地獄の井戸

　天国で暮らし始めてもう一年。

　確かに天国というだけあって気候は穏やかで美味しいものもたらふく食べれる。

　生前の行動がよかった人ばかりだから、嫌な人間もいないし争いごともない。
　
　しかし、俺はいい加減ここでの単調な暮らしにあきあきしていたから、

　空を優雅に飛び回っている天使のひとりに声をかけた。

　「なあ、天国にない何か面白いものを見たいんだ。何かないかい？」

　「天国にない面白いもの？　例えば地獄とか」　

　「地獄！　覗いてみたいな。どこで覗ける？」

　「地獄を覗ける井戸なら知っているよ」
　
　　天使はそういいながら俺を「地獄の井戸」まで道案内してくれた。

　「覗きこみすぎて、落っこちないように気をつけなよ」

　　天使をそういい残して飛び去っていった。

　「フフフ、さて地獄にいったやつはどんな生活をしているのかな？」

　　俺はわくわくしながら、「地獄の井戸」を覗いてみた。

　「なんだ、なんだ、暗くてよく見えないぞ」

　　俺は井戸の奥を見た。とその時、誰かが俺の脚を後ろで持ち上げた。

　「わ、や、やめろーーー！」

　　俺はそこで夢は醒めた。

　　「いつまで寝てるんだ。地獄での生活はまだ一日目だぞ」
　
　　目の前の餓鬼に言われ思い出した。
　　
　　俺は死んで地獄にきていたのだった。