cool

始まりの時

「それで終わりなのか?呆れたな」
光煌めく太陽の下、二人は『ゲーム』をしていた。
圧倒的に圧している少女は、戦闘服を装着ず、漆黒に輝く異常に長い髪の毛を靡かせている。
全身黒で、肌も出していない。
右手には二丁銃、左手には漆黒の傘を持っている。
この三つの武器を達人級に扱いながら、少女は黒い帽子の下から輝きを失った目を覗かせた。
年は13歳くらいの幼い少女で、背は小さめ、体は細身でスレンダーだ。
少女は13歳とは思えない冷静頓着な顔つきで、武器を構えていた。
相手となる女は、桃色の髪をショートカットにし、頑丈な戦闘服を装着している。
戦闘服のレベルは下級、中級、上級ある中で、中級の戦闘服で、色遣いはとても派手だ。
「あ、あんた…何者よ…!」
「僕は『千条院イア』だ」
「せ、千条院イア…!?千条院イアって、あの千条院財閥の娘…?あの最強戦闘族の生き残り?」
「ふん、これ以上貴様に答える義理は無い。それより、貴様も名を名乗れ」
「…あ、あたしは『緋志摩ナノ』」
「…あの宿屋の娘か」
「ご存じですか!?」
「父上がよく利用していたからな。では僕はもう行くぞ」
イアは、冷えた顔を向け、そのまま帰って行った。

麗壮院春光学園の毎日

「…あ、おかえり。イア」
「…」
イアは、寄宿制の学校の寮に戻り、同室の『菅原セト』に迎えられた。
セトは正常な少年だが、この学校は、男子女子の寮は別じゃなくてもいいのだ。
セトは、綺麗輝く金髪に、太陽に照らされているような光煌めく青色の目をしている。
服は制服の黒シャツに赤ネクタイを緩く結び、黒ズボンを穿いている。
はねた髪から、銀色のピアスが垣間見える。
「…セト。今日は僕が夕飯当番だったか?」
「うん。今日は隣の204号室の人達と一緒に食べるんだよ」
「あっちの当番は誰だったか?」
「えっと確か『朝倉ほのか』だったよ」
「…。ほのか、か」
イアは少し考える振りをして、すぐやめた。
「じゃあ、ほのかに打ち合わせしてくる」
イアはエプロンを持ってすぐ部屋を出た。
コンコンコン。
204号室のドアをノックしながら、イアは声をかける。
「朝倉ほのかはいるか。僕は千条院イアだ」
「あ、はぁーい!今行くね!」
ドアの向こう側から、甲高い女の声が聞こえた。
イアがそのままドアの前で待っていると、すぐドアを開けて顔を覗かせた。
「あ、イアちゃん!今日の夕飯について、話しに来たんだよね?」
「ああ」
「今日は、一階の食堂で食べよ!勿論自分達で作るよ!」
「何を作る」
「うぅーん…。何にしようか…。ここはベタにカレーライスにしない?」
「別に文句は無いが」
「じゃあそれにしよう!じゃあルームメイト呼んできて、一階の食堂前の銅像集合ね!早くね!」
ほのかはそれだけ言って、部屋に入って行った。
イアも移動する。
「…セト。今から食堂行ってカレーを作る」
「あ、うん。今日はカレーかぁ…」
セトは微笑みながら、部屋を出る。
「セトはゆっくりしていて良いんだぞ?昨日はセトばかりに働かせてしまったからな」
イアは部屋に鍵をかけながら言う。
そう、昨日のイアは調子が悪かった。
ルームメイトでペアを組み、修行を行ったのだが、第一課題の『忍び』が上手く出来なかった。
何といっても、風邪をひいていたのだ。
それを内緒にして、無理をして修行に励んでいたので当然倒れてしまう。
だが今朝は、昨日風邪をひいていたのが嘘のような元気ぶりを発揮した。
「昨日はイア、無理したでしょ?何かあったら言わなきゃ駄目だよ?俺、心配でならなかったんだから」
「ご、ごめん…」
「べ、別に謝らなくて良いよ!ほら、行こう!」
セトは少し困った顔をしつつ、食堂へエスコートした。
そして、食堂では。
「あ、ほのか!」
「あ、やっと来た。セト、イアちゃん、こっち!」
「おぅ、おせーよ!」
ほのかの隣には、ほのかのルームメイトの、『木暮シアル』がいた。
シアルは、長身に筋肉が程良く付き、紅色の短髪をしている。
手に、食材を持っているので、この食材でカレーを作るつもりだったのだろう。
中には、カレールーとじゃがいも、にんじんが入っていそうだ。
イア達も、豚肉と玉ねぎを持ってきている。
「…じゃあ、作ろっか!」
ほのかは笑って言うと、キッチンに立った。
イアもエプロンを装着する。
セトとシアルはすぐそばの、テーブルで待機することになった。
「ねぇねぇイアちゃん。イアちゃんはさぁ、料理とかするのー?」
「…僕は特にしない。料理は苦手だ。クレープは作る」
「へぇ。クレープかぁ…。じゃあ私が遊びに行ったら振舞ってね!」
「…ふん。唐突に言うか」
「ふふふ、可愛いイアちゃん❤」
「からかうな。早く済ませるぞ」
二人は協力し合いながら、カレーを作った。
カレーを煮込んでいる間、ほのかが気をきかせて、サラダと唐揚げを作ってくれた。
どうやら、ほのかは料理が得意そうだ。
「いただきますっ!」
四人は仲良く手を合わせて、食べ始めた。
「んー、我ながら美味しい❤」
「ああ、すっげぇうめぇ」
「そうだね。美味しい」
「…なかなかだな」
四人は絶賛しながら、黙々と食べ、30分後には綺麗に食べ終えていた。
「ごちそうさまぁ!」
四人はまたも仲良く手を合わせて言った。
そして片づけを始める。
「ねぇ、イアちゃん。私1つ聞きたいんだ」
「何だ」
「イアちゃんってさ、緋志摩ナノって宿屋の娘さん知ってる?」
「緋志摩ナノ…。知ってないこともない」
実は、今日手合わせした女が、その緋志摩ナノという奴だったのだ。
偶然さに驚きながら、遠まわしに知っているということを伝える。
「え、知ってるの?あのナノっていう人、明後日ここの学校に転入してくるらしいよ」
「…そうなのか。別に興味ない」
「そうだよね。イアちゃんはそういうの興味ないよねぇ。そのナノって子、とっても可愛いんだって!まぁ、私はイアちゃんの方が可愛いと思うけど」
「…」
それから特に返事をすることもなく、食事の片づけを終えた。
その後の風呂もほのかと一緒に入って、その『緋志摩ナノ』の話をしたが、イアは特に気に留めることは無かった。
そして夜。
この学校は校則は厳しくない方で、就寝時間などは12時をすぎなければ、何時に寝ても可。
イアはベッドに横たわりながら、セトに話しかけた。
セトは部屋隅の勉強机に向かって、来月の中間テストの勉強をしている。
「…セト。僕は変なのかな」
「どうしたの、急に。イアは変じゃないよ。個性あって俺は好きだな」
「え…、な、何言ってるんだ!」
「あ、ごめん…」
セトは顔を赤らめて下を向く。
「で、でも嬉しくないわけじゃない…」
イアも、布団を顔までかぶって言う。
セトは心なしか微笑み、勉強を続ける。
イアは先に寝ることにした。
「…おやすみ」
セトは小声で言った。

そして朝。
心地の良い朝日の光が窓から差し込み、眩しく照らす。
イアは5時に起き、朝食の準備をする。
朝食は、部屋に付属しているミニキッチンルームにあるオーブンで焼いたトーストと、サラダとスープ。
準備し終え、食事テーブルに置く。
セトはまだ起きる気配がない。
「セト、セト。起きろ」
「…んぁぁ?あ、イア。ごめん、起きるよ」
セトは眠そうな顔を無理やり起こし、顔を洗ってから椅子に座った。
「冷めないうちに食べて」
「うん」
セトはトーストを食べながら聞く。
「今日のレッスンは、練習試合だよね?」
「ああ。今日の相手は、202号室の男二人組だった」
「あ、それって、『不知火イチ』と『坂道ノル』だよね?」
「…特に記憶してない」
「きっとそうだよ!イチとノルは、イアのこと好きって言ってたからさ!覚えてるんだ」
「…は?セト今何て」
「あ、特に気にしなくていいよ!」
「気になる…」
セトは相変わらずの雰囲気で誤魔化しながら朝食を食べ終える。
そして朝の集いに向かう。
火曜は決まって朝の集いがある。
体育館に集まって、校長の話を聞いたり、各教師の連絡を受けたりする時間だ。
体育館に体操座りさせられ、長時間つまらない話を聞くのは、イアにとって最悪な時間であった。
だが、朝の集い後は、すぐに楽しみの修行があるので、それを思い出して我慢する。

そして朝の集い。
全校生徒が集まり、舞台中央には、学園長、品川由紀子が演説をしている。
「ええと、おはようございます。今日も皆さん元気そうで何よりです。それでは、まず表彰をしてから、話に移ります」
品川学園長は、いつものように進行し、表彰を始める。
表彰は主に、練習試合などに勝ったり、コンテストなどで、優秀な成績を修めたら表彰してもらえる。
これは普通の学校と同じだが、練習試合、コンテストなどは、『戦い』というのを基準にしているため、普通とは少し違う。というか、全く違う。
そして、表彰を終える。
「では…。今週は一年生、オリエンテーション。二年生、職場体験、三年生、進路相談。など沢山の行事がありますね。それで…」
そして、話はどんどん進んでいく。
半ば上の空で聞きながら、他事を考えていたイアは、早く終われと呪いのように心の中で叫んでいた。
その思いが届いたのかどうかは知らないが、朝の集いはいつもより少し早く終わって、すぐに解散になった。
「じゃあ一年は、校庭のグラウンド前集合。体力テスト、戦闘能力テストを行う」
一年の学年主任の日丸が言うと、一年はA組から退場していった。

