青春は高3から

0、新年度

春。地元の中学校を卒業し、俺は高校に入学した。地元から離れた東京の私立高校だ。第一志望の高校に落ちたもののそこまで頭の悪い高校ではない。慣れない電車通学になにか大人びたものを感じつつ、期待に胸を膨らませるなどという在り来たりな面持ちでの入学だった。


なんて入学式から早一年。入学当初は楽しみであった登校も、今では面倒くさいを通り越し、週に3回は「学校をやめてやる」と考える勢いだ。ー退屈ー。その一言に尽きた。一応部活には所属しているがスポーツ漫画のように必至こいたり、友情を深めたりとかはない。そもそもしっかりした部活と呼べるのかも謎だ。彼女なんてもんは勿論いなく、ましてやクラスの女子と一週間話さないこともしばしば。こんな感じで一般的な青春要素は僕の生活には1%も含まれていない。安っぽい果汁0%のジュースのようだ。

ーーまあそれも、この春を境に大きく変化するのだが。。。

1、「冬月 雪歩」

「坂季、クラスどうだった?」
「落ちた三組だよ。」
「あーやっぱりー。」
なにが「やっぱり」だ。お前も落ちて、三組じゃないか。ちなみに、我らが統地学園のクラス分けには意味がある。学力による振り分けだ。1~6組に別れ、数字か小さいほど学力が高い。つまり、俺に親しげに話しかけてきた、俺と親しい友達、大賀と坂季こと俺は真ん中よりギリギリ上の学力ということだ。どうだ?一応そんなにばかじゃないんだぜ??見直したか???
まあ毎年、いわゆる良い大学に合格する人の8割りは1、2組なんだけど。
そんなこんなで俺の高校生活2年目はクラスが落ちたショックと清々しい気持ちが同居しながら始まった。なんで清々しいかって?ナンセンスな質問だな。俺は去年1組にいたんだが、あの教室はヤバイ。死ぬぞ。休み時間にまで勉強してやがる。しまいには「数3が待ち遠しくて、先に参考書買っちまったぜ!早く家帰ってやりてぇー!」である。俺があの環境に一年間いれただけでも奇跡だ。清々しいのも当然だろ?。------------------------------------------


「なんだ、お前も3組かよ!」
そして新クラス。俺の周りではこのような言葉が飛び交っていた。おいおいちょっと待てよ。いくら学力が似たり寄ったりだからと言ってもこの人数はおかしいだろ。・・・1年生のとき同じクラスだったやつが多すぎる。どうやらこのクラスは45人編成らしいのだが、見る限りそのうちの20人以上が元1組ではないか。なんだよこのクラス替え。やっぱり良いものではない。ここまで新鮮味のない新学期は小学生の頃から体験したことがないね。「なんだこのクソつまらない花の高校2年生のスタートは・・・」と項垂れていいた矢先、僕はこのクラスに救いの光を見た。「冬月 雪歩」を見つけた。「・・・」少しの間俺の中に沈黙が走る。そして数秒後。「まあ、俺なんか眼中にねぇよなー・・・。」期待と呼ぶのが一番ふさわしいであろうささやかな気持ちが一瞬にして崩れていくのを俺はしっかり感じた。
「冬月 雪歩」ーーー生徒会書記。去年のクラスは確か2組だったはずだ。俺との面識はほぼない。唯一の接点は、去年度末に新一年生への部活紹介のビデオを生徒会が取りに来たことくらいだろう。接点といっても、俺が所属する美術部にビデオを撮りにきたと言うだけだ。別に会話など一切していない。これはもう接点とは呼べそうもない勢いだよね?知ってるよ・・・。だがしかし、俺は部活中カメラを回続ける「冬月 雪歩」を可愛いと思っていた。相手は俺なんて美術部員A君くらいにしか思ってないのだろうけど。彼女に興味が湧いた俺はそこそこ彼女のことを調べ始めた。調べるっていってもストーカーとかじゃないよ!2組の男子に彼女のことを聞いたくらいさ。で、聞けべ聞く程俺は彼女をとても遠く似感じてしまっていた。モテるのだ。彼女は驚くほどにモテるのであった。なんか良く分からないけど、先輩からも人気があるとか。・・・ムリダナ。俺はすぐあきらめた。俺のスペックでは歯が立たないのだ。誰かさんも言ってたろ、「ザ〇がガン〇ムに勝てるわけがない」って。そして今に至る。同じクラスになれたのは嬉しいが、なんだか余計に空しい気もする。はぁー。せめて「ゲル〇グ」くらいのスペックなら良かったのに。
「なんだよ坂季、新学期から元気ないなー。」
うるせぇ。なんだかんだ言ってお前結構イケメンじゃねぇか。大賀との決別を誓ったり。誓わなかったりしながらも、やはり目線は「冬月 雪歩」を捕らえていた。本当、嫌になるよ。

