言い訳は誰が為に

今のところ4章の途中まで書いてます。
続々更新していくので、少しでも多くの方に見ていただきたいです。
ご意見、ご感想もしていただけると嬉しいです。

プロローグ

プロローグ
  人間だれしも、言い訳をしたことはあるだろう。
 言い訳をしたことのない人間など存在しない。
 だが、言い訳をされているほうは、みんなそれを批判する。自分のことを棚に上げて。
 そう語っている俺自身もそうだ。
 言い訳をして、自分の過ちをごまかそうとする。
 保身しようとする。
 それは自分のためにする言い訳だ。なら、人のためにする言い訳があってもいいのではないか。
 その一言で救われる人がいる。
 だから俺は言い訳をする。
 人を幸せにするための言い訳を。

悲しみに暮れて

 俺の両親は小説家で、とても優秀な作家だった。
 いくつもの賞をとっていて、両親の書いた小説はいつもベストセラーになる。
 そんな両親から生まれた俺は、とても期待されていた。
 だが皮肉にも、俺に文学の才能はなかったのだ。
 それでも両親はそんな俺に失望することはなかった。
「自由に生きなさい。言い訳したっていい、嘘をついたっていい。でも、言葉で人を傷つけることだけはしないで。言葉は希望なのだから」
 俺はその言葉を聞いて育ってきた。
 だがそんな言葉をかけてくれた両親はもういない。
 俺が小学校に入学してすぐのころ、海外の受賞式に出席するために乗った飛行機が事故で墜落し、帰らぬ人となってしまった。
 世界に自分一人取り残されてしまったような感覚。
 生きているのが辛いと思った。
 自分の心にぽっかりと大きな穴があいてしまったようだった。
 涙が頬を伝って落ちていく。
 孤独に心が押しつぶされそうになっていたとき、誰かに抱きしめられた。
「お兄ちゃん、泣かないで……」
 目元に涙を溜めた妹が、俺を抱きしめてくれている。
「お兄ちゃんは一人じゃないよ。私がいるから。私がそばにいてあげるから」
 妹は優しく語りかけるようにそう言った。
 嬉しかった。その言葉だけで、空っぽだった心に温かい気持ちがあふれてくる。
 妹は壊れてしまいそうだった俺の心を、言葉で救ってくれたのだ。
 涙をぬぐい、心に誓った。
 妹のように、言葉で人を救えるようになろうと。

とある日常

「兄さん、起きてください。遅刻しますよ」
「ん……」
 騎乗夏目は、心地のいい振動と鈴の音のような美しい声に目を覚ました。
「おはようございます。兄さん」
「おはよう。藍」
 目を覚ますと、枕元にエプロン姿の妹、藍が笑顔で俺の顔をのぞいていた。
 藍は兄弟の俺から見ても文句なしの美少女で、セミロングの髪は朝の陽ざしを受けて輝いていた。その髪を耳元でかきあげて優しく微笑む。
「朝ご飯にしましょう。今日は、和風にしてみました」
「和風か、いいね。やっぱり朝はお米に限る」
「はいはい。じゃあキッチンで待ってますよ」
 藍は嬉しそうに返事を返してくれる。
 両親が事故で死んでしまってから、俺たち兄弟は二人で暮らしていた。
 俺と藍、二人だけの生活は大変だったが、両親の遺してくれたお金で何とか不自由のない生活を送ることができている。
 キッチンへ行くと、テーブルの上に湯気を立てる味噌汁とご飯、サケの塩焼き、ホウレン草のおひたしが並んでいて、おいしそうな味噌汁の香りが漂ってきた。
最初は料理の腕がからっきしだった藍が、今では料理人顔負けの料理を作れるようになったのも、二人暮らしのおかげだった。
 席に着くと藍が可笑しそうにくすくす笑ってこっちを頭を撫でてくる。
「兄さん、寝癖で髪が猫の耳みたいになっていますよ」
「そうか? 後で直さないとな」
 手櫛で直そうとしてみるが、これがなかなか直らない。
「そうですね。今の猫みたいな可愛い兄さんも良いですけど、いつものかっこいい兄さんの方が私は好きですよ」
 藍は冗談めかしてそう言ってくるが、こちらとしては悪い気はしない。むしろ少し気恥ずかしいくらいだ。
「俺も可愛い藍が大好きだよ」
 こちらも仕返しとばかりに言い返してみるが、
「そんな、大好きだなんて……兄さんたら……」
そう言って藍は、顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。
 こ、この沈黙はきつい……。ましてや、相手は妹だぞ……。
 沈黙に耐えきれなくなって気をそらすために時計に目を向けると、ちょうど家を出る時刻になっていた。
 助かった。
「そ、そろそろ行くか。学校」
「はい……」
準備を済ませ、藍と二人で家を出る。
歩いているうちに、藍はいつもの調子に戻っていた。
その横顔をちらっと見てみる。
こうして二人並んで歩くとたまに恋人と間違われるが、俺と愛では釣り合っていないと、自分ながらに思う。
「なあ、藍」
「何ですか?兄さん」
「お前、なんで彼氏とか作らないの?可愛いし、性格良いんだからモテるだろ」
「きゅ、急になに言ってるんですか!?」
 また顔を真っ赤にして驚いている。猿も真っ青の赤さだ。猿が真っ青とか考えられんわ。
「それは……だから」
 うつむいてもごもごしゃべるものだからよく聞こえない。
「すまん、もっかい言ってくれ。途中聞き取れなかった」
「だから……なの」
まったく聞こえん。
そのうち藍はしゅんとしてしまう。落ち込ませてしまったようだ。
「変なこと聞いて悪かった。落ち込ませる気はなかったんだ。許してくれ」
 誠意をこめて謝る。言葉は人を傷つけるための物じゃないからな。
「兄さん、その顔で謝るのは反則です……。なんでも許してしまいそうになります……」
「そんな大げさな」
 だがまあ、許して貰えたようでよかった。
「兄さん、今日は早く帰りましょうね」
「そうだな、父さんと母さんの命日だから。墓参り、行かないとな」
「その時に、話したいことがあります」
 藍がいつになく真剣な顔をして言う。
「わかった」

離別の思い出

すべての授業が終わって帰りの準備をしていると、藍が教室まで迎えに来ていた。
「帰りましょう、兄さん」
 その声は少し硬く、緊張しているようだった。
俺と藍はグラウンドを抜け、校門を抜けて通学路を進む。
会話は無く、すぐに家に着いた。
家に荷物を置いて、墓地へと向かう。
墓と言っても父さんと母さんは中にはいない。飛行機事故、しかも海上だったので遺体は上がらなかった。
墓の中には遺品だけが納められている。
墓地に着くと俺は水の入った桶を持ち、藍は花を持って墓に向かう。
二人の足取りは重かった。
墓に着いて、掃除を始める。
墓は綺麗なままだった。
すぐに掃除も終わって二人並んで目を閉じ、手を合わせる。
ゆっくり目を開くと、藍がポツリポツリと話し始める。
「兄さん、私ずっと兄さんに黙っていたことがあります」
「…………」
 俺は黙って藍の言葉に耳を傾ける。
「実は私……

言い訳は誰が為に

言い訳は誰が為に

自分のためではなく人のためにつく言い訳。 それは、誰のための物なのだろう? 少年は誰が為に言い訳をする。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-08

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  1. プロローグ
  2. 悲しみに暮れて
  3. とある日常
  4. 離別の思い出