時と共に変わるもの、変わらないもの
人は時と共に変わるものだけど、その二人の関係はなかなか変わる事はない
夜のターミナル駅のコンコース、
彼氏が彼女を突き飛ばしながら
怒鳴り散らして、足早に駅の階段を降りて行くのが見えた。
彼女は、それでも彼の後を追っていた。
階段を降りると人混みで彼女は、彼氏を見失っていた。
涙を浮かべ、周りを見回して彼氏を探す彼女の顔が見えた。
それは昔、私の彼女だった弓子だった。
弓子も私と目が合った瞬間、私に気がついたみたいだ。
そして次の瞬間、やっとの思いで我慢していた涙が頬を伝った。
一度流れ出した涙は、もう止めることが出来ない。
まるで土砂降りの雨が屋根を伝い、雨どいに集まり流れていくように。
さっきの光景を目にした私はそんな彼女に、なんて声をかければいいのか、わからなかった。
ましてや、人前で大粒の涙を流している彼女に声を掛けるべきじゃないとさえ思っていた。
なぜなら、昔の弓子ならば、私の前では、こんな姿を見せたことがなかったから。
逆に最後まで私を弄んでさえいたくらいの彼女が今、男に怒鳴られ、突き飛ばされても、追いかけていく姿は、信じられない事だった。
昔の彼女ならプライドがこの場面を許す事が出来ずに、知らん顔して立ち去りたいはずだった。
でも、今の彼女は違った。逆に私に近づき、胸に顔を埋めて、泣きじゃくった。
そんな彼女に私は、どうしていいかわからなかった。
ただ、そのまま受け止めるだけしかなかった。
本当にここで今、泣いている人は、私の知っている弓子なのか不安になった。
この姿勢のまま、電車を2本見送った。もう、さっきの彼はどこに行ったのか、わからない。
そして、さっきの光景を知らない人達は、私を女を泣かせるひどい男として見ているだろう。
やがて、三本目の電車が駅に着いた時、彼女は私の胸から顔をあげて、言った。
「一緒にいて欲しい」と。
「話を聞いて欲しい」と。
私と彼女の関係は、三年前のままで私に彼女のこのワガママを断る事などできなかった。
私は彼女の後をついて行き、改札を出て、バーに入り、席に着いた。
彼女にはもう、涙は無かった。
そして目の前には、私の知っている弓子がいた。
私は、少しだけホッとして、これから始まる弓子のワガママに大きなため息を彼女にわからないようにした。
時と共に変わるもの、変わらないもの