ぜつぼーのほーてーしき!!~history crisis~
これからの紹介というかそんな感じです。暇つぶしにならないと思いますが暇つぶし程度に読んでくれると嬉しいです。
プロローグ 「絶望」という名の物語
俺は気づけばそこに居いた。
そこはどこかもわからない。
ただ、覚えていることは白い壁に囲まれた部屋と、その部屋の中には3~4歳くらいと思われる幼子が入ったシリンダーが並んでいるということ。ただそれだけしか覚えていない。
そこは俺が生まれた場所ではない。
「懐かしい」と感じるが「戻りたい」とは思わない。いや、「思えない」。
そう感じる場所だったということは覚えている。
それもそうだろう。
失敗すればすぐに捨てられ、予備の実験体など多く存在する。捨てられた者は殺されはしないがどこへ行ったかはわからない。
白い部屋の中で俺は3人の男に囲まれ、薬品を嗅がせられ意識を失い、気がついた時には他の部屋にいた。
その部屋には他に多くの幼子が自由に遊んでいる。俺は他の者とは馴染めないままとある男に引き取られた。その男は俺の父親として本当の息子のように愛してくれた。男には俺より年下の娘がいた、その娘は俺を本当の兄のように慕っていた。
まるで、本当の家族のように俺を愛してくれていた者がいた。ただそれでさえも失ってしまった。
その時から俺は気づいた。
この世に本当の幸せなどないことに、そして、幸せを求めたとしてもその先には絶望しかないことに。
だからこそ俺は誓ったんだ。もう俺は幸せを求めないことを、絶望の道に生きることを。
そんなことを誓った過去の夢を見た。
第一章 「出会い」による「始まり」
天歴102年 4月1日。魔法と科学が一つになり生活が豊かになって人々は生活に苦労しなくなっていた。そんな時代。
「・・・・・・・・ふぁぁ」
間延びしたあくびとと共に目覚まし時計が鳴り響く。
それを止めて時刻を確認する。5:00と液晶に表示されている。
いつも通りの時間に起きてベッドから起き上がり、部屋を出て階段を降りる。トーストを適当に焼いて口に含む。
誰もいない部屋で一人で朝食をとることにももう慣れたものだな。もう一年も経ったのか、あいつがいなくなってから。守りたくても守れなかった、いや、俺の力が足りなくて失ってしまった妹が。
朝食をとってからまた自分の部屋に戻り今日行われる入学式の準備をする。
俺が行く高校は、天立覚戦学院。
この世に存在する高校は大きく分けて2つで、金持ちが個人的に営業しているのが「天立」、国が営業しているのが「空立」その中でも俺が行くのは天立の方だ。
覚戦学院は、校則はそんなに厳しくない。
その上全寮制で、校内の成績により毎月金が支給されるらしい。
俺がそこを知ったのは去年8月に俺宛に届いた一通の手紙からだったんだよな。
その手紙によると、俺の探しているものがそこにあるらしい。その時探しているものなどなかったが今になっても気づかない、ならそこに行ってみるしか知る方法はないということだ。手紙をバッグの中に入れ、制服に着替える。
ワイシャツの胸の辺りに桜葉煌火という俺の名前とに左脇腹の辺りに菱形の宝石を守るように交差した剣2本の校章の刺繍が施されている。
さてと、準備も出来たし行くとするか。
一度部屋を見渡して見る。
これでこの部屋で過ごすのも終わると思うと妙な気持ちになる奴もいるかもしれない。だが俺はそんなことは思わない。不幸な思い出だけが詰まった家、たくさんのものを失った家、そして俺に絶望の道を生きさせた家だからだ。
俺の部屋には必要最低限のものしかないけどこれから寮で暮らすことになるんだから片付けくらいは済ませておいた。この家は親戚、まぁ、正確には俺の親戚ではない人が引き取ってくれるらしい。
さて、そろそろ行こうか。
家から学校まではモノレールで移動する。海上にある浮島に移動するにはそこまでかかった橋を通っていくか、モノレールしかないわけだからな。
まぁ、実際魔法を使えばそれより早く移動できるんだが、何より疲れるからこの手は使わないだろう。俺は玄関を出て駅まで移動する。かなり時間に余裕があったから歩いていくことにしよう。
※ ※ ※
見渡した駅には誰一人としていなかった。ほかの生徒が来ていてもいいはずだが、そう思い時計に目をやる。
6:00
早すぎた。出発まで時間もあることだから少し寝ていれば来るだろう。と、椅子に腰を下ろそうとしたところ、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あれ?煌火君かい?」
声の正体は、華宮神刀。顔はよく、中学の時に女子からかなりモテていたうえに、運動神経抜群、学業では常に上位成績をとっていたやつだ。しかも性格がいいから大体の人間と仲がいい。
「そういえば君もそうだったね、どうしたんだい?こんな早くに」
「・・・たまたま目が覚めただけだ」
俺はそう言って返しておく。
気さくな神刀とは対照的に俺は無口、というかほとんど会話というものを拒んできたが少し変えていこう。どうせ人と関わったって俺はそいつらを不幸にしてしまう。また失ってしまう。あの時のように、な。とも思うがやっぱり孤独なままではいけないからな。
「相変わらずだね」
と神刀は苦笑しながら返してくる。
「・・・というか、少し寝かせろ」
「うん、わかった」
俺は仮眠を取ることにした。まぁ、仮眠とは言っても少ししか時間はないんだがな。少し時間が経って、人が集まってきた。寝苦しくなって起きたがホームの中は騒然としていた。そこにモノレールが来たので俺たちは次々とモノレールに乗り、学院へ向かっていった。
簡単に入島審査が行われ、この学校では必要だからと端末を渡された。程なくして学校についた。が、この大きさは想定外だった。
流石に、浮島三つも使って作られているとか反則だろ。いや、まだ浮島一つに学校、寮、運動場があるというのは一般的だが、三つそれぞれに人が住むような街と大型ショッピングモール、校舎、運動場があるというのは異例である。
「流石に大きいね」
「・・・そうだな」
ここから新しい生活が始まるということではしゃいでいる奴も多くいると思ったんだが、意外とそうでもないな。
「・・・行くか」
「そうだね、これから楽しみだね。煌火君」
「・・・別に」
俺は素っ気なく返した。
※ ※ ※
入学式場には多くの生徒が集まった。
それもそうだろう。
今年は約三千人の生徒が入学しているらしいからな。その三千人が集まれるくらいの場所があるということはここの学校の理事長も相当な金持ちということだろう。そんなくだらないことを考えていたらいきなり背中にドンッ、衝撃が走った。
衝撃の正体は女の子だった。
その少女の髪は腰辺りまである銀色で、瞳は深い蒼に染まっている。体は細身で小柄ながらも、制服から覗く腕はしまっていた。名前はレイカ=イラマクートと、書かれていた。
「・・・大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。ごめんなさい!本っ当にごめんなさい!」
それにしてもこの瞳の蒼さ、人間ではないな。
旧暦のヨーロッパとか言うところの人の眼は蒼かったという見聞はあるんだが、もはやその人類は滅んでいるはずだ。もしもカラーコンタクトにしていたとしても普通に違いはわかるからこ
の場合、人間ではなく魔族(魔物とも言う)と考えるのが普通だろう。
「・・・どこか怪我は?」
「ありません。あなたの方も大丈夫ですか?」
「・・・あぁ」
「それではこの辺で、整列しなきゃいけないので失礼します!本当に失礼しました!!」
「それにしても、あの子の眼、すごく綺麗な蒼だったね」
「・・・そうだな。お前も気づいたか」
「うん。それじゃ、僕たちも整列しようか」
『それでは、入学生のみなさん。並んでください。これから入学式を行います』
アナウンスが入り俺たちの入学式が始まった。
『それでは、まずはじめに、理事長から挨拶をしていただきます』
理事長が出てくるのか。
こんな場所を作れるような金持ちだから身なりがいいんだろうとも思っていたが、それは予想のはるか斜め上を言っていた。
禿げた頭にヨボヨボな腰。うん、まずどこから突っ込んだらいいんだ。まぁ、ツッコム気もないが。
それにしても、その理事長からはかなりの魔力が発せられている。なんか魔法でも使ってんのか。
「え~、入学生のみなさん、入学おめでとう。これから始まる学校生活に慣れていただけるよう今から三つの校則を言っておきます」
理事長が言うには校則とは言ってもそんなに気にする必用のないものだった。まず一つ目は、四人一組のチームを作って、その中で寮を使用すること。二つ目が魔法世界以外では攻撃魔法を使用しないこと。三つ目が常に己を磨くこと。だそうだ。
校長が話をしたあとに学校の説明を少し受けて俺たちはクラスへ行き、チームを作ることになった。
クラスは一年の一~三十組まで分かれていて、その中でも俺たちは四組だった。それにしても、教室一つに百人も入るとなるとかなりの大きさだな。
「煌火君、チームはどうする?一緒にやらないかい?」
「・・・もとよりそのつもりだ」
「それにしても、あと二人か、どうしようか」
「・・・そのうち来るだろ」
「そうだね、じゃぁ待ってよっか」
俺と神刀は四人掛けの丸テーブルの椅子に腰を下ろす。
「・・・じゃ、寝る。来たら起こせ」
「了解」
そのまま待つこと十数分。声が聞こえてきた。
一人の声は聞き覚えのある声ともう一つは聞き覚えのない声だ。その聞き覚えのある声というのは多分、さっきぶつかってきた女、レイカ=イラマクートだと思う。
「あの~、悪いんだけどアタシたちもチームに入れてくれないかな?見たところ二人だし、丁度いいと思うんだけど」
「そうだね、僕は歓迎するよ、それで、煌火君はどうだい?」
ちっ、起きてるってバレてたか。
「・・・別にどうでもいい。それと、レイカ=イラマクートとか言ったな。俺の左側に立ってるの。こんなとこで聞くのもなんだが、魔族か?お前」
「えっと、私、ですか?見てもいないのになんでわかるんですか!?」
「・・・声でわかった。で、答えはどうなんだ?」
「はい、そうです。どうして私が魔族だとわかったんですか?」
「・・・眼」
「それだけ・・・・・・・ですか?」
「・・・あぁ、それだけ綺麗な蒼をしてるんだからわかるだろ」
俺は机に突っ伏したままそういった。
「きれ!?・・・そんなこと始めて言われましたよ・・・・あぅ」
「そうだよねぇ、確かに綺麗だもんね、レイカの眼は」
「もう、緋恋さんもそういうこと言ってからかわないでください!」
「まぁ、座りなよ。二人共」
神刀が促して二人が椅子に座る音がする。
「そういうわけで、チームはこれで決定ってことでいいかな?」
「はい」
と、レイカ。
「うん」
と、緋恋とやら。
「・・・あぁ」
と、ワンテンポ遅れて俺がテーブルに突っ伏したまま返事をする。
「さてと、チームが決まったことだし、自己紹介でもしよっか」
「そうだね、そうしようか」
「じゃぁ、まずアタシから、アタシの名前は鳴沢緋恋。魔法は〈異形の氷精〉って言って、氷属性の魔法で、物質を凍らせるのが主な魔法なんだ。それ以外には、剣道
・・・でいいのかわかんないけど、九十九流って言うとこの門下生だったくらいかな。好きなものはたくさんあるけど、そのなかでも動物は好きかな。嫌いなものは特になし!」
・・・九十九流、九十九・・・・・・・九十九、だと!?
いや、でも、まさか、そんなはずは!!
