乱戦ヒーローズ

プロローグ 悪魔の運び屋


【サイクロン号】が、砂埃を上げて荒野を走る。
跨るは深緑の仮面の騎士。真っ赤なマフラーはまるで優美な馬の鬣のように風になびく。

「本郷、見つけたか!」
「あぁ!」

そこに、もう一台のオートバイが合流した。
こちらもまた【サイクロン号】である。操るのも同じく仮面の騎士。
彼らの相違点と言えば、グローブの色だ。前者は輝く銀、後者は燃えるような赤色をしている。

人は、彼らを仮面のバイク乗り――【仮面ライダー】と呼ぶ。

魔の秘密結社に改造手術を受けた第一の男【本郷猛】は、銀の【仮面ライダー1号】に。
本郷によって脳改造を免れた【一文字隼人】は、赤の【仮面ライダー2号】に。
悪の手に未来を奪われた2人の男は戦中で培った絆を力にし、日夜激戦を展開していた。
自分らと同じように改造を施された怪物を相手に、拳とバイクで人類を護っているのだ。

「よぉし!」

2号ライダーが、サイクロンのスピードを上げた。前方を走る黒いオートバイが、視界の中でどんどん大きくなる。
改造人間【ギルガラス】。
かつてダブルライダーが倒したはずの怪人だったが、3日前、突如として東京郊外に現れた。
2人は連日それを追いつづけ、今日ようやく発見に至った次第だ。この機を逃すわけにはいかない。

「ライダーブレイク!!」

気合一献、グリップに力を込める。
ほぼ無抵抗でサイクロンの車体は宙へ浮き、やがて滑走路から飛び立った飛行機のように、ありえない速度と高度を保って滞空した。
300kgのモンスターマシンが、ギルガラスの跨るマシンめがけて猛禽類のように襲いかかる。

「トォォ!!」
「ギッ」

何とも表しがたい音をあげてギルガラスのオートバイはスクラップへと変貌した。
吹き出した炎はあっという間に車体全体を包み込んだ。

「どうだ!」
「さすがだな、一文字」

数秒遅れて追い付いた1号ライダーは、燃え盛るバイクと微動だにしないギルガラスを見下ろす。
奇襲の様子がないことを確認すると、2号と共にバイクから降りてギルガラスへ近寄った。
奴はしばらく痙攣していた。しかし再生怪人特有の肉体劣化が仇となったらしく、数秒の後に完全に沈黙した。

「チッ、やっぱり再生怪人の脆さも考えるべきだったか」
「目的は知れなかったが、とにかく何らかの作戦は止められたんだ。良しとしよう」
「あぁ」

頷き合って、バイクの方へ歩みを戻す。
その時だった。

「作戦を止めたァ?・・・だとォ・・・?」

それは精神を内側から擦られるような、嫌な響きを含んだ声。
ダブルライダーの動きが止まった。何も言わず、ただ、俯き加減で立ち止まる。

「面白い冗談を言うのだな、仮面ライダーってのはァ・・・・・・」
「・・・・・・誰だ?」

1号の問いに、声の主は何を思ったか話をやめた。妙に重い沈黙がのしかかってくる。
声のする方向からしておそらく相手は自分たちの背後。
活動を停止したギルガラス以外の敵に、2人はいつの間にか後ろを取られていたことになる。
彼らの改造された視力・聴力の前で、果たしてそんな芸当ができる改造人間なんてのはいるのだろうか。

「君達の問い、要求は一切通さない・・・・・・」
「そうかい。じゃぁ――」

トノサマバッタの脚力を最大限活かした2号ライダーのステップ。
コンマ数秒の内に、背後にいるはずの敵へ右腕を突き出し――

「ライダー・・・・・・パァーーーンチ!!」

必中のストレートパンチを繰り出した。
しかし。

「うおっ!?」
「一文字!」

攻撃を入れたはずの2号が、逆方向へ弾き飛ばされていた。
異常事態に1号が振り返る。まずは敵を目視せねばならない。

「何者だッ!」
「何者、だとォ?」

見れば、そこに立っていたのはギルガラス。破壊されたボディを邪魔くさそうに引きずりながら、こちらへ向かってくる。

「それだけ深手のダメージで生きていられるのか。大した出世だなギルガラス」
「ギルガラス・・・・・・?そうかァ、この器はそんな名で呼ばれているのか」
「器?何のことだ」
「器は器。我々が3次元で活動するためのケースだ」

