~非力~
~非力~
魔法なんて信じてもいなかった。そんなファンタジーみたいな事、俺は全く信じていない。
しかし、オカルトは好きだ。最近の趣味もオカルト話を聞く事だしな。
魔法なんて信じてもいなかったが……こう……目の前で小さな女の子が魔法を使ってるとなると信じるしかないよな、うん。
あんな奇妙な化け物を出したのもこの子なのだろうか?まぁいい。あの幼女と言う通り、あの子から本を引き剥がせばいいか。
俺は化け物の尻尾らしきものを飛び越え、その子のそばにいく。
どうやらこちらには気づいていないらしい。
本を引き剥がそうと手を伸ばした瞬間、遠くから何かが切れる音がした。
それと同時に、ビチャッという音も聞こえる。
何が起きたのか分からず、幼女のほうを見つめた。唖然としていて、信じられないモノを見たような表情をしている。
俺は試しに何があったか聞こうとしたが、それは叶わなかった。
声に出す寸前の所で、女の子が俺に気付き叫び声をあげる。
その声を聞いた化け物は、尻尾で俺をなぐりとばした。
モロに食らった俺はそのまま壁に背中を打ち付ける。何かが込み上げてくる感覚に陥ったが、何とか抑えすぐさま立ち上がった。
そして、一度撤収するぞという幼女の声に従い部屋の外に飛び出す。
しかしそこには、原型をとどめていない何かが転がっていた。
辺りに生臭い臭いが充満し、俺は鼻を抑える。
走りながらちゃんと見てみると、それのそばに血まみれのカメラが落ちていた。
それを見て俺は一瞬でそれが何かを理解した。
ーーアマゾネスのカメラ。
後ろから幼女が走ってついてくる、きっとあいつが死ぬ場面を見たからあんな表情をしたんだろう。
走り続けると、たどり着いた先には神咲ともう一匹の化け物がいた。
神咲はあの化け物にやられたのか傷だらけで致命傷を負っていた。
それでも立ち続けて片手に本を開いて何かを呟いている。
俺にはそれはあの女の子と同じような行動をしているように見えた。
俺はとりあえず二階へ続く階段のそばまで走るが、ここで幼女がついてきていない事に気づいた。
すぐさま後ろを振りかえるとそこは……地獄のような絵だった。
幼女は二匹の内、一匹の化け物に爪で胸を貫かれていた。
口をパクパクさせながら酸素を求めているが、だんだんと口が動かなくなっていく。
すると、もう一匹の化け物が最後のとどめを刺すかのように爪を振りかざした。
幼女の背中に切り傷がついたかと思えば、全身から赤い鮮血が飛び散った。
もはや血まみれの肉の塊にしか見えず、それが幼女なのかはもう分からないほどだった。
化け物はその塊を捨てると、次は神咲に襲いかかった。
神咲は幼女が殺された事により、一瞬唖然としていたが、すぐさま切り替えて何かを呟く。
それと同時に化け物一匹が止まった。しかしもう一匹はそのまま神咲に襲いかかる。
体当たりを受け、壁に背中を打ち付けるとその衝撃で本を手放してしまった。
すると、もう一匹のほうは動きだし、神咲を囲った。
俺は銃を構えるが、とても撃てる状況ではなかった。
様子見していると、神咲がいきなり宙に浮かび上がった。本人も何が起きているのか分かっていない様子。
宙に浮かんだかと思えば、首もとから赤い何かが飛び出す。
その赤い何かを飲んでいるのか、赤い何かがだんだんと宙に線を描いていき変な形にへとなっていく。
神咲は最初はもがき苦しんでいたが、最後はダランとしたまま動かなかった。
飲み終わったのか、赤い何かは神咲から離れるとどこかに消え去ってしまった。
化け物二匹はすぐさま神咲に近づいてグチャグチャと音を鳴らす。
俺はそのまま二階へ走り、執事とメイドがいる部屋に向かった。
途中、扉の鍵が壊れていて開かなかったが、俺は蹴り飛ばして乱暴に開ける。
そこですぐに逃げろと言おうとしたが……必要はなかった。
部屋には、執事とメイドの頭を持った男が立っていた。周りには身体が転がっている。
その男は俺を見るとにっこりとした顔で言った。
「遅かったじゃないですかぁー。僕もう飽きちゃいましたよー」
俺は男にすぐさま銃を構える。しかし、男はクスッと笑うと二人の顔を投げ捨ててゆっくりとこちらに歩いてきた。
二発程撃つが、それは簡単にキャッチされてしまう。
「役所さん、僕の本当の名前って知ってますかぁー?」
そう言いながら瞬時に目の前に来て、俺の右腕を勢いよくちぎった。
最初は何が起こったのかわからなかったが、気づいた瞬間鋭い痛みが俺を襲う。
男は、右腕を捨てると次は勢いよく胸を貫いてきた。
さらに俺の両足を思いっきり蹴り飛ばして折ってしまう。
その場で倒れ、左手だけで何とか逃げようとする。息が出来なかったがそんな事は関係なかった。
痛みなど、とうに感じてはいなかった。
ただ恐怖だけが俺を支配していた。
必死に逃げようとするが、俺を首を捕まれそのまま持ち上げられてしまった。
男は俺を見てにっこり笑うとこう言った。
「俺、この一家に崇められていたんですよねー。笑っちゃいますよー」
最初聞いた時は意味は分からなかったが、幼女の言葉を思い出すと俺は顔を青ざめた。
そして小さく……かすかな声で名前を呟くと同時にーー
「流石ですねー。そうですよ、俺はーー」
ゴキッという音が聞こえたかと思えば、視界は真っ暗になった。
「いやぁー楽しかったですよー。ただ、もう少し楽しませてくれたらよかったのになぁ……」
~非力~