要塞喫茶・アキバ13(その1~7)

プロローグ

メイド喫茶、それは日々の生活に疲れた紳士淑女を潤す都会のオアシス。
メイド喫茶、それはオタク道に踏み込んだ若者たちの青春の一ページを飾るほろ苦い思い出の場所。
メイド喫茶、それは本来の存在意義を見失いかけたプロフェショナルな仕事人が、己の魂の内なる叫びを謳歌させる遥かなる山の頂き。

そして………。

己の生命とプライドを賭けて戦う少女たちが集い、鉄と血の嵐が吹き荒れる戦場、それもまたメイド喫茶。
秋葉原に開店した13番目のメイド喫茶=アキバ13。
秋葉原最古参のメイド喫茶であるアキバ13と、一人の少女の出会いが、世界の運命を変えることになることを、今はまだ誰も知らない



第一話・ヒカル、家なき子になる



「………お母さん、よく聞こえなかったんで、もう一度言ってくれるかな?」

その時、私はいつもの日曜日の昼下がりと同じように、居間のソファーに寝転がり、テレビを見ていました。
私の名前は山田ヒカル。
父親はサラリーマン、母親は専業主婦という、東京近郊の某県立高校に通う、どこにでもいるごく普通の高校生です。

「あのね、ヒカル………お父さん、昨日会社リストラされちゃったの」

微笑みながら、母はサラッとそう言いました。

「………………………はい?」

私はあまりのことに呆然としました。

そりゃそうでしょ!

だって、生まれてから17年の間で、最もショッキングな事柄を、まるで「今夜の夕飯、何にしょうかしら~」ってな感じで、打ち明けられたんですから。
でも、父のリストラは私の不幸の始まりにすぎませんでした。

「それでね、実はお父さん、会社を経営するお友達の連帯保証人だったんだけど、その人の会社もこの間倒産しちゃってね、さっき管財人の人から電話があって、この家も明後日には差し押さえられることになっちゃったのよ」

自分の母親ながら、とても四十目前の女とは思えないほど、可愛らしく(まるで昭和のアイドルグラビア写真のように)微笑みながら、そう言いました。

「な、な、なんですとーーーーーーーー!!」

ああ~、もういっそ、このままスカイツリーから命綱なしで、バンジージャンプしたい気持ちでした。



で、それが一昨日の話。

私は今、JR秋葉原の駅前に立っています。
両手と背中には大きな荷物を抱えて、これじゃあ、一昔前の家出少女ですよ。

「あ~あ、何でアタシがこんな目に遭わなきゃならないのよ~」

私は母が書いてくれた地図を見ながら、目的地を目指して、とぼとぼと歩き始めました。



結局、あの後、私たち家族は夜逃げ同然に住み慣れた我が家を後にし、とりあえず、近場の旅館に逃げこみました。

「いや~、ヒカル、迷惑かけちゃってゴメンな」

と、これまた「頼まれてたテレビの録画予約を忘れちゃったよ」ぐらいの感じで、父は私に謝罪しました。

もう怒る気もありませんよ~。

父は昔からこんな感じでの人すから、そりゃ、会社の経営が危うくなれば真っ先にリストラされちゃいますよね。
しかも、いくら相手が親友とはいえ、自分の会社が経営危機に陥ってる人の連帯保証人まで、引き受けちゃうんですから、もう人が良いを通り越して、ただの馬鹿ですよ。
しかも、どうやら闇金から借りてたみたいで、ゲームだったら、間違いなくBADエンドルート直行決定です!

「で、これからどうするつもりなの?」

私はのんびり温泉旅行に来てるかのようにリラックスしている両親に訊きました。
何でも父の親友(当然既に家族もろとも失踪中)の負債は五億だそうで、とても我が家を差し押さえたぐらいでは、足りる額ではありません。
それにしても、こういう場合必ず借金した本人が先にトンズラこきますよね。
まったく、こちとらイイ迷惑ですよ。
小学校に入学したら、「決して借金の連帯保証人になるべからず」と、真っ先に教えるべきだと断固主張しちゃいます。

「ん~~、そうだな、どうしようか?母さん」

「そうですね~。このままじゃ、お父さんは内臓売らされて、私とヒカルはどこかハーレムのある国に売り飛ばされちゃうでしょうから、ここはやっぱり、雲隠れするしかないでしょうね~」

と、あまりにもデストピアな未来を語ってくれる母に戦慄を覚える私でした。

「でも、大丈夫。ヒカルは何も心配しなくていいからね~」



「それにしても叔母さんに最後に会ったのって、幼稚園の頃なんだよね」

平日とはいえ、さすが今や日本を代表する観光名所。
人でごった返す大通りから、私は人気の少ない裏通りへと入っていきました。

「叔母さんって、確かお母さんより十歳くらい若いはずだから、まだ二十、七~八ってことか」

この辺りは、表通りとは違い、なんだか古くて小汚い建物が多く目に付きます。

「何だか昔の映画に出てくる闇市みたいな場所だな~」

そうして、私は一軒の古びた小さなテナントビルの前にたどり着きました。

「え~と、住所はここでいいんだよね。喫茶店『羽の生えたカヌー』か」

そのビルの一階が叔母さんの喫茶店になっていて、入り口の横に小さな窓がついています。
ここが私の叔母さんの喫茶店か。
あんまり期待してはいなかったけど……ここまでボロとはね。

「それにしても変な店名……」

私がしげしげと店の看板を眺めていたら、

「うぎゃーーーー!!」

突然窓ガラスが割れて、絶叫を上げながら、男の人が投げ出されてきました。
そして、その男の人は私の目の前の道路に倒れこみ、白目をむいて痙攣しています。

「な、な、何なの?!いや、それより、救急車!救急車!」

私は思わず、後ずさりしながら大声を上げました。
次の瞬間、喫茶店の入り口のドアが開き、中からメイド服姿の女の人が現れ、

「ったくよ~、嫌がらせするなら、もう少し気の利いたことをやれよな~」

と、不愉快そうに呟きました。


うわ~~~、何だか凄い人が出てきちゃいましたよ!


その女の人は滅多にお目にかかれないような凄い美人なんですが、着ているメイド服を自分流にアレンジしてあって、服のあちらこちらにチェーンやらトゲトゲやらが付いていて、服装のセンス的にはあまりにも残念すぎる人でした。

「これじゃあ、まるで『北〇の拳』か『マッ〇マッ〇ス2』に出てくる悪党じゃないですか!」

と、私が心の中で密かに叫んでいると、

「ふ、ふざけんな!おい、おまえ、客にむかって何するんだ!」

割れた窓の向こうの店内から激昂する男の人の声が聞こえてきました。

「ああ~~?」

声のほうに振り返るメイド服の美女。
そこには、外に放り出された男の人の連れらしいデブの大男がいました。

「誰が客だって?うちじゃ、理不尽な言いがかりで店員に難癖をつける輩は、客とは呼ばね~んだよ!」

吐き捨てるように、メイド服の美女はそう言い放ちました。

「り、理不尽な言いがかり?注文したオムライスにゴキブリが入ってたんだぞ!悪いのはお前らのほうだろうが!」

そして、そのデブの男は窓際の自分のテーブルの上のオムライスの中のゴキブリを指差しました。


………これって、もしかして。

いや、今時こんな古典的な嫌がらせなんてする人がいるわけないですよね。



てな具合に、私が一人状況について行けず、悩んでいると、

「ん~~?ゴキブリだ~~?」

オムライスの皿を見てから、店内に戻ったメイド服の美女は目の前のデブの大男に目をやり、

「おい、オマエ、体重は?」

「えっ?」

「えっ?じゃね~よ。何キロか訊いてるんだよ。日本語が分かんね~のかよ」

と、絡み始めました。

「な、七十キロだけど」

「ふ~ん、七十キロね~」

そう言うと、メイド服の美女は、あろうことか、デブの大男の胸ぐらを掴んで、割れた窓から外に投げ飛ばしました。

「嘘つけ!九十キロ以上あるだろ!二十キロもサバ読むんじゃねーよ!」

ドサっ!という音とともにが私の目の前に米俵のように転がってくるデブの大男。
いつの間にか意識を取り戻していたのか、先に放り出された男の人がデブの大男に駆け寄ってきました。

