決戦! ムニレ山中灯台

「灯台」は、海のそばにあって、夜中にとおくまで照らして道案内をしています。
昔は海でないところにも灯台があって、ムニレ山もそのひとつでした。

はじまり

「なんだい、おまえたちだって、かみの毛の色がうすいじゃないか」
 カレサ少年は、カウンターから立ちあがった。いきおいよくおいた、のみかけのツクツクジュースのカップが、たおれて床にとびちった。
 カレサ少年のことをばかにした、赤いふくの3人の央近団(おうきんだん)は、少年のまわりをかこんだ。
 バーでたのしんでいた人々は、危険をかんじて、つくえの下にかくれたり、店からはしってにげていった。バイオリンをひいていた女の子たちは、いつのまにかいなくなっている。
 ピストルのたまがとんでくるかも知れない。カウンターのうらの店の主人たちは、しゃがんだまま手をのばして、たなのゲレゲレウイスキーを安全なところにもっていこうとしている。
「このボウズ、ちびのくせに、なまいきな! もう一度いってやる、ちびめ!」
 少年の左に立ったノッポの央近団員がいった。
「金髪をしらないのか。まあ、こどもだからばかなのはとうぜんか?」
 央近団のリーダーがわらった。
 右にいたサングラスの央近団員は、いつでも少年におそいかかれるように、かまえている。
「わるいのは、おまえたちだ」
 カレサ少年はゆうきをもっていった。
「人の体のことをばかにするなんて、さいていのすることだ!」
「なにおう、」いかりにふるえて央近リーダーがさけんだ。「ゆるさんぞ、こぞう!」
 かまえていた右の団員が、カレサ少年にとびかかる。少年はパンチをよけて、すれちがいざまに足をひっかけ、ころばせてやった。つぎに少年は、うでをつかもうとしてきたノッポの団員のうしろにすばやくまわって、せなかをつきおした。
 どんなもんだいと、はなの下をこすったカレサ少年のうしろ頭に、かたいピストルがつきつけられる。央近リーダーだ。カレサ少年は、かたをひっぱられて、まるテーブルの上におしつけられた。
「なめるな、こぞう」央近リーダーは、いすにかた足をのせて、ブーツにつけていたナイフをぬく。「おまえにふさわしい教育をしてやろう」
 立てなおした二人の団員が、央近リーダーをてつだって少年をおさえつける。
 リーダーはナイフをカレサ少年のゆび先につきあてた。
「世界一のわが央近団では、団員と見わけるために、ドレイのツメをはがしておくのだ」
 央近リーダーの目つきがしんけんになる。目の先は、少年の手にむけられる。
 ああ、だめだ。カレサ少年は目をつぶった。きっと、すっごくいたい。これでしばらく手がつかえない。クツのひももむすべない、木にものぼれない、ムチもつかえない、冒険にもつれていってもらえなくなる! 
 と、そのとき、
 バン、
 ピキンと音がして、央近リーダーのもつナイフがふっとんで、うしろのかべにつきささった。
「だれだ!」
 入り口にはピストルをかまえた男の人が立っていた。探検家のフレッド氏だ。たすけに来てくれたんだ。
「カレサ君をはなせ! こんどはねらうぞ!」
 央近団たちは、くやしそうにちくしょうといって少年からはなれて手をあげた。
「カレサ君、はやくこっちにくるんだ!」
 カレサ少年は、にげるときにテーブルの上にあったコショウを央近団たちにふりかけた。
 うわっ、と央近団たちはくしゃみをする。「へへん、ざまみろ」
 フレッド氏とカレサ少年は店のまえにとめてあったジープにとびのった。うしろからはくしゃみをしながら央近団がおいかけてくる。フレッド氏はハンドルをにぎってジープをはしらせた。ずっとうしろの方で、おいつけなかった央近団たちが、おぼえてろ、とさけんでいた。
 ジープを運転しながらフレッド氏がいう。「カレサ君、ケガはないかい?」
「だいじょうぶです」
「それはよかった。だけど、もう危険なことはしてはならないよ」
「はあい」
 よし。フレッド氏がわらった。「いまからマリー女史をむかえに、遺跡(いせき)をしらべている、なかまたちのところへいくぞ」
 カレサ少年は、ジープにうしろむきにすわった。ずっととおくに、大きなムニレ山が見える。そのムニレ山には、古い宝がかくされているという。その宝を手に入れるため、カレサ少年たちはここにやってきたのだ。

