いいだろう?

目を閉じると雨が降っている。やわらかな雨だ。音もなく降り続いている。
雨は半年ほど前からずっと降り続いている。
雨のカーテンを五、六枚捲った向こうに人影が見える。こともある。見えたり見えなかったりいろいろだ。
人影が傘をさしていないことがわかる。カーテンごしでもそれはわかる。
私はカーテンごしに呼びかける。
大丈夫?
「月水金は塾の講師をしてるんだ」と彼は応える。
そうなんだ。
「火木土はお店にいるの」と彼女は続ける。
そうなんだね。
月水金の昼彼は英語を教え、火木土の夜彼女はショービジネスの舞台に立つ。
雨は降り続いている。
「受験英語を教えるのに背中の羽は関係ないし」と人影は言う。「客席からの視線を集めるのに背中の羽は役に立つわ」
そうかもしれない。
だけど人影は傘をさしていない。
私は降り続くカーテンをかき分けて人影の側まで行きたいように思うのだけど。
側に行き人影の冷えきった胸をこの胸で強く温めたいと思うのだけど。
目を開けると雨は瞼を滑って流れ落ちる。

火曜日。
今日は背中を洗う日だ。
一度洗うと翼が完全に乾くまで一時間は箱に入らなくてはならない。
家庭用サウナに火を落とす。
人間乾燥機。
この箱を私はそう呼んでいる。
いいだろう?
そう呼んだって。

いいだろう?

いいだろう?

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-07-09

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