装はバレていないだろうか?不安になったが、この階はまだリアのハッキングが成功しているので、コントロールが可能だとの事で大丈夫だった。俺達は最上階に行くための高速エレベーターに乗り込み、40階まで数秒で着いた。
「さあ、着いたわよ!」40階に着くと、すぐ目の前に受付があった。ここから先は、受付を通り過ぎないと中には入れないみたいだ。
「すみません。招待状はお持ちでしょうか?」
「持っているわ」理子は持っている招待状を差し出した。
「はい、確認しました。ではお連れの方はこちらにお名前を書きください」
受付の人にサインを求められた。どうやら俺たち以外にも招待状なしで入っている人もいるみたいだ。俺達以外の名前も何名か書いてある。先に書いたタナカさんが偽名を書いていたので俺も、適当に考えて偽名を書いた。そして、一番最後の枠に紹介者名のところに西門理子と書いて、すんなり中に入れた。中に入ると、もうすでにパーティが始まっていた。約30人近くの人がお酒を飲み、食事をして談笑している。参加者はみな正装していて、会場の端っこに音楽団の人がクラシックの音楽を演奏している。皆、いかにもセレブといった感じで、和やかな雰囲気だ。
理子について行き、どんどん中に入っていく。するとキザな男に声を掛けられた。
「これは、これは、西門嬢ごきげんよう」
「どうも、お久しぶりね、東郷さん」
「みずくさいじゃないですか、貴女と私の仲、私のことはワタルと呼びください」
「いえいえ、滅相もございません東郷さん」
なにか、この二人の間にはとてつもない冷たい空気が流れている気がする。緊張感がこちらにも伝わってくる。理子はこの人と何かあったんだろうか?
「ん?こちらの方々は西門嬢のお連れさんですかな?」
「ええ、そうですわ」
「これはどうも。東郷ワタルといいます、以後お見知りおきを。えーと、こちらの方は以前会いましたね、ボディガードとか、そしてこちらの方は・・・」俺を見て言ってきた。
「え?おれ?・・・じゃなくて私ですか?」
「はい!」
「えーと、私は門脇しん・・・!?じゃなくて、真の子と書いて「まこ」と読みます。
思わず真司といいかけたが土壇場でごまかした。
「まこさんですか。いい名前だ。それにしても貴方は美しい・・・」
東郷は手を出して握手を求めてきたので握手した。
「美しい方は手も綺麗な手だ・・・」
そしてその後、俺の手を口もとまでもってきて、キスをした。
「ひいいいいいいいい」あまりの気持ち悪さに悲鳴を絞り出すように声を出した。そして俺の体の鳥肌が一斉に立った。
「ぶふぁー・・・。ハアハア・・・」後ろでセシリアさんが鼻を押さえて興奮している。
「君は本当に美しい。食べてしまいたいくらいだ・・・」
「ど、ど・・・う・・・も・・・」
あまりの気持ち悪さに体が硬直して、片言でなんとか声を出した。この男の気持ち悪い発言と行動で、急に吐き気を催した。俺は顔がひきつって気持ち悪くなったので、新鮮な空気をすうため後ろを向いた。よく見ると後ろで見ていた理子は必至で笑いをこらえている。
「くそ、他人事だと思って・・・」
その後、リアと自己紹介したが、リアは男装して帽子を深くかぶっているので何もなかった。そして、タナカさんにも自己紹介をしたが、俺の状況を見て警戒して握手はしなかった。東郷は残念そうにしている。
「悪夢だ。いくら手だとはいえ男にキスされるなんて一生の不覚・・・」
俺の人生の歴史に黒い一ページを刻んだ出来事だった。それからも理子の挨拶は続く。ものすごい顔の広さだ。理子の前に列ができて、みな挨拶にやってくる。その傍らで俺とリアは料理に手を付けて待っていた。
「真司さん・・・」リアが小声で声を掛けてきた。
「どうした?」
「私は今からこのフロアのモニター室のハッキングに取り掛かります。10分くらいで完了できるかと思います」
「そうか、頼む・・・」
「ただ、ハッキングに集中しますので、私は行動と発言が出来なくなります」
「だったら俺が見ておこう」タナカさんがリアの見張りに買って出てくれた。
「いいんですか?」
「お前は、あのお嬢様についていろ。そして、何か情報をつかめ!」
「わかりました」
「どうかしたの?」理子が気になって声を掛けてきた。
「いえ、リアがモニター室のハッキングに取り掛かりました」
「そう、なら私たちも今のうちに何か情報を摑まないとね・・・」
「でも、あまり無理しないでいいよ!」
「大丈夫よ、任せておいて!」理子は自信たっぷりで、ツカツカと歩いて行った。
「おお、これは、これは西門嬢ではありませんか?」
「どうも、社長さん。お邪魔していますわ」
「どうですか?パーティは楽しんでいただけましたでしょうか?」
「ええ!」
「では、この前の話の件は考えてくださいましたでしょうか?」
「まだよ。それは、あなたの態度次第かしらね・・・」
「これは、これは手厳しい。さすが西門財閥率いるお方ですな・・・」
「それにしてもここのビル、なかなかいいビルですわね」
「ええ、そりゃあもう、大分お金もかかっていますし、それに、新興企業の方々が続々と入居していまして大変賑わっています」
「ところで、上の階はどうなっているのかしら・・・」
「う、上の階ですか。上の階には特になにもありませんが・・・」
「やっぱり、このビルを知るにはこのビルを管理する会社の社長室を知っておかないといけないと思うのよ。社長室はどこかしら?」
「しゃ、社長室ですか、えーと、それは、さ、最上階になりますが・・・」
「み、見せてもらってもいいかしら?」
「いえいえ、西門財閥を束ねる方に見ていただくような立派な部屋ではございませんので・・・」
「かまわないわよ、景色も見てみたいし」
「景色は思ったよりあまりよくないかと・・・」
「それでもいいわ、一度見ておきたいの!」
「た、大変お恥ずかしいことに、ただ今散らかっておりまして、西門お嬢様にはおみせ出来るような状態ではありませんでして・・・」
「あら、私は散らかっていても気にしないわよ。散らかっているということは、さぞ仕事がいそがしいのでしょ?いい事じゃない?私は気にしないわ。それに、もし社長室を見せてくれるなら、この前の話の件、検討してあげてもいいわ!」
「・・・で、ではもう少しお待ちいただいてよろしいでしょうか?すぐに片付けさせますので・・・」
「あら、いいのに」
「いえいえ、私にもプライドがございます。散らかった部屋に西門嬢をお通しできません。少々お待ちください」社長はすぐに部下を呼び、何やらひそひそ話して、その部下は部屋の奥にはいっていった。
「理子。ちょっとやりすぎじゃないのか?」
「何よ、これくらい普通よ。それに最上階を見に行けるわよ、よかったじゃない?」
しばらくして部下が下りてきて、社長が声を掛けてきた。
「お待たせしました。準備が整いましたのでこちらへどうぞ」
「ありがとう」
リアはまだハッキング中なので、理子とセシリアと俺の三人で向かうことになった。パーティ会場を奥に進むと、奥に階段が見えてきた。あそこから上に上がれるようだ。俺は理子について奥に進み、階段に通じる通路に差し掛かったその時だった。驚いたことに、途中の廊下で奴は座っていたのだ。あいつはまさに津山だ!なぜ奴がここに?いや涼がここに運ばれてきたことを考えたら当然か・・・。津山はこの会場のスタッフのように廊下のベンチに腰かけていた。理子が俺の様子に気が付いて声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「いえ、殺人鬼津山がいます・・・」
「そう、でも大丈夫。今のあなたならばれないわ。もっと自信を持って!」
そして、その廊下を歩き、津山の前を歩いて津山とすれ違った。何事もなく通り過ぎていく。よかった・・・ばれていない?
