BNE二次創作小説<<ラ・ル・カーナ小旅行>>

本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。本作品に登場するキャラクターの性格や行動は実際のゲームと多少異なる場合があります。

イベントシナリオ「新緑の風が吹く世界で」のワンシーン妄想


ラ・ル・カーナ――そう呼ばれる異世界の地を踏んだとき、私が感じたのは郷愁に近いものだった。
風景も木々の植生も周りに見える人々――この世界ではフュリエと呼ぶそうだが――の姿形も随分違うものだったが、風の運んでくる空気は今住む町よりもかつて暮らした村に似ているように思えた。
「着きましたね」
前に立つ少女が柔らかい笑みを隣に立つ少年に向ける。紫色の長い髪が揺れて、どこか華やかな帯結びが姿を見せた。ブックカフェでたびたび見かけていた時もそうだったけれど、どうやら常々和装に身を包む人らしい。私と同い年くらいの割に落ち着いて見える様子なのがその姿も相まってなんとなく、「女の子」と言う表現より「女性」という表現の方がしっくりくるような気がする。
「そうですね。この世界に来るとどうしても戦いの事を思い出してしまいますが、今日はのんびりできるみたいですしこの世界を満喫しましょう♪」
 柔らかくくるんくるんと丸まったクリーム色の髪の毛と、その頭についた羊の角をすっぽりと覆い隠すニット帽には代わりに柔らかそうな猫耳が付いている。そんな帽子を被った少年が返す言葉も柔らかく、楽しみにしている心持ちがそのまま伝わってくる。
 代理とはいえブックカフェの店長を務める彼は、しかし私より一つ年下であるらしい。誕生日は半年も離れていないが、それでも私自身この春にようやく高校に上がる年齢なのだから一つの店を動かすという大役を良く背負っていると言えるだろう。
 フュリエの住まう場所から足を進め、周囲に緑の色が増していく。共にこの世界に来たリベリスタの皆々はそれぞれに思い思いの場所へと向かい、気付けば私と目の前の二人だけが森の前に立っていた。いや、振り返ればもう幾本かの樹木が眺められるのだから既に森の中にいるのかもしれない。それくらい、フュリエの村と木々は共存混在していた。
「ステラさん?」
 綿谷さんの声に顔を進行方向に戻すと、振り向く間足を止めた私の気配を感じとったのか先を行く二人がそろってこちらを振り返っていた。紫の髪の女性――シエルさんは荷物を右手に提げ、ニット帽の男の子――綿谷さんは荷物を左手に纏めて持っている。二人の間の空いた手が繋がれていないのがいっそ不思議なくらい、二人の表情と振り向くタイミングはぴったり合っていた。羨ましくなるくらい似合いのカップルだと思う。
 ――私には、好きな人はいないが。

