ゼンマイGIRL

テュリー:女の子。主人公。人生修行中。
黒猫:猫。

夜から始まるストーリー

夜8時。

寝るには早いけど、
テレビがないこの部屋では、早々にすることが尽きてしまう時間。

テュリーはお気に入りの白いソファに寝そべる。
手を見つめる。
指先、腕、ひじ、ひじの内側、二の腕、肩。
足先を見る。
足首、すね、ひざ、腿。
お腹は胸に阻まれてよく見えない。
ソファの前にあるローテーブルに載っているごてごてと装飾の付いた手鏡を取って、
お腹を見る。

身体を起こして鏡に映った後姿を見て、
そしてまた寝そべる。

テュリーの体は人工皮膚で覆われているので、
怪我があっても勝手には治らない。
だから、毎日きちんと怪我の有無を確認するように、言われていた。

そこまでするとテュリーは仰向けになり、天井を見る。
今日の自分を思い返す。

今日失敗したこと。
「また太っちゃった、ダイエットしなきゃ」と言っていた女の子に、食事制限だけのダイエットでは
80%の人がリバウンドを繰り返していること、
運動でのダイエットでは部分やせには向かないことを伝えたら、
「私がそんなにデブって言うわけ!?」と怒られてしまった。
後で他の子に聞いたら、「あの子のまた太っちゃった、は、本気ではない」とのことが分かった。
「全然太ってなんかないじゃない」が、正解らしい。

今日成功したこと。
お弁当のたこさんウインナー。はじめてまな板を切り落とさず足を八本作ることに成功した。
快挙だと思う。


そこまで思い出して、テュリーはぐるりと首を回す。
もうすぐ9時。
床に置いた壁掛け時計が傾きながらも健気に時間を刻んでいる。
足元でじっとしていた黒猫がにゃぁと鳴いた。
テュリーは寝返りを打つ。背中を上にしてあごをソファの肘掛に乗せて、
ふぅっと一息つき、

その姿勢のまま動かなくなった。
手も足も動かない。
呼吸をしている様子すらない。



黒猫がテュリーの背中に乗る。
テュリーは反応を見せなかった。
黒猫は尻尾でテュリーの背筋をなでる。
ちきちきちきちき・・・・小さな音が部屋に響く。

ちきちきちきちき・・・・


朝が来る。

朝日が昇る頃、
黒猫はテュリーの背中を尻尾でなでることをやめ、
ソファの下に飛び降りた。

テュリーの寝息が聞こえる。
朝6時になった瞬間
テュリーは目を覚ます。

ゼンマイGIRL

6畳ほどの部屋。
コンクリうちっぱなしの床、壁、天井。
毛足の長い2畳のじゅうたんの上に、白いソファ。
ソファの向かいにガラスのローテーブル。
床に置かれた壁掛け時計。

水色の丸い猫ベッド。

ゼンマイGIRL

満月の夜に、人生修行中の女の子はどんなことをしているのかな、と思って 書いてみました。 女の子と黒猫のある夜のお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-26

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