「おい、そこの女!」
急に津山に呼び止められた。しまったー。ばれたか?心臓の鼓動が早くなる。一度通り過ぎて、さっきまでホッとした気持ちは、一気に緊張に変わった。
「は、はい・・・」
「お前、イヤリング落としたぞ」
「え?あ、すみません・・・」くそー。イヤリングなんて、慣れないものをするからだ。すぐにイヤリングを拾ってその場をはなれた。心臓はドキドキしている。ば、ばれていないよな・・・何とかその場を通り過ぎて階段を上って、上の階に行った。そこでようやくホッとした。
「ね、言ったでしょ♪」
俺は、緊張でドキドキしていたのに、理子は何でこんなに自信たっぷりなんだろうか?それから階段を上り、42階の最上階の社長室にきた。
「うわー。高いなあ・・・」窓の下を見ると車がミニカーのように小さくなっている。遠くの景色もよく見えて、向うの方には山脈が見えている。
「どうですか?気にいってもらえたでしょうか?」
「そうね、私の所有するビルよりも低いけど、これならさらに追加してもいいかもね」
「気に入ってもらってなによりです、それではこの前の件の話なんですが、いかがですかな?」
「それとこれとは別。私はあなたのとこの経営状況知っているのよ。まず、それを改善してからね。まあ、できれば、の話ですけどね・・・」
理子も少し嫌味な感じに言っている。ただならぬ緊張感が二人の間をひしめいている。
「く、この小娘が。おとなしくしていればいい気になりおって、そちらがその気ならばこちらも考えがあるからな・・・」
「あら、なにかしら?」
「例のプロジェクト、我々が買い取らせてもらうぞ」
「ええ、どうぞ。出来れば、の話ですけど・・・」
「今に見ておれ。いずれわが社に組み込んでやるからな!」
「できるものならどうぞ!」理子は自信たっぷりに言った。
「悪いけど、連れを待たせているので会場の方に戻らせてももらうわ」
そういって理子とセシリアさんと俺はパーティ会場に戻っていった。
「なんの話か分からないけど、よかったのか?」
「気にしなくていいわよ。どうせあの人たちには何もできない程度の小さな会社だから・・・」
「ここのビルを管理しているだけでも十分すごいと思うけどな・・・」
老練な大人達を相手に交渉をしている姿を見て理子を改めてすごいと思った。この前、悩んでいた時とは大違いだ。ただ、理子自身の性格、個性はこの前のままなので、なんとなく親しみを感じた。会場に戻ってみるとリアはまだうつむいたままだ。
「リアは、まだ起きてないですか?」
「ああ、かれこれ15分はこうしている」
「ん、あ、真司さん。おかえりなさい」
「気が付いたのか」
「はい。たった今、完了しました。遅くなってすみません。強力なセキュリティがありましたので手こずりました・・・」
「いや、いいよ。で、どうだった?」
「はい。防犯カメラ、セキュリティに関してすべてのコントロールを奪いました。そして、涼さんを発見しました」
「本当か?」
「はい、最初は社長室に監禁されていましたが、屋上の機械室に移動されたようです」
「やっぱり・・・」だから、あの時。社長はあんなに断っていたのか。
「機械室の前に2人、中に3人の見張りがいます」
「合計5人か・・・」
「今なら、救出可能です。防犯カメラに映っても大丈夫なように、すべての防犯カメラは私たちが映らないように設定できます」
急に会場が静かになった。さっきの社長がスピーチをするみたいだ。
「お集まりになったみなさん。本日は誠にありがとうございます。大変申し訳ないのですが、仕事の関係で、私は少し席を外すます。終わるまでには帰ってきますので、皆様はごゆっくり楽しんで下さいませ」
そういって社長は会場から出て行った。そして関係あるのか、どうかわかわからないが、先ほどの東郷も一緒に出て行った。もう一生帰ってこなければいいのに・・・。
救出作戦の実行!
「よし、今がチャンスだ。今なら、さらに手薄になったじゃないのか?」タナカさんが言った。
「よし、じゃあいこう。涼を救出しに!」
「じゃあ、私も・・・」
「お嬢様、さすがにそれは賢明な判断ではありません」セシリアが理子をたしなめた。普段ふざけたことを言っているが、肝心な事の判断はできるみたいだ。理子が最初に有能だって言った意味がここで分かったような気がした。
「でも・・・」
「理子、済まない。ここまでありがとう。ここからは俺達に任せてくれ。それに、ここでは有名人の理子がいなくなったら騒ぎになるだろ?」
「わかったわ。真司君、無事に帰ってきてね・・・」
「ああ、ありがとう・・・」
「すると理子は、俺の顔を両手でつかんでおでこにキスした。俺は突然のことでびっくりした。
「お、お前、な、なにを・・・」
「ふふ、無事に帰ってくるおまじないよ。頑張ってきてね」
「お嬢様、それは逆に死亡フラグかと・・・」
「うるさいわね!」
「真司さん早くいかないと」
「ああ・・・」リアに急かされてその場を離れた。リアにしたがって社員や、見張りに見つからないルートを使って上の階に上がっていく。その途中で、リアが不機嫌なように見たことが俺は気になった。普通に「こっちです」といった指示は一応くれるのだが、リアの発言にトゲがあるような冷たい態度なのだ。
「リア、怒っているのか・・・?」
「いえ、怒っていません・・・」
「やっぱり怒っている様な気がする・・・」リアの態度に戸惑って、何もいえなかった。言えばもっと事態が悪くなるような気がしたからだ。その予感は、彩夏との長い付き合いで感じたものと同じものだからだった。
「真司さん、私は彩夏さん以外の人は認めませんから・・・」
リアに凄まれていわれた。
「な、なにを言っているんだよ、リア。俺は、べ、別に・・・」
「は!?」
「す、すみません・・・。私、何を言っているんだろ?・・・なんでこんなことを・・・?」
リアはパニくっている。
「お前も、大変だな・・・」タナカさんが憐みの目で見て言ってきた。
「え!?」
そうこうしている間に屋上に着いた。
「ここから先は見張りがいます。気を付けてください」一気に緊張感が張り詰める。
「よし、まず俺が行く・・・」タナカさんは銃をだして準備をした。
「俺も、一応刑事だからな。俺がまず出ていってけん制する。その間に二人は涼を助けてくれ!」
「いいんですか?」
「俺は自分の実力をわかっているつもりだ。
ここはリアくんと君のコンビの方が確実だ!」
「わかりましたじゃあ御無事で・・・」
「ああ。さあ行け!」タナカさんの合図で行動に移った。
「動くな!警察だ!」タナカさんは銃を構えて2人の前にでた。
「警察?なぜここに?」2人は動揺している。その隙を狙って2人の裏の機械を通って機械室に入り込んだ。機械室に入ると、涼が目隠しをされて縛られて倒れている。その前に黒色のスーツを着た男が三人銃を持って待ちかえていた。
「動くな!」三人の男は銃をこちらに構えて狙ってきた。こちらに狙いが定まった瞬間、俺は右の機械に飛んだ。その後、銃声がして後ろのドアと壁に跳弾した。何とかギリギリのところでかわしたようだ。逆にリアは左に飛んでよけて、ワイヤーを出して3人の男が立っている上の配管にひっかけて切り崩した。
