「となり」

幼いころ、大切なものが壊れてしまった。

壊れてしまったそれは、全てのカケラを集めるまで時間がかかる。

集められるカケラを、1つ1つ集めていく。

どれだけ集めても、目に見えないカケラは指の間からこぼれていった。

何度も掬いあげ、また、何度もこぼれた。

流れてしまわないように、集めたカケラを繋ぎ合わせる。

大切なものが壊れてしまったときに失くした気持ちを合わせたら、

カケラが繋がるような気がした。

そうやって、“私”を作り上げていく。

それでも不確かな足場は、いつも私を不安にさせる。

そんな私にあの人が、〝居場所〟を与えてくれた。

あの人はとても優しくて、隣にいるとカケラが繋がっていくのがわかった。

あの人の隣はいつも、どこにいてもあたたかい。

寒い冬も、冷たい風も、あの人の隣にいたら感じなかった。

あの人がいるから、“私”を保っていられる。

“私”が完成するまで、あの人の隣にいたい。

そんな風に思う自分が生まれた。

あの人の隣で、あの人を感じる。

ただそれだけが幸せで、全てだった。

私は、あの人の隣を歩いていきたいのだと思う。

誰もが経験する、死の世界。


その世界へ行く直前まで、私は、あの人の隣で歩いていきたい。

「となり」

「となり」

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-04-16

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