「・・・ひとつ、聞いていいか?」
顔を上げて聞いてみる。
整った顔立ちに紺色の長めの髪を横でまとめたサイドポニーというやつだな。スタイルも胸は大きめで、特に悪いところは見当たらない。モテるんだろうな、こういう奴。
「うん、何かな?」
「・・・九十九流の創始者ってのは誰なんだ?」
「それはね~、九十九涙さんって言って、若干十五歳にして九十九流を築き上げたんだって、この学校の二年生らしいよ」
「・・・そうか、ありがとう」
なるほど、そういうことだったのか。そういうことなら探し物ってのも納得がいく。
まさかなぁ、この学校にあの実験の成功例がいるとなれば俺の探し物ってのもそういうことだったのか。まずは第一の目標は、九十九涙にしておこう。
「それじゃぁ、次は僕が。僕は華宮神刀、魔法は〈不死者の栄光〉。これは特秘事項だから詳しいことは言えないけど、簡単に言うと、僕の血筋に関わる魔法だね。それと、特に武術とか
は習ったりしてなかったけど、煌火君に教えてもらった程度で、好きな物は・・・う~ん、煎餅かな、それと、嫌いなものはグロテスクなもの。これからよろしくね」
「次は私ですね。私はレイカ=イラマクート、さっきそこの方が言っていたように魔族です。このことはできるだけ秘密にしてください。みなさんもわかっていると思いますが、今まで魔族が 人間から受けてきたことはあまりいいものとは言えないものでしたので。あ、でもみなさんのことを信用していないわけではないんですよ!?あの、その、周りから浮いてしまうとみなさ
んに迷惑がかかってしまうかもしれませんので・・・・・。」
「別に僕は気にしないよ、そんなこと」
「そうだよ。ほかの人が魔族を迫害していたとしても、少なくとも私たちは味方でいるつもりだから、安心していいよ」
「ありがとうございます!何かあったら頼りにさせていただきますね。そうでした、自己紹介の途中でしたね。魔法は〈暁の明星〉という光属性の魔法で、好きなものは自然で、嫌いなもの
は、人の悪意です。よろしくお願いします♪」
「さてと、最後は君だね、そこの伏せている君」
「・・・桜葉煌火だ。魔法はデュアルマジック、二つあるが、一つは〈式の創造者〉で、もう一つが〈虚無の終焉者〉。どちらも属性と言えるような属性はないが、闇魔法の一種だと思う。武道
などは特にないが、天幻流という流派を創ったことはある。まぁ、これは普通の人間では扱えないということで国から秘密裏の流派として扱われて表舞台からは消されたがな。それと好
きなものは特にないが、嫌いなものは感情。それだけだ」
「なるほどねぇ、デュアルとはこれまた珍しい。煌火だけが扱える。じゃぁ、煌火、機会があれば少し教えてくれないかな?その天幻流の技ってのを」
「あはは、やめておいたほうがいいと思うよ。僕でも技を一つすら覚えれなかったからね」
確かにな。2年ほど前に神刀に教えたことはあったが全く扱えてなかったからな。まぁ、可能性があるとしたら、魔族であるレイカくらいだと思う・・・が、多分無理だろうな。
丁度俺たちの自己紹介が終わったところでガララッと教室の扉が開いて教師と思われる女が入ってきた。
「よ~し、お前ら、四組全員分チームはできたか~?」
女は電子煙草を加えたまましゃべりだした。教師失格だな、この女。というかなんでこんなのが教師やれてんだ。
クラスの奴らは全員その女の言葉に返事した。
「なら、私の自己紹介といこうか。私の名前は姫川妃だ。この学校の卒業生で、魔導師としての身分は窮奇まぁ、上から3番目ってところだな、ちなみに
未婚で彼氏募集中」
姫川先生が窮奇ということは今のこのクラスはその身分よりかなり下の三苗ということになるか。
「さてと、全員いるということなら明日の日程の説明をしよう。まず、明日から私服でいいが、武器があるものは武器を持って来い。まぁ、魔法世界に入ったら具現はできるんだが・・・・・・・
まぁ、性能は期待しないほうがいい。それと、明日はこのクラスの二十五チームによるチーム対抗戦を行うことになっている。これは月末ごとに支給される援助金に関わってくる。だから
金銭的に困りたくないチームは功績を残すことだな。話す事は以上だ、解散してもいいぞ~」
俺たちは解散後、すぐに校舎を出て時計を確認した。
「時間としてはお昼時だけど、みんなは何か食べたいものとかはあるかい?」
「えっと、私のわがままで申し訳ないんですけど・・・今日こっち側についたばかりなので、こっちの方の料理を食べてみたいというのもあるんですけど・・・」
「別にいいんじゃない?どうせここにはこっち側の料理しかないんだし」
「そうだね、じゃぁ、こっち側の料理で何か食べたいものとかはあるかな?」
さっきからこっち側とは言っているが、ここらへんは旧暦の日本という場所に属しているらしい。
「アタシは基本的になんでもいいけど、レイカは食べてみたいものとかある?」
「私もなんでもいいですけど、こっちの郷土料理だと、ひつまぶし・・・とか?」
「おぉ、渋いとこきたねぇ、じゃぁ、適当にぶらついて探してみよう」
「その必要はないと思うよ、煌火君お願いしてもいいかな?」
「・・・もとよりそのつもりだ。歩くのも面倒だからな」
俺はそう言って指先に魔力を集める。
「・・・顕現せよ〈式の創造者〉、物質の式〈空想と現実の体現者〉」
目の前に半透明で向こう側が透けて見えるディスプレイが現れる。
「うわ、すごっ!というかなんでこんなの出したの?別に携帯使えばいいだけなんじゃ・・・?」
「煌火君のこれにはね、普通のネット回線よりも高度なネットワークが繋がっているから普通のものよりも詳細なデータが出てくるんだ」
「へぇ~、これが煌火さんの魔法なんですね。便利ですね」
「・・・別に、そんな便利というほどでもないさ。一回使ったコードは魔力の消費量が少ないが、初めて召喚するコードの場合かなりの魔力を消費するからな」
「やっぱり便利な魔法だけあってその分魔力の消費も多いってことだね。でもそれを使いこなしてるってことは煌火はかなり魔法を使用してるってことだね」
「まぁ、立ち話もなんだし、食べに行かないかい?」
「・・・それなら、ここから100メートル行った地点にある。正確には98メートルと38センチだが」
「案外と近いね。それなら早く着きそうだ」
「じゃぁ早速行ってみよー!」
「はい!」
※ ※ ※
―飲食店にて―
「それにしてもさ、煌火。煌火の嫌いな物って、なんで感情なの?あ、いや、みんなが持ってるものが嫌いってほどだからさ、気になってね」
「あ、それについては私も気になります」
「・・・別に教えても構わないが、それを知ってどうする?」
「え、いや、別に仲間の過去なんだから知っていてもいいかな、と思って」
「・・・仲間、か。じゃぁ、もしも仮に俺の過去を知ったことによってお前らの生活が脅かされたらどうする?それでも知りたいか?」
「確かに、それは怖いですね。けど、それはあくまでも仮の話ですよね?」
「・・・あぁ」
まぁ、実際は嘘だがな。
「まぁ、そのへんにしておきなよ。そろそろ注文も来ると思うし」
丁度その時ウェイトレスがこっちに注文したものを持ってきた。
レイカがひつまぶしで、緋恋がカレー、俺と神刀はラーメンだ。
このラーメン、出汁は煮干であっさりしているが味はしっかりと付いていてうまいし、麺がその味を引き出しているというのは大きなプラスのポイントだな。全員が食べ終わったところで客(客とは言ってもほとんどは生徒だが)が次々と入ってきたので俺たちはさっさと出ることにした。
「それにしても、美味しかったですね」
海沿いの道を歩きながらレイカが言う。
「そうだね~、もうちょっと辛めだったら良かったけど、普通に美味しいレベルだったね」
「ラーメンも普通に美味しかった。というか、普通以上に美味しかったというのが正しいかな」
「ところでさ、私たちの寮って、どこなんだろう?」
「鍵は無くてもいいって、パンフレットに書いてましたよね?」
「うん、それで、入島審査の時に端末をもらったね」
「・・・だったらこういうことだろう」
俺はそう言って端末を見せる。
画面には『あなたのチームを入力し、一人リーダーを決めてください』と書かれていた。
「じゃぁ、リーダーはどうする?」
緋恋が口を開く。
「・・・神刀」
俺が推薦する。
「僕がやってもいいかな?一応こういうことは慣れてるから」
まぁ、中学のときは生徒会長だったほどだしな。
「あの、迷惑じゃありませんか?」
「あぁ、僕は別に気にしないよ。さっきも言ったように、こういうのは慣れてるから」
「なら、よろしくお願いします」
俺はさっさとチームメイトの名前を入力し、そのデータを本校に送信した。すると、すぐに本校から全員にメールが届き、俺たちはそのメールに書いてあった十三番の一軒家へとたどり着いた。
「それにしても、これって寮だったんだね。てっきり普通に誰かが住んでるのかと思っちゃってたよ」
「私もそうです。よほどのお金持ちなんですね、ここの理事長さんは」
「・・・そうは見えなかったがな」
「だね。でも人は見かけによらないからね」
「まぁ、そんなことは気にしなでさ、早く中に入ってみようよ」
ガチャリとドアが開く。普通の家とは変わらない寮。
「これは・・・・寮というより、家だね、完全に」
と神刀。
「うん、こんなとこが寮でいいのかな・・・・・もったいなすぎるよ」
と緋恋。
「こんなところに住んでもいいんでしょうか?」
と、レイカが言ったところで俺は無言で靴を脱いで中に入る。玄関から入ってすぐに右側に階段があり、左側にはリビングだと思われる場所へとつながっているだろう扉がある。俺が二階へ行こうと階段を上りかけたとき、後ろから神刀に呼び止められる。
「煌火君、荷物を置きに行こうとしてるのはわかるけど、部屋割りが決まってないんだけど」
「・・・俺と神刀じゃないのか?」
「よく考えてご覧よ、初めて会った人がいるというのだからここはいつものように決められたメンバーではなく、新しい仲間と一緒に過ごすうえでコミュニケーションを取りやすい環境を作っ
ていく必要があると思うから僕と煌火君は別の部屋の方がいいと思うんだ。それに、煌火君も僕以外の友達を作ったほうがいいと思うんだ」
「・・・じゃぁ勝手にそっちで決めろ俺は先に部屋に行ってる」
「わかった。じゃぁメンバーを決めたらレイカさんか緋恋さんのどっちかが部屋に行くから」
「・・・奥の部屋にいくから」
「わかったよ」
俺はそれから右側にある部屋に入った。
部屋は・・・・うん、これ、もうホテルの一室、というかそれ以上だな。なんでダブルサイズのウォーターベッドが二つもあるんだよ。しかも、エアコンまで完備、しかもベランダ付きか。生活には苦労しないだろうな。
まずベッドの上に荷物を置いて俺自身もベッドの上に寝っ転がり、これからのことを考えることにする。やはりこれから戦い抜く上で武器は必ずしも必要になってくるだろう。だから俺は具現(魔力を形にして武器などに変えること)を実行してみることにする。
まずは脳内で刀の形をイメージし、魔力をその形に留める。そんなに集中力が必要ではなかったが、魔力は結構必要になるんだな。
切れ味は・・・・と刃に手を当ててみて切れ味を確かめる。ツゥーっと俺の血が刃に滴り落ちる。まぁ、悪くはないが・・・・と、そこにガチャッっと音がして扉が開いた。
「あ、なななな何してるんですか煌火さん!!」
「・・・気にするな、ただの切れ味の確認だ」
「だからといってこんなことはする必要はないと思います!」
そう言って俺に近寄って膝立ちになって、手を取り、ペロリ。俺の手を舐めだした。
「・・・何やってんだ、お前?」
「唾をつけてれば早く治るそうですから」
「・・・この程度、怪我のうちに入らないし、回復魔術でも使っておけばすぐ治るだろ」
そう言って俺は回復魔術をかける。
「・・・修復式〈回帰の回復式〉」
俺の傷口は塞がっていく。
「それにしてもその〈式の創造者〉はすごい魔法ですけど、あまり自分を虐げるようなことはしないでください。本当に心配したんですから」
「・・・すまなかった、以後気をつける。それで、話は変わるが、お前が俺の相部屋ということでいいのか?」
「はい、少し話し合った結果、私が煌火さんの相部屋になりました。よろしくお願いします」
「・・・あぁ、よろしく頼む。それより、少し電話していいか?」
「はい、私は部屋から出てますね」
「・・・いや、その必要はない。別に聞かれても問題はないからな」
俺はそう言って携帯を取り出し、昔の知り合いのレアーという女に電話をかける。ワンコールでレアーは出てきた。
『煌火!?煌火なのかい?本当に』
懐かしい聞きなれた声だ。
「・・・あぁ、俺だ。さて、本題に入ろうか」
『あぁ、そうだね、武器の依頼かな?武器の依頼なら昔のようにつくるけど、どんなのがいい?」
「・・・刀身は百六十センチくらいで重さは四キロくらい、魔力伝導率は高めで六十パーセントくらいで頼む」
『了解。で、値段の方なんだけど、少し高くなりそうなんだ。最近魔力伝導率が高い純粋な鉱石の値段が高騰してるからね」
「・・・いくらだ?」
『う~ん、六十三万円くらい?」
「・・・余裕だ。それくらい安いもんだ。それと、いつもどおりの武器も頼む」
『あぁ、ワイヤーね、任せて』
「・・・受け取り場所はどうする」
『そうだね~、煌火がいる場所って、今はどこ?」
「・・・天立覚戦と言ってわかるか?」
『あぁ、わかるよ。というかそこでらへんの一年生がいる校舎のところで店を営んでるからね』
「・・・あぁ、俺も今その区画にいる」
『わかった。店の名前は〈バリアント〉ってとこだから、出来次第電話するから来てくれ』
「・・・またな」
『それじゃぁね』
レイカが俺が電話を見計らって話しかけてきた。
「あの、今のはお友達からですか?」
「・・・あぁ、そんなところだ」
「武器の依頼ですか?それなら具現があるんじゃ・・・?」
「・・・さっき自分の手を切ってみた結果、切れ味が悪い上に軽すぎる」
「そうですか。それで、その武器の製作者というのはどなたなんですか?」
「・・・レアー。レアー・ヘパイストス」
「えっ!?あのレアーさんですか?あの人が作る武器はかなりの値段もする一級品じゃないですか」
レアーってそんなに有名だったんだな。知らなかったぞ、そんなこと。
「・・・昔からの知り合いだからな。まぁ、そんな感じだ。多分神刀に聞いても知ってると思うぞ、アイツとも一応知り合いだからな。しかも今この島にいるらしいしな」
「そうなんですか?今度みんなで行きませんか?レアーさんのお店」
「・・・まぁ、それもいいな。俺は軽く魔術訓練してくるが、どうする?」
「私・・・ですか?私はいいですけど、足でまといになったりすると思うんですが」
