おれたちスカウト

カブスカウトの哲平と洋太、一朗は、リーダーの手を焼きながらも、元気に活動していた。そこに一学年上の修二が入ってきた上に空き巣事件まで発生して、哲平達は大忙し。無事に事件解決出来るのか,見守ってやって下さい。^_^

4月、小学生にとっては進級、クラス替えと何かと忙しい季節。
哲平、洋太、一朗の三人も、4年生に進級した。哲平は4月最初のスカウト集会で鎌倉駅前の広場に集まった時、朝から洋太と一朗とずっとその話で大騒ぎしていた。三人は通っている小学校は違っても、幼稚園の時にボーイスカウトのビーバー隊の活動で出会ってからの仲良しだった。
「担任がまた、あのおばさんなんだぜ。嫌になちゃうよ。一度くらい若くて美人の先生に担任してもらいたいよ。」
哲平がため息をつくと、洋太が哲平の肩をポンと叩いた。
「まあ、そんな邪な考えを学校側もお見通しなんだろうねえ。哲平の話からして、松崎先生はかなり優秀な先生だよ。」
洋平は、眼鏡をあげながら笑った。哲平はチェッと舌打ちした。洋太は頭が良くて物知りで、困った時にはいつも助けてくれる。だが、頭が回りすぎていつも一言多い。
「哲平のお母さんは松崎先生で良かったって、言ってたよ。」
一朗はのんびり笑った。一朗は背も小さく、四年生にしては顔つきも幼い事もあって、同級生なのに哲平は弟のように思っていた。一朗にまでそう言われたら、哲平はグウの根も出ない。
「お前ら、集合時間はとっくに過ぎているんだぞ!整列しろ‼」
大沢リーダーの大声が鎌倉駅前に響いた。三人は慌てて大沢リーダーの元に集合した。哲平が大沢の横に置いてあった組旗に手をのばすと、大沢が止めた。
「待て、今日はいい、洋平の後ろに並べ。」
哲平は驚いた。スカウト隊と言っても、哲平達の所属する団は、少子化の影響もあって、人数が少ない。カブスカウトは、哲平達を入れても6人。3人ごとの2班に分かれ、哲平達の2班には、本来班長になるはずの熊スカウトがいなかったので、鹿スカウトの哲平が去年の9月からずっと班長を、洋太が副班長を務めていたのだ。
「ちょっと集合に遅れたからって、もう降格かよ。」
哲平が抗議した。
「違う違う!今日、新しいスカウトが入隊したんだ。」
リーダーが哲平より一回り大きい少年に手招きした。少年がリーダーの横に立った。
「太田修二だ。熊スカウトの5年生。2班の班長をボーイ隊に昇進する9月まで務めてもらう。哲平は副班長になってもらう。修二をサポートしてやってくれ。」
修二はぺこりと、頭を下げた。哲平の倍の数はあるかと思われるワッペンが制服のタスキの上でゆれる。
「すごいワッペンの数。」
一番前に並んでいた一朗のつぶやきに大沢リーダーが気づき、笑った。
「修二は以前いた東京の団で、チャレンジ賞を取っていたんだ。後一つでスーパーカブになるんだ。さあ、話はそこまでだ。整列!!」
修二が2班の白旗を持って一朗の前に並ぶと、お決まりの朝の会が始まり、今日のハイクが始まった。今日は江ノ島までのハイクで、鎌倉駅から長谷の大仏の裏を通って江ノ島の方へ抜けるルートを歩く。日曜日の鎌倉は、小町通りや鶴岡八幡宮など観光客でごった返している。しかし、哲平達の歩くルートは比較的人通りは少ない。4月の穏やかな陽気の中、ノンビリと歩いていた。一朗と修二が何やら話しながら歩いているのをボンヤリ眺めながら、哲平は後ろから歩いていた。哲平の後ろには、ちょっと太めの飯田副リーダーがフウフウ言いながら山道を登ってくる。
「洋太、後どの位かな?」
洋太がリュックサックごしに振り返る。
「9時に出発して、今日のルートだと後10分ほどで下りになって、降り切った所から大仏殿の横を抜けて海岸沿いを歩くはずだよ。」
ふうん、と哲平がつぶやく。4月の日差しはまだまだ柔らかいが、歩いて山道を行く哲平達には暑い。少し道が広くなったところで、哲平は足を止めた。
「飯田副リーダーが来るまで、ちょっと休憩しようぜ。」
「いいよ。」
洋太も足を止めた。リュックサックからそれぞれ水筒を取り出して二人並んで水分を補給する。水は爽やかにのどをうるおす。
哲平たちの眼下には鎌倉の街並みが広がり、海まで見える。もうずいぶんと登ってきたつもりだったのに、民家は哲平たちのすぐそばの、崖下までせまっていた。
「哲平、なんか変じゃないか。あの人。」
哲平が洋太の指さす方に目をやると、民家の庭に大きな石を持ってキョロキョロしている中年の作業着姿の男がいた。男は、子犬ほどもある石をゆっくり持ち上げると民家のガラスに投げつけた。
ーガチャーン
ガラスの割れる音がする。男は、割れた窓から家の中へと入っていった。
「泥棒だ!!」
哲平は、リュックサックからロープを取り出すと、木に結びつけ、あっという間に崖をロープを伝って降りていった。洋太が飯田を呼ぶ声が聞こえる。飯田が戻れと叫ぶ声も聞こえたが、哲平の頭の中は泥棒を捕まえる事でいっぱいだった。こうなったら、誰も哲平を止められない。哲平は、崖を降り切ると、男の侵入した民家へ走り出した。
 哲平が民家の門にたどり着いた時、辺りに人影はなかった。騒ぎを聞いて戻ってきた大沢リーダーと一朗、修二までもが崖を降りて来る。泥棒らしき人物が入っていったのは。別段、大して大きくない平屋の古家。白いペンキが剥げかかったのがそのままになっている壁は、家主の質素な生活ぶりが容易に想像できた。崖の上を見上げると、飯田副リーダーと1班のスカウト達と崖の上から見ている。何やら洋太が携帯電話でしゃべっている。
哲平は泥棒がまだ居るであろう民家の玄関へそっと近づいた。哲平が古ぼけた玄関扉に手をかけた瞬間、勢いよく扉が開き、男が飛び出してきた。
「あいつだ‼」
哲平が叫ぶと、男はジロリと哲平を睨んで、近づいて来た。やばい、殺される。哲平は足がすくんで動けない。
「哲平!」大沢リーダーの一際大きな声が辺りに響く。
男は、大沢リーダー達の姿に気づくと慌てて走り去っていった。
哲平は、ヘナヘナとその場に座り込んだ。哲平は、初めて「腰が抜ける」という経験をした。
それから後は、もう集会どころではなかった。1班も2班も6人のスカウト全員、、リーダー達の指示のもと泥棒の逃げたあとの民家の前に集合して、警察を待っていた。大沢リーダーが、哲平を叱り飛ばしている間に、優秀な警察官がサイレンの音と共に駆けつけた時には、何が起きたのかと出てきた近所に人で狭い路地はいっぱいになっていた。

おれたちスカウト

おれたちスカウト

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-17

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