やる気スイッチ
てってれー!さとしはやる気スイッチを手に入れた!
「・・・って、なんだよ!やる気スイッチって!」
ついさっき買い物の帰り道を歩いていたら拾ったのだ。
“やる気スイッチ”と書かれた変なスイッチを。
さとしはじっくりそのスイッチを見つめてみた。
何の変哲もない、電球のスイッチみたいなスイッチである。
「・・・なんなんだろうなぁこれ。なんでこんなとこに落ちてたんだろ。」
スイッチをながめているうちに、さとしの内側からむくむくと好奇心が湧きあがってきた。
やる気スイッチをてのひらに乗せると、さとしはそぉっと人差し指でスイッチに触れた。
そして、えいっ!とかけ声を出し、ポチッとスイッチを押した。
・・・あたりはしぃんとしている。
「・・・なんだよ、何も起きないじゃないか。つまんねーの。」
さとしはやる気スイッチをポケットにしまうと、そのまま家に帰った。
家に帰ると、ママがあわててやって来た。
「さとしごめん!お醤油もなかったんだ。悪いけどもう一度買いに行ってもらえる?」
「えぇ~!?」
さとしは思いっきり嫌な顔をした。
今は冬で、外は寒い。しかも、今年一番の寒さだって天気予報で見たから、余計に寒いと感じる。
「いいじゃないの、それくらい。ほら、早く!」
ママに無理やり背中を押されて、さとしはまた家の外へ逆戻りだ。
「・・・もう、強引だな~!」
仕方なく、さとしはまたトボトボとスーパーへ向かった。
「はぁ~あ、やる気ねぇ~。」
大きなため息を吐きながらスーパーへ向かっていると、目の前に、
キョロキョロ地面を見回しているさとしと同じくらいの男の子がいた。
どう見ても何かを探しているようだ。
ママの頼まれ事でムスッとしていたさとしは、男の子を無視して通り過ぎようとした。
けど、声を掛けられてしまった。
「あっ、ねぇキミ、ここら辺にさぁ、変なスイッチ落ちてなかった?」
・・・変な、スイッチ・・・。
さとしはさっき、道で“やる気スイッチ”と書かれたものを拾ったことを思い出した。
そして「ああ・・・」と呟くと、おもむろにポケットに手を入れた。
「これ?」
スイッチを見ると男の子の目がぱぁっとなった。
「そうそう!これだよ!拾ってくれてどうもありがとう!」
さとしは男の子にスイッチを渡そうとした・・・が、さとしはママのおかげで機嫌がよくなかったので、
少し意地悪をした。
「でもさ、これ、おまえのだって証拠がないぞ。」
男の子は一瞬きょとん、としたけど、「そっか!」と言った。
「でもこれ、間違いなくボクのなんだ。はめてみればわかるよ。」
「・・・はめるぅ?どこにだよ?」
さとしは首をかしげた。なんだか変わった男の子だなぁ。
「えーとね・・・。」
男の子はさとしに背を向けた。
そして、上着を脱いで肌を見せると・・・、なんと、背中にくぼみがあったのだ。
「・・・え!?」
「さ、ここにはめてみて。自分のじゃないとはまんない仕組みになってるんだ。」
さとしは恐る恐る、スイッチを男の子の背中にはめた。
するとスイッチは、吸い込まれるように男の子の背中に埋まった。
「・・・すげー。」
さとしがぽかーんとしていると、男の子は言った。
「キミにもあるよ。」
「・・・え!?オレにも!?」
さとしはびっくりして、自分の背中をさわった。けど、どこにもスイッチらしきものはない。
「・・・ないけど・・・。」
さとしが言うと、男の子が笑った。
「やる気スイッチは体の中に入ると目に見えなくなるんだ。目に見えない間は、心で押すことができるんだよ。」
「・・・心で・・・?」
「うん。今、なにかやる気になりたいことはある?」
「あー・・・、買い物、かな。」
さとしは少し考えてから言った。
「おっけー。それじゃ頭の中にスイッチをイメージして、“買い物する気になーれ”って言いながら押してみて。」
とてもくだらないことだけど、さとしはだまされたと思って一度やってみることにした。
スイッチを心にイメージして・・・。
「・・・買い物する気になーれ。」
ポチッ!どっかで音が聞こえたような気がした。
それからちょっとたつと・・・。
あららら不思議。なんだかとてもスーパーに行きたい気になってきた。
「・・・あれ、なんだかオレ、スーパーに行く気、満々だ!」
「ほらね。」
男の子はニコッとした。
「よーし!行くぜ!スーパァァァァ~~~ッ!」
さとしは猛ダッシュしてスーパーへ向かった。
遠くで男の子が手を振っているのが見えた。
「あっははは、こりゃいいや。やる気スイッチ、バンバン使ってくぞー!」
それから、さとしはたまにやる気スイッチを押している。
でもたまにじゃないとダメなんだ。疲れるからね。
みんなの中にもあるかもよ。
やる気スイッチ!
おしまい
やる気スイッチ