contrast~twins~

contrast、第三話です。
前回がつじつまが合わずにかなり反省したので、今回はじっくり作りました。
なので暖かい目で見てくれれば幸いです。


人は誰にだって秘密にしたい事がある。夫に隠したへそくり然り川辺で拾ったエロ本然り。
そんな事を前を歩くりゅうちゃん達の会話で思い出していた。黒門流那(こくもんるな)っていうなんか売れない小説の主人公みたいな名前の僕の幼馴染み。それと白戸さん―白戸空(しらとそら)っていうもう一人の幼馴染みと三人で大学の帰路についていた。
僕たちは代曲(しろまがり)市から電車で30分かけて大昭大学に通っているけど、あんまり一緒に帰れない。二人は『推理研究会』というサークルに属しているし、僕は僕で幾つかのサークルを掛け持ちしているから。でも今日はたまたま昭大前駅で再会した。
そんな二人はどうやらサークル関係の話をしているらしい。二人がしていたのは昔話―僕たちが小学校の時の話だ。りゅうちゃんと白戸さんは幼稚園から大学までずっと一緒だけど、僕は小学校は別だった。中学校からの幼馴染み。
するとりゅうちゃんは振り返りざまに僕に聞いてくる。明日暇か、って。
ちょうど次の日は土曜日で特に用事もなかったので、大学近くのファミレスで待ち合わせになった。


「はじめまして、羽澤幸(はざわこう)です。」
「白都蘭(しらとらん)よ、よろしくね。」
いつものファミレスのいつもの席。幸とトラさんが向かい合って挨拶している。この二人が会うのは初めてだったか。
「とりあえず飲み物でも注文しますか。」
テーブルの脇にある呼び出しボタンを押す。俺たち三人はいつも通りコーヒーとホットミルク、オレンジジュースを注文。幸はクリームソーダを頼んだ。
「それで?今日はどの事件なの?」
トラさんが隣に座っている空に聞く。空は既にノートを取り出してスタンバイしている。
「あぁそういえば、幸君は私たちが何してるかわかってるの?」
「既にここに来る前に羽澤君には説明済みです。」
空が敬礼しながら応える。やけに今日はテンション高いな。
「はやく説明しろ。」


どうやら三人はサークルの活動として実際の事件を扱っているらしい。しかし何で僕が今日呼ばれた理由がわからなかったが、白戸さんが話し始めて合点がいった。要は僕たちの同級生の話だったのだ。
僕たちが小学5年生だった頃、僕のクラスの姉妹が誘拐される事件があった。誘拐されたのは四条春美(しじょうはるみ)と秋美(あきみ)の双子で、二人は地元では有名な四条家のご令嬢だ。だから当然身代金を要求する電話が来た。しかし受け渡し場所での取引の前に警察が犯人の車を検問し、そのまま逃げる時に車に轢かれて事故死した。犯人の名前は横山太郎(よこやまたろう)、無職の成人男性だった。僕もしっかり覚えている。でもとりわけおかしなところはなかったはずだ。ましてや『推理研究会』で扱うほどのものでもない気がする。そう思った矢先説明を聞いていた刑事さんがこう言い放った。事件には少しだけ気になる点があった、って。


「四条家と犯人との電話の記録が残っているから、空ちゃん、説明お願いしていい?」
了解しました、と隣のトラさんに寄り添いながら空はノートの文章を読み上げてくれた。
「最初の電話は当時のお手伝いさんがとったんだけど、結構年いってたみたいで耳が遠くてすぐに切られちゃったみたい。でもその時に『娘を誘拐した』ということだけは理解できたので四条夫妻に連絡したんだって。」
「その電話をとった時他の人はいなかったのか?」
すかさず俺は質問した。気になったことはすぐに聞いてしまう悪い癖だが、空はちゃんと理解してくれている。
「ちょうど他のお手伝いさんは庭の手入れとかで出払ってたらしいよ。」
納得した俺を一度見てから空は続ける。
「二回目の電話は連絡を受けて帰宅した四条夫妻、春美と秋美のお父さんがとったらしいよ。」
「ん?もしかして空ちゃん誘拐された二人と知り合いなの?」
いかにも知人のように話す空をトラさんは気にしたのだろう。そういえばまだその話はしてなかった。
「私たち同じ中学だったんですよ。だから3人とも同級生です。」
それを聞いてため息混じりに頭を垂れるトラさん。
「どうしたんですか?刑事さん?」
心配して幸が聞く。
「だってその事件の話を聞いてたとき私大学生だったんだよ。なんかこう―」
「ジェネレーションギャップ?」
そう、と俺の相槌に心もとなく応える。まぁ言わんとすることはわかる。俺も昨日のテレビで自分より年下の奴がバラエティ番組に出ていて少し落ち込んだ。
「まぁまぁおねぇ様。おねぇ様は十分に若いですよ。」
フォローが痛々しい。嬉しさ半分、妬ましさ半分のトラさんの目線を慌ててそらして空は続ける。
「と、とにかく、この時に始めて実際に二人が誘拐していることがわかったらしいよ。それから30分後、再び電話があって身代金とその受け渡し方法が伝えられたの。」