体力テスト&戦闘能力テスト

先程日丸先生に言われたように、生徒達はクラス順に、校庭のグラウンド前に集合していた。
生徒達が集合してから3分後くらいに、教師達が辿り着く。
「早く集合出来ましたね。素晴らしいです。では、クラス順に動いていきますが、バディをつくってテストした方が合理的なので、まずルームメイトとペアになってください」
日丸はパチンと柏手を打つ。
すると、生徒はルームメイトと集まり、それぞれで座っている。
「では、ペアと一緒に行動します。空いていると思ったところに各自並んでテストを受けて下さい」
日丸は言って、また柏手を打った。
そして、生徒達は動き出す。
勿論、イアとセトも、動き出した。
「イアさ、体力テストいっつも良かったよね」
「…そんなことなどない!セトこそ、良い結果じゃなかったか」
「俺は普通。イアの方が凄いよ!あ、握力が空いてる。握力最初行こ!」
セトは握力の方を指さして言った。
そして、握力の方に移動する。
「宜しくお願いします」
そして、長座前屈、上体起こし、反復横跳び、長距離走、短距離走、ソフトボール投げ、幅跳びを終える。
イアは少しも疲れることはなく、すべてを終えた。
イアは体力テストよりも、戦闘能力テストが早く行いたかったのだ。
「では、戦闘能力テストを行う。体力テストと同様、ペアと一緒に行動しなさい」
日丸がまた柏手を打って、行動していいことを合図する。
そして、生徒達が動き出す。
「やっと、SNTだね」
戦闘能力テストは、長ったらしく言うのが面倒なので、巷では、SNTと呼ばれている。
「最初は剣、その後五感調査、次魔法、次能力試し、最後が覚醒予兆検査か…」
セトが配られた紙を見ながら呟く。
イアはセトが持っている紙を横目で見ながら言う。
「早く行こう。…なぁ、セト。僕と勝負しないか?」
「…えっ!何急だなぁ。別に良いけど、俺がイアに勝てる訳ないじゃん!」
「最初から諦めていたら、もう勝ち目はないぞ。ふん、どうあがくか見てやろうじゃないか」
「ふぅん、挑発かぁ…。イアも悪趣味だね。のってやるよ」
イアは不敵な笑みを浮かべ、セトは笑顔でも少し口調を変えて言う。
そして、二人は勝負をすることになったのだ。
そして。
3時間を使った戦闘能力テストは無事終え、寮に向かった。
普通、火曜は例外として、10時までは自室待機で、10時後は制服に着替えて教室に行き、授業準備をする。
たまに映像授業があるが、それは緊急事態だけであり、原則として教室で授業をする。
放課は10分あり、その間に休憩、お手洗い、次の授業の準備などを済ませる。
昼休みは30分あり、昼食は寮の北校舎に戻り、各自で作って食べる。
1時半から、午後の授業が始まり、それから2、3時間は休憩なしで、授業を行う。
放課後は自由に行動してよし。
そして18時までには北校舎に戻り、夕飯を作る。
そして最終就寝時刻の12時までに、風呂などを済ませ、12時には寝る。
というのが大まかな決まりごとだ。
だが、この決まりごとは曜日によって異なる場合もあるので注意。
詳しくは今は紹介しないでおこう。

体力テスト1時間、戦闘能力テスト3時間使ったため、昼休みとなった。
イアとセトはそのまま寮の自室に移動し、昼食を一緒に作っていた。
「今日の昼食はホワイトドリア♪わぁい」
セトはにこにこ満面の笑みで言いながら、オーブンの中で回転しているドリアの容器を見つめた。
「そういえばセトはドリアが好物だったな」
「うんそうだよ!あと苺は大好物☆」
セトはテーブルの上に置いてあるデザートの苺を見て言う。
食材の準備は各自部屋の代表、ここではイアなのだが、代表が月の初めに開かれる予算発表に食材金、水道代、ガス代、電気代の調達を行う。
料金は季節によって異なるが、今の春だと、1ヶ月の予算は5万円になる。
ここで少し説明しておくが、この学園にはレベルがある。
下級、中級、上級だが、下級は東校舎で、1部屋12人になる。
だが、料金は5万円で、変わらないのだ。
中級は西校舎で一部屋8人の、料金5万円。
上級は、イア達のように、1部屋2人で料金5万円。
このレベルは小学校での行いと、試験での結果による決め方になる。
とまぁ、上級の方が余裕ある優雅な暮らしが送れるということだ。
ちなみに、このレベルは学園生活態度や、勉強結果などで、その後も変更可能なので、日々気をつかっていれば、上級にいつかなれる日がくるかもしれない。
「いただきます!」
二人は、昼食を作り終え、食べ始めていた。
「んー❤超美味しい!イアがおいしいホワイトソースを作ってくれたからだよ~」
セトは嬉しそうに笑う。
「それは良かった」
イアも美味しそうに頬張る。
そして、1時半。イアとセトはきちんと片づけを終えてから、教室に向かうため、中央校舎に行った。
「セト、本当に残念だな」
「ああ、クラスのこと?俺もイアと一緒になれなかったのは本当に残念だったけど、部屋が一緒なんだもん!それで十分嬉しいよ」
セトはにこりと笑う。
セトとイアは、小さい頃からの幼なじみで、とても仲が良かった。
小学校も一緒だったし、戦闘能力レベルの大まかに分けた階級も一緒で、部屋も一緒になれた。
だが、クラスは一緒になれなかった。
クラスを決める基準はほとんど適当だからだ。
セトはA組、イアはE組だ。
イアは、E組教室に移動すると、前の席の少女が喋りかけてきた。
ほのかだ。
ほのかも同じクラスなのだ。
「イアちゃん!次の授業、英語だよね?私英語得意なんだ!」
「…そうか」
「イアちゃんは?」
「僕は普通だ。基本的に文系が好きだからな」
「ああ、何かわかるわ」
ほのかは考えながら呟いた。
ほのかが言うには、イアは文系顔だとか何とか…。
そして、英語教師が到着する。
「halo!」
早速のご挨拶から始まり、授業の号令をする。
イアは、英語は嫌いではないが、前で発表するのは、本当に嫌いだ。
とにかく目立ったり注目を浴びるのが苦手であり、嫌いなのである。
今日の授業は、文法をやるそうなので、発表じゃなくて良かったと安堵していた。
そして、無事に授業が終わる。
休憩もないので、6時間目の、数学が始まった。
数学も、嫌いでも好きでもないイアは、特に感情を抱くこともなく、授業が終わった。
「イアちゃん!一緒に部活行こうよ!」
授業が終わり次第、ほのかが話しかけてきた。
ほのかとイアは、同じ料理研究部なのだ。
この学園は、部活を三つかけもちすることができる。
その部活に、ランダムに入ることができるという仕組みだが、部活からの命令があれば、そこに行かなければいけない。
イアは、料理研究部、テニス部、情報処理部という三つをかけもちしている。
ちなみにだが、委員会は入っており、風紀委員だ。
「じゃあ行くか」
教科書などをまとめ、バッグにしまう。
ほのかと一緒に料理研究部部室の、家庭科室(料理実習)と書いてある部室に入る。
部活では勿論、下級、中級、上級関係ないので、みんな勢揃いしている。
ちなみに、この学園の部活は大変豊富で、外中合わせて、50くらいある。
紹介すると、面倒なことになるので、今は伏せておく。
「あ、ほのちゃん、イアちゃん!こっちこっち!」
部室から手招きしてきたのは、二年の先輩の中級の胡桃坂季子だ。
季子は、とても気さくで、無愛想なイアにも優しく話しかけてくれる。
「イアちゃん、ほのちゃん、今日も一緒にグループ組もうね!」
「はい!私も季子先輩と一緒になりたかったんです❤」
「…お誘い嬉しく思います。喜んで承ります」
「はいはい!イアちゃん堅いよ~」
季子は苦笑いしながら言った。
そして、部長の留川令沙が号令をかけ、部活が始まる。
「今日は、春キャベツとふきのとうの旬野菜サラダを作ります。皆さんも部屋でサラダを作ることが多数あると思います。そんな中で、旬の野菜を使っていただくだけで、春らしさというものが感じれて、とても楽しくなります」
長々と説明した顧問の佐々木は、旬の野菜を盛りつけた見本のサラダを見せながら言う。
イアは、別に料理が得意な訳でも、好きな訳でもない。
だが、この料理研で作った料理を寮に持って帰ることができ、少し食費が浮く。
なのでイアは料理研に入ったのだ。
「じゃあ、作っていいわよ。いつものようにグループ作ってね」
留川令沙は言うと、柏手を打った。
「じゃあ始めちゃおっか!」
季子はすぐに取りかかり始める。
どうやら季子は料理が好きで入ったみたいで、手際も良く、楽しみながらやっている。
ほのかも料理が好きだ。
前ほのかの部屋へイアが言った時は、料理グッズが溢れていて、ほとんどの予算は料理グッズや、食費というこだわりぶりを見せている。
それに同じルームメイトはかなり苦労しているみたいだが。
「旬の野菜っていいわよねぇ~」
「まあね。野菜は旬を考えて食べた方が美味しくいただける」
この部活で唯一の男子、二年の先輩の中級の久瀬ハツだ。
ハツは、季子の彼氏であり、ルームメイトでもある。
「ハツ先輩は、食べ物の成分とか詳しいですよね~」
ほのかが、アスパラを切りながら訊く。
「ん~、まぁ成文とかは好きかな。役に立つしね」
ハツも、春キャベツを切りながら答える。
イアは会話には入らず、黙々と作業を進めている。
イアが任された仕事は、サイドメニューだ。
この旬のサラダに合うサイドメニューを一品作ってくれと、部長に頼まれたのだ。
「サイドメニュー出来ました…」
サラダが盛りつけ終わった丁度、イアがサイドメニューを作り上げた。
イアのサイドメニューは卵と豆のスープだ。
「あぁ、美味しそう❤」
「そうだな。卵の具合が丁度良いぞ」
「すごいね、イアちゃん!」
三人は絶賛する。
そして、試食を始める。
「あぁー、美味しいね!」
「ああ、サイドメニューもなかなかだな」
「みんなで作ると美味しいよね!」
「…はい」
四人は食べつつも、寮に持って帰るぶんをちゃっかり残しておいた。
そして、他のグループが作った料理などで、試食会をして今日の午後部活は終了。
季子とハツとは別れて、隣の部屋のほのかと一緒に北校舎の寮に戻った。
「今日も料理もらえたし、得な気分♪」
「そうだな…。今日は旬の野菜ももらってしまった」
「えへへ…、今日の夕飯は一緒に食べれないから差し入れ持ってくね!」
ほのかは今日の夕食が食べるのが楽しみというように顔を染めて喜んだ。
「ああ、そうだよね。俺も…。あ、イア」
寮に帰る途中、部活帰りのセトと、その仲間たちにあった。
セトの隣には、ほのかのルームメイトの木暮シアルもいた。
「…セトか。今から丁度帰るところだ。共に行かないか」
「ああ、いいよ。こいつらも一緒に行くけどな」
「シアル、今日の部活でね、たくさん野菜もらっちゃったぁ♪」
ほら、というように、ほのかは野菜を見せる。
「おう、すげえな!今日は野菜尽くしか?」
「うん!勿論よ?」
ほのかは満面の笑みで言う。シアルは苦笑いで返す。
そして、他のお仲間たちは帰り、シアルとほのか、セトとイアになった。
「今日の夕飯は、男同士で語りたかったんだけどなぁ~!何で月曜だけしか食事を共にしたらいけないのかなぁ!」
シアルは気だるそうに頭の後ろで手を組んでみる。
「そうだねー」
セトも苦笑いで返す。
「じゃあ校則違反でもすれば?私知らないよ」
「何だよそれ。もし俺がそうしたら、ほのかがやれって脅迫してきましたーって言うからな!」
「何よ。私のせいにしないでくれる?」
ほのかとシアルは軽く口論しながらも、自室に着いた。
「じゃあ、お風呂でね!」
「あぁ」
「あ!あと明日朝の集いあるんだってね!転入生紹介!ナノちゃんがやっとくるよ!」
「ふん…」
ほのかは上機嫌で部屋に入って行ったが、イアはそうはいかなかった。
緋志摩ナノという言葉を聞いた瞬間、イアは気分が悪くなってしまったのだ。
その変わり様に気付いたのか、セトが心配げに声をかける。
「どうしたの?もしかして、ナノっていう人と知り合いだったりする?」
「いや、何でもない」
イアは黙った。