古い宝

 ジープは遺跡(いせき)にとうちゃくした。遺跡のなかまたちは、ジープに気づいて近づいてきた。
「おそいですわ」メガネをかけたマリー女史がおこっていた。「ずっと、まってました」
 それはわるかったとフレッド氏があやまった。
「それで、ムニレ山の宝のことは、わかったかい?」
「ええ」えっへんとマリー女史はむねをはった。「遺跡のかべに、古い文字で、かいてありましたわ。ムニレ山の宝とは『月の石』という、宝石のことらしいのです」
「で、その宝石のありかは?」
「それが……、川のむこうにすんでいる、セニ族しかしらないみたい」
「へえ」カレサ少年がいった。「そうか。じゃあセニ族の村にいかなくちゃならないね」
 もっていけ、となかまが食べ物といっしょに地図をわたしてくれた。
「よし、探険だ!」

 マリー女史をあたらしくのせて、ジープははセニ族の村にむかっていた。道は石がたくさんころがっていて、でこぼこで、がたんがたんとジープがゆれる。
「す、すごく、ゆ、ゆ、れますわ」マリー女史がいった。
「ほん、と、馬にのってるみ、みたい」カレサ少年はジープのいすにしがみついた。
「は、はなす、な、な、したを、かむぞ。あっ」フレッド氏は自分でしたをかんで、すごくいたがっている。でもハンドルはしっかりもったまま。
 しばらくすすむと、地図にのっているとおりに大きな川があった。
 カレサ少年はフレッド氏といっしょに、ジープにのせてあるゴムボートに空気をいれてふくらませた。マリー女史もてつだって、ゴムボートを川にうかべる。
「この川をわたれば、セニ族の村はすぐそこだ」
 川の水はきれいだった。カレサ少年は、りょうてで水をすくって、のんでみた。水はとってもつめたくておいしい。
「あら、おいしそうね」マリー女史も水筒に水をいっぱいくんだ。ボートをこいでいたフレッド氏も、カレサ少年とこうたいして、川の水で、顔をあらった。
 三人をのせたボートも、もう少しで、岸につく。
 そのとき、川の上のほうから、モーターボートの音がきこえてきた。なんだろうとカレサ少年たちは見る。スピードを出したまっ赤なボートが、どんどんこちらに近づいてくる。
 まっ赤なモーターボートから、スピーカーでどなり声がきこえた。
「こぞう、見つけたぞ! かくごしろ!」
 さっきの央近団(おうきんだん)だ。自分がわるいくせに、しかえしをしにきたんだ! 
「くらえ」ババババババ、央近団はボートの上からマシンガンをうってきた。
 あぶない、フレッド氏がさけぶ。パン、ぱん、パン、ぷしゅう。なんとゴムボートにあながあいてしまった! 穴のあいたところから水がいきおいよく入ってくる。「うわわわわわわ」ゴムボートはどんどんしずんでいく。
「おもいしったか!」わらいながら央近団のボートはどこかにいってしまった。
「およげないよお」おぼれかけていたカレサ少年をフレッド氏がたすける。マリー女史はリュックサックをつかんで、ひっしにおよぐ。
 なんとか岸にたどりつくことができた。だが、ゴムボートがしずんでしまったから、もう、もどれなくなってしまった。マリー女史は地面にすわりこんで、なきそうな顔をした。フレッド氏はマリー女史をなぐさめて、びしょぬれのまま、セニ族の村へとすすんだ。
「なに、オマエたちは『月の石』をさがしにきたのか」セニ族の酋長(しゅうちょう)のテントで、カレサ少年たちはトウモロコシをごちそうになっていた。
 かりっ、かりっ、とフレッド氏はトウモロコシをかじる。「きょうりょく、して、くだ、さい」ごっくんとのみこんでいった。「博物館に『月の石』をかざりたいのです」
 ムムム……。床にすわった酋長はむずかしい顔をする。
「伝説によれば『月の石』はムニレ山の神殿にある。ダガ、神殿のまわりには『まよいの森』とよばれる大きな森があって、森に入った者を、まよわしてしまう力をもっておるのジャ。いままでも、うちの村からなん人ものわかものが森にでかけていったが、だれもかえってきてオラン」
「危険な森ですわね」マリー女史がじめんに地図をひろげた。たしかに、地図の上の、森の絵には、?マークがかかれている。
 酋長がいう。
「ジャガ……なん百年もむかし、古代人たちは、森でまよわないようにするため、ムニレ山のどこか、神殿とはべつの場所に『山中灯台』をつくったという伝説がある」
「山中灯台? 灯台って、ひかりの目じるしの?」カレサ少年がきいた。
「ソウ、その灯台じゃ。石をつみ上げてつくったらしい。これも、場所はわからんがの」「へえ」
 フレッド氏がいう。
「じゃあ、さっそく『まよいの森』にいってみよう」
「ナヌ?」酋長がおどろいた。「もどってこれんかもしれんのに『まよいの森』へいくというのか! すごいゆうきダ」
 フレッド氏は、わらって酋長にいった。「それが探険家さ!」
 酋長は3人の顔を見まわす。
「じゃがオマエたち、ワルモノにボートを、しずめられたのだろう? どうやってもどる?」
 あっ! わすれてた。
「よければこの村の漁師に、船にのせてモラえるよう、たのんでみるがよい」