「こんなことして、ただで済むと思ってるのかよ!」

「うるせー!さっさと、そいつを連れて帰んな!そんで、オマエらの雇い主に『いいかげん、諦めろ』って、言っておけ!」

と、二人を見下ろしながら毅然と言い放つメイド服の美女。
その姿は、まさに阿修羅のごとく!と思わず形容してしまうほどの凄みを感じさせるものでした。

「くそ~、覚えてろよ~」
 
明らかな敗北宣言の後、男の人は連れのデブの大男を引きずるようにその場から退散していきました。

「あ~、ついでに教えてやるが、うちの店の料理は全部冷凍食品で、レンジでチンして出すだけなんだよ!だからオムライスの中にゴキブリが入るなんてことあるわけねーんだ。残念だったな。今度から忘れないことだ!」


………あまり自慢げに語ることじゃないと思うのですが。



第二話・ベネット、号泣する


私は、その場にただ呆然と立ち尽くしていました。

すると、

「何だ、オメー、何見てんだよ?!」

と、メイド服の美女が今度は私に絡み始めました。

ああ~、どうしよう!

私はとっさに周りの人に助けを求めましたが、クモの子を散らすように、一瞬にして、私の周りから人はいなくなりました。

うわ~~、東京もんって薄情!

田舎(東京の隣ですけど)から出てきたか弱い女の子を見捨てるなんて、人として最低ですよ!
でも、今はそんな恨み言を言ってる場合じゃありません。
とにかくこの場を何とか切り抜けないと。

「あ、いえ、別に」

私は伏し目がちにそう答えました。

「ん~?テメーも、あいつらの仲間か?」

しどろもどろに答える私に、メイド服の美女は逆に不信感を高まらせたようです。

「なに黙ってんだよ!オラ!口がねーのか、おまえ?」

メイド服の美女が、じわりじわりと私に近づいてきます。

ああ~、ヤバイ!このままじゃ、私もあの二人組みたいな目に遭わされるかもしれません。

「あ、あの~~」

その時、店の中から一人の女性が現れました。

「『ベネット』ちゃん!」

メイド服の美女を「ベネット」と呼んだその人は、母とよく似た大人の女性で、長い間会っていませんでしたが、一目で、私の叔母だとわかりました。

「おおー!どーだ『大佐』、見たか?俺様の活躍!」

「ベネット」と呼ばれたメイド服の美女は、くるりと踵を返し、叔母のことを「大佐」と呼びました。

「大佐」?

「ベネット」?

あだ名にしても変な呼び方ですよね。

「ええ、拝見させてもらいました。さすがはフロアーチーフね。見事な接客だったわ」

叔母はニコニコ笑いながら、「ベネット」さんの側まで歩いてきます。

「やだな~、照れるじゃねーか。まあ~、俺様プロですから」

意気揚々と自画自賛する「ベネット」さん。

次の瞬間、叔母はスパナを取り出し「ベネット」さんの顔面をおもいっきり殴打しました。

え?!

なに?!

一体何がどうしたっていうの?!

「うぐお~~~!!」

うわ~~痛そう~~。

悲痛な叫び声とともに、地面にうずくまる「ベネット」さん。
そんな「ベネット」さんを叔母さんは仁王立ちで見下ろしながら、

「何度言えば分かるのかしら?いちいち嫌がらせをする客が来るたびにお店を破壊するのはよしなさいって!」

と、激しい口調で叱責しました。
顔を笑っていますが、叔母さんは怒り心頭のようです。

「う、う、う~~~、ずびばせ~~ん『大佐』」

鼻血を手で押さえ、道路にうずくまったまま、泣きながら謝り続ける「ベネット」さん。


………………………………………………なんかとんでもないところに来ちゃったみたいです。



ホントはこのまま、回れ右をして、この場を後にしたいのが本音なんですけど、帰る家のない私には他に選択枝はありません。
私は勇気を振り絞って、恐る恐る叔母に声をかけました。

「あ、あの~~~」

私の声が小さく、震えていたせいか何の反応もありません。
私はもう一度叔母さんに声をかけました。

「あの~、叔母さん、お取り込み中、申し訳ないんですけど~」

すると、叔母はようやく私の存在に気づき、

「え!まあ~!あなたもしかしてヒカルちゃん?」

「はい、お久しぶりです、叔母さん」

「やだ~、しばらく見ない間に大きくなったわね~」

と、それまでの態度が嘘のように、叔母さんは満面の笑顔で応えてくれました。

ああ~、よかった、私の知ってる叔母さんの顔だ。

でも、私が声をかけた瞬間、慌てて「ベネット」さんの鼻血の付いたスパナを後ろに隠したことは見逃しませんでしたけど。



「ホント、十年ぶりくらいかしら。確か最後に会ったのはヒカルちゃんが幼稚園の頃じゃない?」

「はい、だいたいそのくらいです」

叔母さんは私の母と外見も喋り方もそっくりなせいか十年ぶりの再会だという感じがしません。
こうやって話していても、まるで家で母と話しているかのような錯覚を覚えます。

「そうよね~。そのくらい会ってなかったもんね~」

「あ、あの~、今回父の件で、いろいろとご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

私は改めて深々と頭を下げました。

「いいのよ~、それよりヒカルちゃんの方が大変だったでしょ~。お姉ちゃんから話は聞いてるわ。まあ~お義兄さんの人の良さも、ここまでくると、もう犯罪的よね~」

まったく心底徹頭徹尾同感です。

「でも、もう大丈夫~。今日からはここを自分の家だと思ってちょうだいね~」

そうなんです。両親がほとぼりが冷めるまで雲隠れしている間、私は母の妹である叔母のところでやっかいになることになったのです。

「は、はい、あの~、もしかして、叔母さんが経営してる喫茶店って、メイド喫茶なんですか?」

私はここに来てから、気になっていたことを質問してみました。

「ええ~、そうよ~」

叔母さん私の肩に手をかけて、私の目の前にある古びたビルの一階にある小さなお店を指差してこう言いました。

「ここが私が経営してるメイド喫茶『羽の生えたカヌー』。でも、お店の常連さんは別の名前で呼んでるけどね」

「別の名前?」

こんな小汚、もとい、ささやかな佇まいのお店にも常連さんなんているんですね。
まあ、常連さんでもいなければ、このご時勢とてもじゃないけどやっていけはしないでしょうけど。

「そう、この店は秋葉原に出来た十三番目のメイド喫茶。だから通称『アキバ13』って呼ばれてるわ~」

「アキバ13」

それにしても店名が「羽の生えたカヌー」で、常連さんの通称が「アキバ13」って何かの冗談でしょうか。

もっとこう乙女ちっくで、プリティな店名とか思いつかないんですかね。

そう、例えば、気品漂うイメージで「金色の春風」とか。


…………すみません、私現国の成績はCなんです。


それから、

「さあ、中に入ってちょうだい~。お店の皆に紹介するから~」

と、言いながら叔母さんは私を店の中に連れて入ろうとしました。

でも…………。

「あ、あの~、あそこで倒れてる『ベネット』さんはいいんですか?」

私は道端で、うずくまって泣いてる「ベネット」さんのほうを指差して言いました。

なのに叔母さんときたら、

「ん~~~『ベネット』?」

と、まるで「ベネット」さんのことが見えてないかのように振舞います。

ちょっと叔母さん!

