『愛人―アイジン』

私が好きなあの人には、心に決めた相手がおりました。

えぇ、それでも私はあの人の愛人という立場を獲得しました。

あの人は心に決めた人がいるにも関わらず、週に一度は私と二人で夜を明かしました――



そんな、暗いどろどろとした話ではありません。

愛人とは、愛している相手のことです。

会いたい人のことです。

愛人の愛とは、
          相手を大切に思う気持ち。

          相手をいつも気にかけるというキモチ。

          相手の幸せを願い、相手が幸せになれるように動く理由です。



どんなことをしたらあの人は喜んでくれるだろうか。

今日のあの人の態度は、あの人の印象を悪くする。

あの人が誰かに疎まれないように、注意しておいた方がいいかもしれない。

注意することであの人に嫌われても、あの人が誰かに嫌われるよりましだ。



あの人に恋をしていたときは、何をするにも自分が中心だった。

自分がしたいこと、されたいことが物事の優先事項だった。



あの人のことを、先に考えるようになった。

自分の希望よりも、あの人がなにをしたいか。

なにをどうすれば、大好きなあの人の笑顔を守れるかと考えるようになった。


自分の幸せよりも、あの人の幸せ。

あの人が快適に過ごせる状態を作った。



愛って、そういうことでしょ?

自分が大切に思うあの人が幸せでいること。

そんな状況を作ることが、愛ってことでしょ?



――違う。

そんなの、愛って言わない。

一方的に与えるだけのそれが、愛情だなんて思いたくない。



私が何かをして、あの人も何か返してくれる。

ギブ&テイクを無意識にする。

それが、愛情。

愛する、ということ。



……あの人と、そんな関係になりたいなぁ。

『愛人―アイジン』

『愛人―アイジン』

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-04-21

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