「うわああああ」3人の男たちは配管の下敷きになって、倒れた。そのうちの一人が何とか立ち上がろうとしたが、その間に俺は間合いを詰めて吉宗を突きつけた。
「動くな!」完全にこちらが圧倒して、涼の救出作戦は成功した。三人をひもで縛った。機械室の外を見てみるとタナカさんも、その見張りをひもで縛っていた。
「こちらもOKだ!」ひもで縛った5人をさるぐつわにして機械質の奥に閉じ込めた。そして、涼の目隠しを外してあげて、頬っぺたを叩いた。
「おい、涼。起きろ!涼」
「うーん、あれ?ここは・・・?」
「気が付いたか?」
「ん?だれだ?」
「何いってんだよ?真司だよ!」
「真司・・・?」涼は確かめるように俺を見た。
「真司?お前が・・・?」
俺はコクリと頷いた。
「ぷ、ぷははははあはっはは、マジで?お前が?お前なんちゅうかっこしているねん?」そうだった、俺は今女装しているんだった。
「うるさいな、仕方がなかったんだよ・・・!」
「あははははは、ひいひいひひひひっひひ。マジで?おなか痛すぎる・・・」涼は今まで監禁されていたにも関わらず大笑いしている。
「こいつ・・・まじで殴りたい・・・」
「はあはあ、はははは、すまん・・・悪かった。ぷぷ・・・」
「ん?」涼がタナカさんを見る。
「も、もしかして・・・」
「よ・・・!」タナカさんが、気まづい感じに涼に声を掛ける。
「ぶあっははははははははは・・・・」
それから涼の笑いは数分間続いた。
「いやーすまんかった。ぷぷ、とにかく助けに来てくれてありがとう。助かったよ!」
「・・・ホントに思ってんのか?」とても助けてもらった感じではない。
「悪いけど、それはまだ早い。これからの脱出が問題だ!」タナカさんが冷静に今の状況を言った。
「ところで、ここはどこだ?」
「九本木ヒルズだ!」
「なんで俺はこんなところに・・・?」
これまでのいきさつを簡潔に涼に話した。
「そうか、それで俺はここに・・・」
「大変です。真司さん!」
「どうした?リア」
「今、携帯のテレビ見れますか?」
「テレビ?」そういわれて携帯を取り出してワンセグのTVをつけた。
「緊急報道特番を放映します。ただ今入った情報によりますと、九本木ヒルズにテロリストが侵入して人質を30人抱えて立てこもっているそうです。ただ今現場に到着しました伊藤アナウンサーにリポートしてもらいます。現場の伊藤さん?」
「はい、現場の伊藤です。今日午後九時頃、テロリストから30人の人質をかかえているとの犯行声明が、警察、各報道機関に連絡がはいりました。それを受けて、今続々と警察が九本木ヒルズに到着しており、現場は封鎖され、緊迫した状況になっています」
「伊藤さん、犯人の目的はなんでしょうか?」
「はい、今のところまだわかりませんが最新の情報によりますと、各企業の会長や社長が集まるパーティ会場を狙ったとのことで、身代金目的の犯行ではないかと噂されています。また、人質の中には西門財閥の取締役の西門理子さんが含まれているそうです。ん?ただ今入りました情報によりますと、犯人は身代金10億と逃走用のヘリと、バンドグループムーンフェイスのタナカの身柄を要求しているとの事だそうです。繰り返します。今日・・・」
「なんだこりゃ?」
「どういうことだ?」
「ちょっとまて、俺達が会場を抜け出して、涼の救出に向かってから30分程しかたってないぞ!」
「本当です、真司さん。カメラの映像によりますと、私たちが上の階に向かった直後にパーティ会場に乱入しています」
「でも、それから犯行声明って・・・段取りがよすぎる・・・」
「それじゃあ、このパーティは元から人質を取る為に・・・?」
「しくまれていた可能性が高いな・・・」
「すみません。私がもっとちゃんと見ていれば・・・私たちの姿が映らない事に集中していましたので・・・」
「いや、これは仕方がないよ。それに、奴らのたくらみに気付かなかった俺が悪い」
「今はそんなこと悔やんでもしょうがないだろ!」
「どうしようか?」
「トゥルルルルル・・・」ここでタナカさんの携帯が鳴る。そしてタナカさんは携帯にでた。
「もしもし、どうした。ああ、今テレビを見たとこだ。うん・・・そうか。準備が出来たら教えてくれ。じゃあ頼む」
「何だったんですか?」俺は、会話の終わったタナカさんに尋ねてみた。
「ああ、俺の同僚からだ。犯人の要求で俺の身柄が要求されている件だ・・・」
「で、行くんでですか?」
「ああ、そのつもりだ!」
「危険です。やめてください!」
「だが、人質の命がかかっている・・・」
「くっそ、いったいどうすれば・・・」
「真司さん・・・」リアが俺の手を握ってくる。
「リア・・・」
そうだ、こんなところで立ち止まっていられない、前に進まないと。
「タナカさん、身代金とヘリが到着するまでは出ていかないんですよね?」
「そうだが・・・」
「わかりました。それまで隠れていてください。人質は、今から俺とリアで救出します。何とか、タナカさんが敵の手に渡る前に救出しますので、タナカさんは引き伸ばして時間を稼いでください」
「そ、そんな危険なことを君たちに・・・」
「大丈夫です。俺を信じてください」
「・・・」
「タナカさん、こいつは信用できます。俺が保証しますから・・・」
「涼・・・」
「くそ、こんな子供に頼らなければならないなんて。なんて・・・俺は情けないんだ!くそ!」
「いいんですよ。タナカさん。俺達は仲間じゃないですか!」
「みんな・・・ありがとう・・・」
俺とリアと涼は下に向かい、人質を救出する。タナカさんは屋上で犯人と交渉して時間を稼ぐ。その間が、俺達が人質を救出するチャンスだ。細かい打ち合わせをして、俺達三人は、下の階に向かった。下の階に着くと、物陰に隠れて様子を見た。さっきまでと違い、緊迫した空気になっている。人質は一か所にまとめられていて、その周りをマシンガンをもった犯人が取り囲んでいる。
「リア、中の様子はわかるか?」
「はい、ドア側に三人、階段側に5人、窓側に4人、合計で12人です」
「どうする?真司?」
「俺とリアで突っ込む!」
「俺もやるぜ!」
「お前は、何も武器がないだろ」
「いや、でもお前らばかりに悪いだろ!」
「いや、涼には救出した後、人質を安全なルートで脱出させる仕事がある」
「ちょっとまて、じゃあ屋上には・・・」
「俺と、リアで向かう」
「いや、それこそお前らばかりに危険ことを・・・いや。やっぱり、俺は足手纏いだよな。ここはお前を信じるよ・・・」
「涼・・・サンキュウ!」
「じゃあリア、階段側の5人倒せるか?」
「はい、大丈夫ですけど、真司さんは・・・」
「俺は、ドア側と窓側のやつらを倒す!」
「そんなの危険です、それにあそこにはセシリアお姉様がいます。窓側の方は任せていいかと・・・」
「大丈夫なのか?」
「信じていいと思います」
「わかった。もしもの場合はどちらか先に倒した方が、窓側に向かう。それでいいか?」
「はい・・・」
「真司さん、目をつぶってください」
「え?」その言葉で少しドキッとした。思わぬ妄想をしてしまった。
「私が、会場の電気を消します。暗闇になった瞬間をねらいましょう」