「・・・そんなのは関係ない、お前自身がやりたいかどうかを判断して決めろ。ついでに神刀と緋恋を誘ってくる」
「はい、ついていきます」
スタスタと歩く俺の後ろについてくるレイカと共に神刀と緋恋の部屋の前に行き、扉をノックする。
「・・・神刀、それと緋恋。魔術訓練をするがお前らはどうだ」
「あぁ、僕はもちろんやるけど、緋恋さんは?」
「みんながやるってんならアタシもやるよ」
「それよりも、こっち側の世界じゃ攻撃魔法の使用は禁止されているんじゃないんですか?だったら攻撃魔法を使うことはやめたほうがいいんじゃ・・・」
全員やることを確認した俺が一階へ向かおうとしたときレイカが口を開く。
「いや、そういうわけじゃないんだよ、各寮に一つずつ小規模な魔界に繋がるゲートが設けられていて、そこなら自由に魔術訓練を行うことができるって端末に来たメールに書いてあった
よ」
と、神刀が答えを返す。流石にチームのリーダーなだけあって行動力はあるな。
「・・・そういうことだ。行くぞ」
一階にあるリビングを確認したところ一角に少し歪んで見えるところがあった。
「ここみたいだね、じゃぁアタシから行ってもいいかな?」
「・・・別に構わない。行くなら行け」
ということで緋恋が先に行くことになり、俺と神刀とレイカが続けざまに歪んだところへ歩いていくと、薄暗い空間へとつながっていて、その先に出口があった。
着いた先は闘技場のような形をした小規模な人口の魔界で、この中なら普通に攻撃魔法やら何やらしても問題ないうえに、いつでも自由に使えるということだから寮の設備としてはかな
り優良な方なんだろうな。
「で、煌火君どういった魔術訓練をする気なんだい?」
「・・・二対二の部屋割り対抗戦でどうだ?」
「そうですね、それなら全員の力量を見るのにちょうどいいですね」
「それじゃぁ煌火、天幻流の技ってのを見せてもらおうか!」
俺とレイカ、緋恋と神刀の二手に分かれて闘技場の端へ移動する。俺は慣れ親しんだ武器である刀を一本具現化、レイカは・・・素手。
「・・・レイカ、素手か?」
「いいえ、基本的には銃を使うんですが、具現できなくて」
「・・・そうか、後ろは任せた。一人で切り込んでくる」
「分かりました。死なない世界だからと言っても気をつけてくださいね、かなり痛いと思いますから」
「・・・あぁ」
そう返したあと、魔力で創った弾を魔界の赤い空へと打ち上げ、それが炸裂したあと開戦。
俺は一人走り出し、神刀の方へと向かう。
そこへ一筋の剣閃が目の前を横切る。神刀はあまり刀のような長い武器を使用しないからこの場合は緋恋と考えよう。
「さぁ煌火、早くやろうよ!」
「・・・ほう、やろうってのか、だが甘い」
緋恋の横から魔弾(魔力で創った弾、攻撃魔法の一種)が飛来する。これはレイカのものか。それを緋恋は剣で打ち消す。その間に俺は神刀の方へ向かう。
「やっぱり僕を狙ってきたね」
「・・・お前以外釣り合うやつがいると思うか?天幻流に」
「いや、それじゃ僕も釣り合わないと思うけどね」
俺は神刀へ右手に持った刀の切っ先を向ける。対する神刀はダガーナイフを一本を逆手持ち。神刀の首元を狙った突きを放つ。それは神刀にことごとく躱され俺の懐に潜り込んできて首元を狙った斬撃がくる。
「・・・なぁ神刀、そうやって攻めに急いだらダメだと昔から言ってるだろ?」
右手に持った刀を逆手持ちに切り替え神刀の心臓を一刺し。
「く・・・ぁ、・・・・ふぅ」
「・・・さすがに痛みはあっても死なないよな。それは魔界の生命を魔力に還元し、その魔力をまたそのものと同じ性質で蘇らせるという性質もあるが、お前の魔法〈不死者の栄光〉のおか
げでどんな場所であっても死ぬことはないんだもんな」
俺はそう言うと口元を歪め、更に首を切り落とそうとしたとき、後ろからまたもや剣閃。
「神刀!大丈夫!?」
「あぁ、問題ないよ。それより、レイカさんは?」
「いいとこまで行ったけど、神刀がやられてたから」
「ごめん、足を引っ張っちゃって」
そんな会話を聞きながら俺はもう一本刀ではなく、剣を具現する。
「そんな事よリさ、まずは煌火からどうにかしないと」
「そうだね。じゃぁ、僕が引き付けるから、緋恋さんがトドメを刺して」
「わかった」
「・・・さて、そろそろいいか?」
「あぁ」
「・・・それじゃ、レイカ。魔法を使え!」
唐突な俺の言葉に一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに魔法陣を展開してくれた。
「分かりました!〈暁の明星〉発動。魔術〈穿つ物の閃光〉!」
神刀とレイカ目掛けてまっすぐに光線が飛んでくる。
緋恋と神刀はそれを紙一重で躱し、レイカ目掛けて魔法を使用する。
「〈異形の氷精〉コール!」
魔法陣から現れたのは白い狼。
「変化〈氷華の狼剣〉」
狼が剣の形に変わり、その剣を手に取り、レイカの方へと向かって切りつけようとする。それを俺が左手の剣で受け止める。
「・・・くっ」
予想以上に重い剣戟で、具現した剣だとすぐにミシミシと音を立てて最終的には折れてしまった。剣が折れたあとも俺の方に剣が振り下ろされている。それをギリギリのところで右手に持った刀で受け流す。そこへ神刀が横からナイフを振るがそれはレイカが放った魔弾により防がれる。
「・・・レイカ、今から俺の半径2メートル以内に入るな!」
「え?は、はい!」
レイカは後ろへ跳躍し、俺から距離をとる。俺はそれを確認してから魔力を身に纏う。
「・・・緋恋、そんなに見たいなら見せてやるよ。これが天幻流だ。天幻流、絶乃型〈水鏡深〉」
緋恋の駆け寄る。そして刀を振るう。
それにタイミングを合わせるようにして返し技をしてくるがそれはもう遅い。多分緋恋や神刀、レイカ達からして見れば俺は切られたように見えるだろう。だが切った時には俺はもう緋恋の後ろにいるわけである。
「・・・お前の負けだ」
首元に刀を突きつけそう宣言する。
「え?今何があったの?確かに切られたはずだよね。ちゃんと手応えもあったし」
「うん、それが天幻流の怖いところなんだよ。多分、緋恋さんが教わってた九十九流ってのは魔法を使わない武器単体の武術だと思うんだ。それに対して魔法と武器のハイブリットに当た
るのが天幻流で、普通の魔法より扱うのが難しい魔法を用いて行うって僕は昔教えられたことがある」
「・・・それじゃぁ、戻るか」
そう言って俺たちは魔界をあとにした。
第二章 「過去」よりの「強さ」
「・・・くぁぁぁ・・・・ふぅ」
朝目が覚めて欠伸をして体を伸ばし、辺りを見回す。隣のベッドにはスゥスゥと一定のリズムで気持ちよさそうに寝息を立てているレイカがいた。そういえば、昨日入学してからこの部屋にはレイカと二人っきりである。別にそんなに欲情してしまうようなことでもないので、ましてや起こしても悪いのでそっとしておくことにしよう。
一回時計を確認する。5:30との表示がされてあった。さてと、これからどうしようものか。
特にやることもないし、う~ん。う~ん。
そうだ、一応レアーに進行状況を聞いてみよう。携帯電話を取り出してレアーにコールする。あいつは朝早くから起きているタイプだから多分出るだろうな~とかそんな軽い気持ちでかけてみた。
『おはよう、煌火、どうしたんだい?こんな朝早くに』
と、昨日のようにワンコールで応答してくれた。
「・・・ただ、お前の声が聞きたくなった、と言うだけならだめか?」
適当に言ってみた。
『う、うん、煌火。それは嬉しいんだけど、やっぱり、私たちまだそういう関係じゃないし・・・』
案外と効果はあったみたいだ。
「・・・冗談だ、それで本題だが、いつできそうだ?」
『う~ん、一週間は欲しいんだけどなぁ。まぁ、頑張ってみるけど、あと3日はかかるよ。それよりもさ、今日の放課後空いてるなら店に来てくれないかな。私も君の仲間とも話してみたい
し。それに、煌火の顔も久々に見たいというのもあるけど、予備の刀を渡しておいたほうがいい気がするから」
「・・・あぁ、それは助かる。けど、無理はするなよ?」
『うん、わかってる。煌火も無理しちゃダメだよ?』
「・・・了解した。じゃぁ、今日の放課後に会おう」
『後でメールで場所の詳細送っておくよ。またね』
電話を切ってもう一回時間を確認しても、5:40と、そんなに進んでいない時間。あ~、マジでどうしよう。ベッドの上でゴロゴロ転がっていると、隣のベッドから声がした。
「んんぅ・・・ふぁあああ・・・」
レイカが目を擦りながら伸びをして起きだした。その姿は、寝巻き・・・ではなく、ワイシャツ一枚しか来ておらず、第三ボタンあたりまでボタンが取れている。しかも腰より下は水色と白の縞々の下着一枚しか身につけていない。
さっきも思ったが、欲情なんてするわけがないので別に気にしないが、ボタンが取れているところからチラチラ覗く白い肌。薄く見開かれた蒼い瞳。可愛い、そう正直に思った。
「おはよぉございますぅ・・・おうかさん」
「・・・あぁ、おはよう。まずはちゃんと服を着ろ。心臓に悪い。俺は出てるから」
「え?服?・・・きゃぁ!!」
ベッドから降りて扉を閉める。
「あれ、煌火?今、レイカの悲鳴聞こえた気がしたけど・・・煌火。もしかして、あまりにも可愛いから襲っちゃった?」
パジャマ姿の緋恋に話しかけられた。
「・・・俺がそんなことするやつにみえるか?」
「ううん。見えないよ。というか色恋沙汰に興味なさそうだし。それ以上にそういった煩悩自体なさそう」
たしかに、自分で言われてみて思ったが、実際にそうかもしれない。
「じゃ、アタシはシャワー浴びてくるね。あ、別に覗いてもいいからね~」
階段を降りて行って本当にシャワーを浴びに行ったようだ。
「あの、煌火さん。もう入ってきても大丈夫ですよ」
制服に着替えたレイカが俺に呼びかける。
「・・・あぁ。あ、そうだ。今日の放課後空けておけ、連れて行きたい場所があるから」
「分かりました。具体的にはどこに行くか聞いてもよろしいでしょうか?」
「・・・別にいいが、行ってみてからの方がわかると思うぞ?」
「そう、ですか。それじゃぁ、楽しみにしてますね。放課後」
「・・・それじゃぁ、俺も着替えるから、少し目を閉じててくれ。一分ほど」
「あの、出ていきましょうか?」
「・・・そんなに時間のかかるようなもんじゃないしいいさ。特に見られたって気にするようなことでもないしな」
すでにクローゼットの中にしまいこんでいた制服を取り出し、着る。これまでの間に1分もかからなかった。
「・・・終わったから目ェ開けてもいいぞ」
「はい。それで、あの、煌火さんって武器を使わないんですか?」
「・・・いや、俺は基本的に武器にはこだわるから具現して出来たなまくらよりも本格的な方がいいからな」
多分今日からワイシャツは魔戦(魔法を使用した戦闘)の返り血に染まって赤くなる。その頃にはもう人を自衛のためとは言え人を殺すことに抵抗はなくなっているだろうな、俺以外は。
さて、階段を降りてからが問題である。神刀はもう少しで起きてくるとして、レイカはリビング。そして緋恋はシャワーを浴びてくると言っていた。
そこが問題である。俺一人がハーレムの状態に置かれるというわけだ。まぁ、そんなことはどうでもいいとしよう。ただ、俺が一番不安なのはあれだ、その、緋恋の性格上バスタオル一枚
で出てくるかも知れない、そこらへんに関してはアバウトだからな、あいつは。うん。そうなると社会的に俺がダメになるのである。まぁ、ここで悩んでいても仕方ないか。降りよう。そして、扉を開けた。目の前に広がっていたのは、肌色。うん、予想の遥か斜め上を行っていた。
バスタオル一枚の緋恋がレイカを押し倒し、当のレイカはワイシャツのボタンははだけてるわ何やらで色々とやばいご様子。さて、どうコメントをしたらいいものか。
「・・・お前ら、何やってるんだ?」
「えっ、煌火さん!?これはですね、えっと・・・」
驚いた様子でレイカと緋恋がこっちを見た。
「煌火!?ちょ、ま、これはね、あの、足を滑らせてついレイカの服を掴んでしまった結果こうなってしまったわけであって」
「・・・別にそんなことはどうでもいいが、服を着て来い。そしてレイカはちゃんと服を着直せ。そろそろ神刀が起きる頃だ。」
なるほど、白か。モロに下着を見てしまった。
緋恋はそそくさと風呂の方へと向かい着替えを始め、レイカは制服のボタンをかけ直してこれで何もなかったことにしよう。
「あの・・・見ました?」
上目遣いで聞いてくる。
「・・・何がだ?まぁ、下着やらその辺などは見えてはいたが俺の魔法で消せるけど消しておいたほうがいいか?」
「見えたんですね!?それもあっさり認めて、早く記憶から消してください!!」
「・・・しょうがない。言っておくが、この魔法はあんまり見ないほうがいいぞ?普通の人間とか魔物ならその魔法の空間に入っただけで即死、または・・・消滅することだってある。まだもう
ひとつの〈式の創造者〉のほうがいい」
「そうなんですか、そういえばもうひとつの魔法ってなんなんですか?たしか〈虚無の終焉者〉でしたっけ?」
「・・・あぁ、そうだ。まぁ、こっちが生まれながらにして持った魔法なんだがな。あんまり必要とする場面がなかったから昔から使ってなかったんだが、記憶の消去とかに向いてる。という
か、簡単に言うと全てを虚無に還す魔法。しかも使う魔力が大きくなるほど制御が効かなくなる。だから使わないんだ」
「えぇと、それじゃぁ、もうひとつの〈式の創造者〉は生まれながらに・・・ではないと?」
「・・・理由はあるが、それは話せないからな」
そう言って魔法陣を展開する。黒い魔法陣だ。黒く、光を放つ。黒い光、それは矛盾しれいるのかもしれない。けれど、それが俺の本来持って生まれた魔法〈虚無の終焉者〉。
黒い光が弾け、魔法が終わる。その頃にはもう先程レイカが消して欲しいと言っていた記憶だけ消した。まぁ、そんなに魔力は使わなかったから制御できたが、あんまり使わないようにし
よう。
ちょうどガチャリと音がなって神刀がリビングに入ってくる。
「おはよう、レイカさん、煌火君。緋恋さんは?」
「・・・着替えてる」
風呂の方を指差す。そこにちょうど私服をきた緋恋が出てきた。
「お、神刀おっはよー」
「うん、おはよう」
俺はソファに座り、足を組む。
「・・・さて、今日の放課後だが、空けておいてくれ。少し連れて行きたい店がある。まぁ、どういったところかは行ってからだ。まぁ、俺と神刀と関わりがある奴だ」
「煌火君と関わりがあると言ったら・・・・あの人か」
そして本題を切り出す。
「・・・今日の朝飯、何を食うかだ」
ピシッ――――
と全員の顔に旋律が走る。というか、この中で料理できるのは何人いるんだ?
