詩篇 6 支配の中で息吹く
○言葉は駄目だ
結局、言葉はそれぞれの箱から出ることができない
形を手に入れたものは、その形に閉じ込められるだけである○
少女はチェロを弾く。
弓を、弦を、心臓を、震わせる。
音はすべりながら、流れ落ちる。
それらは、僕の呼吸に染み込み、
僕の体の芯の方から一本の細い糸になる。
きゅっと絞られた糸をどこまでも引き伸ばして、そして手放す。
濡れたような、音。
意識はなくとも、降りかかる声で、背中から湿っていく。
声よりも、声。
言葉よりも、言葉。
と言ってしまったら、それは声でも言葉でもないのかな。
○音○
だけどそれは、声よりも声で、言葉よりも言葉な、音。
それは壁にも椅子にも床にも、いたるところに沈み、脈打っている。
果たして消えていくのか、沈殿していくのか。
薄く色付いた酸素のようなそれは、
はたはたはた、と消えてくのかもしれないが、
それこそ、延々と、永遠と、
僕達の声よりも、言葉よりも、不確かで、しかし絶対的に確かであるのかもしれない。
詩篇 6 支配の中で息吹く