「なるほど、それはいいアイデアだ!」俺は、目をつぶりその時をまった。
「私が合図をしたら消しますので、真司さんは会場の左側に向かって下さい」
「わかった!」目をつぶってその時を待つ。目をつぶっていると時間が経つのが長く感じられていた。緊張していた自分の気持ちが、落ち着いていくのが自分でも分かった。よし、これならやれる。という自信が自分自身で感じた、その時にリアの合図が来た。
「今です!」目を開けて会場内に走った。リアはすでに行動しており、階段側の5人うちの二人を倒していた。俺はその倒した二人を通り過ぎて左に回りドア側の3人に突っ込んだ。
「でやあああああ!」その三人はマシンガンを持っていたが、こちらが見えておらずキョロキョロしていた。俺は吉宗で鞘ごとその男の体を突き飛ばし、一人を倒した。すると、横にいた男は急な攻撃に混乱してマシンガンを乱射した。
「きゃああああああ」人質が悲鳴を上げる。乱射したことにより、火花で相手の顔がうっすら見える。俺は突き立てた吉宗の鞘を持ち、剣を居合抜きでその男の背中を切った、というか殴った。
「ぐあああああ」
そして、最後の男も吉宗を振り回した反動で足元に持っていき、足を斬るように払った。すると、その男は勢いよく倒れてしまった。これで三人を倒した。窓側を見ると、もうすでに敵は倒れて、やられていた。リアの言った通りセシリアさんが倒していた。もちろんリアの方も倒していて、会場内の敵はすべて撃退完了した。むしろ、俺が、一番最後に倒していて遅かったくらいだ。そこで会場内の電気がつく。施設のコントロールは完全にリアが管理している。
「みなさん、安心してください。みなさんを助けに来ました。もう大丈夫です」
テロリストたちは全員紐でしばり逃げられないようにした。そして銃は使えないように一か所にまとめて隠した。すぐにリアがビルからの脱出ルートを決めて、非常階段の方にみんなを誘導した。人質だった人はみな一斉に階段を下りていく。
「また、助けられたわね」理子が話しかけてきた。
「ああ、無事でよかったよ・・・」
「お、なんだ?真司、知り合いか?」
「あ、紹介するよ。俺の親友の川村涼だ!」
「初めまして、西門理子といいます」
「理子が助けてくれたから、お前を助けることが出来たんだ!」
「そうやったんか、助けてくれておおきに・・・」
「いえ、お役に立ててよかったわ」
「それにしても、真司もやるな。霧條さんという人がいるのに、こんな可愛い子と・・・」
「ば、馬鹿。何言ってんだよ!こんなとこで!」
「霧條さん・・・?」
「あ、こいつの同級生の幼馴染や」
「腐れ縁だよ!」
「彼女さん?」
「いや別に付き合ってはないよ!」
「まあ、くっつくのも時間の問題やけどな、あ、今はかわいいリアちゃんがおるか・・・?」
「お前は黙ってろ!」
「これは完全にフラグが立ちましたね。お嬢様には望みがないかと・・・」
「うるさいわね!あんたは黙ってて!・・・まあいいわ。それより真司君これからどうするの?」
「俺は・・・タナカさんを助けに行く・・・!」
「そんな、無茶よ。危険だわ!」
「でも、俺が行かないと・・・」
「西門さん、こいつを信じてやってください。こいつマジすごいから!」
「涼、お前・・・」
「親友の俺が保証します。こいつは絶対帰ってくる!」
「・・・ふふ、信頼されているのね。分かったわ、親友さんの言葉を信じるわ。だから・・・無事に帰ってきてね」
「ああ・・・」俺と理子は見つめあった。
「これは見た目は百合展開ですね・・・ハアハア!」セシリアがぼっそっと言った。
「真司さん、人質の方のほとんどが、下の階に降りて行きました」
「じゃあ、涼。後を頼む!」
「おう、お前も無事で帰ってこいよ」
「わかってる!」
涼と理子とセシリアさんは非常階段を下りて行った。
「さあ、行こうリア」
「はい!」
俺とリアは、屋上を目指して階段を上がっていった。タナカさんが、屋上で犯人と対峙しているはずだ。おそらく、津山と・・・。
対決!屋上でのロボット兵器
「リア、屋上の状況はどうなっているかわかるか?」俺は走りながらリアに屋上の状況を聞いてみた。
「はい・・・!?真司さん!今、TVを見れますか?マスコミの報道ヘリが屋上を映しています!」
「何だって!?」すぐに、自分の携帯のTVを見た。
「九本木ヒルズ人質事件の続報をお伝えします。ただ今、現場のヘリが屋上を映しています。ただ今入りました情報によりますと、逃走用のヘリが屋上のヘリポートに到着した模様です。あ、映像が見えますでしょうか?手を挙げた女性がヘリの前に立っています」
女装したままのタナカさんだ。ヘリの前に手を挙げて立っている。そして対峙しているのは、津山だ!やはり奴がこの事件の主犯格だ。
「やばい、早く。タナカさんに人質を救出したことを伝えないと・・・」
タナカさんと離れる前に、人質を救出した際には、着信を入れる約束をしていた。俺は走りながら、タナカさんに電話したのだが・・・繋がらない。当たり前だ。タナカさんは、今、まさに津山と対峙中だからだ。だが、着信があったことで、俺達が人質を救出した事が伝わればいい。
「気付いてくれ!タナカさんー」祈るように電話をかけ続けて走った。もはや、繋がる事は考えていない、人質の救出が成功した事が伝わればいいのだ。ようやく、屋上に着き、ヘリポートがある所に着く寸前の所まで来た。
「バーーーーン」大きな銃声がした。それと同時にヘリポートに着いてみると、タナカさんが倒れている。倒れているタナカさに対峙しているのは津山だ。津山の後ろには数人の銃を持った男たちが並んでいる。津山はタナカさんに向けて銃を構えていた。今、丁度タナカさんを銃で撃った感じだ。
「タナカさーーーん」俺は叫びながら、タナカさんに近づく。
「しっかりしてください」タナカさんを起こして声を掛けた。
「真司君、済まなかった・・・」タナカさんは目をとじて反応がなくなった。
「そんな、しかっかりしてください!」
よく見ると、タナカさんのお腹から血がどんどんあふれ出てくる。このままでは死んでしまう。
「なんだ?お前たちは?何者だ?」
俺は、ツヤマ達の事を無視していたが、ようやく囲まれていることに気がついた。しかし、俺は無視をしつづけて、タナカさんを起こして担ぎ、目の前にあったヘリに乗せた。
「逃がすか、お前達、あいつらを撃て!」津山の命令と同時に銃撃が始まる。
「ズダダダダダダダダン」銃撃が始まった。跳弾してヘリにもあたっているし、周辺の床に跳弾している。その銃撃の中で俺は助からないと思ったが、一撃もこちらに来ずに、当たらなかった。一通りの銃撃が終わり。静かになると、リアが前に立ちふさがっていた。しかも何かマントみたいなものを羽織っている。帽子も取れて綺麗な髪がなびいている。
「リア、お前それは?」
「防弾マントです・・・」いつの間にそんなものを・・・。しかし、今はそんな事を尋ねている余裕はない。意味は分からないが、リアに頼るしかない。
「リア、しばらく頼む!」
「ん?あの髪・・・あの女は!?あの時のロボット!くそー、撃て、あいつらを殺せ!」