「・・・別になんでもいいが、昨日の店に行ってみるか?朝は七時からやってるみたいだしな。それに、あそこの料理はうまいからな」
「それも悪くないね。まぁ、僕はそれで構わないよ」
「私もそれで構いませんが、学校に間に合いますかね?」
「・・・それに関しては大丈夫だ。九時までに学校に行けばいいんだからな」
「アタシもそれでいいけどさ~、金銭的な方で大丈夫なの?」
「あ、それは僕も思った」
「・・・まぁ、そこらへんは端末を見てみればわかるさ」
「ん?アプリがあるね」
アプリを起動し、緋恋が口を開く。
「キャッシュか、なるほど。それで、煌火君、これにはチーム全体で十万円。まぁ、これは初期の設定だね」
「・・・あぁそうだ。そしてそれは毎日の食費へ変わる。来月になれば更に自由に使える分の金も出てくるわけだ。その前に俺たちはとにかく成績を伸ばせば金はもらえる」
「そうですね、それなら早速いきましょう」
※ ※ ※
―――店にて―――
店で俺と緋恋はハンバーガーとサラダ、それと飲み物を選べるのAセット、神刀とレイカがサンドイッチとサラダと飲み物のBセット。まぁ、要するにサンドイッチかハンバーガーかの些細な違いである。飲み物は俺と神刀がアイスコーヒーで、緋恋とレイカが紅茶である。
「・・・さて、それじゃぁ少し今日の作戦について話そうか」
「そうですね、作戦なしで突っ込んでいって負けるというパターンは避けたいですからね」
「それで、今回作戦はどんな感じなの?」
緋恋が問いかけてくる。
「・・・基本的には自由だ。だがそれでも組は決めておこう。まぁ、これは部屋割りでいいとしよう。そんでもって、今回は俺と緋恋で切り込みにいく。それを神刀とレイカがバックアップってこ
とだ。それに加えて俺は今回素手で行く。だから頼んだぞ」
「あれ?煌火、昨日みたいに剣とか刀は使わないの?そうすれば早いのに」
「・・・そういう考えは甘いんだ。武器を使わずしても勝てるぐらいではないとな。それに、魔力の調整というのもあるしな」
「煌火君が素手ってことは、久々に速攻をやるということだね。まぁ、これなら負けるはずないよ。普通の人間になら目に追えないから」
「うわ、煌火どんなチート?というか人間に扱えない流派を扱えるとか、本気出したらどれくらい強いの?」
「・・・俺は弱いさ」
「そうですか?私から見れば普通に強いかと・・・というか、普通以上だと思うんですが」
まぁ、過去を知らないものならそう言うだろうな。俺の過去を、忌まわしい、あの絶望を味わった日から。
そんなタイミングでちょうど注文の品が届いてそれに手をつける。まぁ、味は普通にうまい。どっちかというとコーヒー目当てだったんだがな。
「・・・で、だ。ここで考えておかないといけないのはもし俺が一人で先走りすぎてしまった場合だ。昨日見て思ったかもしれないが、このチームはバランスがいいんだが、その分高速で敵
を叩けるコマが俺か緋恋しかなくなるというわけだ。そこで神刀はレイカを防衛しつつ緋恋の援護を、そしてレイカ、お前は貴重な光属性の魔法だ。だからそれを活かすために常に射撃
に集中してろ」
適当に話題を変えて俺がコーヒーを飲み干す。全員食い終わったところで俺たちは店を後にした。ちなみに、朝のセットコースは安いようである。一人分二百円しかかからなかった。
「ねぇ、煌火君。思ったんだけど、この学校の他の人たちってどれくらい強いと思う?まぁ、憶測でいいんだけど」
こっそりと神刀が耳打ちをして聞いてきた。
「・・・今まで見た中では突出して強そうなやつはいなかったが、まだ全員の魔法を知ったわけではないから弱いとは断言できないがな。まぁ、見たいなら見ておけ」
そう言って神刀の目の前に〈空想と現実の体現者〉のディスプレイを顕現する。
「ふむ、これは・・・まぁ、今日中にランキングは上げておきたいね」
「煌火、このディスプレイに映ってるのは何?」
「・・・クラスの奴らの名簿。まぁ、覚えたところで意味はないと思うが」
「それにしても、煌火さんの魔法って、便利ですよね、闇属性の魔法とは言ってましたけど、〈式の創造者〉の場合普通に応用が利きますし――」
「煌火君、ちょっと気になったんだけど、これ見て」
神刀にレイカの言葉を遮られ、ディスプレイに指を指され見てみる。
「・・・野島健二、こいつがどうかしたか?」
この、流派のところ。と言われて見てみた。そこに書いていたソロモン流の文字を見て驚く。
「・・・もしかしてだが、こいつの取り巻きが何人かいるかもしれないな。そのへんに関しては日常から注意しておいてくれ。でなければ・・・死ぬぞ」
「あの、ソロモン流っていうのがどうかしたんですか?」
「・・・ことでもないが、俺の過去に少し関わりがあるものでな。詳しくは話せないが、やり手の場合かなり強いからな」
「まぁ、そんなことより早く学校に行こうよ。ほかの人来てるかもしれないしさ」
緋恋に促され俺も含め全員が校舎に入り、教室へ向かう。結構早めに出てきたんだが、かなり多くの奴らが来てるんだな。そして時刻は九時になり、先生が入ってくる。
「よーっし、全員いるかー?お前らそのまま表んでな。んでもって、十時まで準備体操やら何やらしてな。ただし桜葉、お前だけはちょっと残れ。用事がある」
神刀や緋恋、レイカも含むほかのやつらが出て行く。
「・・・で、用事というのはなんだ?」
「おいおい、いきなりタメ口かよ。まぁいっか、理事長が呼んでる。私について来い」
俺は黙ってついていく。
「そういや、お前どうして魔道士ランクが麒麟なんだ?しかも私よりもかなり上だし、実際に存在するかって言われてる四霊のランクの最上級とはな」
「・・・それにはわけがある。まぁ、後々わかるさ」
「そうか。じゃぁいくぞー、理事長いるかー」
ノックする前に扉をダンッとけって開ける。うん、なんでこんな奴が教師なんだろうね。
「おぉう、姫宮先生かの・・・扉はもうちょっと丁寧に扱ってくれかのぅ」
赤いカーペットの上に応接セットやらPCデスクが置いてある。その中にいる禿げたおっさんが理事長だ。
「それで、一年の桜葉を連れてきたっすー」
やはり変な魔力を感じる。あの理事長を中心にな。少し目を変えてみよう。
―〈式の創造者〉解析の式〈知識欲の虜囚〉―
相手の魔法を知り、その魔法を解析するための式。
「なるほどのぅ。それで、桜庭君や、何か聞きたいこととかはないのかのぅ?」
「・・・それじゃぁ、問わせていただきます。なぜそのような姿に見えるような変身魔法をしているのですか?」
その言葉に姫宮先生の表情が凍りつく。
「お、おい、馬鹿じゃネーノ?お前、別に理事長から魔力なんて微量たりとも発せられてないんだぞ?」
「・・・まぁ、人間にはわからないでしょうね」
「そうか、バレてたか。まぁ、さすがは失敗作扱いされたとはいえ例のプロジェクトの遺産であるというわけか」
そう言って理事長が魔法を解く。
黒い髪をオールバックにしていて、爽やかな紳士を思わせる風格。
「・・・どうやらそれがあなたの本当の姿らしいですね」
「ああ、そうとも桜葉君。私が理事長、ウル・ベルフェゴールだ。このまま話していても時間は過ぎていく。君の授業の時間も削りたくないので本題に入ろうか」
「・・・はい」
短く言葉を返す。
「まず、君は例のプロジェクト、いや、完全者育成計画という計画の失敗作で、今までどういう生活を送ってきたということまではわかっている。そして、二年ほど前に魔術師ランクが麒麟
になったことは知っているんだが、その経緯を詳しく聞かせて欲しい」
「・・・それは、詳しいことはわかってないんだが、俺の魔法によるものらしい。それと、俺の経緯を辿っていたんならわかると思うが、俺はかつてソロモンという暗殺組織にいた」
そう、同じクラスの野島健二のデータに記載されていたソロモン流とはこの組織にいたときに叩き込まれる戦闘術のことで、幻影術や、破壊魔法などといった魔法や、速度を重視した暗殺
の仕方を主とした流派だった。
「あぁ、それで、その組織で君はとある国の王を暗殺する依頼を受けたんだったね」
「・・・そうです。そしてそのあとのことは誰も知らない。俺自身も知らない。国の名前すら」
「何があったか覚えてる限りのことでいいから話して欲しい」
「・・・俺は気がついたら何もないところで一人立ち尽くしてました」
「何があったかは覚えていないのかい?」
「・・・はい。ですが俺の推測では、俺の魔法〈虚無の終焉者〉のせいだと思います」
「それは、具体的なところまで聞いておきたいんだが・・・今はやめておこう」
「・・・その魔法が原因で、そのとある王国が全世界中の人の記憶から消えてしまったんだと思います」
そう、〈虚無の終焉者〉は全てを無に還す魔法。そのことにより消えた、そう考えるのが正しいだろう。
「桜葉君、それでそれがどうしたんだい?」
「・・・その消え去った中の中心にいたということもあってすぐに全魔協(全魔法共同開発協会)の人たちが来て、俺を本部へ連れて行きました」
「あぁ、それは知っている」
「・・・そこでいろいろと検査を受けた結果がこうなったというわけですよ」
まぁ、そんなこんなで麒麟になっていた。ということを話した。
「なるほど、そういうことがあってなった、ということが本当なら、君にたのもうかな」
「・・・何が、ですか?」
「君は毎年夏に行われている全魔戦(全世界魔法戦闘会)というのを知っているかな?」
「・・・まぁ、それは知ってますが、まさか俺に参加しろと?」
「その通りだ。それでだが、君の要望はなるべく受け入れるようにしよう。例えば施設の強化をして欲しいという要望があったとすれば優先的に受け入れるとか、そういったことさ」
「・・・なるほど。なら出てもいいが、その前に来週に九十九涙先輩のチームとチーム対抗戦をさせてください」
一回勝負をしてみたい、完成された完全者の実力と。
「まぁ、理由は聞かないでおこう。それでは来週の火曜日でいいかな?ちょうど二年の訓練がはやく終わる日だし」
「・・・あぁ、それで構わない。話はこれで終わりってことで構わないですか?」
「あぁ、それじゃぁ健闘を祈るよ」
「・・・はい」
こうして理事長室を後にした。
※ ※ ※
「煌火、何かあったの?」
「・・・いや、特に何もなかったが、来週の火曜日に少し用事が入ったくらいだからな」
「開始まであと十分くらいあるけど、何か準備するものとかあるかい、煌火君?」
「・・・特にない。」
少し目を変える。先ほど使った〈知識欲の虜囚〉。
「煌火、少しだけ目の色変わった?なんというかさっきまでいつもみたいな黒だったんだけど、少し青?というか紺色っぽくなってる気がするけど」
「・・・あぁ、これか。これは〈式の創造者〉の一つさ。魔法を読み解くための眼だ」
左目に手を当てて答える。
「それにしても、やっぱり便利な魔法なんですね」
「・・・まぁ、な」
「よーっし、そんじゃお前らー始めるぞー」
そう言って先生が魔界を展開するためのマテリアルを取り出し、魔界を展開する。今回はグラウンド一帯をそのまま魔界に変えただけなのでそんなに景色は変わっていないが、空が赤くなっているのが魔界になっている特徴である。
「・・・作戦通りにやれよ。もしイレギュラーがあった場合臨機応変にな」
「わかりました。煌火さんと緋恋さんは無理しないでくださいね?死なないとはいえやっぱり痛いと思うので」
「わかってるって♪アタシと煌火なら大丈夫だよ」
「さて、そろそろ始まるよ」
神刀がそういった時先生が笛を鳴らした。開戦、そして俺は近くにいた敵の首を掴みそのまま絞め殺し、緋恋は少々ためらいながらもクラスメートを切っている。