 漁師は川のちかくにすんでいた。
「エッ、船にのせてくれっテ?」
「たのむ」「おねがい」「のせてください」 うーん。三人のまえで、漁師はかんがえた。
「ソウダ、なにか物をくれたら、のせてやるよ」
 物? どんなの? 
「そうだナ……、きいろくて……、やわらかくて……、すべすべなのが、ほしいナ」
 三人はリュックサックの中の物を、ぜんぶ地面にならべる。
 ロープ。地図。あせをふくためのスポンジ。水筒。双眼鏡。ビニールぶくろ。くすり箱。チーズ。パン。
 しばらくかんがえて、フレッド氏がさけんだ。
「これはどうだ!」フレッド氏はビニールぶくろを漁師に見せる。
「うーん」漁師は頭をよこにふる。「やわらかくて、すべスベだけど、きいろじゃなくて、とうめいだよ」
「そうか」フレッド氏は、ざんねんそうにビニールぶくろをリュックサックに入れた。
 つぎ、
「あったわ!」マリー女史はスポンジを見せた。「どうです?」
「フーん」漁師は頭をよこにふる。「きいろくて、やわらかイけど、すべすべじゃなくて、ぼこぼこだよ」
「そうねえ」マリー女史はうなずいてスポンジをリュックサックに入れた。
 そして、
「これかな?」カレサ少年はチーズを漁師に見せた。
「ふーん」漁師は頭をたてにふる。「きいろくて、やわらかくて、すべすべ……。フシギな食べ物だナ。どれどれ」漁師は一口、チーズを食べてみた。「んフ、おいしい、おいしい。よおし、では、やくそくドオリ、船にのせてあげヨウ」

