片想いの末に
グロ注意
カラッと晴れた空が心地よい、そんなある日の昼下がり。
別に何という不満があったわけでは無い。だが、彼は不愉快きわまりなかった。先ほども言ったが、やはり特に理由は無い。そのため、彼は何故自分がそれほどまでに体内からイガイガした気分が湧き上がるのかわからなかった。
「ムカつく」
誰に言ったわけでもないが言葉に出したところで発散するわけでもなく、自分の状態を再確認してしまい、かえってイライラする。
体内のイガイガした物は、徐々に上へ、上へと移動し、イガイガが喉の奥を刺激した時に
おエッと机に吐瀉物をぶちまけた。
うわ。
彼はまじまじと自分の吐瀉物を見つめる。久々の嘔吐であった。
「気持ち悪っ」
「もういいや、寝よ」
そう呟くと、吐瀉物を放置して、布団を敷き始め、さっさと寝てしまった。
吐瀉物はにちゃにちゃと中央に集まり始め、人の形を形成し始めた。
一瞬、凝固すると、とたんに変色し、一人の女性となった。
恍惚とした笑みを浮かべて
自分の身体を抱きしめる。
う…ふふふふ。
彼の食物。何かな?白米かな?彼が箸ではさんで口に運び、咀嚼して飲み込んで胃で消化して彼になったもので出来ている
彼のゲロからうふふふふ
穏やかに寝息をたてる彼に
そっと口付ける
うふふふふ私ったらうふふふ
その女は彼の彼女では無い。
言うなれば親友のような存在だ。
同じサークルで、恋愛相談にのったりのられたりする仲であるのだ。しかし、女は最初から彼を恋愛対象として見ていた。大切な親友、と言われて密かに涙を流し、好きな子が出来たと言われて密かに涙を流していた。彼が女を恋愛対象として見ていないことが辛かった。
だけれども、告白なんてできなかった。彼との親友関係がぶち壊れることは何としても避けたかったから。それでも女は病的に愛していた。講義中も彼のこと、家に帰っても彼のこと、女の脳内は彼で満たされ、彼に好かれることだけを考えていた。
だから女はネットでこの方法を調べて実行したのだ。そして奇跡的に成功したのだ。これからも、女は彼に告白、などしないであろう。だが、彼の吐瀉物で構成されている、ということだけで充分なのである。
自分の身体を強く強く抱きしめて笑うその女は気持ち悪い以外の何者でもなかった。
寝息をたてている彼は、その事象を知る由もない。
片想いの末に
戦後の女性死刑囚小林カウが恋人の吐瀉物を平然と食って見せたというエピソードに感銘を受けて書いた。愛するあまりその人の吐瀉物さえも愛しく思えるなんて美しいことだと思う。