自衛の術を学ぶためとは言え同じ人間を殺す感覚を植え付けるというのはどうにも気が引けるものも多いだろうな~とか思いながら斬りかかってきた田中とかいう奴の目を潰し、魔力を
纏った手刀で首を跳ねる。
と、後ろから一筋の光が俺の近くにいた敵を貫いた。おそらくはレイカだろう。
「煌火さん、後ろは任せてください」
レイカが声をかけてくる。そういうことなら任せてもいいだろう。開始一分くらいでスコアは二人か・・・これはだいたい一時間近く続くわけだから百二十人くらいということになる。多分足りないだろう。
もう少し稼いでおかないと金は増えないということになったら困る。今月は十万しかないんだから。もっと稼ごう。ということで素手はやめて魔法を主体とした戦闘スタイルに切り替えることにした。
「〈式の創造者〉コードプラス。〈血塗れの極鎚〉」
掌を頭上に向けて伸ばす。その上には白く輝く大きな魔法陣がある。
そして手を振り下ろすとその動きに合わせて白く太い光線が照射され人を潰す。
「お前か!俺の仲間の山田と田中を殺した奴は!!」
今度は田辺という奴がきた。というかお前らどんだけ苗字に『田』がついてんだよ。とかツッコミたくもなったが戦闘中なのでやめとこう。その田辺に掌を向けて血塗れの極鎚を発射する。もちろん初見のものがガードなんてするのは難しいわけであり田辺は跡形もなく消えた。そろそろスコアを確認してみよう。
「・・・緋恋、スコアはどこに表示されているかわかるか!?」
「上、見て!!はぁ、はぁ、おっと危ない!」
近くにいた緋恋に確認し、緋恋を狙っていたやつをついでに潰しておいて上を見る。
頭上には立方体がいくつもあり、そこには班員の名前とその人のスコアが記載されていた。俺は五十一人・・・開始三分にしては上出来か。緋恋は三十五人で、神刀は二十二人。レイカは二十八人である。ちなみに全員死亡数はゼロである。順調だな。
※ ※ ※
―開始二四分後―
レイカは神刀と一緒に援護していた。
「はぁ、神刀さん。大丈夫ですか?」
「うん。僕は平気だけど、魔力が少し危ないかな。レイカさんは今のうちに魔力の補給をしておいて。時間を稼ぐから」
「分かりました」
レイカは魔法を使うのを辞め、目を閉じ精神を集中させる。
神刀とレイカの周りには大きな火柱〈火炎陣〉が上がっている。この火柱は以前神刀が煌火に教えてもらったものであり、魔力の消費がかなり激しい。もし魔力が全快の神刀であってもせいぜい持って三十分くらいだろう。
今のままでは五分くらいが限界だろう。三分後、レイカは目を開け神刀に声をかける。
「神刀さん、私の方はもう大丈夫ですので神刀さんも補給してください」
「ふぅ。僕は大丈夫、う・・・くっ」
神刀はナイフを具現し、それを心臓に突き刺す。
「神刀さん!?何やってるんですか!!」
「これで僕の魔力は全快だから」
レイカは上を見上げて死亡数を確認する。神刀のところは依然としてゼロのままである。
「えっと、どういうことでしょうか?」
「これが僕の魔法だから。詳しくは言えないけどね。さて、あと三十分くらいだから頑張ろう」
レイカは小さく頷き、くる敵を迎え撃っていた。
※ ※ ※
「煌火!まだ魔力持つ!?」
「・・・余裕だ」
先程から〈血塗れの極鎚〉を連射しまくっているものの一度使ったコードは魔力の消費量が減るから燃費はいいんだが、それよりも心配なのはソロモン流の使い手である野島がいつ動くか、ということだ。おそらくソロモン流の戦い方であるならば敵が弱まったとき、要するに終盤になってから動き出すと思うんだが。
「アタシ、ちょっと魔力補給したいからお願いしていい?」
「・・・あぁ、コードプラス〈孤炎の火柱〉」
俺を中心とした魔法陣を展開し、それを緋恋が入るくらいにまで大きくする。〈火炎陣〉とよく似た火柱が上がる。だがそれは一瞬だけで消え失せた。
「煌火、大丈夫なの?消えちゃったけど」
「・・・そりゃぁ、こっちのほうが見えるからな。それと、絶対に魔法陣から出るなよ?死ぬぞ」
そして俺は右手を前に出し、その場で回転した。それにワンテンポ遅れて〈血塗れの極鎚〉が発射される。
「あぁ、そういうことね」
「・・・早くしろ」
「了解」
緋恋は目を閉じた。さてと、そろそろ本格的に探すとしよう。目を凝らし辺りを探す。野島は・・・いたな。レイカと神刀に向かって行ってる。すぐにでも極鎚をぶっ放してやりたいが、その前にスコアを確認する。残り十四分で野島のスコアは百七十八、結構やりやがる。
そして野島に向かって極鎚を放つ。それは野島の一歩手前に放ち、足止めをするためのもの。当てる気など毛頭ないし、もちろん殺す気がないというわけでもない。ただ単に今のソロモン流がどのように進化し、どのような技が受け継がれているのか、ただそれが見たかっただけである。
「・・・レイカ!神刀!そいつは俺が殺る、手を出すな!「
俺は叫んだ。レイカと神刀はその場から少し離れていった。
「おぉっと、これはこれは桜葉煌火、ソロモン流の裏切り者にして最狂と呼ばれた男がどうしてこんなところにいるんだァ?」
「・・・黙れ、次は当てる」
「おぉ、これは怖い。では俺も普通にぶっ殺しにかかるとしますかァ!やれェ、お前らァァァァ!!」
数人の男が魔法陣の外側に突如として現れた。おそらくは幻を用いた魔法の一種だな。そいつらは俺に向かって魔弾を撃ってくる。
だがまぁ、こいつらの相手は・・・
「・・・緋恋!」
「わかってるって~♪」
全弾切り伏せた。
「・・・じゃぁこの雑魚どもは任せた。遠慮なく殺せ」
「了解、じゃぁ行けフェンリル!」
俺は魔法陣を解除、ついでに〈血塗れの極鎚〉も解除する。少しだが体が軽くなった・・・気がする。
「さぁて、一騎打ちと行きますかァ」
そう言って野島が殴りかかってくる。俺は後ろにそれることによって避けるが、カシュッという音と共にナイフが開かれ俺の目の先を掠めていった。ソロモンでは暗殺を主立って行っていたためこのような隠し武器、通称〈暗器〉は当然のことである。
「おぉ、今のを避けるとは流石だなァ」
そう言いながら膝蹴りやら首を狙ったナイフなどを繰り出してくる。それらを全部受け流しよける。まぁ、こいつも相当手を抜いているだろうがな。
「ちょこまかと、避けんなよ!」
「・・・だったらその期待に応えてやろう」
その場に止まり、野島が左手で殴りかかってくるタイミングに合わせて鳩尾に手のひらを埋め込む。そしてそのまま魔弾を作り、打ち込む。魔弾は炸裂し、野島の大柄な体を吹き飛ばした。
「やっとやる気出したか、そんなら俺も全力で行くとするか!」
前方に跳躍し、高速で接近してくる。速度は十分に早く、普通の人間なら普通に殺せるだろう。
「・・・遅いな」
頭を掴み地面に叩きつける。更に三発魔弾を打ち込む。
「いってぇなこんちくしょうがァ!」
起き上がり俺の腹に拳が入る。
「・・・くぅっ」
「これだったらどうだ!!」
体制を整えた瞬間体制を低くした野島が俺目掛けて突っ込んでくる。
「ソロモン流第三乃技〈迦楼羅〉」
炎をまとった拳。くらえばひとたまりもないでろうものを横によける。が、迦楼羅に対しては失策だったと気づいた時にはもう遅く、炎が俺の左肩を貫いていた。
「・・・くっ、はぁ」
「最狂と恐れられたのも大したものじゃなかったなぁ。死ねよ!!」
トドメの迦楼羅を展開し俺に拳を振り下ろす。対して俺は一旦バックステップをし、野島目掛けて突っ込む。
「自分から死にに来たかぁ!!」
「・・・天幻流絶乃型〈水鏡深〉」
昨日緋恋に対して使った技である。幻影を相手に見せ、高速で後ろに回り込む。そして柔らかい障壁を張り相手に殴った感覚を与える。それがこの技の基本。
「クソ、どこ行きやがった!!」
周りを見渡す。
「・・・後ろだよ。そして時間切れだ」
ピィィィ~~~~~~~~~!!という笛の合図と共に魔界の空がどんどん青い空に戻っていくのと同時に左肩の迦楼羅に貫かれた左肩の傷が戻っていく。
俺は神刀とレイカを見つけ緋恋と一緒に歩み寄っていく。
「お疲れ、煌火君。すごい活躍だったね」
「・・・いや、そうでもない。一発くらった」
「すごいじゃないですか、スコアは五百超えてるんですから。緋恋さんもお疲れ様です♪」
「うん、ありがと♪それにしても制服が返り血で真っ赤になっちゃってるよぉ・・・洗濯しても落ないよね」
「お前ら~、終わるぞ~。これから基礎訓練に入る。まずは校庭十周しな」
そうして先生による基礎訓練が始まった。
※ ※ ※
「んんぅ~~。にしても疲れたねぇ」
放課後の教室で緋恋が伸びをしながら言う。ちなみに現在の時刻は二時四十分。学校自体にいる時間は短いため放課後に訓練しておくものも多い。
「あ、そうでした。煌火さん、たしかどこかへ行くんでしたよね?」
「・・・あぁ、そうだ」
そう言って携帯を取り出しメールを確認する。案の定レアーからのメールが来ていた。もちろん地図も記載されている。
「・・・さてと、そろそろ行くとするか。行き先は俺についてくればわかる。比較的近いし」
「ところで煌火、訓練のとき戦ってた人って知り合い?なんか話してたけど」
「・・・いや、そういうわけでもない」
「それにソロモンとか最狂って言われてましたけどやっぱり関わりがあるんじゃないですか?」
「・・・まぁ、いずれ話す時がくるさ」
「ところで煌火君、今日は本気でやってなかったよね?」
「・・・ん、あぁ、なんでだ?」
校舎を出たあたりで神刀に言われた。まぁ、長く付き合ってきたんなら俺の本気か本気じゃないかくらい理解はできるようになってくるだろうな。
「いつもなら素手でも罪乃型くらい使ってるかな~っと思ってね、それに煌火君なら野島君に対して一発もくらわずに勝てると思ったんだけど」
「・・・まぁ、昔と比べられても落ちているのは確かだからな。まぁ、そんなことは気にせず行くぞ」
と、洒落たカフェなどが立ち並ぶ商店街に来た。
「この中にあるの?案外煌火ってお洒落さん?」
「・・・別にそういうわけではない」
そうして一軒の店の中に入る。いや、正確にははいろうとドアノブをひねろうとしたとき内側からドアは開かれた。
「やぁ煌火いらっしゃい。それと神刀も久しぶりだね。そしてもう二人の娘は・・・そうか、煌火のチームメイトか、よろしく」
右目のあたりは全て包帯で覆われた艶のある黒髪と瞳の小さい少女。一応俺たちと同い年だ。
「・・・久しぶりだな。実際に会うのは何年ぶりだ?」
そう言ってレアーの頭に手を置くとレアーは少し照れくさそうにしながらも二年ぶりくらいと答える。
「あ、そうだ。せっかくだから中に入ってよ、一応応接室とかもあるからさ」
そう言って剣や刀、槍からその他もろもろ武器が並んでいる店内の奥にある応接室に案内された。特に目立った客もいなかった。というかこんなのでよく営業していけてるよな。
「まぁ、適当に腰掛けてくれ」
そう言ってコーヒーを淹れ始める。俺はソファに座り、神刀やレイカ、緋恋も適当に腰掛けた。
「さて、知らない娘もいるということだし自己紹介といこうか。私はレアー。レアー・ヘパイストスと言ってね、適当に武器職人をやらせてもらっているよ」
「えっ!?あなたがあのレアーさんなんですか?」
「あぁそうさ、世間一般では結構知られている方だと思うよ」
「それならアタシも知ってるけどこんなに小さいとは思ってなかった・・・・はっ!」
慌てて口を塞ぐも遅い。
「ごめんね、小さくて。そこらへんは結構気にしてるんだ・・・」
レアーの周りに暗い雰囲気が立ち込めた。
「・・・確かに、レアーの体は凹凸が少ないとは思うが気にしなくてもいいと思うぞ?小さければ小さいなりに需要があると思うし」
「煌火君。それ、追い討ちにしかなってないからね」
神刀が苦笑していた。しかも緋恋はロリコンと目で言っていた。俺が何をしたと言うんだ!
