趣味のサスペンス:声
大学のサークルが終わった後、僕は同じサークルで一コ下の弥生と一緒に電車を待っていた。
ボーッと柱に背を付けていると『声』が聞こえ「何か言った?」と隣でパック飲料を飲んでいる弥生に言うと目を丸くしてストローを咥えたまま首を横に振った。
「そ…」
「どうかしたんですか?」
「今声が聞こえた気がして…」
「私別に何も言ってないですよ…。その辺で喋ってる人達の声でも聞こえたんじゃないんですか」
この夕方という時間はかなりの帰宅ラッシュ人でごった返し、ペチャクチャと喋る人達も確かに多かった。
でも、そんな『声』ではないような気がした。
「いや、それとは違うみたいなんだ」
「え?」
「ほら、また」
「私には聞こえませんよ」
弥生はからかわれているのだと思ったらしく「もーやめて下さいよ。私そういうの嫌いなんですから」と怒ってしまった。
これ以上言って怖がらせるのも可愛そうな気がして僕は「冗談だよ」とウソを付いた。
「もうー先輩っ…」
弥生にはそう言ったものの本当はちゃんと聞こえていた。
ラジオのチューナーの合わないノイズ交じりの『声』が。
線路を挟んだ向こう側からまた『声』が聞こえた気がしてそちらを見ていると中年の男と一緒にいる八歳ぐらいの女の子がこちらをじっと見ていた。
目が合った女の子は小さな唇を大きく動かした。
ん?
じっと見てるともう一度女の子はゆっくりと口を動かした。
『た、す、け、て…』
…冗談だろ…。
さっきから聞こえて来る『声』とそれは同じだった。
もう一度女の子を見ようとすると向こうの電車が到着し、数分後その電車が出発すると女の子はもういなかった。
きっと今来た電車に乗ったのだろう。
あれは一体何だったんだろう…。
あの『声』が確かにあの女の子の『声』だと確信したのはそれから二日後の朝のニュースだった。
「…昨夜未明この川の河川敷で女の子が絞殺死体で発見されました。警察の調べでは市内の…」
名前と一緒に顔写真が映し出された。
マジ…でっ。
確かにそこに映し出された笑顔で笑ってる女の子の顔には見覚えが合った。
あの時の子だ…。
「クソッ!」
- end -
趣味のサスペンス:声