身代金の額は当初五千万円。受け渡し場所は二人の通う小学校の近くの代曲運動公園。人通りの多い大通りに囲まれていて公園自体も大きかったから犯人も動きやすかっただろうと当時の警察の見解らしい。
警察に連絡してなかったのか、というりゅうちゃんの質問が飛ぶ。確かに言われればそうだ。しかし四条家が警察を呼んだのは取引の直前だったらしい。刑事さんの話だと、四条姉妹の父親である四条夏彦(なつひこ)が警察嫌いだったらしい。そんな理由かよ、と僕はツッコミを入れたかったが、刑事さんの話だと結構そういう人もいるらしい。
話がそれたが、つまり警察に通報しないまま身代金の額と受け渡し場所が決まった。しかし問題はここからだ。その15分後再び連絡があり、それを母親の四条冬子(ふゆこ)がとった。その時に身代金が一千万に値下げされた。その後約束に時間に受け渡し場所に夏彦が趣いたが、同時刻姉の春美が家に帰ってきた。


「春美の話によると、監禁されているときは縛られていて目隠しと猿轡をされていたけど犯人の声は隣の部屋から聞こえていたらしいの。でもその声が止んだのでなんとか目隠しを外してみるとそこは代曲運動公園の中にあるステージ裏の小部屋だったんだって。」
質問の為に間を開ける空だが、なにより先に気になることがあった。
「なんだその、『身代金の値下げ』って。」
そう、自分の聞き間違いだと信じたい。しかしトラさんが追い討ちをかける。
「いや・・・だからその名のとおり・・・。」
やはり間違いではなかった。それだともう一つの疑問が出てくる。
「それは四条夫妻からの要求ですか?」
幸が俺の代弁をしてくれた。そう、それだ。う~ん、と空がノートのページをめくる。
「ううん、犯人からの要求かな。三回目の電話の時に金額だけ変更があったんだって。」
それだとますますわけがわからない。
「例えば・・・金の用意が間に合わなかったとか?」
「いや。当時の刑事さんが叔父と仲が良かったから聞いた話だが、たった15分でしっかり五千万集めてきたそうだ。」
恐らく昔同じようなことを考えたのだろう、トラさんがすぐさま答えた。
「しかもどうやら、犯人の横山には遊んで作った借金があった。その額がなんと―」
「五千万・・・だった?」
こくりとトラさんが頷く。他にお金の宛はなかったらしい、と付け加えた。
「じゃあ・・・なんでだ?値下げる理由なんてないじゃないか。」
さぁ~と、三人が首をかしげた。


春美が帰宅した時とほぼ同時刻、妹の秋美は横山と車に乗っているところをたまたま別の事件で行っていた検問に引っかかった。その時警察は車の後部座席で縛られている秋美を発見した。逃亡しようと急いで車から出た横山をたまたま通りかかった反対車線のトラックがひいた。即死だった。結果事件は誘拐および犯人の事故死により片付いたそうだ。
やっぱりおかしいな、とりゅうちゃんのセリフに視線が集中した。質問した白戸さんにりゅうちゃんは細かく説明してくれた。
まず一つ目はやはり、身代金が値下げされたこと。ここには僕を含めた三人が頷いた。そしてもう一つは横山が車で移動していたことだ。監禁場所が代曲運動公園だったのなら、身代金受け渡しの場に向かうのに車である必要はないという見解だった。確かにそういわれるとそうだ。でも代曲運動公園はそこそこの広さがあり、しかも秋美を人目に触れないように連れて行かなければならないからじゃないか、という僕の反論に渋々納得してくれたようだった。それでも身代金の値下げという問題が残っている。でもりゅうちゃんの顔は悩んでいるふうには見えなかった。


