三番目の選択肢
笑顔を作る、少女の話。
たとえば、進路みたいに人生の分岐点になるような選択肢。
唐突にやってきたそれに、正直私は混乱した。目を逸らしたくなるような衝動にかられながらも、その現実を受け止めた。いや、受け止めなければいけなかった。
「ねぇ、お母さんとお父さんと。どっちと一緒に暮らしたい?」
それは、夕食も終わり、リビングにあるテレビを見ていた時だった。何の脈絡もなく唐突に質問されたのは。いきなりの質問に驚いた私は、テレビから母親へと視線を移した。
最近、急に両親の仲が悪くなっていたのは気づいていた。けれど、何の説明も無しにいきなりこんなことを聞かれる私の気持ちにもなってほしい。と、切実に思う。目の前の母親を見る。常に楽観的で、いつもニコニコしていた笑顔は消え去り、呼吸さえも忘れているかのような緊張した表情をしていた。見ている私でさえも、思わず呼吸が止まってしまいそうな緊迫感。重たい空気が、確かにその部屋を包み込んでいた。
弟は、母と一緒に出ていく。それは、先ほど聞かされた紛れもない事実。ということは、未だに行方が決まっていないのは私だけ。しかも考える時間すらあまり残っていない。
二人しかいない部屋の中、ゆっくりと私は口を開いた。のど元まで込み上がってきた涙は、今にも切れてしまいそうな理性で必死に抑えながら。
「お母さんたちの方に行かなくて、本当に良かったのかい?」
二人分の荷物がなくなった部屋で、こたつの入りながら父親と夕食を食べる。
「うん。それに、高校生で転校するのは色々と面倒だしね。」
心配しながら、申し訳なさそうな顔をする父に淡々と答える私。余りにも違いすぎるお互いの雰囲気の温度差には気づかないふりをして、黙々と食事を続けた。
『4人で、一緒に住んでいたかった。』
叶うはずのない、提示されなかった3つめの選択肢を心に残したまま、今日も朝がやってくる。
三番目の選択肢
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