地下水の洞窟

 すべり台のようにつるつるな穴のなかを、三人はどこまでもすべっていく。入り口からはなれていくほど、穴のなかはくらくなっていき、そしてとうとうまっくらになった。
「みんなー、いるかー?」なにも見えない穴のなか、せんとうのフレッド氏の声がした。
「いるよー」と、カレサ少年のへんじの声。
「おーい、マリー女史ー?」フレッド氏の声が穴のなかにひびいた。すこしあとに「いますわよー」と、うしろの方でマリー女史の声がきこえた。
「くらすぎて、なにも見えないなー。でも、クマの穴じゃないようだー」
「マリー女史はずれー」カレサ少年がからかうと、「わたくしだって、まちがうことはありますわー」とおこった声でマリー女史がいった。
「それにしても、くらいですわねー」
「そうだ」カレサ少年はズボンのポケットに手をつっこんだ。「あったー」ぴかっ、まぶしいひかり。ライトだ。
「でかしたぞ、カレサ君ー。穴の先にライトをむけてくれー」
 カレサ少年は、穴の先にライトをむけた。ひろがったひかりが、すべり下りていくフレッド氏のせなかと、その先の洞窟(どうくつ)をてらしだした。ちょうど、ながいすべり台のおわりが見えた。
 すべり台の先の道は、木のような、まがりくねったきれいなもようの白い岩にかこまれていた。さわってみると、氷みたいにつめたい。洞窟のひくい天井からは、ほそながい岩がのびている。その岩の先っちょから、いってき、いってき、雨のように水のしずくがふってくる。
 三人は洞窟探険のためにあるきだした。この洞窟はどこまでつづいているんだろう。洞窟のおくには、なにがあるんだろう。もしかしたら、地球のうらがわまで、つながっているかもしれない。もしかしたら、だれも見たことのない、ふしぎな怪物がいるかもしれない。
 しばらくあるくと、道はいくつにもわかれていた。
 どこの道も先のほうが見えない。
「どっちにいく?」カレサ少年がフレッド氏にきく。
 フレッド氏は耳をすませて、道を見くらべた。「こっちだ」その中のひとつにむく。「この先から、滝の音がきこえてくる。とりあえず、この音のほうへいってみよう」
 穴をしばらくすすむと、だんだんと滝の音が大きくきこえてきた。そしてとつぜん、せまかったみちがおわり、ひろい場所に出た。しゃがんであるいていたフレッド氏が、せをのばして見あげる。クレーン車が入れるくらいに天井はたかい。
「こんな大きな場所が、地下にあるなんて……」まったく、しぜんの力はすごい。
「ながれる地下水が、なん万年もかけて、岩をけずってできた場所ですわ」
 カレサ少年は洞窟の先をてらす。目の下には、湖がひろがっていた。ひかりがゆらゆらと、ぎん色の水面にゆれる。
 湖のまん中には、あおい島があった。島までかかったはしは、人工の石ばしだった。
「だれがつくったんだろ?」カレサ少年がくびをかしげる。
「きっと、古代人じゃないかしら? セニ族の酋長(しゅうちょう)さんがいっていた神殿って、この洞窟のことだったんですわ」
「そして『月の石』も、この洞窟に!」
 三人は島をめざして、はしの上をすすむ。マリー女史はとちゅう、しゃがんで水を手のひらでなでた。水はかなりつめたい。魚もなにも、すめないつめたさだ。
 くずれた石ばしの、ところどころをジャンプでとびこえて、島についた。島はあおい石をつんでつくられている。
 島の上にはライオンの石像が立っていた。目は洞窟の天井をにらんでいて、そのおおきくあけた口から、滝のように水がながれ出している。
「ほんものそっくりだ」
 フレッド氏とカレサ少年がライオン像の足をひっぱったり、せなかにのったり、あたまをコンコンたたいたりしているそばで、マリー女史はメガネをかけなおして、像の台にかかれた古代文字をよんでいった。
「フムフム……。『水の中を見ろ』ね」
 マリー女史は、かいてあるとおりにライオンのまえの湖を見た。下のほうに、宝石のような石が光っている。
