雨音と君
一週間前、僕は一年付き合った彼女にメールで一方的に別れを告げた。
嫌いになった分けじゃない。
理由はたぶん彼女も分かってる。
僕らがーーーだからだ。
別れを告げてから彼女からの電話もメールも僕は無視し続けた。
そんな、雨の降る薄暗い夕方。
鳴り続ける携帯に出る事にした。
「はい…」
「やっと出た」
「外?」
雨音がする…。
「うん。ねぇ春樹、何で別れなきゃいけないの?」
「それは麻実も分かってるだろ」
「でも…」
「それより何回かけりゃ気が済むんだよ。ストーカーじゃないんだから」
懐かしい声だな…。
「出ないからでしょ」
「出ないのは俺の勝手だろ」
ダメだ…。
「だったらかけるのだって私の勝手でしょ。何処にいるの?」
「部屋にいるよ」
無理だよ…。
「お母さんから聞いたけど、お見合いするってホント?」
「ホントだよ」
「嫌だよ…意味分かんないよ…。急に別れたいって言い出して、今度はお見合いするって…。何でなの? 私今でも春樹の事好きなんだよ。ただ好きなだけじゃ一緒に居られないのかな…」
「俺は…麻実が嫌いになった」
本当は今でも好きだよ…。
「何処? 嫌いな所直すからそばにいさせてよ」
「悪い…」
「…ねぇ行って良い? 逢いたいの…」
「俺は…」
俺だって、逢いたい…。
躊躇していると突然部屋のチャイムが鳴り、まさかな…と思いつつドアを開けると案の定制服姿の少女が、潤んだ瞳を隠すように俯いてそこに立っていた。
「ごめん、来ちゃった…」
「ん? うん…」
「ねぇ嫌だよ、春樹…」
いつもはツインテールなのに今日は髪をほどき、それがやけに色っぽく見えた。僕は今直ぐ抱き締めたい気持ちを抑え、麻実の白くて柔らかい頬を軽く抓った。
「バーカ」
「うん…」
「認めんの?」
「うん…」
「どうぞ?」
「いいの?」
「ここまで来て言うセリフ?」
「迷惑じゃない?」
「迷惑だったら言わないだろ」
「春樹は言うよ。優しいから…」
俯く麻実をじっと見つめ、僕は冷たい麻実の手を掴み「いいから入れって」と言うと小さな声で麻美は「うん…」と呟いた。
僕は紅茶を入れベッドの端に座る麻実に渡した。「ありがとう」と一口飲むと「あったかい」とカップを両手で掴み冷えた手を温めているようだった。隣に座ると麻実から雨の匂いがした。
「俺の気持ち分かってもらえなかったみたいだな…」
「当たり前だよ」
「俺はお前の為にッ」
僕は言いかけて直ぐに言うのを止めた。
「私の為にお見合いするの? 私に諦めさせる為にお見合いするの? 結婚前提だって聞いたけどホント?」
「あぁ」
「酷いよ」
「あぁ、分かってる」
「お見合いしないでよ」
「無理だよ」
「じゃ、私と結婚してよ」
「何言ってんだよ。分かってんのかよ」
「私が一六歳だから? それともいとこだから? でも結婚出来るんでしょ」
「出来るみたいだけど…」
「じゃ…」
僕は何も言えず、麻実も何も言おうとしなかった。
当時大学に通う為僕は麻美の住む街に住む事が決まり、その引っ越しを手伝ってくれたのが高一だったいとこの麻美だ。
麻美は何が気に入ったのか学校帰りに良く僕の部屋に寄るようになり、僕は妹のような麻美を好きになって行った。
月日が経ち麻美は相変わらず僕の部屋に寄る日々が続き、麻美が高二になった頃僕は告白しそれを受け入れた麻美を僕は性欲剥き出しに抱いた。
付き合うと言っても何処かへデートに行く事は少なく、殆どこの部屋で過ごす時間が多かった。
それから半年が経ち僕は一方的に別れを告げた。
嫌いになった分けじゃない。
今でも好きだ。
でも、本当にいとこの僕と麻美が付き合ってて良いのか不安で仕方なかった。
それから解放されるならと思いメールで一言『別れよう』と送っていた。
僕は最低な男だと思う。
でも麻美は…。
隣に座る麻美の目の端に徐々に溜まって行く涙を見ているとあの頃のように自然と抱き寄せていた。
伝わって来る微かな振動。
「ごめんな…あの頃俺が告白なんてしなければ、俺ら普通のいとこで居られたのに…」
「後悔なんてしないで!」
叫ぶと急に押し倒され僕の上に麻実は跨がり耳元で「しよう…」と呟くと濃厚なキスをされ、僕からも麻実を求めていた。
唇が腫れるぐらいキスをすると麻実をベッドに押し倒しキスをしながらYシャツのボタンとブラのホックを外し、麻実の形の整った胸を愛撫すると体を震わせ「あっ、んっ」と喘ぎ始め、ショーツの上からなじるように揉むと更に喘ぎ出し次第にショーツが湿って来た。
麻実を自分の物に、麻実が欲しい…。
感情が剥き出しになって行く自分が恥ずかしく思えたが、それでも麻実を求めていた。
何度もキスを交わし、麻美の上に乗り何度も腰を振りながら喘ぐ麻美の顔をふと見ると紅潮していたが泣き出しそうな顔もしていた。
「ごめん痛かった?」
「ううん。違うの…。春樹もっとしよう…。春樹の好きなようにしていいから。もっと春樹を感じたい…」
僕は腰を振るのを止め、そのままの格好で額をくっつけ合った。
「そんな事麻美に言われて嬉しいけど、無理しなくて良いよ…」
「無理何て…」
「麻実、愛してるよ…」
- end -
雨音と君