鹿狩りの夜に

渦のようなネオンの間に
昨晩 鹿を見つけた
交差点に四本の脚をおろして
精悍なブルーを瞳に置いて
岩のような信号を見つめながら
直線でかたどられた街にたたずんでいた

白い背中と白い息を
眼差しの奥にひっかけて
鏡のような冬の街を
獣の脚がすべっていく
気がつけば俺は
そいつを追いはじめていた
猟銃は持っていなかった
寒い夜だった
恐らく 完璧な脱走計画だった
街はいくつもの影で彩どられながら
妙な静けさをたたえたまま
何食わぬ顔で灯りをたいて
ただ俺たちの争いを見守っていた

獣は道を知っている
俺は風を欲していた
獲物よ
お前の追い越した木々がそこここで
火のように踊り狂っている
お前が駆ける大通りのシグナルは
いつだって青を灯していた
俺たちが呼吸を止めている間
いくつもの春が死に絶えたのだ
次にまた目覚めたとき
どうやってまたこの夢に落ちればいい
どんな夜を目印にして
どんな街を探し回って
夜をいくつも犠牲にして
街を何度も捨て去って

鋭利な幾何学を泳ぐうち
鹿の脚は古い廃屋に入り込んだ
アスファルトで暗い弓を編んで
俺は矢のありかをひたすら求めた
唯一の逃げ道が消えようとしていたのだ
ネオンだけがずっと輝いたまま
その瞳の中であらゆるものがにごっていた

白い背中と白い息が
グレーの血を流している
鹿の歯の間から
俺はようやく矢を見つけだした
しかしなにもかもが遅すぎた
その冷たさに俺が触れられたとき
既に日の光がさしていた
ブルーを空に注ぎながら
鹿は影に連れ去られていった

呼ばれたかのように 狩りは終わりを告げた
街は静かに燃えていた
どれだけ耳をすませても
もうひづめは聞こえなかった

煙が夜空を駆けていった
交差点が暗い口を開いていた
やがてまた渦のようなネオンの中で
赤信号がぼんやりと浮き上がった

鹿狩りの夜に

鹿狩りの夜に

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-03

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