東方幻奇譚 ~ The recallect memory
Chapter02完成!!(時系列:1→0→2)
博麗大結界の設定は、公式ではありません。謎過ぎる。
Chapter00『空飛ぶ巫女にとっては不思議な一日』
朝起きて、境内を掃除して、後はお茶でも飲んで適当に過ごす。それが私の日常であり、あまり邪魔されたくないものであった。特にお茶を喫している時は。
そんなティータイムと言う名の至福の一時に、顔知らずの人物が博麗神社に訪れた。
そいつは大した名乗りもせず、『記憶が無いので調査を頼みたい』と言ってきた。そんなのに構ってたらロクな事にならないので、適当に流して追い返し、今に至る。
「やっぱり聞いといた方が良かったかな……」
何故追い返したのか、と言われたら明確な理由は言えない。だが、『博麗霊夢』としての勘が、関わらない方がいいと告げていたのだ。私は自分の勘で、数々の異変を解決する糸口たるものを見つけてきたのだ。当然ながら自信はある。だが、あの少女の深刻そうな顔を思い出したら、その考えが次第に変わっていった。
そう思っていても、日陰の下にいることによって当然のように襲いかかってくる睡魔に勝てる気がせず、そのまま意識は刻一刻と無くなっていく。
「お茶の後片付け……まぁいいや」
微睡みの中で思い浮かんだこと。それは……
「神社にもっと参拝客来ないかしら……」
少女転寝中……
「……ぉぃ!……いむ!霊夢起きろ!!」
「え……何なのよ一体……」
「はぁ!?参拝客ほっぽって何寝てんだよ!!」
呆れ顔で物申してくる白黒の影、霧雨魔理沙がいた。
「ん?四月四日なら二ヶ月前に過ぎたわよ。うちに参拝客なんて殆ど来ないのは魔理沙も知ってるじゃない」
あからさまに『駄目だコイツ……私が何とかしないと……』的な顔をしながら、私を外に連れ出す。
「……ッ!?」
境内の石畳からはみ出さんばかりの人の列が、本社から参道の向こうまで延々に続いていた。
「さぁ、霊夢。何か言う事は?」
「滅相もこざいません。魔理沙、いつからこんな事に……?」
「博麗の巫女の代がお前に渡って少し。霊夢……お前ちょっとおかしいぜ?私と早苗で今日は凌ぐから、お前ちょっと休んでろ」
腑に落ちない。根本的に何かがおかしい。異変レベルの何かが起きていると私は確信した。多分、いつも忙しい神社の業務を手伝っているだろう魔理沙と早苗にここは任せて、この違和感を突き止めるのが先決だ。
「魔理沙、早苗に宜しく言っといて」
「お前、何処行くつもりだよ?」
「判んない?判らないでしょうね。あんたには、この違和感、この異変を微塵も感じていないようだし」
「ほほう、何だかよく知らんが、とにかく馬鹿にされてる事は判った」
そう言って懐からミニ八卦炉を取り出す魔理沙。嗚呼、下手に刺激してしまった。こうなったら意地でも食らいつくのが霧雨魔理沙という少女だ。面倒臭い。
「何?やるの?弾幕ごっこ」
「ああ、やるぜ。この見習い大魔法使い様に喧嘩を売ったんだ。私売られた喧嘩は買い占める主義なんだ」
「見習いなのか大魔法使いなのかはっきりしなさいよ……。それに、喧嘩を買い占める件は、似たような事をとある天狗がいってたわ。まぁいいけど。じゃ、喧嘩の不良在庫持ってけ市でも始めるわよ」
溜まった息をゆっくり吐き出し、呼吸を整える。指先に軽く念じてスペルカード宣言の準備をする。ほぼ同じタイミングで魔理沙も準備を終えていた。
「弾幕ごっこの……」
「……始まりね」
「霊符『夢想封印』!!」
「彗星『ブレイジングスター』!!」