転入生『緋志摩ナノ』

翌朝。
早朝から、ほのかの煩いモーニングコールで目が覚める。
ドアを開けると、ほのかが昨日の野菜を使った料理を差し入れに持ってきてくれたことがわかった。
「…本当に持ってきたのか。今眠いんだ。寝かせろ」
「だめだめぇ!二度寝は禁止!折角起きたんだからさぁ、早くこれ食べて感想言って頂戴よん♪」
「貴様は元気で良いな。いつも何時に起きているんだ」
「えー?私は四時かな。そんなに早くないよぅ」
ほのかは笑いながら言う。
時計を見ると、丁度五時だった。
「はぁ。そうか。まあいい、あがれ」
「あ、セト寝てるんじゃない?良いの?」
「そんなに気にするなら僕が今から起こしてくる」
イアは言うと、セトが寝ているベッドに近づく。
「起きろセト。ほのかが貴様の阿呆な寝顔を見るぞ。晒していいのか」
「…んぁぁ、イアぁ」
セトは、寝ぼけているのか知らないが、イアを抱き寄せた。
「ちょ!な、何をする獣!」
「良いじゃんイア…んふぁぁ」
セトはイアを押し倒し、馬乗りになる。
「おい、目を覚ませセト!貴様、今何をやっているのかわかっているのか!」
イアは顔を真っ赤にして、必死で足掻こうとするが、セトが腕で押さえつけているため、イアの細身では力が無さ過ぎる。
ここで能力を使って莫大な力を出してセトをひっくり返すこともできるのだが、ここでそうしてしまえば、セトにけがをさせてしまう。
だが、それよりも。
何故だか、体に力が入らない。
もう胸の中は篤くなってしまって、能力を出そうとしても、体がいうことを聞かない。
脳の中で唱えても、何かが邪魔する。
そんなジレンマに唸りながら、イアは首を振る。
「駄目だ、セト!目を覚ませ!」
もうすぐで唇が重なる、というところでやっとセトが目を覚ました。
「ん、はっ!え、何何?」
セトは状況が読めていない。
とりあえず下を見るが、下には顔を真っ赤にして足掻いているイアがいる。
セトは頭が混乱してしまった。
自分は何か仕出かしてしまったのかと、考え込むが、何も記憶には残っていない。
ただ、良い夢を見ていたとしか記憶が無い。
「大丈夫…だ。貴様は何もしてないぞ…!だから、まず…手を離せ」
イアは上目遣いでセトを見る。
セトはあわわというように、急いで手を離す。
「おーぅい!イアちゃん?」
ほのかが外から呼んでいる。
「あれ、ほのか来てるの?」
「あぁ。料理を差し入れに持ってきてくれてな。お前を起こそうとしたら…、いや何でもない」
「え?気になるじゃん、教えてよ!」
「いや、何でもないと言っている。それよりこれ以上ほのかを待たせるのは良くないからな…」
イアは誤魔化すようにほのかのところへ行った。
「すまない、待たせてしまった。良いぞ入ってくれ」
イアは部屋を通す。
部屋は、ドアを入った瞬間、靴箱があり、奥へ行けばダイニングキッチン式のリビング、更に奥には勉強机とベッドが二つ隣り合っている。
それを右に曲がれば、トイレと風呂があり、洗面所がある。更に奥へ行けば服とか、荷物が置いてある部屋がある。
ちなみに風呂は基本的に大浴場を使うが、たまにこの個人風呂を使う事がある。
キッチンも基本的にはここで使うが、月曜はみんなで食べる習慣があり、食堂で食べる。
「綺麗にしてるね!へぇ、すごぉい」
ほのかが周りを見回して言う。
「整頓されてるし、収納家具も最近の便利なものだよね!キッチンも綺麗に掃除されてる!」
ほのかが感心するようにしていると、イアが言う。
「掃除はセトが率先してやってくれる。セトは掃除が好きだからな。僕は料理と洗濯などをしている」
「へぇ、セト掃除好きなの?」
「ああ、まあね。綺麗になっていくのを見ると心地いいし、綺麗な部屋で生活するのは気分が良いしね」
「ふぅん…。イアは良いなぁ、セトみたいな綺麗好きでしっかりしたルームメイトで。私なんて…」
とほのかは同じルームメイトの木暮シアルの愚痴を言い始める。
脱いだ服はほかりっぱなし、寝相が悪い、掃除はやらないなど。
だが、あいつにも良いところがあって、力仕事はあいつ、何でも任せれるんだよ、力持ちの筋肉マンだからね。
と付け加えられた。
「じゃあ、差し入れ。七時から朝の集いだよね?一緒に行こうね!」
「…ああ」
「じゃあ私も準備しないといけないから行くね!また来るから!」
と、ほのかは帰ってしまった。
「…僕達も準備をしよう」
イアは言うと、制服に着替えた。
麗壮院春光学園の制服はブレザーで、今は春なので、冬服の、白シャツに赤い太めのリボン、黒レザーのベスト、紅色のジャケットに薄紅色と黒のチェックのスカート。そして、黒いガーターニーハイに紅色のローファーだ。
「じゃあ、朝食、作る」
イアはキッチンに立つ。
冷蔵庫から卵ニ個と納豆、ロールパン、マーガリン、ピーナッツ、チョコミルク、野菜を出した。
どうやら、卵の納豆巻きと、マーガリンロールパンと、チョコミルク、おつまみにピーナッツを朝食にするらしい。
イアは慣れない手つきで料理を作り始める。
その間、セトは自分も着替え始めていた。
制服はほとんど同じ。
ただ、スカートとがズボンに、リボンがネクタイに、ガーターニーハイソックスが踝ソックスになるだけだ。
「くんくん…。良い匂いがしてきたなぁ」
「今、納豆巻きを作っているんだ。セト、好きだったか?」
「うん、特にイアの作る納豆巻きは俺にとって最高のオカズだね」
セトはにこにこ笑う。
イアは嬉しかったのか、少し耳を赤くして下を向いた。

「ごちそぅさまぁっ」
セトはいっぱいになったお腹をさすって言う。
二人は片付けと戸締りを終えて、部屋を出た。
セトが部屋の鍵を閉めていると、隣の部屋から、ほのかとシアルが出てきた。
また口論している。
「貴様ら、痴話喧嘩もそこらへんにしておかねば教官が文句を言いに来るぞ」
イアが顔をしかめて言う。
ほのかとシアルは顔を見合わせてぷいっとそっぽを向く。
「本当に仲がいいんだね」
「「よくないっっ!」」
セトが笑いかけて言うと、ほのかとシアルは思いっきりタイミングを合わせて言った。
「「ハモるなぁっ!」」
また重なると、二人は睨み合った。
イアは相変わらず無表情だが、セトはくくくと笑っていた。
そして、四人で中央校舎の体育館に向かう。
体育館では朝の集いで集められた生徒達が集まっていた。
生徒達は、火曜以外の朝の集いで、少し嫌がっていた。
なぜかといえば、大抵の理由は、朝の集いの体育館で、体操座りをし先生の話を聞くと、尻が痛くなるし、先生の話はもう、わかっていることでどうでもいい。他にも整列とか、いろいろ面倒なのがあるのだ。
「では、会長さんお願いします」
生徒会長、熊手和喜が、朝の挨拶を終える。
そして、舞台の中央に校長が立つ。
「おはようございます。今日は緊急の朝の集いでしたが、きちんと集まれて良かったです。では、本題ですが、この学園に新しい転入生を迎えます」
この一言で、辺りはざわつき始める。
「一年生中級に入る、緋志摩ナノさんです。緋志摩さん、ご挨拶宜しくお願いします」
「は、はい!あたし、一年生中級、クラスはE組に入る事になった、緋志摩ナノです。よ、よろしくおねがいしますっっ、うわぁぁ!」
ナノがお辞儀をした瞬間、舞台につまずいて、こけてしまう。
辺りはハハハと和やかな笑いが生まれた。
挨拶を終えると、また校長の長い話が始まり、辺りはまた険悪ムードに戻った。