津山は、帽子が取れたことによってリアの存在に気付いた。気付いた津山はすぐに再び攻撃命令を行った。
「ズダダダダダダダダダダン」またも、銃撃が始まった。しかし、そのすべてをリアがマントを使い、くるくる回って、まるで踊っているかのように見事に防いでいる。踊っている姿のように見えるリアは、まるでプロのダンサーが踊っているかのように美しかった。そして、俺はヘリコプターの操縦士にタナカさんをお願いした。
「早く、行ってください。タナカさんを早く病院に!」
「しかし・・・」
「もうすでに人質は全員救出しました。後はあいつらだけです!」
「わかった!」タナカさんを乗せたヘリコプターは空高く飛び立った。間に合ってくれればいいんだが・・・。俺は振り向いて津山に対峙して睨みつけた。
「もう終わりだ!津山。人質はすべて解放した。お前のたくらみはすべて破たんした!」
「またしてもお前達か?これで終わりだと思うなよ、小僧!お前達、しばらく足止めしろ・・・」
津山はマシンガンを持った手下に、指示をして後ろに引き下がった。再びマシンガンを持った男たちの銃撃が始まった。リアは防弾マントで銃弾を避けている。その後ろにいる俺は何事もなく無傷だ。
「リア、突っ込めるか?」いくら防弾マントがあるとはいえ。見事に攻撃をかわしているリアを、盾にしているのは心苦しかった。ここで、俺はこの状況を突破しようと思った。
「はい、行けます」
「よし、突っ込むぞー」
リアと俺は銃弾の雨をよけながら突っ込んでいった。敵に近づいたところで俺はリアの後ろから右に飛び出して二人を倒した。リアも逆側の左に飛び込み一気に二人をたおした。タイミングはばっちりだ。リアとの信頼と信用が出来ての行動だった。詳しい打ち合わせもせずに掛け声だけで、ここまで出来れば十分だ。
「こいつら、ば、化け物だ!」残りの男たちは逃げ出した。もうすでに完全に戦意は喪失している。そして、津山の方に目を向けてみると、機械の棺桶みたいな箱のところにいる。その箱の扉が開いて中から人間の男らしき人物が出てきた。
「ふふふふ、お前達。悪いが遊びはもう終わりにさせてもらう。そこの小娘がロボットならば、こちらもロボットを出させてもらう」
中から黒服に包まれた黒い髪の見ためは、ほとんど人間の男が出てきた。目つきが鋭くて、かなりのイケメンな感じだ。
「言っておくが、いままでの無能なロボットとは違うぞ、世界最高のロボット科学者に作ってもらった最高傑作だからな。さあ、あいつらを倒せ。お前の力を見せてみろ!」
「イエス、マスター」
そのロボットはリアと同じで見た目は人間でとてもロボットには見えない。しかし、鋭い目つきをしており、いかにも強そうだ。
「ふふふふ、俺の名前はロベルト。目覚めて最初の相手が、大島博士のロボットとは運がいい。プロフェッサー中原様もお喜びだろう・・・」
「プロフェッサー中原?」はて?誰だろう?津山は世界最高の科学者と言っていたが、京太郎おじさんとは関係ないのか?
「知っています。マスターがまだ学生だった頃の、研究仲間だそうです・・・」
という事は、おじさんの同級生?もしくは先輩後輩?
「ほう?知っているのか?」
「マスターから何度も話を聞きましたから。何をやらせても常に二流のくせにやたら対抗心を抱いてくる奴だったと・・・」
「ふ、それは昔の話、むしろ大島博士は小さな町工場に落ちぶれたと聞いているぞ!」
リアとロベルトはお互い睨み合っている。なんだろう?京太郎おじさんと何か確執でもあるのだろうか?二人のロボットの間には、ただならぬ緊張がほとばしっている。
「ふん、大島製のロボットはここで破壊する。覚悟するがいい・・・」
ロベルトはリアを睨んでいたかと思うと、いきなり攻撃を仕掛けてきた。目から赤いレーザーを出して、リアに発射した。リアはすぐに気づいて、右によって寸前でかわした、その瞬間、ロベルトはすぐに走り出してリアに突っ込んだ。
「しねえええ!」ロベルトは、リアの間合いに入ってリアを殴った。するとリアは吹き飛び倒れた。
「リアああ!?」リアは大きく飛ばされ、ヘリポートの上で倒れている。
「なんだ?大島製のロボットはこんなに弱いのか?手応えのない奴だな・・・」
ロベルトは喋りながらリアに圧力をかけるように一歩一歩と近づいていく。
「それとも・・・この俺が強いのか?」リアは倒れたままだ。
しかし、リアはロベルトが近づくと、倒れた状態のまま、ロベルトに対して蹴って攻撃をした。ロベルトはその蹴りを両腕で受け止めたが、続けてリアが殴りかかってロベルトに一撃を加えた。
「やるじゃないか?」
最初のレーザー光線をよけた時、レ―ザーは防弾マントにかすっていた。なので、防弾マントはボロボロになっている
「銃弾をはねのけた防弾マントがボロボロになるなんて・・・なんて威力だ!」
リアはボロボロになったマントを邪魔になったのか、外して捨てた。
「ふん、なかなかやるではないか。だが、まだまだだー!」
ロベルトは、また目から光線をだした。リアはまたすんでのところでかわして、右腕を伸ばした。そしてその腕を、ロベルトに狙いを定めると、リアの腕が外れてロベルトに飛んで行った。丁度、某スーパーロボットのロケットパンチのように。
「ぐあああああ!」リアの腕はロベルトに命中して、ロベルトは後ろに吹っ飛んだ。リアの腕は体とワイヤーでつながれていたので、リアの腕は体に戻ってきた。そのままリアは、後ろに吹き飛んだロベルトに突っ込んだ。
「やられるかあああ!」 すぐに体制を整えたロベルトは、回し蹴りをして、リアを押し返した。
「くらええええ!」続けてロベルトは、レーザー光線を出しつつ次々と連続攻撃を繰り出す。リアはそのほとんどをかわした。しかし、それと同時にリアの攻撃も、ロベルトはほとんどかわして、お互い致命的な一撃を与えることはできなかった。
「す、すごい・・・」俺の目の前で、二人の鮮やかな戦闘が行われている。二人とも、ロボットなので当たり前だが、とても人間の動きをしていなかった。とても、俺の付け入る隙はかった。
「さすが、大島博士のロボットだな!やるじゃなか・・・」
「何をやっているロベルト!もういい。一気にかたをつけろ!」
「わかりました・・・」ロベルトは両袖から鎖のような武器をとり出した。
「これは、高圧電流を流す電撃鞭だ。悪いがこれで終わらせてもらう・・・」
ロベルトは、その鞭を両手で振り回した。鞭はしなって、「ヒュン、ヒュン」音を鳴らしてどんどん早くなっていく。
「くらえ!」二刀流の振り回された鞭は、リアに迫っていく。しかし、リアはまたもや、すんでのところでかわした。ロベルトは次々と鞭をリアに向けて攻撃をする。
「おら、おら、どんどん早くなっていくぞ!」
ロベルトの言うとおり鞭はどんどん早くなっていき、リアに少しづつ、かすり始めている。
「!?」かすめた鞭はリアの服を少しずつ切り裂いて、あっという間にリアの服はボロボロになった。ちなみに、今リアが来ている服は俺の服だが・・・。そして、なおもロベルトの電撃鞭は早くなっていく、リアは徐々にかわしきれなくなり鞭に当たり始めていた。
「きゃああああああ・・・」
