聖逃(仮)
登校
新開高校へ登校するのに、真子多紀(まなこ たき)はチペワのショートエンジニアを履いた。
通学靴としては値が張ったけど、エンジニアを選んだのは理由がある。履きこんで踵の交換をしなきゃいけないけど、しばらくはがまん。
オンボロアパートの2階のドアを開けると、駐車場から道路へ視線を走らせる。以前、駐車場の出口のところで待ち伏せされたことがある。油断はできない。
教科書なんて一冊も入っていない学生鞄の中身は鉄板だ。鞄は傷だらけで、バカだの死ねだの安全ピンでひっかいたキズや、極太のマッキーで地獄に落ちろと書かれている。
買い直しても、結果は同じだろう。買い直すかわりにホームセンターで買った鉄板を入れてやったよ。
地獄に落ちろだと?さすが、バカ信徒ども。
俺には十分、今でも地獄なんだよ。
錆びが浮き出た階段を音を鳴らして降り、駐車場から道路へ出る。誰もいない。まずは今日の第一関門突破だな。
1年生のときここで待ち伏せされたのは、さすがにヤバかった。あの頃は自分の態度も大きかったし、自らトラブルを招いていた。
今ではおとなしく目立たないように、学校生活を送っている。殴られ、蹴られたときの怪我は嫌でも俺を賢くした。
あいつらのやりかたは、陰湿で執拗だった。新開高校に入学する時点で分かっていたことだけど、実際にやられてみて、覚悟がまだ足りてなかったんだと悟った。
中学までは、誰かに殴られたことなんてなかったから。
初めて殴られたとき、意外にそのときは痛みがないことを知った。3人に囲まれ、素手でさんざんやられた夜、体が熱を帯びて痛みで動けなくなった。
唇は縦に裂けて、びっくりする位見た目がヤバかった。唇は、殴られると自分の歯で圧迫されて破れるんだ。中からは、ジェル状の血があふれ出る。
顔面血だらけになって、何で殴られているのか意味が一瞬分かんなくなったんだ。
アスファルトにうずくまって動けなくなった。入学式の日だった。初めて袖を通した学ランは片方の袖が破かれた。
聖逃(仮)