朝ごはん

頭が、取り外せることに気がついた。
両手で挟んで、軽く捻って持ち上げる。するとカチリと音がして、頭は簡単に外れた。首からちょっとだけ浮かしてみて、でも怖いので、一、ニ、三とすばやく数えて、それから元に戻した。パチン。ちゃんとはまった。大丈夫だ、ちゃんとくっつく。コツさえ把めばなんてことなさそうだ。今までどうして気がつかなかったのだろう。
慣れてきたので、両手で掴んで、ヘルメットを脱ぐようにスポッと外した。
コーヒーテーブルの上にゴロンと転がっている。
確かに俺の頭だ。
それを見ながら思う。待てよ、なぜ見えるのだろう?

(俺の頭を見ている、この俺は誰だ?)

と、思ったところで目が覚めた。
おかしな夢を見ていたな。ま、いいか。
首の後ろをトントンと叩きながら起き上がり、伸びをする。
寝室を出たところで、チャイムが鳴る。誰だよ、朝っぱらから。
パジャマのまま玄関に行き、ドアを開ける。
と、そこには若い男が立っていて、何も言わずに靴を脱ぐ。
なんだなんだ? と慌てる暇もない。平然と上がり込んだ男は、そのまま居間に向かう。俺は慌てて追いかける。
冷蔵庫を開け、牛乳を出し、コーヒーテーブルの前に座ると男は、パックのままグビグビと飲んだ。
男には見覚えがあった。
それもそのはず、しばらく見ていて気がついた。
これは俺だ。俺じゃないか。
どうりで見覚えがあるはずだ。
待てよ、とまた思う。だったら誰だ? 

(俺を見ている、この俺は誰なんだ?)

と、思ったところで目が覚めた。
おかしな夢の二本立て。パジャマのケツを掻きながら、今度こそ俺は起き上がる。
こんな時間か、急がないと遅刻だぞ。
スタンドミラーを覗き込み、アゴをこすってヒゲを確認。よし、今朝は剃らないでいいだろう。と、鏡に向かって笑いかけ、思う。待てよ。
二度あることは三度ある。これもまた夢、かもしれない。
そう思って眺めると、確かに何かが、どこかが、おかしい。試しにもう一度笑ってみる。やっぱりだ。鏡の中の俺は、微妙によそよそしい。
掌を眺める。握ってみる。なんだかしっくりこない。
他人の足のような足を、交互に動かして窓辺に歩む。
窓から見上げる空の色も、窓から見下ろす街の姿も、なんだか知ってる空じゃなく、なんだか知ってる街じゃない。夢?
頬をツネってみる。と、痛い。痛い、といえば痛い。でもその痛さもまたリアルじゃない。
テレビモニタの、向こう側にいるような、俺。
サッシを引く。バルコニーに出る。空気を吸う。あまりにも薄い。ウソっぽい。この空気は、俺の知ってる空気じゃない、かもしれない。
積木のような街を見下ろし、思う。試してみようじゃないか。
と俺は、バルコニーの手摺を越える。

(偽物の空が見えた)





ファンタグレープのような染みが広がってゆく。
目覚めることなく、永遠の眠りについた。
待てよ、とまた思う。

(俺の死体を見ているこの俺は、いったい誰なんだ?)

と、目が覚め、、、るはずだ、、、
俺は待った。目覚めの瞬間を。







が、目は覚めない、、、







……れたかい?







「いい夢、見れたかい?」

背後から声が掛かり、振り向くと、懐かしい姿があった。

「いや、あんまりいい夢でも」と死体を見下ろしながら、僕は応える。「なかった、かな。てゆーかもう、あんまりよく覚えてないや」
俺を置き去りに、僕らはそこを後にする。

さてと。
ではまず、朝ごはん、
かな。













朝ごはん

朝ごはん

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-07-05

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