ある夏の不思議な出来事
ダンボールの中の猫
「ねえ聞いてるの?」
蝉が狂ったように鳴き騒ぐ夏の日、学校からの帰り道、隣には女の子。学校では一番の美少女と噂される彼女だが、僕の幼馴染でもある。
「ああ、聞いてるって。その、4組の広瀬さんって人が僕のこと好きかも、って話でしょ」
興味なさそうな相槌を打ちつつ、心の内では季節外れの春の到来の予感に胸を膨らませる。
「そうそう…。妙な話よね。広瀬さん、あんたのどこを見て好きになったのかしら」
そう言ってこちらのことを怪訝そうな目でじろじろ見てくるこの幼馴染の名前は、長谷川有紗と言う。今年から同じクラスになった。つまりクラスメイトだ。
「その言い方、かなり失礼じゃないか…」
こう見えても顔は上の中ぐらいある。
「顔が中の下ぐらいのこんな男のどこを好きになれるのかしら」
と思っていたのは僕だけらしい。言われてみれば、こうして時々登下校を共にするときは決まって、「なにあの不釣り合いなカップル…」「あの女の子、隣の糞虫に弱みでも握られているのかしら」という囁き声が聞こえる気がするのだ。今までただの被害妄想だと思っていたが、残念ながらそうでもないのかもしれない。
危うく自信を失いかけていた僕に、幼馴染は優しく微笑みかけた。
「そんな暗い顔すんなって。大丈夫よ、あんたには私がいるじゃんか」
そう言うと口角をくっとあげ、ニヤリとするのであった。
この何気ない会話はしばらくしてすぐに僕の頭の中から消え去ったが、そういえばこの時期からである。身の周りで不思議なことが増えたのは。
ある夏の不思議な出来事