An〇therの「いないもの」だって、一つ間違えればイジメになっちゃうキワドイネタなんですからね!

「さっき叔母さんがスパナで張っ倒した人ですよ!」

私はもう一度「ベネット」さんの方を指差して大声でいいました。

「う、う、う~~~、『大佐』ごめんなさ~~~い」

それにしても…………女優かモデルかと見紛う美貌の持ち主で、六本木でも歩けば、すぐにナンパ男の10人や20人ひっかかりそうな人が、顔面全体涙と鼻水でパック状態とは。


「ベネット」さん、同じ女として悲しすぎますよ!!


「もう、そんな無視しないで、ほら、あそこにいるじゃないですか。泣きながら謝ってるんだから、許してあげて下さい」

私の本意が伝わったのか、ようやく叔母さんは「ベネット」さんの方に目をやって、

「そうね~~~。確かにあそこにいるのは………」

「『大佐』~~~!!」

絶望のどん底で、一すじの光明が見えたかのように歓喜の表情を浮かべる「ベネット」さん。

なのに叔母の次の一言は、

「死体だけよね~」

………………でした。

「『大佐』ーーーーーーーー!!」


ああ~~、初めて知りました。

人って、本当に血の涙を流すもんなんですね。



第三話・大佐、命名する


「あ、ありがとうございます~~。「大佐」~~~」

私の説得が功を奏したのか、ようやく叔母さんのご機嫌が直り、「いないもの」ごっこは終了しました。

「いいこと~、ホントにこれが最後だからね~。今度やったら、お店から永久追放するからね~。OK?」

「お、OK~~」

「ベネット」さんと叔母さん、そして私の三人は店の入り口に向かって歩いています。
「ベネット」さんといえば、相変わらず顔面土砂崩れ状態です。
これじゃあ、ほとんど遊園地で迷子になった幼稚園児みたいなもんで、とても大人の女性とは思えない有様です。

「ごめんよ~~。もう~しないから~~」

「はい、はい、泣かないの~」

あ~あ、泣きたいのはこっちですよ~。


叔母さんがお店の入り口のドアを開けようとしたら、中から四人組みの男性のお客さんが出てきました。

「行ってらっしゃいませ~。ご主人様~」

叔母さんがメイド喫茶でお馴染みのお帰りの挨拶をすると、

「は、はい!い、行ってきます!!」

四人のお客さんは、一昔前の新宿歌舞伎町で、ぼったくりにあった地方出身者のごとく、顔面蒼白状態で、その場から消え去りました。

「あら、あら、どうしたのかしらね~」

あの四人は常連さんじゃなかったみたいですね。

そりゃまあ、あんな鉄火場を見せ付けられたら、逃げ出したくもなりますよ。
多分あの四人は生涯メイド喫茶に足を踏み入れることはないでしょう。


「さあ~、ここが私のお店「羽の生えたカヌー」よ~。どう~、ご感想は~?」

「は、はあ~」

お店に入ると、私は店内をゆっくりと見回しました。
お店の内部は奥行きのある長方形で、入り口の横の窓際(さっき「ベネット」さんが男の人を放り出した窓です)に四人がけの席が一つ、入り口の前方の左の壁際に同じ四人がけの席が三つ、反対側の右の壁際はカウンター席になっていて、六人ほど座れるようになっていました。
内装はシンプルですが、ヨーロッパのアンティークな小物や、多分無名の画家の作品なのでしょうが、見てるとなんともいえない心地よさを感じる風景画などが飾られていて、外観とは裏腹に洒落たお店になっています。

ふ~ん、叔母さんって、意外とまともな感性してるんだ。


「ここが叔母さんのお店ってことなら、やっぱり叔母さんが店長なんですよね」

などと、失礼極まりないことを考えているのを御くびにも出さず、私が尋ねると、

「いいえ~、私はマネージャーよ~」

叔母さんから意外な答えが返ってきました。

まあ、経営者が別に店長を雇うことはよくあることですが、こんな小さなお店で店長を雇う余裕なんてあるんですかね?


「それじゃあ、店長はどなたが?」

「ヒカルちゃんのすぐ隣にいるでしょ~」

叔母さんは相変わらず、いつもと同じように微笑んでいます。

「え?どこですか?」

私は店内を見回しましたが、カウンターの向こう側にお店の従業員らしきメイド服を着用した女の子が二人いる以外、誰の姿もありません。

「叔母さん、誰もいないじゃないですか?」

私が叔母さんに不思議そうな顔を向けると、

「ほら~、そこで~、お尻舐めてるでしょ~」

叔母さんの口から耳を疑うような言葉が発せられました。


「えーーーーー?!」


何なんですかその人?!

昼日中こんな街中でそんなことをやってるなんて、どんなレベルの変態なんですか?!
ちょっと昔に某国の国民的アイドルグループの一人が、夜中公園で裸になったことがあったけど、その比じゃありませんよ!

「うふふふ~、横のソファーの上よ~」

ソファーの上?

私は改めて、斜め横にあるソファーに目をやりました。
すると、そこには毛むくじゃらの何だかよく分からない生き物が寝転んでいて、昼寝しながらお尻を舐めてるじゃないですか!

でも、これって?

「こ、これは………犬?猫?それとも狸?いや、あるいはコアラかなんかという可能性も」

そうなんです。
一応哺乳類なのは間違いないようですが、どんな生き物なのか皆目見当がつきません。

そんな感じで私が当惑していると、

「この子がうちの店「羽の生えたカヌー」の店長の「アリアス」ちゃんよ~。今日から仲良くしてあげてね~」

叔母さんが私の背中越しに声をかけてきました。


………………………畜生が店長って。


叔母さん!不必要に動物の権利を向上して、喜ぶのは、グ〇ーン〇ースの連中くらいなもんですよ!

前言を撤回します。
やっぱり私の叔母さんって、全然まともじゃありません。


しかたない、こうしていても埒が開きません。
ここは私が妥協して、叔母さんの「動物さん店長」ごっこに付き合うことにしましょう。

私は、「アリアス」ちゃんに顔を近づけ、

「こんにちは「アリアス」ちゃん。今日からここでお世話になる山田ヒカルです。よろしくね!」

と、ファーストフードのお店でお馴染みのまるで感情のこもっていない完全マニュアル化された0円スマイルをかましてやりました。

ところが、

「ふにゃ~~!」

こいつ=「アリアス」ちゃんは私を一瞥すると、大あくびをした後、プイっと尻尾をこちらに投げ出し、また昼寝の時間に戻っていきました。

「あら~、あら~、今日はご機嫌がナナメみたいね~。大丈夫すぐに仲良しになれるわ~」

こんなケダモノと一生仲良くなんかならなくて結構です!