「やっと終わったぁ」
ほのかはゆっくりと伸びをしながら呟く。
「今日は長かったな」
シアルは欠伸をしながら言う。
「あ、あの緋志摩ナノって子、私達と同じクラスだったね!やったぁ!」
ほのかはガッツポーズをしながら言う。
シアルは呆れながら見つめ、セトは微笑みながら歩く。
イアはあの『緋志摩ナノ』という転入生で頭の中がいっぱいだった。

1-E教室。
教師がSTで話を始め、また険悪ムードになり始めた頃だった。
「少し、自己紹介してもらおう。緋志摩ナノさん、出てきて」
担任が言う。
「は、はい…」
「えっと、あたし今回柊町から越してきた緋志摩ナノです。階級は中級ですが、クラスはE組になれて嬉しいです。仲良くしてください」
「あっと、趣味とか?」
担任がリクエストする。
「ええと趣味は、あたしの武器の薙刀を魔法で操ることです」
「あ、緋志摩さんは魔法武具使いなんですね」
「はい。でも薙刀しか魔法はかけられないです」
「そうですか。ありがとうございました」
担任は礼をすると、ナノを戻らせた。
ちなみに、イアも魔法武具使い、心理能力使いであり、天候使いだ。
魔法武具使いとは、武器に魔法をかけて、強さを+することだ。
ただの杖でも、魔法武具使いが使えば、あら不思議、魔法の杖になり、決められた呪文、詠唱を唱えればあらゆる魔法が使える。
だが、緋志摩ナノのように、ある一定の武器しか魔法化できない場合もある。
訓練を重ねれば、いろんな武器に魔法化ができるようになるのだが、生まれつきの場合も少なくはないので、その可能性は低い。
心理能力者というのは、例えばイアが心の中でナノがシアルに告白しろと思って能力化すれば、ナノは操られたように動き、告白する。
だが、イアの能力がナノの能力を大幅に上回っていないと、操ることはできない。
ナノがそれなりの結界でガードをしていれば、防ぐこともできるのだ。
そして、超能力というのもできる。
頭の中で心理詠唱と言われるものを唱えれば、物を浮かせたり、物体を武器化し、飛ばし攻撃することもできる。
天候使いというのは、空気、風、電気(光)、炎、水、雷、雨、雲、太陽さえも操ってしまうという能力だ。
天候使いは天候に含まれる上で紹介したものを操れる。
だが、これは自分のタイプがあるため、それに抗う事は、出来ない。
いや、完全に出来ない訳ではないが、これは、ある族の生まれではなければいけない。
これはややこしいので伏せておく。
ちなみに、イアは、風と雷の二つを操れる。
話が長くなってしまったが、能力使いにもたくさんの種類がある。
「では、1時間目授業始めます」
国語担当教師が号令し、授業が始まる。
イアはどちらかといえば、数学より国語が好きで、文系なので、国語の時間は好きだ。
「では、イアさん読んでください」
「…はい」
国語の教科書に書かれたオリジナルの短文を読み始める。
あらゆる能力を使い、磨いていくこの学園だが、こういう勉強も必需となっている。
イアは短文を読み、着席する。
ほのかは、何か言いたげににやりと後ろを向いてくるが、イアは動じない。
そして授業が終わる。
イアは次の授業の技術の準備をし、移動教室のため、早くお手洗いを済ませる。
「イアっ!一緒に教室行こう!」
「ああ」
次は金工室だ。
ほのかとイアで二人、歩いていると、後ろから軽く肩を叩かれた。
「やっほ!」
振り返ると、緋志摩ナノが笑顔で立っていた。
「あ、ナノちゃん」
「緋志摩ナノ…」
「ええと、ほのかちゃんと、えっと誰だ………。ん、あ!!!!!!!!」
「え?どうした?」
「あ、あんた…!!あの時の!!」
ナノは大声で叫びながら戸惑いを隠せない。
さすがのイアも、少し身じろいでいる。
「せ、千条院財閥の娘!千条院イア…!!」
「…お、大声を出すな!」
「やっぱり知り合いだったんだぁーっ!どこで知り合ったの?」
「…戦場だ」
「…え?」
「僕が銃弾を補充しに行こうと行きつけの店に行ったら、偶然居合わせてな。いきなり戦闘交渉をされ、懸け遊びをした」
「で、結果はどうだったわけ?」
「あたしが負けた。惨敗だったわ…。あたしが弱すぎであんた、千条院イアが強すぎた。あたしは中級で、あんたは上級だもの」
少し悲しげにナノは言う。
イアは何も言わず、そのまま金工室に向かった。
ほのかは何かを考えているようだった。
ほのかが、何を考えているのか、気にしながら、技術の授業を終えた。
えっと、次の授業は『戦闘』の練習試合で、A組と試合だったか。

ライバル到来

「では、これより戦闘を始めます」
「宜しくお願いします」
号令を終えると、戦場に集まった。
今回のために用意された戦場は、砂浜に、アスレチックが少しあり、池と山が所々ある。
「頑張ろうね!A組なんて、ぶっとばしちゃえぃ!」
ほのかは気合十分で言った。
イアはあまり乗り気ではなかった。
何故かと言えば、セトがいるからということと、あのナノっていう奴と同じチームになってしまったからだ。
「では、まず練習の時間をニ十分設けますので、作戦会議なりしてください」
戦闘担当の児島先生は言うと、笛を吹いた。
そして皆バラバラになって作戦を会議し始める。
「じゃあ作戦会議しよう!」
チームは、下級、中級、上級などもきちんと割り振られていて、イアのチームは、
イア、ほのか、ナノ、楠早見という中級の女、小出沙紀という下級の男、市川雀という上級の男の六人。
「作戦は前線で、ナノ、早見、二人で戦え。俺と沙紀は、後ろで援護する。これはタイプによっての割り振りだ。どうだ?完璧だろ?」
「ええ!あたしたちに任せてよ!」
主に真ん中に立って作戦を決めているのは、市川雀。
なかなかの色男で、いつも周りは女子がいる環境。
いわゆる、イケメンで、モテモテな訳だ。
「じゃあ私達が後ろで、魔法能力、心理能力を使えばいいわけね!」
「ああ、頼む」
「まず、これくらいでいいんじゃない?あっちがどういう作戦で来るのかわからないし」
相手は、A組の3チーム。
メンバーは、セトと、木又、瀬奈川、広川、佐白、そして。
A組で一、ニを争う強さという、上級の、鎖鮫扇だ。
鎖鮫扇は、魔法武具使いで、『時の使い』だ。
時の使いというものは、時を操れ、時間を止めたり、時間を遅くしたり、早めたりできるという能力。
これは、ある一定の条件が満たされないと出来ない事だ。
条件は、相手の中に時の使いがいないことと、その場が戦闘用に設けられた場であることだ。
この条件は満たしている。
イアのチームには時の使いがいないからだ。
扇の時の使い能力は、扇自身が持っている、扇子を扇げば時を操れるという能力だ。
「では、第一戦、A組3チーム対E組2チーム。尋常に勝負!」
試合の合図がなれば、皆は動き出した。
イアのチームは、作戦通りに動きだす。
向こうは、木又と瀬奈川と広川、佐白が前線で刀を振っている。
後ろでセトが援護している。
中央で扇が何やら詠唱を唱えている。
多分、巨大魔法を使うために、魔力を集めているのだろう。
「私達絶対勝つよ!」
「ああ!当たり前だ!」
意気込んでいるのは、ほのかと雀。
ナノは初めての戦場競技で緊張しているのか、さっきより静かだ。
イアチームは前線で、ナノと早見が戦っている。
ナノは薙刀を魔法化して、先端部分から光線が出るようになっている。
早見は小刀を持ち、それを強化した武具を使っている。
後ろで援護しているのは沙紀と雀。
沙紀はバズーカを両手に、敵陣に向かって放ち続けている。
雀は羽を武器化させたものを、敵に向かって素早く投げている。
一番後ろでは、イアとほのかが、詠唱を唱えている。
「汝、霊に祓い、光灯りし力…。天命に導かれしこの力、今解き放たれよ!」
イアはいつものより一層、迫力を増し、詠唱を唱える。
手には数珠を持ち、柏手を打つ。
今回は仏教系呪文らしい。
「私が援護するよ!」
ほのかは、心理魔法を使おうとしているイアを庇って、自分の武器のクナイと手裏剣を投げ続けている。
「静寂の中、光導き、霊に揺らぐ」
イアは詠唱を唱え終わる。
するとイアの体から、光に交えて精霊が何体か出てくる。
精霊は、人魚のように魚の尻尾があり、貝殻のアクセサリーを身につけている。
「精霊よ、我に力を」
イアは手を胸の前で交差し、勢いよく羽ばたくように開いた。
すると、イアが心で唱えたように精霊が敵に攻撃し始める。
「攻撃が来たぞ!」
広川が大声を上げる。
セトが一瞬イアの方を見て、心なしか薄く睨み、また微笑む。
イアはセトが遠慮しているのに気付いた。
だから…。
セトとイアは、心の中で会話を出来る契約をしている。
心の中で喋りあい、意見を交わすことができるのだ。
この契約は、この学園の隣にある悪魔との契約や、イアとセトが行ったある能力を利用した契約を結ぶことができる本部所にある。
[セト…。貴様、僕に遠慮しているだろう。本気で戦い、悔いなく勝負をつけるのが本当の『パートナー』じゃないのか]
[イア。ごめん。俺、本気出すから]
セトは一瞬こちらを見て、にこっと笑った気がした。
「扇!行くよ!」
扇は一瞬振り返るも、また戻り、巨大魔法の詠唱の最後の章に入った。
「ふるえ、ふるい舞い、舞え、ゆらり、ゆらり、汝、言霊の祓い!」
扇は巨大魔法を唱え終わる。
扇は手をつねって血を出し、一斉に天に舞わせた。
「セト!」
「ああ!」
扇は巨大魔法をセトに強化してもらうため、投げかけた後、時の魔法を使った。
「時よ、時よとまれ!汝に従え!」
そう扇が言えば、時は止まった。
ただ、セトが巨大魔法を強化している時間だけが過ぎた。
「時よ、時よ動け!汝に従え!」
そう扇が言えば、時は正常化して、時を刻み始める。
「届け、届け…届けしこの魂、風に乗り、遠くへ届け!」
セトは勢いをつけて柏手を打った。
すると、セトが強化した巨大魔法がイアに命中した。
「…っ!!!」
イアは油断していた。
まだ、ナノのことを気にとめていたのだ。
防御することもできず、そのまま真に受けた。
「イ、イア…?イア、大丈夫!?」
セトはまさか受けるとは思っていなかった。
全力で走り、イアの傍に駆け寄る。
「セ、セト…。今の凄かった…ぞ」
イアはそのまま気絶してしまった。
当然だ。
本当は巨大魔法を更に強化してしまった魔法を食らえば、死ぬどころか、塵もなく散って行くところだ。
イアは凄く耐えたと言えるだろう。
セトはもう目を覚まさないかもしれないと、涙を流した。
「イア、イア…。やっぱり戦うことなんて間違ってるよ!何で俺等が戦わなくちゃいけないんだよ…。こんなのおかしい!」
いくら練習試合と言っても、所詮戦いは戦い。
練習でも何でも、戦いというものは『命懸け』だ。
セトはイアの手を優しく取った。
「…菅原セト。行くぞ。我等の勝利であるぞ」
扇はセトとイアが繋いでいた手を離し、セトを連れていった。
この試合の勝利条件は、相手チームの一人でも戦える態勢が出来なくなったらだ。
それが、イアが出来なくなってしまった。
「終了。第一戦、A組3チームの勝利。ありがとうございました」
号令を終え、チームは解散した。
イアは保健室の先生に連れてかれた。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。私が責任もって看病するわね」
ほのかは心配そうに保険の先生に聞くが、保険の先生はにこにこ笑って保健室まで行った。
ナノと、雀、沙紀、早見は話しかけることが出来なかった。