2、ポスターと如月先輩

ねえ坂季君。ちょっといいかな。」
・・・。お?この状況はなんだ?俺があの冬月さんに話しかけられている?おいおいなんの冗談だ、罰ゲームかなにかなのか??
「ねえ、聞いてる?」
「あ、ああ聞いてるよ。」
冬月さんの問いにそう返すと彼女は「ニコッ」という擬音が一番似合うであろう微笑みをみせてから続けた。
「実は坂季君に相談があるんだけど・・・。」
「・・・相談?」
「うん。あのさ坂季君って美術部でしょ、だからってわけじゃないんだけど、今年の体育祭のポスターのイラストを描いてもらえないかな?」
・・・なるほど。美術部員としての坂季君への相談だったわけか。そうだよな、あの冬月さんが俺に相談なんてあるはずがないのだ。
「別に構わないけど、体育祭のポスターって言っても体育祭まであと2ヶ月近くあるよな。早過ぎないか?」
「準備に早すぎるなんてないよ!早ければ早い方がいいじゃない。それに実際2ヶ月なんてあっという間なんだからね。」
そんなもんなのかな。俺はそういう実行委員的なものに一度も参加したことがないのでよくわらない。
「そうかもね。でも俺でいいの?絵なら断然如月先輩の方が上手だし。」
「さ、坂季くんでいいんだよ!ていうか坂季君じゃなきゃだめなの!」
俺じゃなきゃだめ?それはつまり、そういうことなのか!?そうなの冬月さん!?
「だ、だって、如月先輩はもう3年生じゃない。受験も控えているんだし、流石に頼めないよ。」
あ、そういうことね。だよねー。いや、分かってましたよ。そんなことだって気づいてましたよ。でもなんで俺なんだろ。この学年には俺以外にも美術部のやつはいるのに。まあいいか、また質問にて傷つくのは嫌だし。なにより変な期待をしたことがなんだかとても恥ずかしく思えてくるからね。
「それもそうだね。で、いつまでに描けば良いかな?」
「一ヶ月後くらいかな!」
やっぱり急いでないじゃん。まあ気にしないけど
「じゃあ、よろしく頼むね!引き受けてくれてありがとー!」
「お、おう。」
笑顔が眩しいとはこのことだな。しかしなんだこの可愛い生き物は?本当に俺達と同じ人間か?天使かなにかの間違いではないか?とりあえず俺の中の冬月さんは神神格化されつつあるようだ。
「じゃあ、またね。部活頑張ってね!」
「うん。冬月さんも生徒会頑張って。」
部活頑張ってか。最近行ってないなんて言えないよ、あの笑顔の前では。まあ、色々思うところはあるが、とりあえず冬月さんが俺が美術部に所属していることを覚えていてくれたことだけでも祝杯ものだ。今すぐ廊下でパーティーを開きたい勢いだよ。と、そのとき。冬月さんが、うかれまくっている俺の方に振り返って一言。
「名前、さんはいらないよ。呼び捨てでいいよー。」
えへへと照れくさそうに笑っていた。なんだよこの生き物今すぐ世界遺産にするべきだぜ。この日の放課後は俺が世界遺産に冬月さん改め冬月を推薦した記念日としてのちに名を馳せたとかそうでもないとか。
「坂季ー、あの娘とつき合ってんのー?」
「ないよ!」
背後からの声に思わず叫んでしまった。廊下の生徒が一斉にこっちを見た気がした。なかなか気恥ずかしいものだな。そして背後からの声の主はというと、
「だよねー、アンタには少し、いや、かなりもったいない娘だもんねー」
如月先輩だった。先ほどの冬月との話に出てきた先輩だ。「如月葉月」3年生、クラスはしらない。我らが美術部部長である。ってだよねー、じゃねぇよ。相変わらず失礼極まりない先輩だぜ。いや、高校生の先輩後輩の会話だとこれは別に普通なのか?まあ、あれだ、おれはあんまりこの人が得意ではない。美術部の部長とは思えないほど活発さは俺には手に負えない。
