たった七日間の逃避行 4

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暗い部屋、カビのにおいが漂っている。
その部屋で二人が寝ている。
その部屋で彼女のにおいを探すも、カビのにおいに上書きされる。

辿り着いた先には、何も無かった。
「絵馬……?」
名前を呼ぶも、返事がない。

うっすらと、壁の穴から光が射している。
その光でシルエットが現れる。
……あの男だ。

「……茂是?」
「ああ、俺だよ」
立ち上がり確認する。
確かに茂是だ。
「生きていたのか」
「お前はいつも弱虫だからな」

スッ

何かが僕の首を横切る。
それは、折れた包丁だった。
投げられた包丁は床に突き刺さる。

首から、血が溢れる。

「俺はいつも遠慮していた、だがお前は!」

茂是が襲いかかってくる。

逃げなければ。

どこへ?

逃げ場は、無い。


茂是は僕の上にぐったりと圧し掛かる。
茂是の眼が、ギロリとこちらを見る。
「お前は……」

僕は、茂是を押し返し刺した何度も、何度も、何度も、何度も、


気が付けば、そこにいるのは、絵馬だった。




暗い部屋、カビのにおいが漂っている。
その部屋で二人が寝ている。
その部屋で彼女のにおいを探すも、カビのにおいに上書きされる。

辿り着いた先には、彼女の柔らかな肌があった。

うっすらと、壁の穴から光が射している。
もう、朝か。




二人で逃げて来た2日目の朝は、眩しいほどに澄み渡った空だった。

「おなかすきました」
「さっき食べただろ」
「あれだけでは足りません」
「我慢」
「……はい」

荒れた道を、彼女の手を引き、僕はただひたすらに進む。
もっと遠くへ。



「迎えに来たよ、トウカ君に絵馬ちゃんー」
昨日の警察、新巻が、車に手をついて待っていた。
ああ、ここで終わりなのか。
「さ、とりあえず乗ってー」
終わらせなんて、しない。
「……何のつもりか」
僕は、折れた包丁を抜く。

「車から離れて下さい」
「そんな、実につまらないモノで、僕を殺すのかい?」
「離れて下さい」
「さもなければ? 殺すのかい?」

「トウカさん……」
「いいから、来て」
僕は絵馬の手を引き、車へ近づく。
絵馬を車の中へ誘導し、運転席に座ったところで、コンと頭に何かが当たる。
「車から離れて下さいー」
新巻が僕に銃を突き付けている。
「話は最後まで聞こうねー」
彼は僕を運転席から引きずり出した。

「僕を呼んだのは、絵馬ちゃんだよー」
「……えっ」
絵馬は、車の中から出てこない。
ああ、そういう事か。

そうだ、それでいいんだ。

そうするべきだったんだ。

「わかりました」
僕は両手を新巻に差し出す。
「なにしてるの? 早く乗ってー」
「へ?」
「今からご飯行くんだよー。 さ、早くー」
僕は訳がわからないまま、乗車する。





「いやあ、大変だったねー。 まさか親の手から逃れる為にカケオチとはー」
「え、ああ、はい……」
絵馬がこっちを見て、嬉しそうに笑う。
ああ、大体察した。
昨日新巻さんは僕と話した後、絵馬とも話したのだろう。
そこで、彼女も嘘を吐いたのだろう。

「あんなの持ってたのは刺客から彼女を守る為なんだよねー? 流石だわー」
「えっ、まあ……」
一体、どんな嘘を吐いたんだ、彼女は。




牛丼を食べる彼女の顔は幸せそうだった。
この二日間、まともに食事してなかったからな。

絵馬が幸せなら、これが最善なんだろう。

食事を終え、車に乗り込む。
「どうした、絵馬」
「私、あの部屋にちょっと忘れ物が……」
「僕も行くよ」
「一人で行きたい……お願い」
「でも……」
「行かせてあげなよー。 じゃあまたねー」
新巻さんが急に車を発進させた。
まだドアを閉めてないぞ。

僕は急いでドアを閉め、後ろを見る。
が、もうそこにはいなかった。



車が到着した場所で、僕はどういう事か察した。

なんだ、どちらにしろこうなるんじゃないか。

新巻さんが、そっと僕の手に手錠をはめる。
絵馬の前だから気を使ってくれたのだろうか。

行って、全てを話そう。
そして、罪を償おう。

僕は新巻さんにリードされ、警察署へ足を踏み入れた。

たった七日間の逃避行 4

たった七日間の逃避行 4

逃げて逃げて、逃げても行先は無くて、

  • 小説
  • 掌編
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  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-04

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