舞桜神社の神々
第一話
それは、ある神社の神のお話。
―――ねぇ、どうしたの?
パンパン
と、今日も拝礼の音が聞こえてくる。そして、願い事が聞こえてくる。
『どうか、娘の子供がちゃんと生まれてきますように・・・・』
神様の仕事一。「参拝者の願いを叶える」
神様の仕事二。「人々の生活をみる」
神様の仕事三。「神社の全てを正す・力を与える」
など。
毎日、忙しい。神様と言えば、毎日皆の生活の様子を見ているだけだろうと思うでしょう?
神は、神社の一番上。言えば、神社の顔。
人々の願いを叶え、人々の喜びや幸せを考える。
たとえ、自分を犠牲にしても・・・。
―――舞桜神社。
とても、有名な神社。そりゃあ、神が「天神々」(テンジンガミ)だから。天神々とは、神の中の神。つまり、神の中でも、それは強く、力があり、それはそれは最上級の神ということ。
「桜様・・・・。昨日の参拝者の願い事をまとめた物をお持ちいたしました。」
「そこに・・・・。」
わたしは、桜の絵が描かれた高価な御簾を上げ、ゆっくりと御簾の先にある四段くらいの階段を降り、そこに跪く巫女の方を見ながら言った。
わたしが、部屋から出ると驚いた顔をする・・・・。
「桜様・・・・。どこにお出かけで・・・?」
「あぁ・・・。少し、庭にでも・・・と。」
すると、笑顔で返事をしてくれた巫女。わたしは、ゆっくりと表にある階段から庭に降りる。わたしが庭に来た理由は一つ。それは、神社の空気を吸うため。舞桜神社は、有名な神社だけあって、参拝者の数が多い。年明けになると、千人以上の参拝者が訪れる。舞桜神社は、元々大きな神社で、参拝する場所も沢山ある。実は、舞桜神社には神がわたしを含め「七神」いる。わたしは七神の中でも一番上の神。舞桜神社の全てを作っている神。
いつものように、庭に出て他の神々に挨拶を交わしに行く。舞桜神社には、七つの拝殿があり、一つ一つに神がおり、第○殿と名前が付いていて、○の中の数が大きい方が上級の神となる。
第一殿の神は「縁結び」の神『恋』(女)。
第二殿は「金銭」の神『黄金』(男)。
第三殿「交通安全・家内安全」の神『三日月』(男)。
第四殿「産業開発」の神「晴冨喜」(男)。
第五殿「治病・健康・長寿」の神『幸羽』(女)。
第六殿「仕事・学勉・合格祈願」の神『祈妖』(男)。
そして、第七殿「全願・完璧」の神であり、舞桜神社の主「桜」。
―――以上の七神で成り立っている。
参拝順路は第一殿・第二殿・第三殿・第七殿・第四殿・第五殿・第六殿の順。もちろん、
神社の参拝所の他にも、他社の水神が作り上げた「水神の滴」と呼ばれる水飲み場。そして、「干支神」という干支の神に願う場所。「神聖祈願」という、ある広い建物の中の壁に願い事をペンで書くもの。御神籤、お守りなども沢山。他にも、「神のために」と作った建物も沢山あった。
わたしは、いつも通り、第一殿から順番通りに挨拶をしに回る。
第一殿は、楼門を超えて少し歩いたところにある。
「恋。おはよう・・・」
そういうと、いつも通りピンクの生地に白い鶴が描かれた綺麗な着物を着た恋が歩いてきた。
「あ!桜様!おはようございまぁす。」
相変わらず、元気だこと。
「恋。今日は、本殿にてお客様がいらっしゃいます。お静かにお願いしますね。」
「はい。」
恋は、こう見えてもしっかり者。一度言ったことは、絶対に守る者だろう。
そして、安心しながら第二殿へ向かう。途中で、巫女が挨拶をしてくれる。その一つ一つに返事をしながら、歩き続ける。第一殿と第二殿は近いから、二分程歩けばついてしまう。
第二殿に着くと、拝殿の上で黄色い着物を着た黄金が立っていた。
「黄金。桜の木が少し暗い。明るく照らすとよいでしょう。」
「・・・・・!こ、この声は・・・・桜様!ま、まことに申し訳ございません。そ、その・・・桜を明るく照らすといいのですか・・・?」
黄金は、桜の扱いが下手で、桜がしょんぼりとしている。
「では、わたしが見本をおみせしましょう。よく、見ておいてくださいね」
そういって、桜に手を翳す。そして「桜よ、明るく照らし、華やかに舞え!」と言う。すると、桜が光で照らされ、その瞬間光がはじける。すると、そこにあるのは、ピンク色の綺麗な桜。生き生きと輝いている。
「・・・・・・。桜様、まことに申し訳ございません。以後、気を付けます。・・・あの、今日は何の用でしょうか。」
「・・・・、これからは黄金ががんばればよいのですよ。今日は、これから本殿にてお客様がいらっしゃるので、お静かに・・・・と。」
「はい。ありがとうございました」
そして、第三殿に、向かう。
第三殿に行ってみると、そこには巫女の手を引っ張って抱きしめている三日月。
『はるか・・・』
『三日月さまっ!おやめください!』
三日月・・・・。
ため息を吐いていると、わたしに気づいたはるかという巫女が焦った顔で三日月に言った。
「み、みかづき様!あ、あの・・・・桜様!桜様が!」
「え・・・・・!」
そして、急いで逃げようとする三日月。ぺこりと頭を下げて仕事に戻る巫女。
三日月。貴方は、神の座を降りたいのかな?
