花冷えの季節

銀魂二次創作。銀サンとお登勢とじょういの3人のお話。

ババア、いるか〜」
スナックお登勢の暖簾はおちていたが店は明るいと思い、引き戸を乱暴に叩いた。
そうすると鍵をあける音とともに入り口が開いた。
「こんな時間になんだい、今日は客がすくないから早めに店じまいしたのに、銀時」
「金が入ったから、たまった家賃払いに来てやったによ。うわっと寒いから早く入らせろ」
そういってづかづか入り込んだ。
お登勢はやれやれとつぶやきながらため息をついた。こんな悪態は出会った頃から変わらない。
「腹減ったからなんかねぇか、朝からなんもくってねぇだ」
「今日の残り物でいいんならあるよ。まぁちょいと待ちな」
そういって一度片づけようとてにつけたものをもとの位置に戻し、再び料理を作り始めた。
その姿をぼんやりと銀時はみていた。
そうこうしているうちに
「これはサービスだよ」
といってお通しとおちょこを出した。
「たく、春だってのに今日は冷えるからね」
「ばばあ気が利くじゃねぇか」
そういってにこにこと箸をとり、一口つまむ。
おちょこに入った酒の水面に自分の姿がゆらゆらと映っている。

ー今日は冷えるなぁ、銀時・・・ー

あの日も寒い日だった。
昼は春のように暑いのに、底冷え寒さだった。時は丑三つ時。月明かりが古びた古い家屋にも入ってくる。どうやら今日は下弦の月らしい。
「まぁこうして屋根のあるところに居られるのだからましだろう」
そういうのは高杉だった。まだあの頃は左目に包帯をまいていなかったし、キセルをふかす人間でもなかった。
「息が白い、やはり今日は冷えるな。とはいえ火を焚けば天人にみつかってしまうだろう。ここは堪え忍ぶしかあるまい。」
そういうのは高杉と同じように自分と同じ寺子屋に通った幼なじみの桂、といっても彼をそう呼んだことはない。いうないうなといわれても、ヅラとしかよばない。
「もう、寒いだのいってねぇで見張り役のやつに任せてさっさと寝よ寝よ」
そういっても結局自分も寒くて寝付けない。銀時は意地でも寝てやるといわんばかりの勢いである。
そのときであった。
「おお〜おぬしらここにいたか」
「その声は坂本か」
この攘夷戦争で出会い、ともに戦って仲良くなった戦友であった。
「ヅラに、高杉、金時君もおるか。ほれ、こういう寒か夜はこれに限るぜよ」
遠くでヅラじゃない、桂だという声と銀時だコノヤローという声をはねのけて高杉が
「どうしたんだ、これ」と聞いた。
彼が持っていたのは明らかに酒瓶である。
「まぁなんであるちゅーことより大事なことばぜよ、まさかおぬしら、いらんとかいうのはな」
「いえいえいただきます」
真っ先に手を出す声と
「まて、坂本」
とその声を制する手があった。
桂である。
「俺たちはいいから先に皆から」
「たちってなんだよ、ヅラ。いつのまに一緒になったんだよ」
「ヅラじゃない、桂だ。銀時、おまえはリーダーの品格はないのか。それだからおまえの頭は根性が曲がっているんだ」
「サラサラストレートのおまえにテンパのなにがわかるんだ、あぁ。こら」
そんな二人をよそに高杉は坂本に
「まぁ・・・あいつらはいいとして俺もいいから」
「まぁおぬしらが最後じゃき、気にするなぁ、あはははは。三人でこれを空にせぇ」
そういって、いつもの笑い声を発しながら闇に消えていった。
「坂本も、人が悪い」
そういって高杉は含み笑いをした。
一連の会話をまったく聞いていない二人はまだ喧嘩をしていた。
「おい、おまえらいいかげんやめろ、ガキかおめぇらは」
「なんだと、高杉。俺たちより低い敗残兵が」
「あ、んだと・・・。人が気にしてることを」
「そういうことをいうな銀時、こいつは昔から七夕には必ず背が高くなりますようにと短冊に書いていたんだからな。人のコンプレックスをおいそれというもんじゃない」
「今さらっと、人のコンプレックス、おいそれと簡単にいいやがったな・・・。そのカツラみてぇな髪の毛ひんむいてやろうか!」
「髪はカツラじゃない、・・・が俺は桂か・・・。俺はおまえのそういうところが昔から嫌いなんだ、だいたいおまえはなぁ」

半刻後。
「で俺たちなにしてたんだっけ?」
息切れをおこしながら高杉がぼそっといった。
「ま、まぁよくわからんが寒さがやらわいだ気がするな」
ぜいぜいと白い息を吐きながら桂がいった。
あきらめて銀時が
「もう、つかれたし寝よう」
といった。
「よう、おまえら。どうりで寒いわけだ」
そういって、高杉が月明かりが差す場所に手をかざした。
しばらくすると彼の手に雪が落ちた。空は晴れてはいたがどこからか雪が流されてきたらしい。
手に落ちた雪は彼の手の中でゆっくりと溶けて消えた。

そんな雪を三人でみながら、
「バカなことやってないで酒飲んで寝ようぜ。」
そういって銀時が酒びんに手を出したとき、またもう1R始まったのはいうまでもなかった。

それは今となってはもう遠い昔の話になった。

「銀時、ちゃんと神楽にたべさせてるんだろうねぇ。新八だってまだ育ち盛りだし」
「まぁ心配いらねぇよ、でなかったら最初から背おわねぇよ。じゃ、ばばあもう帰るわ」
そういって席を立った。
「ちなみに次の家賃は三日後だからね、たまったもの返しても次がすぐ・・・」
そういい終わる前に風のようにいなくなっていった。
「たく、逃げ足だけは早いんだからね・・・」
片づけをゆっくりとしはじめるお登勢であった。

「ぜぇぜぇ」
階段を駆け足であがるって息が切れた。金欠なのはいつもどおり。今更焦ったところで気長につきあうしかない。
「あぁあ、布団敷くのめんどうだし飲みなおしてソファーで寝るかな〜・・・」
頭をかきながら二階の外廊下を歩く。足取りは重たい。
ふっと目に付いたはどこからか降ってきた桜の花びらだった。
その一枚を手すりから拾った。
「もう、散ってきたのかよ」
桜は咲いたとおもえばあっというまに散る花であった。
「明日どうせ仕事ねぇし、神楽と新八つれて花見でもいこうかね」
新八をつれていけばお妙もくる。ついでにもれなくストーカーゴリラも来るし、それからあいつらがきて、そもそも自分のストーカーもきて・・・それから、それから・・・。
過去には戻れない。
でも過去にはないものがある。
もうこんなのもたないと思っていたはず。
「あぁ、寒いし面倒だけど熱燗つくろうかな」
ひろった花びらを二階からとばして玄関の引き戸をあけた。
花びらはゆっくり舞い、地面に落ちた。
それは溶けることがない雪ようであった。

花冷えの季節

花冷えの季節

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-21

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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