「煌火は少なくとも私がいろいろと小さいままでも需要があると思ってくれているんだね?それなら煌火はどうなんだい?そして煌火はロリコンだったんだね」
「・・・まぁ、世の中には大きいほうがいいというやつもいるかもしれないが俺はそうとは思わないな、レアーはそのままでも十分可愛いしな。そして何よりも一途であるからな。こんなのに好
かれて振るやつなんていないだろ」
「・・・・・・・・やっぱり煌火は鈍感だ」
「うわー、煌火、それはないと思うな。いくらなんでも鈍感すぎじゃないかな?」
「緋恋さん、煌火君はね、昔からこんな感じなんだから仕方ないんだよ」
うん。神刀よ、何を言っているんだい君は。失礼にも程があると思うんだが?というか何が昔からなんだよ。
「ところで、そのふたりはチームメイトなんだよね?紹介してくれないかな?」
「そうでした、忘れてました。私はレイカ=イラマクートです。いつかはレアーさんの武器を扱えるくらいになりたいです」
「アタシは鳴沢緋恋、よろしく」
「あぁ、よろしく。あと、私の武器はそんなに大したものではないよ。使う人によるからね」
「・・・ちょっとまて、何が使う人によるだ。お前が遊びで作った魔剣の試作品使って俺の魔力が全部吸い取られそうになったこと知ってんだろーが」
「まぁ、あれは事故ってことで済んだじゃないか」
笑いながらレアーが話す。それから真剣な顔に戻って言葉を発する
「それじゃぁレイカに早速頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「はい、内容によりますが」
「それじゃぁ、試作品のテストを頼みたいんだが、私だと魔力が少なすぎて扱えないし、緋恋は見るからに剣とかの方に向いてそうな体してるからね。それに煌火のチームメイトと
いうことは信用できるからね」
そう言って木の箱を取り出して中身を取り出す。それは一対の拳銃。
「それは構わないですけど、どうして私なんですか?私以外にも良さそうな人はいっぱいいると思いますけど」
「それはね、煌火の周りにはなぜか悪意あるものは寄り付かないんだよ。それに煌火は悪意がある人間がいた場合すぐに気づくんだ。普段は適当に見える煌火でもちゃんと人を見てる
し自分の能力の使いどころはわかっているんだよ。まぁ、素直じゃないんだがね」
「・・・おい、なんかサラッと失礼なこと言われた気がしたんだが気のせいか?」
「気のせいさ」
受け流された。
「まぁ、そういうことなら・・・わかりました引き受けさせていただきます」
「そうか、ありがとう。それでは説明に入ろう。この試作品の良いところは基本的に実弾も使えるんだが、魔弾も打ち出せるということ、しかも魔弾の形を制御できればレーザーのような直
線上の敵を攻撃する形や非常時に銃剣のようにして扱うこともできるんだ。ただ、あくまでも試作品であるだけに制御は難しいだろうけど頑張ってくれ」
カチャリと音を立ててレアーがレイカにその試作品を手渡す。
「それじゃぁ、しっかりと使いこなせるように頑張ってみます」
「うん、頑張れ。それはそうと煌火、刀の方はまだかかりそうなんだけどワイヤーの方は一応完成したからあとで渡すね」
「・・・わかった。それはどうでもいいんだが、あとどれくらいでできそうなんだ?」
「う~ん、多分一週間くらいかな~」
「・・・それじゃ少し遅いな、もう少し早くしてくれ。少なくとも慣らす時間が必要だからあと三日で仕上げてくれ」
「ははっ、冗談がきついけどやってみるよ。昔っから無茶ぶりばっかりだね、君は」
「・・・終わったら一時間くらいなでてやるよ」
と、冗談で言ったみたものの案外レアーが食いついてきた。
「一時間もなでてくれるの!?それじゃぁ頑張らなきゃな~。約束だからね」
「煌火・・・なんか、手馴れてる?というか撫でるって何?女の子にあんまり手は出さない方がいいと思うけど・・・それを受け入れるレアーもレアーだね」
苦笑しながら耳打ちしてくる緋恋には少し呆れられていた。
「そういえば緋恋。君は何か武器を使う予定はあるのかな?よかったらあげるけど」
「いいの?高いんじゃないの?」
「いいって、友達なんだから初回くらいはサービスするさ。で、何か要望はあるかい?」
「う~~ん、じゃ、刀がいいかな。一番使い慣れてるし」
「やっぱりそうか。なら、ちょっと待ってて、取りに行ってくるから」
そう言ってパタパタと応接室から出て行ってしまう。
「それにしても煌火と神刀ってすごい人と知り合いなんだね。アタシそういうの全くないからすごいと思う」
「・・・ん?あぁ、そうか?昔っから武器の依頼してたからな」
「そうだね、でも僕が知り合って以来全く会ってなかったからね」
「それにしてもいい人ですね。レアーさんは」
ガチャリと扉が開き紫色の鞘に入った刀を持ってレアーが入ってくる。それにしても、刀と身長を比べるとレアーの身長の低さが目立ってしまっている。本当に小さいんだなと思った。
「お待たせ、これでいいかな?そんなに重くはしてないんだけど、八百グラムくらいかな?等身は八十五センチくらいだったと思う。おそらく魔力はあまり使わないと思うから魔力伝導率
が低くてなかなか折れにくいのを選んできたけどどうかな?」
緋恋に刀を手渡し、手渡された緋恋は刀を抜く。刃は緑色、というか綺麗な翡翠色をしていた。本当に切れるのかどうか不安なほど綺麗な刃には衣彩と彫り込まれていた。
「えっと、レアー。この刃の色はなんで緑っぽいの?あ、これがダメとかじゃなくてむしろちょうどいいくらいなんだけど気になったからさ」
「それは鉱石竜のうちの一匹、翠翼竜の翡翠を使ってるんだ。だからその色ってわけなんだ。加工には時間がかかったけどね」
「なるほどね。ありがと♪大事に使わせてもらうとするよ」
「それともうひとつ、神刀。これを受け取ってくれ」
そう言って神刀に差し出したのは刃渡り三十センチくらいの一本の短刀。
「これは?」
「これから必要になってくると思うからね。具現だけじゃ敵は倒せないと思うよ。神刀に合うように魔力伝導率は高めに作ってあるから」
「ありがとう。もらっておくけど、本当にいいのかい?」
「あぁ、どうせ売れ残ってしまったものだし。それに友達だから」
それから一時間くらい話した後にワイヤーをもらって寮に戻ることにした。寮戻るまでにはたくさんの生徒で賑わっていた。
※ ※ ※
「いや~、それにしてもいい人だったねぇ~。レアーは」
寮に戻ってくるなり緋恋がそんなことを言い出した。
「・・・昔からあぁいうやつだよ、あいつは。それにしても、お前らはそれで武器の調達はできたことだし、明日からの戦果に期待していいんだよな?」
ソファに座りながら適当に言ってみた。
「それは・・・・うん」
「なんとも・・・・言えませんね」
「僕もそう思う」
なんでそんなに自信がないんだ?お前たち。
「だってさぁ、煌火があんなスコアを初日から叩き出すからいけないんだよ!!」
逆ギレされた。それに対してレイカと神刀も頷いている。
「・・・ちょっと待て、俺の所為にされても困る。というかお前らだってかなりいいほうだっただろ」
「いいほうじゃありませんよ煌火さんと比べたら全員二倍以上の差があるんですから」
「そうだね、煌火君はちょっと点数が高すぎたね。多分初日からこんなことした人っていないんじゃないかな?」
いや、まぁ、そりゃ千を超えればそうなるだろうけどね。俺は関係ないと思うんだ。
「・・・広範囲殲滅用魔法〈血塗れの獄鎚〉使ってたから仕方ないだろ。しかも誰も死なせるわけにはいかないんだし、金も欲しいし」
「そう言って逃げる気かー!」
逃げてねぇよ!と緋恋にツッコミたくもなったがやめておこう。
「・・・まぁ、これ以上このことを話すのはもうやめよう。これから何するかを決めよう」
「あ~、アタシはシャワー浴びてくる」
「僕は荷物の整理でもしようかな。来たばかりであんまり片付いてないし」
「私は特に何もないですけど、レアーさんから頂いた試作品のテストをしたいので煌火さん、付き合って頂いてもよろしいでしょうか?」
「・・・別に構わないさ。俺だってこいつを試したいんだからな」
そう言ってワイヤーを取り出す。肉眼では見えないほど細く、人を殺すに適した武器である。
「それじゃぁ、いきましょうか」
「煌火、どんな事してもアタシたちが気づかないからといっても押し倒したりはしないほうがいいと思うよ。まぁ、煌火なら大丈夫か」
お前の目には俺がどう映っているんだろうね、不思議だな。あははは。
「あの、煌火?ちょっと目が怖いから、落ち着こう?アタシが悪かったから!!」
まぁいいか、俺も行くとしよう。
「それじゃぁ煌火君、頑張ってね」
新都の言葉を背に魔界へ続く歪みの中に入っていく。まぁ、ここはすぐに抜けるんだがな。着いたのは昨日と同じような赤い空の闘技場。その中に銀髪の少女が一人、とても眩しく見えた。
「・・・それじゃぁ始めようか」
ワイヤーを指に装着してから話しかける。
「分かりました。それじゃぁ行きますよ」
その瞬間銃声が渇いた銃声が響く。縦断は俺目掛けて一直線に飛んでくる。一発当たればもちろん即死だ。
「・・・それじゃぁ俺は殺せないよ」
右手の人差し指を少し曲げてワイヤーを操作する。ちなみに魔力を纏っているため少しの動きでも思った通りに動くのである。
銃弾はワイヤーにより真っ二つに割れる。少しレイカに接近し、ワイヤーを銃口の目の前に配置しておく。こうすれば銃弾が発射されてもすぐに着ることができるというわけである。
「く、やりますね。それじゃぁ、こうなったら」
ワイヤーをまたぐようにして魔法陣が展開される。
なるほど、魔弾で来るというのか。だけど展開から発射までの時間が遅いため避けることはできる。
「・・・展開から発射までが遅い。狙いは確実にいいんだがそのラグのせいで当たらなくなるから気をつけて相手の動く一歩先に打つ感覚で打てば魔弾なら当たる」
「分かりました」
そして俺が移動する一歩先へ魔弾を放つ。狙いは確実に良くなってきた。
ワイヤーを一旦引き戻し距離をとって横に移動しようとしたとき、に銃声がなった。
俺の一歩先への弾丸、その場で制止することでそれは避けることはできたが、計算ミスだったようだ。まさかな、目の前に弾丸が迫っているとは。おそらく銃の一対あったうちのもうひとつの方を全く同じタイミングで俺に向けて撃っていたらしい。
鼻先に迫っている弾丸。この距離を避けることはまずできないので咄嗟に技を使っていた。〈水鏡深〉である。魔族であろうが人間であろうが肉眼では捉えきれないほどの高速移動をしてレイカの背後に回り込み、元いた場所には幻影をつくる。
「・・・今のはいい動きだったぞ」
首に締め付けすぎないようにワイヤーを巻きつけてゲームセット。
「ありがとうございます。その技にはしてやられますね」
「・・・まぁ、咄嗟に思いついたのがこれだけだったしな」
「それって多分幻影魔術ですよね?」
「・・・そうだな、もう少しアレンジしたものなんだが、やってみるか?」
「いいえ、やめておきます。多分私じゃできませんから」
と、ワイヤーを解いたときレイカが少しバランスを崩した。俺はそれを受け止めようとしたら俺もバランスを崩し倒れこむ。思わず目を閉じてしまった。
不意にムニュりと柔らかい感覚が手に伝わってきた。まだ状況は理解できていないため手にある感触がなんのものなのかわからない。少し手を動かすとレイカの艶かしい声が聞こえてくる。
「ん・・・ぁ、おう、か・・さん。はぁ、動かないで、やっ・・・んぅ」
いや、動かないでと言われてもだな、この状況を打開するためにはまず手をどけなきゃいけないんだが無理に動かすと俺の肩があらぬ方向に曲がって関節が大変なことになるわけであ
って、一旦顔を上げないとどうにもできないわけですよ。ということで少し手に力を入れて立ち上がることにした。
「あっ、痛っ!?」
立ち上がってようやく理解した。
今まで自分の手がどこに置かれたいたのかを。それはレイカの胸である。
感触で分かったわけではない。ワイヤーによって制服の胸のあたりが少し切れていたからである。俺は後ろに飛び退き頬をかく。事故とは言え女子胸を触ってしまったわけであり、けっこうバツが悪い。一応謝っておこう。
「・・・その、なんというかすまなかった」
「いえ、こっちがバランスを崩しただけなので気にしないでください」
あはは、とレイカは苦笑しながら言う。まさか緋恋が行っていた通りになるとは思っていなかった。
「・・・それより、怪我はないか?ワイヤー当たって切れたりしてなければいいが」
「はい、怪我はないんですが服が少し破れてしまったようですね」
まぁ、その程度なら普通に治せるということで直してやって魔界を出た。
「おつかれー、意外とはやかったね、もうちょっとかかると思ってたけど」
「一応使い方の確認と軽く手合わせをお願いしたんですが煌火さんが強すぎて相手になりませんでした」
「・・・いや、最後の一手は正直危なかった。普通ならどんな武器を持った相手でも天幻流の技は使わないようにしてるからな。
「そうなんだ、それにはなんか理由があるの?」
「・・・いや、特にないが天幻流の技は体にかかる負担が大きすぎるからな。まぁ、その分使える場面は多いんだがな」
「やっぱりすごいんですね、そういった技を使いこなせてるってことは」
使いこなせてるだと?使いこなせず殺してしまった大切な人だっていたんだぞ。そのせいで俺の家族は死んだんだ。守ると誓っていたのに守れずに終わり、何も知らないうちにたどり着い
のが力により終わらせる方法。天幻流絶乃型の一から七番までの技。だから今度こそはその技で守るんだ。こいつらを。「・・・やめてくれ、俺の技は人を殺めることしかできないんだ」
「うぅん、違うよ煌火。煌火は人を守ることが出来ると思うよ」
俺を激励しようとしてる言葉だろうけど何も知らない奴には言われたくない言葉だ。そのことに対して無性に腹が立って仕方がない。
「・・・何も知らないからそんなことを言えるんだよ。想像してみろ。自分ではできないことをしようとして大切な人を殺すということを。それがどれだけ人間の心に棘となって残るのかを、そし
て心に残った傷を癒せないままに生きていく様を」
「それは・・・でも煌火には今があるじゃん」
「・・・今があるだと?笑わせるな。過去の罪も償えずして生きていて何が楽しい。そんなの生きているとは言えないじゃないか!何も知らないくせして知ったようなことほざいてんじゃねぇ
よ!」
「あっ、煌火さん!」
俺は怒りに身を任せてレイカの制止の声も振り切ってその場を駆け出した。自分でも情けないとは思う。けどあれ以上踏み込まれたら多分俺は緋恋を殺していただろう。そして夜の中に走って消えていった。
第三章 「怒り」ときどき「涙」
はぁ、やってしまった。初日からまさかの仲間割れ。
煌々と輝く月と星の下を歩いていた。泊まるあてもなくさまよっていると、そこに背後から声をかけられた。