「そーですよ。俺が付き合えるわけないじゃないですか。」
「付き合いたいの?」
「そりゃあんなに可愛いんだもん、付き合えるものなら付き合いたいですよ。」
「じゃあ告れよ!」
「嫌ですよ!最初から負ける戦いはしない主義です。」
「じゃあ私とつき合う?」
「なんでそうなるの!?嫌ですよ!」
この人とつき合うだと、冗談じゃない。確かに外見は雑誌のモデル(モデルとか載ってる雑誌読んだことないけど)に負けず劣らずの美人さんだ。冬月さん・・・じゃなくて冬月が「可愛い」如月先輩は「美しい」という言葉がお似合いだろう。だがしかし、中身がこれである。このテンションの人間とつき合うなんてことしたら、一生分のツッコミパワーを使い果たして天国に召されてしまいそうな勢いだよ。
「何考えこんでんだ。あ、分かった今私とつき合ってる幸せ者な自分の妄想してたんだろー。」
「し、してませんよ!」
「じゃあ何、エロいこととか?」
「ねぇよ!」
「まあ、いいや。」
くぉのやろぉーーーー!!!自分から謎の会話を振っておいて放置しやがった。好きなだけ暴れやがって。やっぱり苦手!
「部活、しっかりこいよ。もうすぐ新入生入ってくるんだし。」
「・・・」
部活の話か。まあそうだよな、先輩と俺の共通点なんて部活だけだしな。
「い、行きませんよ。ていうか新入生が入ってくるなら早く辞めさせて下さいよ。」
そうだ早く辞めたいのだ。俺は好きでこの部活にいるわけではない。いや、正式には入部した当初は好きでに入部したのだが、今は辞めたい一心である。しかしうちの美術部員は現在5人。ギリギリ部活動として活動できる5人という人数を保っている。つまり、人数合わせのために所属しているのだ。先輩は「君は人数合わせなんかじゃない!我が部には君の絵が必要なのだ!!」なんて言っていたがそんなことあるはずがない。俺の絵なんて・・
「辞めたいとか言って本当は構って欲しいだけなんでしょ、私にはわかるよー!」
どうやら全然、1ミリも分かってないみたいだ。
「そんなわけないですよ。何なら今すぐ辞め・・・」
その瞬間俺は思い出した。何を思い出したかって?決まっている冬月の頼み「体育祭のポスター」のことだ。たしか冬月は俺が美術部員だから頼んでくれたんだよね。美術部員の坂季君に頼みごとをしてくれたんだよね。じゃあもしここで俺が美術部を辞めたらどうなる?『ごめん坂季君。美術部員じゃない君に用はないの、さようならー。』俺の脳内で再生された悪魔の呪文。どうやらリピート再生のようだ。そうだ、せっかくできた冬月との繋がりが無くなっちまうかもしれない。それはなんとしても避けなければ・・!!
「どうした、また考え込んで。あ、今度こそ私の身体でエロいこ・・・」
「考えてませんよ!」
たしかにとても、なんというか、その・・・エロい身体はしているが・・・。
「って、何考えてんだ俺はーー!続けますよ!美術部是非続けさせてください!」
く、苦渋の決断だぜ。
「お、ついにやる気になったか!私はその瞬間を待っていたんだよ!じゃあ今日から部室来てねー。」
俺の発言に心から満足したご様子。ご満悦の笑みを浮かべてから俺の前から去って行った。まあその、なんだ、ご満悦な笑顔がこれまた結構可愛いかったりした。でも冬月の方が可愛いよ!心の中で謎のフォローを入れてみる。
「部活かぁー・・・。」
やっぱり超行きたくないな。というか正直なところ如月先輩と会話するのも、なんだかトラウマじみたものがあるのだ。
「はぁー・・・」
深いため息をひとつ。しかし、こうなってしまったものは仕方がない、部活に行こう。そう決心して俺は部室へとむかうことにした。4/13