「菅原セト。何をしている。我の話を聞いているか」
「…」
「いい加減に忘れるがいい。あの女は能力を避けれなかった。それほどの力だったという事なのだろう」
「…がう…違うよ。イアはあんなに弱くない。何か考えていたんだ…。俺は気付いてあげられなかった」
「汝、背負い込むなら背負うがいい。そして下らない狎れ合いでもしているがよいだろう。我はもう知らんぞよ」
「…うん」
「…只一つ。汝を気に入ったぞ。伸びしろがある。汝、我の『パートナー』になれ」
「…え?」
「では、良い返答を待っているぞよ」
扇は振り返ることもなく、華奢でも何故か凛々しく見える綺麗な姿勢で去って行った。
セトはしばらく、廊下の壁にもたれて、ぼぅっとしていた。

素直になる気持ち

「目を覚ましたかしら?」
目を覚ますと、視界には真っ白な天井。
横には保険の先生がソファに座っている。
「僕はどうしてここに?」
「体を見なさい」
「え?」
イアは体を見てみる。
すると、胸から腰辺りまで、血が滲んだ包帯が巻かれていた。
「どうしてこんなに怪我をしている?」
「戦闘で巨大魔法を真に受けちゃったのよ。二か月はここで治療生活ね。残念だけど」
「…」
「じっとしていれば治るわ。大人しくしていなさいね」
保険の先生は、カーテンを閉めて、デスクに向かった。
イアはもう一度寝転がり、記憶を辿ってみる。
だが、記憶には戦闘中に、セトと会話したところまでだ。
そこから何があったか、一切わからないのだ。
イアは考えているうちに、眠りに落ちてしまった。

「イアちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。千条院イアなら!」
「ナノちゃんって、イアちゃんの事、フルネームで呼ぶのね」
「ん?だって特に呼び名なんてないもの」
「イアって呼んじゃえ!」
「あたしが勝手に決めていいかな?」
「いいってば。それより、昼休み、イアちゃんのお見舞い行こうね!」
「あ、うん!」
ほのかとナノは仲良さげに笑った。
そして昼休み。
「こんにちは~」
「…、ほのか、緋志摩ナノ」
「ナノって呼んでよ!」
「どうした?こんなところに来て。同情しにきたなら帰ってくれ」
「違うよ!励ましに来たんだよ!」
「それが同情って言うんだ!もう僕に構わないでくれ!しばらく一人にさせてくれ…ごめ、ん」
イアは俯いて叫んだ。
ほのかとナノは悲しそうに部屋を去って行った。
「馬鹿…!」
イアは布団に潜り込む。
何で追い返してしまったんだろう、何でいつもこう、素直になれないんだろう。
「もう、嫌だ…」
「ふん、惨めだな」
「誰だ」
「我、鎖鮫扇。汝、我の巨大魔法を受け身も取らず真に受けて、その程度の怪我とは信じられまいな」
「これでも全治二カ月だ」
「そうか。そのまま大人しく寝ているんだな」
「貴様に言われたくない」
「一つ言っておこう。貴様のパートナーの『菅原セト』。我のパートナーになるやもしれまいぞ、汝がそうでは、皆離れていこう」
「…」
扇は冷めた目で見つめ、冷徹な声音で言った。
イアはその場で固まってしまった。

「おはようさん」
「…?」
「シアルだよ。ほのかがだいぶ心配しててさ、うっせえから来た」
「…そう、か」
「お前も少しは弱みを見せたらどうだ?人の前では絶対泣かないとか、そういう建前なんか、『友達』の前では必要ないと思うんだ」
「…貴様に関係ないだろう!もうほっといてくれと言ったはずだ!何で来る!」
「お前が心配だからだよ!」
シアルはイアに抱きついた。
そして耳元で囁く。
「お前、俺のパートナーになれよ」
シアルは言う。
イアは驚いた。
一瞬の間に何があったのか、混乱してしまった。
「シアル…!どうした急に…」
「ふっ、俺さ前からイア、お前を狙ってたんだよ。だけどセトがいるからさ。あいつ友達だし、あいつに勝てる訳ないと思ってさ」
「だけどさ、それじゃ駄目だよな。『素直』にならなくちゃな」
「…」
「どうした?固まってるぞ?嫌か?嬉しいか?」
シアルは、イアに顔を近づける。
イアは少し下がり、平静を装う。
「好きなんだ。パートナーになりたい以上にさ、お前の事好きなんだよ。イア」
「や、やめ…ろ」
「その強がりなところも、素直になれないところも、本当は乙女だってところも。全部大好きなんだ」
「何で、何でそういうこと言うの!僕はそんな、大層な人間じゃない!シアルにはもっと良い女がいる…」
「いいや、イアじゃなきゃ、駄目、なんだ」
シアルは真剣な眼差しでイアを見つめる。
イアは顔を赤くして、必死に抵抗した。
「嫌だ。ほのかがいる。僕だってほのかを裏切ることはできない…」
「ほのかと、俺、どっちを選ぶかってことだな」
「駄目だそんなの。決められるわけがないだろ!」
「決めなきゃいけないんだ」
イアは俯く。
シアルはイアの背中に手をまわし、顔を近づける。
その窓の外、人影があった。
セトが見ていたのだ。
セトはこの光景に呆然と立ち尽くしていた。
窓の外なため、声は聞こえない。
だけど、行動は見える。シアルが、自分のパートナーを誘惑している。
セトはどうしていいかわからなかった。
もしかしたら、シアルとイアがもうパートナー契約を結んでいるかもしれないと考えもした。
「…っ!」
セトは無言で去った。
もう、何もかも見なかったことにして、自分は…。
「や、めろ。離れろっ…」
「嫌だ、離さねえ。お前から答えを聞くまでな」
「こっちだって嫌だ。一人に決めろだなんて!」
「千条院イア…?いるの?」
「はっ!」
「えっ!ごごご、ごめん!お取り込み中だった!?」
「ち、違う!誤解するな!待てナノ!」
イアは必死に引き止める。
とりあえず、ナノは止まってくれた。
シアルもとりあえず離れる。
「で、どうして抱きついてたのよ」
「俺が抱きしめた。愛の告白もしてな」
「おい!」
「え…!そんな関係だったの?!」
「ち、違う!断じて違うぞ!シアルに惑わされるな!」
イアは全力で否定する。
とりあえず、一通り説明し終わる。
「何で貴様が来た」
「あたしだって、イアの事心配だったからよ。あんな風に追い出されて、そのまま引き返すことなんてできる訳ないじゃない」
「あれは…す、すまなかった。見舞いに来てくれて、本当はう、うれ、嬉しかったんだ…」
「そっか!良かったわ!ほのか、ずっとそれを悔やんでたの。これを知らせたら少し元気になるかな♪」
「そんなに僕の事を心配していたのか?」
「ああ、それはもう。イアちゃんがもう話を聞いてくれないかもしれないとか、いろいろ泣きながら言ってたぜ」
「…泣きながら」
イアは下を向く。
自分が素直に嬉しいと言わなかったから、向こうが勘違いをしてしまった。
今すぐ誤解を解かないと。
ほのかが嫌いになったわけじゃないと。本当は嬉しかったことと。
「僕、行ってこないといけない」
「おい!待てよ!」
「ちょっとあんた!」
イアは引き止めようとするシアルとナノを無視して、北校舎に駆けた。
素直にならなくちゃいけない。
きちんと自分の思いを伝えないといけない。
嬉しい気持を伝えて、もう迷惑はかけたくない。
「ほのかぁっ!!!」
「…え?イアちゃん?」
ほのかがいる部屋をノックなしに入る。
ほのかは驚いている様子だった。
近くのソファに座って外を眺めているところだった。
「はぁはぁ…ごほごほ…」
イアは傷口を押えながら、必死に話そうとした。
だが、傷が痛んで上手く言葉に出来ない。
「ほのか、…のか、…か、ほ…」
「イ、イアちゃん…!」
ほのかはまた泣きながら、イアを強く抱きしめた。
シアルに抱きしめられるとは違う感覚。
ほのかの薫りとほのかの体温が伝わってきて、シアルの時のドキドキは無く、心が落ち着くような温かさ。
「ほのか…僕…」
「大丈夫。知ってる…イアちゃんが何を言おうとしてるか…私全部知ってるよ」
「ほのか?」
「私こそ、イアちゃんの気持ち知っておきながら、立ち直れなくてごめんね…」
「ほのか…」
「だって、私達、もう『友達』でしょ?」
「と、友達…」
イアは心が温かくなるような気がした。
ほっとして、何か温かいものに包まれているような。
ほのかは相変わらずの優しい笑みで、イアの背中をぽんぽんと叩いてくれている。
「私達…、『友達』?」
「そう。『友達』だよ」
ほのかはにこにこ笑った。
イアも心なしか、少し微笑んだ。
「さぁ、行こう?怪我早く治すためには、ゆっくり寝てないと」
ほのかは、イアの片方の肩を持って、歩くのを援助した。
そして中央校舎の保健室まで向かう。
「疲れた…」
保健室に行くと、シアルとナノが座って待っていた。
「あ、シアル、ナノちゃんも来てたの?」
「ほのか!」
「立ち直ったのか」
「煩い!だってイアちゃんが私のところに迎えに来てくれたんだもん。すっごく嬉しかったよ、イアちゃん」
「やはり、ほのかには敵わないな」
イアは苦笑い気味に言った。
「それより、授業あるんじゃない?行った方がいいんじゃない?」
ナノは心配そうに聞く。
「行った方が良い。早く行ってきて。僕はここで映像授業だから」
イアは言うと、まずみんなを教室に行くよう促した。

