こいたぬき

ゆんたん

とある山に一匹のたぬきが住んでいた。
他の仲間たちとははぐれてしまったのか、
ふもとにある村の者が見かける時は、
いつだって一匹で歩いているたぬきの姿があった。

人に慣れているのか逃げもせずに、
餌を与えるとしばらく付いてきてしまうほどで、
村人たちも貧しいながらもたぬきが可愛くて、
それを憎たらしいなどと思う者もいなかった。


そんなある日たぬきは村の中までやってきて、
あちこちの民家の周りをうろうろしていると、
一人の猟師がたぬきを狙おうとしたが、
猟師の娘が飛び出してきてたぬきを撃ってはいけないと言う。

まだ小さな娘のあまりの行動に猟師はたぬきを逃がした。
娘と言っても猟師の本当の子供ではなく、
山で迷子になっていた女の子でどうやら捨てられたらしい。
この辺りではそう珍しいことではないが、
猟師もほっておくこともできずに育てることにしたのだ。

娘に助けられた恩を返そうとたぬきは毎日のように、
村へと降りてきては、
娘のいる家の前に木の実や薬草を置いていったそうだ。


しかしある日を境にその行動も無くなってしまった。
おそらくは猟師の仕掛けた罠に足を取られ怪我をしたのだろう。
それからというものの村でたぬきを見かけることもなくなり、
心配に思った娘は山の中へたぬきを探しに行くことにするが、
山は娘を拒むかのように険しくたぬきは見つからない。
そして探しているうちに娘も山で迷ってしまった。

それを知った猟師は村人たちの反対を押し切り、
天候が悪くなり始めた山へと入っていく。
次第に雨が降り始め足場も悪くなってくると、
猟師も必死になって娘を探して山の奥へと入っていく。


ようやく遠くの崖の近くに、
娘の姿を見つけた猟師はホッとして近寄ろうとすると、
娘の近くにあのたぬきがいるではないか。
このまま娘の背後から近づけばたぬきに驚いて谷底へ真っ逆さま。
猟師はためらうことなく、
手にしていた猟銃を構えたぬき目掛けて撃った。

するとたぬきに命中しその場にうずくまったのを見て、
猟師は急いで娘の側へとやってきたのだが、
娘はわんわん泣いているではないか。
よほど怖かったのだろうと猟師が頭を撫でてやろうとすると、
驚いた娘はそのまま足を滑らせて谷底へ落ちていってしまった。

猟師は娘を助け出そうと谷底へと降りていくと、
そこには娘の姿はなく、
変わりに一匹のめすのたぬきが横たわっていたそうだ。

猟師はそれでようやく理解した。
娘はたぬきが化けていたものだったのだ。

なんとも不思議な話ではあったが、
それ以降猟師はたぬきを狙うことを止めたそうだ。

こいたぬき

こいたぬき

2013年に書いた作品

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 児童向け
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登録日

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