ついに致命的な一撃が当たった。リアは悲鳴を上げて、床に倒れた。リアが悲鳴を上げるなんて俺は初めて聞いた。それだけ、今回は切羽詰まっているのが分かった。
「リアあああああ・・・!」
「よし、ついにあの化け物ロボットを倒したぞ!よくやったロベルト!」
津山は後ろで喜んでいる。今まで散々俺達に邪魔をされていたから仕方がない。
「所詮こんなもんですか?大島製のロボットなんて・・・」
「油断をするな、奴はこの前、電撃を喰ってもかろうじて動いていた。とどめを刺して確実に動けないようにしろ!」
やばい!このままではリアが死んでしまう。いや、壊れてしまう。でもそんなことは関係ない、とにかく今は止めないと。
「やめろおおおお!」
俺は、リアの前に立った。今の二人の戦いを見ていた俺に、何かが出来るとは思っていなかったが、前に出ずにはいられなかった。
「し、真司さん・・・に、逃げてください・・・」リアが、弱弱しい声で声を掛けてきた。
「いやだ、もう俺は君を置いていかない・・・」
「く、くくく。泣けるねえ。感動的な場面だ。しかし、現実は甘くない。ロベルト!そいつも一緒にやってしまえ」
「悪く思うな・・・恨むなら己の運命を呪うがいい・・・」
ロベルトの電撃鞭は俺に襲いかかった。まず、最初の鞭は構えていた吉宗に巻きつき、わずかな電気を感じた瞬間、俺は手を放した。すると吉宗は、鞭に絡まったまま、向うの方に飛んでいった。そして、そこに追い打ちをかけるように手ぶらになった俺にもう一つの鞭が襲いかかった。
「ぐああああああああ・・・」ものすごい、電撃を受けて体はしびれて俺も床に倒れてしまった。
「し、しんじ・・・さん」「リ、・・・ア・・・」俺もリアも床に倒れて、一歩も動けない状態だ。体は痙攣して、全く動く感じがしない。
「リ・・・ア・・・。たすけて・・・やれなくて・・・すまん・・・」
そういうのが精いっぱいだった。ロベルトは俺達に近づいてきて、俺は覚悟した。俺が死んだら、涼はなんていうだろう?孝治は悲しんでくれるだろうか?彩夏は・・・どう思うだろう?そんなことを走馬灯のように頭の中を横切っていた。
「これで、最後だ!」ロベルトは渾身の一撃を俺に加えようと振りかぶった。
「ジジジ、バチバチ・・・」電気が放電している。何が起きたんだ?よく見ると俺の真上でリアが、その鞭をつかんでいる。
「お、お前。何故立っている?」
一体何が起きたのだろう?俺の後ろで倒れているはずのリアが立ち上がり、俺の前にいる。リアは鞭を握っている。しかも、よく見るとリアの体は、ほのかに光っていた。
「私の体にはもう一つのエネルギー機関が搭載されています・・・」
何を言っているんだ・・・?リアの体は電気を帯びているかのようにほんのり光っている。
「そんな、馬鹿な。本来なら立てるはずがないんだ。俺の脳内電子コンピューターにもこんなの計算に入っていないぞ・・・」
「真司さんを殺させはしない!」リアが声を上げて宣言して、ロベルトに対峙した。
「ま、まさか?お、おまえ。あの、エネルギー機関を・・・」
どうやら、ロベルトにはリアに起こっている現象について気付いたみたいだ。リアに対しての驚きの顔を隠せない。
「イオンクラフトエネルギーです」
「そ、そんな馬鹿な。あのエネルギーは制御が難しくて・・・まだ実用化されていないはず・・・」
「マスターはいいました。お前は限りなく人間に近い生命体として作ったと。お前は人間の心、気持ちと感情を学び、それを制御できた時、お前はそれをコントロールすることが出来ると・・・」
「そ、そんな・・・この俺が、プロフェッサー中原様のロボットであるこの俺が、大島ごときのロボットに負けるはずがない、ないんだ!」
そう言った瞬間リアは、つかんでいる鞭を引っぱり、リアの方に引き寄せられたロベルトは、リアに殴られ吹っ飛んだ。一撃で倒れたロベルトはピクリとも動かなった。
「そん、そんな馬鹿な・・・。お前は世界で一番強いロボットじゃなかったのか?起きろ!早く、あいつらを倒せ!」
津山はロベルトを蹴り飛ばしたが、全く動かなかった。ロベルトは完全に機能を停止している。リアはその姿を見て津山に近づいていった。
「く、くるな。化け物が!」津山は持っている銃でリアを撃った。
「ダーーン、ダーーン」しかし、津山の銃弾はリアの体に近づいた寸前のところで、それて飛んで行った。
「この化け物め!」津山は銃を捨てて、ナイフを取り出して、リアに襲いかかった。
「死ねええええ!」
リアはナイフを、さらりとかわして、ナイフを持っている手を叩きナイフを落として、津山を殴り倒した。
「そ、そんな・・・」津山は倒れたが、それと同時にリアも倒れた。
「リアああああ!」俺は倒れたリアを見て、すぐによろめきながらも立ち上がった。まだ痺れていた体は徐々に動かせる様になっていた。フラフラになりながらも、リアのそばに行って体を起こす。
最後のキス・・・
「リア、大丈夫か?」
「すみません・・・体中のエネルギーを使い果しただけですから・・・少し充電すれば家に帰るくらいはなんとか・・・」
「そんなことはいい!よいっしょ・・・」俺は渾身の力を込めて、リアを抱きかかえた。
「真司さん!?」
「俺が連れて帰ってあげるよ・・・」リアが少し照れた感じをしている。
「そうはいかねえ・・・」
「!?」津山がよろよろと立ちあがった。
「津山!お前まだやるのか!?もうお前の計画はすべて破壊されたぞ!」
「くくく、ガキのくせに愚劣なことをいう。俺が何故?取引場所を屋上にしたかわかるか?」
「どういうことだ!?」
「本来の計画では、取引が終わった後、屋上のヘリに乗り込んだと見せかけて、地下駐車場で逃げるのが本来の計画だった。つまり、本来は屋上には用無しということだ。一気に証拠隠滅を図るのが目的だったのだ・・・」
津山はリモコンのようなものをポケットからだした・・・
「ふふふ・・・あの世で会おう・・・」津山はニヤリと笑った。
「まさか・・・!?」
次の瞬間大爆発が起こった。「ドゴオオオオオオオン!」
屋上全体がものすごい爆風にさらされ、周辺の建造物は崩れ落ちていく。俺はとてつもない熱風と爆風にさらされ吹き飛んだ。
「うわあああああああああ!」俺の体は宙に浮き、吹き飛んでいくのが自分でもわかった。このまま死んでしまうのか?自分が今どこにいるかも、生きているかもわからず意識もなかった。そこで、ふと気づいた。リア?リアはどこだ?そう思った時に、俺は落下している自分に気付いた。
「リア!?」リアは俺の体を抱き抱えている。そして、二人で一緒に落下している。
「真司さんしっかり私につかまってください・・・」
なおも落下している。リアは右腕のワイヤーを伸ばしてビルの側面に引っ掛けて、俺達の落下は止まった。
「リア・・・」俺達は宙ぶらりん状態だ。しかし、リアの左手は俺の体を機械のように・・・というか機械なのだが・・・。とにかくリアは俺をがっちり摑んでいて放さない。リアの体と俺の体はしっかり密着していて、リアの体の柔らかさに少しドッキっとしたが、すぐに今の自分の状況のやばさに我に返った。
「真司さん・・・すみません・・・エネルギーをほとんど使いはたしていまして、いつまで持つかわかりません・・・」