「それじゃあ~、端から紹介するわね~」

お店の入り口に「準備中」の札をかけてから、叔母さんは、私を紹介するためにお店のフロアに従業員を全員集めました。

「まずはフロアチーフの「ベネット」ちゃん」

「う、う、う~~、ごめんよ~~、「大佐」~~」

「よ、よろしくお願いします(まだ泣いてるなんて、いい歳して、ちょっと大人気なさすぎるんじゃないんですかね。って、うわ~!近くで見ると、やっぱ、凄い美人!身長は叔母さんと同じくらいだから、170センチってところか。ロングヘアーの黒髪もつややかで、女の子としては憧れちゃうよ。でも、この容姿で、この性格なんて、あまりに残念すぎるよね~)」

「その隣は接客担当の「サリー」ちゃん」

「………ふん!」

「よろしくお願いします(え?!この娘、小学生?………いや、メイド喫茶でバイトしてるくらいだから、最低高校生以上だよね。でも、身長は150センチないし、童顔の上、ツインテールの髪に大きなリボンをつけてたら、どこからどう見ても小学生にしか見えないよ。う~~ん、それにしても、さっきからなんだか視線が痛いんだけど。何かこの娘に恨まれるようなことしたかな?)」

「その後ろが調理担当の「クック」ちゃん」

「(聞き取れないくらいの小声でボソっと)よろしく」

「よろしくお願いします(うわ!なにこの娘!デカッ!180センチ近くあるよね。肌がいい感じで日焼けしてるけど、地肌っぽいから、沖縄かあっちの方の出身かな?性格は大人しそうだからいいけど、何だか眠たそう顔してるし、声も小さくてよく聞き取れないな。それにしても、この店って、料理は全部冷凍食品だっていってたのに、調理担当なんて必要なのかな?)」

「で、マネージャーの私と店長の「アリアス」ちゃん。これが私のお店の全スタッフよ~」

なんだかもう絶望的なくらい前途に暗雲が立ち込めるメンツでした。


「それじゃあ~、ヒカルちゃんの~、メイドネームを決めましょうか~」

お店の人たちとの挨拶が一通り済むと、叔母さんが待ってましたとばかりに切り出してきました。

「メイドネーム?」

「お店で使う名前のことよ~。本名じゃ~、マズイでしょ~」

まあ、そうですよね。最近ストーカー犯罪とか色々ぶっそうだし。

「うちの店じゃ~、マネージャーの私が決めることになってるんだけど~」

さっきの先輩方のふざけた名前は、とても本名とは思えませんでしたけど、やはり叔母さんの仕業でしたか。
うちの母もペットの金魚に「アレクサンドロス・ペトロビッチ」などと名付ける人ですから、やはり血は争えないな~などと考えていたら、

「新人なんだから、「パシリ」でいいんじゃねー?」

と、いきなりベネットさんが口をはさんできました。


…………「パシリ」って。

「ベネット」さん、さっきまで鼻を垂らして泣いていた人と同一人物とは思えない先輩っぷりですね!

でも、そんな「ベネット」さんの非常識な提案に対し、

「却下~」

と、叔母さんは常識的な判断を下してくれました。

「え~!せっかく俺さまが考えてやったのによ~」

何をそんなに残念がってるんですか?!
そんな名前が採用される確率なんて、年末ジャンボ宝くじで一億円当たる確率と同じですよ!
どうでもいいけど、宝くじ売るなら、ちゃんと当たらない確率も発表するべきだと思うんですけど!

ところがここで叔母さんが、「ベネット」さんの思考の遥か斜め上を行く、非常識極まりない名前を提案してきました。

「そうね~、ヒカルちゃんだから~、「カルロ」なんか~、どう……」

「嫌です!」

脊髄反射なみの速さの即答でした。

「ええ~?可愛いのに~」

叔母さん!いくら可愛い娘ぶりっこしたって、三十路前の小じわは隠せませんよ!

「こら、新人のくせに逆らってんじゃねーよ!」

「ベネット」さんの脅迫があっても、私の決意は変わりません。

「とにかく、そんな物置小屋の扉を開けた途端、ピッチフォークで胸を串刺しにされるような名前断固拒否します!」

ピッチフォークっていうのは、農作業で使うバカでかいフォークみたいな農機具のことです。

「けっ、「大佐」の姪御だからって、デカイ面してんじゃねーぞ、こら!」

あ~あ、神様!!

十分すぎるほど不幸な私に何故このような試練をお与えになるのですか?
せめて名前くらい人並みのレベルの悩みでいいじゃないですか!


で、それから、どうなったかというと…………。

「それじゃあ~、ヒカルだから~「ヒッキー」とか~」

「決まりだな!」

「決まりね」

「(聞き取れないくらいの小声でボソっと)決まりですね」

「そんな名前名乗るくらいなら、名無しの女子高生で一生終えたほうがはるかにマシですよ!」

「じゃあ~、「カルロ」で決定~。反論は認めませ~ん」

「そ、そんな~」

「よろしくな、「カルロ」!」

「ふん!私たちの足を引っ張らないでね、「カルロ」!」

「(本当に聞き取れないくらいの小声でボソっと)「カルロ」か、ちょっといいかも」


「もうーー!やだーーー!!」


という具合に私のお店での呼び名は、「カルロ」に決定してしまいました。



第四話・サリー、嫉妬する


「カルロショック」から立ち直れないまま、時間だけが無情に刻みつづけ、いつの間にか、もう夜の七時近くになっていました。その間、叔母さんがお店の仕事のこととか色々説明してたみたいですが、当然私の耳には入りませんでした。

一通り説明が済むと、叔母さんは時計の方に目をやり、

「それじゃあ~、私とベネットちゃんは~、昼間のことで~、ちょっと秋葉原警察署まで行ってくるから~、クックちゃんは店番~、サリーちゃんはカルロちゃんのお店で着るメイド服を二階に行って見てあげてね~」

と、言いながら出かける準備を始めました。

「分かりました大佐」

「(ホントに聞き取れないくらい………もういいですよね)了解っす」

どうやら、しょっちゅう同じようなことがあるみたいで、二人とも、もう完全に慣れっこのようです。

「カルロ!帰ってきたら皆で店の片付けすっからな。フケんじゃねーぞ、カルロ!」

叔母さんのお供を仰せつかったベネットさんが出かける間際、そう言いながらいきなり私に絡んできました。

まったく、このヒトって。

「もう、何度も何度もカルロって言わなくても分かりますよ!それに店を壊したのは、フロアチーフのベネットさんじゃないですか!」

思わず、私も感情的に言い返しました。

「けっ、口ばっかり達者なトーシロが!俺様は「メイド道」を極めたプロなんだよ!オマエみたいな小娘が、俺様に説教なんて100年早いんだっつーの!」

何が「メイド道」ですか!
そんなの戦車をピンクや金色に塗って「道」を極めたと思い込んでるイカレポンチと同じですよ!

………もちろんこんなこと恐ろしくて、とても口になんか出せやしませんけど。


「ほら、ベネットちゃん、ちゃっちゃっと行くわよ~」

「いててて、大佐!耳がーー!、耳がちぎれるってーーー!!」

ベネットさんの耳たぶを掴みながら、叔母さんはベネットさんとお店から出て行きました。

お店の中は、さっきまでの騒々しさ嘘のように、居心地の悪い静けさに包まれました。

えーと、何か話題、話題と。
私はすぐ隣に立っていたサリーちゃんに話しかけました。

「えーと、サリーちゃ」

「サリー先輩!」

「すみません。サリー先輩」

やっぱりこの子、今日会ったばかりなのに、私に良くない感情を抱いているみたいです。
でも、その原因が私には皆目見当つきません。
そんな感じで一人で悩んでいると、

「ほら、二階に行くからついてきなさいよ」

と言って、サリーちゃんは私を残して一人でお店の外に出て行きました。
どうやらこのビルの階段は建物の外側についているみたいです。

「あー!ちょっと待って!待っててばー!」

私は慌てて後を追いかけました。

あ~あ、ホント、今日は疲れる一日です。


階段を上りながら、私は前を歩くサリーちゃんに話しかけました。
やっぱり、バイト仲間なんだから冷戦状態は良くないですよね。

「あの~、サリー先輩の本名って」

私は当たり障りのない話題を振ったつもりだったのですが、

「いいたくない」

と、瞬殺で拒絶されてしまいました。

「えっ?でも、これから一緒のお店で働くわけだし」

「別にあんたとアタシ、ただのバイト仲間で、友達でもなんでもないんだから、アタシの本名なんか知る必要ないでしょ」

「………」

う~ん、ここまで嫌われるなんて………駄目だ。やっぱり理由が思いつきません。


二階に上がると、そこには薄汚れた金属製のドアと赤錆びた古い郵便ボックスがありました。ドアには「喫茶「羽の生えたカヌー」事務所・関係者以外立ち入り禁止」と書かれたプレートが掛かっています。

