『愛人―アイジン』
私が好きなあの人には、心に決めた相手がおりました。
えぇ、それでも私はあの人の愛人という立場を獲得しました。
あの人は心に決めた人がいるにも関わらず、週に一度は私と二人で夜を明かしました――
そんな、暗いどろどろとした話ではありません。
愛人とは、愛している相手のことです。
会いたい人のことです。
愛人の愛とは、
相手を大切に思う気持ち。
相手をいつも気にかけるというキモチ。
相手の幸せを願い、相手が幸せになれるように動く理由です。
どんなことをしたらあの人は喜んでくれるだろうか。
今日のあの人の態度は、あの人の印象を悪くする。
あの人が誰かに疎まれないように、注意しておいた方がいいかもしれない。
注意することであの人に嫌われても、あの人が誰かに嫌われるよりましだ。
あの人に恋をしていたときは、何をするにも自分が中心だった。
自分がしたいこと、されたいことが物事の優先事項だった。
あの人のことを、先に考えるようになった。
自分の希望よりも、あの人がなにをしたいか。
なにをどうすれば、大好きなあの人の笑顔を守れるかと考えるようになった。
自分の幸せよりも、あの人の幸せ。
あの人が快適に過ごせる状態を作った。
愛って、そういうことでしょ?
自分が大切に思うあの人が幸せでいること。
そんな状況を作ることが、愛ってことでしょ?
――違う。
そんなの、愛って言わない。
一方的に与えるだけのそれが、愛情だなんて思いたくない。
私が何かをして、あの人も何か返してくれる。
ギブ&テイクを無意識にする。
それが、愛情。
愛する、ということ。
……あの人と、そんな関係になりたいなぁ。
『愛人―アイジン』