なおも爆発の影響で上空からは破片が次々と落下してくる。
「だから・・・もし、落ちてしまったら助かる可能性は・・・ほとんどないかもしれないけど。私を・・・下敷きにしてください。そうすれば・・・少しは助かる可能性があるかもしれません・・・」
「な、なにを言っているんだ。そんなこと、できるはずがないだろ!君を犠牲にしてまで生き残っても俺は・・・うれしくない。死ぬ時は・・・・死ぬときは一緒だよ!」
「で、でも・・・私はロボットだし・・・」
「そんなの関係ないよ!俺はこの前言ったよな。ロボットだろうと人間だろうと壊れたら、死んだら一緒だって。君と・・・君と一緒に死ねるなら俺は本望だ!」
「真司さん・・・」
いくらなんでも、この高さから落ちて助かるわけがない。仮に、リアを下敷きにしても、落下の衝撃を考えれば助かるはずがない。それはリア自身が気付いている。でも、俺の身を案じて、そこまで言ってくれる彼女に嬉しさと、感動を覚えた。その気使いを愛おしく思った。俺とリアは密着していて、宙釣りになっている。彼女の吐息がかかるくらい急接近している。このリアの吐息が、この前の火事の時俺を救った事を考えたら、少し恥ずかしくなった。
「私、真司さんと彩夏さんに謝っておかないといけないことがあるんです・・・」
「リア・・・なにをいって・・・」
こんな時にリアは何を言おうとしているんだろうか?謝るどころか感謝さえしてるのに・・・。
「この前の火事の時、私、真司さんを救うためとはいえ、その・・・真司さんに口づけを・・・」
知っている。そのことは退院の時にエミリアさんに聞いた。
「悪いとは思っていたんですが、隠すつもりはなかったんです。どうしても言えなくて・・・すみませんでした・・・」
「何を言っているんだ。あれは俺を助ける為だろ別に悪い事じゃ・・・」
「違うんです。私の気持ちが、隠し事をしている自分が許せなくて、あった事を正直に言えない自分が・・・」
ここで、こういう事を言ってくる事は、リアは悩んでいたのだろうか?おそらく、ロボットしての報告と、人間としての感情が邪魔をして素直になれなかった自分を。彼女は人間とロボットの間で揺れ動いている。それを俺は感じた。
俺は、リアに優しくキスをした。
「!?」
彼女の唇のやわらかさを俺の唇で受け止め彼女の吐息が感じられた。唇を重ねた瞬甘い香りがただよった。リアは驚きの目で俺を見てくる。
「確かに俺は、君をロボットだからという扱いをしてきたかもしれない。いや、正直な気持ち、君をロボットだからと割り切ろうと思い込んできた。でも、君と過ごしていくうちに、君を一人の女の子として見ていたことも事実だ!」
気が付くと、少しずつ下がっていってる気がする。どうやら崩壊したビルの側面は、俺と、リアの体重に耐えられなくなっているようだ。リアのエネルギーが切れるよりも先に落ちてしまいそうだ。だからこれがリアと話す最後のチャンスかもしれないと正直な気持ちをぶつけた。
「正直なところ恋愛対象で彩夏が好きだとも、リアが好きだとも、今の俺の気持ちはわからない。でも、これだけは言える。ロボットだとか人間だとか関係なく、俺は君を一人の女の子として見ているということを・・・リア、君はロボットじゃない。人間だよ・・・」
そういった瞬間、ビルの側壁は崩れ、俺とリアはついに落下した。数秒の落下滞空時間、俺はこれで終わりだと覚悟した。最後に、リアの腕の中で死ぬのも悪くないかな?という余裕すら感じていた。地面は刻一刻と近づいていく、もう間もなく激突するだろうと思った瞬間、急に体が浮いた感覚になった。俺は死んだのか?
「え!?」よく見ると、リアと俺は空を飛んでいる。というか落下が止まって浮いている。何故だ?よく見ると両脇からセシリアさんとエミリアさんが支えていた。
「間に合ったようだな・・・」
「あなたたち、はたから見たら百合展開全開ですよ、むふふ・・・」
そう言われて、改めてまだ自分が女装中だという事に気付いた。エミリアさんセシリアさんは二人とも背中にロケットブースターみたいなものを背負っている。このロケットブースターで空を飛んでいる。
「ふふ、誘拐などで狙われやすいお嬢様の車にはこんなものが乗ってあるのですよ。それで、近くまでエミリアお姉様に来てもらったのよ。お姉ちゃん偉でしょ?」
セシリアさんはリアにお姉さんぶっている。
「お姉さ・・・姉上・・・?」
「キター、姉上いただきました」セシリアは興奮している。
そのまま、ビルの下の地上にゆっくり降りた。そして、リアはぞのまま崩れ落ちた。
「リア、大丈夫かい・・・」
「はい、少し充電すれば・・・」
地上では警察、マスコミ、多くの野次馬、解放したばかりの人質が集まっていた。その中に理子と涼がいた。
「真司君!」「真司!」二人は駆け寄ってくる。
「よかった、無事で!」理子は飛び込んで抱きついた。
「ちょ、ちょと、理子・・・」
「これまた、百合展開ですね。わかります」セシリアはニヤついている。
「あ、いいのかな?霧條さんに言ってやろ―!」
「涼!」
「はははは・・・でもまあ、よく帰ってきたな・・・真司。ほんとにありがとう・・・。お前がいなかったら・・・俺はもうすでに死んでいたよ。正直、俺は何度ももう駄目だと思った・・・でも、お前となら、もしかしたら、何とかなるかもしれないと思ってたよ・・・」
ふざけつつも涼は涙ぐんでいる。本当に喜んでくれている。涼を助けるため、ここまで来たが本当によかった。涼の顔を見てやっとすべて終わったと実感した。
「涼・・・」俺は心の中で、最後まで信用してくれた涼に感謝した。
「ところで真司・・・。もうすぐマスコミが来るけど、お前その恰好で受けるのか?」
よく考えてみると女装したままだった。そのピンチを涼は冷静に助言してくれた。このままでは俺の女装姿は、全国のお茶の間に放送される。全国かどうかはわからないが・・・。
「そういえばさっき、テレビで「謎の美少女、女剣士現る」って生中継していたぞ!ホレ!」
ついでに、追い打ちをかけるように余計な知識も付け加えて教えてくれた。やばい、もうすでに放送されているのか?涼が指さしている先からマスコミの大群がこちらに向かっている。一刻もはやく逃げなければ。
「や、やばい、に、逃げるぞ!リア」
「ごめんなさい・・・真司さん、動けません!」
「ん!?」目線を下げてみると倒れたリアが困った顔している。その姿をみて、これは可愛いと思った・・・。
「ぷっ、あはははは・・・」いや、そんな事を感じている場合ではなかった。
「よ、よーし!」
「きゃ!?」俺はリアを抱き抱えた。そして、走ってその場から逃げだした。マスコミから逃げるためだ。よりによって女装している事が全国に放送されるたら・・・次の日から学校に行けない・・・。
「おい、ちょっと待てよ。真司!」
「ま、待って。真司君、私も・・・」
みんなでマスコミから逃げるために走った。そのあと、何とかマスコミの質問攻撃から逃れて、理子のリムジンに送ってもらって無事に家に着いた。家に着いたのは深夜0時過ぎだった。
モテモテライフの始まり始まり!