3,小さくて生意気だけど、少し可愛いかも

バン!
「痛っ!」
頭に何かがぶつかったような衝撃が走った。
「起きた?」
女の子だ。目の前にはの子がいた。身長は冬月より少し小さいくらいで、髪型はポニーテールだった。顔がやたら幼い気がする。中学生か?手には今学期に配られたばかりであろうきれいな教科書を丸めたものが握られていた。このなんだかふわふわした気分とこの女の子「起きた?」という台詞からするに、どうやら俺は居眠りをしていたようだ。一応部室に来てみたものの、他の部員は誰もいなかったので少し机に突っ伏していたいたのだが、気が付いたら寝ていたという感じだ。
「ああ、それで叩いたのか。」
「うっさい、そんなことどうだって良いのよ。私ここ入部するから。よろしくね。」
「は?」
入部する?何だこいつ、まるで新入生みたいな言い草だな。あ、そういえば如月先輩が「もうすぐ新入生入ってくるんだし」とか言ってたっけ。てことはこいつは新入生?おいおい、別に先輩だからって変に威張る気はないがいくらなんでもこの口のきき方はないだろ。おまけに頭まで叩かれている。俺の大事な細胞が何個死んでしまったことやら。どれ、この坂季様が我が美術部入部にあたっての洗礼をかましてやろうじゃないですか!!(俺部活あんま来ないけど)
「あの、君・・」
「君じゃない、私は及川あゆみ。」
「あ、ごめん、及川ね。及川ってさ一年生だよな?」
なんかあやまってしまった。おまけになんだか腰が低い。俺のチキンな部分が丸裸だ。
「そうよ。新入部員なんだから当然でしょ?そんなことも分からないの?」
「お前のそのしゃべり方がそう思わせてくれない原因なんだよ!」
「どういうこと?」
どうやら心底ご理解いただけていないご様子。何だこいつ、世間知らずのお嬢様か何かか。
「なんで一年生、後輩のお前・・」
「お前じゃない!私は・・」
「お・い・か・わは二年生の、先輩の俺にため口なんだよ!」
「なんかあんたの顔が先輩っぽくないから。」
「顔で判断すんなよ!」
確かに弱々しくかつ頼りない顔かも知んないけどさ!
「じゃああんたがもっと威厳のある顔になりなさいよね!」
「お前の顔の方が威厳ねぇよ!童顔過ぎて中学生かと思ったよ!」
「うるさい!ついこないだまで中学生だったのよ!」
なにその反論の仕方!?でもなんか言い返せない・・・。何より起こっている及川はなんだかとても愛くるしいというかなんというか。いや、俺はロリコンじゃないぞ。俺は冬月みたいな女性がタイプなんだこんなガキはすきでもなんでもない!
「俺はお前が好きじゃないぞ!」
あれ、思ったことを思わず口に出してしまった。たまにあるよね、こういうの。
「私だってあんたのことなんて嫌いよ!もういいわこんな部活入ってやらないから!」
え、入んないの!?それはそれで嫌だな。少し可愛いし、部活に来る良いモチベーションになると思ったのに。なにより、人数が少ないこの部活に入部してくれるという貴重な人材を俺個人のせいいで失うというのはどうも決まりが悪い。
「べ、別に入るの辞めることはないんじゃないか。」
「なによそれ、さっきと言ってること違うじゃない。」
「俺はお前に入るななんて言った覚えはないぞ!」
「同じようなこと言ったでしょ!私はそうとらえたのよ!もしそんなに入って欲しいならあやまれば?後輩に頭下げなさいよね!」
前言撤回。こいつで部活へのモチベーションが上がることはない。というかむしろ行きたくなくなる気がする。良く考えれば分かったことじゃないか。現段階でも如月先輩というそれはそれは美しい方がいながらも部活には来ていなじゃないか。世の女性よ、女性は見た目だけじゃないんだよ!
「・・・」
「早くしなさいよ!」
しかし、ここであやまらないと、こいつが美術部に入らないのも事実だ。さっきも言ったが、あまり部活に来ていない俺が部員の人数を減らすというのはなんだかとても申し訳ない。ここはプライドを捨てて頭を下げるべきか?まあそもそもプライドなんてものがあるのかどうか疑問だけど。それに、いきなり「お前が好きじゃない」とか言われたら良い気はしないだろうな。あれ、なんか考えれば考える程俺が凄く悪いみたいな感じになってきた。自己嫌悪が凄いことになってきている。今の俺なら後輩に頭下げるどころがジャンピング土下座だって余裕で出来ちゃうぞ!
「ごめんなさい、美術部に入ってください!!」
勢いよく土下座した。
「キモい!!」
勢いよく罵倒された。ああ、むしろすがすがしい。ひょっとしたら俺はこのままいけない方向へ興味をもってしまうのかもしれないな。

「なーにやってんのー?」
俺が新たな道に目覚めようとしていた一歩手前、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「え、なに?どういう状況?」
この世の終わりのような顔をした1年生と口元に少し笑みを含みながら後輩に土下座をしている2年生の図を前にして戸惑いを隠せずにいるその声の主は如月先輩だった。4/18

青春は高3から

青春は高3から

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-13

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  1. 0、新年度
  2. 1、「冬月 雪歩」
  3. 2、ポスターと如月先輩
  4. 3,小さくて生意気だけど、少し可愛いかも