「ここよ」

サリーちゃんが鍵でドアを開け、部屋の中に入り、私も後に続きます。
部屋の中は真っ暗で、何も見えません。
ドアから少し離れた照明のスイッチに手をやるサリーちゃん。
カチっという音ともに私の目に眩しい光が飛び込んできました。

「二階のこの部屋は事務所になってて、着替えや休憩なんかはここを使うことになってるから」

と、サリーちゃんは究めて事務的に説明してくれました。

でも、

「………」

私は部屋の中を見回した後、言葉を失い呆然と立ち尽くしてしまいました。

「………えーと、ホントにここって、叔母さんの店の事務所なんですか?」

私は必死に平常心を保とうとしましたが、声が上擦って、上手くしゃべれません。
怪訝そうに私を見つめるサリーちゃん。

「何よ、それってどういう意味?」

だって、ここって。

「どーみたってここゴミ捨て場じゃないですか!こんなところで着替えや休憩なんかできるわけないじゃないですか!そもそも何か異臭が充満してますよ、この部屋!」

と、私は我を忘れて大声で怒鳴りました。

そうなんです!

部屋の中はあたり一面ゴミの山で、とてもここが事務所や休憩室とは思えない有様なんです!
しかも例の黒くて早くて小さい生き物の気配を、そこら中からビンビン感じますし!

それなのにサリーちゃんときたら、

「アホらし、寝言いってんじゃないわよ」

と、まるで相手にしてくれません。

冗談じゃありません!
あのゴミの山が目に入らないんですか?
ここでも「いないもの」ごっこですか!
ここで流行ってるんですか、「いないもの」ごっこ?!
アキバの新しいご当地名物にでもするつもりですか?!

私は一際腐敗臭漂う一角を指差して、大声叫びました。

「ほら、あそこなんか、カビの生えた布団まで捨ててあるじゃないですか!」

ところが、次の瞬間、サリーちゃんの口から恐るべき真実が知らされました。

「あー、言い忘れてたけど、ここ、ベネット先輩が寝起きに使ってるから。あれ、ベネット先輩の布団」

「………えっ?今なんて?」

「だから、ベネット先輩、このお店で住み込みで働いてるのよ。同じこと何回も言わせないでよね!」


………嘘だよね。


いくらベネットさんが残念すぎる人とはいえ、仮にも女の人なんだよ。
そりゃ、世の中にはズボラで、部屋を掃除したりしない女の人とかいるみたいだけど、これはそんなレベルじゃないですよ!
どう考えたって、ここは喫茶店の事務所というより、青き衣を纏った美少女がでっかい蟲と戯れるのがお似合いな場所ですよ!

「何なんですかあのヒト?!ホントに人間なんですか?!私だったらここで寝起きするくらいなら、夢の島でキャンプする方を即座に選びますよ!」

てな感じで、私が一人ハイテンションのブチ切れ状態で喚きまわっているのを、冷ややかな目で眺めていたサリーちゃんの口から、さらに恐ろしい事実が明かされたのでした。

「………そんなに文句あるんなら、アンタが掃除すればいいでしょ。今日からアンタここに住んだから」

「へっ?」

「大佐がそう言ってたわよ。今日からアンタもここで住み込みで働くって。でもね、言っておくけど、ベネット先輩の面倒はアタシがみるんだから、アンタは余計なことしないでよね!」

「………」


………神様、やっぱり、今からハーレムのある国にいく方にチェンジできませんか?



第五話・クック、正直に答える


「カルロショック」に続いて、今度は「腐海」での新生活という、ほとんど拷問に等しい責め苦を与えられながらも、私は何とか気持ちを切り替えることにしました。

いくら嘆いてもしょうがないよね。
ここはポジテイブ思考でいきましょう。

「ほら、このロッカーに予備のメイド服があるから、自分で適当に選びなさいよ」

サリーちゃんがゴミの山の奥に埋もれていたロッカーを指差して、そう言いました。
しかたありません。
私はゴミの山をかき分けて、ロッカーまでいき、中から自分に着られそうなメイド服を取り出しました。

「うわー、こうやって見ると、やっぱメイド服って可愛いですよね。サリー先輩もメイド服が着たくてこのバイトを?」

私はわざとらしいほどはしゃぎながら、そう言いました。

ところが、

「ふん、メイド服なんて、夏は暑いし、着るのは面倒だし、ロクなことないわよ」

と、サリーちゃんはまるで取付く隙を与えません。

「じゃあ、何でここでバイトしてるんですか?」

こんなところでバイトする理由が他にあるとは思えないのですが。

「それは………それはあんたには関係ないでしょ!だいたいカルロ、あんた生意気なのよ!大佐の姪かなんか知らないけど、いきなり現れて、うちの店でバイトするとかいって、そのうえ、ベネット先輩に馴れ馴れしく話しかけるなんて!」

「えっ?別に馴れ馴れしく話しかけてなんて」

どっちかっていうと、馴れ馴れしく話しかけられてたほうだと思うんですけど。
それもかなり慇懃無礼な感じで。

「うそ言いなさい!さっきだって、ベネット先輩とあんなに楽しそうにしゃべってたじゃない!」

「………楽しそうって」


う~~~ん、信じられないことですけど、どうやらこの娘、マジでベネットさんのことが好きみたいです。

いやはや、世の中広いものですね。
いくら美人とはいえ、あんな未来から来た殺人アンドロイドみたいな人に好意を持てるなんて、ほとんどノーベル賞ものの人類愛ですよ。

「とにかく、さっきも言ったけど、ベネット先輩のお世話はアタシの仕事なんだから、あんたは引っ込んでてよね!」

「頼まれたって、御免こうむりますよ!」

つーか、サリーちゃん、メイドの仕事はお客の世話を焼くことでしょうが!


その時、下のお店の方から何か物が壊れるような大きな音とともにクックちゃんの悲鳴が聞こえてきました。

「クック!」

そう叫ぶや、サリーちゃんは部屋から飛び出し、階段を駆け下りていきました。
私もその後に続きます。

なんだか嫌~~~な予感がするんですけど。


お店に入ると、そこには昼間ベネットさんが追い出した二人組み(便宜上ヒョロとデブと呼称します)の姿がありました。
カウンターの上は割れた皿やグラスが散乱していて、クックちゃんはフロアの床に座らされています。

どうやら予感的中のようです。

「あんたたち、何してんのよ!」

烈火のごとく二人組に食って掛かるサリーちゃん。
サリーちゃんの声に反応して、二人はゆっくりとこちらを振り向きました。

「!」

二人と目が合った瞬間、私の背筋に冷たいものが走りました。
二人の目にはまったく生気が感じられず、そう、まるで死んだ魚のような目をしています。

「ちょっと、サリー先輩、なんかマジでヤバそうなんですけど」

私は後ろからサリーちゃんの肩に手をかけ、そっと呟きました。

「カルロ、逃げたきゃ一人で逃げな!私は大佐とベネット先輩に留守を任されてるんだから!」

私の手を振りほどき、サリーちゃんはそう言いました。

「そんなこと言われたら逃げるわけにいかな」


ズダーーーン!!


「なっ?!」

「ゴチャゴチャとうるさいんだよ、おまえら」

私は自分の目を疑いました。

なぜなら、二人組の一人、ヒョロの手には銃口から硝煙が立ち上るショットガンが握られていたからです。

ウソでしょ?
ドッキリとかじゃないんですか?