お互いの弾幕が交錯する。突風と衝撃波が周囲を駆け巡る。
「今回ばかりは面倒な異変になりそうね……」
魔理沙が次に放ったスペルカードを避けながら、私はそんな事呟いていた。
Chapter01『太陽の下で』
真夏の昼下がり。色んな意味で最悪の状況だと、私は思った。とにかく暑い。摂氏45°C以上なんじゃないかと思う位暑いのだ。
突然だが、私は妖精である。名前はまだ無い。無いと言うよりも思い出せないのだ。折角なので、記憶に有る限りの出来事を振り返ってみる事にしよう。
ーー話をしよう。あれは四半時前の出来事だった。
かつて私は、真っ暗で何も感じない世界にただひっそりと存在していた。そしてよく判らないまま解放される。その瞬間、私の中で停滞していた時間が動きだし、思考回路が再活動し始めた。あの時の感覚は、ただ真っ白な光に放り込まれるようにも思えて、何だか心地良くて、ほんの少しだけ懐かしい。その感覚だけで、自分は転生したと認識した。
目が光に慣れてきて、青空の中に放り込まれたと自覚した。その瞬間、とんでもない焦りと恐怖に襲われた。
「いやあああぁぁぁ……」
……ボスゥ
痛い。凄まじい痛みが身を襲うが、不思議と外傷は無い。
起き上がると、大きな向日葵の下に居た。
「あ……」
なるほど。あの向日葵の種の部分に当たって、それがクッション代わりになったのか。その証拠に、その向日葵が『助けなきゃ良かった……』とばかりに意気消沈している。
「あは、あははは。ごめんなさい……」
相当傷付いたのか、彼(彼女?)は沈黙を貫いている。
「えっと、あの私、若輩者ながら魔法を心得てまして、今すぐ回復呪文を……」
すぐに魔法陣を展開し、回復呪文を発動させる。その瞬間、傷付いていた向日葵は顔(?)を上げ、再び太陽を見上げ始めた。
「大丈夫ですよね?」
敢えて確認してみる。たまたま記憶に残っている確証性の無い魔法では、何だか不安なのだ。だが、副作用の気配もなく、ただ誇らしげに『へへ、お陰で助かったぜ』とばかりに上を見ている。良かった良かった。
「では、私はこれで……え……っ!?」
振り返ると、純白の日傘を持った女性がいた。赤を基調にした服、さらさらした綺麗な髪、優しい笑顔。とにかく恐ろしい位の美貌に恵まれた女性だった。だが、何処か絶対的な力の差を、会った瞬間から敗北を突き付けられた様な感覚を覚えた。
「あら、そう身構えないの」
あくまで笑顔を絶やさない。それが怖いのだ。
「風見幽香」
「へ?」
突然の事で呆気に取られる私。
「私の名前よ。名乗ったんだから、貴女の名前を教えなさいな」
「あのぉー、記憶喪失と言うかなんと言うか……転生したての妖精ですので……」
もうこうなったら笑うしかない。絶対、何か痛い人だと思われてるよ。
「うん。知ってる。知ってて言ったのよ♪」
優しい笑顔が眩しい。
「えっと、どうして聞いたんですか?」
「良かったわよ?貴女一瞬見せた困った顔♪」
この人、かなり意地悪な人だ……。
「これでおあいこ。気を悪くしないで頂戴な。私の花を傷付けた貴女が悪いの」
あ……見られてたんだ。先程の向日葵を見てみると、相変わらずそれは太陽を見上げている。何だかみなぎっているような気がするのは、気のだろうか。
「その事は、もういいのよ。この向日葵は貴女の魔法で完全復活したから」
「さ、左様でございますか!?」
「面白い子ね。そうだ、名前が無いなら付ければいいじゃない」
「ん~、といってもどう名乗ればいいかなんて……」
「スケトシア。そう名乗りなさいな」