「あれ?煌火じゃないか、散歩・・・ではなさそうだね。その様子から見ると仲間割れでもおこしたのかな?まぁ、どうせ些細なことだろうけどね。うちに来るといいさ、晩飯くらいならご馳走し
てやれるよ?」
「・・・いや、いいさ。昔のように野宿というのも悪くない」
ソロモンにいたときは野宿など当たり前のようなものだった。
「そうか、なら頑張ってね。辛いことがあったら来るといい。あと、早めに仲直りをしたほうがいいよ」
「・・・あぁ、それは分かっている。何か嫌な予感がする。こう、なんというか本当に俺に関わったせいで起こるようなことだ」
「それならなおさらだよ、落ち着いてからでも行ってみることをすすめるよ。まぁ、不器用なりに頑張れ」
背を向けて手を振るレアーを見送った。レアーに言われた言葉を振り返ってみる。不器用なのはわかっている、昔から人付き合いが苦手だったからな。
「・・・まぁ、考えてみても仕方ないか」
そう呟いてとある場所を目指す。そのとある場所とは学校である。まずは学校に行ってみよう。
※ ※ ※
紺色の髪の少女はソファに座ってジュースを飲んでいた。その瞳はどこか寂しげで光が差し込んでいない。
「はぁ、どうしてこうなっちゃうんだろう」
「まぁ、しょうがないですよ。人の過去はいろいろありますし、煌火さんの過去が重かっただけですよ、元気出してください」
と銀髪の少女が返す。
「でも、あの様子だとかなり怒ってたと思うからさ、少し心配なんだ。神刀はどう思う?」
と紺色の髪の少女が茶髪の少年に話しかける。
「まぁ、煌火君はそんなに過去に触れられることは好きじゃないんだよ。だから深く関わっていないなら大丈夫だと思うよ。おっと」
茶髪の少年が携帯を取り出して応答する。
「煌火君?どうしたの・・・・えっと、それは本当かい?だとしたら早急に避難を・・・」
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
「えっと、私が出てきますね」
「ダメだ!出ちゃいけない!!」
――その通話の十分前――
「おい、本当に行くんだよな」
と、細身で色白な男。
「仕方ないだろ。これが俺たちに与えられた任務なんだから」
と、フードの男が言う。
「あぁ、そうだな。俺たちはこの任務を完遂することで昇級できるんだからな」
とナイフを持った男が言う。それともう一人、大柄な男、野島健二がいる。少し歩いていたら声が聞こえてくるもんだからなんだろーなーと興味本意で聞いていたら結構やばい話だと思える。
「俺たちがあの裏切り者、桜葉煌火を生け捕り、または暗殺しろっていう任務だからな」
・・・ほぅ。俺を暗殺か、いい度胸だが別に受けてやる必要なんてないから真っ向からこられても受けないがな。
「それじゃぁ、まずは裏切り者を誘き出すためにその仲間の暗殺に向かうとするか」
野島め、考えやがるな。にしてもこのままだと神刀とかが危ないということになる。一応神刀に連絡しておくか。あっち側に聞かれないように足音を消してその場を少し離れて携帯を取り出
して通話する。
「・・・あ、神刀。お前らを野島健児たちが狙ってる。今からから家を出るなよ」
そうとだけ言っておいた。
※ ※ ※
さて、どうしたものだろうかな。この場合なら煌火君は何をするだろう。
玄関を破壊されて避難する間もなく中に数人のフードの男たちが入ってきた。と、思った瞬間電気が消える。おそらくはブレーカーを落とされたのだろうが気にしている暇はない。
「レイカさん!とにかく魔法を!!」
「分かりました」
カッと閃光が迸る。僕と緋恋さんはレイカさんの魔法を知っていたから無事だったけどあっちの人はそうはいかないんじゃないかな。怯んでいる隙に緋恋さんが衣彩を抜いて一人に対して峰打ち。流石に闇討ちとはいえ人を殺すのは罪になるからね。
一応僕もナイフで応戦はしてるものの流石に相手の手数が多い。
「うぐっ」
後ろからの突然の衝撃に気が遠くなる。流石に夜戦は相手の方が分がある・・・けど、ここで持ちこたえなければいけないと、失いかけた意識をナイフで突き立てることで取り戻す。死ぬのはもう慣れている。
意識を取り戻したことによって後ろへとナイフを振るう。もちろん深手は追わせては死んでしまうためそんなことはできない。だったらグリップの部分で頭部を殴って気絶させれば終わるん
だからその手を使う。
「ぬぁっ!」
男が吹っ飛ばされて壁に激突する鈍い音がした。
流石にこのままではまずい・・・・戦力の差もあるけど、なんといっても相手の方が環境が有利なためこっちのナイフやら刀やらの近距離戦闘が通じない。思わず歯噛みしてしまう。その時
に追い打ちをかけるように人が入ってくる足音がする。
「あぁもう、どれだけ人がいるの!」
緋恋さんが叫ぶ。そう思うのも仕方ないと思うし、実際僕だって満身創痍だ。
「おうおう、何チンタラやってんだよ、この程度で。そんなんで裏切り者を暗殺できると思ってんのか?あいつが帰ってきたら確実にお前ら死ぬぞ」
この声・・・たしか今日煌火君と戦ってた野島という人だ。ソロモン流とは知っていたけどまさか僕たちが標的にされるとはね、ついてないなぁ。
すると突然ひとつの炎が上がった。その周囲が照らされ、誰の炎かわかった。野島君か、でもその技は一度見ているよ、煌火君との戦闘で使っていたからね。その炎は僕に近づいてくるので僕は咄嗟に後ろに下がる。
「あめぇな、一度見てるからって油断してんじゃねぇよ!!迦楼羅炎!!」
突然炎が激しく燃えたかと思うと爆ぜ散りその衝撃で僕たちは意識を失った。
※ ※ ※
くそっ!完全に見失っちまった。電話してる間にどこに行っちまったんだよ、早く見つけねぇとあいつらが危ない!!
海岸沿いを必死に走っていたら突然何かが爆発する音がした。方角からすると俺たちの寮の方か・・・やべぇ、こいつは死人が出るかもしれねぇな。
急いで寮の方に戻る。が、着いた時にはもう遅かった。
寮は既に半壊状態にあり、炎は燃え上がっていた。炎は魔法で消し止めたもののまだ寮は直せない。本当に無力なんだな、俺よ。だが、ひとつ手がかりは見つけた。
誰のものかはわからないが血の跡がある。これは後を追わざるを得ないな。
血の跡を辿って行ったら海岸沿いにある使われていない倉庫に行き着いた。シャッターは閉まっていて人の気配は何一つ感じられないがただ一つ、純粋な悪意を感じる。気持ち悪いほ
ど純粋な悪意である。と、感じるままシャッターをぶち壊して中に入る。
「おぉ、これはこれは案外早いご登場だこと」
野島健二が座っていた。
「・・・てめぇだよな、俺の仲間を襲った奴は」
倉庫の内部を見渡す。野島が座っている後ろには鉄パイプで作られた十字架に磔にされたレイカと緋恋、神刀がいた。
「あぁそうだ。お前とは真っ向から勝負したくてねぇ、ついやっちまったんだよ。まあ、お前が勝負を受けない場合こいつらの命はないがな」
「・・・いいだろう。だがその前にひとつ条件がある。お前一人じゃ役不足だ、後ろに隠れてる奴も出て来て戦え」
「おいおい、俺も舐められたもんだなぁ。だが、仕方ねぇ。お前らぁ出てこい」
後ろから二十人ほどの人影が現れる。結構な人数だが、実際個々の能力値は低いと見た。
「さぁて、そんじゃ始めようぜ!!」
いきなり迦楼羅を纏って急速に移動し俺に接近してきた。流石に迦楼羅を纏った相手に対して真正面から突っ込んでいくと炎に貫かれるため一旦下がりつつワイヤー十本を使って十人
の首を絞めて気絶させる。
「ほぅ、どんな技を使ったのかは知らねぇがもう十人もやられちまったか」
「・・・ソロモン流第三乃技〈迦楼羅〉」
ソロモン流とソロモン流のぶつかり合い。そうそうあるもんじゃないが、同じソロモン流ならただ単に強いほうが勝つ。
「同じ技かよ。だけどそっちのほうがおもしれぇ、今すぐぶっ殺してやるよ!!行け、お前ら!」
その指示に従って残った十人が襲いかかってきた。そいつらには迦楼羅でアキレス腱を切断したり肩を外したりすることによって行動不能にすることはできた。そしてそこに野島が俺のところに向かってきた。俺もそれに対して走っていく。
「なぁ知ってっか?お前が知らないうちにソロモン流だって進化してんだぜ?迦楼羅炎!!」
突然爆発が起こった。俺はその衝撃で吹っ飛ばされて倉庫のアルミ製の壁に叩きつけられた。
「・・・ぐっ、がっ!かはっ!!」
思わず衝撃の強さに吐血してしまう。これだと肋骨は二、三本はイったか。
「おいおい、そんなんでくたばってもらっちゃァ困るぜ?」
ニヤニヤと笑い野島が歩み寄ってきた。俺は野島に気付かれないように迦楼羅の形を変形させていた、火鳥槍―迦楼羅―そうなずけた槍である。俺は変形が完了した瞬間に起き上がり野島の左肩を狙って槍を突き出す。
「くっそ、何なんだよこれ。こんなん持ってなかっただろ!!」
左肩に槍が見事に的中したのだ。痛くないはずがない。野島がその場に膝を突き、槍を抜こうとするも迦楼羅の本質は火であるため素手で触れることはできない。
「・・・痛いよな?だけどな、大事なものを失った痛みってのはそれの比じゃないって知ってるか?」
「知らねぇよ!!」
「・・・だろうな。だからお前は弱いんだよ。弱さを知らない、そして何よりも守るべきものがないということ、それがお前の弱さだ」
「うるせぇ、知ったような口をきいてんじゃねぇよ!!」
野島が左肩に刺さったままの槍を抜こうと勢いよくやりを掴む。ジュゥゥ―と手が焼ける音がする。槍が抜けたと同時にドバドバと血が出てきた。ガクガクと野島の体が震えている。たぶん出血多量による症状だろうな。
「くそ!!こうなったら〈砕けえぬ鋼の鎧〉!!」
野島の大柄な体に眩い金属光沢を放つ鋼の鎧が纏われる。
「これでお前の技は通じねぇ!!ソロモン流第二乃技〈炎武〉!!」
そう叫んだ瞬間野島の周りに炎が現れる。だが普通の炎ではなく、蛇のようにのたうっている炎である。厄介な技を使ってきたもんだ。この技は使用者の半径二メートル以内に入った者に対して襲いかかるという性質がある。
「・・・まったく、俺が本気を出していたとでも思ってんのかよ」
ふぅ、とため息を思いっきり吐いてやる。人間がイラついてる場合こうやって自分が一生懸命やっていることを否定されると更にイラついてくる。そしてそれが単調な動きになるということにつながる。まぁ、この程度でいちいち切れていたら暗殺者には向かないんだがな。
「クソがーーーーーー!!舐めやがって、ぶっ殺してやるよ!!」
ほら、やっぱり来たよ。だが二メートル以内に入れられたらこっちが危ないなってことで俺も魔法を使用することにする。
「・・・〈式の創造者〉〈流星の追憶〉発動」
数十あるうちの追憶式。追憶式の能力は基本的に形質変化やらその他もろもろ自分の能力の覚醒にある。その中でも〈綺羅星の追憶〉は形質変化、物体の形や質の変化を主とする。そこらへんにあった布っきれを拾い上げてそれを黒い翼に変える。そしてもう一つ、鉄パイプを拾い上げて刃渡り百五十センチくらいの刀へと変える。質量も変えられるわけであり重さは
それほどでもない。
「ずいぶんと長い刀だなぁ、そんなんで当たるわけねぇだろ!!」
まっすぐと俺に向かってくる。範囲に入るまで残りは三メートルくらい、要するに残り三歩くらい。
一歩目で目を閉じて腰に刀を当て、二歩目で腰を落とす。そして三歩目で目を見開き野島に対して一気に駆け出す。
「・・・天幻流第一乃剣〈破鎧閃〉!」
水鏡深で使用しているような高速移動に加えて翼の羽撃きによってさらに加速する。ついでにその羽撃きによって〈炎武〉を掻き消す。
キィィィィン!!という甲高い金属音が鳴り響いた。その瞬間、パキィン―――と鎧が粉々になる。
「ぐぁ・・・がっ!」
パタリ、と後ろで倒れる音がした。何をしたかというと簡単な話だ。
まず高速移動してる最中に野島の鎧の表面だけをなでるように切って鎧を破壊したあと柄の部分で腹を殴ってやっただけである。倒れ伏して何が起きたのかわからないという顔で野島がこっちを見ている。これでいいんだ、猛烈に殺したい気分だがこれでいいんだ。
今こいつを殺したところで俺になんの価値があると言うんだ!!でも殺してしまいたい。そんな気持ちがある。仲間を襲い、攫われて自分勝手な都合であいつらが人質にとられて無理矢
理意味のわからない勝負をさせられた。ふざけるなとは思う。殺したい、あぁ、徹底的に痛めつけて殺してやりたいさ。だけど殺してしまったらあいつらにも迷惑をかけてしまう。
・・・昔のように殺しちまえよ。そうすれば楽になれるんだからさぁ。もし風紀班の奴らが来ても殺せるだけの力はあるんだからな。どこからかそんな声が脳内に響く
黙れ!!もう昔の俺とは違うんだ!!クソ、俺はどれだけ弱いんだ!!だけど体はフラフラと野島に近づいていき、剣を振り上げる。止まれよ。だけど自分の意識とは反対に体が勝手に動いてしまう。
剣の柄の部分を掴む手に力が入る。そして野島の首めがけて剣を振り下ろそうとしたときだった。
「待ってください!煌火さん、何をしようとしているのかわかってるんですか!?」
レイカの声だった。
俺はすんでのところで剣を止めることに成功した。そして頭痛がした。二年前にとある王国を消してしまった時と同じような頭痛。意識がなくなる前に魔弾を六発展開し、レイカ達を磔にし
ていた縄に向けてそれを発射する。縄はちぎれてレイカ達が落下する。レイカだけは意識があったため着地と同時に具現でクッションを創り出して緋恋と神刀を受け止める。いい判断だ。
「・・・レイカ、最後に一つ頼みがある。魔弾で俺を撃って気絶させてくれ。じゃなきゃお前ら、というかこの浮島全体が消し飛ぶ可能性がある」
「えっと、どういうことかわかりませんがそういうことなら。えいっ!」
小さめの魔弾が俺の顎に炸裂。それと同時に俺は意識を手放した。
※ ※ ※
俺が目覚めたのは消毒液の匂いが漂う白い病室のようなところ。昔いた実験室とは違う白さである。
「あ、煌火君目が覚めたかい?」
神刀が目覚めるなり話しかけてきた。
「・・・神刀か、ここはどこだ?というかお前、怪我はないのか?」
「僕は目が覚めてから一回死んだからね。あ、もちろんレイカさんも見えないように舌を噛んでそれを飲み込んだことによる窒息死で」
目覚めてすぐにそんな気持ち悪い話をされても困るんだがな。と、それより気になることがあった。
「・・・レイカ達はどうした?」
「今学校で理事長に事情を話してるからもうすぐ来ると思うよ」
そうか、無事なのか。ならよかった。
「・・・なぁ神刀、俺の過去を知ってるお前ならどう思う?俺の過去を知った奴らが俺のことをどう思うか」
「僕は別にそんなに気にしないけど・・・人によるんじゃないかな。けど、もし打ち明けるとしてもレイカさんたちなら大丈夫だと思うよ」
なんでわかるんだ?俺の言おうとしたことが。とツッコミたくなったがやめておいた。
「・・・そうか、なら正直に話してみようかな。いずれはあいつらにも話さなきゃいけないんだから今日中に話すことにするか。って、今何時だ?」
窓を見たら夕焼けが見えた。
「今は四月三日の午後五時三十二分だね」
しまった、入学してから休むまでの期間が短い!!