ダメージで思考回路がやられたのか?
科学者の本郷が一瞬そんな想像をするほど、奴は不可解なことを言い放っていた。

「お前は確か【ショッカー】が作ったデキソコナイだったなァ?」
「出来損ないかどうかは今から貴様と戦えばわかる」
「その無駄な強気ィ・・・・・・。嫌いではないが・・・・・・」

呟きながら、ギルガラスが羽を振るった。
途端に想像を絶する風圧が1号を襲う。

「う・・・お・・・!?」
「邪魔だなァ、お前らのようなのは。だから早めに潰しておけと言ったのに」
「・・・・・・お、お前・・・・・・何者なんだ!?」

風に耐えながら、1号が問いた。

「知りたいか、わが名が」
「あぁ知りたい。アンチショッカー同盟の【破壊済み改造人間】の資料に載せるんでな」
「余裕なフリをかますなよォ、バッタ野郎」
「ふん」

実際、1号の踏ん張った足は、地面をえぐりつつ後退していた。
後方の2号ライダーは気を失っているのか、動きを見せない。これはまさに劣勢というやつだ。

「よかろう。――我が名は【ヤプール】!!異次元からの救世主、【ヤプール】だ!!」
「救世主ヤプール・・・・・・?」
「新たな創造は破壊からしか生まれない。・・・・・・感謝しろ。このヤプールは、創造の手伝いのためにこの次元へやって来たのだ!」
「ほざけ」

一瞬の後の、1号のハイジャンプ。
軽く20mを超え、そこで一旦必殺の構えを整えた。ちょうど空中で屈むような格好である。

「ライダー・・・・・・」

そして始まる急降下。空気の層をぶち抜いて、ギルガラスを狙う。

「キィィーーーック!!!」

銀のブーツが陽光を受けて光った次の瞬間、ギルガラスのボディは粉塵と化した。
これが美しくも強力な【ライダーキック】。
改造人間といえど、直撃すればガラス細工同前である。

「ギッ・・・・・・」
「異次元人だか救世主だか知らんが・・・・・・どのみちお前はこの世界に必要ない」
「フフフ・・・・・・」

着地した1号の背中に、冷たく気味の悪い笑い声がへばりついてきた。

「40年だ・・・・・・」
「何?」
「このボディをォ・・・・・・破壊したことを後悔するぞ・・・・・・仮面ライダー」
「・・・・・・」

苦し紛れのハッタリか。はたまた【ショッカー】の新たな計画の一角か。
この時――そう、40年前の彼らにはそれはまだわからなかった。

1章 光の国から僕らのために

――― 1 ―――

【ドルギラン】が撃墜された――
そのニュースは、我々を驚かすには十分なものだった。
ドルギランと言えば、宇宙警察が誇る最高性能の宇宙母艦である。
増して、操縦者は宇宙警察一の腕利き【宇宙刑事ギャバン】。無敗を誇っていた彼らが落とされたと聞いた時は、私もホラ話ではないかと疑った。
しかしそれは紛れのない事実。
木星周辺で何者かの攻撃を受けたドルギランは、反撃の暇すら与えられず落とされたのだ。
我が弟【エース】が言うのだから間違いない。それどころか、エースも敵の奇襲で深手を負い、警備隊本部メディカルルームに運び込まれる始末である。
ドルギランとウルトラ戦士を同時に襲い、しかも両方を確実にしとめることのできる敵など、そうそういるものではない。

「ウルトラマン」

思考にふける私の名を呼ぶ者がいた。
はっと我に返り、声の方を振り返った。
ウルトラ警備隊本部の長い廊下を、【ウルトラの父】が歩いてくる。

「エースが心配か」
「ハイ。――しかし、得体の知れぬ敵の正体も気になります」
「私もだ。エースとドルギランを同時に相手にできる者など、数えるほどしかいない」

やはり。ウルトラの父も同じような推理を展開していたらしい。

「セブンとゾフィーが木星周辺のパトロールに向かった。エースたちが襲われたのは三日前だが、敵はまだ近くにいるかもしれん」
「えぇ。・・・・・・しかし、私が心配なのは――」
「地球だろう。わかっている」