「あれですわ!」マリー女史のゆびさした先を、フレッド氏とカレサ少年たちも見る。
「やったあ! とうとう発見だー」
 2人が水の中に入ろうとしたので、マリー女史はあわててとめた。「この水はとってもつめたくて、入ったとたんに、しんぞうマヒで、死んじゃいますわあ」
「じゃあ、どうやってとるんだい?」
「それが……わかりませんの」
 こまったなあ。フレッド氏とカレサ少年は湖を見おろす。『月の石』のすがたはゆらゆらとながれにゆれている。見えているのに『月の石』がとれないなんて。
 マリー女史は古代文字をよみすすめた。「『王者ライオンは、ほんとうのことをしっている。その目はうそをみやぶる』どういういみかしら?」うーん? 
 と、その時。
 三人はドキリと、とび上がった。とつぜん、洞窟中におおくの大きなわらい声がひびきわたったのだ。
 ふりむくと、はしの上に、マシンガンをかまえる央近団(おうきんだん)たちがいた。ざっと十人、数がふえている。
「とうとう、ムニレ山の宝を見つけたようだな。死にたくなかったら『月の石』をこちらにわたせ」
 うでぐみした央近リーダーをにらみかえして、フレッド氏がさけぶ。
「ずっと、あとをつけていたのか!」
「そうだ。おまえたちは、われわれが、あとをついてきているのにも気づかないマヌケだ」
 ずるい! ひきょう! わるもの! もんくをいう3人に、だまらっしゃい! とどなった央近リーダーがつづけていう。
「はやく『月の石』をこちらにわたせ!」
「ムリだよ」カレサ少年がいった。「石は、湖の下にしずんでるんだ。湖の水はとってもつめたくて、入ると、しんぞうマヒになっちゃうんだ」
 あははは、央近団がわらった。央近団は3人をかこんで、赤いピストルや赤いナイフをつきつける。
「入れ。とってこい」
 なんてこと! 
「くそう……」フレッド氏は、ライオン像にだきついているカレサ少年とマリー女史にいう。「君たちにあぶないことはさせない。……おれがいこう」
「だれでもいい、はやくしろ。ただし、とちゅうで死んでも『月の石』はにぎっておけ」
 フレッド氏が湖のそばに立って、かた足を水のなかにおろす。足がこおるくらいにつめたい水が、くつの中にながれこむ。フレッド氏は目をつぶった。
 像の台にきざまれた古代文字のいみを、マリー女史は、ひっしになって、かんがえる。『王者ライオンは、ほんとうのことをしっている。その目はうそをみやぶる』……その目はうそをみやぶる……。
 マリー女史はライオン像の目を見た。像は天井を見つめている……。
「あっ!」女史はひみつに気づき、カレサ少年に、小さな声でおしえた。
「なにを話している!」赤いサングラスをかけた央近団員がきく。
「なんでもないよー、だ」
「なにを話していたかいえ!」
「あのね……」
 話をきこうとしてよせたサングラスの耳を、カレサ少年はおもいっきりつねった。うわあといたがってしゃがんだサングラスのすきをついて、カレサ少年はライオン像の上にのぼってジャンプした。
 ズボンにつけていたムチを空中でのばして、水にうつっていた天井の『月の石』に、まきつけてとる。
「やった!」とおもったのもつかのま、カレサ少年は石といっしょにおちちていく。下には、しんぞうマヒの湖がまっている。うわっ、とカレサ少年はおもったが、水におちるまえに、フレッド氏が手をのばしてカレサ少年をうけとめてくれた。
 マリー女史は、それを見て、はくしゅする。「おじょうず、おじょうず」そして、かけよる央近団たちの足をひっかけてころばせた。央近団はおたがいにぶつかってたおれる。
『月の石』を手に入れた3人は、そのあいだにはしって、はしをわたった。
「まて!」と央近団がマシンガンをうちながら、おいかけてくる。洞窟をひきかえし、とちゅうのわかれ道を何かいかとおって、3人はにげた。
 はしって、はしって、はしって。
 洞窟から、外に出た。出ると、目のまえに、石づくりの古い灯台がたっていた。空はもう、夜だった。