「おい、空。詳しい電話の記録残ってないか?」
俺はノートを見る空に確認する。恐らくそれを見れば解ける気がする。
「う~ん・・・警察に連絡してなかったから記録がないんだよ・・・。」
チクショウ。多少は予想していたことだが、それだと確証が得られない。
「じゃあ、春美と秋美の証言の記録は?」
そこで幸が口を開いた。不思議に思ったが、確かにそこは確認したいとこだった。
「それなら警察の資料に残っていたはずだよ。空ちゃん、載ってるよね。」
空が開くノートを覗き込みながらトラさんが指をさす。このふたりはこないだからなんか仲がいい。何かあったのか?
「はい、え~っと・・・あったあった。」
それより何より、なぜ幸が・・・という疑問を抱きつつ、空の説明に耳を傾けた。


春美と秋美の証言はほぼ一致していた。しかしそれはあまり芳しい一致ではなかった。ふたりは学校の近くの小さな公園で遊んでいた。しかし春美がトイレに行くとほぼ同時に秋美が目隠しと猿轡をされて車に乗せられた(と感じた)。その後トイレから出るタイミングで春美も目隠しと猿轡・両腕を拘束された。しかし犯人も用意周到で目隠しと同時に耳も同じ布で縛られた。結果わずかにくぐもって聞こえる程度、つまり視覚・聴覚の両方を奪われた。その後車で運ばれた後、下ろされて部屋に座らされていた。それから犯人は四条家に電話をしているが、その電話の内容も耳にかかった布のせいで上手く聞き取れなかった。そしてなぜか春美を残して秋美だけを車に乗せて出て行った。そして春美の証言へと繋がる。

10
「つまり春美と秋美は互いに捕まっていることを知らなかったのか。」
「そうだねぇ、視覚と聴覚が奪われちゃ自分がどこにいるのかさえ怪しいからね。」
トラさんの相槌にフンフンと頭を振る空。まぁ欲しい情報は出揃ったか。
「それでりゅうちゃん、どこまでわかったの?」
空ではなくトラさんでもない、幸のセリフだった。相変わらずこいつの察しはいい。
「ほぼわかったかな。」
「「!?」」
声にならない驚きをあげる空とトラさん。いや、そんな顔されても。
「つまりりゅうちゃんは『何故犯人が春美を置いて秋美だけ身代金受け渡し場所に向かったか』までもわかったのかい?」
「あぁ、俺の『こじつけ』だと説明がつく。」
これだこれ。幸と話すと最小限の言葉だけで済む。
「・・・ねぇねぇ、私たち置いてかれてない?」
トラさんがすねたような目で見てくる。
「・・・そうですね。」
俺は空からノートを借りて空いてるページを切り取る。裏には三角形の図が書かれていた。
「つまりこの事件の謎は『何故身代金が値下げされたのか』という点とさっき幸が言った『何故犯人が春美を置いて秋美だけ身代金受け渡し場所に向かったか』という二点だ。」
ノートに簡単に『身代金』と『春美』と書いた。
「でも、それらの謎はこう考えれば説明がつく。春美と秋美は別々の事件にあった。」

十一
りゅうちゃんの『こじつけ』はこうだ。まず秋美の事件、これは犯人は横山太郎で身代金要求額は五千万だった。身代金を要求した後秋美を車に乗せて交換場所へ向かう途中警察の検問に引っ掛かり、逃走、トラックに轢かれて死亡した。一方春美は他の犯人に誘拐され一千万の身代金を要求、しかし結果として春美が逃げ出したので未遂で終わった。
これがりゅうちゃんが導き出した答えだった。

12
「でもでもでも、それだと電話のつじつまが合わないんじゃ・・・。」
まぁ確かにそう思うよな。
「それが今回、と言っても8年前だけど、たまたまうまくいったんだ。」
一気に落ち込んだ顔になるトラさんをあえて無視してノートを書き始める。どんだけショックなんだか。

「この四つが犯人から来た電話の内容だ。」
『お手伝いがとった誘拐の電話』
『四条夫妻がとった誘拐の電話』
『五千万の身代金要求と受け渡し場所指定』
『一千万の身代金変更』

とノートに書いた。
「ここで春美を誘拐した犯人を漢数字で、秋美を誘拐した横山を数字で表すと・・・。」

一、『お手伝いがとった誘拐の電話』
1、『四条夫妻がとった誘拐の電話』
2、『五千万の身代金要求と受け渡し場所指定』
二『一千万の身代金変更』

「となるわけだ。まぁ詳しい記録が残っているわけじゃないから何とも言えないが、恐らく犯人たちの会話は必要最低限の言葉で済まされたのだろう。だから前回の会話との関連性の違和感が目立たなかったんだろう。」
そう、人間同士の会話だったら微妙な言葉尻で違和感を抱くだろう。でも電話越しでしかも誘拐犯の電話だからこうもうまくいったのだろう。
「なるほどね、目隠し、猿轡、ついでに耳まで塞がれてちゃ春美さんと秋美さんは互いを確認できなかったのね。」
そう、ここも今回の事件の要だ。春美と秋美は互いの存在を確認できなかった。だから彼女にも第三者にも『双子誘拐事件』と捉えられた。
「まぁこじつけですけどね。」
気がつくとみんなが注文した飲み物はとっくのとうに空になっていた。時刻は昼を過ぎていた。