「けど理事長の計らいで今日は休みの扱いにしないみたいだから感謝しないとね。それと、野島君達の件だけど退学らしいよ」
「・・・そうか、できればこういうjことは二度と起きて欲しくないな」
「うん、僕もそう思うよ。やっぱり平和が一番だからね」
だよなぁ・・・とそう思っていたところに病室の扉が静かに開いた。
「失礼します。神刀さん、煌火さんはどうですか?と、起きたようですね。事情は聞きましたか?あと撃ってすみませんでした」
「・・・あぁ、気にするな。どちらかといえば俺が撃てといったんだし、お前は悪くないさ」
手をひらひらと振っていかにも健康ですよアピールをしてみる。と、そこへ緋恋がきた。
「ごめん、ごめんね煌火。・・・アタシが煌火のことを何も考えないで煌火のことを聞いて煌火を怒らせて・・煌火が出て行った後アタシね、すごい後悔したんだ。こんなアタシでもいいら・・・
ぐすっ、許してほしい・・・・うぅ」
緋恋は目を伏せて大粒の涙を落としながら頭を下げる。
「・・・別にそんなことは気にしてないさ。勝手に俺が出て行っただけだからな。許すも何も何も起きていなかったということだ」
そう言って緋恋を抱き寄せる。緋恋の頭はちょうど俺の胸元に収まった。正直言って抱き心地がいいと変態的なことを考えてしまった。
「うぅ・・・ぐすっ、ありが、とう。うわぁぁぁぁぁぁぁん」
緋恋はそのまま五分ほど泣きじゃくっていた。泣き止んでから俺は病院先生を呼んで異常がないことを確認されてから寮に戻った。
寮は理事長、もといウルの計らいで俺が意識を失っている間に元通り。これはあれだ、お金という名の社会的な魔法を使ったに違いない。きっとそうだ。そしてその新しい寮の中に入る。何も変わっていなかった。ちなみに二階は奇跡的に無傷だった。というか消火が間に合ったのと防火と対衝撃性能が高かったからである。
一旦みんなをリビングに招集する。神刀はもう知っていることなので読書するとき専用の眼鏡をかけて魔導書を読んでいる。
「・・・それで、だな。お前らに大事な話がある」
「なんですか?」
「・・・俺の過去についてだ」
「えっと、煌火?煌火は過去について触れられるのをあまり好んでないって神刀から聞いたんだけど・・・」
「・・・それとこれとは別だ。このことについてはお前らに知っていて欲しいから話すんだ。もちろん聞かれて話すってのは今でも嫌だがな」
足を組みソファにもたれかかる。
「・・・で、だな。俺は簡単に言うと人間ではない」
「あ~、うん。それはうすうす気づいてたかな。煌火の強さから考えて人間の度合いを超えてる気がするし、アタシたちが三人で相手にもならなかった奴に余裕で勝っちゃうんだからね」
「それでも、人間じゃないというなら一体何なんですか?見るからに魔族には見えないですし・・・」
俺はため息をひとつ吐いて言葉を口にする。
「・・・完全者ってやつだ。正確にはそのモルモットとして扱われた失敗作なんだがな」
「えっと、完全者って何ですか?」
「・・・人間を超越する者と謳われている。まぁ、身体能力が人間よりも高く魔力適性も高いというところと記憶力などが人間のそれを超えているということしか変わらないがな」
「なるほど・・・で、その完全者ってのには成功例がいるの?失敗作として扱われた煌火ですらかなり強いってことなら成功した人ってのはもっと強いのかな」
「・・・お前の知っている人であり、言い忘れていたことだが来週その人のチームと魔戦をすることになった」
緋恋を指差しそう告げる。
「えっと、誰?」
「・・・九十九涙。お前が習っていた流派の創始者であり成功体である完全者。使う魔法の属性は光だな」
「え、ちょっま、なんでそんなこと決まってんの!?というか涙さんって完全者だったの!?」
まぁ、驚くのも無理はないと思うだろうけどな。俺だって完全者がこの学校にいると言われて少しは驚いたからな。
「ちょっと待って煌火君!来週のスケジュールにそんなことは入ってなかったはずだけど、というかなんでリーダーの僕に対して相談なしでそんなことしてるの!?」
意外なことに神刀が驚いていた。
「・・・理事長に俺らのチームがやりたいことを優先してくれるって言うからな。そんでもって夏季の全魔戦にこのチームで参加することが決まったしな」
「全魔戦・・・・・・・・・・・これまた難題を・・・はぁ」
神刀がこめかみを抑えるようにして溜息を吐く。
「それにしても煌火さん、なんで参加を勝手に認めちゃったんですか?」
「・・・あぁ、それか。それなら理由はただ一つだ。来週行われる魔戦で賭けをしようと思う。もしあちら側が負けた場合このチームと同盟を組むんでそのチームで全魔戦を行う。これなら完
全者・・・まぁ、俺は失敗作だが二人いることになるからな」
「まぁ、それはいいと思うけど・・・話、ずれてない?」
緋恋にちょうど思っていたことを指摘された。
「・・・あぁ、そうだな。俺は完全者の失敗作として処分されそうになったんだがななぜか俺は殺されなかった。それから俺は研究員の一人に孤児院に預けられて、桜葉蘭泉、まぁ、俺の義理の父親が現れて俺を保護してくれたわけだ。それで俺の義父の仕事先がソロモンという暗殺組織だったということで、親父が仕事中に事故にあって死んでから俺
は義理の妹である未月と一緒に暮らしていたんだが、その途中で俺は親父の後を継いでソロモンに入ったんだ」
「それでたくさんの人を殺した・・・ということですか」
と、レイカ。その応えに対して俺は声のトーンを落として答える。
「・・・あぁ、その通りだ。だが俺がいない間に未月がソロモンの何者かの手によって殺された。理由は簡単だ。俺を縛るためだけの邪魔者はいらないから殺して俺を本気だ戦わせる。
俺は唯一の心の支えであった未月を殺されてブチギレてソロモンの中の人間を虐殺したさ。そのことでソロモンの中で一番上の階級で、最狂と呼ばれていたが、もうこの世なんてどうな
ってもいいと思って自分の感情を消した。それから少しは取り戻して神刀とであった。まぁ、そんな感じだ」
「それは・・・重いね、けど今は仲間がいるじゃん。もし何かあったら仲間が助けてくれる」
「・・・俺がいると、お前らが死ぬかも知れないんだぞ?もしソロモンのやつらがお前らを殺しに来たらどうする。それでも俺を仲間だと言ってくれるのか?」
「もちろん。死ぬのは怖いよ、けどそのときはその時だよ。アタシは煌火を仲間だと思ってる。今も、これからだってずっと」
「私もです。私は弱いですけど煌火さんの力になりたいと思ってるんです。なのでいろいろと頼ってくれていいんですよ?仲間なんですから」
その言葉に心が救われた気がした。人を殺めたこの俺すらも受け入れてくれたんだから。
「・・・受け入れてくれてありがとう。話はこれだけだ」
俺はそう言ってリビングを出て寝室へと戻った。
エピローグ 「ある」べき「感情」
過去を打ち明けたその日、寝室で俺はベッドに寝っ転がって天井を見上げて、天井に手を伸ばして魔法陣を展開しては消して展開しては消すということを繰り返していた。
―アタシは煌火を仲間だと思ってる。今も、これからもずっと―
という緋恋の言葉が安心感を与えてくれた。これからは死んだ未月じゃなくてあいつらを守らないといけないよな・・・そのためには強くならないとな。と、少し大きめな魔法陣を展開したところでレイカが入ってきた。
「煌火さん、魔法陣を展開してどうしたんですか?」
「・・・あぁ、いやこれはどうでもいいことなんだ。魔力を使うことによって魔力の底を上げる自主トレだから。やっぱり、仲間を守るのには俺が強くならないとまた未月を失った時のようになってしまうからな」
「そうですか。では煌火さんにひとつ聞いてもいいですか?」
過去を知られた今更特に聞かれても困るようなこともないから別に構わないと答える。
「どうして煌火さんはそんなに強さを求めるんですか?」
唐突にそんなことを聞かれて思わず展開していた水属性の魔法陣から水が俺の顔に水がかかる。
「・・・ぷはっ、ちょっと意味がわからないんだが」
俺は濡れた顔のままレイカの顔をみた。レイカはいたって真面目な顔つきで俺の方を向いていた。
「どうして一人で抱え込もうとするんですか?」
顔を具現したタオルで顔を拭いたあとに答える。
「・・・昔から一人だったからそのせいだと思う。頼る人なんていなかった、というか死んだからなぁ・・・・にしてもどうしてそんなことが気になるんだ?」
「それは、煌火さんが心配なんですよ。その強さが故にいつか煌火さん自体が壊れてしまうかと思ってしまって心配なんですよ」
まぁ、実際に一回壊れて必要最低限の感情以外の感情は消してしまったんだからな。と、そこにレイカが俺に歩み寄ってきた。
「・・・大丈夫だ。もう壊れたりしないさ。昔の俺とは違うんだから俺はまだ強くなってお前らを守れるくらいになるから」
「それがダメなんですよ!」
一喝された。俺はレイカの言葉に目を見開く。
そうして少し驚いてる間にレイカが俺の方に身を寄せてきて、スっ――と俺を抱きしめてきた。不意に心臓が早鐘を打ってしまう。しかも俺が座っているので立ったままのレイカに抱きしめられたときにちょうど顔が胸に当たっているのに加えて少し甘いレイカの匂いがしてきて更に鼓動が早くなる。
「それがだめなんですよ。煌火さんは確かに強いです。けれど一人で色々なものを抱えすぎるんですよ」
今度は耳元で囁いてくる。
「そして煌火さんはその抱えたものを溜め込んでしまってまたいずれは壊れてしまいます。だからその溜め込んだものを少し解き放っちゃってもいいと思います」
そして、言葉を紡ぐように―
「泣きたいときは泣いてもいいんですよ?今まで我慢してきた分、今私に甘えても」
その言葉に俺の目から自然と涙が落ちていた。別になんということもないんだが自然と落ちていく。なんでだろうな・・・こんな感覚、今まで味わったことなんかない。
「煌火さん、大丈夫ですから一人で抱えないでください。これからは煌火さんの負担を私も一緒に抱えさせてください。それと・・・失った感情をこれから取り戻していきましょう」
「・・・あぁ。こっちのほうこそよろしく頼む」
そう言ってレイカの腕を振りほどいてベッドの上に再び寝っ転がる。
そして日付が変わる時刻が近づいてくる時間。レイカはシャワーを浴びたあとに眠ってしまった。(今日はちゃんと寝巻きを着ている)
深夜になっていくにつれてレイカはうなされていった。何か悪い夢を見ているんだろうか、息が荒い。思わずレイカの方を向いてみたら・・・なんだよあれ、眩しいくらいに白銀に煌く大小一対ずつ合計八枚の翼が生えていた。
ぜつぼーのほーてーしき!!~history crisis~
絵をつけたいけど画力ないなーとレイカを描いてて痛感させられましたよ!!
と、次に続きます。
次の作品は九月ころに上げると思います~。タイトルは「ぜつぼーのほーてーしき!!Ⅱ~feather of the collapsing angel~(仮)
こんなくだらないものをここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。