星屑ぽろりん

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室町時代、太田道灌が築いた城下町、人形の町、岩槻。
ここが私が生まれ育ったふる里。そして私の大好きな、お兄ちゃんの住む町。
駅の改札口を出るとメインストリートを中心に一気に日本人形の店が視界いっぱいに押し寄せてくる。このメインストリートを真っ直ぐ行って、ちょっと入ったところにTRFのパフォーマンスダンサーSAMの実家、丸山記念総合病院がある。私はそこで生まれた。SAMのお父さんは私が生まれてから、ずっと私の成長を見守ってくれていた中の一人である。
七福神のように福福しい面持ちのハゲたおじいちゃんだ。よく注射という言葉を出しては私をからかっていた。
そこから更に10分ほど歩いたところに、私のお兄ちゃんが一人で住んでいるマンションがある。
今日行くことは言ってある。でも、お金を借りに行くという事は言っていない。私も出来るかぎりバイトには出るようにはしているが、起業の為、予想を超える出費があり、あれだけあった資金が瞬く間に底をついた。正直、恥ずかしい話だが生活費すら無い状態なのだ。なんのコネもない資金も無い20歳そこそこの小娘が会社を立ち上げるなんて、やはり土台無理な話なのかもしれない。
私が家を飛びだしてから、兄とは何度も電話で話しはしているが、気が重くて中々お金の事だけは言い出せなかった。なんて切り出そう。私は前髪を垂れる思いで、今日やっとここまでたどり着いた。午後9時を回らないと兄には会うことは出来ない。その時間を見計らって私は行った。兄は毎日、朝4時半頃家を出て行き、家に帰るのはこの時間になる。それがほぼ毎日だ。それを知っているからこそ、お金の事が切り出せない。私が玄関の前で待っていると1時間程で兄は帰って来た。
さっそく私を見つけると、妹の私にしか見せない、なんともあどけなく甘い笑顔がはじけた。兄が「おぅ」と軽く手をあげたから私も「よぅ」とそれに答えた。

 2

兄は私が何も言わなくても電話での様子から、すべてを察していた。
カギを開け部屋に入ると、早速奥から銀行の封筒を持ってきて、それで私のオデコをごついた。
「ポンポン出てくると思うなよ」と一言。さっさとシャワーを浴びに行ってしまった。50万円が入っていた。
私は大人になって初めてワンワン泣いた。10分ほどして兄が頭をゴシゴシふきながらシャワーから出てきた。
素っ裸である。兄は私が女だなんて思っていない。子供の頃、散々一緒にお風呂に入った仲なのだ。今更隠したって仕方ないといったところだろう。兄が冷蔵庫から缶ビールを1本取り出すと一気にそれを飲み干した。で、一言「お前、それ倍にして返せよ。バイク買うんだからよ」兄のジョークだ。ホントはそんなもの受け取りはしないくせに・・・。でも、必ず返しに来るからと心に誓った。つい甘えたくなって兄の分厚い胸にオデコをコツンとぶつけたら「暑苦しい」と軽くあしらわれた。兄が言った。「ま、失敗するのは分かっているけどな」私が会社を立ち上げようとしている事を言っているのだ。私は悔しくて「そんなはずないじゃん!!」と兄を睨んだ。「失敗するよ」「しない」「する亅「シ・ナ・イ」「失敗スルヨ」兄が確信に満ちた表情で鋭く私の視線を捕らえた。「でもな、失敗するなら失敗するで自分が納得できるところまでやって失敗しろよ。スッキリしないだろ? でな、どうしょうもなくなったら正直に話せ。お兄ちゃんが尻拭いしてやる。だから、思いっきりやれ!!」また、私の涙腺が緩み始めた。もう一本ビールを飲み干してから、やっと兄は、私のすぐ目の前でパンツを穿きはじめた。

星屑ぽろりん

星屑ぽろりん

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-07-07

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