迷いの森

 船にのせてくれた漁師に手をふって、3人はとめてあったジープにのりこんだ。
 目ざすはムニレ山の、まよいの森。
 フレッド氏はトランシーバーで、遺跡(いせき)のなかまたちに、れんらくする。
「こちらフレッド。月の石のありかがわかった。まよいの森という場所だ」
 トランシーバーのむこうから、なかまがへんじする。
『オーケー、フレッド。こちらも、君たちにニュースがある。盗賊の央近団(おうきんだん)も、月の石をさがしているらしい。じゅうぶんに、ちゅういしろ』
「ああ、わかった」
 ジープはムニレ山につづく、ながい坂道を上っていった。まわりに立つ木々は、どれもせのたかい木ばかりだ。どこかとおくから、キツツキのつつく音がひびいてきた。道のすぐそばの草がゆれ、あらいぐまがはしっていった。
 ジープはどんどんすすむ。そして、土の道もだんだんと、ほそくなり、道がわからなくなるくらいに草のはえた所にきたとき、フレッド氏はジープをとめた。
「この先は、木がおおすぎて、ジープはもう入れない。あるいていくしかないな」
 3人はリュックサックをせおい、ぼうしをかぶって森の中へと入っていった。森の中はたおれた木や、大きな岩や、がけなどがあちらこちらにあって、まるで迷路みたいだ。
「さすがに『まよいの森』だね」カレサ少年が、たおれた大木をのりこえながらいった。
「ほんとう。どっちにいけばいいのか、わかりませんわ」マリー女史が水たまりをとびこえていう。
「とにかく、山の上を目ざそう」フレッド氏が森の先をゆびさした。
「あら、」マリー女史がふしぎそうな顔でいう。「そちらはジープをおいてきた方向ではないですの?」
 ? 
「もうまよっちゃった」
 木々のかげになって、太陽のひかりが地面にまでとどかない、うすぐらい森の中を、3人はいっしょうけんめいになって、あっちにいったり、こっちにいったり、あるきまわった。
「ここは一度とりましたわ」マリー女史があたりを見まわす。さっきとおなじふうけいだ。
「方位磁石も、うごかないなあ」探険のプロのフレッド氏も、どうすればいいのかわからなくなった。
「あるきまわったから、あつくなってきたよ。……あれっ」カレサ少年はふりむいた。つめたい風が、ふいている。
「ねえ、こっちこっち」マリー女史とフレッド氏をよんで、カレサ少年はいった。「こっち、すずしいよ」
 木と木のあいだ、風は、森のおくからふいてくる。もしかしたら泉があるのかもしれない。3人は風のふいてくる方向にむかってすすんだ。つき出した木のえだに、探険ふくのあちこちをひっかけながら、小さな坂をのぼると、目の前があかるくなった。
 坂の上には広場があった。そこだけ木がはえてなくて、太陽がよく見える。
「泉なんかないなあ」フレッド氏がきょろきょろあたりを見る。広場のまん中に、一本、大木がたっているだけだ。つめたい風は、その木からながれてきている。
「ちょうさを、しましょう」マリー女史がつかれているのもわすれて、うれしそうに大木にちかづいた。木はとってもたかく、はっぱはハンカチよりも大きい。「こんな木、見たことありません。新はっけんですわ」
 フレッド氏とマリー女史のよこで、カレサ少年が木のかげにすわって、パンを食べていると、顔につめたい風がふきつけてきた。
「なんだろ?」カレサ少年はくびをまわした。
 木のうら、ねっこのよこの草がゆれている。カレサ少年は木のうらをのぞいてみた。すると、地下にむかって大きな穴があいているのを発見した。風はその穴からふきだしてきている。フレッド氏とマリー女史は、木を見あげてばかりいたから気づかなかったのだ。
 カレサ少年に穴のことを教えられたフレッド氏がいう。「カレサ君、すごいぞ。れんぞく発見だ!」
「ほんと。でも、なんの穴かしら?」マリー女史が穴をしらべている。ななめにあいた穴は、先が見えないくらいにどこまでもつづいている。
「きっと洞窟(どうくつ)だ」フレッド氏がいう。「どこかにつながっているかもしれないな。入ってみよう」
「いいえ、クマがすんでる穴かもしれません。あぶないですわ」
 マリー女史が、不安そうにいったのをきいて、カレサ少年がムチをにぎった。
「だいじょうぶさ。クマだったら、ぼくがおいはらってあげるさ」
 フレッド氏とカレサ少年はぼうしをふかくかぶる。「よし、探険だ!」
「あっ、まって」マリー女史がよびとめようとしたが、ふたりはすでに穴のなかにとびこんでいった。「あらら」マリー女史はおいかけるために、おもたいリュックサックを穴にころがす。そして大木を見あげて、「もっと調査したかったですわ」というと、自分も穴に入っていった。

