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佳菜美は憂鬱だった。
中学2年の3学期が、始まってから少し経っていた。
「かーなみ」
椅子に着いたまま振り返ると頭上に美沙がいた。美沙はいつも、全身でにこにこしている。
「なあに」
「かなみん今日元気ないなあ」
そう言って佳菜美の頬をつねる。別に今日に限ったことじゃないけど、と佳菜美は思った。
「そんなことないよ、ありがと」
無理やり微笑みを作って返事をして、前に向き直す。美沙はすぐに回り込んだ。
「ほらそうやってすぐごまかそうとするー、どうして言ってくれんの?何か悩んじょんことあるんやったら言いよっちゃ、な?」
相変わらず美沙は全身でにこにこしている。美沙は、純粋な子だ。胡散臭いセリフさえ、素直に言っているのだ。分かっている。
「うちら親友やろ?な、いつでも相談するんで」
「うん…ありがとうな」
佳菜美は、自分には親友なんていないと思っているのだった。
親友やろ?なんて言葉が大嫌いだった。美沙の性格は、分かっている。でもどうしても、嫌いだった。
続く
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