戸惑い

そして昼休み。
ほのかとナノは係と委員会がどうとかで、いなく、シアルだけが来た。
「そういえば、最近セトと会ってないみたいだな」
「…北校舎には行かずに、寝起きと食事はここで済ますからな。クラスも同じじゃないし、話す機会などない」
「だからってさぁ、見舞いくらい来てやってもいいだろよ。まあ俺も最近会ってないんだけどよ」
「そうなのか?」
「ああ。あいつ最近、鎖鮫扇とか言う奴と一緒にいるみたいでさ。この前は一緒に食事してたぜ」
「だ、だから何だというのだ」
「ははっ、可愛い嫉妬丸出しじゃねえか。まだセトの事諦められてないのかよ?」
「諦めるなんて…そんな、セトは僕の大事なパートナーだから…」
「何言ってんだよ。あいつ、鎖鮫扇とパートナーになるって噂だぜ?」
「…そんな」
「ほら、あいつも裏切ったんだ。お前もさ、早いうちに俺とパートナーになった方が良いぜ?じゃなきゃ、『孤立』しちゃうぜ?」
「…!」
「だからさ、早く言っちゃえよ。『木暮シアルとパートナーになります』ってさ」
「でも…」
イアは戸惑っていた。
セトは、鎖鮫扇とパートナーになるかもしれない。
だけど、所詮は噂。真実ではないかもしれない。
だからこそ、今確かめる必要がある。
だが、体が動かない。最近喋っていないからか、喋るのに少し緊張する。
これは、シアルとパートナーになれという神の申し出なのだろうか。
「ほーら」
シアルはイアの小さな手をシアルの大きな手で包み込み、耳元で言う。
「俺とパートナーになろうぜ」
そして、後ろから抱き締める。
「イア!!!!」
後ろから声が聞こえた。
どこかで聞いたことのある叫び声。
ドアの開かれる音と混じって、イアを呼ぶ声が聞こえた。
「…セト?」
「俺はやっぱりイアじゃなきゃ駄目だ!俺は、俺はイアが好きなんだ!」
「セト…」
「今までごめん。俺惑わされてたんだよ…。でも本当はイアと一緒になりたいって思ってた。イアじゃなきゃ駄目なんだよ、俺は」
「ぼ、僕も…」
「イア…」
「おっと、俺のこと忘れてねぇ?」
間に入ってくるシアルは、とても不機嫌そうだ。
「ごめん、シアル。やっぱりパートナーになることは出来ない」
「…本気で言ってんのか?俺は、お前の事誰よりも思ってる!きっとお前を幸せに出来るんだ、イア!」
「駄目なんだ…。セトじゃなきゃ、駄目なんだ。僕は」
「…そうかい。だが、俺はまだ諦めちゃいねぇよ。こんなに目の前でイチャつかれて黙っていられるかよ」
シアルはそういうと、そそくさと帰って行った。
「イア、嬉しいよ」
「え?」
「俺がパートナーで良かったなんて、まだ一回も言ったことなかったでしょ?」
「…そうだったか?」
「うん。本当の気持ち聞けて、嬉しい」
セトは顔を桃色に染めて言った。
イアもそうされると照れてしまう。
少し気まずい空間が流れると、セトが切り出した。
「よし、行くね!」
外を見ると、もう朝部活を始めている生徒達がいる。
セトはバスケ部なので、体育館シューズを持って、すぐに体育館に向かった。
イアは羨ましそうに見ていると、何だか眠くなってきた。
起きていようと思っても、眠気が襲ってくる。
イアは眠気に襲われて、二度寝をした。

結果報告

「起きて下さい?千条院さん」
「…はい?」
イアは気持ちよさそうに目覚めると、隣にいた保健の先生に驚く。
「先生、どうかしましたか?」
「戦闘能力テスト及び、体力テストの結果が帰ってきましたよ」
保健の先生は、にこにこ笑って、結果報告の紙を差し出した。
「…」
イアは見入る。
体力テストの結果はこうだった。
50m走、7秒
1000m走、3分20秒
幅跳び、190cm
ソフトボール投げ、57m
握力、82㎏
上体起こし、42回
長座前屈、93cm
反復横とび、72回。
イアにとっては、これが普通であった。
小学生の時もこの結果とほぼ一緒だったので、イアは成長していないのかと、がっかりしたほどだ。
そして、イアが一番、結果を気にしていた、戦闘能力テスト。
イアは、これが低ければ、中級に下がるという条件付きだったので、とても気にしていたのだ。
そして、戦闘能力テストの結果はこうだ。
能力度、レベル42
能力度というのは、自分がどれだけの能力を持ち、どれだけ能力を使いこなせるかのレベル。
覚醒度、32。
覚醒度というのは、自分がどれだけ自分にある能力に目ざめているか。100が完璧。
威力、時に100。
威力というのは、自分の能力の強さを示すもの。
イアの場合、100とあるが、威力では、限界が無い。
強い人は、300にも、先生は基本500以上ないと教師として認められない。
イアの100は、この学年では凄い方。
上級では普通の方。
これが基本的なテスト。
そして、この戦闘能力テストには、検査というものがある。
その一つが、
覚醒予兆検査。
イアの場合、水の能力。
イアを例にして言うと、後々、水の能力が覚醒して使えるようになるかもしれないという予兆が見えたら、このような結果が出る。

「…ふん」
「良い結果だったの?」
「…特に」
保健の先生は、微笑む。
イアは、水が使えるようになるかもしれないのは嬉しいが、威力が満足いかないのだ。
これでは、セトに負けてしまうかもしれない。
ほのかにも、シアルにも、雀にも、扇にも、負けてしまうかもしれないのだ。
いや、きっと、扇には負けただろう。
上級の中でもトップレベルと言われていたのだ。100では、負けているだろう。
イアはため息をつき、また寝転がる。
天井を見る。
「…っ」
小さく舌打ちのようなものをすると、しばらく、無になってぼうっとした。

何かの予兆

それから、一ヶ月が経った頃だった。
パートナーは、今でもセトで、毎日シアルに誘惑される日々が続いていた。
「なぁ、今日、カラオケ行かない?部活休みじゃん?門限まで」
シアルは、イアを誘う。
「勿論、セトも誘ってあるぜ。他の男も女もさ」
「…勉強もある」
「良いじゃん、息抜きしなきゃ」
「…わかった。少しだけなら」
良く考えてみたら、最近勉強や修行で時間が潰れ、睡眠時間も、休憩時間も急激に減っていた。
丁度、息抜きする良い機会だと思って、イアはカラオケに行くことにした。
「…セト。カラオケ行くのか?」
「あ、イアも誘われたんだ。イアが行くなら行くけど、行かないなら俺も行かない」
「何だそれ。僕は行くことにしたぞ?息抜きも必要だからな」
「そっか。じゃあ俺も行くね」
セトは微笑みながら言う。
そして、次の準備があるので、ということで教室に戻った。
「あーっ!イアちゃん!」
「…何だ騒がしい」
「今までどこ行ってきたのぉ?」
「別に言うまでもなかろう」
「あのさ、扇ちゃんが呼んでたよ、昼休み校庭の花壇に来いって」
「…」
イアは何の用だと思った。
だが、何か話したいことがあるのは事実、イアは行くことにした。
そして、授業は昼休みの事を考えてやり過ごし、やっと昼休み。
「…千条院イア」
「鎖鮫扇、僕に何の用だ」
「立ち話も何であろう。ここに座ってゆっくり話そうではないか」
「…」
イアはとりあえずベンチに座る。
扇は、隣の巾着から、何やら箱を取り出した。
「…これは購買で買ってきたものだ。この前の詫びとでも言えばよいか」
「あれは気にしていない。僕が悪いのだしな」
「そうか、それはよかった。だが、それは受け取れ」
扇は箱を渡す。
中を見てみると、鮭弁当だった。
おむすびと、鮭の塩焼き、野菜のゴマ和え、肉じゃが。
丁寧に緑茶も用意してある。
イアはとりあえず食べ始める。
扇も自分の昼食を食べ始めた。
扇も鮭弁当だ。どうやら、鮭が好きらしい。
「で、話とは何だ」
「…やはりセトは汝を選んだか」
「…」
「いや、いいんだ。我は汝を選ぶと思っていた。多少戸惑いはあったようだが、完全に汝に傾いていたからな。汝に気があったらしい」
「そうか」
「汝は菅原セトに惚れているのか」
「…貴様に言う事ではなかろう」
「意地でも言わぬか。ふん、良いだろう。我、セトに惚れている」
「は?」
「我の家系、先祖代々、決まった家との婚約をしている。だが、我はもうセトに惚れてしまったのだ」
「な、なぜ僕に言う」
「汝は、いつもセトと仲良くやっているではないか。だが、その茶番は今日で終わりにしていただきたい」
「…どういうことだ」
「どういうことだろうな」
扇は、弁当を食べ終わるとその場を去った。
イアはそのまま、弁当を食べながら、考えた。