「は、はい!ですが、スケトシアって何ですか?」
自分の名前ぐらい由来を知りたい。
「和名は瑠璃菊。花言葉は清楚。とても綺麗な花よ?名乗るならこれくらいはしつらえなきゃ。だから名前負けしないように頑張りなさい」
出逢ったばかりなのに、そこまでしてくれるなんて、どれだけいい人何だろう。私は無意識に涙を流していた。
「そういえば、貴女は記憶喪失っていってたわね。博麗の巫女なら、記憶を思い出す為の手伝いはしてくれ……るかしらね……」
やけにゆったりと、自信無さげに言う。と言うか、おもむろに涙を流す私を総スルーな幽香さん。
「私からの紹介だって言わない事ね。あの子、私の事相当警戒してるから」
幽香さんはその巫女さんに何をしたのだろう。常時身に纏う殺人的な妖気が全てを物語っている気がする。
結局、その博麗神社への道のりを教えて貰い、今に至るのだ。
散々歩いて疲れてきたが、参道をもう四半時程歩いた時、赤い鳥居が見えた。もうすぐで博麗の巫女に逢えるのか。そう思うと足が軽くなり、私は石階段を楽々とかけ上った。
「あややや!?悪逆非道で情け容赦無しの幽香さんが、名も無き妖精と楽しく談笑……ですか。これは私のカメラだ火を吹きますね!!」
『四季のフラワーマスター』こと風見幽香の周りで色めき立つブン屋、射命丸文がカメラを構える。
「吹かなくて良いわよ。鬱陶しい」
「流石に幽香さん相手に私一人じゃ分が悪すぎますよ。それにしても、あの妖精さんに何かを感じたから、名前を付けて巫女と引き合わせた。そうですよね?」
急に声色を変え、真面目モードに変わる鴉天狗。この様子だと、何故『ストケシア』と付けた意図まで気付かれたのだろう。
「花言葉、清楚。それだけじゃありませんよ?もう一つは『追想』。まさか貴女が知らない訳じゃないですよね」
あくまで微笑を浮かべたまま、問い詰めるように言葉を重ねる文に、幽香は苛立ちを隠せないでいた。
「本当に不愉快だわ……ここまで推測したならいっその事言うわよ。あの子は力を封印されているの。恐らくそのその過程で、妖精で言う『一回休み』の状況になったんでしょうね。大きすぎる力を持つ故に、妬み嫌われ封印された。あの子はそういう子なの。記憶と力を取り戻し、あの子が何をするか見届けたいのよ」
自分にしては、やけに饒舌だったと少し後悔しつつ話し相手に向き直ると、文はせっせと記事用のネタ帳、文花帖に書き込んでいた。
「この事は、全てが終わってから記事にします。こういうのは話を纏めてから出した方が面白いですから」
「三割増しで格好良く書きなさいよ?あと、あの子に警戒されないように近付く事。逐一報告を心掛けなさい。それが出来るなら何も言わないわ」
「はい!ですが、あの子の生い立ちをどうやって……」
「かつて、あの子を慕う妖精がいたの。幻想郷にも馴染み深い子たちね。だって、『光の三妖精』だもの」
「スター、ルナ、成功よ。お姉ちゃんが、幻想郷に戻って来たわ」
「本当!サニーやったね!!」
「スター、今は喜ぶより探すのが先決よ?さ、まずは魔法の森から辺りましょ?……本当はサニーとスターに任せたいのだけども……」
Chapter02『紅と白の境界』
【博麗神社参道】
「全く、余計な労力を使ったわ……」
神社に出て数十秒後、霊夢は先程起こった事に対する愚痴を溢していた。あの魔理沙との戦闘中、神社のお手伝いとして駆け付けた早苗が『巫女が参拝客に被害をもたらすのはどうかと思う』との理由で魔理沙側として参戦。その騒ぎで駆け付けた萃香までもが『面白そうだから』と魔理沙側に加わったのだ。実質一対三。夢想天生を使わざる逐えない状況だった。異変解決の矢先にこんな事が続けば、流石にキツい。