そんな、ダーティーで、リーサルで、ダイがとってもハードな刑事が出てくるハリウッド映画じゃあるまいし。

茫然自失とする私たちを尻目に、

「さあ、おまえらも大人しくこっちに来るんだ!今からおまえたちは僕たちの捕虜なんだからな」

と、今度はデブのほうが虫唾の走るような下卑た笑いを浮かべながら、私たちにそう言いました。

あ~~あ、こんなことなら、叔母さんに声をかける前にトンズラこくべきでした。


二人組は私たちも床に座らせ、手と足をガムテープで縛りました。

「こんなことして、一体目的は何なのよ?!」

悔しそうに二人組みを睨み付けるサリーちゃん。

「あの~~、サリー先輩、あまり刺激しないほうが」

どう見てもこの二人マトモじゃありません。
ここは大人しくしてたほうが良いのだと思うのですが。

ところが、

「昼間の礼をしにさ。何せ俺ら、アキバの平和を守る正義の勇者だからな」

と、ヒョロの口から中二病全開の台詞が飛び出してきました。

はあ?何いってるんですか、こいつら。

「なに馬鹿いってんのよ!冗談は顔だけにしてよね!」

サリーちゃん、後生だからキ〇ガイを不必要に刺激しないでプリーズ!!

「いいだろう。俺たちの本気をその目に焼き付けるがいい」

と、今度は相方のデブを呼び寄せるヒョロ。

「さあ、見るがいい!これが僕の真の姿だ!」

これまた、オタク臭を満喫させてくれる臭い台詞を吐きながら、デブは私たちの目の前にやってきて、いきなり着ていたシャツの前をはだけました。

「きゃーーー!!」

思わず、私たち人質三人は悲鳴を上げました。

やめてよ!あんたの裸なんか見たら妊娠しちゃうでしょうが!!
ところが、デブのシャツの下から現れたものは、こいつの裸なんかよりよほど恐ろしいものでした。

「!」

「あんたたち、そ、それって?!」

なんとデブの胴体にはダイナマイトが何本も巻かれているじゃありませんか。

「へへへ、僕らは女神様の神託を受けた選ばれた勇者なんだぜ」

………まさにキ〇ガイに刃物のとはこのことでしょう。


つーか、行政!何やってんだよ!!
ちゃんと危険物の取り締まりやってんのか!
路上でオタクを職質するだけが仕事じゃないでしょーが!


「………あんたたち、やっぱり「DDP」と「杏」のビッチどもに操られているのね」

完全にパニくってるの私とは裏腹に、サリーちゃんは至極冷静にそう言いました。

「DDP」?「杏」?
何のことか皆目検討がつきません。

サリーちゃんの言葉に、

「ビッチなんて失礼なことゆーな!「DDP」のクラリスちゃんと「杏」の羅那ちゃんの悪口を言うと、ただじゃおかないぞ!」

「そーだ。二人はおまえらなんかと違って、聖母のごとくいつもお店でぼくらに優しく微笑みかけてくれる地上に舞い降りた女神のような存在なんだぞ!」

と、我を忘れて怒鳴り散らす二人組み。

そんな二人を残念そうに見つめながら、

「あのねー、そんなのただの時給1500円の営業スマイルにきまってるでしょ」

と、サリーちゃんの口からは至極当たり前の現代日本の基礎知識が語られるのでありました。
よく分かりませんが、どうやら「DDP」と「杏」はメイド喫茶の名前のようです。

「黙れ!その二人の女神様が言ったんだ。最近このアキバの街に善からぬ邪気が立ち込めていて、その原因がこの店に巣くう邪神だって。だから、俺たち正義の勇者が悪のメイド喫茶を討伐しにきたんだ!」


………「善からぬ邪気」に「邪神」って。

もう少しオタクなりにボギャブラリーを増やそうって気はないんですか!
そんなんだから、頭の悪い大人に「日本の教育水準が下がった」っていわれるんですよ!


「まったく、連中の洗脳接待術には畏れ入るわ。まあ、見るからにあんたたち単純な脳みその持ち主だけど、ここまで見事に飼いならされるとはね」

「うるさい!おい、そんなことより、残りの二人はどこいった?!」

ああ、そうでした!

すっかり忘れていましたが、叔母さんとベネットさんがそろそろ戻ってくるんでしたっけ。
きっと帰ってくればこのただ事ではない状況にすぐ気づいてくれますよね。
そうなれば、きっと警察に通報してくれるはずです。
でも、こいつらには黙っていたほうがいいでしょう。
破れかぶれになられても困りますからね。

「何黙ってんだ!さっさと言え!」


さあ、ヒカル!ここは私の出番よ!舌先三寸でこいつら騙して、時間を稼ぐのよ!


「あの~~、二人はもう帰宅して、今日は」

その時、今まで一言も喋らなかった クックちゃんが、

「………今、秋葉原警察署、そろそろ戻るはず」

と、バッドエンド直通のフラグを立ててくれました。

「なら、待ってれば戻ってくるんだな。あいつらが戻ってきたら、おまえら全員、仲良くこの邪悪な店ごと吹き飛ばしてやるぜ!」


………もう終わりです。
二人とも自爆テロやる気満々ですよ!!


ああ~~、クックちゃん、あなたって何て正直なコなんでしょう。
ホントにもう絞め殺してやりたいくらいですよ~~。

そんな感じで絶望に打ちひしがれる私とは正反対に、サリーちゃんは、

「それより、あんたち悪いことは言わないからさ、さっさとママのいるお家帰んなさい」

と、私たちを見下ろす二人組みを睨み付けながら、自信満々そう言い放ちました。

「あ~?ふざけたこと言ってんじゃねーよ」

「じゃないと大変なことが起こるわよ」

「ふん、邪神の手下がよく言うぜ。で、大変なことってなんだよ?」

一呼吸置いてから、サリーちゃんは、静かに、しかしながら断固とした意思を感じさせる力強い声で、こう言いました。

「第三次大戦よ」



第六話・ベネット、片をつける


その時、いきなり店の入口から道路工事で使うローラー車が中に飛びこんできました。

「うわーー!何だこりゃーー?!」

突然のことに慌てふためき、運転席の人影に散弾銃をめったやたら発砲するヒョロ。

「ちくしょー!これでもくらえ!」

私たち人質の三人も、近くのテーブルの下に急いで隠れました。

「ったく、今日は厄日だわ!!」


しばらくして銃声が止んだ後、私はゆっくりと顔をテーブルの上に上げました。

「なんだってこんなもんが?」

「駅前で道路工事してたろ。多分あそこからもってきたんじゃね?」

私の目に映ったのは、そう言いながら、エンジンがうなり声を上げたまま停車しているローラー車に歩み寄る二人の姿でした。

「おい、これって?!」

二人組のうち、ヒョロの方が散弾で蜂の巣になった人影を見て、そう大声で叫びました。

「そんな、バカな。な、なんで……なんでこの娘がここにいるんだ!」

二人の驚いた様子は尋常ではありません。
一体誰が運転してたのでしょう?
私は目を細めて、運転席の人物を凝視しました。

そこに乗っていたのは……。

「へっ?人形?」

そうなんです!

運転席にいたのは、等身大の下着姿の女性の人形でした。
でも、その人形、最初はマネキンかと思ったら、どうも違うみたいなんです。
顔がなんかアニメのキャラみたいですし、胸に〇首とかついてて、やたらリアルな出来なんです。

「ああ~、クルミたんを撃っちゃうなんて、なんてことをするんだよ!」

どうやらあの人形の名前は「クルミたん」というみたいです。

「ホントにクルミたんか?」

「間違いないよ!エロデパートに僕たちが取り置きしておいた、最後の一体だよ!どうするんだ!次の再生産は何時になるか分からないんだよ!」

「言われなくても分かってる!だから50回ローンを組んで予約したんじゃないか!」


……あんな人形に50回ローンって。


一体何に使うんですか!
私の想像の限界を遥かに超越してますよ!
つーか、あまりに恐ろしすぎて想像したくもないですよ!!