十三
りゅうちゃんの『こじつけ』が終わったあとみんなでそのまま昼食を食べた。話題はもっぱら僕たちの中学生時代の話になった。中学生で始めてりゅうちゃんにあってから見てきたりゅうちゃんと白戸さんの話に相槌をうっていた。その度に刑事さんがジェネレーションギャップで落ち込んでいた。それを慰める二人を見てまた笑っていた。
その後刑事さんと白戸さんは二人で買い物に出かけると言って分かれていった。二人は姉妹のように仲が良かったが、りゅうちゃんいわく、つい最近になってからだそうだ。でも僕にはなんとなくその理由がわかる気がした。本当に微笑ましい。
しょうがなく僕とりゅうちゃんは用事もないので二人で帰宅することにした。駅までの道のりの話題はもっぱら昔話。でも僕は気になることがあった。意地悪心でこう聞いてみた。それで本当の真相は、って。別に確信があったわけでも根拠があるわけでもない。もしかしたらりゅうちゃんなら気づいているかも、という期待。でもりゅうちゃんは当たり前のようにこう返してきた。ちょうど駅のホームに降りてきた時だと思う。春美の事件が狂言誘拐だったってことか、って。

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「ん?それは春美の事件が狂言誘拐だったってことか?」
ゴーーーーー
ちょうど向かいのホームに特急電車が通り過ぎた。俺たちの会話がひと呼吸置かれる。
「・・・なんでそう思ったの?」
相変わらずの笑顔、何か全てをさらけ出していない顔で俺を見る幸。でもそれは裏があるとか隠し事がるとかじゃない、単純に自分を出していないだけだ、と確信している(つもりだ)。
「別になんとなくだよ。でも一番最初に疑問に思ったのは『何で身代金だけじゃなくて受け渡し場所まで変更しなかったのか』ってことだ。」
ちょうど言い切った時にホームに来た電車に二人で乗り込む。幸はドアの近くの背もたれに、俺はドアにもたれかけた。こっちのドアは代曲駅まで開かない。
「『受け渡し場所を変えなかった』っていうのがどうして引っかかったの?」
口火を切ったのは幸だった。
「トラさんのノートには、春美の犯人からの身代金受け渡し場所の情報が無かった。ってことは考えられるのは二つ。」
「受け渡し場所が被っていた、あるいは受け渡し場所を言わなかった。」
本当に幸との会話ははかどって楽だ。そうだ、と頷く。
「でも確かに受け渡し場所を言わなかったら引っかかるよ。でも被るぶんには問題なんじゃない?」
「いや、それだと更にわけわかんないんだ。春美が監禁されていた場所は?」
あぁ~、と数秒で理解した顔になる。
「そう、受け渡し場所と監禁場所が同じ運動公園だ。犯人の心理的に同じ場所にするのは考えにくいだろって思ったんだ。」
もちろん可能性は0ではない。でもやはり監禁場所で身代金を受け取るのは考えにくい。警察にバレた時にまずいからな。
「だからやっぱり考えられないんだよ、身代金場所を伝えていないのは。そこから考えると色々とほころびが見えてきたんだ。」
土曜の夕方の下り電車はガランとしていて、座席は随分空いていた。でも俺たちはドアの近くで別々の方向を見ていた。窓の外でビルが流れていく。

十五
西日で輝くりゅうちゃんの横顔は珍しかった。勉強している時も遊んでいる時にも見せない、ワクワクしたような顔をしていた。
更にりゅうちゃんは続けた。体を縛られた状態で目隠し・猿轡・耳まで隠した状態で、春美が自力で脱出したこと。そして身代金値下げに関して何も食い違いがなかったことなど。確かに気にもとめないことだが、春美の誘拐に疑問を持つと気になることだ。
それらを納得させるために、りゅうちゃんは『春美の狂言誘拐』とこじつけた。でもやっぱりりゅうちゃんでもその理由はわからなかったらしい。でも一言だけこう付け加えた。
僕が何か関与していないか、って。

