Cementick World
遠い未来。
人類の『話す』というアクションが退化していったとしたら。
目を見て見つめ合うだけで、自分の気持ちがわかる
つまり…以心伝心
それが当たり前の時代。
そこでは難病がある。
それは『会話能力』
何百年も前は人類すべてが会話をしていたというのに
今では、まがい物扱い。
日本には3人の難病者が存在する。
僕はそのうちの1人である。
昔は地球上の全てを『世界』と呼んでいたらしいね。
それは、過去の話なんだ。
さて。
これから話すことは、僕が体験したすべてのお話。
どんな物語になるかは僕にもわからない。
こうしている間にも、ものすごいスピードで変化していくから
小さな僕にはまったく予想がつかないんだ。
この世は『世界』ではない。
きちんとした名前がある。
いつの間にか定着していたこの名前。
それは、いつからか人類を変えていったのかもしれない…
その名は________________________
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-セメンティック ワールド-
mutism -無言-
人間は時代と共に変化する。
昔の人は思わないだろう。
まさか、『会話』が退化するなんて。
そして、『以心伝心』が進化の証だなんて。
人々から声が失われる。その人1人の特徴が無くなっていく。
ある意味悲劇である。
不思議なことに人類の型はかわらない。
臓器だって変わらない。
ただ、1つ言えること。それは、声帯がないんだ。
会話をしないからね。
古代から変わらず、使わないものはそれなりに変化していくんだ。
(おはよー。)
何処からか伝わってくる。
声ではなく、頭から出る周波。
伝えたい情報が頭から直で出てくるのだ。
僕はそれに応える。
(おはよ。着替えするから出てって。終わったらリビング行くから。)
よくできてるなー、と思う点は
必ず目を見ないと、情報の交換ができないこと。
そして、目線の受信が頭の中でできること。
人間はいつからこのように変わってしまったのだろうか…
たくさんのことを考えながら僕は自室を後にした。
リビングに行くとテレビがついていた。
朝のニュース番組だ。内容は芸能、経済、天気…と、特に変わったものはない。
だが、アナウンサーは何も異常がないと主張するかのように、微笑みながらただ一点を見つめているのだ。
テレビ番組に欠かせないのはBGMだと僕は思う。
場に応じた雰囲気を作ってくれるし、繋ぎの意味でも重要だと思うのだ。
いくら進化した人間でもBGMは人力では何もできないため、テレビのスピーカーから流れている。
おかしい話だが人の話を聞く機会や、会話を楽しむことが無くなってしまったのに、耳の機能は一切変化していないのだ。
頭と耳で音を受信する。
この風景を昔の人が見たら、どれだけ不思議に思うだろう。
アナウンサーの輝きのない目を見つめれば確かな情報は入ってくる。特に必要な情報は集中して受信しなければならない。
はたから見ればテレビがとても好きで、熱中している人のように見える。
だけどそれは僕たちにとって普通で、当たり前のことなのだ。
いつものように食事を済ませて、学校へ行く準備をする。
休みたいという願望でいっぱいだが、今年、僕は受験生で、行くべき大学のメドがついているため思うようには休めない。
憂鬱な気持ちにかられながら身だしなみを整え、鏡を見る。
高校生らしくない自分、そして今日も何もない一日を過ごすのか。と思うとさらに気分が落ちた。部屋がさっきより一層暗くなったような気がした。
僕は母さんに目線を送る。
母さんは僕の方に振り返った。
(行ってきます。)
(いってらっしゃい。気を付けてね。)
あまりの笑顔に顔が引きつった。
(わかった。ありがとう母さん。じゃあ)
そして僕は今日という日の第一歩を踏み出した。
朝と比べると随分と日が昇った。
照り付ける太陽が眩しい。空の青も晴れ晴れとしていて、先ほどまでの景色との違いに目がくらみそうになった。
歩きながらぼーっと周りを見ていた。
はっきり言って、油断していた。
頭からしか情報を受け取れないから、人の気配には十分気を配らなければいけないのに。
不意に訪れる衝撃。
トントン。左肩を軽くたたかれた。
それはそこに居ないようで、だけれども「確かにここに居るよ」と教えてくれるようなものだった。
僕はとっさにそちらを振り向いた。そこには
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