 ……その3人を、うしろで見ていた赤いぼうしの盗賊たちがいた。央近団だ! 
「おいかけるぞ」央近団のリーダーがいう。「やつらが『月の石』を手に入れたら、われわれ央近団がそれをよこどりするのだ! わっはっはっ」

山中灯台

「ここが、酋長(しゅうちょう)のいってた山中灯台だな……」
 灯台に入り、入りぐちの石のドアを、きょうりょくしてしめた。これで央近団(おうきんだん)も入ってはこれまい。
 ライトをつけたカレサ少年は階段を見つけた。
「のぼってみようよ」
 ぐるぐると、うずをまいた、ながいかいだんをのぼると、夜空のよく見える、やねの下についた。まるいゆかの中心に、火をもやす台がおかれている。やねや、ゆかや、手すりには、たくさんのカガミがはられている。
 灯台のまわりの、どこまでもつづく森をながめながら、マリー女史がつぶやいた。
「これからどうすればいいんですの……」
「なかまに、れんらくをとるさ」フレッド氏がトランシーバーをつかう。
「こちらフレッド、今、まよいの森で、央近団においかけられている。ヘリコプターでたすけにきてくれ」
 なかまがいう。
『オーケー、フレッド。まよいの森だな、さがしてみる』
「たのんだ」フレッド氏はトランシーバーをしまった。
 灯台の下のほうがさわがしい。央近団たちがドアをドンドンとたたいている。だが、石のドアはがんじょうでびくともしない。央近団たちは森に入っていった。
「あきらめたのかな?」
 双眼鏡で見ていると、しばらくして、央近団たちは、ぜんいんで大きな丸太をかついでもどってきた。ドアのまえに立ち、いきおいをつけて、
 どーん、
 ドアに丸太をぶつける。ドアはこなごなにくだけてしまった。
「ああ、たいへん!」
 三人はかいだんにはしって、そこから下を見た。月の石をよこせー、と央近団たちがのぼってきている。
「うわわわ、どうしよどうしよ」カレサ少年があわてる。
「たたかうしかない」フレッド氏がピストルをもつ。
「いきますわよ」マリー女史はリュックサックに入っていたものを、つぎつぎに階段の下になげた。くすりビン、双眼鏡、水筒、スポンジ。ノッポの団員にすべてめい中、でもあまり、きいてないみたい。
 フレッド氏がピストルをうったが、きんにくモリモリの団員にナイフでたまをはじかれてしまった。
 央近団はすこしずつ上がってくる。
 フレッド氏のポケットの中で、トランシーバーがなった。『フレッド、どこだ。森はくらくて、なにも見えないぞ』
 フレッド氏は、目の前にきた央近団をキックでやっつけるのにいそがしくて、へんじもできない。マリー女史は央近団たちのあたまを、リュックサックでいっしょうけんめいにたたいている。
 どうしよう! カレサ少年はまわりを見まわす。なにかいいほうほうは? そうだ、灯台にあかりをつけたらいいんだ! 少年はライトを灯台のまん中におく。だが、ひかりがよわくて、つかいものにならない。ほかになにか、あかりになる物は? 少年はポケットをさがした。おサイフ、せんぬき、チョコレート……、そして、いちばんおくに、月の石があった。これだ! カレサ少年は月の石を、台の上においた。すると、夜空の月のひかりにはんのうして石がひかる。
 月の石のひかりは、やねや、ゆかや、手すりのカガミにはんしゃして、まぶしいひかりになり、森のはじまでとどく! 
『あかりをはっけん! 今いくぞー』
 フレッド氏のトランシーバーから、なかまの声がきこえた。
 すると空のとおくから、ヘリコプターの音がひびいてきた。
 央近団たちはおどろいて、かいだんをころがりおちていく。
 ヘリコプターは2き。なかまのものと、央近団をつかまえにきた世界警察のものだ。
 2きとも灯台のよこに下りてきた。キンぴかのバッチをつけた世界警察の警官たちは、央近団をつかまえにかかる。
「ふう……、たすかった……」

