空へ続く階段を…
彼女の見る階段とは。
彼女が見ていたのは、一つの階段。だがそれは彼女にだけ見える階段―
彼女の名前は枝原あゆみ。今年で二十歳になるそうだ。世間一般で二十歳といえば、社会人として仕事に慣れ、自信を
つけてくる頃であり、もしくは大学生活を謳歌している頃であり、酒など、今まで制限が付いてきた部分が自由に
なり、成人を楽しむべく動き出す頃だろう。
だがそんな時期のはずの彼女がいるのは、病室。
俺が彼女と出会ったのは、今から1週間ほど前だ。
仕事中、倒れてきた棚に押しつぶされ、救急車で運ばれ、そのまま入院へ。棚はネジが緩んでしまっていたらしい、
後から見舞いに来た上司から聞いた。
働き盛りの頃の事故、ショックは大きい。そして不安も。今の時代で他の社員に遅れを取る事の重大さ。
そういったことを考え始めてしまい、どんどんと悪い方向へと思考は進む。
入院から1週間。思考は悪循環するばかりだ。
「そんな考えばかりしてしまうのは病室で寝てばかりいるせいか…」
そう呟き、リフレッシュしようと考え、病院の屋上へと赴く。
屋上に着き、「どっこい正一…。」と呟きながらベンチに腰を下ろす。何親父ギャグとか言ってんだよ、と心の中で
自身に突っ込みを入れながら。
それと同時にもうひとつ突っ込みの声があった。
「おやおや~?うら若きお兄さんが親父ギャグとは・・相当疲れてるんですねえ。」
口調とは裏腹に、透き通るような声をしていた。…というかまさか聞かれているなんて…恥ずかしい…。
「うら若き乙女みたいな言い方をするな。あとギャグについては突っ込まんでいい。」
そう返しながら突っ込みを入れられた少女・・を見る
見た感じは15、6歳あたりだろうか。幼顔をしているため、もう少し下のようにも思える。
「こんなかわいい女の子が突っ込みを入れてあげたんですから、ありがとうございます!って高らかに叫ぶ
くらいはしないと、罰が当たりますよ~?」
「それじゃただの変態だろう・・・」
「ま、それもそうですね。実際そんなこと言われたらナースコールするレベルですね!」笑顔で言う。いい笑顔だなおい。
「…で、お前はそんな俺に何か用でもあるのか?」
「お前とは失礼な!私には枝原あゆみというりっぱ~な名前があるんですよ?」
なぜだろう、彼女の言い方、発音で聞いたことでジャック・ザ・リッパーが浮かんできた…。まあどうでもいいことは
さておき。
「ワカリマシタ、シハラサン」
「何でカタコトー!」
「悪い悪い、ついからかいたくなってな。で、そんなしはらさんは何用だったのかな?」
「ぐ・・色々と腑に落ちないですが…まあいいでしょう。それと、私のことはあゆみ、と呼んでください。
苗字で呼ばれるのはあまり好きではないんです。」
先ほどまでとは違う落ち着いてはっきりとした言い方。
空へ続く階段を…