五月二日木曜日
あれから一週間経った。今回の事件は世間を賑わす大々的事件として報道がされた。学校占拠事件、人質ビル爆破事件は、同一犯の犯行として首謀者の津山が詳しく報道され、ビル爆破の後の屋上部分は吹き飛んでいて、ロベルトの残骸、津山の遺体は見つからず死んだものとして報道された。生き残った部下も供述をし始めており、事実上、津山の暗殺組織は壊滅したものとして報道された。また、ヘリコプターで運ばれたタナカさんも命を取り留め、事件から三日後に意識を取り戻した。一応、みんなでお見舞いに行ったが、まだ絶対安静中とのことであまり話せなかったが、とりあえずは一安心した。今回の事件を受けて、学校は臨時休校になり、二十五日、二十六日は休みになった。幸い、生徒の被害者はなかった。逆に、春日が数人の犯人を捕まえていて、それが報道されて一躍ヒーローになっていた。
「相手は銃を持っていたとのことですが、怖くなかったのですか?」(リポーター)
「いえ、日ごろの鍛錬賜物です。まったく恐怖はありませんでした。学園の平和を守るのが私の使命ですので・・・」まったく、調子のいい奴だ。
放課後HR・・・。
「みんなー、明日からGWだけど、くれぐれも無茶な行動はしないように!特に、まだマスコミがまだ学校周辺をうろついていますが、あまり我が校の生徒として恥ずかしくない行動をとるように」
事件から一週間たっても世間は今回の事件でもちきりだが、最近はようやく落ち着いてきた。さらにこれからGWだから、開けた頃には平常な日常を取り戻しているだろう。
「よう真司。今日、部活寄って行くだろ?」
涼はすっかり元気を取り戻して、成り行きで入部したロボット研究会に入り浸っていた。俺もそうだが、特に知識はないので、ただ時間つぶしのため、しゃべりに行くだけだ。
「まあな・・・でも、今日はバイトがあるから、挨拶だけして帰るよ・・・」
「そうか、それじゃあ一緒に行こうぜ!リアさんも!」
「おう」
「はい」
俺と涼とリアは部室に向かう。すると春日が渡り廊下の窓の外を眺めている。何しているんだろうか?
「おい、春日!どうしたんだ?」
「ん?・・・ああ、門脇真司か・・・」春日は上の空だ。この状態に心当たりはある・・・。まったくもって俺の黒歴史になってしまった。
「ああ・・・あの麗しの、可憐なあの女剣士殿はいずこに・・・はあ・・・」俺はそれを聞いて、一斉に鳥肌が立った。春日はニュースで流れた俺の女装姿を見て一目ぼれしたらしい。あれは、俺だったのに・・・。初恋らしい・・・。
「ぷ、くくく・・・・」涼は必至で笑いをこらえている。
「あのな!春日、あれはしん・・・ぶぐ・・」俺はあわてて、涼の口を塞いだ。
「お前は黙ってろ!」
「ん?なんだ?」
「いや・・・なんでもない・・・」俺達はすぐにその場を離れた。
「教えてやれば面白いのに・・・」
「うるさい!」
「でも・・・なんだか可哀相ですね・・・」
「いいんだよ!ほっとけば!」ああ・・・死にたい・・・。俺は二度と女装なんてしないことを心に誓った。
「お疲れっす!」涼が勢いよく部室に入った。
「あ、涼先輩!今日もギターの演奏聞かせて下さい」
涼は部員の泉ゆかりと仲良くなっていた。彼女は一つ年下の2年生で、部長が言うにはプログラミング能力にたけていて、ロボットのソフトウェアなどを担当している。涼の演奏に合わせてロボットが動く仕組みを作って遊んでいる。
「わるいけど部長、今日、俺らバイトあるからこれで帰るわ!」
「ん?そうなの?もっとゆっくりしていけばいいのに。リア君にはもっと色々聞きたいことがあるのに・・」
「すみません。連休明けはもっとゆっくりできると思います・・・」リアが丁寧に謝った。
「ほんと?じゃあ期待しているから・・・」
「真司帰るのか?じゃあな!」今じゃ、涼の方がここに馴染んでいる。
俺とリアは一度家に帰る為に、校門を出た。すると校外にランニングに出る孝治に出会った。
「おう、お前達!」
「おう、孝治か・・・」
「部活はどうしたんだよ?」
「今日は、バイトがあるからな・・・。お前の方こそ調子はどうだ?」
「ああ・・・一大事が起きて今、大変なんだ!」
「どうしたんだ?」
「今、我が野球部は霧條様ファンとリアちゃんファンの2大勢力に分かれてしまったよ・・・」
「なんだそれりゃ?」
「部長の俺としては、後輩を引っ張るうえで、リアちゃんファンに気を使わないとやっていけないんだよ!」
「すみません・・・孝治さん・・・」
「いやいや!滅相もない。リアちゃんに謝られることじゃないよ・・・。そうだ!今度試合があるんだけど、応援に来てもらえないかな?そうすれば、うちの部員もやる気が出るし!」
「ええ!?・・・まあ、私でよければ・・・」
「マジで!?よっしゃー!おい、お前ら!今度の試合リアちゃんが応援に来てくれるぞ!」
「やっほーい!」(部員一同)孝治は部員に混じってランニングに戻った。
「おい、いいのか?リア?」
「駄目でしたか・・・?」
「いや、駄目じゃないけど・・・」
「私が応援に行って喜んでもらえれば、私も嬉しいです・・・」
「そうか・・・」
その日の夜、リアと彩夏は台所で晩御飯を作っていた。俺は、リビングでソファに座り、TVのスイッチを押した。すると、TVに理子が出ていた。
「今日は、高校生で父親の後を継ぎ財閥を運営している西門理子さんに来ておらっています。どうも、こんばんは」
「こんばわ!」
「西門さんは先日の人質爆破事件で、人質になっていたそうですが、怖くなかったですか?」
「はい、必ず助けてくれると信じていましたから」
「それは、警察を信じていたという事ですか?」
「いえ、あ、警察も信じていたのですが・・・そういう事ではなくて、片思いですけど私の好きな人が助けてくれると思っていましたから・・・」
「ぶーーーーー!」
俺は、思わず吹いてしまった。あの時の状況からして・・・も、もしかして理子のやつ・・・。
「これはびっくりしました。西門さんにラブロマンス発覚です!」
「ロマンスだなんて・・・そんな。今は片思いだけど、必ず振り向かせてみせます。待っていてね、真司君!」この日、全国の真司という名前の男は叫んだらしい・・・。
「あああ・・・・・」逆に俺は呆然としている。あいつ、全国ネットのTVで何を言っているんだー!
「聞いたわよ・・・」後ろで彩夏が料理中の包丁を持って、ものすごいプレッシャーで睨みつけてきた。
「お、お前・・・何を・・・」今のTVを聞いていたのか?
「リアちゃんとキスしたらしいね・・・しかも2度も・・・!」TVの事ではなかったが、これはこれで、ピンチだ!
「リアー!!」俺は、後ろにいたリアに目線を向けて情けない声で怒鳴った。
「す、すみません、やっぱり・・・恋のライバルには隠し事できません・・・!」
「ま、まて・・・二度と言っても一度目は人工呼吸だ!」
「でも、二度目はキスだった!」
「そ、それはその・・・」
「リ、リアちゃんの事・・・好きなの・・?」彩夏は下を向いてぼそっと言った。
「え!?・・・俺は・・・」どうしよう?あの時は、もうこれで人生最後だと思ったからで、決してリアに対する愛の告白ではない。それは、あの時にもリアにも言った。
「ま、まだわからないよ・・・」かなりのヘタレだが、この返事が今、俺にできる正直な返事だ。
「分かったわ・・・真君が私に対して恋愛対象で見てないって、長年の付き合いで知っているわ。だからこれから私も、そう見てもらえるように頑張ることにする・・・」
「ちょ、ちょっとまて・・・お前何を言って・・・」
「私も・・・ロボットでも人間として、恋人として見てもらえるように頑張ります・・・」
「リア!君まで・・・!」
「真君とのファーストキスはリアちゃんに先越されちゃったけど・・・私はずっと長い間幼馴染だった、ていうアドバンテージがあるんだから。負けないわよ!リアちゃん!」
「はい、私も頑張ります」
「ちょっとまて・・・二人とも・・・何を言って・・・」
「これから、覚悟しなさいよ」(同時)
「これから、覚悟してください」(同時)
「勘弁してくれよーーー!」
こうして、急にモテ期が襲来した俺の最後の高校生生活は、波乱幕開けを迎えた。
Rじぇねレーション