さあ

 3人は、おりてきたなかまに、あたたかいカンヅメスープをもらって、それをたべていた。
 なかまが、「宝は見つけたのか?」ときいたので、カレサ少年はスプーンをおいて月の石を見せる。
「ほほう、これはすばらしい」
 央近団(おうきんだん)に手じょうをかけた世界警察のひとりが、ちかよっていった。
「やあ、あなたがたのおかげで、央近団をつかまえることができた、ありがとう。だが、ざんねんなことに、央近リーダーと2人のけらいを、にがしてしまった。これからも、あなたがたのジャマをしにくるかもしれない」
「だいじょうぶだい!」カレサ少年が元気にいった。
 警官はカレサ少年たちに敬礼して、もどっていった。
 フレッド氏がいう。
「さあ、本部にかえろう」
 バタバタととび上がったヘリコプターの中で、フレッド氏は無線機をつかって本部と話をしている。カレサ少年とマリー女史は、ちじょうの世界警察におおきく手をふった。
「さて、」無線機をおいてフレッド氏がふりかえった。「つぎにさがしだす秘宝が見つかったぞ」
「え、なになに」カレサ少年がちかよる。
「つぎは、パタミニンとうの『金のたまご』だ! カレサ君、いっしょにくるかい?」
「もちろん!」
「わたしもいきますわよー」マリー女史も立ちあがった。
「よし、本部にもどったら、よういして、さっそく、しゅっぱつだ!」
 ヘリコプターは、朝のそらをとんでいく。
 カレサ少年のもった『月の石』が、ひかりをうけて、もういちど、ピカリとひかった。

決戦! ムニレ山中灯台

カレサ少年には、「もっといろいろなことを知りたい」と思う心があったから、ムニレ山の宝『月の石』を手に入れることができたのかもしれないね。
このお話には、むずかしい漢字も書かれています。かんたんな漢字だけで書くこともできたけれど、おもしろそうな言葉ならきっと読んでもらえるかな? と思っています。
読んでくれてありがとう。

決戦! ムニレ山中灯台

「山の中にも灯台があるらしい」そんな言い伝えを頼りに、冒険大好きなカレサ少年が、大人たちと探検にでかけます。

  • 小説
  • 短編
  • 冒険
  • アクション
  • 児童向け
更新日
登録日
2010-08-11

CC BY-ND
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CC BY-ND
  1. はじまり
  2. 古い宝
  3. 地下水の洞窟
  4. 迷いの森
  5. 山中灯台
  6. さあ