これもまた予想通りだったが、ウルトラの父は私の考えを見透かしていた。
木星と地球は、火星を挟むだけで比較的近い位置にある。
侵略目的の異星人が奇襲をかけてきたならば、狙いは地球にあるとみて間違いない。
ウルトラの父が、私の肩に手をのせた。

「お前の経験値を見込んで、命令する。地球へ向かい、敵襲から地球人を防衛せよ」

大隊長直々の出撃命令。
彼でさえもある種の危機感を覚えているに違いない。
私は何も言わず頷いて、本部を飛び立った。


――― 2 ―――

「この姿も久しぶりだ」

思わず呟いた。
何せ、地球時間で言えば10年ぶりくらいに“この姿”に変身したのである。
整えられた白髪、シャープな黒縁メガネ、落ち着いた色合いのジャケット。地球で言うところの、紳士を意識したヴィジョンである。
私が地球上でこのような姿をとるのには理由があった。
勿論地球上での活動に適しているというのはあるが、それ以外にもう一つ。
この姿は、私が初めて接した地球人を模したものなのだ。
彼はとても勇敢で誠実だった。ウルトラの星の学校で習ったよりも、人間はずっと美しく、尊い生き物だった。それを学ばせてくれた彼に敬意を払い、また、ある種のポリシーとして、私は地球駐在の際はこの姿を取るようにしているのだ。

「さて」

降り立った地は、日本の長野県。
四方を緑に囲まれた自然の豊かな土地だった。
2013年現在も、まだ開発の手は及んでいないと見える。
調査を始める景気づけに、大きく深呼吸した。地球の大気が体の隅々まで染み込んでくるのが分かった。
よし、と呟いて歩き出した時――

「道を開けてください!道を開けてください!」

けたたましいサイレンと共に、地球の“パトカー”と呼ばれる車両が私の脇を走り抜けて行った。
どうやらこの田舎道の先で何かが起こったらしい。
意識を集中すると、M78星雲人である私の超視力が、900m先の野次馬たちを捉えた。

「何だろう」

一人疑問を抱え、私はその方向へ歩いて行った。
人々に逃げ惑う様子がないところを見ると、異星人が何かをしでかしているとかではないようだ。ひとまずは安心である。

「すみません」

野次馬たちをかき分け、群れの最前列に出る。
そして、そこで起こっている現象を知った。
人の頭ほどの岩石がもうもうと煙を上げていた。まるで溶岩か木炭のように赤熱している部分も見られた。
これは――。
ウルトラの星の史書資料で見たことがある。これと全く同じタイプの鉱石だ。
科学者によってつけられた名称は――【ガラタマ】。

「ガラタマが、なぜ地球に!」

はるか以前に【蝉人間】が地球へ持ち込んだという話は聞いていたが、まさか今現在ガラタマが地球にあるなんて。
半ば信じられない事実だったが、考え込んでいるうちにガラタマは人間たちの手によってトレーラーへ詰め込まれていた。

「あっ」

となった時にはもう遅い。
トレーラーは野次馬たちから遠く離れて行った。


――― 3 ―――

「まずい・・・・・・!」

私は、こともあろうか焦っていた。
生物兵器ガラモンを産むガラタマ。
それがなぜ地球上に持ち込まれているのかは謎だ。しかし、アレに人間が下手に刺激を与えれば、複数体のガラモンが日本で生まれてしまうことになる。

「君!」

私は、トレーラーを追う途中で目に入った青年に声をかけた。
何を隠そう、彼の押しているオートバイが目的だ。

「えっ」

俺?という風な表情の青年から半ば無理矢理バイクを引っぺがし、それに跨る。
軽快なエンジン音を轟かせて、バイクは好スタートを切る。
トレーラーの背中がぐっと近くなった。

「よし・・・・・・」

地球へきて早々、このような事態になるとは思っても見なかった。だが、このガラタマも侵略者の作戦の一つなのかもしれない。

「おい、止まってくれ!頼む!」

声の限りに叫んだ。
ようやくトレーラーの運転席に並走できる速度に達したため、あとは運転をやめさせるだけである。
しかし、これがなかなか止まってくれない。

乱戦ヒーローズ

乱戦ヒーローズ

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-26

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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  1. プロローグ 悪魔の運び屋
  2. 1章 光の国から僕らのために