水と鏡
古来より、水は鏡として扱われることが多い。
覗き込む己の姿を映し出す水溜りに、鏡のような神秘性を感じたことはないだろうか。
鏡を覗き込んだ時に感じる感覚と、水溜りに足を踏み入れる時の感覚はとても似ていると感じないだろうか。
そして、鏡にはその神秘性ゆえ不思議な噂が絶えない。
俗に言う怪談というものだ。
中でも多いのが、『夜中に鏡に触れると吸い込まれる』というものだ。
鏡はその中にもう一つの世界を完璧に作り上げる。
その神秘に触れた時、物体であった鏡は扉と化し、その手は異界へと吸い込まれる。
ならば水にもその効果はあるのではないだろうか。
水を注いだ器に手を入れた時、その手がどこまでも吸い込まれないと誰が決めたのだろう。
水溜りに足を踏み入れる瞬間、その足が異界へと沈んでいかないと誰が言えるのだろう。
水には鏡と同じ神秘と呪いが備わっているのだ。
さらに、水には波がある。
波が立った水に映る姿は、その波に合わせて形を変える。
その波に合わせて世界は動くのだろう。
手を、あるいは足を差し入れた状態で波が起これば、異界へと入り込んだ肉体はどうなるのだろうか。
水と鏡
これは小説と呼べるのだろうか。