しょうがないって
僕らが目指したものは、こんな歪んだ関係じゃなくて、あっさりしてて、それでいて濃厚で、ヨーグルトをスプーンですくうような、そんな優しさで包まれる未来だった。希望は打ち砕かれ、橋は崩壊し、空にはロケットが行き交う危険が僕らの生活を脅かす。知る由もない未来だから、こうなってしまったことが、僕らには「しょうがない」と映ってしまう結果となるが、本当に始めから「しょうがない」で済まされるような、そんな事柄があるようには僕には思えない。昨日、君が見ていた月の形が、今日も観れるとは限らないし、それが昨日と同じ月だとは、これは絶対ではないのだ。移り変わっていく些細な現実を、今の僕らの立ち位置からこの世界を眺めた時、何事も「しょうがない」で済まされるようなことはないように思う。想像してた未来の形が、こうやって変わっていくのも、その時に想像してた過去の自分の所為によるものだと、僕は思うからだ。君が泣く理由にも様々あって、それが一辺倒ではないように、この未来が出来上がったのも、それなりの理由があるはずだし、それは一つではないはずなのだ。あの時、僕が笑って君に話しかけたことも、震える肩に手を伸ばすことも、今となってはただの作業になってしまった。それはもくもくと部品を組み合わせて、一つを形作る工場作業員のように、流れるものを右から左に受け流すような、工程の中の一つに過ぎない。君は何を思い、何を感じているのだろう。離れ離れになった今、ようやく君のことを考えられるようになった。世間では春の息吹というやつを肌で感じるようになった。花粉症である。重度の花粉症に見舞われ、ティッシュペーパーがないと外出はおろか、生きていくことすら出来ないのではないかと、僕は本気になって考えていたりする。今日の花粉情報をニュースでチェックし、洗濯物の取り扱いにも注意するようになった。こんな些細なことですら、僕にとっては命取りになるような、重大な事柄なのである。悲惨な現実とは、目に見えない恐怖に打ち勝つことが出来ない場合に、僕は使いたい。こんな天気のいい日でも、自宅アパートに引きこもっては、花粉症の恐怖と、僕が今まで君に為してきた断片的な行為に対して、後悔を募らせている。君は幸せに笑えているだろうか。もし僕によって君がいつまでも今のこの現実を愛せないのだとしたなら、僕にはどう償えるのだろう。記憶力もいいとは言い切れないが、人間とは不思議なもので、意識をしなければ楽しい思い出より、辛い思い出の方が記憶に残っていたりする。少なくとも、こうやって引きこもっている今、気持ちが落ち込んでくると、そうやって過去の自分が襲いかかってくる。知らぬ間に背後に回っては、首元にナイフをちらつかせられるような、そんな恐怖に似ている。笑った記憶だけがそっと記憶の中に、誰にも踏み込まれないように、安全ピンか何かで優しくとめてくれたらいいのに。「しょうがないさ、こうやって僕は、いつだって。」針の穴に糸を通すように、慎重に生きていたいけど、いつなにが起こって、今の安定が崩れるかは予測出来ない。君が遠くに行ってしまったのも、突然のこと。でもしょうがないで済まされていいのだろうか。僕が歩いてきた道のりは嘘じゃないし、間違いではなかったはず。ただ、誰かを愛するということ、それが何一つわからなかった。君が今でも笑っているのなら、過去の自分が君に為してきたことのすべてを許して欲しいとはいわないが、僕が今ここでこうやって生きられていること、それは君のおかげであって、僕だけの人生ではなかったこと、それだけを僕の中でいちいち感じることを許して欲しい。失くさずには何もわからない愚か者だけど、過去に想像してた今を不幸と呼ばないように、それが「しょうがないこと」だと、過去を捨てないように、ただ生きていくことを許して欲しい。窓から除く風景が、いつもより暖かく思えた。
しょうがないって