セトはイアの事を好きと言ってくれた。
だが、さっきの扇は自信ありげに言っていた。
何か秘策でもあるのだろうか。
これは危ない。そう感じたイアは扇を追う事にした。

乙女の尾行

水曜の朝。
いつものように朝食を済ませ、準備をして中央校舎に向かっていた。
セトは何か用事があると言ったので、イアとは別々に教室に向かった。
これまた怪しい。その後を追っていくことにする。

「あ、おはよう。シアル」
「おはよ!セト。今日も相変わらず爽やかだな!」
シアルはからかうように言う。
セトは苦笑いしながら首を振る。
「なぁ、セトにぴったりのモテ男紹介したいんだけど、今から空いてる?」
「あ…、ごめん。今からは無理だけど、昼休みどう?」
「昼休みか。別に良いんじゃね?じゃあ校庭の花壇で待ち合わせだからな!」
シアルは、急ぎ足でどこかへ去った。
セトも自分の行き場に向かう。
イアもそのまま尾行する。
「…っと、あれ?セトじゃん」
「…ほのかか」
「久しぶり…じゃない?最近何かと会ってなかったし」
「そうだったっけ?にしても、二日くらい会ってないだけで久しぶりだなんて大げさだな」
「二日でも結構長いよ。で、今から何か用事でもあるの?」
「ああ。今から人と会う約束してて」
「ふーん。イア?」
「ううん、違う。他の人。じゃーね」
セトは急ぎ足で向かう。
ほのかは不思議そうに見ていたが、やがて我に返ったように動き出した。
イアもまた尾行を続ける。
「あれ?セト」
「…あ、琢磨先輩。おはようございます」
琢磨先輩というのは、セトの部活のバスケ部の二年の先輩で、芥川琢磨という。
琢磨はピンクめいた茶髪に、さっぱりした短髪で、スポーツ万能のモテモテ先輩だ。
同学年からは勿論、年下や、年上からも人気。
その理由は、フレンドリーで明るい性格に、気が利いて優しいからであろう。
ともかく、琢磨はセトの事を気に入っているみたいだ。
「セトさ、今日の午後練の練習試合でなよ!」
「え?でもあれは、二年、三年しか出れない試合じゃ…」
「才能、能力ある奴は別だよ!俺も出るしさ、セトも一緒に出てほしいな!」
「そう言われるのはとても嬉しいです。ですが、顧問の先生がどういうか…」
「俺から言っとくよ!」
「良いんですか?」
「ああ、言っとく言っとく!じゃあ、今日の午後練、絶対来てよ!」
「はい!わかりました。じゃあ!」
セトはさすがに約束の時間に間に合わないと思ったのか、小走りで去った。
その会話を見届け、イアは尾行を続ける。
「…、いるのか?」
「ああ、いるぞ」
返事が聞こえる。
この声は…。
「で、用事は何?扇」
「…そう急ぐな。時間はあと一時間ほどあるぞ」
そうだ、鎖鮫扇の声だ。
やはり、扇が動き出していたのだ。
イアは注意深く見つめ、耳を研ぎ澄ます。
「ここに座れ。では、本題に移ろう」
そう言うと、扇はいきなりセトの肩に頭を乗せた。
「…っ、何?いきなり」
セトは少し驚く。
扇は普通の顔して、肩に寄りかかる。
「汝は、我の事、どう思っているのだ」
「…どうって、良いライバル…とか?」
「そう、か。まあそうであろうな。だが、我はどう思っていると思う?」
「知らないよ。普通に気にかけることもなさそうだけどな」
「そうか。それは勘違いだ。我はいつも汝を見つめ、汝の事を想っているのだ。菅原セト」
「…、つまり何が言いたい」
「我は汝が、好き、という事を言いたいのだ」
「…」
セトは少し驚いた顔をする。
扇はセトが好きだというような仕草は何も見せなかった。
只、今は違う。
好きだと告白し、肩に寄りかかり、手をセトの手に重ねている。
セトは嫌がる理由もなく、少し驚いた顔で固まっている。
「返事をしたらどうだ」
「…ごめん。俺は答えられない。扇は好きだ。だけど、それは恋愛的な意味じゃないんだ。わかってくれるかな」
「…そういうなら、こうするしかあるまいな」
扇は、セトの目の前に立ち、両手をセトの両肩に置く。
そして、体をセトの方に傾け、セトに抱きつく。
「我の想い、こうせねば伝わるまい。どうだ、この心臓の音も…この体温も、こうして分かち合える…」
「や、やめ…」
「好き…好き…大好きだ」
扇はぎゅっと抱きしめる。
そして、キスしようとした瞬間。
「やめろ!」
イアは飛び出してしまった。
その瞬間、扇は特に驚くこともなく、最初からわかっていたとでも言うように、こちらを見る。
セトは驚いた様子で口をあんぐり開けている。
「セトを離せ…、離れろ」
「何故汝の命令を聞かねばならないのだ。汝にその権利があるのか」
「…僕はセトが好き、だからだ」
「…それだけで、我に命令を?生意気なこと言うな」
「やめてくれ。とりあえず離れろ」
セトは扇を隣に座らせ、口を開ける。
「俺は優柔不断だから何とも言えない。だけど、俺はイアが好きなんだ。ずっと前から」
ずっと前から。
それは、八年前からの事だ。
セトとイアは家が隣り合っていて、いつも遊んだり、通っている幼稚園でもいつも一緒にいた。
イアは良い友達だと思っていたみたいだが、セトは違った。
何度も遊んで、何度も出かけている度に、どんどん、イアへの気持ちに変化が表れたのだ。
小さい頃は、男勝りで、活発で元気だったイアも、小学五年生になってから、父と母を亡くし、急に表情が一変した。
いつも感情豊かで、元気で活発だったイアが、その頃には、表情は乏しくなり、急に病弱になり、大人しく、無口に変わってしまった。
それが、両親を戦闘で亡くしたという理由だという事はセトだけが知っていた。
だから、守ってあげたくなる。
儚く、艶やかな魅力を纏ったイアは、昔とは違く、大人びたような表情で、昔の頃から付き合いのあるセトには、普通の人との視点が違ったのだ。
守ってあげたい、傍にいたいと思ったのだろう。
セトはその頃から、イアを気にかけるようになった。
「扇は、とても強いし、綺麗だ。良いライバルであり、友達-。だから、そういう関係にはなれない」
「…そうか。仕方があるまい、な。だが、これからも関係が途切れることはなかろうな?」
「ああ。約束する。ずっと、永遠のライバルでいよう」
「ふん、望むところだ。では、我は行く。いつか汝を見下す日を待ってな」
扇は初めてこんなに、優しそうな笑みを浮かべた。
扇は微笑んで、その場を去った。
そのまま、立ち尽くしていた二人だったが、セトが我に返ったように言う。
「このまま立っていても意味がないね。行こう」
「…待って」
イアはいきなりセトに抱きつく。
「うわっ、どうしたの?」
「さっき、扇にやられてた。僕はやったことなかった」
イアは少し頬を膨らませて言った。
セトは微笑んで、もっとぎゅっと抱きしめた。
「ははは、可愛いイア。もっと幸せにしてあげる」
セトは頭を撫でる。そして、そっと、唇を重ねた。
「…好きだ。俺は、イアの事が大好きだよ」
「…僕もだ」
そして、何度も唇を重ねる。
ゆっくりと、ゆっくりと、重ね、繰り返す。
そして、抱き合う。
お互いの心臓の音と、体温、そして気持ちを確かめるように、ぎゅっと抱き合う。
二人はそのまま、休み時間を校庭で過ごした。

ずっと、ずっと、永遠に――。

茜色に染まる空。
イアとセトは、二人で自転車を押して歩いていた。
「僕、嬉しかった。セトと、同じ気持ちで」
「ああ、俺もだよ」
今日は、久しぶりの、自宅へ帰れる日。
いつもは寄宿学園なので、学園で生活しているのだが、こうして一週間に一度、自宅に帰る日が設けられているのだ。
今夜はクラスの皆や、寮の皆と一緒に遊ぶというので、一番広い、ほのかの家へ集まった。
「こんばんは、千条院です」
「菅原です」
ほのかの家のインターホンの前で喋る。
インターホンのマイクから、「はぁい、今行きまぁす♪」という上機嫌なほのかの声が聞こえてきた。
しばらく待っていると、妙に嬉しそうなほのかが、可愛い衣服を着て出てきた。
桃色のキャミソールワンピースに、金色のベルト、髪の毛は、上でおだんごに結っている。
「入っていいよ!」
「ああ」
「うん」
二人は不思議そうにも、とにかく入った。

「ハッピーバースデー!おめでとう、セト、イア!」
何事かと思いきや、すぐにクラッカーや笛の音が鳴り響く。
イアとセトは盛大に驚く。
「うぁっ!」
「っ!!」
二人はひっくり返りそうになりながらも何とか耐える。
「いつもありがとう。今日はお誕生日おめでとう」
代表してほのかが、花束を二人に贈る。
「ありがとう、みんな…」
「あ、ありがと、う…」
セトはにこりと満面の笑みを浮かべ、イアはぎこちなくも、とても嬉しそうな顔をしている。
セトとイアはそういえば、同じ誕生日なのだ。
「さぁさ、主役はここに座って!」
ナノに案内されて、豪華そうな赤色の二人掛けソファに座る。
そして、奥から扇が出てくる。
手には何やら、便箋のようなものを持っていた。
「今から、ここにいる皆の気持ちを伝える。心して聞け」
扇は微笑みながら言う。
そして、便箋を読み上げる。

「拝啓、千条院イア様。
貴女はいつもクールで、艶やかな魅力を持ち、その綺麗なルックスで、皆を盛り上げてくれました。
いつもは無関心で、感情を表に出さない貴女も、時には人情に厚く、人の事を誰よりも想い、気にかけてくれました。
人見知りで、いつもクールな貴女は、人に誤解されやすいけど、私達は知っています。
貴女がとても優しい事を。
これからも、私達と、共に、この道を歩んでいきましょう。
お誕生日おめでとう。」