僕と春美たちは同じ小学校だった。小さい時の春美と秋美は双子のわりにすごく似ていた。同じ髪型と同じ服、でも内面は少し違った。春美は秋美と比べてしっかりしていた。いや、しっかりするように育てられていた。『お姉ちゃんだから』『長女だから』という忙しい両親からのプレッシャー。普通の姉妹だったら受け入れられるかもしれない。でも二人は双子、たまたま先に生まれてきた春美が姉になった。それを受け入れきれるほど春美は強くはなかった。そんな強くない彼女を僕は・・・いや、この話は関係ないか。

本当にりゅうちゃんはすごい。そんな僕の内心を少しだけだけど理解してくれる友達。でも僕らは真逆なんだ。

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「・・・りゅうちゃんと僕は真逆だね。」
俺の質問に全く違う応えで返した。別に気分を悪くしたとかそういうんじゃないと思う。
「またその話か。昔からそう言ってたな。」
中学の時から幸と色んな話をした。政治の話、科学の話、その日の先生の雑談。そんな話の節々にそう付け加える。
「いい加減教えてくれよ。」
「だから、僕が出した問題を解いてみなって。」
相変わらず何を考えているかわからない笑顔だ。まぁ作り笑いじゃなさそうだからいいか。話を元に戻そう。
「とりあえずそんな感じだ。どちらにせよ二人も金も無事だったから一件落着だよ。」
春美が何故狂言誘拐をしたのかはわからない。ただどちらにせよ、その後の春美は家族とも秋美とも不仲ではなさそうだったので、恐らく俺の考え過ぎかもな。
「・・・なんで・・・。」
不意に幸がドアの向こうと俺を見ながら呟く。西日に照らされた幸の顔は見たことないぐらい真っ直ぐだ。
「なんであの二人に、白戸さんと刑事さんに言わなかったの?」
あぁ、そのことか。
「俺のこじつけは『自分が納得するためのもの』だ。だから誰かが得をするならまだしも、損をするようなことは言わないと決めたんだ。」
前回の反省点。危うく俺のこじつけのせいで見知らぬ誰かを犯人扱いするとこだった。それだけは許されないと、その後反省した。
「・・・なんか間違ってるかな?」
幸が静かに聞いているので少し不安になった。
「ううん、間違ってないと思うよ。」
幸が体を起こす。減速するドア越しの景色の上の掲示板には『代曲南』の文字が。そういえば待ち合わせがあるとか言ってたな。
「才能がある人は必ず何かを選択する。でも選択には必ず責任が伴う。つまり、才能がある人には必ず責任が伴うと思うんだ。りゅうちゃんには物事をこじつける才能がある。だからそのこじつけをどうするか選択して、その責任を負わなくちゃいけないと思うんだよ。」
幸は俺を見つめてくる。まるで自分に言い聞かせるように。
「だからりゅうちゃんが『言わない』と決めたんだったらそれでいいんじゃないかな?」
電車がホームに滑り込んだ。ドアに向かって歩き出す幸。
「・・・お前にも負わなくちゃいけない責任はあるのか?」
背中越しに振り返る。
「あいにく僕には特別な才能ないよ。」
「嘘つけ。」
ドアが開くと同時に即答した。空ほどじゃないにせよ付き合いが長いからわかった。
「お前は嘘つくのは向いてないよ。」
「・・・そうみたいだね。」
じゃあね、と一言いって幸はホームに降りた。

十八
りゅうちゃんの才能は『こじつけ』、つまり何かの結論を創りだす。
僕の才能は『机上の空論』、つまり何か問題を創りだす。
だから僕たちは真逆なんだ。
春美に狂言誘拐を助言したのは、彼女の悩みを聞いた時だ。少しだけ両親を困らせてやりたいっていう悩み。でもあくまで僕が提案したのは狂言誘拐のプランだけ。それをどうするかは彼女に一存した。今考えても僕は間違ってないと思う。りゅうちゃんに言った言葉は当時幼心ながら感じていたことだ。僕は彼女に提案し、それを一存するという選択を行った。だからもしバレたら彼女と一緒に怒られる覚悟だった。
才能には責任が伴う、と気づいたらつぶやいていた。りゅうちゃんはこの考えをわかってくれるかな。そんなことを思いながら改札口近くの売店の前で待っていると、白いブラウスが可愛い春美が手を振って走ってきた。

contrast~twins~

時間がかかってしまいましたが、まだまだ書いていきます。
興味がある方は今後ともよろしくお願いします。

contrast~twins~

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-18

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著作権法内での利用のみを許可します。

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