女心と秋の空

十一月の休日の午後、僕は、一人ぶらぶらと街を歩いていた。
久しぶりの休日で本当ならば、君とデートの約束だった。

それが、急に用事ができたと言われ、二ヶ月ぶりの折角のデートもお預けになった。

僕は、君が欲しがっていた本を探しに本屋に入った。
その店は、ビルの二階にあって、この店にも目当ての本が無いとわかり、丁度階段を降りる時だった。

天気予報どおりに雨が降ってきた。秋の冷たい雨が路面を濡らし始めた。

そして、誰もが用意していた傘を差し始めた。
街の中に色取り取りの傘の花が咲き始めた。
僕は、ビルの二階からその光景を眺めていた。

すると、目に留まったピンクの傘
僕が君に買った傘が目に飛び込んで来た。

君が僕からはぐれて、悲しい思いをさせないように買った傘

確かに君を見つけられたけど
でも、今日は、見つけるべきじゃ
なかったみたい。

ねぇ、同じ傘に入っているのは
誰なの?

どうして、君の肩を抱いているの?

君から目が離せなくて、ピンクの傘を追いかけた。

その時、君と目が合って、一瞬君は戸惑った顔をした。
でも、次の瞬間、傘で君の顔が見えなくなって、雑踏の中、どんどんと僕のところから離れて行った。
そして、やがて見えなくなってしまった。

その時に僕は君を追いかければ良かったのかな。
追いかけて、君を問いただせば良かったのかな。

でも、僕はただ立ち尽くしたままだった。

そして、そのあとの事良く覚えていない。ただ、家の前に着いた時、もう、夜になっていて、僕は寒さで震えながら、体中雨で濡れていた。

そして、部屋の中でただ、静かに音楽を聞いていた。
電気も付けず、暗い部屋の中でオーディオの光だけが輝いていた。

もう、何時なんだろうかわからないでいた。

そんな時、君からメールが届いた。

「あなたが仕事が一番で私を見てくれない時に好きな人ができてしまったの。
だから、あの傘はもう、いらなくなってしまったよ。
さっき、あなたの家の玄関に返しておいたから。
もう、会わない方がいい、、
ううん、
もう会えないよ。
さようなら。」

そのメールを見て、玄関に走った。
ドアを開けると、僕が送った傘が雨に濡れてたてかけてあった。


今日、雨が降ってこなければ、
気づかなかったはずだった。

でもいつか、雨が降った時にわかる事だよね。

「女心と秋の空は、変わりやすいモノなんだ」

僕は独り言を呟いて、振られた気分を一人かみしめていた。

女心と秋の空

女心と秋の空

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-12

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