深く瞑って待つカケラ
昼。俺様は歩いている。
十字に差し掛かり、グリーンを確かめ踏み出すと、耳障りなヒビ割れが突如辺りを占拠して、その発生地点に向かって斜めに目を遣る。
「オラ、そこ」と拡声器を通して渋谷のガキのような声。「横断中に立ち止まんな!」
車道を徐行する白と黒のツートンカラー。運転席に国家公務員。その向こうの横断歩道を、照れたように笑いながら、足早に渡りきろうとする学生服の一団。
運転する制服と目が合う。一秒、そして二秒。拡声器を再び口元に、制服は何かを語ろうとするが、結局は何も語らず、オルカな装甲に守られ加速してゆく。ある種の目つきをあとに残して。
俺様は視線を落とす。昨夜の雨が残した水溜まりに、鱗雲のコピーが漂っている。足下の空を踏みつけないよう、半歩脇に体をずらせて顎を上げ、再び街を歩き出す。
夜。僕は歩いている。
本降りとなった雨に傘を開く。上下に揺れる歩道の影。街灯が人影を照らす。その女は上着を被っている。一歩踏み出すごとに二歩距離が縮まる。
擦れ違うその瞬間、僕の口から声が零れる。「これ、どうぞ」
女は無言で僕を見る。大きく開いた瞳が「?」と問う。「僕の家、近いから」と言葉が言い訳をする。「プールの横幅みたいな距離だから、ここから。これ拾った傘だから、だから」とぎこちなく固い台詞を読み、戸惑う手に傘を押し付け、闇に駆け出す。
朝。私は目を覚ます。
パンをトースターに、ミルクをミルクパンに。
カーテンも開けずに目を閉じる。闇の中見上げると、小さな羽根が、遠く、白く、舞っているのが見える。青い、といえなくもない都会の空を背景に、白い羽根は、二つ、いや三つか、高層ビルの渓谷の、淀みに浮かび、揺ら揺らと、漂いながら、でも確実に、降下している。鮮やかな白。ここからでもわかる、あれはホンモノだ。
翼のカケラを、この偽りの世界の重力が、確実に手繰りよせている。無垢なカケラ。ほんとうのホンモノ。彼や彼女を宿して舞うカケラ。
少しでも、一日でも長く、そこにとどまっていておくれ。ゆっくりと、たっぷりと時間をかけて届けばいい。
この手の中で、白いカケラは、白くなくなる!
だから、と私は目を開ける。頼むよ、俺様。しっかりね、この僕。
世界は万華鏡。全てが互いを演じてる。
だからしっかりと見つめよう、鏡に映らないものを、私はきつく目を閉じて。
了
深く瞑って待つカケラ