卒業
過去を懐かしむ、彼女たちの話。
3年間なんてあっという間だと、誰かが言っていたのを思い出す。まだ寒い風が吹く中で、私は3年間お世話になった校舎を見上げていた。
真新しい制服に身を包み、緊張した面持ちで迎えた入学式。意外にも校長先生の話が短くて、あっけなく終わりを告げたのを覚えている。それから、オリエンテーリングに定期考査。夏休みをはさんだ後の体育祭に文化祭。息をする暇もなく迎えた様々な行事に、私の一年間はあっという間い過ぎて行った。
校内の地理にも慣れ、広大な敷地で迷子になることもなくなった2年目。3年間クラス替えが無いということで、一年間を共に過ごした友人と、慣れた学生生活をのんびり気ままに過ごした。先輩と後輩に挟まれて、思えば一番楽しかった気がする。
そして、最終学年。何をするにも先頭に立たされ、後輩に自分たちの背中を見せなければならない。一年間を通しての課題研究という面倒なものも加わり、プレッシャーに押しつぶされてしまいそうな最後だった。
少しの寂しさは残るけれど、それでも思うことはたった一つ。
「……楽しかったな。」
「当たり前でしょ?」
一人で居たはずなのに、呟いた言葉に返事が来る。驚いて後ろを振り向くと、3年間を通してのクラスメイトであった友人がそこに立っていた。
「当たり前なんだ。」
「そう、当たり前。あのクラスでバカ騒ぎやったことも、夏休みの課題で苦しい思いしたのも、テストが憂鬱だったのも。全部ひっくるめて”楽しかった“のよ。」
「……そう言われれば、そうだね。」
苦しいことも楽しいことも、泣きたかったことも嬉しかったことも。全部ひっくるめて“楽しかった”。きっと、親や私たちよりもずっと大人の人たちに言わせれば、これが青春ってやつなのだろう。
「ほら、いつまでも感傷に浸ってないで、とっとと帰るよ!」
「別に今日くらいいいでしょ。」
「あんまり女々しいことしないでよ。鬱陶しい。」
「女々しいって、私女の子だよ。」
寂しいの「さ」の字も見えない、サッパリとした様子の友人を見る。その顔には、本当に心の底から早く帰りたいという色が滲み出ていた。それでも、常に前を向いて突き進んでいくのが、頼もしい私の友人なのだ。思えば、いつもウジウジしていた私の背中を、思いっきり押してくれた。……物理的にも。
「どうせ、専門学校から貰ってる課題とかあるんでしょ?」
「当たり前。」
「なら、さっさと終わらせて遊びまくるよ。せっかく暇になるんだから。」
「…その言い方もどうかと思うけど。」
二人で帰り道を歩きながら、束の間の休息をどう過ごすかで盛り上がる。正門をくぐり抜ける前に、最後にもう一度だけ校舎を見ようとして、止めた。在校生ではないけれど、今生の別れではないのだ。だって、寂しくなればいつでも遊びに来ればいいのだから。
(3年間、ありがとうございました。)
誰に言うわけでもなく、そっと心の中で呟いた。
卒業
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