たまには、誰かと共に行動するのも悪くないな。そう思って候補を張り巡らした瞬間……
「あら霊夢。呼んだかしら?」
「呼んで無い。でも丁度良かった、紫に聞きたい事あったのよ」
「全く霊夢は、すぐ私を当てにする……」
一瞬、『違和感』が頭を横切ったが、紫はこういう言動を取る事がある。早期決断には至らなかった。
「あんたを頼りにした事、実質十回は超えてないと思うわよ。それより、紫はこの異変に気付いているの?」
「異変?あの神社に参拝客が大勢いる位だけね……それがどうかしたのかしら?」
やはり、このスキマ妖怪ならば並の術式程度なら引っ掛からないと思ってた。しかも八雲紫が博麗神社に怪しげな事はしない。幻想郷に危険が及びそうな行為は、紫の立場上するとは思えなかった。
「それなら似たような事が何回か起きてるじゃない。でも今回の異変は、一人一人記憶そのものが異変前とは全然違う事。それに対する違和感を感じている節すら見当たらないのよ」
「今、この幻想郷で一番の異端は貴女の方よ霊夢」
「……!?」
「いいえ違うわね。貴女の夢そのものですもの。現界の記憶を引き継いでいるのは霊夢だけ……私達は貴女の意思で、ここに存在している」
これは本当に厄介な異変だと思った。だが、紫の言葉には引っ掛かる部分が一つ。
「あんたは……?」
「なに?霊夢」
「紫は何で、その事を自覚出来ているのか?と聞いているのよ」
「ほんっと、仕様がない娘よね。霊夢は……」
盛大なため息付きで、いきなり駄目な娘扱いされた。
「な、何よ……」
「貴女、神社の軒下で思いきり寝てたのよ?しかも昨日の夕方から朝までね。流石におかしいって思ったから、境界弄って幻想郷から貴女を直々にお迎えに上がったの」
「あー、何となく判ってきたわ。つまりーー」
「「外来人の仕業って訳」」
珍しく台詞が被った。というか、紫自身被せにきたのだろう。別に構いはしないが、紫となると話が違う。妙なむず痒さと不快感染みたものを覚える。
そんな感情を母譲りの鉄仮面で押し殺す努力は、まるでお構い無しに紫は言葉を重ねる。
「気になる点がいくつかあるわ。今朝の新聞で、見掛けない妖精が多数の人妖と接触してる事。これは藍と白玉楼の庭師に任せてあるわ。他には……」
「待った。その妖精、幽香との関連性は?」
「ピタリ賞よ。でも、天狗もその場に居合わせた見たいで、『ああいった類い』のものはしてなかったらしいわ。でも、それよりも気になる事が」
そう言うと、紫は振り返り此方に指でサインしつつ、妙なキメ顔で、
「どうして私達がそれに気付けなかったのかしらね」
「……」
「……」
「…………」
「…………霊夢?」
このスキマ妖怪、私を買い被りし過ぎである。確かに私が管理すべき結界だから、この事態を把握しておかない点もあるかも知れないけど、この博麗大結界にはちょっとした欠点があるのだ。
「境界を越えず、幻想郷に侵入する方法は幾らでもあるわよ?」
「それを貴女が言っていいの?」
「先代はあんたの術式でこの結界を張った。違う?」
事実である。博麗大結界に必要なのは«博麗の巫女の霊力»であって、代々受け継がれた技術では無かったりする。悪いのは紫よ。うん、きっとそう。
「……ほら!こんな所に巨大な樹があるわねー。ここなんか怪しいんじゃない?霊夢ぅ?」
今日の紫とは何だか組みたくないな。そう思うのは難しく無かった。
東方幻奇譚 ~ The recallect memory