「となり」
幼いころ、大切なものが壊れてしまった。
壊れてしまったそれは、全てのカケラを集めるまで時間がかかる。
集められるカケラを、1つ1つ集めていく。
どれだけ集めても、目に見えないカケラは指の間からこぼれていった。
何度も掬いあげ、また、何度もこぼれた。
流れてしまわないように、集めたカケラを繋ぎ合わせる。
大切なものが壊れてしまったときに失くした気持ちを合わせたら、
カケラが繋がるような気がした。
そうやって、“私”を作り上げていく。
それでも不確かな足場は、いつも私を不安にさせる。
そんな私にあの人が、〝居場所〟を与えてくれた。
あの人はとても優しくて、隣にいるとカケラが繋がっていくのがわかった。
あの人の隣はいつも、どこにいてもあたたかい。
寒い冬も、冷たい風も、あの人の隣にいたら感じなかった。
あの人がいるから、“私”を保っていられる。
“私”が完成するまで、あの人の隣にいたい。
そんな風に思う自分が生まれた。
あの人の隣で、あの人を感じる。
ただそれだけが幸せで、全てだった。
私は、あの人の隣を歩いていきたいのだと思う。
誰もが経験する、死の世界。
その世界へ行く直前まで、私は、あの人の隣で歩いていきたい。
「となり」