「拝啓、菅原セト様。
貴方はいつも爽やかで、人を元気にさせたり、明るくさせたりと、励ましたりすることが上手で、いつも皆のムードメーカーでした。
スポーツ万能で、さまざまな能力を使え、人を気遣い、いつも優しい貴方は皆の人気者です。
いつもありがとう。
私達は貴方のそんなところに惹かれ、今ここにいます。
これからも、私達と共に、この道を歩んでいきましょう。
お誕生日おめでとう。」

扇は便箋を全て読み上げた。
すると、会場から拍手が起こる。
イアとセトも拍手を送る。
扇はいったん下がる。
「では、プレゼント渡しといきます。皆さん並んで一言添えて渡してください」
ほのかはどうやら司会を務めているらしい。
そして、皆は動き出す。
最初。
「これ、プレゼント。セトとイア付き合ってるんだって?お幸せにね!」
ナノは、花束と何かの箱。
「これはほんの気持ちだ。ライバルとしてのな」
扇は、花束と細い袋。
「はい、これは俺の寮の仲間と作った傑作!」
雀は、造花のアートと、何やら光る何かをくれる。
「これは、私の思いをこめたプレゼント」
ほのかは、花束と、大きな箱。
「はい。俺はまだお前らの事認めてないからな。だが、良い友達として、これを送る」
シアルは花束と漆黒に光る小さな箱をプレゼント。
そしてプレゼント渡しは続いた。
そして最後の人も渡し終えると、次のプログラムに移る。
「さぁて、次はレクレーションです。王様ゲームです!能力を使うのはナシ!ルール説明をナノさんお願いします」
「はい!」
ナノはやっとの出番に喜びながら、マイクを持つ。
「説明をします。王様ゲームはこの割りばしを使います。王様と書かれた箸を取った人は何番の人こうしてくださいとか、何番の人と何番の人はこうしてくださいなど、何でも命令できます。これで、総合として王様になった回数が一番多い人が、勝ちで、勝った人は、一番王様になった回数が少ない人に対して命令ができます。命令できるものは、少しエッチなのでも可❤面白くなるようにしましょう!では始めます」
ナノは長々と説明を終え、定位置に着く。
「じゃあこれ取って!」
そして皆一斉に引く。
「…んと、王様あたし!ひゃっほぅ!」
ナノは跳びあがって喜ぶ。
「んと、じゃーあ…、6番の人は2番の人の頭をなでて下さい❤」
「2番私だ…」
「6番俺」
2番はほのか、6番はシアルだった。
シアルは少し照れながら、頭をなでる。
「…折角髪の毛セットしたばっかなのにぃ、シアル雑すぎ!」
「知らねえよ!文句なしな!」
シアルは頭をかきながら言う。
二人とも何だか楽しそうだ。
「じゃあ次ー!王様だーれだ!」
「俺だぁ!!」
シアルが手を挙げる。
「じゃあ王様と4番の人は抱き合ってください!」
「え?自信あんじゃん?男と当たっても知らないわよ?」
「4番僕だ」
振り返ると、イアが手を挙げていた。
「ほら!よっしゃぁ!」
「ちょっと、イアちゃんは彼氏いるんだから遠慮してあげなよ!」
「いいよ、それじゃ面白くないでしょ」
セトはにこにこと笑う。
皆は「セトわかってんじゃん」と言って笑った。
そして、シアルは緊張した様子で、イアを抱きしめた。
「んぅ、苦しい…シ、アル…んぁ…」
「もう離せねえ…」
「おい!シアルこれはゲームだぞ!」
という雀の注意で、やっとシアルは離れる。
「次!王様だーれだ!」
「やった!私だ!んと、じゃあ、2番の人は下着になって!」
「え?誰誰?」
「ぼ、僕だ…」
「イ、イア?よし、下着になれぇ!」
シアルは喜んで言う。
セトは少し驚いた顔をしている。
雀は顔を真っ赤にして見ている。
「じゃあ、生着替えターイム!」
ほのかが上機嫌で言う。
「ん…」
不機嫌そうにイアは、まず、来ていた白いコートを脱ぐ。
そして、中に来ていたクリーム色のワイシャツを脱ぎ、キャミソールになる。
下もスカートを脱ぎ、パンツの状態になる。
「上も脱ぐんだよ!」
「…」
イアは顔を真っ赤にして、上のキャミソールを脱ぎ、ブラジャーの状態になった。
さすがバストはHと言っていたくらいだ。
イアは腕で胸を隠し、座って尻を隠した。
「み、見るな!」
イアは顔を真っ赤にする。
男子の、雀、琢磨、セト、シアルは顔を真っ赤にして見る。
女子の、ナノ、ほのか、扇、は憧れの眼差しで見る。
「これ、このまま…?」
「うん!」
「じゃあ次行こう!王様だーれだ」
「はい!俺!」
琢磨だ。
「じゃあ、2番の人は7番の人の胸を揉んで下さい!」
場を盛り上げようと、定番を出す。
2番の人はセト。
7番の人はまたまたイアだった。
「じゃあセト君!彼女の胸を存分に揉んでやって!」
「…いくよ」
セトは割り切って、手をイアの胸にかざす。
「う…」
イアも緊張したように胸を突き出す。
セトはゆっくりイアの胸を揉む。
「うっ、…ん」
「…お、終わりだ」
「あーあ、セト君純粋すぎ。俺だったら…」
と琢磨は揉む真似をする。
セトは顔を真っ赤にしてイアから離れる。
「よーし次ー!」
そしてそれからも王様ゲームは続いた。
そして、結果。
「結果発表!王様になった回数が一番多いのは、セト君!少ないのはイアちゃんです!」
琢磨は発表する。
「じゃあセト、イアちゃんに何を命令する?」
「…俺と、キス」
そういった瞬間、一瞬沈黙が流れるが、すぐに会話が弾む。
「そっか!よし!彼氏彼女のキス!皆で応援しよう!」
琢磨はセトをにやにや見つめながら言う。
そしてセトは決意を胸に、イアに近づいた。
「イア、好きだよ…」
セトはそういうと、目を瞑ったイアの頭の後ろを支えて、セトの方に近づける。
そして、唇と唇を重ねる。
頭の後ろにあったセトの手は、イアの腰に回される。
イアの手もセトの背中に届く。
「ヒューッ!!ラブラブぅ!!!」
皆は盛り上げるように、手を叩いたりしている。
「はい!次はみんなで寝ちゃおう!」
時間を見ると、もう夜だった。
みんなで風呂に入り、歯磨きもし、寝室に行く。
寝室では。
隣同士でセトとイアが並ぶ。
その隣にシアルとほのか。雀、琢磨、ナノ、扇と並んだ。
そして、心地よい気温とともに、イア達は、眠りに落ちた。

翌朝。
パーティーが終わる。
ほのかは、マイクを持って、閉会の言葉を述べる。
「御集り頂いて有難うございます。これにて誕生パーティを終わります。ですが、私達の絆は永遠です❤」
「フゥー!!!」
歓声が起きると、皆は手を振って解散した。
イアとセトは皆にお礼を言って解散する。
帰り道。
「イア!待ってよ、一緒に帰ろ」
「…ああ」
「昨日と今日、とっても楽しかったね!イアとき、キスも出来たし」
「…っ、そう、だな」
イアは照れて、そっぱを向く。
「じゃあ、ここで」
イアは家の前で立ち止まる。
「ねぇ!」
セトは言うと、いきなりイアに抱きつき、唇を重ねた。
「っ、ちょ、ちょっと!」
「本当はこのまま帰したくない…。ずっと一緒にいたいよ。だけど、俺達はまた明日会えるよな、くく。じゃあね!大好きだよ!」
「…僕も大好き」
「ん?何て?」
「…僕も、大好き…」
「んふ。ありがとう、じゃあね!」
今日はっきり言えた。
coolで感情を表すことが出来ない彼女でも、『大好き』って、気持ちを伝える事が出来た。
これは、彼のおかげか―。
少し成長できた気がする。
これで、本当の気持ちを伝えることが出来た。
彼女は、満足げに部屋に入って行った。

end

cool

はい!読んでくれた方、本当ありがとうございます!(^^)! 私、十五夜兎と言います!ツイッターやってます、ツイッター名も十五夜兎ですので、是非フォローしてくれたら嬉しいです。
さて、今回の話は一話完結の物語でした。あまり感情が上手く伝えられない少女と、素直で感情豊かな少年の恋物語です。
こういう恋物語を書くのが好きな私ですが、現実では、私の恋は充実するどころか、好きな人さえいないという状況でございますッ…。
いやいや、違う次元には嫁がたくさんいるのですが、現実という名の世界ではどうやら上手くいかないみたいなのです。
だから、こういう物語を創るのは、ええと、妄想とか願望とか俺得要素を詰め込んだものが多いのです。
今回のお話もそうですね。セトもシアルも。セトは素直に好きと大好きと言われたいですし、シアルにはあの男らしい口調で嫉妬してもらいたいと、まあそんな感じの妄想と願望が入っているわけです。概要であったように、そんな物語を皆様と一緒に共感できたら良いなと思います。そうなんです。共感したいんです(笑)是非、コメントとかよろしくです!次の作品も是非ご覧ください!
十五夜兎でした。

cool

ファンタジックで燃えてくる物語。私(十五夜兎、作者)の俺得要素を詰め込んだ渾身の作品。プリティな少女も、イケメンな少年も出てくるまさに俺得である!そんな物語を、皆様と一緒に共感出来たら良いなと思います。ツイッターやってます!ツイッター名も十五夜兎ですので、是非フォローよろしくです!

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 始まりの時
  2. 麗壮院春光学園の毎日
  3. 体力テスト&戦闘能力テスト
  4. 転入生『緋志摩ナノ』
  5. ライバル到来
  6. 素直になる気持ち
  7. 戸惑い
  8. 結果報告
  9. 何かの予兆
  10. 乙女の尾行
  11. ずっと、ずっと、永遠に――。