~一瞬~
暇だったので短編でも。グロいかもしれないですが;
ーーそれは一瞬だった。
憧れでもあり、大好きだった私の先輩ーー幼女祐一(オサナメユウイチ)先輩。
先輩は私立探偵を経営していて、いつも煙草を吸っていた。
私はまだ見習い医師で色々と困っていてもそばで支えてくれた、優しい人。
幼女先輩は、私に突然話をしてきた。
「神咲君、俺と一緒に鈴木君を探してくれないか」
ーー鈴木一郎、先輩の後輩でもあり私の友人でもある人。
鈴木君は昔から頭が良く、運動神経も抜群だった。
先輩よりも先に私立探偵をしていたため、先輩も鈴木君もお互いライバル視をしていた。
私から見ても、あの二人はとてもいいコンビだったと思う。
しかし、ある日突然鈴木君が姿を消した。とある洞窟に行ったきり帰ってこないらしい。
その日から先輩はあまり笑わなくなった。
仕事にも手がつかず、いつも上の空。私の前では笑っていても、やっぱりどこか無理をしているようだった。
しかし、ある日の夕方。先輩から電話がきた。その電話の内容は、鈴木君を一緒に探してくれという頼みのお話だった。
私は一瞬、悩んだ。本当に鈴木君は生きているのだろうか。あれから一週間くらいもたっている。
ーーもしかしたら……もう。
しかし、私は行く事に決めた。先輩に元気になってほしかったから。
そしてその翌日、私達は洞窟へ向かった。
そこで洞窟を調べに来たジャーナリスト、名無紙野花子(ナナシノハナコ)さん。またの名をアマゾネスというらしい。
とても不思議な人だけど強い女性。道場を守るためにジャーナリストをしているんだとか。やっぱり不思議。
そしてもう一人、調査に来た警察官。役所紋次郎さん。
この人も不思議な人。携帯を忘れてきちゃったり洞窟なのに懐中電灯を忘れてしまったりするうっかり屋さん。
その人達と一緒に私達は洞窟を探索した。最初はぎこちなかったが、徐々に皆慣れてきて会話を交わすようになった。
そして……探索途中、洞窟内のとある所である物を見つけた。
ーー鈴木君がつけていた赤と青のリストバンド。
先輩と私はすぐに辺りを見回した。しかし、鈴木君は見つからなかった。
夜も近づいてきたし、私達は一度話し合って洞窟の外に出ようと決めた。そして、歩き出そうとしたその時ーー
何か黒い物体が奥から飛び出してきて私の目の前に現れた。
あまりにも突然だったため、私は身動きがとれなかった。その黒い物体は私を見ると、大きな爪を振りかざそうとしてきた。
私は咄嗟に目をつむった。しかし……痛みは来なかった。
恐る恐る目を開けてみるとそこにはーー
「神咲君から離れろ! 化け物め!」
目の前に私を守るかのように幼女先輩が立っていた。
どうやら蹴りを放ったらしく、化け物は軽く怯んでいる。
私が唖然としていると、先輩は私に逃げろと言った。
その言葉を言い残して先輩は鈴木君のリストバンドを片手に、殴りかかりにいく。
私はすぐ引き止めようと走った。人間がかなうはずがないと感じたから。
だけど、届かなかった。
先輩は化け物に向かって殴ろうとするが、それは綺麗にかわされてしまった。
全力の拳が空振り、その勢いでバランスを崩してしまった。それと同時に、肩から何か赤いものが飛び散った。
しかしそれを確認する暇もなく、先輩は化け物に蹴り飛ばされて背中を強く壁にぶつけてしまう。
私は恐怖に震える足を無理にでも動かして、走る。
助けたい、その一心でがむしゃらに走った。
向かう先には吐血をしながらも、必死に意識を保とうとする先輩。まだ助けられる。
あと少し、私は手を強く伸ばす。腕がちぎれるんじゃないかと思うくらい必死に手を伸ばした。
しかし、手を伸ばす先にはいつの間にか黒い化け物が先輩の前に立っていた。
化け物のせいで先輩の姿が隠れてしまい、どうなっているのか分からなかったがとにかく走った。
そして、手を伸ばせば届くくらいの距離まで近づいたその時ーー
ぶちっ
何かが切れる、いや何かを噛みちぎる音がした。その後に続いてクチャクチャやゴリゴリと何かを噛む音が聞こえてくる。
そして私の視界にはーー首から上がない先輩の身体だけが映っていた。
その身体はゆっくりと壁に寄りかかり、赤い絵の具の跡を描きながら落ちていく。
化け物は満足したのか、ゴクリという音が聞こえるとゆっくりと歩きながら洞窟の奥に姿を消した。
化け物が消えた後、私はずっとただ一つの死体を見つめていた。
~一瞬~
クトゥルフ神話TRPGの時にふとifのお話で作りたくなったので、書きました。