 森の中を行く。
 新緑の芽吹き始めた木々もあればもう一面に青々とした葉を茂らせた木々もあるが、どの木も日本で目にした覚えのない物ばかりが枝を伸ばし、蕾をつけ、花を咲かせ、葉を抱え、空を隠している。
「前はあの辺も荒野で……やたらと硬い巨獣と戦ったりしたんですよ」
「バイデンの皆様との剣戟の音、荒野が吹き鳴らす砂塵のうねり……。其れらもまたこの大地の記憶なれど、私は緑豊かな方が心落ち着きます」
森の外れとも草原へ変わりゆく場所とも思える場所から遠くの青さを眺めやる綿谷さんを、シエルさんが慈しむように見守り呟く。ふたりにとってここが「ただの異郷の地」だけで無い事が、つい一歩引いてしまった私の目には少し遠い。たぶんこの距離は、知っているか否かの距離だけじゃないんだろう。
「……ふむ、興味深い。」
私がそう返すまでの間、二人は黙って思い出したものを色濃くしているようだった。
 再び森の中へ引き返し新緑の香りに身を包まれながら歩く間、シエルさんと綿谷さんは交互に、そして互いの物語が交差するところは二人で補い合うようにしてこの世界で過ごした思い出や解説めいたことを話してくれた。今の光景からはなかなか想像のつかない状況も多々あって、話だけとは言え知識や経験の蓄積を感じる。
 途中で手裏剣を投げ合うリベリスタ&フュリエの組み合わせを見たときは皆揃って困惑したが、リベリスタの連れらしき女性もちょっぴり困った表情をしていたからたぶん何やら突発的な――もとい、半ばじゃれ合いに近い状況だったのだろう。
 森の中を散策する間、さすがにそんな奇矯な行動をしているリベリスタは後にも先にも一人だけだったが、他にも樹上で昼寝するリベリスタもいれば座って風をその身に捉えるフュリエも見かけた。もちろん私たちと共に小旅行に来て入り込んだ者も少なくないだろうが、どうやら人っ子ひとりいない忘れられ放置された森ではないようで安心する。
 森を離れ、先ほどまでと打って変わって人の数の増したその場所には、一本の樹があった。樹の肌に触れながら目を閉じるフュリエも、近くで感慨深げに眺めるリベリスタもいる。
「これが、今の世界樹でございますね。ずいぶんと育った様子で何よりでございます」
何かあるのだろうか、そう首をひねった私が何か口にするより先にシエルさんがその正体を明かす。
「これが……」
 以前の報告書で人が入れるほどの大樹とあったのを目にしていた私は、確かに我々の背よりは高いものの到底『大樹』とは表現できないそれに驚いていた。
「世界樹も穏やかになりましたね」
 続け、足を進める綿谷さんを追って世界樹の傍へと歩み寄る。近くで見るそれは想定していた物との落差のせいでどうしてもどこか頼りなく思えてしまうのだが、傍らに立つ二人の表情に溢れる笑みは過去を知るが故なのだろう。
「この地に、どうか優しき風が何時までも吹き続けますように」
 手荷物を預かる綿谷さんが和装の後姿を見守る。祈るシエルさんの言葉に応じるように、森を抜ける風が紫の髪の毛を揺らして行った。
「さぁ、お弁当にしましょう」
 さながら花見で桜の下を確保するように、世界樹の近くで陣を広げる。各々が持ち寄って互いに交換し合おうとかねて約束していたこともあって、道中その話題が出なかったのはきっと中身を秘密にしておきたいという気持ちの表れだったのだろう。まあ、私の場合はほとんど姉の力作だから秘密にしておいたところで驚きを矜持に変えれたりはしないのだが。
「どうぞ、ステラさんもいかがですか?」
 荷物から取り出された各々の弁当箱が中身を見せる前に、シエルさんの持って来てくれた緑茶を受け取る。綿谷さんに続いて受け取ったそれは、熱いほどではないけれど十分に熱を持っていた。
「いただきます」
 話すリズムに差のある三人の挨拶が重なって、のんびりとした昼食が始まった。
 綿谷さんからBLTサンド、シエルさんからは鮭のおにぎりを頂戴し、私はおかずばかりの弁当箱を開けて勧める。交わす話の内容は先ほどまでと少し変わって、思い出話よりも現在の事が多くなっていた。
 シエルさんは春の歌に因んだ料理の話や衣替えの話。
 綿谷さんは春の新メニューの話や年度末で流通の増えた古書の話。
 私はアークに増えてきたフュリエの話や育て始めた花の話。
とりとめなく重ねる話題が食い潰す時間は長かった。少なくとものんびりとした箸の動きでなお昼食をとり終わるくらいには。
 空になった弁当箱を荷物に仕舞い込み、けれど立ち上がることなくその場でのんびりしていると満腹感とそよ風が程良く眠気を連れてきた。一足先に眠りの世界へ飛び立ったらしいシエルさんにならい、布団に入る時と同じポーズで横になる。うつらうつらと閉じ始めた瞼の隙間から、小さな痛みを潜ませて微笑う綿谷さんが見えた気がした。

BNE二次創作小説<<ラ・ル・カーナ小旅行>>

原作⇒『Baroque Night-eclipse』 http://bne.chocolop.net/top/
ゆっくりと、ゲームをプレイしつつ書き進めて行きたいと思います。

本作品を書くに当たり、リプレイ
『新緑の風が吹く世界で』http://bne.chocolop.net/quest/replay/id/3994/  STどくどくさま
を参考にしております。楽しませていただきありがとうございます。

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本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。 イベントシナリオ「新緑の風が吹く世界で」のワンシーン

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-12

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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