「でも、一体誰がこんなことを?」


バターーーン!!


次の瞬間、裏の勝手口から、拳銃を構えたベネットさんが飛び込んできました。

「残念だったな。トリックだよ!」

「ベネット先輩!」

思わず、喜びの声を上げるサリーちゃん。

ああ~、やっぱりこの人でしたか。
助けにきてくれたのはいいんですけど、これじゃあ、どっちが悪役か分かりませんよ!
今度助けに来る前に、ちゃんと「I WILL BE BACK」って言って下さいよね!


「くそー!ふざけたマネしやがって!銃を捨てろ!じゃないとこいつらの脳みそを床にぶちまけるぞ!」

私たちに銃口を向けながら、そう大声で叫ぶヒョロ。
ベネットさんが助けに来て、状況はむしろ悪化したといえるでしょう。

「さっさと捨てろ!それともこのダイナマイトで木端微塵になりたいか!」

デブも負けじと、身体に巻いたダイナマイトから伸びているコードの先の起爆スイッチを見せ付けます。

大丈夫、人質は私だけじゃないんです!
いくら何でも大事な後輩のサリーちゃんやクックちゃんを危険に晒すわけないですよね。
きっと何か考えがあるに違いありません。

そうですよ、きっと……。

「好きにしな。俺様の店じゃねーよ!」

……何もないみたいです。

「こんなボロ店、跡形もなく木端微塵にしてくれた方がスッキリすらぁ」

ベネットさん、後で絶対叔母さんに言いつけてやりますからね!!


しばらく、三人はにらみ合い、緊迫した時間が続いた後。

「まあ、落ち着けよ。うちの店にクレームがあるんなら、話を聞こうじゃねーか。これでも俺様、話の分かるほうでね」

と、言いながら、ベネットさんは拳銃を下し、店の床に放り投げました。

「話すことなんかない!俺たちは勇者なんだ!この魔宮に巣くう邪神とお前ら手下どもを倒すためにやってきたんだ!」

「邪神?魔宮?なにバカなこと言ってんだ。ここはただのメイド喫茶だろうが」

……いや、ただのメイド喫茶とはほど遠い店だと思いますけど。

「うるさい!僕らはOASじゃ、999階の最上階まで行って、ラスボスを倒したこともあるんだぞ!それに比べたら、お前らなんか倒すのは朝飯前だ!」

「あのなー、ゲームとリアルをごっちゃにするなよ。格ゲーでチャンピョンになったからって、リアルでプロの格闘家に勝てるわけねーだろうが」

「そんなことない!信じる心さえあれば、叶わない夢はないんだ!漫画でもアニメでもゲームでも、みんなそう言ってるじゃないか!」

「ったく、信じる者は救われるってっか。アホらし」

ホントですよ。
そこらじゅうのメディアで、「信じることの大切さ」とか、馬鹿の一つ覚えに連呼しやがるから、こういうノータリンどもが発生するんですよ!
少しは「疑うことの大切さ」も教えろっつーの!


「黙れ!お喋りは終わりだ!さあ、お前もこっちにこい!」

業を煮やしたのか、ヒョロが一方的にそう言い放ちました。

ああ~、もう終わりです。
さようなら、お父さん、お母さん。
ヒカルは、こんなとんでもない場所に私を追いやったお二人をあの世でうらみ続けますからね。

てな具合に私が今生の別れの気分に浸っていたら、

「そいつは無理な注文だ」

と、ベネットさんは1ミリも慌てるそぶりを見せず、クールに言い返しました。

「なんだと!」

「俺様はキ〇ガイとは取引しない主義でね」

ったくもう!何でこの店の従業員は放送禁止用語愛好家ばかりなんですか!

「ふざけやがって!僕らはキチ〇イなんかじゃない!アキバを救うヒーローだ!」

「いいや、お前らは病気だよ。俺様が治してやる」

怒りで我を忘れ、ヒョロは銃口を私たちからベネットさんの方に向けました。

「くたばれ!!」

引き金に指をかけるヒョロ。

ああーー!神様!!

「甘いんだよ!糞ガキどもが!」

しかし、この時を待ってたとばかり、ベネットさんは電光石火隠し持っていたナイフを二人に投げつけました。

「うぎゃーーーー!!」

デブは起爆スイッチを持ってる腕に、ヒョロは股間に、それぞれナイフが命中!
そして、デブは痛みでダイナマイトのスイッチを床に落としてしまいました。

「伏せろ!」

私たちにそう叫びながら、ベネットさんはスカートの中に隠し持っていた、もう一丁の拳銃を抜いて、ありったけの弾丸をヒョロの身体にぶち込みました。

ガーーン!ガーーン!ガーーン!ガーーン!ガーーン!ガーーン!ガーーン!

「ぐああーー!」

血まみれで壁に激突し、そのまま崩れ落ちるヒョロ。
 
「ちくしょーーー!!」

ナイフの刺さった腕を抑えながら、デブは弾装を交換していたベネットさんに飛びかかりました。

「死ねー!死ねー!死ねー!死ねー!死ねーーー!!!」

キッチンの中で激しくもみ合う二人。

「僕らはヒーローなんだ!ヒーローは絶対負けないんだーー!!」

「クソッタレ!あの世でほざいてろ!」

デブをキッチンの床に投げ飛ばし、足で首根っこを押さえ、そのまま腕を引っ張り首をへし折るベネットさん。

バキッ!!

「うぐあああああ!!」

首の骨の折れる音とともに店中にデブの断末魔の悲鳴が響きわたりました。

私はあまりのことに言葉も出ません。

ゆっくりと立ち上がり、デブの死体を見下ろしながらベネットさんは吐き捨てるようにつぶやきました。

「俺様は「キング・オブ・メイド」なんだよ。キッチンじゃ、誰にも負けねぇ」

ああ~、何てことでしょう。
目の前で起こったことが、とても信じられません。

「ベネットさん」

ようやく、微かに言葉を出せるようになった私は。

「ベネットさん、ベネットさんって!」

そう、今、私が言わなくちゃならないことは。

「ベネットさんって接客担当で、調理担当じゃないでしょーーー!!キッチン関係ないじゃないですかーー!!」


わずか一日で、私も、すっかりこの店に馴染んだようです



エピローグ


「それはそれはご愁傷さまでした。で、それからどうなったの?」

「叔母さんがその後すぐ、警官を連れてきたんだけど、現場検証やら事情調書やらで、結局その日は警察にお泊り。で、その後は今日まで近くのビジネスホテル住まいだったわけ。まあ、お店が派手に壊れたんで、修理してる間、一週間も休めたんだけどね」

あれから一週間が経ちました。
今日は日曜日。
今、私は前の学校の同級生で、幼馴染の高島屋ガラリアちゃんと秋葉原のワクドナルドで昼食を取りながら、彼女に私が体験した驚異の物語を話しています。

「でも良かったじゃない。ヒカルも同僚の人たちも怪我がなくってさ」

「まあね。でも、知らなかったよ。日本でも拳銃の個人所持が認められてたなんて」

そうなんです。なんでも数年ほど前、「世界一の超大国」の大統領に、元俳優で、全国ライフル乱射協会会長だった人が選ばれたそうなんですが、その人、選挙公約で「全人類に銃を持つ権利を保障させる!」という、とてもまともなオツムの持ち主とは思えない公約を実行に移したそうで、当時日本の首相だった「世界一の超大国」のケツにくっついて歩くのが何よりも好きだったムカデ人間総理が、周りの反対を押し切って強行採決して、日本の国会で法案を通しちゃったんだそうです。で、それ以来、日本でも個人の拳銃所持が認められるようになったんですが、当然銃を使った犯罪発生率は急上昇。でも、その元総理は「銃が犯罪を起こすのではない!銃はちょっと持つ人間の気持ちを大きくさせるだけだ!」とか、これまた無責任極まりない発言を残してさっさと政界から引退しちゃったそうです。

まったく、いい迷惑ったら、ありゃしませんよ!