「三日月。止まりなさい。」
「・・・・・ちょ、ちょっと待ってください!」
と、焦った感じで戻ってくる三日月。そして、耳元に自分の口を近づけると
「・・・・・ただ、遊んでただけだよ?・・・まさか、ヤキモチ?」
とにっこりと笑いながらいう。
「相変わらず、三日月は、神と言う名に不釣り合いな奴ですね・・・。いつまで、私をがっかりさせるのです・・・」
「・・・・え!」
さてと。しっかりと罰を受けさせましょう。
「では、今日、十一時に本殿へ。時間には本殿にいるように。」
「・・・・はい!?」
「いいですね。」
「―――はい」
フフ。今日のお客様は、三日月の苦手なお方ですから、罰にはなるでしょうし。
次は、第四殿。
第四殿は、相変わらず綺麗に整っていて、指摘をする場所が見つからない。
「晴冨喜。」
「あ、おはようございます。桜様。今日は、桜の手入れに力を込めてみました。ですが、桜に華やかさが足りません・・・・。」
桜の方を見てみると、仄かに赤く輝く桜。でも、桜に何故か邪気が感じられる・・・。
「巫女の玲愛はいますか・・?」
「は、はい!何用でしょう!!!」
相変わらず、元気がいい巫女の玲愛。玲愛は、神楽の舞が得意で、可愛らしい。
「玲愛。玲愛に頼みたいことがあります。桜の木に憑いている霊をお払いしなさい・・・と、神主にお伝えを。」
「か、神主様ですか・・・?」
「玲愛、貴方のお嫌いな神主様に・・・・です。」
「・・・・はい。」
「それと、晴冨喜。今日はお客様が本殿にていらっしゃいます。お静かに。」
そして、続いて第五殿に向かう。
幸羽は、私よりも歳が上で、頼りになる。
「幸羽。おはよう。」
「桜様。今日も、ご挨拶ですか。相変わらず、皆様朝から騒がしいことですね。」
皆様とは、恐らく他の神のことでしょう。
「ええ。騒がしいのも元気の証拠。最も良いことだとわたしは思いますよ。ですが、今日は、「雨大魔様」がいらっしゃるので、もう少しお静かにしてほしいところですね」
「あら。雨大魔様が・・・・。それでは、雷姫もいらっしゃるのですか。」
「雷姫が、雨大魔に無理やりついてくるのでは・・・・、と思います」
そして、「では、一段と磨きを加えなければ」と笑いながら幸羽は戻って行った。
いよいよ、最後。第六殿。わたしが、最も嫌いな第六殿。
「・・・・・祈妖・・・お兄様。」
そういうと、飛びつくように抱き着いてくる祈妖。
「可愛い俺のお姫様・・・・。さて、今日は?」
と、にっこりと笑いながら頬にキスをしてくる兄。
「祈妖。いい加減、離してください。」
兄は、わたしより下の神。だから、位的にはわたしの方が幾つも上なのだが、一応兄。
「雷姫と雨大魔様の匂いがするな。」
「えぇ。雲行きが怪しいので。今日は、本殿にて雨大魔様がいらっしゃる予定なので。」
「あぁ。お気をつけください・・・・」
「では。」
相変わらず、お兄様も騒がしい。けれど、わたしの大好きなお兄様ですから・・・。
いよいよ、雲行きが怪しくなってきましたね・・・・。雷もなり始め、巫女達はきゃあきゃあと騒いでいる。その時。大きな雷が桜の木に落ちた。
そして、大きく燃えて、広がろうとしている。
わたしは、急いで外に出て、桜の木に向かう。すると、すでに周りに人が何人かいる。あぁ・・・・。これは、第三殿の桜か・・・。
そして、わたしは、思いっきり第三殿に向けて移動する。すると、三日月が桜を見て焦っている。
「雨の中、外に出ていると風邪を引く。三日月は、本殿へ向かいなさい。雷姫の仕業だろう。また、雨大魔に怒られるなぁ・・・」
そういうと、三日月がわたしに驚いた顔を向ける。
「桜様・・・・・。」
「わたしを誰だと思っているの・・・?桜の姫である、桜に勝てる神など存在しないのですよ?」
と、笑いながら言うと、三日月が深く頭を下げて、走って本殿へ向かった。第三殿までも火が近づいている。巫女たちが、窓からこちらを覗いている。
『桜の木が・・・・!』
『桜様・・・大丈夫かしら・・・』
と呟きながら。
さてと。わたしは、わたしの仕事をしましょう。
―――桜の木よ、神の名のもとに、地と空、再び元の姿へ輝け。
わたしは、扇をパッと広げ、桜に手を翳した。
すると、桜の木は光だし、桜の花びらがひらひらと宙を舞う。
そして、桜の光が弾けたとき。
真っ暗だった空は、快晴になった。
舞桜神社の神々