「あんた、一応高校生なんだから、たまには新聞のテレビ欄以外も見みなよ」

「失礼な、ちゃんと見てるわよ!」

「どこを?」

「天気予報のとこ」

「あんたねぇ~」

まあ、ガラちゃんは呆れてますが、私に言わせればマスコミなんて所詮サービス業なんですよね。
マスコミの代表格の新聞だって、「中立、公正」とか建前抜かしてますが、実際自分のところの読者が喜ぶように事実を「解釈」して報道してるわけですし。まして、民放のニュースなんか、ほとんどバラエティー番組みたいなもんで、視聴率を取るためにいかにニュースを面白おかしく報道するかしか考えていませんよ。
あんなもん見るくらいなら、「今日の料理超ビギナーズ」や「日曜マジカル園芸」でも見てたほうが、よっぽどためになります。
ニュースなんて、「何時どこで誰が(何が)何をした(起こった)のか」最低限客観的事実だけ抑えておけば、十分だというのが私の持論です。
といっても、日本で拳銃の個人所有が認められたという事実を知らなかったわけですから、あんまり偉そうなこと言える立場じゃないんですけど。


一通り話しが済んだので、私たち二人はワクドから出て、叔母さんのお店に向かいました。
確か叔母さんの話では、昨日でお店の修理が終わったんで、今日から営業を再開するとか言ってたんですが。

「結局その先輩さん、正当防衛ってことで無罪放免になったんでしょ?」

「うん。そうみたい」

「でも、二人も殺して、警察はともかくよく二人の親とかに訴えられなかったよね」

あの日の夜、秋葉原署から戻ってきた叔母さんとベネットさんは、すぐにお店の内部の異変に気づいて、叔母さんはベネットさんに「何もしちゃだめよ」と言い残して、警察にとって返したそうです。
でも、当然あのベネットさんが、こんな面白いイベントを指を咥えて見てるはずがありません。
駅前の工事現場からローラー車を拝借するとともに、近くのアダルトショップの店頭に飾られてたあの「クルミたん」を窓ガラスをぶち破って、持ち出し、あとの事はご承知のごとく、あの大惨事です。


「まあ、どう考えてもあいつらの方が悪いわけだし、それにどうもあの連中、どっかのいいとこのボンボンだったみたいで、向こうの家もなるべく表沙汰にしたくなかったみたいなんだよね」

「ふ~ん」

「だから叔母さんなんか、逆に連中の親から店の修理費用出させたみたい。しっかりしてるよね、うちの叔母さん」

「あはははは、まあ、そのくらいじゃないと、女手一つでお店なんか切り盛りできやしないわよ」

「まあ、そうかもね」


そんな感じで10分ほど歩き、私たちは叔母さんのお店の近くまでやってきました。

「そういえば、何だっけ?そのお店の店長のアリアスちゃん。その時、どうしてたの?」

「いや~、それがさぁ、あいつ近くの雀荘でご近所さんと徹マンしてたんだって。徹マンだよ、徹マン!いやはや、ホントに何なのかね、あの生き物は……って、ガラちゃん、どうしたの?」

ガラちゃんの様子が変です。
顔から血の気が失せていき、斜め上方を凝視しています。

「ヒカル、あ、あれって、あんたのお店のあるビルだよね」

「うん、そうだけど……ああっーーー!!」

私は思わず、大声を上げました。
なんと、叔母さんのお店がある五階建ての雑居ビルの屋上で、叔母さんが片手でベネットさんの足をつかんでいて、ベネットさんを空中に中ぶらりの状態にしてるじゃありませんか!


「ベネットちゃん~、私、前に忠告したわよね~。今度お店を壊したらお店から永久追放するって~」

「言ったよ!確かに言ったよ!大佐!」

「良かった~。じゃあ~、この手を離しても当然文句ないわよね~」

「け、けど、大佐、店から永久追放するんだろ!この世とは言ってねーだろーが!」

「ああ~~、そう言われて見ればそうよね~」

「じゃ、じゃあ、」

「う~~~ん。あれは~、嘘!」

「え?ぎゃああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

叔母さんが手を離すと、ベネットさんは絶叫を上げながら地上へと落下していきました。

「ああ~、もう!ごめん、ちょっとここで待ってて」

私はガラちゃんにそう言うと、お店まで走り始めました。


お店に向かって走ってる途中、私は若い女の子の肩にぶつかってしまいました。

「あっ、すみません!」

「大丈夫です。心配なさらないで」

私は頭を下げて、その人に謝罪してから、また再び走り出しました。

私は走りながら、ちょっと気になったので、さっきぶつかった女の子の方にチラリと目をやりました。
その子は、知り合いかどうか分かりませんが、黒い髪の小柄な女の子と会話しているようでした。


「あのコが「アキバ13」のニューフェイス。「アキバ13」のカルロ」

「あら、あなたもいらしてたの。「杏」の羅那さん」

「そっちこそ、敵状視察にしては増分ごゆっくりですね。「TNT」のクラリス」

「あんな小汚いお店、わざわざワタクシが来ることもなかったのですが。まあ、たまたま時間が空いてましたので来てみたの」

「……そういうことにしておきます」

「何ですの!その言い方、気に入りませんわね。あんなチンケな店、ワタクシたち「TNT」グループが本気を出せば、すぐに叩き潰してやりますわ」

「あまり連中を甘くみない方がいいですよ。「TNT」のお姫様」

「ふん!まあいいですわ。とにかく今やこのメイド喫茶の聖地秋葉原で、「TNT」と「杏」のチェーン店以外のメイド喫茶はあの店だけ。あの店を店じまいに追いやるまではワタクシたちは同志」

「分かってます。だから、そのための一時休戦」

「なら結構。まあ、今回は失敗しましたが、他に方法はいくらでもありますわ。せっかくですから楽しみましょう、「杏」の魔女さん。「アキバ13」をこの地上から抹殺するその時を想像しながら」


私が走る先には私の叔母さん、ベネットさん、サリーちゃん、クックちゃん、そして店長のアリアスちゃんがいるメイド喫茶「羽の生えたカヌー」、通称「アキバ13」があります。
これからも毎日こんなことが起こるのかと思うと気が重くなりますが、悩んでいてもしかたありません。
人生前向きにいかないと、何をやっても上手くいきませんよね。
ほら、だれか偉い人(?)も言ってたじゃありませんか。

「神は天にいまし すべて世は事もなし」って。

つまり人生なるようにしかならないってことですよね(多分)。
なら思いっきり 不条理で、不確実で、非常識な人生を少しの間歩むのも悪くないんじゃないでしょうか。
私こと、山田ヒカル、メイド名「カルロ」のアキバ13での生活は始まったばかりなんですから。

「ベネットさーーーーん!!生きてますかーーー?!」



第七話・「アキバ13のカルロ」


END

要塞喫茶・アキバ13(その1~7)

要塞喫茶・アキバ13(その1~7)

日本が世界に誇るパチモン文化『メイド喫茶』を題材にちょっと血なまぐさいハートフルコメディを書きたいと思います。 尚、この物語は当然フィクションであり、実在の秋葉原のメイド喫茶、ならびに関係者とは、一切関係はありません。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • アクション
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-04-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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